home

ミステリの祭典

login
メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1075 6点 白銀荘の殺人鬼
愛川晶
(2020/02/25 22:25登録)
スキー客で賑わうペンション「白銀荘」。そこに血腥い殺人鬼の匂いを纏った客が紛れ込んだ。多重人格症に悩む彼女は、ある目的を果たすため、連続殺人をもくろんでいた。おりしも、豪雪により白銀荘は外界と遮断された密室状態に!そして、相次ぐ殺人―。さらなる悪夢が。今、血の惨劇の幕が開く!本格推理の鬼才二人によるサイコ・ミステリーの傑作、登場。
『BOOK』データベースより。

所謂吹雪の山荘もの。殺人鬼は多重人格者の中の一人「あたし」ですが、これが何とも軽薄でいい加減。多数の人間を葬り去ったというのに緊張感に欠け、綿密な殺人計画に則った行動とはかけ離れています。最後までこの調子だと嫌だなと思いながら読み進めましたが、流石にそんな事はありませんでした。上手く多重人格を利用したトリックはお見事で、読者の多くが予想もしない展開に唖然とさせられると思います。ネタバレになるのであまり詳細は書けませんが、面白く読みました。

愛川晶のサイコサスペンス的要素と、二階堂黎人の捻りの効いた裏技的仕掛けが上手く融合している感じがします。でも、事件後警察が本気を出せば真相は割と呆気なく暴けたのではないかという気もしますけど・・・。
一読の価値はアリとしておきましょうか。


No.1074 6点 “文学少女”と繋がれた愚者(フール)
野村美月
(2020/02/23 22:06登録)
「ああっ、この本ページが足りないわ!」ある日遠子が図書館から借りてきた本は、切り裂かれ、ページが欠けていた―。物語を食べちゃうくらい深く愛する“文学少女”が、これに黙っているわけもない。暴走する遠子に巻き込まれた挙句、何故か文化祭で劇までやるハメになる心葉と級友の芥川だったが…。垣間見たクラスメイトの心の闇。追いつめられ募る狂気。過去に縛られ立ちすくむ魂を、“文学少女”は解き放てるのか―?大好評シリーズ第3弾。
『BOOK』データベースより。

今回は武者小路実篤の『友情』がモチーフ。『友情』を題材に遠子先輩が、心葉のクラスメイトの芥川くんや琴吹さん、一年生の竹田さんらと文化祭で劇を披露するまでの、あれやこれやの物語。
それにしても昼ドラばりのドロドロした男女の愛憎劇が、青春ミステリらしからぬ凄さを見せつけています。それでいて最後には爽やかな一陣の風の様な雰囲気で終えるのは、本シリーズの良さではあると思います。しかし、心葉の抗いがたい過去の疵に芥川君が絡んできて、これからどうなるんだと先行きが気になるところでエンディングとは心憎いですね。おそらくこの事件の顛末は最終巻まで引っ張られる事になるのでしょう、まあそれも一つの趣向として割り切るしかないのだと思います。

本作ではミステリ的要素がやや薄いのと、麻貴先輩の出番が少なかったのが少しだけ不満でした。しかし、芥川君から目が離せなくなりそうです。彼がこれほど重要な役どころを担うことになろうとは思いませんでした。本シリーズまだまだ楽しませて貰えそうです。


No.1073 6点 0番目の事件簿
アンソロジー(出版社編)
(2020/02/21 22:41登録)
人気作家のアマチュア時代作品を無修正で大公開!作家志望者、ミステリファン必読の“前代未聞”本。
『BOOK』データベースより。

収録順に有栖川有栖『蒼ざめた星』、法月綸太郎『殺人パントマイム』、霧舎巧『都築道夫を読んだ男』、安孫子武丸『フィギア・フォー』、霞流一『ゴルゴダの密室』、高田崇史『パカスヴィル家の犬』、西澤保彦『虫とり』、初野晴『14』、村崎友『富望荘で人が死ぬのだ』、汀こるもの『Judgement』、綾辻行人『遠すぎる風景』。

一様に皆さんがあとがき解説で書かれているのは、赤面するとか恥晒しとかです。しかしながら、満更でもなさそうな様子が伺えるのは微笑ましいところですね。
『人形館の殺人』の原型である『遠すぎる風景』は別格として、意外と霞流一の短い中によく詰め込んだ密室トリックが面白っかったです。あとは初野晴が本格ではないけれど、とても印象深くラストの捻りも好感が持てました。有栖川有栖や安孫子武丸辺りはらしさがよく出ていると思います。
汀こるものはちょっと訳が分かりませんでしたし、西澤保彦に至っては最初から最後までほぼ理解不能でしたね。しかし総合して及第点ではないかと思います。ただやはり、若書きとか粗削りな感は否めませんね。


No.1072 1点 セイギのチカラ アングラサイトに潜入せよ!
上村佑
(2020/02/19 22:40登録)
しょぼ~い超能力者たちが大活躍する、「セイギのチカラ」シリーズ第三弾!今度の主役は天才プログラマー・水野と、美少女イタコ・有江。互いのチカラが重なり合ったことが原因で、プログラムの世界に放り込まれてしまった二人。戸惑いつつも、問題サイトを摘発しようとするうちに、巨大な闇組織の陰謀に近付いてしまい…。いつものヘンテコ超能力者たちも登場する、ドタバタストーリーから目が離せません。
『BOOK』データベースより。

断言します、これは駄作です。シリーズ一作目のあの感動を返してほしいです。一体どうしてしまったのでしょうか。もうね、読んだ事を無しにしたい、記憶から消したいですよ。読むべきではなかったと今さらながら後悔しています。一作目の後即続編を購読しなかった、過去の自分の判断は正しかったと言えましょう。

中身はペラペラです。あれ程ユニークで魅力的だったキャラたちも、何だか平板にしか描かれていませんし、ストーリーも足早過ぎてほとんど頭の中を素通り。話に付いて行けません。一作目ではそのスピード感が逆に良い方向に出ていましたが、こちらは駄目です。
面白いとか以前の問題。小説として余りにも出来が悪すぎですね。110円でも高すぎた位で、速攻でブックオフ行きです。読む時間は僅かで済んだので、それだけが救いでしょうか。


No.1071 5点 さよならのためだけに
我孫子武丸
(2020/02/17 22:12登録)
「だめだ、別れよう」「明日必ずね」ハネムーンから戻った夜、水元と妻の月はたちまち離婚を決めた。しかし、少子晩婚化に悩む先進諸国は結婚仲介業PM社を国策事業化していた。PMの画期的相性判定で結ばれた男女に、離婚はありえない。巨大な敵の執拗な妨害に対し、二人はついに“別れるための共闘”をするはめに―。孤立無援の闘いの行方、そしてPMの恐るべき真の目的とは。
『BOOK』データベースより。

どうにも平凡な作品という印象しかないですね。もっと物語にメリハリを付けて欲しかったところです。
大体、短期間で結婚を決めた相手に対して、結婚式を終えた後速攻で離婚を決意する月の思考回路が理解できません。何故もっと時間を掛けて熟考しなかったのか、いくら仲介会社の判定が特Aだからといって、慌てる必要はなかったはず。
それに些細な事かも知れませんが、水元が自分の勤める会社のキーパーソンである重役を知らなかったのも解せません。その重役が登場してからの展開はちょっと面白かったですけど。

人間はよく描けています。男女二人の一人称が交互に並ぶ構成で、その都度その都度の二人の心理状態は賛同はできなくとも分からないでもないですね。脇を固める二人は軽すぎます。こうも簡単に男や女を乗り換えられるものか、惚れっぽいのか分かりませんが。いずれにせよ、どの人物にも感情移入できず、十分楽しめたとは言い難かったと思います。ジャンルは敢えて分類すればSFのようなファンタジーのようなものですが、実はどちらでもないと云うのが正解かも知れません。


No.1070 4点 弟切草
長坂秀佳
(2020/02/15 22:45登録)
弟切草…その花言葉は『復讐』。ゲームデザイナーの公平は、恋人奈美とのドライブで山中、事故に遭う。二人がやっとたどり着いたのは、弟切草が咲き乱れる洋館だった。「まるで俺が創ったゲームそのものだ!」愕然とする公平。そして、それは惨劇の幕開けだった…。PlayStation版話題のゲームを乱歩賞作家の原作者がオリジナル小説化。
『BOOK』データベースより。

序盤で紹介される主役の二人の過去に問題あり過ぎ。なので、それがどう物語に影響を及ぼすのかに興味が湧いてくるのは確かです。やはりと言うべきか当然と言うべきか、それが数々の怪異の謎を解くカギになっていますね。
二人が迷って辿り着いた館に足を踏み入れて以降、終盤に至るまではゲーム感覚と言うよりお化け屋敷に入ってキャーキャー騒いでいるようなものです。現象だけ見れば小谷里歩(三秋里歩)でなくても腰を抜かすほど悍ましいですが、全然怖くないのは文章が下手なせいでしょうかね。一時的に危機を脱してもまだまだ命が危険に晒される場面で、一々キスをするってあり得ないと思いますが。

最終章でミステリ的趣向に突入しますが、最早どうでも良くなっている自分がいました。謎解きは専らそれぞれの過去の過ちに終始し、●●トリックに逃げている感があり、あまり好ましいものではありませんでした。まあこれを読んで喜ぶのは余程プレステのゲームにハマった人だけじゃないですか。ご都合主義や偶然性が色濃く見られるし、人間関係が無駄に複雑すぎと云う気もします。
作者によれば飽くまでオリジナルとの事ですが、小説としてホラーとして褒められるべき作品ではないと思いますね。


No.1069 7点 猫物語(白)
西尾維新
(2020/02/13 22:45登録)
“何でもは知らないけれど、阿良々木くんのことは知っていた。”完全無欠の委員長、羽川翼は二学期の初日、一頭の虎に睨まれた―。それは空しい独白で、届く宛のない告白…「物語」シリーズは今、予測不能の新章に突入する。
『BOOK』データベースより。

何よりこれまで阿良々木暦の一人称だったのが、委員長羽川翼の一人称になったのに新鮮さを感じます。更に正直あまり掴み所のなかった戦場ヶ原が人間臭くて、これまた個人的に嬉しい誤算ではありました。しかもいいままで出番のなかった阿良々木家の父母が出ているではありませんか。チョイ役ではありますが、阿良々木母の台詞には痺れました。
結局何がしたかったのかがはっきりしているのに好感が持てます。それは愛、家族間の愛、兄弟愛、男女の愛なんだと思います。今回虎の怪異が主となっており、猫対虎の図式が描かれますが、その裏には羽川の生々しい感情が隠されていて、それが前述の愛に繋がります。

阿良々木暦は取り込み中で、ほぼ出てきません。それと主要キャラの神原、真宵、仙石も。代わりにファイヤー・シスターズ、戦場ヶ原ひたぎ、忍がそれぞれいい味を出しています。いやしかし、<物語>シリーズ七冊読みましたが、初めて阿良々木暦がカッコ良いと思いましたね。安定して面白い本シリーズですが、本作が最も私の好みに合う作品のような気がしました。


No.1068 5点 時の誘拐
芦辺拓
(2020/02/11 22:15登録)
府知事候補の娘樹里が誘拐された。身代金運搬に指名されたのは全く無関係の青年阿月。だが大阪の都市構造を熟知した犯人の誘導で金を奪われ疑いの目は阿月自身に。彼の汚名をすすぐべく乗り出す素人探偵森江だが、捜査の先には戦後の大阪で起きた怪事件の謎が!?過去と現在が交錯する著者屈指の傑作長編。
『BOOK』データベースより。

相変わらずこの作者の作品は盛り上がらないなあ、と思いました。序盤の身代金運搬方法と強奪の大胆不敵さと綿密さは、当時のハイテクを駆使しており、ううむと唸らされました。そこまでは良かったんですが、いきなり過去の不可解な殺人事件に呑み込まれて、なんだか誘拐事件の影が薄くなってしまったのは惜しい感じがしましたね。
まあどちらの事件に重きを置いているという訳でもないですが、過去の事件についての記述が長いので、誘拐事件はどうなってるんだってなりますよ。そして、全体のボリュームに対して森江の解決編がかなり短く、やや物足りない気もしました。

エピローグはなかなか印象深かったです。でも犯人の決定的証拠が薄いように思います。特に主犯がね。最初からある人物が怪しいと感じていましたが、やはりある役割を果たしていましたね。
プロットと文章がもう少しこなれていれば相当な傑作になったかも知れません。素材は上質だったのに料理の腕が問題だったとしか言えません。


No.1067 6点 フォークの先、希望の後
汀こるもの
(2020/02/09 22:13登録)
政治家の息子が飼う魚の世話で日給五万円、ただし飼い主の少年が現れると誰かが死ぬと噂あり。家庭の事情で高額バイトを探していた女子大生・彼方が屋敷へ向かうと理想の男性・高槻が目の前に…オクテな少女は恋に落ちた!だが戦慄の事件が続発。噂の少年“thanatos666”の呪いはやはり本物だった!?彼方の恋と命の行方は?恋愛&恐怖の“タナトス”最新刊。
『BOOK』データベースより。

タナトスシリーズ第三弾。ストーリーらしいストーリーもなく、事件と言っても変わった魚が盗まれるくらいでさして進展がありません。何だかこう、ミステリのようなものを読まされている感じが犇々とします。でもそこが良くも悪くも本シリーズの特徴と言うべきなのかも知れません。結局は双子の兄美樹が事件に関わり、それを弟の真樹が事件を解説するだけで、誰かが誰かを積極的に殺そうとする訳ではありません。なので本格ミステリと冠するのもおこがましいですが、こういうのが好きな人も結構いるんですよね。魚の蘊蓄にうんざりしながらの双子萌え的な感じで。まあ確かにキャラは良いんですよ、私も嫌いではないですしね。

魚+死神の存在が故に起こってしまう事件+兄弟愛ということになるのでしょう。本作の場合誰も傷つかず元の鞘に収まる、そこが救いと言えば救いですかね。
郭公の托卵は知っていましたが、その先があるのは流石に初耳でしたよ。一つ勉強になりました。尚、タイトルに深い意味はありません。


No.1066 5点 六とん4 一枚のとんかつ
蘇部健一
(2020/02/07 22:27登録)
ある日曜日、六人が殺された。死体は岐阜・明智鉄道の六つの各停車駅の近所で発見され、犯人は電車を利用して犯行に及んだとみられる。最有力の容疑者には犯行時刻に鉄板のアリバイがあり、事件は迷宮入りする―「一枚のとんかつ」。他、全11編を収録。伝説のアホバカミステリが、さらにパワーアップして帰ってきたぞ。
『BOOK』データベースより。

表題作のアリバイ崩しは割と真面な方で、所謂時刻表トリックですが、単純明快で解りやすくまずまずの滑り出しです。『聖職』『犯行の印』『ひとりジェンカ』『修学旅行の悪夢』『翼をください』『追われる男』は最終頁のイラストで結末が分かる仕掛けになっています。これは同作者の『動かぬ証拠』の流れを踏襲するものですね。この中では『聖職』が一番ピンときますが、『追われる男』のラストが判然としません。どういうオチだったのでしょう、今考えてもスッキリしません。因みにこの一篇、主人公の女芸人のモデルはオアシズの光●靖●のようです。
意外と心に残るのはミステリでも何でもない純愛小説の『恋愛小説はお好き?』です。ミステリ作家としては駄目な人ですが、こういった異ジャンルの小説の方が体質に合っているのかも知れません。

蘇部健一はキング・オブ・バカミスの称号を与えられているようですが、本書はバカミスにすらなっていない気がします。でもあまり期待せず読めばそれなりに楽しめるのではないかと思いますよ。ユーモアミステリの一種ですが、笑えないネタが多いですね。


No.1065 7点 もう教祖しかない!
天祢涼
(2020/02/05 22:47登録)
寂れた団地で人々の心の隙間を埋めるように広がる新宗教“ゆかり”。大企業スザクに勤める六三志は、自社の顧客を守るため、教団潰しを命じられた。ところが若き教祖・禅祐は、宗教を用いて金儲けをたくらむ頭脳派。信者の前で正体を暴こうとする六三志の告発をかわしてしまう。教団の存亡を賭け、どちらが住民の支持を得られるのか、激しい心理戦が始まった!気鋭の放つ傑作長編ミステリー。
『BOOK』データベースより。

本格とは言えないですが、一応広義のミステリには含まれるでしょう。
教団側とスザク側の直接対決のシーンは少ないものの、両者の火花散る激突が読んでいてワクワクします。良いですね、気分が高揚してきます。カリスマ性の強い教祖禅祐と、一介のサラリーマンでありながら熱血な面と頭脳明晰な面を持ち合わせる六三志の心理戦。それに加えて、キーパーソンとして禅祐の妹桜子やスザクの会長朱雀慶徳の存在も見逃せません。又敵か味方か分からない橘真理佳も神出鬼没でいい役どころを演じています。その他新たに信者となった高齢者稲葉や若者斎藤、六三志の頼りない上司小山内、部下の松山などキャストは豊富で、それぞれきっちり性格や人となりが描き分けられています。その辺りも高評価に繋がりますね。

この新興宗教対大企業の図式だけでも読み応えがあります。特に最後の勝負の場面はスリルと緊迫感を味わえます、更に当然ミステリ的な仕掛けも施されており、只では済まない結末にも注目したいところです。
おそらく好き嫌いが分かれるタイプの作品だと思いますが、個人的には何故もっと話題にならなかったのか不思議なくらい気に入っています。


No.1064 5点 多重人格探偵サイコ 西園伸二の憂鬱
大塚英志
(2020/02/03 22:25登録)
連続殺人犯の射殺をきっかけに新たに生まれた人格・雨宮一彦。そんな彼に興味を抱いた精神科医・伊園磨知だったが、雨宮とともに何者かに拉致されてしまう。そして雨宮は、犯罪専門の海賊FM局「ラジオ・クライム」のスペシャル・ゲストに。街で次々と発生する童話をモチーフにした犯罪、明らかになるカニバリズム事件の犯人・田辺友代の秘められた過去、覚醒する第四の人格・久保田拓也。彼と伊園磨知の関係とは?六〇〇万部を突破したベストセラーコミックの原作者自身によるノベライゼーション。
『BOOK』データベースより。

間違えて本格で登録しました。ジャンルはサスペンスだと思います。
前作で残った謎である連続殺人鬼、島津寿は何故千鶴子を殺さなかったのかはやはり曖昧なままでした。その事件はもう終わった事として処理されています。まあ前に進むのは良いですが、なんだか消化不良な感じですね。本作は第四の人格が登場しますが、ほんのチョイ役で主に雨宮と西園が前面に出てきます。物語は精神科医津葉蔵により操られた患者四人が童話の見立て通りに事件を起こし、その模様を海賊FM局で実況する流れが中核となっています。短い中にあれもこれもと詰め込み過ぎて、結果どれもさして印象に残らない残念なものになっている気がしますね。

コミックなら確かに面白いのかも知れません。又ノベライズする作家によってはもっと優れた小説になった可能性も捨て切れません。しかし現状はコミックはベストセラーでも小説は駄目なパターンのようです。大して世間に見向きもされず、そのまま静かに記憶の彼方に葬り去られたような作品とでも言うのでしょうか。ブックオフで110円で買われ、読み終わったら又ブックオフに売られるのが定めの様な感じですね。手元に置いておく意味がないとしか思えません。


No.1063 3点 ゴースト≠ノイズ(リダクション)
十市社
(2020/02/01 22:58登録)
高校入学七ヶ月目のある日。些細な失敗のためクラスメイトから疎外され、“幽霊”と呼ばれているぼくは、席替えで初めて存在を意識した同級生にいきなり話しかけられた。「まだ、お礼を言ってもらってない気がする」―やがてぼくらは誰もいない図書室で、言葉を交わすようになる。一方、校舎の周辺では小動物の死骸が続けて発見され…。心を深く揺さぶる青春ミステリの傑作。
『BOOK』データベースより。

欝々とした青春の日々を回りくどい筆致で描かれた青春ミステリ。傑作ではありません。
正直、早く終わらないかなと思いながら読んでいました。まず気に入らないのが文章。比喩が多すぎる点が一つ。そしてやたらと長い文章が散見されるのが二つ目。長すぎず、短すぎずというのが小説の基本中の基本でしょう。長すぎる文章に比喩的表現が絡んで、頭が混乱しそうになりました。過分に読者に対して想像力を課すのはどうかと思いますよ。
そして、人間が描かれていないのも難点ですね。キャラに全く魅力が感じられません。それは作品の性質上仕方ないのかも知れませんが、特にヒロインの高町が掴みどころがなく、どうしても絵が浮かんできませんでした。

本作最大の仕掛けが中盤に施され、読者を翻弄しますが、その必然性が全然ないじゃないですか。しかもいつの間にか用意周到に。いつどこでそんな物を調達できたのか不思議で仕方ありません。私はミステリ小説に於いて騙されるのは大歓迎です。しかしこの作者の手法はあまりにもあくど過ぎると思いますね。ただ欺くためにのみ施されたトリックなど必要ありません。
解説者は本書を絶賛していますが、それには同意しかねます。一体何がしたかったのか意味が解りませんし、トーンが暗くお世辞にも救いがあったとも言えないです。しかも、序盤の最大の謎であった連続小動物殺傷事件がなんとも簡単に流されているのにも不満を覚えました。呆気無さ過ぎて唖然としました。
この作者ははっきり言って小説家には向いていないと思いますね。デビュー以降の活動を見ても大した実績を残せていませんしね。そう云う事ですよ。少し言葉が過ぎました、不快に思われた方には申し訳ありません。


No.1062 8点 medium 霊媒探偵城塚翡翠
相沢沙呼
(2020/01/30 23:01登録)
推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では姿なき連続殺人鬼が人々を脅かしていた。一切の証拠を残さない殺人鬼を追い詰めることができるとすれば、それは翡翠の力のみ。だが、殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた―。
『BOOK』データベースより。

完敗(乾杯)です。これは久しぶりに凄いものを読んでしまった気がします。三冠は伊達ではなく、それまで日常の謎を主に書いてきた作者が初めて真っ向から本格ミステリに挑んだ力作で、もう最高傑作と言っても過言ではないと思います。『マツリカ・マトリョシカ』と並ぶ相沢紗呼の代表作になるのは間違いないでしょう。
途中までは割と普通かなという印象しかありませんでしたが、丁寧に読まないとつい伏線を見逃してしまいます。まさに伏線だらけ、後から思えば、ですけどね。


【ネタバレ】


これから先は、既読の方か終生本作を読まないと自分に誓える方のみ読んでください。読む予定の人、読むかも知れない人は絶対スルーしてください。後悔しても責任は負いかねます。


【ネタバレ】の【ネタバレ】


本当に良いんですね?
私は早い段階で作者の目論見を見破りました。と勝手に独り悦に入っていた自分の馬鹿さ加減を呪いたいくらい、愚かさで胸がいっぱいになりましたよ。おそらくそれは作者も織り込み済みであったのだと思います。更にその先に新たな地平線が待ち受けていたとは、予想もしませんでした。まだページ数が残っているが・・・と嫌な予感がしなかった訳ではないですが、それにしてもこれは。最後まで読んでしまった方、まだ大丈夫です。今からでも遅くはありません、本格ミステリ・ファン必読ですよ。


No.1061 6点 インサート・コイン(ズ)
詠坂雄二
(2020/01/30 22:40登録)
スーパーマリオ、ぷよぷよ、スト2、ゼビウス、そしてドラクエ、ビデオゲーム史に燦然と輝く巨大タイトルを、さんざん遊び倒したプレーヤーの視点から描く、まっとうなゲーム小説って、ほんとうは、こういうことだ。ビデオゲームの高度成長期に青春を費消したファミコン世代、必読。シニカルな仮面の奥深く、やわい心を突き刺す傑作。
『BOOK』データベースより。

基本的にゲームは麻雀とパチンコしかしない私でも、それなりに楽しめたので、ゲーマーの方にとっては涙ものでしょう。第一話第二話で日常の謎を扱っており、オッこれはゲームだけじゃないな、ミステリとしても通用するのかと思いましたが、それ以降早くもネタ切れ気味でグダグダな印象。
詠坂雄二は結構ポテンシャルを持った作家と勝手に思っていて、毎回期待しているのですが、なかなか本領を発揮してくれませんね。早く『遠海事件』を超える傑作を書いて欲しいですよ。一応隠れファンなのでどうせなら月島凪を探偵役に据えた本格物を、と思いますね。たまには変化球じゃなく直球勝負で行ってくれ。


No.1060 6点 シャーロック・ホームズたちの冒険
田中啓文
(2020/01/28 22:43登録)
シャーロック・ホームズとアルセーヌ・ルパン―ミステリ史に名を刻む両巨頭の知られざる冒険譚から、赤穂浪士の討ちいりのさなか吉良邸で起こった雪の密室殺人、シャーロキアンのアドルフ・ヒトラーが戦局を左右しかねない事件に挑む狂気の推理劇、小泉八雲が次々と解き明かす“怪談”の真相まで―在非在の著名人たちが名探偵となって競演する、奇想天外な本格ミステリ短編集。
『BOOK』データベースより。

解説では連作短編集とありますが、相互の関連性は全くありません。架空の人物を含めた歴史上の偉人有名人が探偵を務める本格ミステリの作品集となっています。ホームズの第一話はバカミスですし、ルパンはよくあるトリックではありますがちょっと意外でした。しかし、ホームズやルパンにはさして思い入れもないので、悪くはないと思いますが、どちらかと言えば平凡でしょうか。ヒトラーは当時の世相や戦局が背景にあったり、八雲は怪談話を論理的に解決していたりと、一々作風を変えています。全体としてクオリティはそれなりに高いのではないかと。

個人的にはやはり日本人の誰もが慣れ親しんだ赤穂浪士の物語『忠臣蔵の密室』が最も印象的ですね。元々ベースがしっかり出来上がっているので、そこに雪の密室が絡めば面白くない訳がないです。探偵役は果たして誰なのか、勿論映画やドラマ、或いは小説でお馴染みの主要キャストの一人です。そして内蔵助の決断とは?など魅力的なドラマ性たっぷりの逸品で、浅野内匠頭の切腹以後の模様が語られており、時代小説としても違和感は全くありません。ミステリとしては弱いですが、これは好感度が高いですね。

私は本格ミステリ志向が高いと自認していますが、こんな色物的なのを好んで読んでいるのは、実はそうしたどこか「外れた」小説に惹かれる為なのでしょうか。だから誰も読まない、或いは書評数の少ない珍品を読む羽目になるのかも知れません。生まれながらのマイノリティなんですよね。


No.1059 6点 浦賀和宏殺人事件
浦賀和宏
(2020/01/26 22:28登録)
ミステリ作家浦賀和宏は悩んでいた。次作のテーマは「密室」。執筆が難航するなか、浦賀ファンの女子大生が全裸惨殺死体で発見される。彼女が最後に会っていたのは浦賀和宏!?そして…その裏にはもうひとつの事件が?愕然の結末!永遠のテーマ「密室トリック」に挑む講談社ノベルス20周年書き下ろし。
『BOOK』データベースより。

講談社ノベルス20周年記念企画袋綴じ『密室本』の一冊。
密室と言えるのは、ほぼ全編YМO塗れのページ数にして僅か16ページの作中作(真相はかなりショボい)であり、他は浦賀らしさが存分に感じられる本格ミステリです。まさにタイトル通りの内容ではありますが、そこはそれ作者らしく捻くれまくっています。初めてこの作家の作品を読む人は、浦賀和宏ってこんな嫌な奴なのだろうかと、真剣に思い悩むかも知れませんね。それこそが作者の狙いであり、術中に嵌ったってことになります。いずれにしてもファン必読の書であるのは間違いないと思います。

御手洗潔や二階堂蘭子、法月綸太郎、鹿谷門実らを揶揄する場面があったり、自作の名探偵マルコシを出してきたり、まあ色々とやってくれます。メタな要素をも取り入れ、禁断の一発芸を披露するなどサービス満点の内容となっています。
個人的には『密室本』の中では舞城王太郎の『世界は密室でできている。』の次に良く書けている作品だと思います。派手さはないけれど、後からジワジワ来ますね。


No.1058 7点 冷蔵庫より愛をこめて
阿刀田高
(2020/01/24 22:51登録)
事業に失敗して精神病院に逃げこんだ男が退院してみると、妻はいきいきと働いていた。巨額の借金も返済したという。そんなとき、あの男とめぐり合った。あの男は妻の不貞を告げ、一緒に新商売をやろうと誘う。あの男の正体がやがてあばかれ……。ブラック・ユーモアで絶妙に味つけされた、才筆の出世作。
Amazon内容紹介より。

名手がその気になればこれだけの素晴らしい短編を書けるという見本のような作品集。全部で十八篇収められているが、一つもハズレがないのが凄いです。奇妙な味と言えばロアルド・ダールというのが鉄板だそうですが、本作はそれに肩を並べるか或いは凌駕するくらいの出来だと私は思います。いずれも残り数行で暗転したり、床が抜けるような感覚を覚えます。最後の最後までオチが想像できない物も多く、世界が反転する様を存分に味わうことが出来ますね。
似たような話がなく、それぞれ違う世界が広がります。ほぼブラックな味わいで、エッジが効いていたり、ホラーテイストであったり、とにかく印象に残る後味であるのは間違いないと思います。

まあデビュー作にして代表作でしょう。流石に短編の名人と呼ばれるだけのことはあります。多くの読者にお薦めできる作品です。


No.1057 5点 海底密室
三雲岳斗
(2020/01/22 22:39登録)
深海4000メートルに存在する、海底実験施設「バブル」。取材に訪れた鷲見崎遊は、そこで二週間前に、常駐スタッフが不審な死を遂げていたことを知る。自殺としてすでに処理されてしまったひとつの“死”。だが、それはひとつだけでは終わらなかった。連続して発生する怪死事件。完全に密閉された空間の中で、なにが起きているのか。携帯情報デバイスに宿る仮想人格とともに、事件の推理に乗りだす遊だったが…。『M.G.H.』で第1回日本SF新人賞を受賞した新鋭がおくる、本格SFミステリー第二弾。
『BOOK』データベースより。

最終章、つまり解決編7点、それ以外3点で均して5点ですかね。いかにも本格を書き慣れていない作家が書いた本格ミステリって感じがします。
余計な描写が多々見られるし、主人公以外登場人物が十人くらいですが、二人を除いて誰が誰だか判別できないほど。まるで人形に台詞を喋らせている印象で、はっきり言って少々退屈です。密室トリックも禁じ手ですし、素人でも理解できるように図解でもしてくれと思いますね。ただ、真相だけはなかなか良く考えられています。

本格ミステリと言っても、伏線を丹念に張って回収しロジックで解決に導くというものではなく、奇想や意外性を重んじるタイプです。『少女ノイズ』は面白かったんですけどねえ、どうしたんでしょう。構想自体は見るべきものがあったと思いますが、文章に面白味がなかったのと冗長さが致命的でしたね。


No.1056 4点 億千万の人間CMスキャンダル
清涼院流水
(2020/01/20 22:41登録)
それは、わずか十五秒の奇妙な悪夢から始まった。人気TV番組『ゴールデンU』に出ていた、もう一人の自分自身。あの「木村彰一さん」は誰だ?同じ街に住む、同姓同名で同い年のそっくりさん?「違うんだ、あれはおれじゃない!」日本中の注目を一身に浴びる中、彰一は不可解な陰謀から逃れようとするが…。著者渾身の新感覚ミステリ。
『BOOK』データベースより。

要するにもう一人の自分は誰なのか?というのがテーマです。同姓同名、同じ顔の自分だけど、自分のはずがない。木村彰一シリーズ、その裏に隠されているのは陰謀なのかはたまた超自然現象なのか。作者自身は文庫化に当たって、説明がくど過ぎるのとインパクト不足を是正する為、大幅に縮小して加筆修正したそうですが、残念ながらインパクトの大きさは全く感じませんでした。オチが披露された瞬間、はあ?ですね。分かったような分からないような、一瞬の間の後理解できましたが、ここまで盛り上げておいてそれかいと思いましたね。

巻末に特別寄稿として40ページに亘り延々自慢しています、文庫化の狙いはそれだったのかと勘繰りたくなります。己の武勇伝を実在の人物であり親友である(という設定の)木村彰一に語らせ、めっちゃ自画自賛しています。曰く清涼院流水は不世出の作家、眠らない男、アイディアが枯渇することがない、天才、時代の先を幻視しているなどなど。まあここまで自分を褒め称えられる人はそうはいないですね。だから誰も注目しないんじゃないかと思ったりします。ミステリ作家としてはもう終わった人だけど私はまだまだ読みますよ、流水大説を。

1835中の書評を表示しています 761 - 780