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ミステリの祭典

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メグレと無愛想な刑事
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1957年01月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 6点 人並由真
(2019/04/25 17:41登録)
(ネタバレなし)
 全四編の中編集。表題作「メグレと無愛想(マルグラシウ)な刑事」はシムノンの短編にありがちな妙な感じのリズム感がいまひとつ感じられなかったが、被害者の家庭に覗く生活模様とか、こちらが予期するものはちゃんと提供してくれた感触。
 本書の中で特におもしろかったのは、第二話「児童聖歌隊員の証言」と第三話「世界一ねばった客」の二本。特に前者は老境の有閑を子供相手の悪戯で消費するかのような、社会的立場のある老人の描写がなんとも言えない。ミステリとしての組み立ても、あの英国の某女流作家の世界的に有名な名作短編を思わせる。後者「ねばった客」は話の転がっていく感覚では「児童聖歌隊員」以上に心地よかった。ああ、登場人物たちが<そういう人生>を送ってきたんだね、と思い知らされたのちに、最後にじわじわ滲むなんともいえないペーソス感。これぞメグレシリーズの持ち味のひとつ。
 四本目の「誰も哀れな男を殺しはしない」も悪くなかったけれど、もう少しだけ長い紙幅で読みたかった。

No.3 7点 クリスティ再読
(2017/08/09 21:56登録)
「若い女の死」でロニョン刑事に萌えた余勢を買って、表題登場のこの短編集を読んだ。本短編集は4作長さ以上のボリューム感のある短編がそろっているが、ロニョンは最初の表題作しか出ない。残念。
本短編集はというと、「ヘンな奴ら」大集合の作品集になっている。もちろんロニョンは刑事たちの中でも特にその偏屈さで「ヘン」なのは言うまでもないが、「児童聖歌隊員の証言」の老判事、「世界一ねばった客」のタイトルそのままの人物、「誰も哀れな男を殺しはしない」の被害者...すべて印象に残る「ヘン」さがある。
作品としては「児童聖歌隊」がお気に入り。児童聖歌隊員なんだから子供でしょうがないのだが、事件のキーを握る、偏屈な老判事の妙な子供っぽい振る舞いが「謎」を作り出してしまう...それを解決するのは風邪をひいてフラフラのメグレである。風邪をひいて寝込むと、しきりに子供のころのこととか思い出されるものなんだけど、そういうメグレが「子供の心」を洞察して謎を解く、という構図の優れた作品である。こういう小説、イイな。
最後の「誰も哀れな...」も、被害者の小市民的としか言いようのない行動が「バカだなぁ」という感想と同時に「それも仕方ないな」という諦念とないまぜになって妙に心に迫るものがある。
というわけで、シムノンらしい小説的満足感バッチリな短編集である。

No.2 5点
(2011/10/05 18:59登録)
今までに読んだ長編のメグレ物とはちょっと違って、早々と謎が提起され、短編ミステリーらしさが感じられます。もしやしてこれは謎解きミステリーなのではと思ってしまいます。でも、ストーリーの流れからすれば、本格ミステリーというよりは、やはり一般小説寄りなミステリーとして楽しむほうが正解でしょう。
『児童聖歌隊員の証言』では、メグレが39度の熱を出して、自宅で少年から真相を聞きだす場面があり、いくらなんでもこんな事情聴取はないだろうと思いながらも、なんともいえぬ可笑しな光景を頭に思い描いて、吹き出しそうになりました。
『誰も哀れな男を殺しはしない』は、ミステリー度の高さは編中随一です。物語の進行とともに徐々に被害者の謎めいた実態が明かされていくものの、謎はさらに深まります。はたして真相は?と少しだけ本格として期待したのですが・・・

No.1 6点
(2011/07/15 22:37登録)
4編の長めの短編(文庫本ならたぶん60ページぐらい?)が収められていて、最初のが表題作です。『メグレと生死不明の男』など1950年台の長編いくつかに顔を出す「無愛想な刑事」ロニョンは、たぶん本作が初登場でしょう。事件としてはわざわざメグレが乗り出すほどのものでもなく、不運をもぐもぐ愚痴るロニョンに、メグレが気を使っているところがおもしろいような話です。
次の『児童聖歌隊員の証言』は、タイトルの少年だけでなく、少年の証言と矛盾する証言をする元判事やメグレ自身も子どもっぽいところを見せるのが楽しい作品。ただしこれも真相は説得力が今ひとつです。『世界一ねばった客』はタイトルどおりの出来事が謎となっていて、なんとなくユーモラスで陽気な雰囲気。『誰も哀れな男を殺しはしない』は、被害者の秘密が少しずつ明らかになっていく構成で、カナリヤに餌をやるメグレが微笑ましい作品です。
ミステリ的な事件のおもしろさということでは、後半2作がよくできている(「本格派的」ではありませんが)と思います。

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