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ミステリの祭典

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溺れるアヒル
ペリイ・メイスン

作家 E・S・ガードナー
出版日1958年01月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2020/12/12 04:26登録)
(ネタバレなし)
 世界大戦の緊張が高まる40年代の前半。秘書デラとともにカリフォルニアに来ていた弁護士メイスンは、土地の大農場主ジョン・L・ウイザースプーンから相談を受ける。実は、農場主の一人娘で21歳のロイスには、近々出征が決まっている同じ年齢のマーヴィン・アダムズという恋人がいるが、そのマーヴィンの母で未亡人のサラーが先日死亡。サラーは死の間際に、実はお前マーヴィンは本当の子ではない、私と亡き夫ホレイスが赤ん坊の時に誘拐してきた子だと言い残したという。娘の婿候補のマーヴィンにかねてより好感を抱いていたウィザースプーンは、この話に驚愕。私立探偵に過去の詳細を洗わせると、さらにもっと驚く事実が判明した。実はマーヴィンの父ホレイスは18年前に殺人の罪で死刑になっており、母サラーは実父が重犯罪者という事実を息子から隠蔽するため、誘拐云々の話をでっち上げたらしい。マーヴィンへの好感はさておき、殺人者の息子を娘の婿にしたくないという本音を告げたウィザースプーンは、メイスンに18年前の事件の再調査を願う。だが、現在のカリフォルニアでまたも新たな殺人事件が?

 1942年のアメリカ作品。メイスンシリーズの長編、第20弾。

 ……いや、真剣に悩んだすえにその行為に走ったのであろう作中の当事者には本当に申し訳ないが(汗)、触れてほしくない過去(夫=息子の父が殺人罪で処刑された)を秘匿するため、さらにまた突拍子もないややこしいウソ(お前は実は私たちとは他人の、誘拐事件の被害者だよ)をついて世を去ったおっかさんのサラー。このトンデモな序盤の設定には、爆笑してしまった。世の中には本当にいろんな人がいるもんですねえ、という感じ(笑)。
 
 薬品研究をする秀才マーヴィンの探求から、アヒルが溺れるという奇妙な事象が発生。その事実が事件にとりこまれていくが、これってミステリとしての構造にはそんなに深い意味はなかったような(一応の説明は用意されているが)。
 過去と現在の事件の反復のなかで、ちょっとわがままなウィザースプーンや、これからの人生があるマーヴィンとロイス、それぞれの社会的な立場まで考えながら事件をこなそうとするメイスンの言動はかなり頼もしい。
 さらに今回は初めてメイスンが弁護士としてではなく、当初、あくまで傍聴人のひとりとして法廷に入り、新鮮かついらだたしい体験だとする愉快な場面もある。大戦の空気が高まる時勢にあって、リベラルな物言いを放つメイスンのキャラクターもなかなかステキ。

 ミステリとしてはおおむねソツがないとは思うものの、真相が割れても(中略)がもともとあまり書き込まれていなかったため、驚きも謎解き作品としてのトキメキも希薄なのが残念。
 容疑者の範疇に入ってくるキャラクターたちの書き込みがうすいな~と、ときどき思わせるのが、ガードナー作品にしばし見られる弱点だと思う。比べても仕方がないんだけれど、クリスティーはその辺がやはりずっとうまかった。

 物語の掴みは最高、話は好テンポ、ミステリとしての組み立てもなかなか……なんだけれど、それなりの重要度のハズの一部のゲストキャラたちのつまらなさで失点。評点はこんなところで。

No.2 7点 弾十六
(2018/11/24 08:52登録)
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第20話。1942年5月出版。
冒頭はパームスプリングスのホテルで休暇中のメイスンとデラ。やはり主人公とともに何だかわからない事件に巻き込まれて行くこの感じが好きです。地方新聞に動向が乗るほどの有名弁護士メイスンに持ち込まれた依頼は18年前の殺人事件の調査。今は1942年と明示され、出征間近で結婚を急ぐ青年や、この戦争が若者たちを鍛え上げるだろう、といったセリフが開戦直後の雰囲気を感じさせます。豪邸でドレイクと合流し、乾杯は「犯罪を祝して!」(Here’s to crime.) メイスンの無茶な行動はほとんど無く、デラと乗馬を楽しんだり、猛犬を簡単に手なづけたり、路肩でタイヤを交換したり。(ただし危険な助言は結構あり) 舞台がエル テムプロ(El Templo: 架空地名、多分インディオの近く)なのでトラッグはお休み。
法廷ではメイスンは傍聴人席(シリーズ初)でイライラ、最後は「待ってました」の独壇場で得意の攻撃を繰り出し、事件を解決に導きます。
タイトルに動物が登場するの(吠え犬、門番猫、びっこカナリヤ、偽証オウムなど)には傑作が多く、この作品も切れ味がとても良い秀作。
ではトリヴィアです。(◼︎はPerry Mason Bookからのネタ)
銃はライフル銃(rifles)、六連発銃(six-shooters)、散弾銃(shotguns)が登場。詳細不明。
p102「重装の、あの20ゲージの銃を発射して」(You take one of these twenty-gauge guns with a good heavy load): heavy loadは重い散弾(反対語 light load)のことなので「20ゲージの銃で重装弾を発射して」が正確。20ゲージ(.615インチ)は12ゲージ(.729)より小口径で小型鳥獣猟用。
p34「自分が、劇にでてくる主人公のようだと思ってるだろうな。客は腰を打つし…」(must feel he’s like the host in that play where the man broke a hip): この劇はGeorge S. Kaufman & Moss Hart 作の喜劇The Man Who Came to Dinner(1939初演、1941映画化 日本未公開)とのこと。(某Tubeに楽しそうなトレイラーあり) ◼︎
p36「パリス型石膏」(a plaster of Paris cast): ギプスのこと。
p120「清浄剤」(detergent) :「界面活性剤」が正訳。翻訳時(1958)には普及していなかったのかな? 現在「清浄剤」は界面活性作用ではなく、化学作用や物理作用で汚れを落とす洗剤に使われる。なお米国でも本書出版当時detergentは一般家庭で使用されておらず、ライフ誌1939-2-27号に“Aerosol Makes Even Ducks Sink”という記事が載ったとのこと。◼︎
p125「シカゴのセントラル・サイエンティフィック商会、ニューオルリーンズのナショナル・ケミカル商会、ニューヨークのアメリカン・シアン・ケミカル会社」(Central Scientific Company of Chicago, National Chemical Company of New Orleans, and American Cyanamid and Chemical Corporation in New York): いずれも当時実在の会社です。作者はAmerican Cyanamidの社員(その娘は後年のミステリ作家Sally Wright)に取材したので、ここで一つ宣伝、ということでしょう。◼︎
p181「われわれアメリカ人全部にとっても、このあたりで、ひとつがんと喰らわされるのはよいことかもしれないんだ」(It might be a good thing for all of us to get jolted out of it.): 後段で「(我々は)戦争に一度も負けたことがない」と言っています。当時はまだ日本軍も善戦中。(ミッドウェー海戦は1942年6月)

<ちょっと誤訳>
p31「マーヴィンは、研究所の実験に生き物を使用するには、ちょっと神経質すぎると思うよ。」(I think he’s a bit sensitive about using live things in laboratory experiments.) heの直前に話に出てくる男性はFatherだけなので、内容から言っても「お父さんは随分気にするだろうと思う」ということですね。
p87「昔、毒ガス室で、犯罪者を死刑にしたものと同種のものだ。」(It’s the same kind they use to execute criminals in a gas chamber.): 当時バリバリの新方法(カリフォルニア州では1938年からガス室実施)なので、変だと思いました。used toの見誤り。

No.1 5点 nukkam
(2016/03/21 06:46登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のペリイ・メイスンシリーズ第20作です。タイトル通り「溺れるアヒル」が大事な手掛かりではありますが、それよりも複雑な人間関係が生み出す複雑な犯罪をどうメイスンが解きほぐすかで読ませている作品です。真相は丁寧に説明されていますが、第二の事件の方は心理描写の少ないこのプロットでは説得力が十分とは言えないような気もします。

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