home

ミステリの祭典

login
本棚探偵 最後の挨拶
本棚探偵シリーズ

作家 喜国雅彦
出版日2014年04月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 Tetchy
(2017/11/26 11:59登録)
今回も本に纏わるおかしな面々のおかしな話や、喜国氏の本に対する至上愛が語られている。
恒例となった製本では3回に分けて私家版の『暗黒館の殺人』上中下巻+別冊の制作過程が書かれているし、本棚探偵の本分(?)である他人の本棚の整理についてはまたもや狂気の収集家日下三蔵氏の蔵書整理の模様がこれまた3回に分けて語られる(それほどまでに費やしながら、一向に片付かない日下邸。家人の苦労が偲ばれる。特に驚いたのが蔵書の山に埋もれて見れなくなったテレビがアナログ放送の物だったこと)。

とこのように古書やミステリに纏わる面白エピソードやおふざけが今回も収められているが、今までと異なるのは喜国氏が古書収集に幕を引き始めたところにある。トランク1つに収まるまで本を整理したいとその選出を試みてもいる。喜国氏もなんと59歳。会社勤めをしていれば来年には定年という年齢だ。そして知人の中にも死を迎える人たちが出てくる年齢でもあり、実際彼の後輩の訃報が本書に触れられている。そんな彼に老眼という転機が訪れ、本を整理するようになったり、また一箱古本市に出品したり、古本仲間が神保町に出店したり、と自分の蔵書を減らす方向にベクトルが向いているところが今まで違うところだ。
これは恐らく収集家の行き着く先ではないだろうか。とにかく若い頃には知識欲と収集欲に駆られ、自分の蔵書を増やすことに腐心していたが、老境に差し掛かると、これらを整理し、むしろ自分で持っておくよりも次の世代に引き継ごうという心持になってくるようだ。
また最後から二番目のエピソードに収録されている「12歳のハローワーク」には自身が自称する本棚探偵の職業について触れられている。これは次世代にこの本棚探偵と云う職業を引き継ごうという意思の表れなのだろうか。

そんな感じで収集人生を畳み掛けているかのように読める本書はタイトルに冠せられている通り、これは本棚探偵最後の1冊になるのだろうか?作者も一区切りになるとあとがきで書いている。
だがそうではないだろう。拘りの喜国氏ならばシャーロック・ホームズの短編集のタイトルに則って『~事件簿』までは書くだろうと確信している。従って有終の美という言葉は私は使わない。日本推理作家協会賞を受賞したからと云って勝ち逃げするのは性に合わないでしょう。

本当のさよならはその時にとっておこう。次も書きますよね、喜国さん?


No.1 7点 メルカトル
(2017/08/28 22:03登録)
第六十八回日本推理作家協会賞〈評論その他の部門〉受賞作。喜国雅彦とは漫画家であります。しかしその名前は、ミステリファンにとっては馴染みの深いものだと思います。どこかで見たことあるという人は少ないくないはずです。そんな彼が自らを本棚探偵或いは古本者と名乗り、探偵小説にまつわる様々な事柄に挑戦していく様を熱く語ったエッセイが本書です。
例えば少年探偵団の小林少年の「書遁の術」を真似て、香山滋全集の背表紙などを複製し、それを隠れ蓑にして本棚の中に忍び込んでみたり、玄人並みの手際で私家版『暗黒館の殺人』を作成したり。
それらの過程を一々カメラに収め、写真や口絵を掲載しています。まあ興味のない人にとっては、「それがどうした」ってことになるんですが、これがまた実に読ませる文章で綴っていますので、飽きが来ることはありません。中でも最後の『黒函紙魚の会』はプロの作家並みの短編ミステリに仕上がっており、感心することしきりでした。推理作家協会賞受賞は伊達ではなかったようです。
柄にもなくエッセイなど読んでみましたが、意外な面白さに舌を巻くと同時に、喜国氏のチャレンジ精神や行動力が羨ましくなった私なのでした。

2レコード表示中です 書評