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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.1065 5点 検事鵞鳥を料理する
E・S・ガードナー
(2016/02/15 01:59登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のダグラス・セルビイシリーズ第5作です。助けを求める女性からの電話を受けたセルビイがバス停留所へ駆けつけると赤ん坊の入ったゆり籠が残されていて電話をかけたと思われる母親は行方不明、しかも赤ん坊の父親は死んだばかりの財産家らしいという事件が起きます。果たして赤ん坊の将来はどうなるのかというメロドラマ風な展開を見せます(一時的に赤ん坊を預かるブランドン保安官の夫人が実にいい味を出してます)。謎解きプロットも強敵弁護士のA・B・カーはもちろん、女性弁護士のアイネズ・ステーブルトンやラーキン警察署長までもがセルビイの捜査に干渉して二転三転する複雑なもので、セルビイがいかにして事件解決するかの興味をうまくつなげて終盤へなだれ込みます。


No.1064 5点 浮遊封館
門前典之
(2016/02/15 00:30登録)
(ネタバレなしです) 2008年発表の蜘蛛手啓司シリーズ第3作の本格派推理小説です。墜落した飛行機の乗客の死体の大量消失、宗教団体の訓練所からの信者たちの消失、身元不明死体の消失と不可解な消失事件が相次ぎ、さらには死体の周囲に犯人の足跡がない雪密室と謎の大盤振る舞いです。怪しげな宗教団体を登場させて組織犯罪の可能性を漂わせているところは好き嫌いが分かれそうです。犯罪の影にある異常な狂気とその犠牲になった被害者の哀れさが印象的ですが、余りに非合理的な真相は本格派の謎解きには向いていないような気もします。


No.1063 6点 サロメの夢は血の夢
平石貴樹
(2016/02/14 05:18登録)
(ネタバレなしです) 2002年発表の本格派推理小説で、更科ニッキシリーズの中編集「スラム・ダンク・マーダー その他」(1997年)に登場した車椅子の女性弁護士、ヤマザキ千鶴が探偵役になっていたのに驚かされます(本書では山崎千鶴と表記されてます)。更科ニッキも脇役としてちょっとだけ登場していますが本書では山崎千鶴との接触はなく事件解決にも貢献していません(登場人物リストにも載っていません)。作者は冒頭で「内的告白」、つまり犯人を含む登場人物の視点や考えていることを読者に対してオープンにしながら同時にフェアな犯人当て謎解きを両立させることに挑戦することを宣言しています。これは非常に独創的な試みでその挑戦意欲は高く評価されるべきでしょう。ただ人物視点の切り替えが非常に早くて誰が誰だか頭の整理が大変でしたし、事件自体は絵画的で派手な内容ながら謎解きは細かいアリバイ調査中心の地味なもので物語としての起伏が不足しているように思います。山崎千鶴も何の脈絡もなく容疑者の一人とベッドインしたりしていて理解しづらいキャラクターでした。


No.1062 5点 死人狩り
笹沢左保
(2016/02/10 13:15登録)
(ネタバレなしです) 1965年発表の本書はタイトルに「狩り」という言葉が使われていたのでアクションを伴うサスペンス小説かと最初思ってましたが地道な捜査の本格派推理小説でした。走行中のバスが散弾銃で狙撃されて海中に転落、乗っていた27人全員が死亡という大事件が発生します。警察の捜査会議で乗客の1人を殺すための緻密な計画に基づく犯行と判断されます。真に狙われた被害者は誰なのか、被害者の身辺捜査のことを「死人狩り」と命名したのです。犠牲者が27人もいるため関係者(容疑者)も含めるとかなりの人数が登場しますが、一つ一つの捜査は簡単に終わるので意外と読みにくくはありません。ある手掛かりから容疑者を絞り込んでいますが現代の読者にはこの推理はぴんとこないと思います(当時の常識だったのでしょうか?私にはわかりません)。それ以上に気になったのがそもそも捜査の最初であのことを(ネタバレになるので詳しく書けないのですが)考えつかなかったのが不思議でなりません。徳間文庫版では意外性を誉めていますが、個人的には意外でも何でもないと思います(私でさえ可能性として考えたぐらいですから)。ものすごく遠回りして解決に至っているという印象が残りました。


No.1061 6点 錦絵殺人事件
島田一男
(2016/02/10 12:53登録)
(ネタバレなしです) デビュー作の「古墳殺人事件」(1948年)と共に1949年発表の長編第2作の本書は島田としては異色の作品として評価されています。派手な舞台、いかにも怪しげな登場人物たち、伝奇要素、惜しげもなく投入されるトリックの数々と、充実の本格派推理小説です。あるサイトで横溝正史の「本陣殺人事件」(1946年)を連想させると感想されていましたが、私もその通りだと思います。その一方で行方不明の元子爵や遺族間に遺恨を残す遺言状などの設定は、本書が横溝の後年作である「犬神家の一族」(1950年)や「悪魔が来りて笛を吹く」(1951年)に影響を与えたと推測してもおかしくありません。両者を比較して読むのも面白いと思います。本書以降の島田は軽快でスピーディーな作風に路線変更して大変な人気作家となったのですが、(その成功に難癖つけるつもりは毛頭ありませんけど)歯ごたえのある本格派推理小説を書かなくなったのは個人的には残念です。


No.1060 6点 ふとった神の死
H・R・F・キーティング
(2016/02/10 12:19登録)
(ネタバレなしです) 英国の男性作家H・R・F・キーティング(1926-2011)は「パーフェクト殺人」(1964年)に始まるインドを舞台にしたゴーテ警部シリーズが有名ですが、それより前にも長編5作ほど発表しており、1963年発表の本書もその一つです。いきなりオペラの演技場面で物語が始まるため、ちょっととっつきにくい出だしだと思います。また歌手の1人であるジャン=アルタバンの性格の悪さはよく描けていると思いますが、オペラでの死体役なのに起き上がって芝居を台無しにしかねなかった行動の意図についての説明がないのもちょっと不満です(私が見落としたかもしれません)。とはいえ本格派推理小説としてしっかり作られており、具体的な証拠は不足気味ながらも最終章で探偵役のクラッグス夫人が容疑者を絞り込んで犯人を指摘する場面はなかなかスリリングで、解決後の締めくくりもなかなか小粋な演出がなされています。


No.1059 5点 英雄の誇り
ピーター・ディキンスン
(2016/02/10 12:10登録)
(ネタバレなしです) 1969年発表のピブルシリーズ第2作の本格派推理小説で、CWA(イギリス推理作家協会)のゴールデン・ダガー賞を受賞しました。「ガラス箱の蟻」(1968年)と本書で2年連続受賞したというのはさすがに凄いと思います。20世紀でこの快挙を達成したのはディキンソンとルース・レンデル(一つはバーバラ・ヴァイン名義作品)ぐらいではないでしょうか。テーマパーク風の大邸宅というこだわりの舞台に加えて登場人物もかなりエキセントリックです。おまけにライオンまで登場します。プロットも凝っており、最初は謎らしい謎もないのですがピブルの捜査で次々に謎が増えていき、思わぬ危機に意外な助っ人と予想を超える展開でした。しかしどこか回りくどい語り口のせいか全般的に読みにくく(私の読解力のなさも一因ではありますが)、再読するほどに味わいの出てくるタイプかもしれません(私はその気になれませんけど)。


No.1058 5点 宿命と雷雨
多岐川恭
(2016/02/08 02:21登録)
(ネタバレなしです) 松本清張責任監修による「新本格推理小説全集」の10冊の1冊として1967年に発表された作品です。8月中旬の雷雨の夜に死ぬという予言に怯える建設会社社長から予言した及川和泉という女性の調査を社長秘書の坂出が命じられるプロットです。事件がかなり後半にならないと起きない上に及川和泉が予言者としてよく当たるのかというのは謎としての魅力に乏しく、サスペンス的には物足りません。光文社文庫版の巻末解説では「人間の謎を追及した推理小説」と紹介されていますがまさしくその通りで、第三者である坂出の視点を通じて登場人物の心理描写に重点を置いています。私はエラリー・クイーンの「十日間の不思議」(1948年)を連想しました。坂出が推理する場面もありますが真相は彼の独力では明らかにならず劇的な最終章で場当たり的に解決しており、本格派推理小説というよりサスペンス小説に分類すべき作品だと思います。


No.1057 4点 クッキング・ママと仔犬の謎
ダイアン・デヴィッドソン
(2016/02/08 02:11登録)
(ネタバレなしです) 2011年発表のゴルディシリーズ第16作の本書は集英社文庫版で650ページ近くあってこのシリーズとしては大作ですが、最初から最後までテンションを落とさないのはさすがです。もはやあきらめの境地に達したのかゴルディの探偵活動や捜査への口出しを夫のトム(刑事)はある程度は大目に見ているような感がありますが、それにしても血を見ると気絶してしまう容疑者の口を割らせるのに血を見せてやれというゴルディの過激な発言は断固注意しろよと言いたくなります(笑)。いくつかの伏線を張ってあるとはいえ推理する手掛かりとしては十分でなく、場当たり的解決に留まっているのが残念です(真相自体もあまり魅力あるものではありませんでした)。


No.1056 5点 火の神の熱い夏
柄刀一
(2016/02/08 02:06登録)
(ネタバレなしです) 2004年発表の南美希風(みなみみきかぜ。男性です)シリーズ第1長編で、光文社文庫版で250ページに満たないコンパクトな本格派推理小説です。短いながらも謎解きは充実しており、転々とする容疑と論理の積み重ねによる推理を楽しめます。但しトリックについてはわざと曖昧な説明に留めているところがあって、読者によってはすっきり感が味わえないと不満を抱くかもしれません。まあ放火トリックなどは詳細かつリアルに説明して、実社会で模倣犯罪が発生しては作者も責任の取りようがないと開き直られたら仕方ないような気もしますが。犯人当てとしてはきちんと成立しています。


No.1055 6点 トランプ殺人事件
竹本健治
(2016/02/08 01:49登録)
(ネタバレなしです) 1981年発表の牧場智久シリーズ第3作で、ゲーム三部作の最終作です。密室の謎解きもありますが暗号解読に力を入れた本格派推理小説です。角川文庫版の作者あとがきによれば、ホワットダニット(何が起こっているか)を追求した作品です。トランプ(カード)に関する用語説明が半端ではありませんが、その中にも謎解き伏線が忍ばせてあったりして油断なりません(といっても私は読み飛ばしに近かったのですが)。探偵役としては須藤信一郎の登場場面が少なく、その分牧場智久が前面に出てようやくシリーズ主人公らしくなります。狂気三部作の第2作でもあるのですが、狂気描写は思っていたより控え目なので私にも耐えられました(笑)。時々わけのわからない表現や文章が登場するし、結末はかなりひねくれていますがプロットは意外とストレートで読みやすく、ゲーム三部作の中では奇想と読みやすさのバランスがよくとれた作品だと思います。


No.1054 5点 折鶴が知った…
日下圭介
(2016/02/07 04:20登録)
(ネタバレなしです) 26の長編と18の短編集を残した日下圭介(1940-2006)はジャーナリスト出身者ですが、「新聞記者が推理小説を書いたと聞いて『ははあ、社会派』と先回りする人が多い。勘弁してほしい」と述べているように国内ミステリーで人気の高い社会派推理小説には背を向け、フレンチ・ミステリーに影響を受けたサスペンス小説と本格派推理小説が創作の中心でした。1977年発表の長編第3作の本書は前者に属する作品です。私はフランスのサスペンス小説を読んでいないので比較はできませんが、婚約破棄の理由がはっきりしない上に殺人犯と疑われてしまった主人公(結城京子)が被害者の家族につきまとわれるプロットはサスペンス豊かで、作者がねらった「過去の傷痕を負った人間たち」「穏やかな川面の下の暗い底流」「激しく静かなドラマ」が過不足なく描かれています。また折鶴や絵葉書や不思議なメッセージが謎を深め、終盤にはよく考えられたアリバイ崩しがあるなど本格派も意識したようなところがあります。最後は自白に頼ってしまったため本格派になりきれていませんが。


No.1053 5点 北斎殺人事件
高橋克彦
(2016/02/07 04:02登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の浮世絵三部作の第2作です。歴史の謎解きと現代の謎解きの二段構えであるところは前作の「写楽殺人事件」(1983年)と同じです。現代の謎解きは捜査場面の描写も少ないまま終盤に唐突に解決されている感があります(読者が推理に参加する余地もほとんどありません)。最初は津田良平のサポート役と思えた風俗史研究家の塔馬双太郎(既に本書以前のいくつかの短編で活躍しているのですが)は後半になると単独行動が目立つようになり、どちらが主人公なのか困惑した読者もいたのではないでしょうか。前作から改善されたと思えるのは歴史の謎解きで、説明がわかりやすく整理されていて歴史知識のない私でもそれほど退屈しませんでした。事件の悲劇性がひしひしと伝わってきますが、それでいて結末はどこかさわやかな後味を残します。


No.1052 7点 雨月荘殺人事件
和久峻三
(2016/02/07 03:50登録)
(ネタバレなしです) ジョー・リンクス原案、デニス・ホイートリー著の「マイアミ沖殺人事件」(1936年)に代表される捜査ファイルシリーズに影響を受けて1988年に発表された「公判調書ファイルミステリー」です。ホイートリーの二番煎じと批判される方もおられるとは思いますが、完成に5年をかけて発表されただけあって細部に至るまで丁寧に作り上げられた、(変な表現ですが)一級の二番煎じ作品です。私が読んだのは約550ページから成る双葉文庫版ですが、前半の100ページほどが6回に渡る市民セミナー、残り約450ページが10回に渡る公判調書の構成となっています。読者は市民セミナーの講師の指示にしたがって公判調書で使われる専門用語を学ぶと共に事件について推理できる仕掛けとなっています。現場図や写真も用意されていますが圧巻は証人たちの証言で、これが一癖も二癖もあるところが本書をミステリーならしめています。動きや感情の表出の描写がないため小説らしさを犠牲にしているのはやむを得ませんが、単に記録を後追いするのではなく読者が推理に参加できる本格派推理小説として完成度は非常に高いです。


No.1051 5点 女囮捜査官  触姦
山田正紀
(2016/02/07 03:40登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表の北見志穂シリーズ五部作の第1作です。もともとのタイトルは「女囮捜査官1 触姦」という、かなり過激なタイトルでした。エログロシーンはそれほど過激なものではなく(全くないわけでもないが)、タイトルで官能サスペンスと思われて敬遠されるか、官能サスペンスを期待して読んで裏切られるか、いずれにしても本書のタイトルはネーミング失敗だと思います(笑)。メルカトルさんのご講評に私も賛成で本書は警察小説かと思います。私のイメージする山田ミステリーは幻想的な作風なのですが本書はそんな要素は全くなく、ある意味ハードボイルド的にドライで明快なストーリー展開で、読みやすさ抜群でした。体当たり捜査だけでなく随所で推理場面もあるところは本格派推理小説的でもあります。といっても序盤で容疑者が勢ぞろいして犯人当てに挑戦するというタイプの作品ではありませんが。


No.1050 6点 火曜日ラビは激怒した
ハリイ・ケメルマン
(2016/02/07 03:29登録)
(ネタバレなしです) 1973年発表のラビ・スモールシリーズ第5作です。ユダヤ思想と哲学の講師としてウインダミア大学で講師をすることになったラビが描かれていて学園ものとしても意外と面白く、何も知らないのに意見だけはやたらと持っている大学生をラビがどう対応していくのかが興味深く読めました。ラビは事件捜査にはあまり積極的に関わりませんが、それでも謎解き伏線はしっかりと用意されており本格派推理小説としても十分な水準は保たれています。


No.1049 6点 憑かれた夫
E・S・ガードナー
(2016/02/07 03:14登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のペリイ・メイスンシリーズ第18作です。ヒッチハイクでロス・アンジェルスへ向かう女性が大型車に乗せてくれた運転手に車中で襲われ、抵抗する内に車が横滑りして数台に衝突し、女性が気づいた時にはなぜか運転席でハンドルを握っていて運転手が消えていたという事件で幕開けしますが、プロットは地味で法廷場面も盛り上がりを欠き、真相は結構入り組んでいますのでじっくりと読むことを勧めます。第19章でメイスンが「生物でない手掛かりは余り重視しない方がいい。それよりも動機だとか機会だとかいうものを分析してみて、どういうことが起こったかを推理する方がずっと効果が大きい」と語っているのが興味深いですね。


No.1048 6点 今はもうない
森博嗣
(2016/02/07 00:03登録)
(ちょっとネタバレになったかもしれません) 1998年発表のS&Mシリーズ第8作です。私の読んだ講談社文庫版では「シリーズナンバーワンに挙げる声も多い」と絶賛されていますが、どちらかといえば読者を選ぶ問題作ではないかと思います。確かに私にとってシリーズ作品で最も驚かされた作品ではあるのですが、シリーズ作品をある程度読んだ人でないと驚きを味わえない仕掛けになっています。仮に本書が初めて読んだS&Mシリーズだと何が何だかわからないのではないでしょうか。密室トリックを巡って次々に仮説が飛び交う本格派推理小説としても楽しめますが(現場見取り図は欲しかった)、前述の仕掛けのためにメインの謎解きが霞んでしまったような気もします。シリーズ作品としては評価7ですが、単独作品としては評価5といったところでしょうか。


No.1047 6点 月をのせた海
陳舜臣
(2016/02/06 23:57登録)
(ネタバレなしです) とてもミステリーとは思えないような美しいタイトルですが、1964年発表の本書はアリバイ崩しの本格派推理小説です。徳間文庫版で250ページに満たない短さのためか好都合過ぎな展開で犯人にたどり着いている感じを受けますが、謎解きよりも人物描写の妙が印象的な作品でした。自身の容疑を晴らすために恋人同士の男女が探偵役となるプロットですが、特にヒロイン役の小夜子の芯の強さは強烈な個性となっています。ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか微妙な幕引きも作品の個性だと思います。


No.1046 5点 薫大将と匂の宮
岡田鯱彦
(2016/02/06 23:47登録)
(ネタバレなしです) 岡田鯱彦(おかだしゃちひこ)(1907-1993)は大学教授が本業でミステリーの執筆は余技の域を出なかったようですが、1950年発表の長編第2作の本書は代表作として評価の高い本格派推理小説です。歴史ミステリー自体、当時の国内ミステリーでは非常に珍しかったと思いますが、舞台を紫式部の「源氏物語」という古典文学の世界を下敷きにしているのが非常にユニークです。ちなみにオリジナルの「源氏物語」は中途半端な終わり方から未完説と完成説があるそうですが岡田は未完説に準拠して本書を書いたそうで、未完に終わった「源氏物語」の続編があり、しかもそれが世界最古の探偵小説だったという内容です。紫式部の探偵ぶりは「合理的な理屈を積み重ねて行って事件の謎を究める」のでなく「個人の感情による直感」頼りのため非常に心もとないのですが、最後は推理で解決に至っています。「源氏物語」をよく知らない読者(私もその1人)でも困らないように人物関係の説明は丁寧ですが、それでも登場人物が男か女か名前だけではわかりづらいのは辛かったです(薫(男性)、匂の宮(男性)、中宮(女性)、中君(女性)など)。

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