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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.1505 5点 誰がロバート・プレンティスを殺したか
デニス・ホイートリー
(2016/07/29 09:19登録)
(ネタバレなしです) ジョー・リンクス原案、デニス・ホイートリー著という共作形式による捜査ファイル・ミステリーシリーズの1937年発表の第2作です。本書では登場人物に手記を書かせることによって「人格描写」にも力を入れているのがクリスティーの「五匹の子豚」(1942年)やマイケル・イネスの「ある詩人への挽歌」(1938年)に先駆けた新工夫です(表情や仕草を直接描写する場面がないので限界がありますが)。謎解きとしても袋とじの解決編に前作にはなかった趣向が用意されています。分量的には袋とじまでのページがわずか78ページ(中央公論社版)ですが、証拠品として挿入されている新聞記事が結構な情報量があるのであまり読み急がない方がいいと思います。この記事の中にはリンクスとホイートリー、そしてホイートリー夫人の3人がインタビューに応えて誰が犯人かについて推理を披露するというお遊びまであって、作者にも余裕が出てきたことをうかがえます。ということで前作に比べて進歩も見られる反面、解決編でシュワッブ警部補がとりあげた最初の証拠が時間が経過すると消滅してしまう種類のものであることや最後に残された謎については特に手掛かりらしい手掛かりが用意されていないなど謎解きとしての不満もいくつか散見されます。


No.1504 4点 バーネット探偵社
モーリス・ルブラン
(2016/07/29 09:11登録)
(ネタバレなしです) 私立探偵ジム・バーネット(アルセーヌ・ルパン級のすご腕)の活躍を描く8編の短編を収めた1928年発表の短編集で、本格派推理小説風に仕上げられていますが読者が謎解き伏線をもとに自力で推理できるようにはなっていないところは「八点鐘」(1923年)と同じです。トリックのレベルは「八点鐘」に比べると特筆するものがなく、「ジョージ王の恋文」のあまりのバカトリックぶりや「金歯の男」の謎というのもおこがましいような真相が悪い意味で印象に残るでしょう。謎解きの醍醐味よりも「したたる水滴」でのブラックな仕返し計画や「白手袋......白ゲートル」で切歯扼腕するベシュー警部の姿などユーモアと皮肉を楽しむべき作品ではないかと思います。「僕」を「やつがれ」と読ませる翻訳(新潮文庫版)の古さにはもう降参です(笑)。


No.1503 5点 スターは罠にご用心
サイモン・ブレット
(2016/07/29 08:51登録)
(ネタバレなしです) 初期の代表作と評価されることもある1977年発表のチャールズ・パリスシリーズ第3作ですが個人的には微妙な作品(笑)。なかなか大きな事件が起こりませんがそれは不満に思いません。非常に個性的な人物が登場し、その言動と周囲の反応の描写だけでも十分サスペンスに富む物語になっています。しかし謎解きとしては推理の要素がほとんどなく、本書は本格派推理小説ではなくサスペンス小説として読むべきかもしれません。となると(ネタバレ防止のためあまり詳細を書きませんが)チャールズとある人物の対決にあのひねりを加えたのはむしろ蛇足だったような気もします。物語としては十分に読ませますが本格派の謎解きを期待する読者にはあまりお勧めできません。


No.1502 7点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2016/07/29 08:40登録)
(ネタバレなしです) 国名シリーズの最終作「スペイン岬の秘密」(1935年)に次いで1936年に発表された本書から「ドラゴンの歯」(1939年)に至る5作品はクイーンの第二期作品と位置づけられています(もちろん異説もあります)。もっともこの第二期の5作品は作風的に共通部分は意外と少なく、例えば本書と探偵エラリーが女性にメロメロ状態になっている「ハートの4」(1938年)では全く雰囲気が違います。どうもこの第二期はパズル・ストーリーの書き手として壁にぶちあたったクイーンが新たな作風開拓のために色々試行錯誤していた時期と言えそうです。さて本書の感想ですが人物描写が類型的ながらも人間ドラマを意識したようなところに新たな工夫を感じさせます。その一方で国名シリーズでの論理的な謎解きへのこだわりもまだ健在で「読者への挑戦状」も用意されています。過渡期の作品というとどうも半端な印象を与えそうなので国名シリーズスタイルに新たな工夫を加えた作品と誉めておきましょう(笑)。


No.1501 6点 そして死の鐘が鳴る
キャサリン・エアード
(2016/07/28 09:56登録)
(ネタバレなしです) 1973年発表のスローン警部シリーズ第5作です。教会の塔内で石像の下敷きになった死体と砕けた石像で出入口が塞がれ犯人が脱出不可能という風変わりな密室を扱い、不可能犯罪好き読者の間では有名らしいです。しかし作者はこの密室の謎解きを前面には押し出さず、被害者の足どり調査や人間関係の探求などにもたっぷりページを費やしています。そのため他のシリーズ作品と同じく地味で端正な本格派推理小説として仕上がっています。地味なのが決して悪いとは思いませんが、死体の身元確認も死亡推定時刻の確定も後半という遅い展開に加えて人物描写も個性を感じられず、何かメリハリが欲しかったです。


No.1500 6点 嘘は刻む
エリザベス・フェラーズ
(2016/07/28 09:24登録)
(ネタバレなしです) 1954年発表の本格派推理小説です。正直こういう真相は私の好まない種類なのですが、巧妙な手掛かりと証言の矛盾の鮮やかな解き方は実に見事です。物語の雰囲気は全般的に暗く、登場人物の性格描写や彼らが織り成す人間ドラマには後年デビューするD・M・ディヴァインの作風を髣髴させるところがあります。


No.1499 6点 編集者を殺せ
レックス・スタウト
(2016/07/28 09:20登録)
(ネタバレなしです) スタウトの個性が良くも悪くも発揮されている1951年発表のネロ・ウルフシリーズ第14作の本格派推理小説です。行動型探偵のアーチーが実によく描かれ、特に前半のディナー・パーティー編でのスマートでお洒落、そしてユーモアも豊かな手腕が大変面白いです。しかし14章以降の西海岸編では「毒蛇」(1934年)ほどではないけれど証拠を入手するために乱暴な手段も辞さないのが個人的にはあまり感心できませんでした。起伏ある物語展開でとても読みやすいです。ウルフ自身が「もう少しで出し抜かれるところだった」というほど冷血で手ごわい犯人にとって最後の一撃が思いもよらぬものだったのが印象に残る作品です。


No.1498 5点 森を抜ける道
コリン・デクスター
(2016/07/28 09:14登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表のモース主任警部シリーズ第10作で1990年代の作品の中では最も評判がよく、CWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得しています。物語が匿名人物からの詩が投稿された後から始まっているので、その前に発生していた事件やそれまでの捜査状況について把握するのがやや難しかったです。またモースによる推理が頓挫してはまた新たに推理を重ねていく従来パターンではなく、代わりに新聞紙上で色々な人が謎解きに挑戦するという展開ですが論理的な推理というよりも主観的な解釈に近いので読者によっては期待外れに感じるかもしれません(個人的には新たな試みとして評価したいです)。68章での真相には驚かされましたが、「なぜそんなことを?」という理由についてははっきりしなかったのが気になりました(まあ往々にしてある私の理解力の不足かもしれませんが)。


No.1497 6点 閘門の足跡
ロナルド・A・ノックス
(2016/07/28 09:03登録)
(ネタバレなしです) 1928年発表のマイルズ・ブリードンシリーズ第2作で、何とシリーズ外の作品である「陸橋殺人事件」(1925年)の登場人物の出演サービス付きです。ボート旅行者の失踪に端を発する事件を扱っていますが英国は日本よりも交通手段として川や運河が積極的に利用されているのか本書以外にもコリン・デクスターの「オックスフォード運河の殺人」(1989年)、ピーター・ラヴゼイの「絞首台までご一緒に」(1976年)、ジョセフィン・テイの「美の秘密」(1950年)などの作品が思い浮かびます。推理が丁寧な反面、細かすぎると感じることもしばしばでゆったりした展開と相まって冗長に思う読者もいるでしょう。とはいえ本格派推理小説としてしっかり作られているのは間違いありません。大胆なトリックの使い方も印象的で、個人的には「陸橋殺人事件」より上位の作品だと思います(まああちらは伝統破りが特徴の作品なので並べて比較すべきでないのかもしれませんが)。


No.1496 5点 殺人者はへまをする
F・W・クロフツ
(2016/07/27 16:42登録)
(ネタバレなしです) 1943年から1945年にかけて放送されたラジオの脚本から小説化されたものをまとめて1947年に発表された、実質上の第一短編集です(「クロフツ短編集1」(1955年)よりも早く出版されています)。前半の12作は犯人の正体や犯行状況場面を最初から読者に明かしてその後でフレンチ警視の推理によって謎を解くという倒叙型ミステリー、後半の11作は最初から最後までフレンチ警視の視点で謎解きを行うスタイルをとっています。後者にしても登場人物が非常に限られているので犯人当てとしては他愛もなく、どの作品も犯人がどこで失敗したのかが謎の中心になっています。1つ1つは大変短くて読みやすいのですが長編作品以上に物語の要素がなくて推理クイズ的な作品なので、連続して一気に読むとその味気なさにだんだん嫌気がさすかもしれません。トリックに頼った作品も多く、特に「熱心な羊飼い」で使われたトリックとフレンチがつかんだ手掛かりはあまりにも古典的で有名です。また「盗まれた手榴弾」のように書かれた時代ならではの戦時色濃厚な作品が読めるのも特徴です。


No.1495 4点 猫は郵便配達をする
リリアン・J・ブラウン
(2016/07/27 16:20登録)
(ネタバレなしです) 1987年発表のシャム猫ココシリーズ第6作で以降のシリーズ作品の主要舞台となるムース郡ピカックスにクィラランが引っ越すという、シリーズファンにとっては前作「猫はブラームスを演奏する」(1987年)と並んで年代記的に重要作ながらハヤカワ文庫版の出版が後年作よりも後回しになってしまいファンの顰蹙を買ったことでも知られます。前半はやや普通小説的な展開ながら中盤からはサスペンスが十分盛り上がります。とはいえ今回のクィラランは探偵役としてはぱっとせず、推理もほとんどしないままに解決してしまうので本格派の謎解きにはあまり期待しないで読んだ方がいいと思います。


No.1494 5点 ベウラの頂
レジナルド・ヒル
(2016/07/27 16:16登録)
(ネタバレなしです) 1998年発表のダルジール警視シリーズ第15作でずっしりと重さを感じさせる大作です。本書では女刑事シャーリー・ノヴェロが第4の主役ばりに存在感を示しています。その一方でダルジールは時に言葉づかいが下品になったり皮肉屋になることはあっても全般的にはおとなしく、いつものように羽目を外すことがないのには物足りなささえ感じます。パスコーの娘ロージーの病気を心配する場面なんかは結構しみじみしますけど。謎解きはそれほど論理的ではなく、夢判断でヒントを掴んだりしていてどこかもやもやした感じですがその中に恐さや痛々しさをひしひしと感じさせます。でもさすがにこの長大さには疲れました(とはいえヒルの大作主義は本書以降も更に拍車がかかるのですが)。入門編としてはちょっと薦めにくいです。


No.1493 6点 殺人ア・ラ・モード
パトリシア・モイーズ
(2016/07/27 16:07登録)
(ネタバレなしです) 1963年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第4作の本格派推理小説です。モイーズは作家になる前にファッション誌出版社で約5年間働いていた実績があるためか本書でのファッション業界の描写が(多少演出過剰に思えるところもあるけれど)とても生々しく感じられます。トリックもやや専門的過ぎて私には理解しにくい面がありますがこれまた作品舞台によく合っています。だけど男の登場人物を「小母ちゃん」と呼んでいるのには混乱しました(笑)。これもファッション業界ではよくあることなのでしょうか?


No.1492 6点 鉄路のオベリスト
C・デイリー・キング
(2016/07/27 15:58登録)
(ネタバレなしです) 1934年発表のオベリスト3部作の第2弾で前作「海のオベリスト」(1932年)と同じく巻末に「手掛かり索引」が置かれています。私はカッパノベルズ版で本書を読みましたがびっくりしたことに内容をカットした抄訳だそうです。戦前や戦後まもなくならともかく、現代では原作通りに翻訳するのが常識でしょう。翻訳者が著名な推理小説家の鮎川哲也なのでおそらく謎解きに関連する部分は全部残してあるだろうし、私が読んだオベリスト3部作の中では1番読み易かったのですがやはり抄訳というのは残念な気がします。内容的には前作よりも謎解きが(詳細は書けませんが)技巧的になりました。(ほとんど)最初から最後まで列車を舞台にしている本格派推理小説としてはクリスティーの「オリエント急行の殺人」(1934年)と並ぶ存在です。再版の際にはぜひ完訳版をお願いしたいです。⇒2017年についに完訳版で再販されました。


No.1491 5点 夜の闇のように
ハーバート・ブリーン
(2016/07/26 09:25登録)
(ネタバレなしです) オカルト趣味濃厚な「ワイルダー一家の失踪」(1948年)に次いで1949年に発表されたレイノルド・フレームシリーズ第2作の本書は前作とは対照的にクレイグ・ライスを彷彿させるような都会風にすっきりと仕上げられた本格派推理小説です(ライスほどの強烈な個性があるわけではありませんけど)。怪しげな「催眠術」が物語のあちこちで登場していますが(これ、ネタバレではありません)、これはオカルトネタではないでしょう。ただハヤカワポケットブック版は大変古い翻訳のため洗練された雰囲気がいまひとつ伝わってこないのが残念です。


No.1490 5点 富豪の災難
シャーロット・マクラウド
(2016/07/26 09:19登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表のセーラ・ケリングシリーズ第8作の本格派推理小説です。過去作品のネタバレはしていませんが「消えた鱈」(1984年)の登場人物が大変重要な役割を果たしているので、そちらを先に読んでおくことをお勧めします。登場人物が多くしかも関係がかなり複雑なので前半はそれの整理で手一杯でしたが、ジェム伯父さんが登場する第11章あたりからは話が俄然面白くなります。いやあこのジェム伯父さん、私にとってはセーラやマックスよりもお気に入りのキャラです。謎解きはこのシリーズとしてはかなり緻密に考えられていますが動機が後づけ説明気味になっているのがちょっと残念です。あと扶桑社文庫版の巻末解説は訳者と作者の交流が描かれていてなかなかいい味出していますが、第16章の内容に触れているのがちょっと勇み足に感じますので本文より先には読まない方がいいと思います。


No.1489 5点 ルーヴルの怪事件
エリオット・ポール
(2016/07/26 09:11登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のホーマー・エヴァンズシリーズ第2作で前作同様舞台となったパリの描写に力を入れていますが地名が沢山登場するので地図は欲しかったです。世界推理小説全集版は「古代音楽」(クラシック音楽のことか?)などびっくりする単語もあるけれど古い割にはしっかりした翻訳だと思いますが、全体的にはどうも読みにくいです。登場人物リストに載っている人数は12人ですが彼らに劣らず重要な役割を果たす登場人物がその倍近くもいますので補足のリストを作りながら整理することを勧めます。脈絡がはっきりしないまま物語が急展開するのは前作「不思議なミッキー・フィン」(1939年)と同じです。個々のキャラクターはそれなりに魅力的で、特にやたら銃をぶっ放すミレイユがすごい存在感(笑)。謎解きは推理要素が少なくて結果のみの説明といった感があり、本格派推理小説ファンにはちょっと物足りないかもしれません。


No.1488 5点 ボニーと砂に消えた男
アーサー・アップフィールド
(2016/07/26 08:35登録)
(ネタバレなしです) オーストラリアを代表する本格派推理小説家アーサー・アップフィールド(1888-1964)は白人とアボリジニの混血(ハーフカースト)で両民族の長所が結合しているユニークな探偵ナポレオン・ボナパルト警部(ボニー警部)シリーズを中心に30冊を越える作品を残したことで知られます。1931年発表のシリーズ第2作の本書は作中のトリックが現実の殺人事件でも使われて、作者も証人として裁判に出廷したことで有名です(詳細はハヤカワ文庫版巻末解説に書かれています)。もっともこのトリック、実行するにはある種の条件をクリアしないとまず無理なので個人的にはそれほど感銘しませんでした。また犯人当てとしては謎解き伏線がかなり粗いようにも思えます。しかし本書の特色は何といってもスケール感の大きな舞台や活き活きとした風俗習慣の描写で、これはちょっと他の作家には真似できない個性でしょう。


No.1487 6点 手袋の中の手
レックス・スタウト
(2016/07/26 08:28登録)
(ネタバレなしです) 1937年に発表された本書は女性の私立探偵を主人公にしたミステリーとして時代を先取りした作品と評価されています。もっともキャラクター小説を期待すると肩透かしを感じるかもしれません。探偵役のドル・ボナーが死体を発見してショックを受けたり自分自身にはっぱをかけたりと感情を表に出すシーンもありますが、全般的にはドライに描かれています。スタウトは個性的な女性を描くのは決して苦手ではないと思いますが、探偵役としてはうまく書ける自信がなかったのかドルは本書以外にも中編「探偵が多すぎる」(1938年)と長編「苦いオードブル」(1940年)にも登場していますがそちらでは脇役扱いです。ミステリーとしての出来栄えは平均点的な本格派推理小説といったところでしょうか。


No.1486 6点 ウエディング・プランナーは狙われる
ローラ・ダラム
(2016/07/25 02:09登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表のアナベル・アーチャーシリーズ第3作はユーモアがますます快調、死体発見場面でのどたばたぶりはクレイグ・ライスの域にまで達しています。「犯人を探しているのではなく、情報を集めているだけ」というアナベルの言い訳もツッコミを入れたくてうずうずします。ある謎に対する手掛かりがほとんど終盤になってからようやく現れるので駆け足気味の解決になってはいますが前作よりは推理要素が濃いです。

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