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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2929件

プロフィール| 書評

No.1109 4点 殺意の演奏
大谷羊太郎
(2016/03/21 06:40登録)
(ネタバレなしです) プロのギタリストや芸能マネージャーであった大谷羊太郎(1931-2022)はミステリー作家として成功するために江戸川乱歩賞を獲得することに執念を見せており、1970年発表の本書でついに受賞に成功しました。そのため初期代表作として紹介されることが多いのですが、これは同時にかなりの異色作でもあるようです。密室や暗号など本格派推理小説らしさも十分にあるのですが、この解決はかなりの奇想系で前衛的、マニア読者やミステリー研究家向きの作品ではないでしょうか。賞狙いのためか結末以外はそれほどのひねりもなくて読みやすいですが入門編としては他の作品の方がいいように思います。ウエスタンバンドとかロカビリーとか、現代ではあまり使われなくなった音楽用語が散りばめられているのが時代を感じさせます。


No.1108 5点 千曲川旅情殺人事件
藤原宰太郎
(2016/03/21 00:00登録)
(ネタバレなしです) 1991年発表の久我京介シリーズ第4作の本格派推理小説です。タイトルから島崎藤村の「千曲川旅情の歌」という詩と関連があるような印象を与えますが別に文学的でもないし旅情も感じません。純然たるパズルストーリです。光文社文庫版では「密室、ダイイングメッセージ、アリバイの推理小説の三種の神器を駆使した巧妙なトリックの数々」となかなか凄い宣伝文句で紹介していますが、地味で小粒なトリックばかりでそれほど印象に残るものではありませんでした。謎の演出が地味だったのは結果的にはよかったかもしれません。この作者らしくミステリー作品のネタバレがありますが、ほとんどが短編作品の紹介なのでネタバレを嫌う読者の精神的被害はそれほど大きくはないと思います(笑)。長編作品でネタバレされたのは横溝正史の「本陣殺人事件」(1946年)の密室トリックぐらいでした。


No.1107 6点 三幕の殺意
中町信
(2016/03/20 23:23登録)
(ネタバレなしです) 「錯誤のブレーキ」(2000年)以来、久しぶりの2008年に発表された本書が中町信(1935-2009)の最終作となりました。純粋な新作ではなく中編「湖畔に死す」(1968年)(私は未読です)をリメイクしたものだそうですが、それでもファン読者にとっては何よりのプレゼントだったのではないでしょうか。「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説で、いかにも怪しげな容疑者たちのアリバイ調べが中心の地味な展開です。若い時代の作品が原書だからでしょうか、作品全体に強い緊迫感が漂っており、地味でも退屈には感じませんでした。


No.1106 5点 アルカード城の殺人
ドナルド・E・ウェストレイク
(2016/03/20 07:00登録)
(ネタバレなしです) アメリカのドナルド・E・ウエストレイク(1933-2008)は泥棒ドートマンダーシリーズやリチャード・スターク名義で発表した悪党パーカーシリーズなど100冊以上の作品を発表した巨匠ですが、どうも本格派推理小説とは縁がなさそうな作家との印象を私は持ってました。その彼が妻でパズル作家(ノンフィクション作家と紹介している文献もあります)のアビー・ウエストレイクと共同で1987年に発表した本書は意外や本格派推理小説でした。但し毛色がかなり変わっていて小説オリジナルでなく、ホテル宿泊客が謎解きに参加する推理イベント「ミステリー・ウィークエンド」(1977年から毎年開催)を本で再現したものです。小説というよりもゲームであり、読者は犯人当てだけでなくクイズ形式の様々な謎解きに挑戦してハイスコアを目指します(このクイズは本書専用に設定されたものです)。登場人物同士の会話は短いナレーションの中だけ、後は1人1人の証言のみという構成で小説として楽しめるものではありませんが、意外とすらすらと読める作品でした。とはいえ紙上参加よりは実際のイベントに参加する方がはるかに楽しめるのでしょうね。動機重視の謎解きになっていますが、物的証拠が少ないので推理の説得力が少し弱いような気がします(この人は動機がないので犯人ではないというのはかなり強引な結論)。


No.1105 5点 日本アルプス殺人事件
森村誠一
(2016/03/17 09:10登録)
(ネタバレなしです) 1972年発表の本格派推理小説です。事件関係者はわずか5人(被害者も含まれます)、犯人はこの人以外にありえないだろうと早々と絞り込まれ、鉄壁のアリバイ崩しに刑事たちが挑む展開です。企業利益を巡る争いの中での身勝手で打算的で多くの読者の反感を買いそうな人物描写はこの作者ならではです。一方で山岳描写の美しさもなかなかの筆力です。アリバイトリックは非常によく考えられていると思いますが、専門技術に頼っているのが少々問題だし、その技術が現代でも通用するのかはかなり疑問です。それ以上に気になったのがこのタイトルなのに殺人は日本アルプスで起きていないこと(容疑者が犯行時間帯に日本アルプスにいたというアリバイを主張する)。これは看板に偽りありの印象を与えるのでは。


No.1104 5点 死墓島の殺人
大村友貴美
(2016/03/16 19:48登録)
(ネタバレなしです) 2008年発表の藤田警部補シリーズ第2作です。登場人物は多過ぎず少な過ぎずですが真相は思ったよりも入り組んでいて、自分でも犯人当てに挑戦したいという読者はこれでは当てようがないと不満を抱くかもしれません。前作の「首挽村の殺人」(2007年)では藤田警部補の存在感が希薄に感じられましたが、本書では彼の捜査場面が増えて引き締まったプロットになっています。社会問題描写については好みが分かれるかもしれませんが、謎解きの興味を削がない範囲に留まっていると思います。


No.1103 5点 午前二時のグレーズドーナツ
ジェシカ・ベック
(2016/03/16 19:39登録)
(ネタバレなしです) 米国のジェシカ・ベックは2010年にドーナツ店オーナーのスザンヌ・ハートシリーズ第1作である本書でデビューしましたが、男性か女性かさえはっきりしない謎の作家です(男性作家のティム・マイヤー(1958年生まれ)ではと予想されてます)。いずれにしろ本書が典型的なコージー派の本格派推理小説であることは間違いなく、巻末にはドーナツだけでなく色々な料理のレシピが載せられています。事件に巻き込まれたというきっかけはあるものの、スザンヌが探偵役に積極的になる理由がいまひとつ弱く、ちょっと共感を抱きにくいキャラクターに感じられました。かなり粗いとはいえ推理によって犯人に行き着いている点は評価しますが、この犯人の計画はかなり杜撰な印象を与えます。


No.1102 5点 愚者たちの棺
コリン・ワトスン
(2016/03/14 03:20登録)
(ネタバレなしです) わずか12作の長編といくつかの短編を残した英国のコリン・ワトスン(1920-1983)のデビュー作が1958年発表のパーブライド警部シリーズ第1作の本書です(長編は全部パーブライト警部シリーズです)。パーブライトが容疑者と知り合いだったり、第14章での「以前に起きたささやかな出来事」についての言及などは自分で謎解きを試みようとする読者からすると探偵役が(読者より)有利な立場にあったのではと本格派推理小説としてのフェアプレーに疑問符が付きかねません。ひねりを入れすぎて謎解きがわかりにくいのも少々問題で、チャブ警察署長が最後の質問で指摘していた「つまらん作り話」(パーブライトは「虚しい努力」と評価)などは無用の混乱を招いただけのように感じます。ユーモアもわかりにくく、例えば締め括りのチャブ夫人の発言が署長の「風紀上の問題」を暗にほのめかしていたのに私は最初は気づきませんでした。


No.1101 4点 QED  神器封殺
高田崇史
(2016/03/12 15:56登録)
(ネタバレなしです) 後に毒草師シリーズの主人公として活躍する御名形史紋(みなかたしもん)が登場する、2006年発表の桑原崇シリーズ第11作です。珍しくも最終章の(講談社文庫版で)約80ページが袋綴じとなっている本格派推理小説です。但し作者はこの袋綴じを「読者への挑戦状」ではありませんと断り書きしており、殺人事件の謎はこの袋綴じよりも前のページで解かれます。何と犯人の正体は第二の殺人の段階で読者に対してオープンにされます(崇たちはその時点ではもちろん知りませんが)。第一の殺人でなぜ被害者の頭と片手を切断したのか、第二の殺人でいかにして被害者を毒殺したのかがメインの謎になっていますが、この謎解きには大いに不満があります。前者の謎解きは小松崎が「想像を絶する」と述べていますが、捜査を混乱させるためにやりましたという理由の方がまだ納得できるくらい、理解し難い理由でした。後者のトリックについても「エリアス」という偽名を使って説明しているために合理的なトリックに感じられません。そして袋綴じの中の、崇の言葉では事件よりも「もっと大変なこと」の説明の方ですが、作中人物は半分麻痺しながら驚いているようですが、私は麻痺していただけでした(笑)。


No.1100 5点 牛乳配達退場
シャーロット・マクラウド
(2016/03/12 12:07登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表のピーター・シャンディ教授シリーズ第10作でシリーズ最終作となった本格派推理小説です(最終作的な演出は全くありません)。このシリーズは過去の作品に登場した人物が再登場することが珍しくありませんが、本書の重要人物であるフェルドスター夫妻やメルシェット医師がシリーズ第1作の「にぎやかな眠り」(1978年)でも登場していたのを私は全く覚えていませんでした。このシリーズとしてはどたばた要素が少なく、前半の失踪事件と後半の血まみれ殺人事件の関連性が弱く感じられるプロットでした。トリックを弄する理由も薄弱に感じられます。追い詰められた犯人の最後の描写がコージー派らしからぬなかなかの迫力だったのが印象的でした。


No.1099 5点 スリー・パインズ村と警部の苦い夏
ルイーズ・ペニー
(2016/03/07 01:05登録)
(ネタバレなしです) 2008年発表のガマシュ警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。「スリー・パインズ村と運命の女神」(2006年)では凍った湖上の感電死というユニークな謎がありましたが、本書でも巨大な彫像をどうやって倒したのかわからないという魅力的な謎が提示されます。それだけでなく他にも様々な謎がばらまかれ、本格派推理小説好きにとっては読み応えたっぷりです。ただ過去作品の容疑者を再度容疑者として登場させたのは感心できませんでした。過去作品でその人が犯人でないという、一種のネタバレになってしまいますから。やはり容疑者は常に新しい人材を発掘しなくては(笑)。また一部の謎(被害者はなぜ両手を広げていたのかなど)がすっきり解決されていないのも少々もどかしさを覚えました。


No.1098 4点 待ちに待った個展の夜に
ジェイニー・ボライソー
(2016/03/07 01:00登録)
(ネタバレなしです) 「クリスマスに死体がふたつ」(1999年)の最終章で個展を開くことが決まったローズ・トレヴェニアンが友人のエッタから娘のサラが口をきいてくれず、ドラッグをやっているのではないかと相談を受け、更にサラの兄ジョーが死亡する事件が起きる、2000年発表のシリーズ第4作です。読者が自力で謎解きできる要素がほとんどありませんし、仮に謎解き伏線が張ってあったとしてもこの真相では本格派推理小説ファンの受けはよくないと思います。ローズが大活躍しているという印象はそれほどありませんが、それ以上にジャック・ピアース警部の捜査は後手後手に回っている感が強く、運のよさで解決されてしまったような気がします。犯罪によって乱された心や生活がどう修復されるのかを見守るという読み方が合っているかと思います。


No.1097 5点 エジンバラの古い柩
アランナ・ナイト
(2016/03/07 00:22登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表のファロ警部補シリーズ第2作ですが、シリーズ前作の「修道院第二の殺人」(1988年)が本格派推理小説だったのに対して本書ではスリラー小説というべき内容になっています。ブルース・アレグザンダーの「グッドホープ邸の殺人」(1994年)と「グラブ街の殺人」(1995年)がやはりそんな作風の変化を見せてましたね。創元推理文庫版の巻末解説でほめている「イギリスの歴史をくつがえすような大胆なお話」については歴史に疎い私には残念ながらぴんとこなかったのですが、ファロ自身につきつけられた(ある意味)究極の選択にはどきどきしました。これはこれで面白いというか、作者の本領が発揮された作品だと思うのですが謎解きとしては楽しめなかったので正直複雑な読後感です。


No.1096 5点 枯れ騒ぎ
ジル・チャーチル
(2016/03/06 23:55登録)
(ネタバレなしです) ジェーンとシェリイがガーデニング講習会で教えてもらう予定のジュリー・ジャクソン宛の花束がジェーンに誤配され、花を届けにジャクソン家を訪れるとそこにはパトカー3台と救急車が止まっていたことから事件に巻き込まれる、2000年発表のジェーン・ジェフリイシリーズ第12作です。ジェーンの推理説明が読者に対して明快でないのが残念です(メルやシェリイは説得されたようですがその場面がはっきりと描かれていません)。ただ本書で新鮮だったのが容疑者たちの個性をそれぞれのガーデニングぶりを描写することによって表現していること。ちなみにジェーンとシェリイもガーデニングに挑戦していますが、結構大胆なやり方(というか邪道では?)をしていますね(笑)。


No.1095 5点 予約の消えた三ツ星レストラン
アレクサンダー・キャンピオン
(2016/03/06 22:17登録)
(ネタバレなしです) 米国のアレクサンダー・キャンピオン(1944年生まれ)はブラジル人外交官の息子としてアメリカで生まれ、フランスに35年住んだ経歴があります(現在はカナダ在住らしい)。そのためか2010年発表の本書はパリを舞台にして、料理描写も随所に見られます。本書はコージー派ミステリーとして紹介されましたが、現場での犯罪捜査を経験したいのに経済犯罪の部署に放り込まれて1年が経過している警察官カプシーヌ・ル・テリエを主人公にし、捜査以外(私生活とか)の描写が少ないこと、(少しネタバレになりますが)後半になると企業犯罪要素が出てくるなど私の考えているコージー派とは異なるように思います(普通に警察小説ではないでしょうか)。推理はなくはないけど物足りないです。それにしても実在の企業名(ルノー社)を使って問題なかったんでしょうか?


No.1094 7点 殺人路・上高地
長井彬
(2016/03/06 00:47登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の長編第8作です。アリバイ崩しの本格派推理小説ですが犯人当ての興味も最後まで維持しており、しかも人間消失と遠隔地での同時出現という不可能性の高い謎まで用意されているのですから面白くないわけがありません。この作者が社会派でなく本格派路線を突き進んだのは正解だと改めて認識しました。旅情もそれなりにあります。


No.1093 7点 交換殺人には向かない夜
東川篤哉
(2016/03/06 00:41登録)
(ネタバレなしです) 西村京太郎は「殺しの双曲線」(1971年)の冒頭で「メイントリックは双生児であることを利用したものです」と堂々宣言しましたが、2005年発表の烏賊川市シリーズ第4作の本書はタイトルで「交換殺人」を読者に注目させています。交換殺人なら犯人が複数いるわけで、作者としても読者に対してフェアかどうかを意識してこういうタイトルにしたのでしょうね。しかし交換殺人にばかり注意しているともう一つの仕掛けのほうでびっくりすることになります。ユーモアやどたばたはやや低調ですがどんでん返しの謎解きは充実しまくっており、真相の大胆さでは「密室の鍵貸します」(2002年)に匹敵します。


No.1092 5点 斜め「首つりの木」殺人事件
本岡類
(2016/03/06 00:34登録)
(ネタバレなしです) 最初は「大雪山 牙と顎の殺人」というタイトルで1986年に発表された秀円シリーズ第2作のユーモア本格派推理小説です(といってもシリーズはこれで終了のようです)。8年前、北海道の山中でクマに襲われたと思しき女性の腕が発見され、4年前、オーストラリアの海で両足をサメに食いちぎられたと思しき女性の遺体があがり、2人の被害者の夫が同一人物であったという謎を扱っています。シリーズ前作の「飛び鐘伝説殺人事件」(1986年)の「空飛ぶ鐘」のような強烈なインパクトの謎はありませんが、その代わりに数で勝負したようなところがあります。事故か事件かなかなか見えてこない前半の展開はややまどろっこしく秀円も精彩がありませんが、後半の展開はなかなか意表をつくものです。人物描写があまり上手くないので複雑な人間関係が理解しにくいです。


No.1091 5点 雪列車連殺行
阿井渉介
(2016/03/06 00:17登録)
(ネタバレなしです) 上野駅に着いた列車の中に他殺死体が発見されたという通報と消えた死体、そして上野駅近くのデパートのウインドウに同じ人物と思われる死体が飾られる事件で幕開けする1989年発表の列車シリーズ第3作です。複雑な人間関係、社会問題の提起、次から次に突きつけられる謎と贅沢に仕上げた本格派推理小説と言えなくもありませんが、詰め込みすぎて整理不十分になり却って印象に残りにくい作品になったような気もします。見ざる言わざる聞かざると猿蟹合戦をごちゃまぜにしたような見立ても演出効果としてはぴんときません。またタイトルの雪列車も最後に辻褄合わせ的に登場しただけのような感じがします。空飛ぶ臼の謎はなかなか面白かったですが。


No.1090 5点 記念樹(メモリアル・トゥリー)
依井貴裕
(2016/03/06 00:09登録)
(ネタバレなしです) 「推理小説は驚きの文学です」と主張する依井貴裕(よりいたかひろ)(1964年生まれ)は1990年に多根井理シリーズ第1作の本書でデビューしました。エラリー・クイーンを連想させる探偵役からも容易に想像できますが、王道的な本格派推理小説を書いており「読者への挑戦状」まで付いています。個性を感じない登場人物が多いし人物整理も十分でなく、物語としての膨らみが不足しています。しかし謎解きはしっかり考えられており、密室講義などは説明が明快で読みやすいです。トリックには時代の古さを感じさせるものもありますが論理性のこだわりは半端でなく、犯人絞込みの推理はまさにクイーンの影響濃厚です。

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