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ミステリの祭典

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サウサンプトンの殺人
フレンチシリーズ

作家 F・W・クロフツ
出版日1984年12月
平均点6.00点
書評数7人

No.7 8点 斎藤警部
(2024/10/09 23:02登録)
「これは、ある生物のように」 彼は快活な調子で言った。「尻尾のほうに針があるようですな」

A社とB社はセメント会社。A社の未来を守るためB社に侵入しヴァイタルな技術情報を盗もうとした二人の社員。ところが時の弾みで、目撃者となった夜警を過失致死。。。 この悪夢の瞬間から紡ぎ出される、創意と工夫と悪意に満ちた右往左往驀進蛇行の顛末は、小説構成の企みこそが色鮮やかな下支え。 第Ⅰ部~第Ⅳ部と進むにつれ主体は A社 ⇒ フレンチ ⇒ A社+B社 ⇒ フレンチ と推移する。 倒叙推理の積み残しがフーダニット、さらには××ダニットへと舞台を変えては炸裂する。 フィジカルなエコノミー、いやインダストリー冒険描写の質実な締まり具合。 頼りになる男と、頼りになり過ぎるロジック展開、あるいはその解きほぐし。 仕事が鬼出来る者だからこそ挑む事の出来たアリバイ工作の、拭いきれぬ一抹の怪しさよ。 A社とB社の間には、あの短篇以来の「9マイル」! シューベルトの「軍隊行進曲」を口ずさむ男! んんーーー その “ヘンゼルとグレーテル” は ・・・ いやいや本作は随分と攻めてます。 溢れ出るスリルとサスペンスとイヤミスと、ドラマチックなツイストにいや増す謎。 試行錯誤には希望という名の置き土産。

やがて訪れた、フレンチ急襲型チェックメイトの、ホトバシる旨みと輝き! 最初のチェックメイトを引いて更に追い詰める、繊毛が微妙に蠢いて弱光を見せるような暗い蜃気楼の晒しっぷり。 その結果なのか経過なのか、涙腺を刺激する “巧まざる” 名台詞もあった。 最後のフレーズの連なり、最高過ぎます。 クロフツは、頑張りました。

No.6 5点 レッドキング
(2022/11/01 19:07登録)
クロフツ第十六作。二つのアリバイトリック自体は凡庸で、殺人トリックは輪をかけて退屈。が、犯行サスペンス倒叙と、犯罪者たる「倒叙」者が、欺かれる「叙述」者に転倒する、とんテン・・ドンデンでなく・・返しが読ませどころ。

No.5 6点 ボナンザ
(2019/05/25 14:42登録)
倒叙要素とフレンチ側からの視点をうまく合わせた佳作。

No.4 6点 nukkam
(2016/05/20 13:00登録)
(ネタバレなしです) 1934年発表のフレンチシリーズ第12作で、前作「クロイドン発12時30分」(1934年)と同じく犯人の正体をあらかじめ読者に提示している倒叙推理小説です。セメント製造会社の面々がライヴァル会社のセメント製法を探ろうと画策する企業小説であり犯罪小説であり、そこにフレンチ側から描いた捜査小説を絡めています。後半になると新たな事件が発生しますが今度は倒叙形式でなく犯人当て要素を含んでいて、全体としては倒叙&本格派のプロットになっているという、構成に工夫を凝らした作品です。理系トリックが使われているところが私にはやや難解に過ぎましたが、これもクロフツならではの特色と言えるでしょう。

No.3 6点 了然和尚
(2015/07/30 20:49登録)
ミステリーを構成で分類した場合、本書は歴史上唯一無二と言えるような実験作品でした。まず、本書は倒叙ミステリーではありません。倒叙ミステリの定義を(1)前半は犯人、後半は探偵の2部構成 (2)犯人は単独犯 従って前半は犯人の日記のように綴られる。 と勝手に定義してみました。本書は犯人と探偵視点の1、2部があり、続いて通常の犯人探し、探偵の解決と4部構成になっています。また、犯人も最初に2人、その後その上司、事情を知ったむしろ被害者側の3人が恐喝に加わると、どんどん増えていきます。大変興味ある構成なのですが、残念ながら全部がうまくいっているとは言えず、驚きや感動の要素は少なかったです。3、4部のフーダニットでは、皆殺しを図って1人とり逃すのですが(故に、この人物が犯人の線が残るのだが)、生き残った故に犯人のアリバイ工作が意味をなすことと、一人でも残ったら犯人破滅やろという矛盾が印象を悪くしてます。

No.2 5点 E-BANKER
(2012/07/08 20:46登録)
お馴染みのフレンチ警部が「主席警部」となって初めて手掛けた事件という設定。
本作の発表年である1934年は、三大倒叙として名高い「クロイドン発12時30分」も出版された作者の円熟期と言える。

~セメント会社ジョイマウントの取締役ブランドと化学技師キングは、暗闇に横たわる死体を前に立ちすくんでいた。経営危機に陥った社を救うためにライバル会社の工場に忍び込み、セメントの新製法を盗み出そうとした2人だったが夜警に見つかってしまい、殴った拍子に死んでしまったのだ。彼らは自動車事故を装って死体の始末を図るが、フレンチ主席警部がこの事故に殺人の匂いをかぎとらないはずはなかった!~

ちょっと中途半端な「倒叙もの」という印象が残った。
「倒叙」というと、ミステリーの醍醐味である「犯人さがし」を放棄する代わりに、警察の捜査や目撃者の出現に一喜一憂したり、徐々に追い込まれる心理にシンクロしたりというのが面白さなのだと思うが・・・
本作ではその辺りが弱いのだ。
要は犯人側の視点とフレンチを中心とした警察側の捜査が交互に描かれてるせいで、どちらも中途半端になっているというワケ。

恐らくは第二の爆破事件の方で、倒叙ではなく普通に犯人捜しの要素を取り入れたためだとは思うが、これはちょっと失敗ではないか?
まぁ「クロイドン」と同じプロットではさすがにダメだということだったんだろうなぁ。
出来栄えは「クロイドン」に到底及ばない水準になってしまった。

ただ、ブランドを中心に心理描写などは実に丁寧で、この辺はクロフツらしいなぁと思える。
ラストに隠されていた構図が明らかにされるのがミステリー作家としての矜持か?
(東京創元社は数ある作品の中で何でこれを復刊したんだろう?)

No.1 6点 kanamori
(2010/07/16 21:24登録)
「クロイドン」に続き同じ年に書かれたフレンチ警部シリーズの第12作は、前作の個人的不満を改良した倒叙ミステリと言えます。
2部構成で前半に犯人側視点の犯行を描写し、後半はフレンチ視点の捜査小説になっています。ただ、犯行が「クロイドン」に比べて緻密な計画に基づくものとは言えないので、犯人対フレンチという面では面白味に欠ける印象です。

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