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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.240 7点 殺す手紙
ポール・アルテ
(2011/09/16 12:35登録)
前半は謎が重なり合って、推理しようにも何がなんだか全くわかりません。わけがわからないものの、この前半部分のサスペンスは極上の一級品です。サスペンスがいったん収まり一部の謎が種明かしされると、やや平坦に感じるも、後半ではアルテらしいテクニックが冴え渡ります。もちろん最後にはひねりがあり、それが見事に決まります。まさに二転三転です。不可能犯罪がないので本格推理物とは標榜しなかったのかもしれませんが、サスペンスフルな本格派ミステリであることにはちがいありません。
読みやすく相変わらずの短さで、一段組も手伝って、おかげであっという間に読了できました。


No.239 5点 暁の死線
ウィリアム・アイリッシュ
(2011/09/12 13:05登録)
都合のよすぎるところがが大いにひっかかります。そもそも、そこまでして犯人を一定時間内に見つけ出さなければならないのか、という疑問を冒頭でまず抱きました。この必然性が弱すぎます。Tetchyさんが指摘されるような解決方法もありますしね。そんな疑問を抱えてしまうと、最高のサスペンスにも乗り切れません。そんなことを気にしていては、アイリッシュのサスペンスは楽しめないのですがね。
一般的には名作の誉れ高い作品なんですけど、やはり長編ミステリはサスペンスの一点豪華主義では不十分で、物語性を含めて全体のバランスが良くないと傑作にはなり得ないなと感じた作品でした。短編ミステリのように、一点(サスペンス)だけを堪能するつもりで読み進めればよかったのかもしれません。


No.238 6点 サーカス殺人事件
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2011/09/07 09:49登録)
ノベライズ作品。といってもシナリオだけで映像化はされなかったようだ。理由は不明。
ノベライズ・倒叙スタイル物だから深く考えずに読めた。手口はわかっているので、読みどころはコロンボの手口解明のロジックと犯人との対峙場面だ。コロンボが最初に不審に思うきっかけとなった花と犬についてはうまいと思ったが、密室トリック解明のヒントがあまりにも安直だったのには驚いた。こんなに安っぽくていいのかなという気がした。それとも手口がわかっているからこそ、そう感じてしまうのかな。まあ、その後の展開にはほどほどに楽しめた。犯人との心理戦がやや薄めだったのは残念。
サーカス小屋というノスタルジックな香りのする舞台設定や、部下のウィルソンとの迷コンビぶり、被害者の犬との関係など、非ミステリ的にも楽しめる要素があるのは好印象だった。話の背景にはサーカスの身売り、買収、リストラなどがあり、企業社会に置き換えても面白いのではと思った。会社でも「綱渡り」みたいな仕事もするからね(笑)。


No.237 5点 街の灯
北村薫
(2011/09/05 09:48登録)
上流階級のお嬢様&女性運転手のコンビ・シリーズ3編。
このような時代背景、舞台設定であるせいか、時間がゆっくりと流れるような気がして、ほんわかとした気分にさせてくれる。そういうところは好ましい。こんなゆったりとした雰囲気のミステリには、それとは対極的な凄惨で強烈な事件が似合うのだが、残念ながらそういう事件はない。さらに、提示される謎も、その謎解きもパンチ力がなかった。お嬢様・花村英子のそばにいる、運転手のベッキーさんが謎めいていたところが、むしろ楽しめた。
やや期待はずれだったが、ひまつぶしにさらりと読んで、ほっこりとした気分になれたので、それでよかったのかな。


No.236 6点 「巴里の恋人」殺人事件 ワンナイトミステリー
吉村達也
(2011/08/29 10:57登録)
ワンナイトミステリーという十数年ほど前のシリーズです。文庫で130ページ、しかも字が大きめで行間も広いから、短編といってもいいぐらい。さすが吉村氏、いろいろとチャレンジしてくれます。十分に満足しましたが、やはり一編だけでは物足りないかな。

筋がシンプルでわかりやすいわりには、それなりのミステリ要素がうまく盛り込まれてある。登場人物が少なく犯人をたやすく絞り込めるが、捜査の過程や動機、背景などが面白く、けっこう楽しめた。ミステリの作りや犯人像からして、1時間ものの「相棒」を見るような感じだった。
殺人事件の容疑者扱いをされたのが、いつも自分の留守電に自ら伝言を入れ一人二役を演じる地味で寂しいOL。こんなもてない女性の心理がうまく描いてある。「人間嫌い」ではなく「自分嫌い」だったという教訓めいたメッセージも強烈だった。そんな女性の告白により事件の糸口が見えてくる。
その女性に対する聞き込み役が、警察の常識の枠を超えて捜査をする鷲尾警部と、容疑者を出すための捜査しかしない小林警部の二人。この二人の対比も面白い。
それにしても、容疑者扱いをされた女性はほんとうにかわいそうだった。「自分嫌い」を克服して立ち直ってほしいと思ってしまった。


No.235 7点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ
エドワード・D・ホック
(2011/08/29 10:43登録)
全作、トリックに特化した不可能犯罪モノです。
私のお気に入りは、「十六号独房の謎」と「古い樫の木の謎」。これらは名編だと思います。「古い樫の木の謎」のトリックは、必死に考えたのですが、すべてハズレでした。ホーソーン医師もミスを犯したぐらいだから仕方ありませんね。
トリックだけの推理小説は読む気がしないと言う読者は多くいますが、そんな方にも、たとえ2,3編でもいいから読んでもらいたいなぁ、と薦めたくなるほどの出来の良さです。わずか2,30ページの中に、(納得がいくかどうかは別にして)事件の背景や動機も織り込まれていて、すべての作品がたんなる推理ゲームではなく、小説としての品格が具わっています。アメリカの古きよき時代の田舎町の匂いが漂ってきそうな描写もいいですし、回想による穏やかな語り口も好ましいですね。
国内でも、横山氏や連城氏、阿刀田氏などの変格短編ミステリを読み飽きたときのために、本格ミステリ(特にトリック偏重型)の作品集をどんどん出してくれる短編の名手を見つけておきたいですね。あまり詳しくはないのですが、有栖川氏、東川氏あたりなのでしょうか。


No.234 7点 幽霊射手
ジョン・ディクスン・カー
(2011/08/19 09:40登録)
この程度の短編でも怪奇風味が盛り込んであります。怪奇性は不可能犯罪とともにカーの持ち味ですから、当然といえば当然なのでしょう。どの短編も適度に恐怖感が加味されて、いい雰囲気に仕上がっています。
結末に重苦しさを残して物語性を演出したバンコラン物の「正義の果て」と、船上の優雅な雰囲気とサスペンスを味わえるラジオドラマ「B13号船室」が好みですが、その他の作品も謎が人間消失、密室など心踊るものばかりで、しかも短編小説としての物語性も十分に具わっていて、みな魅力的です。いまの時代でも本格ファンなら十分に楽しめる内容だと思います。


No.233 7点 イン・ザ・プール
奥田英朗
(2011/08/10 16:08登録)
奥田作品をはじめて読みました。滅法おもしろいですね。

各短編の主人公たちは一見重症のように見えますが、実は、神経や精神をわずかに病んだ、どこにでもいる人たちです。
つねに仲間の輪の中に入ってなければおかしくなる携帯依存症の学生や、つねに男に見られていると勘違いしている自意識過剰なモデル女、健康のためにプールに通いつめ2、3日空くと震えがくる男、等々の主人公たちの気持ちは意外とよくわかります(もちろん勃ちっぱなしの気持ちも痛いほどわかる)。
主人公たちはいたって平凡で、ちょっと病んでいるだけという程度です。それにくらべ、レギュラー登場する準主人公のマザコン・オタク医師、伊良部はどうみてもかなり異常ですね。

そういったどこにでもいるけど、ちょっとおかしな人たちを、読者を納得させるようにリアリティをもって表現した奥田氏の才能には、ほんとうに感心させられます。

こんなお遊び感覚の作品、馬鹿らしくて読めるかという人もいるかもしれませんが、こんな作品でも、奥田氏がもし歴史に名を残すような大作家になったときには、病める現代人を軽妙な筆致で鋭く強烈に描いた初期短編集、なんて紹介されることになり、教科書にも載るようになるのでしょう。いやこれは冗談ではなく、中島敦の山月記、名人伝にも匹敵する素晴らしい名作短編集だと思います。


No.232 6点 亜智一郎の恐慌
泡坂妻夫
(2011/08/10 15:50登録)
江戸幕府スパイ物。つまり公儀隠密モノですが、お庭番ではなく、江戸城の雲見番というのが隠れ蓑となる職業です。将軍直属の少数精鋭部隊で構成され、秘密度は高いのですが、その仕事は藩の改易ネタを探るようなものではなく、些細な事件から殺人事件まで秘密警察的に動き回り、謎解きするのがお役目です。とはいっても半分ぐらいはお笑いなのですが。キャラクタ的には、準主人公である、芝居好きな片腕の軟弱隠密・緋熊重三郎が面白い存在でした。
時代短編ながらもミステリ的な凝った作りには、さすが泡坂、と感心させられます。ただ、キャラクタがわかりやすくはっきりとしているし、せっかくの時代物なのだから、ミステリ要素はほどほどにして、「仕掛人・藤枝梅安」みたいな作品にしていたほうが多くの読者を楽しませることができ、長期シリーズ化することもできたのでは、という気もしました。とはいえ個人的にはほどよく楽しめました。


No.231 5点 真夜中に涙する太陽
笹沢左保
(2011/07/29 18:18登録)
事件の中心人物である作家・大野木の登場が少ないため、主人公である作家兼素人探偵である笹沢佐保や、大野木周辺の人物の証言でしか大野木の人物像が浮かび上がってきません。だから事件の背景に関するもやもや感を拭い去ることはできず、読者が推理するという段階にはいたりません。
それに、殺人は起これどトリックはなく、警察の影も薄く、どちらかというと笹沢探偵自身が話の中心といった感じでもあったので、ミステリらしくなく、すこし違和感がありました。
著者の笹沢佐保にとっては、作家・笹沢左保をすこしでも多く登場させることが重要だったのでしょう(多数の著作のうち笹沢探偵が登場するのは本作だけらしい)。
こんな感じでいろいろと問題もありましたが、なぜだかほどほどに楽しめた作品でした。


No.230 5点 顔に降りかかる雨
桐野夏生
(2011/07/23 12:24登録)
乱歩賞受賞作品ですが、ミステリとしてはラストがあまりにも陳腐で貧弱です。著者はエンタテイメント資質がよほど欠けているのか、そもそもミステリ要素はどうでもよいと思って書いたのか、どちらなのでしょうか。
犯人を予想できたとはいえ、その犯人が明かされるラストに向けてどう話をもっていくのか、わくわくしながら読んでしまっていたのがわれながら情けなくも感じます(笑)。
筆力はあるのですね。本作後の作品を読むのが楽しみです。

追記
登場機会は少なかったが主人公のミロの父「村善」は、バイプレイヤーとして光っていた。次の作品にも出るのだろうか。映像なら、つい先日亡くなった原田芳雄が似合いそう。


No.229 5点 回廊亭の殺人
東野圭吾
(2011/07/18 01:26登録)
意外な真相、技巧的な叙述。たしかにテクニック的にはすぐれた作品ですが、いくら真相が意外でも、これでは犯人当てとしての面白みはありません。フェアぎりぎりを狙って技巧に走りすぎたかなという印象です。一人称小説なのになぜ、というひっかかる点もあります。ただ、読者を飽きさせない物語性とサスペンスはさすがといわざるを得ません。


No.228 6点 ミミズクとオリーブ
芦原すなお
(2011/07/13 09:40登録)
料理人系・安楽椅子探偵モノとしては、個人的には北森鴻の「香菜里屋シリーズ」よりも楽しめました。料理人といっても本書の場合、主人公の奥さん(主婦)なのですが。
謎解きレベルとしてはかなり低め(直感というのもありましたね)であることはたしかですが、むしろ登場人物の会話が読者を楽しませてくれます。主人公と妻、主人公と友人の河田、そして3人そろっての掛け合い、みな自然だし、漫才風でもあって笑えます。登場する料理も旨そうな家庭料理ばかりで、いい感じですね。
主人公夫婦の関係が、(サザエさんの)マスオさんとフネさんというのは当たっていますね。toukoさんに、座布団一枚!
とにもかくにも、これからも読んでいきたいなと思えるような作品集でした。満足しました。


No.227 7点 夜よ鼠たちのために
連城三紀彦
(2011/07/07 16:23登録)
ハルキ文庫版。9短編を所収。
1)「二つの顔」・・・兄弟が強い絆で結ばれたのですね。よかったのか悪かったのか?トップバッターは怖いというより、なぜか笑える内容だった。
2)「過去からの声」・・・退職した青年刑事が一年前の誘拐事件の真相を、その事件をともに追った先輩刑事に手紙で告白する。子供のころ誘拐された経験があるからこそ分かる誘拐犯のこと。意外な真相だが、驚きよりも爽やかさを感じた。
3)「化石の鍵」・・・体の不自由な10歳の子の首を絞めたのは誰?
4)「奇妙な依頼」・・・タイトルどおり、奇妙な依頼だ。この依頼人、相当頭がいい。事実が明かされれば不思議な依頼の謎はすべて解明する。実に分かりやすい。
5)「夜よ鼠たちのために」・・・なるほど、たしかに復讐にはちがいない。隠すテクニックは抜群。こんな話が現実にあったら怖いなぁ。いやもしかしたらあるかもしれない。ネーミングも素晴らしい。
6)「二重生活」・・・これも反転ミステリの傑作。
7)「代役」・・・たしかに代役。話の中で騙された××は本当にお気の毒。可笑しな話だった。
8)「ベイ・シティに死す」・・・9編のなかではシンプルなほう。それでも騙されてしまった。
9)「ひらかれた闇」・・・短編にしては人物がわかりやすく、物語性もあり、青春ミステリっぽくもある。長編につながりそうな作品だった。

爽やかに括った「過去からの声」が、連城らしくなく、そういった意外性があって、いちばん良かった。爽やかさを求めるなんて、自分も案外俗っぽい人間なんだな、と思った。
ほとんどの作品は、奇術のような鮮やかな騙しのテクニックが駆使されている。そんな連城マジック・ミステリを十分に堪能できた。外れはないのだが、9編を続けて読むとちょっと疲れてしまう。暑さのせいかもしれない。


No.226 4点 一角獣殺人事件
カーター・ディクスン
(2011/07/04 10:32登録)
不可能犯罪&クローズド・サークル物。これほど魅惑的なキーワードで形容できる作品なのだが、出来はそれほどでもないように思う。
そもそもCCという設定は場面があまり変わらず単調になりやすいから、サスペンスをふんだんに盛り込むか、事件を複数発生させないと読者は最後まで息が続かない。HM卿が最後に明かす真相は、なるほどなるほどと感心しないわけでもないが、寄り道が多いし、時すでに遅しという感もあった。それにあの凶器もいただけない。ロマンもなければ面白みもない。お笑いバカミスの失敗作という感じ。本作のような怪盗捕獲ドタバタCC劇も、書きようによれば面白くなるはずなのだが。。。
でも犯人当てについては、こういう謎の提起の仕方もあるんだな、とそれだけには感心した。


No.225 6点 スコッチに涙を託して
デニス・ルヘイン
(2011/06/21 13:32登録)
男女ペアの私立探偵・パトリック&アンジー・シリーズ第1作です。
「スコッチに涙を託して」というタイトルからは、男のハーレクインと呼ばれても仕方がないような内容を連想しますが、洒落た会話や仕草はあまりなく、男の美学のようなものは感じられませんでした。どちらかといえば老若男女に受けるハードボイルドというか、想像以上に俗っぽいというか。。。原題 “A drink before the war” のほうが合っているようです。
シリーズ第1作ということもあって、主人公の人物造形は十分すぎます。しつこいほどの軽口会話と、車をローンで買ったとか、筋に関係のない主人公の独白(パトリックの一人称の地の文)とがやたらと目立ちます。とはいえ、パトリックの生い立ちと、事件の背景とには共通点があって、デビュー作とは思われないような構成の巧さを感じられます。ただ主人公の身辺の話が多い分、メインの事件の描写が不十分かなという気がしました。
ストーリーはギャングの抗争、政界とギャングの癒着が物語の根幹をなし、激しい銃撃戦もあり、ごく普通のヤクザ物といった感じがしました。嗜好からは少しずれてはいましたが、後半には痛快な場面もけっこうあって、万人受けしそうなエンタテイメントに仕上がっているように思います。ただ、こういうのは映像のほうがもっと楽しめそうです。

結果的には明るく楽しめたのですが、「ミスティック・リバー」(映画)や「コーパスへの道」(犯罪モノ短編集)の暗い雰囲気が頭に焼き付いていたため、途中までは、陰鬱でメランコリックな印象しか持てず、それを拭い取ることがなかなかできませんでした。偏見、先入観を持った読書はいかんということですね。


No.224 6点 看守眼
横山秀夫
(2011/06/13 09:59登録)
表題作を含め全6編。
「口癖」が面白かった。逆転したかと思えばラストでまた逆転を喰らう。でもこんな話はないだろう。「秘書課の男」はもっとも現実感があり、主人公の男の切実な思いが伝わってきた。この作品以外は、いかにも作り物という感じがしたが、結果的にはどの作品にも時間を忘れるほど夢中になれた。
主人公がみな、ちょっとしたことに慌てたり、些細なことに喜んだりと、どこにでもいそうなタイプなので、はっきりいってあまりカッコよくない。そんな主人公たちを身近に感じられてうれしい気分にもなるが、人の失敗を見てニンマリしているようで、複雑な心境にもなる。まあ、それだけ巧く表現できているということはたしかだ。


No.223 6点 燃えた花嫁
山村美紗
(2011/06/05 08:23登録)
殺人が6件も発生する派手な展開です。タイトルどおり花嫁が燃え、しかもその同じ手口は2度つづきます。ダイイング・メッセージめいた謎、死体移動、密室トリックなど仕掛けられた謎は多数あります。
新素材を巡る繊維業界の企業間競争の中での連続殺人。当時としては人気のスタイルだったのでしょう。社会派全盛時代では、こういう2時間ドラマ的お手軽本格ミステリが受けていたということの証しであるようなミステリです。
密室トリックは解けそうにないほど実現性が低いのに、キャサリンがいとも簡単に解いてしまうし、ダイイング・メッセージは謎解き容易なのに後半まで引っ張るし、とにかくメチャクチャ。キャサリンの超人的な推理は瞬間芸のようで笑えました。都筑道夫ならおそらく酷評していたでしょう。
と、マイナス要素もおおいに目立ちましたが、それ以上に派手な道具立ての芝居を堪能できたことも事実です。普段ならマイナス要素を加味して4点ぐらいを付けるところですが、これだけ楽しめれば合格点でしょう。nukkamさんの推薦に、なるほどと納得しました。


No.222 6点 ゴミと罰
ジル・チャーチル
(2011/06/01 10:12登録)
旦那と死に別れた子持ち主婦が探偵役を務めるユーモア本格ミステリ。危なっかしく立ち回りながらも殺人事件を解決へと導いていきます。
殺人は近所の友人の家の中で起こり、登場人物のほとんどが隣近所の主婦たちという、生活密着型のいたって軽めのミステリですが、本格要素はほどほどにあり、その謎解きヒントも適度に散りばめてあります。まあでも、しっかりと読めばこれしかないな、という感じはしましたが。
本書の特徴はそんなミステリ部分よりも、主婦の生活感のある会話や行動描写にあります。米国には仕事でしか行ったことがないので生活環境のことはよくわかりませんが、現地の生活ってこんな感じなのかな、とちょっと意外に思いました。主婦たちの濃密な近所づきあいもあれば、嫁姑の問題もあり、まるで日本のホームドラマを見ているようです。もしかしたら公園デビューもあったりするのでしょうか。
文章は読みやすく、内容的にも退屈な箇所はありませんでした。猛烈な勢いで読み進むのですが、スピードを上げすぎてヒントを逃したんじゃないかと後戻りすることもしばしばありました。読みやすいのも考えものです。
原題は Grime and Punishment 、それを『ゴミと罰』に。うまく訳しますね。シリーズを通じてこんな調子のタイトルを付け続けた原作者のアイデアには(翻訳者にも)感心します。


No.221 6点 造花の蜜
連城三紀彦
(2011/05/27 10:02登録)
上巻は誘拐サスペンスでノンストップ、下巻は一転心境描写でドップリと小説世界へ。そして真相がこれまた強烈。何を述べてもネタバレになりそうなので多くは語りませんが、ファンからすれば、これこそ連城マジック炸裂ということなんでしょう。
と絶賛したいところですが、いくらなんでもこんな壮大な事件はあり得ないでしょう。どんな文章力、表現力をもってしても、このストーリーに現実感は出し切れません。例えば時代設定を変えるなどすれば、気にならなかったのではと思うのですが...
でも楽しめたので点数はこんなところです。

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