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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1902件

プロフィール| 書評

No.782 6点 ドローン探偵と世界の終わりの館
早坂吝
(2017/09/21 22:31登録)
身長130cm体重30kgの新名探偵登場。勿論これには訳があります。物語の中盤で、安っぽい漫画のようなエピソードが挿入されますが、ここに関わってきます。それよりももっと重要なポイントにもなるわけですが、それはここでは書きません。ご自身で確認していただきたいと思います。
そして冒頭にトリックを見破ってみろとばかり「読者への挑戦状」がいきなり炸裂します。しかしねえ、これは看破できませんよ。真相が明らかになった瞬間、唖然としてしまいました。そして僅かな腹立たしさを抑えることができませんでした。読者によっては壁に叩き付けたくなるかもしれません。あまりの出来事に、だまされたカタルシスを覚えるどころではなくなります。これを見破るにはちょっと伏線が少なすぎる気がしないでもないですね、後出しじゃんけんみたいなね。
また、名探偵ジャパンさんがおっしゃるように、全体的に気合が入っていないような感覚を覚えました。作者らしいノリノリな感じが全くないんですよ。まあ、作風に合わせたのかもしれませんが、やや物足りないように思いました。
結構破天荒な物語なのに、面白さがダイレクトに伝わってこない、ちょっと残念な作品の印象を受けました。


No.781 6点 7人の名探偵
アンソロジー(出版社編)
(2017/09/19 22:17登録)
新本格ミステリ誕生30年を記念して編まれたアンソロジー競作。
顔ぶれは新本格第一世代の綾辻、法月、我孫子、歌野の講談社ノベルズ出身作家と第三世代の麻耶に創元社から有栖川、最後は山口雅也となっています。ですが、有栖川と山口は果たして新本格のカテゴリーに入るべきなのかどうか。まあそれだけ生き残りが少ないということでしょうか。なんだかなあ。
それぞれ個性を出していますが、やはり一番面白かったのは本格でもミステリでもないけれど、綾辻でした。ネタバレになりそうなので内容については触れませんが、ほのぼのした感じと不安感を煽るような書きっぷりはさすがだなと思います。群を抜いているとは言いませんが、格の違いを見せつけた感じですかね。
他では個人的に歌野が気に入っています。将来的な名探偵像というんでしょうか、SF仕立てでありながら本格ミステリの精神を忘れていない辺りはらしいなと思います。あとは意外に山口雅也も良かったです。落語のネタを発展させたアイディアはちょっとこれまでになかったものじゃないでしょうか。最も異色な作品です。有栖川は己のスタンスを貫いた、なかなかの逸品ですね。その他はまあそれなりといった感じですか。まあしかし、全体的にそこそこのレベルだとは思いました。下手に肩に力が入らない感じはみなさんもうベテランゆえでしょうかね。


No.780 7点 QJKJQ
佐藤究
(2017/09/15 22:13登録)
「そいつはやめとけ、ヤバいやつだ」己の内なる声が囁く。しかし、私は自身の欲望に抗うことができず、書店の棚からそれをそっと引き抜く。本当にそれでいいのか、自分。これでいいんだ、買わずに後悔するより買って後悔しよう・・・。

そして私はこの本を読み始めました。両親と兄が殺人鬼で、高校生の主人公亜李亜自身も猟奇殺人鬼なのです。そんな設定のミステリが面白いわけがないじゃないかと思いつつも、なぜか引き込まれます。導入部から言いようのない緊張感を読む者に強います。ところが物語は予想外の展開に発展していきます。面白いとか面白くないとかの次元を超えた、秘められた何かがこの小説には息づいているように、私には思われて仕方ありません。平成の『ドグラ・マグラ』とかではなく、何かこれまでにない新機軸を目指しているというか。
本書を評価する人もしない人も、気持ちはなんとなくわかる気がします。選考委員の間でも意見が分かれたのも無理からぬものがあったようですし。私が思うに、本作を評価するにあたってこれを理解できるかどうかが問題なのではなく、容認できるかどうかで評価が決まる気がします。
奇書であるのは間違いないでしょう。私はこれが嫌いではないですし、その完成された文章や使い古されたと言ってもよい幻想と現実の狭間の物語を含めて、どうしても低い点を付けるわけにはいかない気分にさせてくれる作品なのです。


No.779 5点 探偵ファミリーズ
天祢涼
(2017/09/12 22:28登録)
帯に「このシェアハウスに集まる『家族』は全員、探偵。」とあるように、シェアハウスに入居する老若男女は全員探偵で、事件が起こる度に推理を戦わせる・・・わけではありません。つまり看板に大いに偽りありですよ。勿論これは出版社の陰謀で作者が悪いわけではないでしょうけどね。
チロリアンハウスというシェアハウスの大家という名前の大家さんが探偵役で、第一話から第四話までを彼が担当し、第五話は主人公で語り手のリオが務めます。一話ごとに増える他の住人達は最終話で漸くダミーの推理を披露するだけで、特に何かの役に立っていません。
それまでほのぼのとした雰囲気で進行していた連作短編が、第五話に至り突然死体が現れ驚きますが、これは巧妙に仕組まれた企みです。そして最終話である人物の秘密が明かされ、やや意表を突かれますが、まあこれも連作短編集にはよくある仕掛けです。
登場人物の描き分けはしっかりと出来ていますし、それぞれの事件はそれなりにバラエティに富んでいますので、評価としてはまずまずですが、トリックにいま一つ妙味がないのが残念です。特に先に述べたダミーの推理は思い付き程度であまり感心しません。


No.778 8点 冤罪者
折原一
(2017/09/10 22:07登録)
これは凄い。文庫で600ページを超える長尺にもかかわらず、ダレることなく最後まで緊迫感を維持する、サスペンス小説の一級品になっています。まさしく折原一の代表作の一つと呼んで差し支えない傑作だと断言できます。
タイトルから受ける印象は、もしかして社会派?と思う人もおられるかもしれませんが、そうした一面もあるものの、それを逆手に取った反転劇と言えるでしょう。確かに登場人物は多めですが、決して混乱するような構成にはなっていないと思います。少なくとも私は頭の中できちんと整理できました。
果たして真相はいかなるものなのか、そして真犯人は誰なのかといった興味を抱きながら読み進めましたが、結局見事に騙されました。真相が明かされた時、久しぶりに寒気がしました。最初はこんなことがあっていいのかと思いましたが、よくよく考えても矛盾するところはなく、全体的に霧がかかったような物語の流れが、一気に晴れて雲一つない青空が広がるような感覚を覚えました。


【ネタバレ】


あとから思えば、真犯人はどことなく影が薄く、疑おうと思えば疑える人物でした。
また、動機の点で疑問に思った部分がありましたが、やや弱いかなという気がしないでもないですね。まあしかし、これだけの傑作の前では些事と言わざるを得ません。


No.777 5点 死者に捧げるプロ野球
吉村達也
(2017/09/08 22:32登録)
のちに文庫化された際に『「巨人-阪神」殺人事件』と改題された実験的な作品です。アイディアマンの吉村氏はこれくらいのことは朝飯前だったんでしょうね。まず、作者はこの小説を一般的な読者が大体2時間30分前後で読み終わると想定し、物語全体がそれと同じ時間で推移し、ちょうど2時間30分でストーリー全体が完結するように描かれています。ですので、読者にそれくらいの時間で読了できるように、あらかじめ時間を取って読み終わることを作者は最初に勧告しています。それを読んだ読者は嫌でも挑戦するように仕向けられるという仕組みです。
時は1992年5月20日、物語の舞台は東京ドーム、まさに巨人対阪神の試合が行われている最中に事件は起きます。殺人が起こった場所は地下駐車場で、勿論メインはそちらの殺人事件なのですが、試合の実況が要所要所で差し込まれます。一見無関係に思える試合が、事件を解決する上での重要なポイントとなっていますので、要注意です。
実際事件のあらましは特筆すべき点はあまりなく、トリックも驚くようなものではありません。しかし、一気に読ませる文章力はさすがに読みやすさでは定評のある吉村氏です。こんな私でも一所懸命読んで2時間45分ほどで読み終えることができました。
ちなみにこの日の先発は巨人が桑田、阪神が湯舟でした。オールドファンには懐かしい名前ではないでしょうか。当然他にも有名どころの名前が続々登場しますので、プロ野球ファンにとっても楽しい一作だと思います。

今さらですが、吉村達也氏のご冥福を心よりお祈りいたします。


No.776 5点 きよしこ
重松清
(2017/09/07 22:30登録)
主人公の少年きよしはカ行とタ行から始まる言葉が上手く出てきません。つまり吃音、昔で言う「どもり」のことです。彼は父親の仕事の関係で、全国各地を引っ越しで転々とします。名前がきから始まるため、自己紹介さえ思うように出来なくて、読んでいる身としては結構切ないものがあります。ですが、落ち込んだり、時に暴れたりしますが悲壮感はありません。彼が常に前向きな気持ちを持った、ごく普通の少年だからです。言葉に詰まる時は反省もしますし、周りの人達と何とかコミュニケーションを取ろうとしたりもします。
実は作者自身も幼少時代、吃音に悩まされており、当時の辛かったり悲しかったりした思い出をこの小説に投影しているようです。
きよしはいじめられたりしていたわけではありませんが、言葉が詰まることでからかわれたり、笑われたりして、孤独な少年ではありました。そんなハンディを背負った彼は年上の女性に上手く言葉が出てこない時に助けられたり、吃音矯正プログラムに通ったりしながら着実に成長していきます。ですが、作者は決して主人公に肩入れしたりはせず、付かず離れず一つひとつのエピソードを紡いでいきます。あまり感情移入は出来ませんが、程よい距離感を持って描かれるため、読み心地は悪くありません。
タイトルの『きよしこ』ですが、「きよし、この夜」を「きよしこの、夜」と勘違いしていて、きよしこという架空の友達がいつか訪ねてきてくれると信じていたことから付けられました。


No.775 6点 本棚探偵の冒険
喜国雅彦
(2017/09/05 22:49登録)
エッセイ集、本棚探偵シリーズの記念すべき第一巻です。
『冒険』とうたっているだけあって、それにふさわしい内容となっています。例えば「ポケミスマラソン」。ハヤカワ・ポケット・ミステリを古書店を廻って、一日に何冊見つけられるかに挑戦するという、真に馬鹿馬鹿しい企画だが、その疾走感と奇跡的なオチは楽しい以外の感想が思い浮かびません。他にも「小説『兄嫁の寝室』」など、実に怪しげなタイトルのものなど様々なエッセイの域を超えたエッセイのラインナップが楽しめます。
さらには、京極夏彦、二階堂黎人、山口雅也、我孫子武丸、北村薫らが登場し、それぞれの人間性を発揮しております。口絵で描かれた彼らは本物そっくりで笑えます。これは面白くないわけがありません。みなさん古本が大好きなんですね、喜国氏だけでなくミステリ作家の本に対する狂おしいまでの偏愛ぶりが垣間見えます。
本来第二巻『回想』第三巻『生還』が間に挟まっているんですが、これらは現在入手困難な状態です。勿論古本なら手に入りますが、私は彼らのような「古本者」ではありませんので、残念ながらそこまでしてそれらを読もうとは、今のところ思っていません。悪しからず。


No.774 6点 地獄の道化師
江戸川乱歩
(2017/09/03 22:28登録)
小学生の時に「少年探偵団シリーズ」の一作として読みましたが、非常に感動しました。一応図書室にあったものは全巻読破していますが本作がシリーズ中では最高傑作だと思いました。しかし何せ小学生でしたから、顔のない死体などには全く慣れておらず(多分初めての体験だったと思いますが)、意外な犯人という観点からも一読者としてまだまだ未熟でした。
当然大人になってからあらすじなどほぼ忘れてしまっていましたので再読してみましたが、乱歩としては本格ミステリの色合いが濃いとは言え、分かりやすい犯人像や比較的すんなりとしたプロットに違和感を覚えました。「あれ?こんなんだったっけ」みたいな感覚でしたね。つまり拍子抜けですか。やはりミステリばかり読みすぎて免疫ができてしまったせいか、この程度では驚きや感銘を受けないような体質になっていたんですね。
子供の頃の感動は薄れ、擦れた一ミステリファンとしての私が、この作品を素晴らしいと絶賛することを許しませんでした。さすがに読まなければよかったとは思いませんでしたが、夢のような体験が苦い思い出に変わるのをどうしても避けることができないという、辛い経験をしました。


No.773 4点 人生相談。
真梨幸子
(2017/09/01 22:18登録)
目次を見てみると「居候している女性が出て行ってくれません」「大金を拾いました。どうしたらいいでしょうか」とか、中には「西城秀樹が好きでたまりません」などふざけたタイトルが並んでいます。これらは要するにある新聞に投稿された人生相談の内容を表したものです。9タイトルありますが、作者の目論見としてはこれらを短編扱いとし、最終的には一気にひとまとめに収束させるというもののようです。
狙いは分からないでもないですが、とにかく登場人物が多すぎるし、その上人間関係が複雑に絡み合っているため、一読しただけでは全てに理解が及びません。読者は必ずやカオスの渦に放り込まれることでしょう。だからといって二度読みするほど面白くもなく、なんともツマラナイ小説に仕上がってしまっています。確かに私の読解力は人並み以下ですので、一概にこれを非難するわけにはいきませんが、もう少しわかりやすく人間関係を整理してもらうことはできなかったものかと思います。
殺人も起きたのか起きてないのか判然とせず、大筋は飲み込めたものの、はっきり言って何がどうなっているのか最後までよく分かりませんでした。Amazonでは意外と高評価を与えている方もおられ、この小説をよく細部まで理解できるものだと感心せざるを得ないという感想しか思い浮かびません。
まあしかし、これだけの複雑な事件やらなんやらを考え付くのも一つの才能なのは間違いないでしょう。個人的には低評価ですが、読む人が読めばちゃんとした評価が得られるのかもしれませんね。


No.772 6点 どんどん橋、落ちた
綾辻行人
(2017/08/31 22:28登録)
さすがに叙述トリックの名人、綾辻行人。どれもこれも奇想天外な叙述に特化した短編ですね。しかしおふざけが過ぎたせいか、評価が割れているのも納得ではあります。
人が必死に犯人探しに夢中になっているのに、それを足蹴にするようなトンデモトリックには腹を立てる読者も少なくないでしょう。しかしよくよく読んでみれば、決してアンフェアとは言えず、正々堂々とある意味くだらないトリックを仕掛けている辺りは、さすが新本格の旗手と言えると思います(皮肉です)。
表題作は島田荘司編集のアンソロジー『奇想の復活』で読んだんですよ。ですから誰よりも早く読んだのが自慢ではあります。その際このトリックには驚いたと同時に腹立たしさも覚えました。他の真面目な本格ミステリを尻目に、一人異次元の世界で遊んでいるような感覚で、らしくないなと感じました。これが綾辻渾身の一作だったとは・・・残念な気持ちでいっぱいになりましたよ。そんな遊び心に溢れた人だったとは意外でした。
なんだかんだ言っても、結局この短編集のレベルは低いとはいえず、作者の名前と内容のギャップに不評を買っているに過ぎない、不遇な作品集なのではないでしょうか。


No.771 7点 本棚探偵 最後の挨拶
喜国雅彦
(2017/08/28 22:03登録)
第六十八回日本推理作家協会賞〈評論その他の部門〉受賞作。喜国雅彦とは漫画家であります。しかしその名前は、ミステリファンにとっては馴染みの深いものだと思います。どこかで見たことあるという人は少ないくないはずです。そんな彼が自らを本棚探偵或いは古本者と名乗り、探偵小説にまつわる様々な事柄に挑戦していく様を熱く語ったエッセイが本書です。
例えば少年探偵団の小林少年の「書遁の術」を真似て、香山滋全集の背表紙などを複製し、それを隠れ蓑にして本棚の中に忍び込んでみたり、玄人並みの手際で私家版『暗黒館の殺人』を作成したり。
それらの過程を一々カメラに収め、写真や口絵を掲載しています。まあ興味のない人にとっては、「それがどうした」ってことになるんですが、これがまた実に読ませる文章で綴っていますので、飽きが来ることはありません。中でも最後の『黒函紙魚の会』はプロの作家並みの短編ミステリに仕上がっており、感心することしきりでした。推理作家協会賞受賞は伊達ではなかったようです。
柄にもなくエッセイなど読んでみましたが、意外な面白さに舌を巻くと同時に、喜国氏のチャレンジ精神や行動力が羨ましくなった私なのでした。


No.770 5点 妖鳥
山田正紀
(2017/08/27 22:15登録)
妖鳥=ハルピュイアとは頭部から胸にかけてが女性で、下半身及び翼はハゲタカという、ギリシャ神話に登場する伝説の生物です。
雰囲気としては一歩間違えば『姑獲鳥の夏』に近いですが、勿論作品の出来としては遠く及びませんね。ただ、読んでいて酩酊感を味わえることは確かです。かなりの大作ですが、山田正紀らしく輪郭がぼやけた感じは否めません。舞台は聖バード病院で、アルバイトで勤務する医師、篠塚の視点から始まり、以降刈谷刑事と記憶を失いどこかに閉じ込められた「わたし」の二つの視点で物語は進行します。
ミステリ的には冒頭の、外側から目張りされた無菌室で意識不明の患者が絞殺されていたという謎にプラスして、何故死期が近い患者が殺されたのかという謎のハウダニット、ホワイダニットが提示されます。さらには篠塚が何者かに襲われ窓から落下しますが、なぜか落下する地点が数十メートル移動していたという謎が。捻りはないですが、それなりに納得のいく真相でなるほどとなります。
それにしても、牛乳を水で薄めてどんな味がするのでしょうか。「わたし」の精神状態がかなり危ないです。


No.769 8点 斜め屋敷の犯罪
島田荘司
(2017/08/26 22:11登録)
プロの作家のみなさんにはとても受けが良いらしく、綾辻行人氏などは『占星術殺人事件』よりも本作のほうが好みに合っているとし、高評価を与えている本作。しかし、私的にはなかなかに評価が難しいのです。決してバカミスとは思いませんが、例のトリックはやはり賛否両論あろうかというのは理解できる気がします。確かに大トリックには違いないと思いますが、個人的には『占星術殺人事件』には遠く及ばないんですよね。
しかし、最もエキセントリックな御手洗が読めるのは本作ではないかと感じます。人の誕生日は覚えるのに、人の名前は間違える、しかも何度も間違えて呼んでも訂正しようとしない。この性質はこれ以降なりを潜めるので、変人・御手洗潔が最も顕著に表に現れる作品とも言えるでしょう。
私が一番気になるのは、なぜわざわざ斜め屋敷のような建物にしたのかという点です。別に普通の建築物でもトリックには差し支えないわけですし。まあそのほうが雰囲気は出ますし、私の読み違いかもしれませんけどカムフラージュですかね。その辺りうろ覚えな部分がありますので、大目に見ていただきたいと思います。


No.768 6点 大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう
山本巧次
(2017/08/25 22:03登録)
江戸時代の事件の証拠物件を現代の先端技術で解析するというアイディアは、なかなか面白いと思います。しかし、事件そのものがあまり魅力的ではなく、殺人事件もおまけ程度で、軽んじられているところも食い足りなかったりします。
さらには、謎解き要素が少なく本格ミステリというより、主人公おゆうの冒険譚という意味合いが強いので、本格志向の読者にはかなり物足りないかもしれません。フーダニットもハウダニットもホワイダニットも、いずれも科学捜査によりすぐに解決してしまい、推理が入り込む余地はほとんどありません。その辺りがやや拍子抜けでした、残念ながら。
どんでん返しにはちょっと驚きましたが、何よりラストの落としどころが、もし正解があるとすれば、大正解だったと思いますね。見事に着地が決まりました。
全体として面白かったとは言い難いですが、後半は新人にしてはよく描けていたと思います。シリーズ化されるのも無理からぬことだと、そこは納得ですかね。


No.767 6点 魔神の遊戯
島田荘司
(2017/08/23 22:20登録)
本作は御手洗潔シリーズにおける、最も異色な作品だと私は思います。理由はあとで述べます。
舞台はネス湖畔の小さな村。旧約聖書に擬えられた、魔神の仕業としか考えられないような連続バラバラ殺人事件。人間業と思えない凄まじい力で引きちぎられた猟奇的な死体。まさに島田ワールド全開な様相を呈しており、いかにもならしさは作品の出来不出来に関わらず、読む者を引きずり込まずにはいられないでしょう。しかし、どこか違和感が・・・この違和感の正体を見破れれば本作に施された仕掛けは意外と簡単に解ってしまいそうです。
他の方も書かれていますが、死体にかけられた無理な力のトリックはあまり感心しませんね。まあ島荘らしいと言えばらしいのですが。


【ネタバレ】


島荘は○○トリックは使用しないという先入観を利用したことが、先に述べた異色作と言うことになりはしないかと思います。
よく注意して読めば、このミタライはややおとなし過ぎるし、特有のアクの強さがあまり感じられません。そういった違和感に疑問を感じれば、仕掛けられたメイントリックには気付きやすいでしょう。
私は勿論騙されましたけれど。


No.766 5点 御手洗潔のメロディ
島田荘司
(2017/08/21 22:12登録)
再読です。
第一話『IgE』は超人御手洗潔の天才ぶりを遺憾なく発揮した本格ミステリです。二人の依頼人の一見全く関係なさそうな依頼をかなり無理やりっぽく繋げ、一つのストーリーを築き上げてしまう御手洗の頭脳に只々ひれ伏すだけです。しかし、四つの短編の中では最も評価されてしかるべき作品ですね。この頃はまだ花粉症の効果的な市販薬がなかった時代なのでしょう。
『SIVAD SELIM』はミステリではありませんが、なかなか好感の持てる逸品です。外国人高校生の身障者のためのコンサートにぜひ御手洗を招いて演奏をしてもらいたいとの依頼を断る御手洗。石岡の必死の頼みにもどうしても首を縦に振らない。仕方なしに石岡一人で審査員を引き受けることに。石岡君の天然ぶりに読んでいるこちらも観客同様大爆笑となります。
『ボストン幽霊絵画事件』はまあそれなりって感じですか。御手洗シリーズは三人称よりも石岡君の一人称の文章に限りますね。この作品に関しては、舞台が外国というだけで身構えてしまい、あまり面白さがストレートに伝わってきませんでした。出来自体もイマイチな感じがします。
最後の『さらば遠い輝き』はレオナの御手洗に対する想いが、一方通行にせよまあその熱量が伝わってきます。しかし、レオナ・ファンでなければ取るに足らない作品かと思われます。
第一話、第二話はまずまずですが、それ以外はどちらかと言うと凡作の部類に入るんじゃないでしょうか。


No.765 6点 黒龍荘の惨劇
岡田秀文
(2017/08/11 22:07登録)
この手の作品は昔で言えば横溝正史、今なら三津田信三が代表格でしょうが、彼らに挑戦するようにわらべ歌に見立てた首なし死体が次々に現れます。ただ、おどろおどろしい雰囲気はあまりなく、淡々と描かれます。そのため、強烈なインパクトに欠けると言いますか、とんでもない大事件なのになんだか登場人物も命が狙われている切迫感が感じられません。これには理由がありますが、敢えて書きません。
事件はページ数が残り僅かになってもまるで解決しそうになく、伊藤博文が長広舌を披露したりして大丈夫か?と思わせますが、柱となる大きなトリックが謎の大部分を支えているため、いくつ謎が積み上げられていても芋づる式に解決します。
しかし、私的にはあっと驚くようなトリックとは思えず、何と言いますか、裏技的な印象ですかね。あまり現実的なものとも言えないと思います。少なくとも大きなカタルシスを得られるようなものではありませんでした。
わざわざ時代設定を明治時代にしたのも、現代では通用しないトリックであり、その点において残念ながら高評価とならないのではないかと。そう思います。
探偵の月輪はあまり名探偵らしくない言動で、目立ちませんね。もう少し個性的に描いてあげたほうが、それだけでも評価が高まった気がします。


No.764 6点 T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか
詠坂雄二
(2017/08/06 22:29登録)
実に惜しいと思います。あとわずかで傑作になり損ねた残念な作品といった感じがします。それはサブタイトル通り、奇数章で描かれる、孤島でホラー映画のロケハンを行ったすべてのスタッフが死亡していく様がかなり退屈だからです。特に記号化された登場人物たちが見事に無個性で、単にセリフを喋って行動して死んでいくのを淡々と描いていますが、ある意味ドキュメンタリータッチで、何の面白みもなく延々読まされては、正直苦痛さえ感じてしまうというものです。
この事件は大部分がカメラにおさめられているのですが、警察も犯人追及を放棄したように、それぞれの事件が事故なのか自殺なのか殺人なのか判然としません。結局は『そして誰もいなくなった』へのオマージュなのか、それとも何か斬新な仕掛けが施してあるのか、それすらも最後まで五里霧中という仕組みです。
偶数章で探偵社に勤める探偵たちがああでもないこうでもないと推理を戦わせますが、それすらもなぜかもどかしく感じられて仕方ありません。名探偵の月島凪の不在が痛いです。


【ネタバレ】

最初の三件が殺人、殺人、自殺でここまではいいです。しかしその後は期せずして起こった事故、殺人、自殺というのがどうにも釈然としません。これらは「呪い」として片づけられますが、真相として納得がいかないというか、偶然に過ぎるきらいがありますね。
最終章ですべてがひっくり返りますが、なんとなくすっきりしません。ここでもっと驚愕の事実が明らかになっていれば、それまでの低迷ぶりをすべて吹き飛ばせたのにと思うと残念です。ただ、この章の存在感は個人的には好みです、いかにも捻くれた作者らしいと思います。


No.763 7点 アンデッドガール・マーダーファルス1
青崎有吾
(2017/08/02 22:24登録)
「怪物」が跋扈するパラレルなヨーロッパを舞台にした、本格謎解きミステリ+アクション娯楽小説、ですかね。
実に面白く楽しいです。かなり風変わりな探偵と「鳥籠使い」の探偵助手、そしてメイドの静句。三人の個性的な登場人物のやり取りだけでも楽しめます。その他にも灰色の脳細胞の小男の警部や、名前だけですがルールタビーユも出てきます。その辺り、ミステリファンの遊び心をくすぐる技に長けているとも言えそうです。
第一章は吸血鬼が主役です。特殊な舞台設定を存分に生かしたトリックや謎解きは、さすがに作者らしく、端正で過不足のないものとの印象を受けます。そして真相が判明した後のアクションシーンも、おまけとして十分すぎるくらいなサービス精神でもって描かれています。
第二章は人造人間がメインテーマです。ダミーの解決編も悪くないですが、真相は解りやすく、多くの読者の予想通りでしょう。ですが、その見せ方が堂に入っているので、「分かってるからとっととやってくれ」とはならないと思います。そしてまたしてもアクションシーン。やや長いですが、それなりに読み応えはあります。
続編は評価が低いようですが、どうしますかね・・・。

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