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ミステリの祭典

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処刑宣告
マット・スカダー

作家 ローレンス・ブロック
出版日1996年12月
平均点6.75点
書評数4人

No.4 6点 E-BANKER
(2017/01/21 21:11登録)
マット・スカダーシリーズ十三作目の長編。
1996年の発表。

~新聞の有名コラムニストに届けられた匿名の投書。それは、法律では裁けぬ“悪人”たちを“ウィル=人々の意志”の名のもとに処刑する、という殺人予告状だった。果たして、ロビイストやマフィアの首領がつぎつぎと殺害されていく。スカダーは、つぎのターゲットとしてウィルの処刑宣告を受けた弁護士から身辺警護を依頼された。だが、対策を練ったにもかかわらず殺人は実行されてしまう・・・。NYを震撼させる連続予告殺人の謎にスカダーが挑む!~

他の方も触れられているが、本作は前作「死者の長い列」とともに、本格ミステリー寄りのいわゆる“謎解き”に比重を置いた作品となっている。
新聞社にわざわざ予告をしたうえで連続殺人を遂行するという劇場型犯罪がメインの事件。ただ、それ以外にもエイズ患者がNYの公園で銃殺されるという事件も並行して起こり、読者としては、どうしても二つの事件の関連が気にかかってしまう。
メインの予告殺人の方は、大方の予想を裏切り、頁数でいえば中盤過ぎという辺りで大凡の解決がついてしまう!
(密室殺人には期待せぬこと!)
「こりゃもしかして、いわゆるドンデン返しというやつなのか??」って身構えたのだが、そこまで本格寄りのプロットではない。

シリーズもここまで続いてくると、作者としても当然いつもと同じっていう訳にはいかなくなる。
“中興の祖”とも言える「倒錯三部作」を過ぎ、作者がつぎに取り組んだのは、本格とのハイブリットだったのだろう。
これが成功しているかと問われると、正直、やや疑問符かな・・・
意外性というか、サプライズ感と本シリーズはそれほど親和性が高いとは思えない。
シリーズファである私は、NYの殺伐感、スカダーと登場人物たちの“影”のある会話、行間を味わいたいのだ。

訳者あとがきでも、シリーズ当初からのスカダーの変化に触れており、「今やアル中のネクラ探偵というキャッチフレーズは当たらない」と書かれている。
そりゃまぁ、エレインと結婚して家庭を築き、TJやグルリオウなど友人も増えてきた彼なのだから、変わらない方がおかしいのだが・・・
シリーズも折り返しを過ぎ、齢五十六となったスカダー。
当然、次作以降も読み継ぎ、彼の行く末を追っていきたい。

No.3 6点 nukkam
(2016/06/28 16:50登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表のマット・スカダーシリーズ第13作です。二見文庫版の巻末解説によれば前作の「死者の長い列」(1994年)と本書はシリーズの中では謎解き要素を中心にしている異色作とのことです。それがハードボイルドを苦手とする私が本書を手に取った、いささか不純な理由なのですが。確かに本書は私のイメージするハードボイルドとは異なっており、過激な場面は皆無に近いです。生々しい暴力もなければ麻薬や酒やギャンブルに溺れて身を持ち崩す人間の惨めさをしつこく描くこともありません。アル中だったスカダーもごく普通の人にしか見えません。会話もドライではありますが挑発的でもなく威圧的でもなく平明な雰囲気が保たれています。スカダーが複数の事件を解決するプロットで、1つの事件が解決するとまた次の事件がという順繰りの展開なので混乱せずに読めます。短編をただ繋げたような単純な構成ではなく、それぞれの事件間に微妙な関係を持たせていて全体を引き締めているところが秀逸です。ただ巻末解説で本書のセールスポイントを密室と連続殺人としているのはいただけませんが(とても充実している解説ですけど)。

No.2 8点 Tetchy
(2015/07/12 00:44登録)
マット・スカダーシリーズ13作目の本書は前作に引き続いて連続殺人事件を扱っている。しかも不可能趣味に溢れた本格ミステリのテイストも同じく引き継がれているのが最大の特徴だろう。

人の心とはなんと弱いものだろう。
今回の事件の動機はいわゆる「魔がさす」という類のものだろう。そして数秒間に1人が死ぬと云われているニューヨークでは1つ1つの事件が必ずしも解決されるとは限らず、恐らく彼らの殺人も次々と起こる事件の荒波に埋没する運命だったのかもしれないが、魔がさして成された殺人を抱えたまま生きるのはやはり苦しく、ある者は自らの命を絶ち、ある者は積極的に自白をし、ある者は観念して罪を告白する。

本書は現代に甦った仕置人の正体を探る本格ミステリ的な設定を持ちながら、最後に行き着くところは名探偵の神懸かった推理や驚愕のトリックが登場するわけでもない。マットが素直に人間を見つめてきたことによって出た答えによって導かれた犯人であり、そのどれもが人間臭く、決して他人事とは思えないほど、その心の在り様がリアルに思えるのだ。

そしてまたもや事件に遭遇することでマットの身辺に変化が訪れる。今回は事件自体が派手なこともあって、今回はマットがなんとマスコミたちの注目の的になる。マットがウィルの正体を突き止めたことがマスコミにリークされたからだ。これが今後彼の事件の関わり方にどんな変化が訪れるのか、ちょっと想像がつかない。

そして『処刑宣告』という物々しいタイトルとは裏腹に結末は実に暖かい。これは読者としても何とも嬉しいサプライズだった。
マットを取り巻く人々とマット本人の世界はますます彩りを豊かにしていく。アル中で子供を誤って銃で撃ち殺した元警官という忌まわしい過去を背負った中年男の姿はもはやないと云ってもいいだろう。しかし本書はどれだけ歳月を重ねても人の抱えた心の疵はなかなか消えないことを謳っている。あまりに順調なマットの人生に今後途轍もない暗雲が訪れそうである意味怖い気がする。この平穏はしばしの休息なのか。まあ、そんなことは考えずにまずはこのハッピーエンドがもたらす幸福感に浸ることにしよう。

No.1 7点 あびびび
(2014/12/05 01:30登録)
デイリー・ニュース誌のコラムニストに届いた一通の投書。署名も差出人も書かれていないその手紙は、翌週起こる殺人を予告したものだった。

誰が見ても有罪の性犯罪者が州法で無罪になり、『ウィル(意志)』という処刑人が予告殺人を敢行、そして同じように無罪放免となったマフィアのボスも殺された。ニューヨークはパニックに陥り、次の処刑宣告に巨大都市がざわめく…。

マット・スカダーは例によって粘り強い捜査ですべての事件を解決するが、あくまでも謙虚で冷静に、自分のスタイルを崩さない。しかし、マット・スカダーの友人はすべて魅力的で羨ましい限りである。最後のT・Jとのやりとりは思わずホロリと来てしまった。

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