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平均点:6.01点 | 書評数:1812件 |
No.1492 | 6点 | 捩れ屋敷の利鈍 森博嗣 |
(2019/01/24 22:55登録) Vシリーズも回が進んで八作目となる本作。 本作最大の売りは何といってもS&Mシリーズの主役・西之園萌絵の登場。 森ミステリーファンにとってはまさに堪えられないシチュエーション(!)、ということで2002年の発表。 ~「エンジェル・マヌーヴァ」と呼ばれる宝剣が眠る“メビウスの帯”構造の巨大なオブジェ様の捩れ屋敷。密室状態の建物内部で死体が発見され、宝剣も消えた。そして発見される第二の死体。屋敷に招待されていた保呂草潤平と西之園萌絵が、事件の真相に至る。S&MシリーズとVシリーズがリンクする密室ミステリ~ 作者のミステリーというと、やっぱり「密室」というキーワードは切っても切れない。 ただし、密室に対して正面から挑んでいた感のあるS&Mシリーズとは異なり、Vシリーズ突入後は「密室」に対するアプローチも徐々に変革的というか、トリックは二の次というプロットが目立つようになってきた。 本作も、「捩れ屋敷」という妙ちきりんな建物とコンクリートで隙間が塞がれた最大級に堅牢な建物が保呂草と萌絵の前に立ち塞がる。 これはもう・・・普通なら歓喜すべきシチュエーションのはず。 どんな密室トリックなんだ?・・・って。 ただ、示された解法は正直言って、決して満足のいくものではない。 「拍子抜け」と表現される方も多いだろう。 エンジェル・マヌーヴァの消失トリックについても同様に「そんなこと?」というようなものだ。 ただ、本作の「狙い」はどうもそんなところにないようだ。 「密室」は単なる疑似餌。真の狙いはシリーズ全体を貫くもっと大掛かりなもの・・・ 保呂草と萌絵のハイセンス(?)な会話からもそんな空気がヒシヒシと伝わってきた。 他の方々も触れているとおり、次作以降、作者の狙いも明らかになってくるようで、まぁ旨いよね・・・ 私はたっぷり前菜をを食わされたということなんだろうか・・・ じゃぁー次の料理、そして是が非でもメインディッシュを食べねば、という気分になるじゃないか。 瀬在丸紅子の言葉も気になるよねぇ・・・ |
No.1491 | 4点 | 今宵、バーで謎解きを 鯨統一郎 |
(2019/01/24 22:53登録) 「九つの殺人メルヘン」「浦島太郎の真相」に続き、桜川東子を安楽椅子探偵役とするシリーズの第三弾。 BAR「森へ抜ける道」を舞台にしたいわゆるバーもの(?) 単行本は2010年発表。 ①「ゼウスの末裔たち」=高齢の男に嫁いだ若き女性といえば狙いはひとつ・・・。だからゼウス? ②「アリアドネの糸」=この妻の行動は相当安易に思えるが・・・(普通バレるだろう) ③「トロイアの贈り物」=「トロイア」といえば有名な木馬の逸話なのだが・・・本編も当然それを踏まえてはいる。 ④「ヘラクレスの棺」=これも登場人物たちのなかから無理矢理犯人を捜したような感じが・・・。これをヘラクレスになぞらえるのも無理がある。 ⑤「メデューサの呪い」=メデューサといえば睨まれると石になる・・・。睨まれると“医師”になれるんだったらいいけど・・・(全然関係なし) ⑥「スピンクスの問い」=スピンクス=スフィンクスのこと。問いが誕生日とは・・・それくらい覚えとけ! ⑦「パンドラの真実」=所詮世の中金と色・・・ということ。 以上7編。 読了してから気付いた。本作の評価がかなり低いことを・・・ なるほど。確かに。 軽いというひとことでは済まないような軽さ、とでもいうべきか。 まぁこれが作者らしいと言えなくもないが。 1編=10分くらいで考えましたということかな・・・ 巻末解説では本作をバーミステリーとして、鮎川哲也「三番館シリーズ」・北森鴻「香菜里屋シリーズ」と並べているけど、とてもではないが同列にはできない。 まぁ重い雰囲気のときに気分転換で読むというならいいかもしれない。 |
No.1490 | 7点 | その可能性はすでに考えた 井上真偽 |
(2019/01/06 20:08登録) 2019年、新年明けましておめでとうございます。 毎年、新年一発目に何を読もうかと書店を徘徊するわけですが、今年は本作をセレクト。っていうか、実はちょっと前からコレにしようと決めてたわけですが・・・ 2015年に発表された新進気鋭のミステリー作家の出世作(?)と言っていいのか? ~山村で起きたカルト宗教団体の斬首による集団自殺事件。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首なし聖人伝説のごとき事件の真相とは? 探偵・上苙丞は、その謎が奇蹟であることを証明しようとする。論理(ロジック)の面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵にミステリー界激賞の話題作~ 確かに「斬新」なプロット。 さすが、日本の最高学府を卒業されてるだけあって、行間や作品の奥底から隠せない知性や高いIQが垣間見える。 毎年、数多のミステリー作品が上梓されるなか、目新しいプロットを捻り出すだけでも、まずは賞賛に値すると思う。 これは・・・いわゆる「多重解決」ものに分類されるんだろうか? 別に分類することに拘っているわけではないのだけど、読み進めながら、どうしてもそういう気にはさせられた。 「多重解決」というと、所詮ミステリーなんて「作者の匙加減次第」というややアンチ・ミステリー寄りのプロットかと思わせるんだけど、本作はそういうことでもないようだ。 『相手による仮説の提示』⇒『探偵(上苙)による仮説の否定』を繰り返しながらも、徐々に一定の到達点に向かう盛り上げ方。 ラスボス(?)的なキャラとの対決終了でエンディングかと思いきや、なかなかに洗練されたオチが決まるラスト。 こんなところは、まだ数作しか発表していない新人作家らしからぬ腕前だと感じた。 でも、これはコアなミステリーファン以外には敷居が高いのでは? 提示されるトリックも相当デフォルメされてるというか、リアリティはほぼゼロだし、何より複雑すぎて腹に落ちるまで結構時間がかかったのが事実。 「首斬り」についても、雰囲気作り以外、トリックとの融合性は薄いように感じた。 ということで、手放しに褒められるというわけでもないけど、次作以降も期待できるということは間違いない。 (三作一度にアップしようとすると時間がかかりそうなんで、まずは新年一発目のみのアップということで・・・) |
No.1489 | 6点 | 処刑までの十章 連城三紀彦 |
(2018/12/31 13:09登録) 作者没後に何作か発表された長編作品のうちのひとつがコレ。 「小説宝石」誌に連載された後、2014年単行本として発表。 遺作でも“連城マジック”は披露されているのか? ~平凡なサラリーマンであった西村靖彦が突然消息を絶った。弟の直行は、真相を探るうちに兄が殺されたという疑念を持つ。義姉の純子を疑いながらも翻弄されるなか、高知で起こった放火殺人事件の知らせが入る。高知と東京を結ぶ事件の迷路を彷徨いながらたどり着いた衝撃の真相とは? これぞまさに連城マジックの極み!~ なかなか“言い得て妙”の紹介文である。 私個人も、文庫版で600頁弱、まさに「迷路を彷徨いながら」の読書だった。 本当にこれは真相にたどり着くのか? ぐにゃぐにゃとした迷路或いは暗路を歩いているような感覚・・・なのだ。 登場人物はそれ程多くない。物語の主軸はあくまでも靖彦の妻と弟。このふたりの愛憎劇が中心。 ただ、物語が進むにつれ単なる端役でしかないと思っていた登場人物たちがまさかのクローズアップ、「ここで出てくる!?」の連続! これも“連城マジック”なのかと唸らされた矢先に、それまでも否定されてしまう・・・ もう何が何だか・・・である。 ただ、「暗色コメディ」など過去の佳作で見せていたようなアクロバティックな反転劇ではない。 表現するなら万華鏡だろうか。 読者に見せる角度をつぎつぎと変えていく技法。物語もひとりひとりの人物も、最初に見せていた角度はあくまでも読者に対する欺瞞。 角度を変えて見せれば、予想外の姿が見えてくる・・・ そういう意味では、年月を経て熟練、円熟味を増した作者のテクニックを味わえる。 ただ、他の方も書いているとおり、死を目前にした書き急ぎが見えるのも事実。 特に終章はこじんまりとまとまりすぎ。 もちろん仕方ないのだけど、これだけの大作なのだから、それに相応しいシメやオチが欲しかったなあとは思う。 でもまあ、久々にあのネットリした連城節を堪能できたからよしとしようか。 評価としてはこんなもんだけどね。 (何とか年内に間に合った・・・。本作を読了するのに相当時間がかかったせいだな・・・) |
No.1488 | 6点 | 嘘ばっかり ジェフリー・アーチャー |
(2018/12/31 13:06登録) 大長編「クリフトン年代記」完結の熱気も冷めやらぬうちに、早くも次作が発表! 今度はお得意の短篇集! 新潮文庫の帯には『人生いたるところに地雷あり』という刺激的な惹句! でも、今回はいつもの数字に因んだタイトルじゃないのね・・・ ①「最後の懺悔」=舞台は欧州が第一次世界大戦に向かう頃の英国。尊敬するドイツ人教師と英国人の生徒。ふたりがその後に出会う運命とは・・・。何たる偶然! ②「オーヴェル・シュル・オワーズの風景」=夢を持ち警官になった若者が初めて迎えた大事件。マフィアの自宅に麻薬を押収に行ったはよかったが、麻薬はどこにも見つからず・・・。嫌な雰囲気のなか若者が殊勲を上げる。 ③「立派な教育を受けた育ちのいい人」=なんちゅうタイトルだ! 主役は閉鎖的な男女社会のなか、初めてその学校に採用された女性教師。四面楚歌の授業のなか、孤軍奮闘するが・・・ ④「恋と戦は手段を選ばず」=なんちゅうタイトルだ! 金持ちで鼻持ちならない地主の男が清貧の美女を無理矢理恋人から強奪! ラストに当然その報いがやってきます。 ⑤「駐車場管理人」=実に作者らしい一編。要は成功譚なのだが、賢い妻を持つと、男は幸せということか?(ただし、賢すぎても困るが・・・) ⑥「無駄になった一時間」=オチがちょっとよく分からなかったのだが・・・ ⑦「回心の道」=第二次世界大戦下。ユダヤ人に対する非道な仕打ちの数々。「回心」とはそういうこと。 ⑧「寝盗られた男」=これは・・・寝盗られた相手が嫌だな。女は怖い。 ⑨「生涯の休日」=結末が3種類用意されているという趣向に富んだ一編。個人的には最後のやつがベスト。(当然こういう奴は因果応報だろ) ⑩「負けたら倍、勝てば帳消し」=当然ながらギャンブル(ルーレット)の話。こんなお人好しのカジノってあるんだろうか? ⑪「上級副支店長」=分かるよ。面白くないよねえ・・・。出世の道が閉ざされてしまうと、こういう思い&行動に走る人っていそうだな。 ⑫「コイン・トス」=これも戦争のお話。ラストはややしんみり・・・ ⑬「だれが町長を殺したか」=これがマイベストかな。イタリアにある架空の村が舞台。村人のほぼ全員が町長を殺したと名乗り出るという異常な事態! ちょっと寓話的な雰囲気。 以上13編にショート・ショートのような2編もあり。 とにかく芸達者な作者。今回もバラエティに富んだ小気味の良い短編が味わえる。 ただ、今までに比べると「毒」の度合いが少ないのがやや不満。ひねり具合も今ひとつという作品が多い。 その当たりはネタ切れなのか、やっつけ仕事なのか、どっちかかな? |
No.1487 | 5点 | 当確師 真山仁 |
(2018/12/31 13:04登録) 「当確師」とは実在するのか? 巻末解説の池上彰氏は「実在する」と断言されています。 というわけで、選挙があるたびに毎回疑問に思っていたことを少しでも解決すべく、本作を手に取ったわけだが・・・ 2015年の発表。 ~莫大な報酬と引き換えに当選確率99パーセントを約束する敏腕選挙コンサルタント・聖達磨。「当確師」とも呼ばれる彼への今回の依頼は、大災害に備えた首都機能補完都市に指定された高天(たかあま)市の市長選で、圧倒的支持率を誇る現職を倒すこと。裏切り、買収、盗聴、恫喝なんでもあり。著者が政治の世界を描ききった選挙版「ハゲタカ」~ “選挙版「ハゲタカ」”というのは少々大げさかな。 綿密な取材と緻密なディテールがウリだった「ハゲタカ」シリーズと比べると、枚数制限でもあったのか、本作の内容は薄っぺらい。 多少の障壁や紆余曲折はあるものの、最終的には「弱き者が強き者に打ち勝つ」という手垢のつきまくったラストが待ち受ける。 正直、この「障壁」が低すぎる(or薄すぎる)のだ。 ひとつの街を日本全体のプロトタイプとして、実験的に人心掌握して、ひとつの方向へ人為的に動かしていく・・・ こういう小説って今までも読んだ気がするけど、それって最終的な狙いとか裏側の構図というのがあるからこそ生きるプロットであって、本作ではそこら辺りが何もなかったというのが「薄っぺらさ」の原因なのかもしれない。 せっかく市を牛耳る“影の存在”(=小早川家)を出しているんだから、もう少し盛り上げ方を考えてもらいたかったな。 まぁ、一般ピープルの選挙行動というのは、かくも浮き草的というか、マスコミになびきすぎるのか? 「誰がなっても一緒」というのは確かにそうかもしれないけど、選挙権は権利であるとともに義務だからね・・・ などと、昨今の政治への無関心を嘆いたりする・・・ で、本作の評価は・・・うーん。この程度かな。 |
No.1486 | 6点 | 陽気なギャングは三つ数えろ 伊坂幸太郎 |
(2018/12/10 22:08登録) 前作からはや九年、奴らが帰ってきた!! 「・・・地球を回す」「・・・日常と襲撃」に続く『陽気なギャング』シリーズの第三弾。 2015年の発表。文庫化に当たって読了。 ~陽気なギャング一味の天才スリ師久遠は、ひょんなことからハイエナ記者火尻を暴漢から救うが、その正体に気付かれてしまう。直後からギャングたちの身辺で当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器・成瀬ら面々は追い詰められた! 必死に火尻の急所を探る四人組だが、やがて絶体絶命のカウントダウンが!~ 理屈抜きに面白い! 雑念抜きで楽しめる! やはり本シリーズは極上のエンターテイメントと言っていい。 成瀬(人間嘘発見器)、久遠(天才スリ師)、雪子(人間体内時計)、そして響野・・・(演説と邪魔の天才?)の四人が巻き込まれる事件の数々と訳の分からないうちに解決してしまうストーリーには、九年振りとは思えない、妙な安心感を覚えてしまった。 今回のプロットは「カチカチ山」か「サルカニ合戦」がモチーフなのだろうか? いわゆる「復讐劇」が下敷きになっている。 こんなこと書くと、シリアスで悲劇的な話?などと想像してしまうけど、本シリーズでそんなことは有り得ない。 最後は、サルが臼にのしかかられて観念したように、タヌキが泥の船で溺れさせられたように・・・因果応報的なラストが待ち受けている。 (強いて言えば、今回は「亀」だな。) 作者の作品の書評では何回も書いてるけど、やはり只者ではないよ、伊坂幸太郎は。 結構なハイペースで作品を上梓し続けているはずなのに、駄作は数える程しかないというのは才能ということなんだろう。 こういう作品なら誰でも(作家ならば)書けそうなんだけど、誰も書けないということが作者の力量を証明している。 作者が生み出した数々のキャラクターを、コンダクターのように作品世界の中で生き生きと活躍させる想像力と筆力。 やはり、今回も伊坂には脱帽(?)という感じだな。 |
No.1485 | 5点 | 向田理髪店 奥田英朗 |
(2018/12/10 22:07登録) 『この町には将来性はないけど希望がある!?』『温かくて可笑しくてちょっぴり切ない』という帯が付された本作。 北海道にある架空の町“苫沢町”を舞台に起こる人間ドラマの数々。 2013年より「小説宝石」誌に断続的に発表された作品をまとめた連作短編集。 ①「向田理髪店」=まずは本作の世界観を紹介する一作目。“苫沢町”が夕張市をモデルにしているのは自明だが、急速な過疎化と超高齢化に襲われている町の理髪店の跡を継ぎたいと息子から言われた父親は? かなり複雑。 ②「祭りのあと」=年老いた父親は田舎、長男は東京在住。よくある、ありふれた話だけど、我々世代には決して無視できない大問題。“苫沢町”の人々はあれやこれやと世話を焼くのだ! これぞ田舎のいいところ(?) ③「中国からの花嫁」=結婚できずにいた中年男がめとったのは中国人の花嫁、というわけで話題に乏しい苫沢町の人々の格好の話題となる。まぁ女は強いけど、男は弱いねということに尽きる。いや、シャイなだけか・・・ ④「小さなスナック」=都会から舞い戻り苫沢でスナックを開業した妙齢の女。そんな女性に50代の男たちは色めき立ち・・・というお話。やっぱ男っていくつになっても美人に弱いし、かわいいもんだね・・・そんな女、絶対ワケありなのにね。 ⑤「赤い雪」=苫沢町を舞台にした映画の撮影が決まり、沸き立つ町の人々。経済効果やらエキストラでの出演やら、とにかく街中が大騒ぎになる。で、完成した映画を見た途端・・・ということなのだが、最後にはそれを皮肉るオチまで用意されている。 ⑥「逃亡者」=優等生で鳴らした男が東京で犯罪に手を染め、警察に追われることに・・・。さぁ大変というわけなのだが、右往左往する中年たちを尻目にというか、意外に若者たちが活躍する・・・ 以上6編。 やっぱり老成したよね・・・奥田英朗は。 少し前に読んだ作品(「我が家のヒミツ」)でも書いたけど、とにかく老成ぶりが目立つ。 旨いのは間違いない。それはもう保証する。大げさに言うと職人芸だし、まさに「帯」コメントどおり、読んだあとはほんわかと温かい気分になれる。 でも毒がなさすぎかなー。なんか、塩分超控えめ、薄味の中華料理を食べた気分。 ギトギトした料理はもう作らないということなのかな。それはそれで寂しいから、できればバランスよく、たまには強烈に辛いやつを出して欲しいなどと思ってしまう。 (すみません。まったくの非ミステリー作品です。でも好きなんです) |
No.1484 | 6点 | ヒッコリー・ロードの殺人 アガサ・クリスティー |
(2018/12/10 22:06登録) エルキュール・ポワロを探偵役とするシリーズとしては26作目に当たる作品。 (ポワロ物はだいぶ未読作品が少なくなってきたなぁー) 1955年の発表。 ~外国人留学生が多く住むロンドンの学生寮で盗難騒動がつぎつぎと起き、靴の片方や電球など他愛のないものばかりが盗まれた。だが、寮を訪れたポワロは即刻警察を呼ぶべきだと主張する。そして、その直後、寮生のひとりが謎の死を遂げる。果たしてこれらの事件の裏には何が・・・。マザーグースを口ずさむポワロが名推理を披露する~ マザーグースは特段関係なかったな・・・ で、大ミステリー作家・クリスティ女史としては、本作程度の作品なら赤子の手を捻るほどに簡単にできたのではないか? そう思わせる出来栄え。 別に酷いレベルというわけではないのだ。十分に旨いし、これを老練と言うのかもしれない。 紹介文のとおり、「不思議な盗難事件の裏側に隠された悪意」というのが本作を貫くプロット。 で、その悪意の隠し方が、もうさすがクリスティ。 何気なく書かれた物証や登場人物の台詞に伏線がふんだんに撒かれている・・・感じ。 中盤以降、伏線がつぎつぎに回収され、「悪意」が徐々に明らかになるやり方。 うん。やっぱり老練。その言葉がピッタリくる。 でもやっぱり他の方と同様、高い評価はできない。 登場人物が多すぎてごちゃごちゃしてるとか、終盤の盛り上がりが足りないとか、ポワロが軽すぎるとか、細かい点ももちろんあるんだけど、それ以上に作品の熱量の少なさがなぁ・・・ これがどうしても「小手先感」を出してて、イマイチ読む方も盛り上がらない結果になっているのだろう。 (ラストのサプライズも唐突で??だし・・・彼女と彼女が・・・関係ってね) 楽しめるか楽しめないかと問われれば、「楽しめる」と答えられる出来ではあるけど、評価はこんなもんかな。 |
No.1483 | 7点 | 崖の館 佐々木丸美 |
(2018/11/27 09:35登録) 「雪の断章」と並び作者の代表作といってもよい長編。 後に続く<館三部作>(そんなのがあったのね!)の初っ端であり、唯一(?)の本格ミステリー作品。 1977年の発表。 ~財産家の叔母が住まう「崖の館」を訪れた高校生の涼子と従兄弟たち。ここで二年前、叔母の愛娘・千波は命を落とした。着いた当日から、絵の消失、密室間の人間移動など、館では奇怪な事件が続発する。家族同然の人たちのなかに犯人が? 千波の死も同じ人間がもたらしたのか? 雪に閉ざされた館で各々推理を巡らせるが、ついに悪意の手は新たな犠牲者に伸びる・・・~ 本作を手に取るきっかけとなったのは、三上延のビブリア古書堂シリーズの最新作(短篇集)。そこで氏の「雪の断章」が紹介されており、じゃあついでに「雪の断章」読むか・・・と思っていたが、かなりファンタジックっぽい感じなので、先に本作を選択した次第。 他の方の書評によれば、作者の作品群では最も本格テイストとのことなのだが、 う~ん。独特の世界観だな・・・ 「雪に閉ざされ隔絶された館」「一見仲が良いが、不穏な関係性を見せる従兄弟たち」「過去の見えない叔母」「密室での怪事件」・・・etc 道具立てはまさに本作発表の少し後から隆盛を極めた新本格の諸作品を思わせる。 しかし、似て非なるもの。 ラストには一応トリックめいたものが探偵役により看破され、真犯人の異様な動機も明らかになるし、そこに何がしかのカタルシスはある。 従兄弟たちの最年少である主人公・涼子の一人称で進む筆致。「章」立ては一切なく、どこに作者の仕掛けが施されているのか判然としないまま、読者は「神の視点」で読み進めることとなる。 実に心が不穏になるのだ。 文庫版解説者の若竹七海氏も本作に対して「どう評価していいか分からない」と書かれているが、まさにそういう感じ。 本格ミステリーとしてのパーツや細部を取り上げようとすると、何とも評価に困ることになる。 作品世界を楽しめるかどうか、この世界観が合うかどうかにかかっている・・・のかな? 私はというと・・・合ってない。合ってないんだけど、この魅力には抗し難い、っていうところか。 |
No.1482 | 6点 | ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~ 三上延 |
(2018/11/27 09:34登録) 大ヒットビブリオミステリーとなった「ビブリア古書堂」シリーズ。 前作の⑦「~栞子さんと果てない舞台」から六、七年後が舞台となる本作。 栞子さんと五浦は結婚して、その娘もすでに六歳となって・・・(何とも羨ましい話です) ①「北原白秋、与田準一編『からたちの花 北原白秋童謡集』」=何巻目かに登場した男・坂口昌志のその後をめぐる物語。タイトルにわざわざ「与田準一編」とあるのは当然理由があるからで、「版」の違いがこの物語の謎を解く鍵となっている・・・なんて実にビブリオミステリーらしい一編。 ②「俺と母さんと思い出の本」=実際の本のタイトルじゃないのは、依頼者も本のタイトルが分からないため。しかも「ファミ通」や「マル勝PCエンジン」なんて往年のゲーム雑誌まで稀覯本として登場する。確かにFF5は名作だったからねぇ・・・ ③「佐々木丸美『雪の断章』」=残念ながら「雪の断章」は未読(読もうかどうしようか迷った経験はあるんだけど)。今回も何巻目かに登場した男・志田と彼を慕う美少女・小菅のその後をめぐる物語。今回も「版」の違いが最終的に謎を解く鍵となっている。やっぱり読もうかな「雪の断章」・・・ ④「内田百聞『王様の背中』」=これはなかなか面白そうな作品だね(「王様の背中」のこと)。パート⑦で栞子に打ちのめされた男・吉原の息子が意趣返しをしようとするが・・・。それにしても。栞子の娘・扉子恐るべし! 以上4編。 いやいや、シリーズファンにとっては実にうれしい続編。 しかもふたりはちゃんと結婚していて、かわいい娘まで生まれて・・・ていう設定。 もうそれだけでも満足、満足。ということで終了。 えっ?それだけ?というわけでもありませんが、今回も別にレベル落ちした感じはありません。 相変わらず一冊の本をめぐって、登場人物たちはさまざまなドラマを見せてくれます。 どんな謎も、それが本にまつわるものであれば、栞子さんが必ず解決してくれます。 もう安定感十分。 今後は娘・扉子の成長も実に楽しみになってきた。 (もう完全に親目線・・・) |
No.1481 | 6点 | 煙に消えた男 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー |
(2018/11/27 09:32登録) 処女作「ロセアンナ」につづき、マルティン・ベックを探偵役とするシリーズ第二弾。 スウェーデンの首都ストックホルム警察が舞台となる警察小説の金字塔的シリーズなのだが、今回の主な舞台はハンガリーの首都ブタペスト・・・ 1966年の発表。 ~夏休みに入った刑事マルティン・ベックにかかってきた一本の電話。「これは君にしかできない仕事だ」。上司の命令で外務大臣側近に接触したベックは、ブタペストで消息を絶った男の捜索依頼を受ける。かつて防諜活動機関の調査対象となったスウェーデン人ジャーナリスト。手掛かりのないなか、「鉄のカーテンの向こう側」を訪れたベックの前に、現地警察を名乗る男が現れる・・・~ ブタペスト・・・ 確かに美しい街である。大河ドナウが街中をゆったりと流れ、北側の貴族が住む街・ブダと南側の庶民が暮らす街・ペスト・・・ もう訪れたのは20年以上も前になるから、かなり変わってるんだろうなぁー その頃はまだ冷戦のなごりが残っていた頃だから、ウィーン行きの列車に乗ってると、国境近くで乗車してきた国境検査官らしき女性に財布とパスポートをひったくられるように取り上げられたっけ・・・ いやいや、自分の思い出話はどうでもいい。 ということで本題なのだが、今回はこのブタペストの街が実にいい味を出しているのである。 主役=マルティン・ベック、脇役=ブタペストの街と人々、って言ってもいいくらいだ。 で、プロットの軸は「人探し」となる。 ベックの捜査もむなしく煙のように消え失せた男は、ハンガリーに潜伏しているのか、国外に逃亡しているのか、はたまたすでに殺害されているのか、全く判然としない状況が続く。 慣れない東欧の街で苦戦するベックに助け舟を出すのが、ハンガリー警察のスルカ少佐。こいつがなかなかいい味出してる。 舞台がスウェーデンに戻ってから事件は急展開するんだけど、最後はちょっとバタバタ気味で終了してしまった。 こんな結末だったら、夏休みを返上させられたベックもかわいそう・・・って感じだ。 ベックと同僚とのやり取りもなかなか面白いし、さすがに堅実で安定感のある作品。 こんな評価に落ち着く。 (ベック以外のスウェーデン人の名前が実に覚えにくい・・・) |
No.1480 | 7点 | 私情対談 藤崎翔 |
(2018/11/13 21:30登録) 「神様の裏の顔」で横溝正史ミステリー大賞を受賞した作者が贈る二作目がコレ。 単行本では「私情対談」のタイトルで発表されていたが、文庫化に当たってなぜか「殺意の対談」へタイトル変更。 今回、加筆修正された「殺意の対談」にて読了。単行本は2015年の発表。 ほぼ全編に当たり『雑誌の対談記事+対談中の登場人物たちの心の声』にて構成された連作形式の作品。 ①「『月刊エンタメブーム』9月号」=一見して単なる物語の“導入部”と思いきや、後でそうではなかったと思い知る・・・(ネタバレっぽいが)。殺害状況が割とエグイので注意。ミ○サーでなんて! ②「『SPORTY』ゴールデンウィーク特大号」=同じJリーグのチームでライバル同士のFW2人の対談。ベテランと若手のすれ違いやら考え方の違いなんてよくある話なんだけど・・・オチがなかなか強烈。 ③「『月刊ヒットメーカー』10月号」=女1・男2の3人組人気バンドの対談。で、この女1がかなりの食わせ物なわけで、オジサンの想像の遥か上をいく暴挙! これって○股なの? さらに最後は・・・ ④「『テレビマニア』9月10日~9月23日号』=本作のある意味分岐点となる一編なのだが、最初はまさかそんな感じになるなんて想像もつかなかった。超女好きのイケメン俳優に駆け出しの若手女優が食い物にされるはずが・・・これは③以上の展開。 ⑤「『週刊スクープジャーナル』11月23日号掲載予定原稿」=この“掲載予定原稿”というのがミソ。 ⑥「4月18日『メディアミックス・スペシャル対談』」=最後は雑誌ではなく生放送のインターネットTVが舞台。①~⑤までが大いなる前フリだったことが明らかになる。明らかになるのだが、あまりに振り幅が大きすぎて頭がクラクラしてくる。 ⑦「エピローグ『実話真相』6月20日号」=トドメのオチ。 以上7編、というか7つのパート。 いやいや・・・なかなかの怪作。 好き嫌いがはっきり分かれそうだが、個人的にはよく考えたなぁーという感想。 (元お笑い芸人ということからすると、アンジャッシュやしずるのネタが発想のきっかけではないかと推察するのだがどうか?) もちろん無理矢理感は満載だし、リアリティは皆無だし、これなら何でもありだろと思われるのも当然。 でも何だか無視できないパワーと勢いは感じた次第。 オリジナリティや読者を驚かせたいという意気込みは伝わってきた。 「あり」か「なし」かで言うなら、大きな声で「あり」と言いたい。 |
No.1479 | 6点 | 鍵の掛かった男 有栖川有栖 |
(2018/11/13 21:29登録) 安定感で言うなら比類なきレベルになった感のある“火村・アリス”シリーズ。 今回は大の地元とも言うべき「大阪・中之島」を舞台に、ひとりの謎の男の生涯にスポットライトを当てる大長編作品。 2015年の発表。 ~中之島のホテルで梨田稔(69)が死んだ。警察は自殺と判定。だが、同ホテルが定宿の大作家・影浦浪子は疑問を持った。彼はスイートに五年間住み、周囲にも愛され二億円の預金があった。影浦は死の謎の解明を推理作家の有栖川有栖と友人の火村英生に依頼。だが調査は難航。彼の人生は闇で鍵のかかった状態だった。梨田とは誰か? 他殺なら犯人は? 驚愕の悲劇的結末~ 皆さんも思ったのではないか? 「長すぎる!!」と・・・ まぁそれはさておき、本作では前半から中盤過ぎまで、多忙な火村に代わり、アリスが単身舞台となる銀星ホテルへ乗り込み、関係者への事情聴取やら梨田の故郷への捜査やら、いわゆる「探偵役」を務めている。 最初、これって島田荘司の御手洗シリーズでいうところの「龍臥亭事件」を意識してるのか?って感じてた。 「龍臥亭-」も冴えない中年男・石岡覚醒の物語だし、ついにアリスも探偵として昇華するのか・・・なんてね。 物語は川の流れのように緩やかに進んでいく。 火村でなくアリスの捜査行なんだから緩やかなのも仕方ないんだけど、これは作者の狙いなんだろうね。 梨田という人物が纏った謎をという衣をひとつひとつ剥がしていくという感覚。 それにはスピード感のある展開よりは、丁寧かつ重厚な物語の方が適しているということなのだろう。 真の探偵役である火村の登場以降はスピードアップ、急転直下で謎のすべてが解き明かされることになる。 新たな命の誕生というハッピーエンドでの締めくくりといい、作者のストーリーテラー振りもレベルアップした印象。 と、ここまで好意的に書いてきたが、これは表向きの感想。 裏の感想(?)はというと、以前から感じているとおり、本シリーズとは相性が良くない。 これまでこのシリーズで本当に面白かったと感じた作品はないし、本作読了後もこの評価は変わらなかった。 特に欠点はない(と思う)。ただワクワクするところがない。 多少のアラはあってもいい、もう少し読者を強引に振り回してくれる「何か」を期待してしまう。 本作でも、梨田の半生なんて、ここまでもったいぶるならもう少しブッ飛んだものでも良かったのにね・・・ (中之島に関する薀蓄は非常に面白く読ませてもらった。本作って絶対映画向きだよね) |
No.1478 | 5点 | 洞窟の骨 アーロン・エルキンズ |
(2018/11/13 21:27登録) もはや定番である「スケルトン探偵シリーズ」。 本作は2000年発表のシリーズ第九作目に当たる。 今回もギデオン・オリヴァーとジュリー夫妻の行く先に事件が・・・という展開(定番だ!) ~旧石器時代の遺跡の洞窟から人骨が発見された。調査に協力したギデオンの鑑定により、事態は急転した。人骨は旧石器時代のものではなく、死後数年しかたっていなかったのだ。ギデオンは以前に先史文化研究所で捏造事件が起きたとき、行方不明者が出た事実をつかむが・・・複雑に絡み合う人類学上の謎と殺人の真相にスケルトン探偵が挑む~ 今回の舞台は南仏。 アメリカ版トラベルミステリー的な側面もある本シリーズだけに、今回も風光明媚(?)な南仏の観光案内も兼ねている。(ついでにうまそうな料理も・・・) そして事件の背景に見え隠れするのが、「ネアンデルタール人」についての論争。 ネアンデルタール人かぁー・・・久しぶりに聞いたな 因みにウィキペディアによると、現在の学説ではネアンデルタール人はホモサピエンスとは別系統とみなされているとのこと。 それはさておき、今回はあまり「骨」が登場しない。 通常なら、終盤すぎの一番佳境に入るころ、ギデオンが骨の鑑定から新事実を発見⇒真犯人解明! となるのだが、今回は骨ではなく「解剖」なのが若干目新しいところ。 プロットとしては実に隙がない。怪しげな真犯人候補たち、いかにもなダミー犯人役、連続殺人事件etc こういう複雑なプロットを実にうまい具合に処理してくれるのが作者の手腕。 でも隙がないのが欠点だな。 悪く言えば予定調和だし、いかにもな真犯人ということ。 まぁそれもシリーズものの宿命というやつで、シリーズファンにとってはこういうことが「よっ! 待ってました!」という感想につながるのかもしれない。 私個人としては・・・微妙。でも安心して楽しめるよ。 |
No.1477 | 7点 | 図書館の殺人 青崎有吾 |
(2018/10/27 11:50登録) 「体育館」「水族館」に続く、裏染天馬シリーズの長編三作目は『図書館』ということで・・・ 今回も“平成のエラリー・クイーン”の仕掛けるロジックは炸裂するのか? 2016年の発表。 ~9月の朝、風ケ丘図書館の開架エリアで死体が発見された。被害者は館内に忍び込み、山田風太郎の「人間臨終図鑑」で何者かに撲殺されたらしい。現場にはなんと二つの奇妙なダイイングメッセージが残されていた。警察に呼び出された裏染天馬は独自の調査を進め、一冊の本と一人の少女の存在に辿り着く。ロジカルな推理と巧みなプロットで読者を魅了するシリーズ第四弾~ 全体としては、他の皆さんの書かれているとおり、実に好ましい、好きなタイプの作品。 「体育館」「水族館」でも味わえた、真犯人たる条件がロジカルに提出され、裏染天馬の頭脳によって真犯人が炙り出される瞬間の刹那! まさに本格ミステリーの面白さはここにあり!というところだろう。 細かく見ていくと、まずは肝心のフーダニット。 これは意外性で言うならかなりのレベル。例えて言うなら、「斜め上からの真相」とでもいうべきか・・・ 犯行現場に残された数々の物証から“犯人たり得る条件”を提示するのはいつものとおりなのだが、どなたかがご指摘のとおりで、「ロジックのためのロジック」感はある。「鏡の件」や「カッターの件」も不自然と言われればそうかもしないし、他の解釈も可能だろう。 でも、まぁ十分許容範囲ではないか。正直、これだけの伏線をよく混ぜたなーという気にさせられた。 で、「ダイイングメッセージ」なのだが、これは・・・どうかな? わざわざこれだけのボリュームを割いて書くほどのことでもなかったな・・・と感じていたのだが、最後の最後で「仕掛け」を出してくるとは・・・でも、あまりスマートな使い方ではなかったとは思うし、被害者がこれを残そうとした理由に今ひとつ納得はいかなかった。 「動機」に関しては・・・あえて触れないけど、納得感は相当薄いよね。 まぁでもスゴイ才能だと思う。 四作目になってシリーズキャラクターもだいぶこなれてきたというか、ますます魅力的になってきている。 天馬をめぐる恋の鞘当て的な話も今後どうなっていくか、など興味も尽きないところ。 いずれにせよ、回を追うごとにパワーアップしている感のあるシリーズも珍しいし、次作にも大いに期待したい。 |
No.1476 | 7点 | 東京奇譚集 村上春樹 |
(2018/10/27 11:49登録) 『奇譚』=不思議な、あやしい、ありそうにない物語・・・ということである。 東京のどこかで起こったそういうお話を5編集めた作品集である。 2005年の発表。 ①「偶然の旅人」=これは“ありそうにない”と言うより、“あってもおかしくない”お話である。冒頭、いきなり作者が登場して、作者がある人から聞いた話として語る何ともフワフワした、それでいて強い「芯」を感じさせるお話。さすがである。 ②「ハナレイ・ベイ」=ハワイ・カウアイ島にあるサーファーのメッカ・“ハナレイ・ベイ”。ひとり息子をサメに奪われた女性がこの物語の主人公。息子の影を追うように毎年ハナレイ・ベイを訪れるうちに、ある不思議な出来事を耳にする・・・。映画化されるだけある、何とも心に染みる、それでいて絵画的な一編。さすがである。 ③「どこであれそれが見つかりそうな場所で」=ラストの「不安神経症のお母さん」と「アイスピックみたいなヒールの靴を履いた奥さん」と「メリルリンチ」に囲まれた美しい三角形の世界に・・・でちょっと笑ってしまった。これはまさに「奇譚」だね・・・。さすがである。 ④「日々移動する腎臓のかたちをした石」=うーん。男ってこんな女性に惹かれてしまうもんなんでしょうねぇ。まさに「謎」多き女性・・・。さすが・・・ ⑤「品川猿」=この「猿」はなにかを象徴している存在なのか、はたまたそれほどの意味付けはしていないのか・・・気になる。でも、猿に自分の本性を暴かれる気持ちってどんなもん? 以上5編。 実は今回が「村上春樹」の初読みである。 初読みが本作でいいのか?という強い疑問はさておき、やはり「さすが」である。 そのどれもが、読者の想像力をかき立てずにはおれない五つのお話。 結末がはっきりと示されていないだけに、主人公たちのその後が気になってしまう・・・まさに作者の術中にはまりまくりなのだ。 短編とはこう書くんだよといわんばかりの計算され尽くしたお話。 私がどうのこうのと評することがもはや筋違い。 秋の夜長、好きな飲み物を片手に、静かに作品世界に浸るのも良いのではないでしょうか? (ベストは・・・うーーん、③か⑤で迷う) |
No.1475 | 5点 | 矢の家 A・E・W・メイスン |
(2018/10/27 11:48登録) 本業がミステリー作家とは言えない(らしい)メースン。 でも本作はいわゆる黄金期への橋渡しとして重要な作品であるという。いずれにしても必読ということなのだろうか? 1924年の発表。原題は“The House of the Arrow”(そのまんま) ~ハーロウ夫人の死は、養女ベティによる毒殺である・・・。夫人の義弟による警察への告発を受け、ロンドンからは法律事務所の若き弁護士が、パリからは名探偵アノーが、「事件」の起きたディジョンの地へ赴く。ベティとその友人アン。ふたりの可憐な女性が住む“矢の家”グルネル荘で繰り広げられる名探偵と真犯人の見えざる闘い。メースンの代表作~ うーん。 他の方も何だか煮え切らない書評を書かれているが、それも何となく分かる感じだ。 何だかモヤモヤしてるのだ。 何がモヤモヤしてるのか?と問われると答えにくいのだが、読み進めていて、ここがポイントだなという箇所がよく分からなかったと言えばいいのか・・・ フーダニットは他の方もご指摘のとおり、特に古典作品では「よくある手」なのだと思う。 いにしえの読者なら、「まさか!」と思ったのかもしれないが、昨今の読者にとっては何でもなく映ってしまう。 (もう少しダミーの容疑者を増やしてもいいのにな・・・) でも、時代性を考えればよくできてる。 後出し部分もなくはないけど、出来るだけフェアに手掛かりを示しておこうという意思は感じる。 最後のノートルダム寺院のくだりも作者の作家としてのセンスを感じる。(物語のオチとして) でも高い評価はやっぱり無理かなー 次世代に繋がる要素はいろいろと考え出したけど、それをうまい具合にまとめるまでは至らなかった、 そんな感じか。 そういう意味では、まさに“橋渡し”という言葉がピッタリ当て嵌る。 |
No.1474 | 5点 | 魔弾の射手 高木彬光 |
(2018/10/12 23:04登録) 「刺青殺人事件」「能面殺人事件」「呪縛の家」に続いて発表された四作目の長編(神津恭介登場作としては三作目)。 ウェーヴァーの名作オペラと同名(検索するとこっちの方が圧倒的に引っ掛かる)なのは、あまり関連がなかったような・・・ 1955年の発表。 ~大胆不敵な犯罪予告とともに、歌劇の招待状が名探偵神津恭介のもとに届けられた。送り主は自らを悪魔の使者と呼ぶ「魔弾の射手」。そして、その言葉どおり舞台でカルメン公演中の水島真理子が「魔弾の射手」の一言を残し失神した。客席にその姿を見出したのだろうか。しかも、この事件を幕開けにして殺人事件が連続して起こっていった。血に飢えた殺人鬼・魔弾の射手とは何者か。その恐るべき魔手は遂に神津恭介のうえにまで及んできた・・・~ 本作と冒頭に触れた三作品との比較では、本作が大きく劣後している・・・と言わざるを得ないだろうな。 “つかみ”は良かった。 名探偵への招待状、続いて起こる殺人事件。しかも「顔のない」、「指紋もない」死体。 後の名作「人形はなぜ殺される」を想起させるかのようなこのケレン味こそが作者の真骨頂と思わせたのだが・・・ そこからの展開が何とも焦れったいのだ。 神津恭介の右往左往は“人間味”ということで我慢するとして、結局「顔のない死体」の処理や「魔弾」の謎、「魔弾の射手」の正体のいずれもが想定内で中途半端という印象。 動機は戦時中の闇に起因して結構奥深いものなのに、薄っぺらく書かれてしまっているのがイタイ。 作者の故郷である青森の新聞「東奥日報」への連載作品というのが悪い方にでた感じ。 プロットは捻り出したものの、連載という形式に合わなかったのではないか。 まぁこの時期のミステリーだけに、乱歩風の通俗スリラーに寄せられるのは仕方ないし、本格ファンの心をくすぐる要素が十分詰まっていることは確か。 ということで評価としてはこの程度になってしまう。 これもハードルの高さ所以かもね。 |
No.1473 | 5点 | 紙片は告発する D・M・ディヴァイン |
(2018/10/12 23:01登録) 生涯に13作の長編を遺したディヴァイン九作目の作品。 1970年の発表。原題は“Illeagal Tender”(「不正入札」) ~周囲から軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った奇妙な紙片のことを警察に話すつもりだと、町政庁舎の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された・・・。現在の町は、町長選出をめぐって揺れており、少なからぬ数の人間が秘密を抱えている。発覚を恐れ、口を封じたのは誰か? 地方都市で起きた殺人事件とその謎解き、作者真骨頂の犯人当て~ なるほど・・・世評が低いのも頷けるという感覚。 とにかく地味だし、町政をめぐる出世争いやら、主人公格の女性の不倫やら、脇筋のボリュームも結構多くて、読む方も途中でゲンナリ! そう思われるのも致し方ないかなという感じ。 作者が一番拘っているだろうフーダニットはまぁ及第点というところか。 怪しげな人物が多すぎて決め手に欠けるという状況のなか、まずまずのサプライズは味わえる。 巻末解説者の古山某氏が、『ディヴァインの手にかかると(不正入札や上司との不倫、出世争いなど)凡庸に思えた要素の組み合わせがしっかりとした人間ドラマに支えられ、驚きに満ちたミステリーに仕上げられる。スケールの小さい地味な話なのに、驚きに満ちた展開が大きな興奮をもたらす物語として楽しめる・・・』などと、中途半端なフォローをしてますが、まぁ言い得て妙かなとは思う。 丁寧なプロットというのは間違いないし、そこには確かにドラマがある。 職場で使えない年下の部下がいたり、素敵と思える人はみんな既婚者だったり、というのは昨今の働く女性にとっては「分かる分かる・・・」ということになるのだろう。 でも読んでる人の大半(?)は本格ファンのオッサンだしな・・・ 他の方も書かれているとおり、もう少しミステリー的なギミックを大事にしてもらいたいと思ってしまう。 作者の作品は「兄の殺人者」や「五番目のコード」など、早くに翻訳されたもののクオリティが高かっただけに、どうしてもハードルが上がってしまう。それらと比べるとね・・・どうしても辛口になる。 残りの未訳作品も期待薄かな? |