ラスト・コヨーテ ハリー・ボッシュシリーズ |
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作家 | マイクル・コナリー |
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出版日 | 1996年06月 |
平均点 | 7.50点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 7点 | レッドキング | |
(2024/06/08 20:29登録) ヒエロニムス・ボッシュシリーズ第四弾。街娼の私生児が長じて一匹狼刑事となり、数十年前に起きた母親の惨殺事件の真相を求めるハードボイルド浪漫。自身にも把握できない「憤怒」に焼かれつつ、絶望と諦念を辛うじて抑え込んで進む真相解明への情動。一旦は綺麗に嵌まる人間関係パズルを、更に嵌め直しして見事なるミステリ画が完成する。 「過去はこん棒の様な物、深刻なダメージにならないうちは、何度でも自分の頭を殴る事ができる・・・」主役刑事の「心の闇」に対峙する、カウンセラーの女がよい。※本来5~6点のところ1点ほどオマケ。 |
No.3 | 10点 | Tetchy | |
(2017/07/02 00:50登録) 様々な暗喩に満ちた作品だ。 例えばボッシュが休職中に相棒のジェリー・エドガーが解決した事件は銃による殺人事件かと思って捜査すれば、単にエアバッグ修理中に起きた死亡事故に過ぎなかったことが判るのだが、事故当時にもう1人の人間がいた痕跡があったことから調べてみると7年前に起きた2人の女性が殺害された事件の犯人の指紋と一致し、犯人逮捕に至るエピソードが出てくる。実はこの何気ないエピソードが物語の最終へ暗喩になっているのだ。 さらに本書のタイトルにもなっている1匹のコヨーテの存在。ボッシュは事件関係者で母親と親友だった当時メリディス・ローマンと名乗り、今はキャサリン・リージスタとなっている女性と逢った帰り道に1匹のコヨーテと遭遇する。その痩せ細り、毛がばさばさになった風貌に今の自分を重ねる。地震前、ボッシュの自宅の下の崖には1匹のコヨーテがいたが、震災後それはいなくなった。そしてボッシュもまた今は刑事休職中の身でシルヴィアにも去られ、酒を手放せず、目の下の隈がなかなか取れないほど疲れ果てた表情をしている。そんなくたびれた自分は昔気質の古い刑事であり、出くわしたコヨーテももしかしたらLAの住宅地を徘徊している最後のコヨーテではないか、つまりいついなくなってもおかしくない存在だと思うのである。 孤独で育った少年は大人になりコヨーテになった。しかも最後のコヨーテに。本書の原題にはそんな寓意が込められている。 また今回もボッシュはアウトローな強引な捜査を行う。特に今回は強制休暇中であるため、自由に走り回る。しかしその強引さがあるサプライズに繋がるとは全く予想外だった。いやはやコナリーの構成の上手さには唸るしかない。 ボッシュは今まで直視しなかった母親について事件を調べることで思い出を手繰り寄せ、母の大いなる愛を知らされ、また悟る。 「どんな人間でも価値がある。さもなければ、だれも価値がない」 これがボッシュの信条だ。しかし彼は母親に対してはその信条に従わなかった。しかし彼は母親殺害事件の捜査資料を当たるうちに当時の警察が彼女の価値をおざなりにしていたことを知る。それはまた自分もまた同類であったと悟り、信条に従い、母親の死の真相に向き合うことを決意したのだった。 誰もが過去に隠した罪に苛まれて生き、いつそれが暴かれるかを恐れながら生きてきた。そしてその時がハリーが現れることで来たと悟り、ある者は観念して、またある者は必死にそれに抗おうとして、またある者は更なる秘密を暴かれるのを防ぐために死出の旅に発つ。 過去に縛られ、過去を葬り去り、忘れさせようとした人たち。しかし同じく過去に縛られながらもその過去に向き合い、克服しようとした1匹のコヨーテに彼らは敗れたのだ。 ハリーの母親の事件を解決したことでハリー・ボッシュの物語はここで第一部完といったところか。デビュー作の時点で盛り込まれていたハリーに纏わる数々の謎は本書で一旦全て解決を見た。さらに彼はかつてスター刑事としてテレビ出演していた時に得た収入で購入した家も地震によって失った。 母親の愛の深さを知り、また過去に葬り去られた母親殺害の事件を解決したことで母親の無念を晴らしたボッシュ。しかし自身の強引な捜査によって新たな十字架を背負うことになった。しかしジャスミン・コリアンという新たなパートナーを得たボッシュの再登場を期待して待ちたい。今までとは違ったボッシュと逢える気がしてならないからだ。それはきっといい再会になるだろうとなぜか私は確信している。ボッシュがジャスミンに命がけでしがみつこうと決心したように、しばらく私はボッシュに、いやコナリー作品にしがみついていくことにしよう。 |
No.2 | 7点 | E-BANKER | |
(2014/06/06 22:18登録) ハリウッド警察署のハミ出し刑事、ハリー・ボッシュシリーズの長編四作目。 大地震の余波が残るLA市内。官僚主義の上司を殴り、刑事の職を奪われたボッシュはフリーランスで過去のある事件に単身取り組むこととなったが・・・ 今回も終盤に読者を驚かせるドンデン返しが待ち構えているのか? ~LAを襲った大地震は、ボッシュの生活にも多大な影響を与えた。住んでいた家は半壊し、恋人のシルビア・ムーアとも自然に別れてしまう。そんななか、ある事件の重要参考人の扱いをめぐるトラブルから、上司のバウンズ警部補につかみかかってしまったボッシュは強制休職処分を受ける。復職の条件である精神分析医とのカウンセリングを続ける彼は、ずっと心の片隅に残っていた自分の母親マージョリー・ロウ殺害事件の謎に取り組むことに~ 相変わらずシビレるシリーズだ。 どの作品でも、危険なスタンドプレーに走り、大ピンチに陥るボッシュだが、今回も中盤大きな罠に嵌まることになる。 今までは、多少なりともいた仲間(エドガーとか)ですら今回は存在しない。 巨大な警察機構を敵に回し、そんな逆境のなかでも己の意思を貫くボッシュの生き様こそが本作一番の読み所だろう。 本作でボッシュが挑むのは、自身が子供の頃に殺された母親の事件の謎を解き明かすこと。 二十年以上前の事件に関する捜査は難航を極めるのだが、自身の出生にも関連する謎にボッシュは異常な程の執念で取り組む。 本作では、LAのほか、ラスベガス更にはフロリダまでも足を伸ばし、過去の事件を知る人物との対話を重ねていく・・・ 大方の謎が明らかになり、これ以上の「深い闇」があるのだろうかと訝しんでいる読者に、更なるドンデン返しが待ち受けている。 (この辺りは予定調和的ではあるのだが) とにかくいつにも増して、ボッシュの「情熱」或いは「熱量」に圧倒される本作。 ハードボイルドの主人公は星の数ほどいるが、彼ほど熱く、強く、そして寂しいキャラクターはいないだろう・・・ それほどの存在感と魅力溢れる存在。 筆を重ねるごとに肉付けされ、人間「ハリー・ボッシュ」が完成されていくのだということを深く感じさせられた次第。 シリーズ他作品と比べて傑作というわけではないが、過去四作品のなかでは個人的には本作がベスト。 (タイトルにもなっている“コヨーテ”・・・やはりボッシュと重ね合わせているのだろうか・・・?) |
No.1 | 6点 | kanamori | |
(2010/07/28 17:37登録) シリーズ初期の傑作と称されることが多いこの第4作ですが、個人的には”創りすぎ”との感もあります。 主題は、娼婦であった実母の惨殺事件の謎で、この30年以上前の未解決事件を、上司への暴力行為で強制休職中のハリー・ボッシュが追い続けるというストーリーで、ボッシュ自身に関わる過去の総決算的な意味合いがあります。 一応の解決を見て、残り100ページ余りで語られるどんでん返し的真相はたしかに意外ではあるのですが、大昔の事件の証拠が次々出て来るところは、ご都合主義と思えてきます。 |