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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.1305 6点 図書館長の休暇
ジェフ・アボット
(2016/06/14 12:21登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表のジョーダン・ポティートシリーズ第4作でシリーズ最終作です。もともと人間ドラマ要素が強いシリーズですが本書も大変濃厚な家族ドラマとなっています。家族ドラマといっても暖かい雰囲気などほとんど無く、皮肉とあてこすり、そして対立のオンパレードです。明快で歯切れのいい文章だけど書かれているのはどろどろした世界というミスマッチが印象的です。犯人当てミステリーでもありますが、これだけ家族ドラマのウェイトが高いとミステリーらしくないようにさえ感じます。苦味を含むエンディングも好き嫌いが分かれそうです。それにしても会ったことのない親族との顔合わせ、「来るな」という脅迫状、そして主人公に向けられる冷たい視線という序盤の展開ってなんだか横溝正史の「八つ墓村」(1949年)みたいですね(笑)。


No.1304 5点 カイコの紡ぐ嘘
ロバート・ガルブレイス
(2016/06/14 10:12登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表のコーモラン・ストライクシリーズ第2作の本格派推理小説です。発端は小説家の失踪事件ですが、この小説家が周囲の人間を変態描写で作品に織り込むとんでもない人間であることがわかります。物語の1/4ぐらいの段階で事件が凶悪犯罪になり、コーモランが動機を求めて問題の小説のエログロ描写に踏み込む場面が何回かあります。(私は読んでいませんけど)J・K・ローリング名義のハリー・ポッターシリーズとは違い、読者の好き嫌いが分かれそうな作品です(少なくとも子供にお勧めはできません)。サイドストーリーであるコーモランとロビン(探偵活動への参加願望とマーシュとの結婚願望の両立に苦労します)の関係も読ませどころです。余談ですがコーモランという名前が童話の「ジャックと豆の木」の巨人に由来することを本書で初めて知りました(何で親はそんな名づけしたんだろう?)。


No.1303 6点 まちがいだらけのハネムーン
コニス・リトル
(2016/06/13 02:37登録)
(ネタバレなしです) 1944年発表の本書は、「夜ふかし屋敷のしのび足」(1941年)や「記憶をなくして汽車の旅」(1944年)と比べると主人公が常識人のためか、創元推理文庫版で「コミカル・ミステリ」というほどユーモアは濃厚ではありません。といっても堅苦しい作品ではなく、ケリー(何と私立探偵でした)のダメ執事ぶり描写などは十分に面白いです。本格派推理小説らしさはこれまでに読んだ3作品中では1番で、唐突感はあるのもののどんでん返しがなかなか効果的な謎解きになっています。


No.1302 6点 鏡は横にひび割れて
アガサ・クリスティー
(2016/06/13 02:30登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のミス・マープルシリーズ第8作で、1960年代のクリスティーを代表する作品とされています。ホワイダニットを重視した本格派推理小説と評価されることも多いですが、犯人の正体を最後まで隠したフーダニットでもあります。ただ被害者がなぜ殺されたのかが謎解きの中心となっているので、犯人当てを期待する読者は動機に比べて機会や手段についての探求が少ないと感じるかもしれません。また謎解きプロットとしては中盤まで盛り上りを欠き、ミス・マープルも日常生活描写の方が目立ってしまうほどです。しかし締めくくりはなかなか印象深いものがあり、事件の悲劇性の演出が見事です。推理物として弱くてもちゃんとアピールポイントがあるところはさすがに巨匠といったところでしょうか。


No.1301 4点 学校の殺人
ジェームズ・ヒルトン
(2016/06/13 01:52登録)
(ネタバレなしです) 英国のジェームズ・ヒルトン(1900-1954)は純文学畑の作家ですが作家人生の最初の10年間は鳴かず飛ばず状態が続いていて、その時期の1931年に収入を得るために書いた唯一のミステリーが本書です。手っ取り早く成功する手段がミステリーを書くことというのはいかに当時のミステリーの需要が大きかったか、なぜ第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期がミステリー黄金時代と呼ばれるかを示すエピソードの一つですね。ただ同時代のミステリー作家の本格派推理小説と比べると犯人の正体を隠すテクニックが未熟で犯人当てとしては容易過ぎると思います。A・A・ミルンの「赤い館の秘密」(1923年)も同様の弱点を抱えていますが発表時期を考えると本書は厳しく評価せざるを得ません。


No.1300 6点 つかみそこねた幸運
E・S・ガードナー
(2016/06/13 01:37登録)
(ネタバレなしです) 1964年発表のペリイ・メイスンシリーズ第73作です。これまでにも手強い敵対者が登場する作品はいくつかありましたが、本書に登場する相手はしたたかさも行動力も持ち合わせており、どうやってメイスンがやっつけるのか興味深く読めました。その決着がちょっと宙に浮いてしまったようなところがあるのが心残りではありますけどメイスンが勝勢であることは確かだと思います(何かミステリーの感想らしくないですね)。


No.1299 5点 救いの死
ミルワード・ケネディ
(2016/06/13 01:32登録)
(ネタバレなしです) 1931年発表の本書(共作を除くと長編第6作)はケネディの前衛的作品の代表作とされ、友人(かどうか一部で疑問視されていますが)のアントニイ・バークリイに献呈されています。探偵役のエイマーが仮説を構築してはそれが崩れ、また新たな仮説を構築するという展開はコリン・デクスターのモース主任警部シリーズを髣髴させるところもあり、その限りでは確かに本格派推理小説以外の何物でもないのですが結末はあまりにも斬新というか型破り過ぎで謎解きとしては破綻してしまったように思えます。


No.1298 5点 殺人犯はわが子なり
レックス・スタウト
(2016/06/12 05:54登録)
(ネタバレなしです) 1956年発表のネロ・ウルフシリーズ第19作は、ウルフたちが事件に巻き込まれる出だしから快調で中盤まで文句なく楽しめる本格派推理小説でした。残念なのは重要証拠がどこにあるかという推理はあるものの、それがどういう証拠なのかはウルフが関係者を集めて真相を説明するまでヒントさえ与えられていないこと。読者が自力で謎解きするには手掛かり不足なのが惜しまれます。


No.1297 5点 薔薇は死を夢見る
レジナルド・ヒル
(2016/06/12 05:40登録)
(ネタバレなしです) 1983年発表のダルジールシリーズ第7作は一応は本格派推理小説のようですが、頭の回転が鈍い私は本書のプロットはどこに解くべき謎があるのかよくわかりませんでした。過去に何人もの人間が謎の死を遂げていてその影には常にある人物が存在するという設定は、レックス・スタウトの「腰抜け連盟」(1935年)という先例もあります。しかし殺人と実証されていないためパスコーたちが何を追い求めているのか曖昧なまま物語が進むので読みにくいことこの上ありません(第三部第ニ章でやっと状況整理されますが)。ダルジールが第四部第五章でコメントしているように、「ないことずくめ」の変なミステリーです。何だか最後になってようやく謎が提示されてそこで終わってしまったような不思議な読後感が残りました。


No.1296 3点 スープ鍋につかった死体
キャサリン・ホール・ペイジ
(2016/06/12 05:35登録)
(ネタバレなしです) フェイスが伯母のチャットに頼まれて介護施設の怪死事件を調べることになる、1991年発表のフェイス・フェアチャイルドシリーズ第3作ですが意外だったのは警察がフェイスに(限定的とはいえ)捜査への協力を依頼しています。過去の2作品でフェイスの推理が事件解決に貢献している部分は少なかったと思いますけど。推理が弱くて自白でほとんどの真相が明らかになる、というのはこのシリーズでは珍しくないのですが、作品の中で起こっていない事件まで解決しているのはどういうこと(動機の伏線は張ってありますが)?問題が出てないのに答え合わせが始まったみたいな奇妙な体験でした。


No.1295 7点 リチャード三世「殺人」事件
エリザベス・ピーターズ
(2016/06/12 05:25登録)
(ネタバレなしです) 別名義での作品を含めると70作を超す女性作家でエジプト考古学者でもある米国のエリザベス・ピーターズ(1927-2013)は4作のジャクリーン・カービーシリーズを書いていて私はその内3作を読みましたが、1974年発表の第2作である本書は最も本格派推理小説の要素が濃い作品だと思います。ジョセフィン・テイの「時の娘」(1952年)でも取り上げられている英国王リチャード3世がらみのミステリーです。登場人物以外に歴史上の人物の名前が入り乱れますが文章が読みやすくて混乱せずに読むことができました(ユーモアも豊かです)。ジャクリーンに言わせれば「犯人は一目瞭然」だけど犯人のねらいがわかないという、ホワイダニット色の強いプロットです(もちろん犯人の名前も最後に明かされるので、犯人当てにも挑戦できます)。テイの「時の娘」を読んでいなくても問題はありませんが、作品中でリチャード・ハルの「伯母殺人事件」(1934年)のネタばらしがありますのでそちらを未読の人は注意して下さい。


No.1294 5点 血に飢えた悪鬼
ジョン・ディクスン・カー
(2016/06/12 05:10登録)
(ネタバレなしです) カー(1906-1977)の最後の作品となった1972年発表の歴史本格派推理小説で、作中時代は1869年、探偵役を「月長石」(1868年)の作者ウィルキー・コリンズが務めています(作中で「月長石」のネタバレがありますので未読の読者は注意下さい)。もっともコリンズは出番が意外と少なくてそれほど印象的ではありません。史実としてこの時代のコリンズはリューマチと阿片中毒に苦しんでいたそうなので意図的に精彩に乏しい描写をしたのかもしれませんが。密室トリックは小手先のトリックで可もなく不可もなくといった感じですが、中盤で明かされたもう一つのトリックにはどちらかといえば悪い意味で驚かされました。ある人物が長々と説明しているのですが、これは絶対に無理だという思いが頭から離れないまま読みました。本書はユーモア本格派ではありませんが、こんなお馬鹿で強引なトリックは笑い飛ばすのが1番か(笑)?


No.1293 4点 使いこまれた財産
E・S・ガードナー
(2016/06/11 07:33登録)
(ネタバレなしです) 82冊もの長編が書かれたペリー・メイスンシリーズですが被告に法廷で証言させているのは非常に珍しいそうです。1965年発表のシリーズ第75作の本書はその珍しいシーンが読める作品です。メイスンのライヴァル的存在のはずなのに結構お間抜けぶりの方が目立ってしまうハミルトン・バーガー検事が本書ではなかなか健闘しており、法廷での対決ではメイスンよりポイントを稼いでいるのではという印象を受けました。謎解きは極めて粗く、最終章でメイスンがこの人は犯人でないと説明していますが理由が皆無に近く、私はこの人が犯人だっていいのではと思ってしまいました。


No.1292 4点 毒の神託
ピーター・ディキンスン
(2016/06/11 07:15登録)
(ネタバレなしです) 1974年発表の本書はジャンルとしてはシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説に分類できる作品ですが相当奇妙な味付けがされた作品です。謎解きプロットは意外とストレートなのですが、これでもかと言わんばかりの独特な世界の描写に圧倒され、ミステリーであることを忘れてしまいそうです。空想世界を舞台にするのはディキンスンの得意とするところですが、架空のアラブ人や沼族の風俗習慣、チンパンジーの学習プログラムなどあまりにも異世界的で、私のような想像力も読解力も乏しい読者には厳しい作品でした。


No.1291 7点 俳優パズル
パトリック・クェンティン
(2016/06/11 02:17登録)
(ネタバレなしです) 1938年発表のピーターとアイリスのダルース夫妻シリーズ第2作ですが本書ではまだ結婚前で、名探偵役は前作「迷走パズル」(1936年)に続きレンツ博士が務めています。前半は同時代のジョン・ディクスン・カーに匹敵するほどのオカルト雰囲気と合理的なトリックの組み合わせの妙が楽しめます。後半はがらりと様相が変わり、複雑な人間関係描写を中心にした謎解きになります。この多面性を高く評価する読者も多いでしょうが、個人的には最後まで怪奇性を維持してほしかった気もします。


No.1290 5点 荒野のホームズ
スティーヴ・ホッケンスミス
(2016/06/11 01:52登録)
(ネタバレなしです) 米国のスティーヴ・ホッケンスミス(1968年生まれ)はジャーナリスト出身で、ミステリー作家としては2000年のデビューです。当初は短編ばかりでしたが2006年発表の本書から長編も書くようになりました。シャ-ロック・ホームズのパロディー風なタイトルで(英語原題は「Holmes on the Range」)ホームズが実在する世界という設定ですがホームズは登場せず、西部アメリカを舞台にして赤毛のカウボーイ兄弟(ホームスに私淑する兄グスタフがホームズ役、弟オットーがワトソン役)が活躍するシリーズです(ちなみに初登場作品は「親愛なるホームズ様」(2003年)という短編だそうです)。個性豊かな人物が登場し、西部ならではの撃ち合いもあるかと思えばぞっとするような猟奇的な場面もあったりと起伏のある物語ですが手堅い文章で意外とドライに流れます。まあこのプロットで描写が丁寧過ぎると汚らしさやおぞましさや品のなさが気になりそうなので本書程度で十分だと思います。どんでん返しの謎解きが楽しめますが、グスタフだけが知っていた手掛かりで犯人を特定できる立場にあったというのでは謎解き好き読者に対してアンフェアに過ぎる気がします。


No.1289 6点 苦いオードブル
レックス・スタウト
(2016/06/11 01:04登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表の本書はテカムス・フォックスシリーズ第2作の本格派推理小説です。「手袋の中の手」(1937年)の女性探偵ドル・ボナーも顔を出しますがわずかな登場シーンだけの脇役扱い、しかも活躍しているとは言えないのがちょっと残念。私立探偵に対して必ずしも協力的ではない事件関係者からどうやってフォックスが情報を探り出すかというのを丹念に描いているところはネロ・ウルフシリーズと共通していますね。本書のプロットなら危機に巻き込まれたエイミーにもっと焦点を当ててサスペンスを盛り上げるというのも一つのやり方ではあったでしょうけど、探偵の丁寧な捜査と推理を堪能できる本格派推理小説として手堅く書かれた作品に仕上がりました。


No.1288 4点 誘拐殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2016/06/09 17:44登録)
(ネタバレなしです) 1936年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第10作ですが、サスペンス小説に流れやすい誘拐と本格派推理小説の謎解きを組み合わせようとする努力は評価したいものの、彼の作風に合わないハードボイルド小説要素まで織り込もうとしたのは失敗だったと思います。もともとこのシリーズは知識教養を豊富に織り込み、スリラー系が主流だった当時のミステリーとは一線を画していたことが成功要因だったと思いますが本書はそういったイメージと微妙に乖離していて、とはいえ通俗というほど開き直ってもいないので中途半端な作品に感じます。当時の評価も散々だったようです。駄作とまでは言わないまでも、後期のヴァン・ダインはレベルダウンしてしまったと言われても仕方のない出来だと思います。


No.1287 5点 密偵ファルコ/水路の連続殺人
リンゼイ・デイヴィス
(2016/06/09 16:53登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表のファルコシリーズ第9作は無差別連続殺人の犯人探しを扱っていますが、王道的本格派推理小説とは異なるプロットになっています。犯行パターンから犯人の特長を分析するプロファイリング手法を歴史ミステリーに織り込んだ本格派推理小説というべきでしょうか。被害者の素性は大半が最後まで不明のままだし、犯行動機に至っては完全に無視されています。停職中の警備隊長のペトロをファルコが助手代わりに使っていますがほとんど役にたっていません(笑)。ヘレンの方が断然有能そうですが、家族を危険に巻き込まないよう必死でファルコが押し止めています。ローマ帝国自慢の水道網を謎解きに絡めているのはナイスアイデアですが、読者に馴染みのない知識なのでちゃんと地図が添付しているとはいえ推理が難解に感じられました。このシリーズとしては盛り上る場面が少ない方ですがそれでも終盤はサスペンス豊かな場面が続き、解決後に笑えるネタまで用意しているところが巧妙です。しかも次作を待ち遠しくさせるようなエンディングに至っては何と商売上手なこと(笑)。


No.1286 6点 最長不倒距離
都筑道夫
(2016/06/09 12:21登録)
(ネタバレなしです) 1973年発表の物部太郎シリーズ第2作の本格派推理小説です。光文社文庫版で300ページ程度の長さしかなく文章も軽快ですが密室殺人、死者からの電話、ダイイング・メッセージなど謎は盛り沢山で複雑なプロットになっています。トリックは子供だまし的なものもあってそれほど印象には残りませんが、トリックよりロジック(論理)重視の謎解きは読み応えたっぷりです。できれば舞台となる温泉旅館の見取り図が欲しかったですが。

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