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平均点:6.01点 | 書評数:1812件 |
No.972 | 8点 | 青の炎 貴志祐介 |
(2014/02/02 16:15登録) 1999年発表。嵐・二宮和也主演で映画化もされた、ノン・ホラーでは作者を代表する長編作品。 主人公・櫛森秀一の心理が読者の心に染み入る倒叙型ミステリー。 ~櫛森秀一は湘南の高校に通う十七歳。女手ひとつで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭を踏みにじる闖入者が現れた。母が十年前再婚し、すぐに別れた男・曾根だった。曾根は秀一の家に居座り、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する。自らの手で曾根を葬り去ることを・・・。日本ミステリー史上に残る感動の名作~ ラストまで読み終えて、とにかく“悲しい”という感情しか思い浮かばなかった・・・ これほど救いようのないラストもそうないのではないか。 主人公は二つの殺人を犯すに当たり、その殺害方法について高校生とは思えないような深謀遠慮を尽くす。 ただし、悲しいかなやはり高校生は高校生でしかなく、どんなに考え尽くしたと思っていても、あちこちにあった綻びを刑事に突かれ、ついには殺人を認めざるを得なくなってしまう・・・ この辺のプロットはまさに倒叙形式そのものという感じなのだが、主人公を高校生としていることで本作は何とも言えない“やるせなさ”や深い哀愁が漂う効果が出ているのだろう。 巻末解説で佐野洋氏が「僕が倒叙ミステリーを選択するのは、登場人物の心理を自由に書けるから・・・」という清張のことばを引用しているが、本作でもこの狙いは十二分に当たっている。 (『感情移入できなかった・・・』という書評を残されている方が多いようだが、私個人もともと物語の人物にすぐ感情移入しちゃう方なので、今回も秀一の心にすぐに共鳴してしまった・・・) あまり倒叙、倒叙などと、ミステリーの形式ばかりを論じるのは的外れのような気もする。 青春ミステリーでもいいし、クライムミステリーでもいいし、とにかく本作は読者ごとで感じることは大きく異なるのかもしれない。 個人的には「さすが貴志祐介」という評価&評点。 (仕掛けに対する秀一の拘りぶりは、何となく真保裕一「奪取」で偽札づくりに精魂を込める主人公とオーバーラップしてしまった・・・。あと、紀子は相当可愛いな・・・) |
No.971 | 6点 | この町の誰かが ヒラリー・ウォー |
(2014/01/26 20:27登録) 作者晩年に当たる1980年発表の本作。 ウォーと言えば米・警察小説作家の代表選手というイメージだが、本作は一風変わった味わいを持つミステリーに仕上がっている。 ~コネテイカット州クロックフォード・・・。アメリカのどこにでもありそうな平和でそして平凡な町。だが、ひとりの女子高校生が死体で発見されたとき、町はこれまで見せたことのない顔を露にする。あの子を殺したのは誰か? この町の住人なのか? 浮かんでは消えていく容疑者たち。焦燥する捜査陣。怒りと悲しみ、嫌悪と中傷のなか事件は予想のつかない方向へと展開していく。だが、局面を一転させる手掛かりはすでに目の前に・・・!~ これは作者の作戦勝ちだ。 本作は、普通の警察小説のように捜査状況を追っていくというスタイルとは全く異なり、小さな町で起こった十六歳の少女の殺人事件を、事件に関わった人々の証言や会議記録で再現する、という構成をとっている。 最初は、事件の状況や被害者の人となりが順に語られ、中盤以降は容疑者の証言や捜査陣のやりとりがすべて会話形式で進行していく。 視点人物が次々と変わっていくというのは、読み手が混乱しやすいというデメリットもあるのだが、本作では作者の手腕により混乱することなく、終局の真相解明まで突き進んでいく。 田舎町というのは、アメリカでも日本と同様、よそ者に対して排他的で差別の対象になるんだねぇ。 殺人事件を契機として、人種差別や暴力事件、性犯罪など、平和な町に隠されていた闇が徐々に姿を現していく・・・ この辺り、舞台設定に関する手練手管もやはりさすがという気がした。 ラストはもしかして「叙述トリック?」と思わされたのだが、これは作者の狙いなのだろうか・・・? ミステリーとしても新鮮で、まずは安定感のある作品。 欲をいえば、中盤のまだるっこしさが何とかなれば・・・ということになるけど、水準以上の評価はできる。 |
No.970 | 7点 | はやく名探偵になりたい 東川篤哉 |
(2014/01/26 20:25登録) TVドラマ化もされ、ますます大人気(?)の「烏賊川市シリーズ」短篇集。 今回も鵜飼&流平のコンビが、依頼された(というか巻き込まれた)くだらない(?)事件の数々を解き明かしていく。 (今回は砂川警部や朱美など、他のレギュラーメンバーは登場せず・・・) ①「藤枝邸の完全なる密室」=倒叙型の変化球ミステリー。折原の黒星警部シリーズものに近い風味だが、こういう軽快なミステリーは作者の得意技っていう感じ。オチもマズマズ決まっていてよい。 ②「時速四十キロの密室」=トラックの荷台に積まれ、追尾車両に監視された状態の人間が気付いたときには死んでいた、という謎。伏線が最初からあからさまなのが玉に瑕だし、これはまぁおフザケミステリーだな。 ③「七つのビールケースの問題」=ギャグ度合いは別にして、こういう短編が書けるというのは、やっぱり本格ミステリー作家としてレベルが高いのだと感じる。もっとも、こんな偶然の連続あるわけない! ということはもちろんであるが・・・ ④「雀の森の異常な夜」=本格ミステリーの名作を彷彿(?)させるようなロジックあふれる作品。人間の目ってそこまで節穴か?というツッコミはさておき、ここまでロジックを効かせられるとは「有栖川有栖もビックリ!」だろう。特に、死後硬直をこんなことにブッ込んでくるミステリーは初めてお目にかかった。 ⑤「宝石泥棒と母の悲しみ」=最初は宮部みゆき氏のアノ作品かと思わせておいて、実は綾辻行人氏のアノ作品の本歌取りだった・・・という仕掛け。大学のミステリー研辺りで書かれそうな作品だけど、決して嫌いではない。ラストにはタイトルの意味にも納得させられ、なかなかウマイ。 以上5作。 これは予想以上に面白かった。 とにかく作者の本格ミステリー愛が伺える作品が並んでいて、作者の力量を感じられる作品集に仕上がっている。 「謎解きはデイナーのあとで」があまりにも有名になり過ぎたけど、やっぱり作者の本筋はこの「烏賊川市シリーズ」にあるのだろうと思う。 最近濫作気味なので、あまりに頑張りすぎてネタが枯渇することのないよう祈りたい。 軽い読書にはお勧め。 (個人的ベストは④。あとは⑤と③の順。) |
No.969 | 7点 | 成吉思汗の秘密 高木彬光 |
(2014/01/26 20:23登録) 1958年発表。J・テイの名作「時の娘」にインスパイアされ書かれた歴史ミステリー。 病に倒れ入院中の名探偵・神津恭介が『成吉思汗=源義経』という歴史ロマンに挑む大作で、「邪馬台国の秘密」「古代天皇の秘密」と続く、作者の歴史ミステリー三部作の一作目。 ~兄・源頼朝に追われ、あっけなく非業の死を遂げた源義経。一方、成人し出世するまでの生い立ちは謎に満ちた大陸の英雄・成吉思汗。病床の神津恭介が義経=成吉思汗という大胆な仮説を証明するべく、一人二役の大トリックに挑む歴史推理小説の傑作~ 『義経=成吉思汗』というのはやっぱり日本人のロマンなんだろうなぁと思わされた。 作者の取材力や熱意には敬意を表するけど、正直なところ、歴史的真偽という観点からはちょっと無理筋なんだろうと感じる。 江戸時代から義経北行説はあって、作中にも徳川光圀編纂の「大日本史」が紹介されているが、日本人の義経に対する大衆の判官びいきぶりが伺える。 ただ、確かに“火のないところに煙はたたぬ”的に考えるのなら、十分研究の対象にはなるのだろう。 井沢元彦氏の「逆説の日本史」などを読んでると、歴史学者の「書物偏狭ぶり」がよくやり玉にあがっていて、「歴史書に書かれていないと全く評価しない」という風潮はあるようで、そういう意味からでは、本説を単純に絵空事と断じることはできないのかもしれない。 まぁ、平泉から東北、北海道に義経伝説がこれだけ点在しているという事実だけからも、「義経=成吉思汗」説の面白さ&奥深さを表している。 国産ミステリー史上でも稀代の名探偵・神津恭介を歴史ミステリーの探偵役に据え、歴史学者(本作では井村助教授)と論争させるという設定自体、斬新で面白い。 個人的には、中国史(元~明~清)に関わる部分が特に興味深かった。(特に清朝と義経の関係ね) 歴史好きの方ならやはり一読の価値はありの一作。 (光文社文庫新装版の解説は島田荘司氏。作者に対する島田氏の思いが窺えるコメント・・・) |
No.968 | 7点 | 人喰い 笹沢左保 |
(2014/01/18 23:56登録) 1960年発表。その年水上勉氏の「海の牙」とともに日本探偵作家クラブ賞を受賞した作品。 本格ミステリーを量産していた作者初期の代表作。 ~花城佐紀子の姉が遺書を残して失踪した。労働争議で敵味方に分かれてしまった恋人と心中するというのだ。だが、死体が発見されたのは相手の男だけで、依然として姉は行方知れずのままであった。姉にかけられた殺人容疑を晴らそうと、佐紀子は恋人の豊島とともに事件を調べ始めることになるが・・・~ まずは佳作といっていいと思う。 とにかく読みやすいし、時代性を勘案すればトリックの取り入れ方や意外性十分の真犯人など、初期の作者らしい本格ミステリーのギミックが十分込められた作品だろう。 (まぁ、2014年の今から見れば、多少陳腐化したプロットに見えるのは致し方のないところ・・・) 「人喰い」というタイトルも随分意味深だが、真犯人が語るこの言葉の意味や、労働組合・労働争議などという単語など、やはり60年代という時代性を考えずにはいられない。 ただし、一方的に社会派寄りにならず、あくまで本格ミステリーという風合いを大事にしていた作者には敬意を評したい。 で、本筋としては、二幕目の社長殺害がやはり本作の「山」になるのだろう。 「錯誤」をうまく使ったアリバイトリックは、シンプルな分だけ説得力はある。 (犯人サイドにとってかなり危ういと言えることは言えるが・・・) フーダニットについては、序盤から慎重に伏線が張られていて、多少齟齬があるとはいえ、なかなか良いと思った。 探偵役を素人の女性にしていることもプロット全体に効いていて、作品の雰囲気作りとともに成功している。 まぁ全体の出来としては、「霧に溶ける」などの方がやや上かなという気はするが、本作も十分評価に値する作品だと思う。 他の方が書評しているとおり、若干「二時間サスペンス感」があるのがちょっと残念。 (女性を書かせたらさすがにウマイ!) |
No.967 | 5点 | 雨の殺人者 レイモンド・チャンドラー |
(2014/01/18 23:54登録) 東京創元社が編んだチャンドラー短編集の第四弾がコレ。 (なぜ第四弾から手を出したのかというと・・・単なる買い間違いだったりする・・・) F.マーロウものを含む全五編。 ①「雨の殺人者」=ロサンゼルスという街の雰囲気がよく出てる、いかにも的な作品。台詞まわしや静謐な筆致など、チャンドラーの魅力の要素はつまってるよなぁ・・・ ②「カーテン」=F.マーロウ登場作。でも早川の清水俊三訳版に慣れている身にはどことなくマーロウの造形に違和感を感じてしまう。プロット自体は単調。 ③「ヌーン街で拾ったもの」=これもまた“いかにもチャンドラー”らしい一篇。登場人物たちの会話がとにかく何とも言えない雰囲気を醸し出す。このリズムと空気は真似できない。 ④「青銅の扉」=ちょっとよく分からない・・・ ⑤「女で試せ」=これは「さらば愛しきひとよ」の原型なんだろうなぁ・・・。②につづきマーロウが登場し、やはり美女との絡みが用意されている。これが最も読ませる作品かな。 以上、全5作。 さらに巻末には稲葉明雄氏により、チャンドラーが作家デビューするまでの半生、経緯が紹介されている。 (これはなかなか興味深い・・・) 短篇になっても、チャンドラーはチャンドラーだし、マーロウはマーロウという読後感。 この独特の世界観や静謐な文章は他の追随を許さない。 ただし、ハードボイルドはやはり長編でこそという思いは強くなった。 やっとその作品の世界観に浸ってきた・・・という辺りで作品が終局を迎えてしまうのが、「どうもねえ」ということになってしまう。 というわけで、長編作品より上の評価は無理かな。 (個人的ベストは断然⑤。次点が①。後は横一線というところ) |
No.966 | 4点 | 凍える島 近藤史恵 |
(2014/01/18 23:53登録) 1993年発表。作者の処女長編であり、第四回鮎川哲也賞の受賞作。 絶海の孤島に集まった男女が順に殺されていく・・・という“いかにも”な設定の本作ですが・・・ ~友人と喫茶店を切り盛りする野坂あやめは、得意客込みの慰安旅行を持ちかけられる。行く先は瀬戸内海に浮かぶ無人島。話は纏まり、総勢八名が島へ降り立つことになる。ところが、退屈を覚える暇もなく起こった事件がバカンス気分を吹き飛ばす。硝子扉越しの室内は無残絵さながら、朱に染まった死体が発見され、島を陰鬱な空気が漂う。道中の遊戯が呼び水になったかのような惨事は終わらない。連絡の絶たれた島に一体何が起こったのか?~ こんな紹介文を読まされたついつい期待してしまう・・・ それがミステリー好きの悲しい「性(さが」っていう奴だろう。 ただし、殆どの場合それは裏切られてしまう。そして、今回もその例には漏れなかった・・・ それが率直な感想。 何か妙というか、ちぐはぐな感じなのだ。 もちろんデビュー作だから、プロットや筆使いに多少の齟齬があってもよいのだが、最後まで平板で盛り上がりのないまま終わってしまった感が強い。 中盤までは登場人物ひとりひとりにスポットライトを当て、何とか「人物」を描きたいとの思いがあったようなのだが、結局それも中途半端かな。 密室トリックや連続殺人に至った動機なども、どうも素直に首肯し難い。 そして、恐らく一番の大技であろう最後のドンデン返しも不発っていうか、とってつけたように思えた・・・ どうも批判しか思いつかない感想になったけど、褒めるところがないのだから仕方ない。 こういう“いかにも”な舞台設定をセレクトするなら、やはり余程の見せ場がないと逆に苦しいなという感じ。 紹介文だけに惹かれているなら、そのままスルーした方がよいと思う。 (鮎川哲也賞受賞作には期待してるんだけどねぇ・・・) |
No.965 | 6点 | 戦士たちの挽歌 フレデリック・フォーサイス |
(2014/01/12 23:22登録) 角川文庫で編まれたF.フォーサイスの作品集一作目。 すべて結末の意外性が存分に楽しめる三篇で構成。 ①「戦士たちの挽歌」=ロンドンの街中で発生した撲殺事件。被疑者は無抵抗の被害者を二人がかりで殴り殺したのだが、被害者の身元がなかなか判明せず・・・。終盤、辣腕弁護士の手に掛かり、被疑者が無罪放免される展開の後に、意外な結末が用意されている。タイトルの意味はラストまで読み終えると納得。 ②「競売者のゲーム」=本編の舞台は絵画を中心とするオークション会社。貧乏な役者が換金のために持ち込んだ古びた絵画が思わう波紋を呼び起こす・・・。序盤に嵌められたオークション会社社員が、嵌めた男に復讐を果たすというのが本筋なのだが、なかなか軽快なコン・ゲーム風に書かれていて面白い作品に仕上がっている。良作。 ③「奇蹟の値段」=物語の舞台はイタリアの都市・シエナ。第二次世界大戦中の野戦病院で、多くの入院患者に対して奇跡を起こしてきたひとりの看護婦とドイツ軍医師。この二人にはどのような秘密があったのか? というプロットなのだが、ラストには思わぬ“引っ掛け(肩透かし?)”が待ち受ける。でも、ちょっと分かりにくい展開。 以上3編。 著名作「ジャッカルの日」以来、久々にフォーサイス作品を読了。しかも短篇。 感想としては、マズマズの面白さという感じかな。 最初に触れたとおり、三作とも終盤からラストに捻りが効いていて、さすがに達者だなという気にはさせられる。 ただ、迫力というか重厚感という観点から見ると、やはり長編でこそという作家なのかもしれない。 評価としては水準+αということに落ち着く。 (順位を付けるなら②>①>③ということになりそう) |
No.964 | 7点 | ひまわりの祝祭 藤原伊織 |
(2014/01/12 23:21登録) 乱歩賞&直木賞ダブル受賞のデビュー作「テロリストのパラソル」に続く第二長編がコレ。 1997年発表。いかにも藤原伊織らしい雰囲気のある作品。 ~自殺した妻は妊娠を隠していた。何年か経ち、彼女にそっくりな女と出会った秋山だが、突然まわりが騒々しくなる。ヤクザ、闇の大物、昔働いていた会社のスポンサー筋などの影がちらつくなか、キーワードはゴッホの「ひまわり」だと気付くが・・・。名作「テロリストのパラソル」を凌ぐ、ハードボイルドミステリーの傑作~ これぞ“伊織流ハードボイルド”とでも言いたくなる・・・そんな作品。 「テロリストのパラソル」にしても「てのひらの闇」にしても「シリウスの道」にしても、作者の作品には何とも言えない“匂い”があるのだ。 どの作品にも、必ず過去を背負った影のある主人公(男性)が登場する。 主人公は表の世界に背を向けたような生活を送っているのだが、ちょっとしたことから事件に遭遇し、徐々にその大きな渦に巻き込まれていく・・・ これを「ワンパターン」と呼ぶのはたやすいのだが、それでも引き込まれてしまう。 まるで花の蜜に誘われるミツバチのように・・・ 本作の主人公は高校時代、天才的な絵の才能を見せていたグラフィックデザイナー。 彼が、ゴッホの幻の「ひまわり」を軸とした事件に巻き込まれていく。 過去に触れ合っていた知人たち、そして事件の渦中で知り合った人たち・・・ その登場人物ひとりひとりが魅力的な役割を与えられているかのように、ドラマを彩っていくのだ。 なんだかミステリーの書評っぽくないけど、こんな感想になってしまった。 とにかく早逝が惜しまれる作者。これで、長編作品はすべて読んだことになるのが・・・それが何とも切ない。 まだまだ新作が読みたくなる、そんな作者&作品だった。 (確かに「テロリストの・・・」よりこちらの方が良いと思う・・・) |
No.963 | 5点 | ダブルダウン 岡嶋二人 |
(2014/01/12 23:20登録) 1987年発表。 21編ある作者の長編のうち14番目に発表された作品に当たる本作。 ~ボクシング、フライ級の四回戦。対戦中のボクサー二人が、青酸中毒で相次いで倒れ死亡した。雑誌編集者の福永麻沙美は、記者の中江聡介、ボクシング評論家の八田芳樹と真相を追い詰める。衆人環視の二重殺人のトリックとは? 二転三転する事件の陰に巧妙に身を隠す意外な真犯人とは? 傑作長編ミステリー~ 提起される謎はかなり魅力的。 ただし、これはちょっとプロット倒れかなと思わせる・・・そんな作品。 作者の作品では警察官や私立探偵ではなく、完全な素人が「探偵役」となる場合が殆どだと思うが、本作でもそれは当て嵌る。 「探偵役」の能力不足という前提のためか、とにかく終盤に入るまでは事件そのものの輪郭ですら掴めない状況が続く。 被害者の周りで怪しい人物がつぎつぎと浮かんでいくのだが、その人物の白黒がつく前に新たな材料が提示され、読者としても何だか落ち着かない感じになってしまう。 中盤までのモタモタ感を一掃するかのように、終盤は一気に進んでいくのだが、これはスピード感があっていいというよりは、とにかく帳尻合わせました・・・というような感じ。 真犯人は意外性もあっていいのだが、こんな偶然の連続のような動機では、本格ミステリーとしてはどうかなと思わされた。 せっかく魅力的な舞台設定なんだし、もう少しプロットを煮詰めてからの方が良かった。 (その辺りは、作者のエッセイにも書かれているらしいが・・・) ボクシングを題材にした作者の作品は他に「タイトルマッチ」があるが、作者の作品としてはどちらもそれほど成功しているとは言い難い。 ミステリーとボクシングでは相性が良くないということなのかな? (この時代、BMWはまだ珍しかったんだろうか?) |
No.962 | 6点 | マドンナ 奥田英朗 |
(2014/01/05 15:11登録) 直木賞作家である作者が贈る中間管理職サラリーマンへの応援歌(書?)的作品。 上司のこと、父親のこと、夫のことを知りたいあなたにもお勧めの一冊。 ①「マドンナ」=妄想癖のある大手企業の課長が主役(もちろん妻子持ち)。ある日、人事異動でやって来た可愛いくて上品な女性部下に恋してしまう。年甲斐もなく、部下の若手社員と張り合ってまで女性の気を引こうとするのだが・・・。その気持ちはたいへんよーく分かるよ!! ②「ダンス」=一人息子が大学にも行かず、進路として選んだのが“ダンサー”(!) 当然父親としては反対するのだが・・・。そして、職場では組織に与しない同期の課長の扱いに困って・・・。その気持ちはよーく分かるよ!! ③「総務は女房」=エリートとして営業の第一線で活躍してきた男。組織を知るために、二年間という期限付きで配属されたのは総務部。そして、そこでは今までの価値観を壊されるような出来事が相次ぎ起こる・・・。 ④「ボス」=自分が昇進すると思っていた部長職へ抜擢されたのは、中途採用の才媛として名高い女性上司(ボス)だった! そして、そのボスは従来の体育会系的慣習を次々破るような社内ルールを打ち出していく・・・。主人公の中年男性課長の立場は如何に!? っていう粗筋なんだけど、これも何か分かるなぁ・・・。こういう人が上司になるととりあえず困ってしまうよなぁ・・・ ⑤「パティオ」=湾岸沿いの再開発地区。開発時の思惑は外れ、なかなか人が集まってこない。主人公の課長を始めとするプロジェクトチームは、集客を目指すべく様々なプランを出していくが・・・。男性が出会うひとりの老人がかなりいい味出してるし、実父との関係は身につまされる。 以上5編。 まず、本作は100%ミステリーではありません。 よって評点はこんなもんですが、とにかく「中年サラリーマン」、特に『中間管理職』にとっては、実によく分かる、実に身につまされる内容の連続。 「そうだよなぁー」とか、「分かるわー」と読みながら何度思ったことか!! さすがのストーリーテラー振りとしか言いようがない。 上司には責められ、部下には突き上げられ、家に帰れば妻に虐げられる・・・。もう少し「中間管理職を大事にしてくれ!」と思わず声に出して言いたくなってしまった・・・ (①~④ももちろん面白いのだが、個人的ベストは⑤だな。割と静かな作品だけどそれがいい) |
No.961 | 7点 | ブラック・ハート マイクル・コナリー |
(2014/01/05 15:10登録) 「ナイト・ホークス」「ブラック・アイス」に続くハリウッド署・ボッシュ刑事シリーズの三作目がコレ。 過去に自らが引き起こした被疑者銃殺事件に基づき、被告として法廷に立たされることになったボッシュ。 彼はどのようにピンチを乗り切るのか?? ~11人もの女性をレイプして殺した挙句、死に顔に化粧を施すことから、“ドールメイカー(人形造り師)”事件と呼ばれた殺人事件から四年・・・。犯人逮捕の際、ボッシュは容疑者を発砲、殺害したが、彼の妻は夫が無実だったとボッシュを告訴した。ところが裁判開始のその日の朝、警察に真犯人を名乗る男のメモが投入される。そして新たにコンクリート詰めにされたブロンド美女の死体が発見された。その手口はドールメイカー事件とまったく同じもの。やはり真犯人は別にいたのか? 人気のハードボイルドシリーズ第三弾~ 本シリーズはどの作品も水準以上の面白さだ。 一作目から三作目まで読んでも、その感想は変わらない。 紹介文のとおり、本作の特徴は過去の事件と現在の事件がクロスし、シンクロしながら進行していくことにある。 刑事として自信を持って逮捕した男の妻から訴えられ、しかも相手は辣腕の女性弁護士。こちらの弁護士は頼りにならない二流弁護士・・・。 女性弁護士の罠にはまり、法廷で窮地に陥る・・・というのが中盤までの概要。 そして、後半以降はギアが変わり、一気にスピードアップ。 思わぬ人物までもが“ドールメイカー”の毒牙にかかってしまう事件を経て、終局へなだれ込む。 さらに、終盤では本シリーズではお馴染みの「ドンデン返し」或いは「サプライズ」が待ち構えていて、思わず唸らされることになる。 特に本作の真犯人はかなり意外な人物だ(ネタばれ?)。 もちろん本格ミステリーではないから、読者が推理を楽しめるというわけではないが、ここまで読者を楽しませてくれる要素があれば十分。 ボッシュと前作で知り合った恋人のシルヴィアとの大人のラブストーリーもいい具合に絡めていて、その辺りも物語に華を添えている。 というわけで万人にお勧めできる良作という評価。 (巻末解説では評論家の吉野氏が作者のチャンドラーへの敬愛振りに触れている。なる程ね・・・) |
No.960 | 6点 | 追憶の殺意 中町信 |
(2014/01/05 15:09登録) 2014年明けましておめでとうございます。(ちょっと遅くなりましたが・・・) というわけで、本年一発目に何を読もうかと、書店をぶらつきながら手に取ったのが本作だったという次第。 今回読了したのは東京創元社より「追憶の殺意」のタイトルで新たに刊行されたものだが、実際は1980年に発表された「自動車教習所殺人事件」を底本とし改題したもの。 ~年も押し詰まったある日、埼玉県岩槻市の土手で自動車教習所の配車係が死体で発見された。男には職場の同僚と悪質なギャンブルを行っていた疑いが浮上する。そして年が改まった途端、教習所の技能主任が密室状況下で撲殺される。さらに指導員の男が自宅マンションのマイカーのなかで殺されていた! 自動車教習所へ通う教習生と指導員・・・その絡み合いの中からあぶりだされる複雑な人間関係。やがて捜査線上に浮かんだ容疑者には鉄壁のアリバイがあった!~ まず自動車教習所という舞台設定が珍しい。 教習所に通ったのはかれこれ十年以上も前だが、教官と生徒が免許証取得をめぐって愛憎渦巻く・・・なんて想像できないし、ましてや殺人事件の舞台としてはあまり似つかわしくないような気がした。 (時代性の違いかもしれないが) で、本筋だが、他の方の書評にもあるとおり、既刊の「○○の殺意」シリーズと違い、本作は叙述系トリックは一切なし。アリバイ&密室トリックをメインとした古いタイプの本格ミステリーで、確かに鮎川哲也の鬼貫警部ものと似た風合いの作品。 特にアリバイトリックはよく練られており、鮎川のように鉄道トリック一本槍ではなく、鉄道に自動車を絡めた結構複雑なトリックに仕上がっている。 ただし、密室トリックもそうだが、伏線が割とあからさまなところが玉に瑕で、フーダニットやハウダニットの醍醐味はあまり感じられなかった。 この辺りはデビューして間もない頃の作品ということなのだろう。 オーソドックスなミステリーをという方なら安心して読める作品ということになるが、作者らしい切れ味鋭い変化球ミステリーを求める読者にとってはちょっと物足りない作品。 本年一発目の読書としてはちょっと不発だったかな・・・ (今年はできれば「量」より「質」を重視した読書をしたいものだけど・・・結局乱読になってしまうのかな?) |
No.959 | 7点 | スターヴェルの悲劇 F・W・クロフツ |
(2013/12/29 21:48登録) 1927年発表の長編。 フレンチ警部ものとしては「フレンチ警部最大の事件」などに続く三作目に当たる作品。 ~ヨークシャーの荒野に建つ陰気なスターヴェル屋敷が一夜にして焼け落ち、当主と召使夫婦の三人が焼死した。当主の姪である若く美しい娘の旅行中の出来事で出火原因は不明。金庫の中に溜め込んだ莫大な量の紙幣も灰となった。だが、この火災に疑問を抱き、犯罪の匂いを嗅ぎとった銀行支配人の発言をきっかけに、フレンチ警部の捜査が開始される。事故だったのか、それとも殺人・放火といった忌まわしい犯罪が行われたのか。捜査が進むにつれ、残忍な犯罪者の邪な企みが浮かび上がることに!~ 実にクロフツらしい「堅実&堅確」な作品。 フレンチ警部のキャラクター同様、生真面目で着実なミステリーに仕上がっている。 作品としての骨組みは「フレンチ警部最大の事件」などとよく似ていて、フレンチの捜査が進展した中盤過ぎには、事件の概要はつかめるのだが、ラストにミステリーらしいドンデン返しが待ち受けている。 クロフツといえば「マギル卿最後の旅」に代表される「アリバイ崩し」が頭に浮かぶが、本作ではそういう要素は殆どなく、専らフーダニットに拘ったプロット。 ○れ○りを使ったミステリーは洋の東西問わず古典作品に多いので、気の利いた読者ならラストのサプライズは読みやすい手筋なのかもしれない。 もっとも、本作の場合、フレンチ自身が最後の最後まで真犯人を誤認しており、真犯人に気付いたのもちょっとした偶然からというのが珍しい。 (そういう意味では、読者が作中の探偵よりも先を越せるというレアな作品とも言えるなぁ) とにかくクロフツが好きという(私のような)読者であれば、満足できる作品だろう。 ただし、他作品より優れているかいうと、それほどでもないという感じで、作者としては「中の上」という評価。 (主席警部昇進に対するフレンチの功名心がそこかしこに書かれており、フレンチの“若さ”が感じられる) |
No.958 | 6点 | ビブリア古書堂の事件手帖4 三上延 |
(2013/12/29 21:46登録) 月9ドラマはイマイチ不調に終わった大人気ビブリオ・ミステリーシリーズの第四弾。 今回はシリーズ初の長編となっているのが興味深いのだが・・・ ~珍しい古書に関する特別な相談・・・謎めいた依頼にビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その家には驚くべきものが待っていた。稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりにある人物が残してくれた精巧な金庫を開けて欲しいという。金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが・・・~ とにかく「乱歩、乱歩、乱歩」にまみれた作品。 全三章のタイトルが、「孤島の鬼」「少年探偵団」「押絵と旅する男」。その他、「二銭銅貨」や「人間椅子」、「D坂の殺人事件」などなど、作中には乱歩の有名作品に関する薀蓄が満載。 それだけでもミステリー好きには堪らないかもしれない。 なかでも「押絵と旅する男」については、本筋の暗号を解く鍵となっており、作者の好みが伺える。 それはいいのだが、肝心の謎解き部分については、やや消化不良気味かなという気がした。 「二銭銅貨」のオマージュともいえる暗号もパンチ不足。 ラストにはミステリーらしい“ある仕掛け”が判明し、そこについては「へぇー」と思わされることになる。 まぁシリーズものだから、ずーと同じクオリティというわけにはいかないだろうし、本作では栞子さんと母親、栞子さんと五浦の関係がそれぞれ進展し、次作以降の展開に期待が持てるのが救いかな。 でもビブリオミステリーはやっぱり短篇でこそという世評には賛成。 (未読の乱歩作品も多いので、徐々に手を広げてみようかなという気にさせられた・・・) |
No.957 | 5点 | 長い廊下がある家 有栖川有栖 |
(2013/12/29 21:45登録) 2010年光文社より発表された作品集。 もうお馴染み、“火村准教授&作家アリス”コンビが活躍する作者の看板シリーズ。 ①「長い廊下がある家」=タイトルどおり、長~い地下廊下のある廃屋という特殊設定下で起こった殺人事件がテーマ。廊下の真ん中にドアがあり、死体はアリバイに守られた密室状況にある・・・っていうといかにもミステリーっぽくてワクワクするが、真相は十分に予想の範囲内に収まる。 ②「雪と金婚式」=これもタイトルから想起されるとおり、ある種の「雪密室」に関わる事件。これも密室+アリバイがプロットとなっているが、仕掛けはかなり陳腐ではないか? 要は思い付きっていう気がした。 ③「天空の眼」=これはシリーズとしては非常に珍しい作品。何が珍しいかというと、火村の手を借りず、アリスが事件を解くという点・・・。ただそれに尽きるのだが。 ④「ロジカル・デス・ゲーム」=これはミステリー作家・有栖川有栖の面目躍如というべき一篇かな。文庫版の巻末解説で杉江松恋氏が「スイス時計の謎」に匹敵する名作と褒めているが、それは言い過ぎとしても、プロットとしては面白い。 以上4編。 本シリーズについては、前々から個人的には評価していないと書いてきたが、 本作に関しても、良く言えば「安定感たっぷりの人気シリーズ」ということになるが、悪く言えば「そこそこの水準」ということになる。 まぁでも、この安定感こそが作者のストロングポイントなのだろう。 編集側も依頼すればそこそこのレベルの作品を書いてくれる・・・っていう安心感があるのかも。 そんなことを感じさせられた。 ということで「水準級」という評価に落ち着く。 (ベストは間違いなく④だろう。あとは・・・そこそこ) |
No.956 | 5点 | 疑心 今野敏 |
(2013/12/23 21:26登録) 日本推理作家協会賞受賞作「果断」に続く『隠蔽捜査』シリーズの長編第三弾。 警視庁が誇るキャリア竜崎伸也が新たな一面を見せる・・・。 ~アメリカ大統領の訪日が決定。大森署署長・竜崎伸也警視長は、羽田空港を含む第二方面警備本部本部長に抜擢された。やがて日本人がテロを企図しているという情報が本部に入り、その双肩に更なる重責がのしかかる。米シークレットサービスとの摩擦、そして臨時に補佐を務める美しい女性キャリア・畠山美奈子へ抱いてしまった狂おしい恋心。竜崎はこの難局をいかにして乗り切るのか?~ 竜崎伸也も普通の人間だった! これが本作のテーマなのだろうか。 とにかく本作のポイントは、竜崎が畠山美奈子に対して狂おしいほどの恋心を抱いてしまうことに尽きる。 シリーズ第一作(「隠蔽捜査」)で、その強烈なキャラクターを披露した竜崎。 息子が引き起こした事件の責任を取り、所轄署長へ降格させられても、その理性的かつ効率的な思考に変化はなかったのだが・・・ いやぁー、やっぱり女って恐ろしい。 今回、美奈子側からの視点は全くなかったので、読者としては、まるで初恋に悩む竜崎の苦悩をひたすら読まされることになる。 (これが苦痛っていうか、“イタイ”と感じると本作に対する評価は下がるのかもね) ただ、個人的にはそういう恋のゴタゴタは置いといても、肝心なテロ事件がちょっと陳腐に思えてしまった。 これは前作「果断」でも感じたことだが、警察小説として警察内部の丁々発止のやり取りがメインなのは分かるが、ミステリーとしての本筋がちょっとイタダけないというのはどうなのかな? 本作もかなりご都合主義的に描かれていて、これでは竜崎のキャラの価値も半減ということになりかねない。 ということで世間的な評価よりは厳しい評価になってしまうのだ。 作者の作品は映像向きなんだろうと思う。 (畠山美奈子を映像化するとどうなのかな? でも、職場にこういう女性がいたら、絶対気になるだろうなぁ・・・絶対!) |
No.955 | 5点 | 黒後家蜘蛛の会5 アイザック・アシモフ |
(2013/12/23 21:22登録) いつものメンバーがまたまた集まり、ゲストを交えて喧々諤々推理合戦を行う。ただし、いつも真相を見抜くのは給仕のヘンリー・・・。 安楽椅子型探偵の人気シリーズもついに五作目に突入。 ①「同音異義」=こういう「言葉あそび」のような作品は、本シリーズでのお馴染み。日本語に劣らず英語にも同音異義語(rightとwrightなど・・・)は多いけど、これは相変わらず日本人には推理が難しい。 ②「目の付けどころ」=師匠の大学教授が示唆したたった一つの元素はなにか、というのが本編の謎。相変わらずメンバーがああでもない、こうでもないと(無駄な)推理をするのだが、結局ヘンリーの“鶴の一声”で決定。 ③「幸運のお守り」=衆人環視のなかでの“お守り”消失事件が今回のテーマ。ある人物が持っているハンドバックが謎を解く鍵となるのだが・・・これは現場で気づきそうなものだけど・・・ ④「三重の悪魔」=②と同ベクトルのプロット。本編では元素ではなく古書が対象物。お世話になったある人物が示唆した高価な書物はなにかということで、これも古典作品に通じてないと??ということになりそう。 ⑤「水上の夕映え」=これも②④と同傾向。これまでのシリーズ作でもたびたび登場したアメリカの地名に関わる謎。“第四の海”足る存在って、普通に考えれば思いつきそうだけど・・・(これはすぐに分かった)。 ⑥「待てど暮らせど」=これは・・・ある意味子供だましのようなレベル。こんなネタで本出したらマズイだろう、ってもしかしてギャグかな? ⑦「ひったくり」=文字どおり「ひったくり」事件に端を発する事件。ただし、ひったくられたバックの中身は本人へそのまま返され、なぜかバックだけが帰ってこなかった・・・、っていう謎。まぁ、真相は腰砕け気味。 ⑧「静かな場所」=あるホテルで知り合った通称“ダーク・ホース”という人物に教えてもらったとっておきの「静かな場所」。それが思い出せず、そして“ダーク・ホース”なる人物と是非連絡が取りたいのだが・・・というテーマ。ヘンリーの解は・・・こじつけじゃねえの? ⑨「四葉のクローバー」=これも②や④と同趣向(クドイね)。要は「四葉のクローバー」が何を意味するのかを考え、当てればよいのだが・・・。これはまずまず説得力あり。 ⑩「封筒」=中身よりも封筒が失くなったのが問題・・・っていうお話。これも同傾向だな。 ⑪「アリバイ」=これはタイトルどおり、アリバイトリックが主題となる一篇。なのだが、ヘンリーがアリバイトリックを見破るきっかけとなった伏線が実に陳腐。 ⑫「秘伝」=作中にデイクスン・カーを引き合いに出し、「密室トリック」に焦点を当てたのが本編。ただし、殺人事件ではなくレシピの消失事件というのがいかにも本シリーズらしい。 以上12編。 もうここまでくれば、同じようなネタの焼き直し作品が目立つ。 さすがにネタ切れだったんだろうな。 まぁでも、本作単独であればそこそこ楽しめるかもしれない。それだけの質は整えられている(と思う)。 (特にこれがよいという作品はなかったなぁ・・・。ほぼどれも同レベル。) |
No.954 | 7点 | 眼の壁 松本清張 |
(2013/12/23 21:21登録) 1958年、作者の代表作ともいえる「点と線」と同時期に雑誌連載、そして刊行されたのが本作。 『社会派』と称される作者らしい作品。 ~白昼の銀行を舞台に、巧妙に仕組まれた三千万円の手形詐欺。責任を一身に背負って自殺した会計課長の厚い信任を得ていた萩崎は、学生時代の友人である新聞記者の応援を得て必死に手掛かりを探る。二人は事件の背後にうごめく巨大な組織悪に徒手空拳で立ち向かうが、せっかくの手掛かりは次々に消え去ってしまう・・・。複雑怪奇な現代社会の悪の実態を暴き、鬼気迫る追及が展開する~ 謎解きとサスペンスが程良く混ざり合った良質なミステリー。 そんな読後感。 紹介文のとおり、物語の始まりは銀行を舞台とした詐欺事件・・・って書くと、まるで「池井戸潤」辺りを先取りしたようにも思える。 主人公が詐欺事件を探るうちに、背後にある巨悪に巻き込まれていくという展開もまさにそんな感じだ。 脇筋の話が徐々に本筋に収斂されていくプロットも現代的でリーダビリティも十分。 「謎解き」の部分でいうと、黒幕については序盤からほぼ察しがつくものの、ラストで真犯人の正体にサプライズが仕掛けられているところがミステリー作家としての真骨頂。 (事件の背景がいかにも戦後の傷跡残る日本っていう感じだ) 死体消失についても味のあるひと捻りが加えられていて、好感が持てる。 サスペンス感については、もう少し盛り上がりがあってもいいような気はしたが、時代性を考えれば仕方ないかなというレベル。 ただし、本作ではそれほど社会派としての動機面での掘り下げは感じられなかった。 どちらかというと、エンターテイメントに徹した作品ということでいいのだろう。 そういう意味では清張らしい重厚な作品を期待する方にはやや肩透かしに思えるかもしれない。 (ラスト前のシーンは残酷っていうか、ライダーマンの腕を思い出した・・・って古いね) 個人的には同時期に発表された「点と線」に引けを取らない作品という評価。 決して古臭くない良作だと思う。 (もちろんミステリーとしてのアラはいろいろあるのだが・・・) |
No.953 | 6点 | 殺人症候群 リチャード・ニーリィ |
(2013/12/15 11:50登録) 原題“The Walter Syndrome”。 1970年に発表された、「心引き裂かれて」に並ぶ作者の代表作。 ~生来内気で、仕事にも女性にも引っ込み思案のランバート。すべてにおいて積極的で自信に満ち溢れたチャールズ。対照的な二人の男を結びつけたのは、凄まじいまでの女性への憎悪だった。ランバートを愚弄した女性を殺害したチャールズは、やがて「死刑執行人」と名乗る残虐で大胆な連続殺人犯へと変貌していく・・・。殺人犯の歪な心理のリアルな描写と衝撃の結末。鬼才ニーリィーによるサイコ・サスペンスの傑作!~ 発表当時は非常に斬新なプロットだったんだろうなぁと思わせる。 巻末解説で評論家の千街氏がサイコ・サスペンスの由来・歴史について語られているが(今回、角川文庫版で読了)、同種のミステリーが隆盛を極める以前の作品であり、もしこの頃本作に触れていれば、相当な衝撃だったと感じる。 ただし、多くの方がご指摘のとおり、サイコに叙述トリックの組み合わせというのは、正直今となっては“ありきたり”のプロットになってしまった。 ラストに判明する叙述トリックも、中盤に差し掛かる辺りで大凡の検討がついてしまったなぁ。 あと気になったのは、中盤のまだるっこしさ。 猟奇的な連続殺人が描かれ、本来ならサスペンス感が徐々に盛り上がってくるべきなんだろうけど、あまりそんな感覚にはならなかった・・・(訳のせいかもしれないが)。 この辺がうまくいっていたら、作者に対する評価ももう少し上がっていたのかもしれない。 (折原なら、しつこいくらいに読者を煽る表現を入れてくるに違いない) サイコ・サスペンスといえば「羊たちの沈黙」の発表以降、市民権を勝ち得ることになるのだが、個人的にはやや好みから外れているジャンルと今回改めて感じた。 ニーリィーでいえば、「心引き裂かれて」の方が衝撃度で数段上という評価になってしまう。 まぁ、読む順序の問題が大きいのかもしれないが・・・ |