nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.1145 | 4点 | 悪魔が来りて笛を吹く 横溝正史 |
(2016/04/24 22:13登録) (ネタバレなしです) 1951年発表の金田一耕助シリーズ第8作の本格派推理小説です。横溝には「悪魔」をタイトルに使っている作品がいくつかありますがその中でも本書は最もそれにふさわしく、特に第16章の最後の文章には戦慄さえ感じます。謎解きは不満点が多く、ある手掛かりが文章では読者に伝わりにくいものであることや、何よりも淡路島の事件の真相は反則技にしか感じられません。しかし戦後の混乱期と没落貴族の描写はさすがですし、インパクトのある悲劇ドラマとして読ませる作品です。 |
No.1144 | 6点 | 白魔の歌 高木彬光 |
(2016/04/24 16:54登録) (ネタバレなしです) 1958年発表の神津恭介シリーズ第9作の本格派推理小説です。このシリーズとしては変わったプロットで、死体の演出こそ派手ですが物語のテンポは遅めでトリックへのこだわりもなく、全体的には地味な作品です。空さんのご講評の通り、プロットのバランスが悪いように感じます。神津恭介の真相説明はそれほど論理的ではありませんが虚しさの残る結末の効果がよく効いていて、推理への不満をそれほど感じさせませんでした。 |
No.1143 | 6点 | 三つの消失 ピエール・ボアロー |
(2016/04/24 16:40登録) (ネタバレなしです) フランスのピエール・ボアロー(1906-1989)はフレンチミステリー界では数少ない本格派推理小説の書き手です。1938年発表のアンドレ・ブリュネルシリーズ第3作の本書は冒険小説大賞(冒険小説でなくても受賞できるようです)を獲得した代表作です。本格派ですがいきなり殺人犯が現行犯も同然で捕まってしまう展開に驚かされます。本書のメインの謎解きは消失トリックというのがなかなか新鮮です。第一の絵画消失は不可能犯罪としてはそれほど魅力的な謎ではありませんが(隠し場所はいくらでもありそうなので)、第二、第三の消失は結構派手な謎で読者を魅了します(但しトリックには多くを期待してはいけませんけど)。なお本書はトーマ・ナルスジャック(1908-1998)のサスペンス小説「死者は旅行中」(1948年)と一緒に晶文社版で「大密室」という大仰なタイトルで出版されていますので、本書を探す場合は「大密室」を忘れずに。 |
No.1142 | 4点 | 旅のお供に殺人を コリン・ホルト・ソーヤー |
(2016/04/23 23:02登録) (ネタバレなしです) 1997年発表の<海の上のカムデン>シリーズ第8作でシリーズ最終作です。舞台はいつもの<海の上のカムデン>ではなく、この老人ホームの住人たちが何とメキシコ旅行に行って色々な出来事に遭います(メキシコ情緒はなかなかよく描けています)。アンジェラとキャレドニアが(特に前者は)好奇心から事件の謎解きに取り組むのがこのシリーズのパターンですが、本書に関しては殺人事件が起きているにも関わらず犯人探しのプロットにならず、推理要素の薄いトラベル・ミステリー調なのが異色です。どちらかといえば巻き込まれ型冒険スリラー色が濃いです。個人的には犯人がべらべらと自白して真相がわかる展開はあまり好みではないのですが。 |
No.1141 | 4点 | 破壊者 ミネット・ウォルターズ |
(2016/04/17 22:34登録) (ネタバレなしです) 1998年発表の長編第6作です。創元推理文庫版の巻末解説ではウォルターズ作品の中では伝統的な謎解き小説の要素が強いと評価していますが、あまりそれを感じることができませんでした。kanamoriさんのご講評の通り、読者が犯人当てに挑戦するようなタイプではありません。もともとこの作者は意図的に不快なものを読者に突きつける傾向がありますが、特に本書では文章表現が猥褻だったり汚かったりする度合いが過剰気味で、とても「伝統的」とは言えないと思います。むしろ非情なハードボイルド小説が好きな読者の方が本書を受け入れやすいと思います。 |
No.1140 | 5点 | 女には向かない職業 P・D・ジェイムズ |
(2016/04/17 22:24登録) (ネタバレなしです) 1972年発表のコーデリア・グレイシリーズ第1作で、アダム・ダルグリッシュシリーズ第5作ですが、後者の出番は終盤のみでコーデリアがほとんど出ずっぱりのプロットです。22歳の若い女性探偵を主役にしていますが、感情をほとんど表に出さずに淡々と捜査を進めていて、まるで年齢不詳(笑)。アクションシーンなどないにも関わらず、一部でハードボイルドの女性探偵の先駆のように評価されるのも(私はハードボイルドをほとんど読んでないのですが)なんとなく納得です。謎解きとしてはそれほど凝ったものではありませんが、真相が明らかになってからの展開で読ませる作品です。比較的コンパクトな作品ですがそれでも重厚でじっくりした筋運びで読みやすくはないところがこの作者らしいです。 |
No.1139 | 5点 | 殿下とパリの美女 ピーター・ラヴゼイ |
(2016/04/17 22:01登録) (ネタバレなしです) 1993年発表のバーティシリーズ第3作です。実在した女優サラ・ベルナールを探偵パートナーとして登場させているのが本書の特徴で、ドロシー・L・セイヤーズの「死体をどうぞ」(1932年)を連想させるプロットはなかなか読ませます。残念ながら推理説明が十分でなく唐突感の残る解決になっています。作者の関心は既にピーター・ダイヤモンドシリーズに移っていたようで、この後の本シリーズは若干の短編が書かれただけのようです。 |
No.1138 | 5点 | クッキング・ママのクリスマス ダイアン・デヴィッドソン |
(2016/04/17 21:55登録) (ネタバレなしです) 2007年発表のゴルディシリーズ第14作です。「クッキング・ママの鎮魂歌」(2004年)の続編的な内容でであるけでなく重大なネタバレをやっていますので、ぜひともそちらを先に読むことを勧めます。クリスマスの雰囲気はあっさり目ですが冬の季節感はなかなかよく描けています。今回はゴルディが推理で犯人にたどり着いていますがかなり飛躍した推理のようで、頭の悪い私にはなぜそういう結論になったのかよくわかりませんでした。 |
No.1137 | 4点 | 写楽殺人事件 高橋克彦 |
(2016/04/17 21:24登録) (ネタバレなしです) 高橋克彦(1947年生まれ)はホラー小説、歴史小説、SF伝奇小説など幅広い作風で有名ですが、1983年発表のデビュー作である本書は歴史本格派推理小説で浮世絵三部作の1作目です。前半は主人公である津田良平が東洲斎写楽の素性を調べていく歴史の謎解き、後半は現代で起きた殺人事件の謎解きです。歴史にも美術にも疎い私は「写楽別人説」の章あたりまでは何とか付いていけましたけど、そこから先はもういけません。頭の中が真っ白状態のままで機械的にページめくりです(ひどいな)。殺人事件の謎解きも推理要素は少ないし、犯人当てとして楽しくありませんでした。しかし事件の背後にある事情や犯人の計画は複雑で緻密に考えられており、仮に推理の手掛かりを文中に忍ばせてあったとしても読者が完全に見抜くのは難しいでしょう。歴史の謎と現代の謎の関連づけがしっかりしているのも本書の良い一面だと思います。 |
No.1136 | 6点 | 火焔の鎖 ジム・ケリー |
(2016/04/17 05:42登録) (ネタバレなしです) 2004年発表のフィリップ・ドライデンシリーズ第2作です。創元推理文庫版では「現代英国探偵小説の白眉」と紹介されていますが推理については説明があっさりしており、人間関係や事件の悲劇性の描写の方が印象に残ります。舞台となる沼沢地帯の描写もなかなかの筆力を感じさせます(意外にも乾いた雰囲気でした)。プロットはやや複雑にし過ぎたかという気もしますが。 |
No.1135 | 5点 | 沈黙の函 鮎川哲也 |
(2016/04/16 22:47登録) (ネタバレなしです) 1978年発表の鬼貫警部シリーズ第18作の本格派推理小説ですが鬼貫警部の出番は最後の2章のみです。その鬼貫が第8章の終わりで「伏線というやつはそれが伏線であることに気づかれてしまうと、今度は弱点となる場合が多い」と述べていますが、トリックを弄するための不自然な行為が目だっていて犯人の正体はわかりやすいと思います。そのトリックも結構シンプルで、底の浅い謎解きという印象を受けました。まあ個人的には複雑なアリバイ崩しよりはまだありがたいのですが。 |
No.1134 | 5点 | 二人のウィリング ヘレン・マクロイ |
(2016/04/13 12:58登録) (ネタバレなしです) 1951年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第9作の本格派推理小説で、シリーズ前作「暗い鏡の中に」(1950年)と並ぶ問題作です。「暗い鏡の中に」の方は物語の締めくくり方が不条理で好き嫌いが分かれそうですが、そこを普通の結末に置き換えることは十分可能でしょう。しかし本書の場合は謎解き真相自体がとても大胆で、これは変更は無理でしょう。抑制の効いた文章で描いているので一度読んだだけだとインパクトが伝わりにくいのですが、読めば読むほどにいかにとんでもない真相なのかがわかります。万人受けは望めそうにないとんでもなさですが。 |
No.1133 | 5点 | 笑うきつね フランク・グルーバー |
(2016/04/09 23:14登録) (ネタバレなしです) 1940年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第2作のユーモアハードボイルドです。2人がまたまた死体を発見して容疑者となってしまい、真犯人探しに乗り出すという典型的パターンです。死体を発見した時に側で生きていた狐(本物です)が次に見たときには何者かに射殺されていたという風変わりな謎も魅力的で、更には20年前の少年失踪事件まで絡んできて、軽快でスピーディーなテンポと複雑なプロットの組み合わせで読ませます。しかし本書を本格派推理小説として評価しようとすると真相がそれなりに意外なだけに読者が推理で犯人当てするのに十分な謎解き伏線があったとは思えないのがとても残念。最後はハードボイルドらしく暴力的に決着させています。といってもこの作者らしく、さほど痛々しい暴力描写ではありませんけど。それから第10章のギャンブル対決描写のサスペンスが出色でした。 |
No.1132 | 5点 | 幻女殺人事件 岡村雄輔 |
(2016/04/09 08:05登録) (ネタバレなしです) 1954年発表の長編第3作の本格派推理小説でシリーズ探偵は登場しません(但し秋水魚太郎シリーズで共演している熊座警部補は登場しています)。謎解きは凝っていて、雪の上に犯人の足跡がない雪密室、幻のような「雪女郎」の目撃談、アリバイ崩しなどの数々の謎があり、容疑者は最終的にはわずか4人に絞られるのですが推理の結果、何と4人とも犯人ではあり得ないという、ジル・マゴーンの「騙し絵の檻」(1987年)みたいな展開になったのは驚きました(無論最後は犯人が特定されます)。さらにはどの手掛かりがどの章にあったかまで説明しています。(散発的ながら)容疑者たちの心の動きを描写して物語に深みを加えようとしているのもこの作者らしいです。こうした色々な長所がありながらも複雑な謎解きの説明が上手くなくてわかりくいので損をしています。この謎解きなら現場見取り図は欲しかったですね(第二の事件の謎解きは理解しきれませんでした)。なお本書は現代仮名遣いに改訂された「岡村雄輔探偵小説選Ⅱ」(2013年)で読むことを勧めます。 |
No.1131 | 5点 | 知床岬殺人事件 皆川博子 |
(2016/04/06 19:48登録) (ネタバレなしです) 皆川作品は凝ったタイトルが多いのですが1980年代にはシンプルに「殺人事件」を付けただけの作品をいくつか書いています(出版社の意向らしいです)。それにしても西村京太郎のトラベルミステリーブームに便乗したかのようなタイトルで1984年に本書を発表したのは当時の読者は驚いたことでしょう。とはいえ内容は西村作品とは全く異なります。前半は二重人格の恐怖におびえる女性を描いていますがサイコサスペンスにはならず、しかも中盤以降はこの人の影が薄くなってしまいます。逆に前半では存在感がいまいちだった人物が後半は探偵役として頑張っていますが、重大なトリックを見破るのはこの人ではないなどどこか違和感を覚えるプロットです。登場人物間の微妙な緊迫感や対立を巧妙に描いており、意外なところに伏線が張られた本格派推理小説として楽しめたのですが、妙なタイミングで官能描写を入れたのは余計だったような気もします。せっかくの叙情性が台無しになりかねません。 |
No.1130 | 5点 | 悩むウェイトレス E・S・ガードナー |
(2016/04/02 22:47登録) (ネタバレなしです) 1966年発表のペリー・メイスンシリーズ第77作ですが、ミステリージャンル分類は悩みそうです。法廷場面はありますが短めなので法廷スリラーとしては物足りないし、メイスンの説明にはどうやって犯人を特定したかの推理がなく、はったりで犯人に罠を仕掛けて解決しているので本格派推理小説としては合格点をあげられません。(消去法ですが)個人的にはサスペンス小説と評価しました。メイスンが「底深い、おそらくは危険な謀略」に巻き込まれつつありそうな不幸な依頼人を助けようとあの手この手を打つのですが、今回は抜け目のない登場人物が多くて(名前のない脇役ながらタクシー運転手さえもそうでした)、最後まで予断を許さない展開が続きます。メイスンをやっつけることにご執心のハミルトン・バーガー地方検事が今回は(協力的とは言わないまでも)意外と潔い態度だったのには驚きました。 |
No.1129 | 5点 | 優しい密室 栗本薫 |
(2016/04/02 13:19登録) (ネタバレなしです) 1981年発表の伊集院大介シリーズ第2作の本格派推理小説で、女学校時代の森カオル(17歳)との出会いが描かれています(「鬼面の研究」(1981年)では18歳と回想されていますが)。カオルの1人称形式の青春物語でもありますが、孤立しているとまでは言わないまでも親友らしい親友がおらず(「ぼくらの」三部作の栗本薫(男性)とは大きく違います)、かなり内向的で他人批判精神が強い印象で描写されます。しかし伊集院への対抗心で探偵意欲が刺激されたか後半はかなり行動的になり、これがサスペンスを生み出します。警察と協力関係にある伊集院と違ってこちらは完全にアマチュア探偵、不十分な情報をもとに推理に推理を重ねますがやはり頼りなさは否めません。しかし密室トリックを見破ることに関してはかなりいい線まで迫っており、全くの無能探偵というわけでもありません。伊集院の捜査描写が全くないので読者(カオルと同じ条件)としては謎解き手掛かりがフェアに与えられていると感じにくいのが弱点だと思います。 |
No.1128 | 5点 | 噂のレコード原盤の秘密 フランク・グルーバー |
(2016/03/31 12:06登録) (ネタバレなしです) 1947年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第10作で、シリーズ第1作の「フランス鍵の秘密」(1940年)と同じホテルが舞台になっています(前作ネタバレはありません)。いきなり男が女を殺す場面で始まりますが犯人の正体は終盤まで伏せられており、最後に事件関係者を一堂に集めてジョニーによって犯人が指摘されます。この集め方が凝っていて、ジョニーが会社に乗り込んで臨時の株主総会を開催させるというのがなかなかの見所です。しかしやはりこのシリーズの他の作品と同じく、犯人当て要素はあっても本格派推理小説の謎解きとしては多くを期待できません。推理は論理的でなく、証拠についても(犯人自身が指摘していますが)決定力がなく、結局(サムは気づきましたが)はったりで押し切っています。やはり軽めのハードボイルドとして、あの手この手の金策(今回は恒例のボディービル商売はできません)に奔走するジョニーとそれに振り回されるサムのでこぼこコンビぶりを楽しむのがよいと思います。 |
No.1127 | 5点 | 空洞星雲 森村誠一 |
(2016/03/29 20:13登録) (ネタバレなしです) 新本格三部作の第2作として1980年に発表された作品で、社会派推理小説要素の強かった第1作「太陽黒点」(1980年)と比べると密室にアリバイ崩しと本格派推理小説らしさを感じることができます。「太陽黒点」の登場人物の何人かが再登場しているので、先にそちらを読むことを勧めます。密室トリックはやや肩透かしトリックですが、アリバイトリックはなかなかよく考えられています。現代ではあまり見られなくなった器具が使われているのですが、細部まで丁寧に説明してあるので古いけど古臭くは感じませんでした。犯人探しとしては不満があり、これなら「殺意の分業発信」の章で解決させた方がよかったと思います。とはいえ最終章の追跡劇のスリルは傑出した出来映えだし、「フラッシュバック」の章の推理小説家めった切りも楽しいです(ちょっとやり過ぎかも?)。 |
No.1126 | 5点 | 栗色の髪の保安官 P・M・カールソン |
(2016/03/29 19:54登録) (ネタバレなしです) マギー・ライアンシリーズを8作発表したカールソンが1993年発表の本書で新たなシリーズをスタートしました。主人公のマーティ・ホプキンズは本書ではまだ保安官助手で、女性ゆえか凶悪犯罪性の少なそうな事件(?)を押しつけられたりとなかなかの苦労人です。マギー・ライアンシリーズのような本格派推理小説としての謎解き要素はなく、地道な捜査が主体の警察小説のプロットです(本格派好きの私としてはちょっと残念)。とはいえ事件解決に重要な役割を果たすウルフ教授のエキセントリックぶりや、洞窟内でのマーティと犯人のサスペンス豊かな対決描写など随所ではきらりと光っています。 |