殺し屋ケラーの帰郷 殺し屋ケラー |
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作家 | ローレンス・ブロック |
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出版日 | 2014年10月 |
平均点 | 5.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | E-BANKER | |
(2019/12/04 21:56登録) ~ルイジアナ州ニューオーリンズ。殺し屋を引退したケラーは結婚し、子供もできてすっかり良き市民になっていた。新しい仕事のリフォーム事業も好景気で順調だった。ところがサブプライムローン問題によってバブルがはじけ、一気に失業状態に。そんなところへ身を潜めていたドットより突然電話があり、殺しの依頼が舞い込んだ・・・~ 「殺し屋ケラー」シリーズの第五弾にして(恐らく)本当の最終譚。2013年の発表。 ①「ケラー・イン・ダラス」=ダラスで行われる切手オークションへ参加するケラー。その“ついで”に殺しの仕事を引き受けたのだが、久々の「殺し」はケラーにとっても緊張感ありあり。ターゲットを前にして戸惑うケラーの姿がある意味新鮮。 ②「ケラーの帰郷」=かつて、長年住んでいた街NY。この大都市へ来た目的はやはり殺し。今度のターゲットは大宗教家、というわけで敵の防御体制はかなり堅固。さすがの(?)ケラーもどうやって殺せばいいのか戸惑うことに・・・。そしてやっぱり切手のオークション。 ③「海辺のケラー」=今回の舞台はカリブ海を巡る豪華クルーズ船。ターゲットは絶世の美女と屈強なボディーガードを連れた老人。慣れない船旅と絶世の美女からの誘惑(?)に苦戦するケラーだったが、最終的には・・・。 ④「ケラーの副業」=今回のケラーは殺し屋:切手のディーラー=1:9くらいの割合。もはや切手の話が殆どを占めている。そして、またしても美貌の未亡人からモーションをかけられることに・・・。殺し屋側の話はよく分からなかったな。 ⑤「ケラーの義務」=最後は掌編。ケラーとドットに共通の殺しのルールを破るか破らないか、さあどっち? 以上5編。 前作で終わったはずのシリーズがまさかの復活。しかも、あろうことか殺し屋が結婚し、かわいい子供までいるという境遇。こんな奴にまともな殺しができるのか? ということで、予想通りかなり逡巡するのだ、もどかしいくらいに。最後は一応「お役目」を果たすものの、クール&ドライな殺し屋の姿はそこにはない。これではシリーズファンにとっては裏切られたという感情になるのかもしれない。 しかも本作、巻末解説の杉江松恋氏が「・・・殆ど切手ミステリーであると言ってもいいほどである。」と書かれてあるとおりの内容。 切手ミステリーなんていうジャンル初めて知った! 実はブロック自身がマニアらしいから、これはもう自分の趣味で書いてるとしか思えない。 ということで、本作を一言で表すなら「(シリーズにおける)蛇足」ということ。まぁ終わらすには惜しいキャラクターなのは分かるけど、無理やり引っ張り出されたケラーはちょっと可哀想という気がする。続編は書かないほうがいい。 (中では③がベストかな) |
No.2 | 4点 | Tetchy | |
(2016/09/04 22:42登録) 前作『殺し屋ケラー最後の仕事』でケラーはニコラス・エドワーズとして身分を変え、リフォーム会社の共同経営者に収まり、さらに彼とドットを罠にかけたアルへの復讐を遂げ、さらにはジュリアという伴侶を得てその妻との間にかわいい娘ジェニーを儲けたケラー。通常ならば大団円で一連のケラーのシリーズに終止符が打たれるはずだったが、人生は上手くいかない物でケラーの前にサブプライムローン問題が立ち塞がり、あれほどあったリフォームの依頼がパタリと止んで閑古鳥が鳴く状態に。そんなところからケラーの第2の殺し屋稼業がスタートする。 かつては一匹狼だったケラーが家族という護る物を得て再び命を奪う仕事に就けるのかと正直疑問だった。ケラー自身もしばらくのブランクを懸念し、またかつての自分のように冷静に処置できるのかと自問自答を繰り返すが、逆に妻のジュリアと幼い娘ジェニーの声を聞くことで逆に安堵を覚える。殺し屋稼業に戻ることでそれまでのことが夢ではなかったのかと錯覚したがそうではないことを再確認し、それでもケラーは仕事が実施できたことで再び自分を取り戻す。 しかしこの感覚は特殊だ。家族を持つからこそそれまで出来たことが出来なくなることは多々あるのに。ましてや人の命を奪い、家族に喪失をもたらす仕事である。それは妻ジュリアも指摘するのだが、ケラーは自分の変化を懸念しはしたものの、やはり前の通りに殺しをやれた自分がおり、それは以前と変わらぬ達成感をもたらしたと述べる。ケラーの精神状態はやはり常人とはちょっと違っているようだ。 今回は以前にも増してケラーが切手にのめり込む描写が非常に多い。殺しの依頼も切手収集のついでになっている。もはや暮らすのに十分な金があるケラーにとってかつての生業だった殺しから切手収集がメインになって主客転倒しているのだ。 しかし殺し屋の話で始まったこのシリーズが切手収集がメインの話になろうとは誰が想像しえただろか?殺しを扱っているのに全く陰惨さがない、実に特殊なシリーズだ。 そしてその切手収集熱はやがてケラーから殺し屋稼業が潮時であると決意させるようになる。アウトローだった彼が妻と娘とリフォーム業と切手転売のサイドビジネスと安定を得た時、もはや彼には殺しをする理由が無くなっていた。 妻の助言で切手転売のサイドビジネスを始めてからはもはや殺し屋稼業よりもそちらの方に興味が大きく傾いてくる。それは趣味にさらにのめり込む環境が出来たこともあるだろうが、やはりこちらの方が安全な仕事であること、そして殺しのためにアメリカの各地に出張して家族と一時的に離れることが次第に辛くなってきたことだろう。ケラーの心の中に家族愛という新たな感情が芽生え、その領域がどんどん大きくなってきたのだ。 殺しを引退したケラーがどんな理由にせよ、ターゲットにアプローチしていく過程、そして依頼を達成するプロセスを書くことがもはやメインではなくなった証拠ではないだろうか。ケラーの引退を示唆しながらアクロバティックな内容で再び呼び戻したブロック自身もこの先のケラーを描くことに迷った、いやむしろケラー自身が彼の中で動かなかったのかもしれない。 前作『殺し屋最後の仕事』がやはりこのシリーズの幕引きだったのではないだろうか。サブプライムローン問題という新たな経済危機がブロックの中にいたケラーを呼び起こしたのだろうが、本書に収められたケラーの姿を見ると、もはやそこには殺し屋ケラーの姿は薄れ、愛する妻と娘を持ち、切手収集を趣味にしたリフォーム会社の共同経営者ニコラス・エドワーズがいるだけだった。 どんなシリーズにも終わりはある。読者を大いに楽しませるシリーズならばその幕引きは鮮やかであるべきだろう。 本書は家族を持ったケラー=ニコラス・エドワーズのその後を知るにはファンにとってはプレゼントのような短編集だったが、かつてのケラーを期待するファンにとってはどこか物足りなく、そして痛々しさを感じさせる作品だった。 |
No.1 | 6点 | kanamori | |
(2014/11/24 19:00登録) 殺し屋稼業を引退し名前を変え、妻娘の三人家族でニューオリンズで良き市民として暮らすケラー。ところがサブプライムローン問題の余波で、新しい仕事のリフォーム事業が傾きだしたところへ、身を潜めていた殺し屋の元締めドットから連絡が入る--------。 殺し屋ケラー・シリーズの第5弾。ハッピーエンドの前作でシリーズ完結、とはならず、今作が本当に”最後の仕事”となるらしい(たぶんw)。本書は、中短編5編を収録した連作短編集の形をとっていますが、主要登場人物一覧があり、時系列的につながりがあるので長編として読める。 本書の特徴の1つは、家庭人の殺し屋ケラーと妻ジュリアのスタンスの変遷。第1話では妻ジュリアに恐る恐る復職を告白するが、かつての本拠地ニューヨークで大修道士を標的にする第2話「ケラーの帰郷」になるとジュリアが仕事の顛末を聴きたがったり、第3話の「海辺のケラー」ではケラーとともに豪華客船での殺しに関わったりで、この辺が妙に面白い。 もう一つの特徴は、ケラーの切手蒐集の趣味がより比重を増し、ほぼ全編で物語に絡んでくることだろう。第4話「ケラーの副業」では、殺しの仕事はむしろサブストーリーで、切手売買の仲介を巡る物語のほうがメイン。それでも面白く読ませるのがブロック。 それにしても、ケラーとドットの洒落ていて息の合ったあの会話がもう読めなくなるのは残念だ。 |