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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.1045 5点 源氏物語人殺し絵巻
長尾誠夫
(2016/02/06 23:23登録)
(ネタバレなしです) 長尾誠夫(ながおせいお)(1955年生まれ)は非ミステリーの歴史小説も書いていますがデビュー作は1986年発表の本書で、紫式部の「源氏物語」をミステリー仕立てにアレンジした本格派推理小説です。こういうタイプでは岡田鯱彦の「薫大将と匂の宮」(1950年)という偉大なる前例がありますが岡田作品は光源氏死後の時代の物語、本書は光源氏の時代の物語となっています。紫式部が作中人部として登場しているのは両者の共通点ですが、岡田作品では式部の一人称形式にしてほとんど出ずっぱりでしたが本書は頭中将など式部以外の人物にスポットライトが当たる場面が随所にあります。平安時代の貴族社会では普通なのかもしれませんが現代の社会常識から見れば乱れた人間関係描写が多く、時にホラー風な場面さえあるのは好き嫌いが分かるでしょう。重苦しい結末も読者を選びそうです。


No.1044 5点 中国銅鑼の謎
クリストファー・ブッシュ
(2016/02/05 12:24登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のルドヴィック・トラヴァースシリーズ第13作の本格派推理小説です。被害者の周囲に容疑者たちがいたにも関わらず銅鑼が鳴った音で銃声がかき消されてどこから撃たれたかわからないという、誰がどのようにして被害者を射殺したのかというのがメインの謎です。トラヴァースの手書きによる現場見取り図が添えられていて、しかも誰がどこにいたかまで書き込まれているのが親切で大いに助かります。でも微妙に書き方が粗くてわかりにくいです(笑)。この作者らしいのですがストーリーテリングが上手くなくて損をしており、せっかく容疑が転々とするプロットを用意しても謎解きが盛り上がりを欠いています。


No.1043 5点 小鬼の市
ヘレン・マクロイ
(2016/02/03 14:33登録)
(ネタバレなしです) 1943年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第6作ですが、洗練された本格派推理小説だったシリーズ前作の「家蠅とカナリア」(1942年)とは作風が大きく異なっていたのに驚きます。カリブ海の島国サンタ・テレサを舞台とし、異国情緒や時代性を感じさせます。フィリップ・スタークという男を主人公にした冒険スリラー風のプロットですがスターク自身も謎めいた人物として描かれており、スパイ小説的な要素もあります。犯人当てとしての推理も充実したもので、ジャンルミックス型ミステリーとしてよくできた作品だと思います。ただ本書におけるベイジルの扱い方はかなり特殊なので、シリーズ作品として最初に読むべき作品ではないと思います。


No.1042 6点 迷路荘の惨劇
横溝正史
(2016/02/03 14:17登録)
(ネタバレなしです) 中編「迷路荘の怪人」(1956年)を長編にリメイクして1975年に発表した金田一耕助シリーズ第28作の本格派推理小説です。元となった中編の方は私は未読ですが本書はだらだら感もなく、この長編化は成功と言ってもいいのではないでしょうか。作中時代が1950年ということもあって前時代的な雰囲気が濃厚ですが、横溝の作風はこの古さがよく似合っていると思います。密室トリックまで前時代的なのはまあご愛嬌ということで(笑)。


No.1041 4点 オイディプス症候群
笠井潔
(2016/02/03 14:03登録)
(ネタバレなしです) 矢吹駆シリーズは第3作の「薔薇の女」(1983年)と第4作の「哲学者の密室」(1992年)の間に長期間の空白がありましたが、シリーズ第5作である本書も2002年の出版とこれまた久方ぶりです。光文社文庫版で上下巻合わせて1000ページを超す大作の本格派推理小説で内容も濃厚です。このシリーズの特色である哲学に加えて、神話や性愛に関する議論がびっしりと作中に織り込まれています。ただ過去のシリーズ作品に比べてそれらの議論と謎解きとの関連性が弱いように感じられ、無用に長大な作品になってしまったような気がします。また読者へのフェアプレーを意識したのでしょうが、早い段階で共犯者や便乗殺人の可能性が指摘されるのですが、そこまで可能性を広げられると私のような凡庸な読者では真相を当てようとする気になりません(理解するのも難儀でした)。過去作品のネタバラシをする悪癖は相変わらずで、「バイバイ、エンジェル」(1979年)や「薔薇の女」の犯人名を明かしています。これは本当にやめてほしいです。


No.1040 5点 長い長い眠り
結城昌治
(2016/02/03 13:43登録)
(ネタバレなしです) 1960年発表の郷原部長刑事シリーズ第2作です。ユーモア本格派推理小説として紹介されていますが直接的に笑いを誘うような場面はほとんどなく、最後になってそそっかしさが招いた皮肉がわかるというプロットでした。主人公の郷原部長刑事の出ずっぱりではなく、合間合間で容疑者たち同士のやり取り場面を挿入して単調にならないように工夫はしていますが、感情を抑制した人物描写は好き嫌いが分かれるかもしれません。国内ハードボイルド作家の先駆者の一人として評価されることになる結城らしいとは言えるでしょうけど。


No.1039 6点 青いリボンの誘惑
飛鳥高
(2016/02/02 18:59登録)
(ネタバレなしです) 本業である建築学者としての仕事が忙しくなった飛鳥高(1921-2021)は「ガラスの檻」(1964年)を最後にミステリー執筆をやめてしまいましたが1990年、実に26年ぶりに本書を発表したのには驚いた人も多かったでしょう。久しぶりといっても文章に硬さは見られず、プロットもしっかり練り上げられています。難を言うなら登場人物の関係が案外と複雑で整理が大変なので、登場人物リストを作りながら読むことを勧めます。アリバイトリックに本格派推理小説らしさを、過去の事件に関わる企業進出と地元との利害関係に社会派推理小説らしさを感じ取ることもできますが、本書で一番力を入れているのは人間ドラマの部分でしょう。それぞれの思惑がからみあって悲劇が生まれ、その悲劇がまたそれぞれの人生に影を落とすという、重苦しいドラマが読者に突きつけられます。謎解きよりも小説部分の方に力を入れているように感じました。


No.1038 5点 東京ー盛岡双影殺人
山村正夫
(2016/02/01 00:05登録)
(ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない1988年発表の本格派推理小説です。アリバイ崩しをメインにしたプロットですがこのアリバイが大変ユニークです。2つの殺人と1人の有力容疑者、しかしどちらか片方で殺人犯だった場合、もう片方の殺人に関してはアリバイが成立してしまうというものです。とりあえず片方の事件で逮捕すればという単純な話にはならず、東京と盛岡の警察が面子を争って自分側の事件だけ解決しようとしてうまくいかないという奇妙な展開を見せます。ユーモア本格派として書かれた作品ではありませんが、一方が証拠を集めれば集めるほどライバル(?)にとっては自分の捜査の足を引っ張られるという皮肉が何とも言えません。トリックは感心するほどのものではありませんが、設定の妙で退屈させません。


No.1037 5点 二人道成寺
近藤史恵
(2016/01/31 23:57登録)
(ネタバレなしです) 2004年発表の今泉文吾シリーズ第5作(歌舞伎シリーズ第4作)です。複雑な心理を掘り下げていく作品としてはよくできた作品ではありますが、ミステリーとしては三角関係があるのかないのかという謎をメインに据えたプロットでは物足りなさを感じてしまいます。殺人でなくてはいけないとまでは言いませんが、やはり魅力ある謎は提供してもらいたいです。今泉の登場場面も非常に少なく、存在感が希薄です。謎は解けるけど未解決という不思議な結末が残ります。


No.1036 6点 殺人予告状
大谷羊太郎
(2016/01/31 23:51登録)
(ネタバレなしです) 大谷は初期には芸能界を題材にした本格派推理小説をいくつか書いたそうですが、1972年発表の本書もその一つです。巡業殺人シリーズ第1作と紹介されていますが、確かに東北巡業が描かれていますけど旅情はほとんど感じられません。このあたりは後年にトラベルミステリーブームを巻き起こした西村京太郎とは比べ物にはなりません。しかし芸能界描写という点では大谷らしい個性が発揮されており、特に第2章での戦後の音楽バンド活動についての語りは現代とは全く違う時代背景を感じさせて新鮮でした。謎解きプロットはやや変わっており、2つの出入口のある部屋での準密室殺人を扱っています。1つの出入口は施錠されて衆人監視状態なので普通に考えればもう1つの出入口が使われているはずなのですが、普段はそちらが施錠されているので犯人が侵入路として目を付けるとは考えにくいというのが準密室を成立させています。一応は両構えでの捜査となりますがバランスはかなり偏っていて、この辺はもう少し改善すれば謎解きがもっと複雑になって読者に色々と考えさせるのでしょうけど、徳間文庫版で300ページに満たない短い作品なのでそこまで望むのは贅沢でしょうか?


No.1035 5点 ガラス瓶のなかの依頼人
シャロン・フィファー
(2016/01/31 23:42登録)
(ネタバレなしです) ハウス・セールで購入した品物からホルマリン漬けの指が入った瓶が出てくる、2002年発表のジェーン・ウィールシリーズ第2作は結構読みづらいコージー派ミステリーでした。第18章でのジェーンによる事件の振り返りが本書の問題点をずばりと当てているのですが、細切れの情報が多すぎるのです。文章自体が難解なわけではありませんが、様々な謎が互いの接点を見出せない状態で読者に投げられる展開には手こずりました。ジェーンの説明もそれほど論理的な推理でなく、すっきりした謎解きではありません。第15章の電話の混乱場面が楽しめた以外はあまり私の印象に残りませんでした(単に私のもの覚えが悪いというのもありますけど)。


No.1034 5点 キャッツ・アイ
R・オースティン・フリーマン
(2016/01/31 23:33登録)
(ネタバレなしです) 1923年発表のソーダイク博士シリーズ第6作の本格派推理小説ですが、ROM叢書版の巻末解説で「スリラーや冒険ものと見なす向きも少なくない」と指摘されているような特徴も持っています。このシリーズは謎解きに科学知識が使われていても一般読者にわかりやすいよう工夫された説明になっているのですが、本書の場合は科学知識以外に一族に伝わる歴史や宗教などもからむため、プロットも真相説明も非常に難解な作品となっています。理解力の弱い私には少々敷居の高い作品でした。


No.1033 6点 北の夕鶴2/3の殺人
島田荘司
(2016/01/31 23:23登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の吉敷竹史シリーズ第3作の本格派推理小説で重要作と評価されています。吉敷の元妻である加納通子が初登場する作品で、吉敷の私生活がハイライトされ、単なる探偵役に留まらない行動をとります。これが強力なサスペンスを生み出すことにもつながっています。犯人当ての要素はありませんが(早い段階でわかります)、奇怪としか言いようのない事件のトリックの大胆さに驚かされます。島田はこのトリックがよほどお気に入りだったらしく、後の作品のいくつかでこのトリックのバリエーションを使っています。ですので本書のトリックがお気に召さない読者は他の島田作品とも相性がよくない可能性が高いと思います。


No.1032 5点 悪魔と警視庁
E・C・R・ロラック
(2016/01/31 23:11登録)
(ネタバレなしです) 序盤が非常に魅力的ですがその後が地味過ぎて盛り上がらないという点でヘンリー・ウエイドの「警察官よ汝を守れ」(1935年)といい勝負の(と言っていいのかな)、1938年発表のロバート・マクドナルドシリーズ第14作の本格派推理小説です。マクドナルド首席警部の車から発見された死体、しかもそれは悪魔の扮装をしていたという出だしは文句なく面白いです。しかしマクドナルドの捜査が非常に地味な描写ですし、登場人物の個性が弱いところは同時代のF・W・クロフツといい勝負です。犯人の正体が早い段階でわかってしまうことの多いクロフツと違って犯人当ての興味を最後まで維持しているところは好感を持てますが、やはりもっと謎解きを盛り上げる演出がほしいところです。


No.1031 6点 光と影
三好徹
(2016/01/31 21:22登録)
(ネタバレなしです) 多作家の三好徹(1931-2021)は一般的には社会派推理小説家として知られていると思いますが、その作品はハードボイルドなら「天使」シリーズ、スパイ小説なら「風」四部作、犯罪小説なら「身代金」シリーズなど実に多岐多彩に渡っており、また非ミステリー作品でも「チェ・ゲバラ伝」(1971年)などが評価が高く、まさにマルチ作家です。残念ながら本格派推理小説には関心が低かったようですが1960年発表のデビュー作である本書は本格派推理小説と社会派推理小説の両方の要素を持ち合わせています。アパートの一室で大物政治家が殺され、非常階段の下で新聞記者が頭を殴られて昏倒しているのを発見された事件を警察と新聞記者がそれぞれ追いかけますが、対立や競争はそれほど際立っておらず政治色も強くありません。ドライな文章で良くも悪くも手堅く生真面目にまとめた作品ですが、使われているトリックが子供のいたずらみたいなものだったのには意表を突かれました。


No.1030 5点 人形パズル
パトリック・クェンティン
(2016/01/31 21:01登録)
(ネタバレなしです) 1944年発表のダルース夫妻シリーズ第3作です。休暇中のピーター・ダルースが軍服を盗まれた上に軍服を盗んだ男が殺人を犯したらしいというプロットの本書は過去2作以上にサスペンスが濃厚、いや完全にサスペンス小説と言っていいと思います。じわじわと真綿で首を絞めるように盛り上がるサスペンスは一級品、ところが創元推理文庫版の巻末解説でも指摘されているように、終盤で挿入された「現代の犯罪」という論文がストーリーの流れをせき止めてしまったような印象を受けました。謎解きは行き当たりばったりで推理要素があまりありません。


No.1029 6点 グラン・ギニョール城
芦辺拓
(2016/01/31 20:38登録)
(ネタバレなしです) 2001年発表の森江春策シリーズ第10作の本格派推理小説で、何と名探偵レジナルド・ナイジェルソープが登場する海外古典本格派推理小説的な世界と森江の登場する現代世界が描かれる風変わりなプロットです。前者を単なるノスタルジーに留めていないのがこの作者ならではで、現実世界との意外な絡ませ方には驚きました。ただこの斬新な仕掛けの提示がやや性急過ぎて頭の回転の鈍い私は整理がなかなか追いつけませんでしたけど。トリックとしては中身が空っぽのはずの甲冑が被害者を抱きしめて墜落した事件のトリックが無茶苦茶ではあるけれど大変面白いアイデアだと思います。


No.1028 6点 ゴッホ殺人事件
長井彬
(2016/01/31 20:20登録)
(ネタバレなしです) 「パリに消えた花嫁」(1989年)以来となる1993年発表の本格派推理小説ですが、結局本書が長井彬(1924-2002)の遺作となりました。本格派推理小説といっても一般的な本格派推理小説のプロットではありません。ゴッホの幻の名画を巡って様々な人間が思惑げに行動する描写が多く、どちらかといえば陰謀の臭いが漂うスリラー小説に近い印象を受けるかもしれませんが最後はちゃんと本格派推理小説として着地しています。作家デビューが1981年と遅かったとはいえこの作者が長編14作に短編集3作しか残さなかったのは惜しまれます。


No.1027 6点 胡蝶の鏡
篠田真由美
(2016/01/30 23:49登録)
(ネタバレなしです) 2005年発表の桜井京介シリーズ第11作で第三部のトップを飾る本格派推理小説で、桜井京介と栗山深春がヴェトナムで活躍します。事件の謎解きよりも家族問題をどう決着させるのかに主眼を置いた物語となっているのは「未明の家」(1994年)を連想しました。それぞれの求める幸せが対立関係になった家族に桜井京介がどのように介入するのかというプロットを上手くまとめ上げています。その分、特に前半はミステリーらしさが薄い印象を受けますが、後半には不可思議な毒殺事件で盛り上げます。ところで本筋からは少し外れますが、作品名を明記はしていませんけど綾辻行人の「十角館の殺人」(1987年)で使われたトリックの一つを完全否定してますね。


No.1026 5点 ベベ・ベネット、秘密諜報員になりきる
ローズマリー・マーティン
(2016/01/28 17:11登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表のベベ・ベネット三部作の最終作で、今度はニューヨーカーに人気のおもちゃ店の経営者となったブラッドリーとその秘書室長のベベがまたまた犯罪に巻き込まれます。本書でも恋と謎解きに大忙しのベベが楽しく描かれていますが、波乱万丈ではあるけれど恋の結末についてはさすがに大方の読者には予想がつくでしょう。ブラッドリーの忠告など完全無視で突き進むベベの捜査描写は読みどころ満載ですが、推理はそれほどでもなく犬も歩けば犯人に当たるといった解決です(まあシリーズ3作目ともなれば謎解き重視派の作風でないことはこちらも承知ですが)。あと、創元推理文庫版の巻末解説の「少し不満もある」には私も賛同します。

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