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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1572 5点 大あたり殺人事件
クレイグ・ライス
(2016/08/14 00:11登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のマローンシリーズ第4作で「大はずれ殺人事件」(1940年)の続編にあたります。前作のネタバレはされていませんが先に本書から読むことはお勧めしません。姉妹作の関係上どうしても前作と比較されてしまい、しかも本書の方が厳しく評価される傾向にあります。私もどちらかといえば前作の方が気に入っています。決して本書が駄作というのではなく、謎解きとしては同レベルぐらいだと思います。ただ前作はどたばたを繰り返しながらも被害者と容疑者たちとの関係が少しずつ明らかになるすっきりとした展開だったのに対して、本書は被害者の正体がなかなか判明せず人物関係がもやもやしたまま物語が進行するのでやや読みにくいです。せっかくのユーモアもこの読みにくさのせいで前作に比べると冴えがないように思えます。


No.1571 5点 シャーロキアン殺人事件
アントニー・バウチャー
(2016/08/13 06:38登録)
(ネタバレなしです) 1940年に発表された本書は自身もシャーロキアンだったこの作者にふさわしくシャーロック・ホームズに関する薀蓄が散りばめられた本格派推理小説です。ユーモアは豊かだし時代小説的な描写もあり、暗号や不可能犯罪などの謎解きネタも満載ですが全体の仕上げはごった煮風で非常に読みにくく、ストーリーテリングに関しては「ゴルゴダの七」(1937年)と同じく低い評価にならざるを得ません。典型的なパズルミステリーで人物描写も精彩に欠けていて記憶に残らず、唯一ロマンスだけがわかりやすかったです(笑)。名評論家必ずしも名作家ならずを実践してしまった作品というのが私の印象です。


No.1570 6点 メソポタミヤの殺人
アガサ・クリスティー
(2016/08/13 06:20登録)
(ネタバレなしです) クリスティーは考古学者の夫の仕事の関係で中東旅行するようになり、「ナイルに死す」(1937年)や「死との約束」(1938年)など中東を舞台にした作品を書いていますがそれらが観光ミステリー風だったのに対して1936年発表のポアロシリーズ第12作の本書は遺跡発掘現場を描いているせいか「東洋の神秘」的な雰囲気が濃厚です。ややもすれば暗くて重苦しい作品になるところをレザラン看護婦を語り手役にすることによってそうならないようにしているのはいい工夫だと思います。謎解きもかなり凝っていてクリスティーには珍しい不可能犯罪に挑戦したり、(ネタバレ防止のため詳しく書けませんが)あまりにも大胆な犯人の秘密(普通すぐばれるのではと突っ込みたい)などなかなかの力作です。


No.1569 5点 五つの箱の死
カーター・ディクスン
(2016/08/13 05:58登録)
(ネタバレなしです) 1938年出版のH・M卿シリーズ第8作の本格派推理小説です。同年には名作「ユダの窓」も発表されていますがまるで違うタイプの作品になっており、作者が好調期だったことをうかがわせます。異様な犯罪現場の雰囲気、不思議な品物の数々、奇妙な証言と序盤の謎づくりに関しては全作品中でもかなりの出来映えではないでしょうか。それなりに有名なトリックが使われていますしユーモアにも事欠きません。多くの読者や批評家から指摘されているように着地に失敗した感はありますが全体としてはまずまず楽しめました。


No.1568 6点 Zの悲劇
エラリイ・クイーン
(2016/08/13 05:42登録)
(ネタバレなしです) 1933年発表の本書はドルリー・レーン4部作の3番目にあたる作品であることが重荷となってしまったような作品です。語り手による1人称形式、当時としては珍しい女性探偵の登場、タイムリミット・サスペンスの導入、裏社会の存在など「Xの悲劇」(1932年)や「Yの悲劇」(1932年)にはない特徴で一杯なのですが、それがかえって読者に違和感を感じさせたことも否定できないでしょう。論理的で緻密な推理は同時期の国名シリーズに匹敵する内容だと思いますが「Xの悲劇」や「Yの悲劇」と並べてしまうと詰め込みすぎて読みにくいなどなどの弱点が目立ってしまってます。


No.1567 5点 待ち望まれた死体
キャサリン・ホール・ペイジ
(2016/08/13 05:23登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家キャサリン・ホール・ペイジ(1947年生まれ)による1989年発表のフェイス・フェアチャイルドシリーズの第1作となるコージー派ミステリーです。軽快で読みやすい文章、上品なユーモアとウィット、後口の爽やかさとまさに気軽に読めるコージー派の特徴を備えています。探偵としてのフェイスは推理型というよりは行動型で、棚ぼた式に事件が解決されてしまうのと一部の謎を解けないままにしている結末は本格派好きの読者にはちょっと物足りなさを感じさせるかもしれません。


No.1566 5点 黒後家蜘蛛の会2
アイザック・アシモフ
(2016/08/12 13:26登録)
(ネタバレなしです) 1974年から1976年にかけて発表された作品を12作まとめて1976年に出版された黒後家蜘蛛の会シリーズ第2短編集です。謎解き的には辛くなりました。アメリカの文化風習や英語力などの知識を求められる作品が増えてしまったのです。私のような知識レベルの低い読者でもなんとかなりそうなのは「三つの数字」、「禁煙」、「鉄の宝玉」ぐらいですか。まあこのシリーズは額に汗して謎解きに挑戦するのではなく、ユーモア溢れる会話を気軽に楽しむというコージー派ミステリーだと思えばそれなりには楽しい読み物です。


No.1565 6点 英仏海峡の謎
F・W・クロフツ
(2016/08/12 11:24登録)
(ネタバレなしです) 1931年発表のフレンチ警部シリーズ第7作はクロフツの特色がよく出た作品で入門編としてお勧めです。犯罪が企業利益に影響を与えるという当時としては社会派ミステリー風な要素、フレンチ警部の足を使った地道な捜査、アリバイ崩し、トラベル・ミステリー要素などが織り込まれています。同時代のクリスティーやカーに比べれば晦渋で読みにくいですが、最後にはシンプルで印象的なトリックとサスペンス溢れる捕り物劇で盛り上がります。まあこのトリックはもはや古典的に過ぎて現代の捜査なら真っ先に可能性として検証されそうなトリックではあるのですが。


No.1564 5点 カーテン
アガサ・クリスティー
(2016/08/12 11:05登録)
(ネタバレなしです) 本書はもともと自分の死後発表用にと1940年前後に書いて保管していた作品らしいのですが、もはや新作を書く力を失ったクリスティーが読者を待たせてはいけないと考えたのか亡くなる前年の1975年に出版したポアロシリーズ第33作にしてシリーズ最終作となった作品です。大胆過ぎるぐらいの真相と物議をかもしそうな結末のつけ方は読者の好き嫌いも分かれるでしょうが、半世紀以上に渡って世界の読者を楽しませたポアロ物語もこれでラストかと思うとそれだけで感慨深いものがあります。


No.1563 5点 殺人者は21番地に住む
S=A・ステーマン
(2016/08/12 10:57登録)
(ネタバレなしです) 詳しくは知らないのですが本格派推理小説があまり受け入れられていないフランスでも1930年代は本格派が流行していたらしいです。ステーマン(厳密にはベルギー人ですが)はピエール・ヴェリーと共に(多分少数派の)本格派を代表する作家ですが、特に1939年発表の本書は2度に渡って「読者への挑戦状」が挿入されていてこの時代ならではの作品だと思います。あまりにも無能な警察の描写には不自然ささえ感じますし、動機が十分に説明されていないなど謎解きについて不満点も多いですが、(某書評サイトでも誉めていましたが)たった1つの文章(発言)で謎のほとんどがクリアになる切れ味は効果的だと思います。


No.1562 6点 不自然な死
ドロシー・L・セイヤーズ
(2016/08/12 10:48登録)
(ネタバレなしです) 1927年発表のピーター卿シリーズ第3作は何とも不思議な魅力の異色本格派推理小説です。犯人については早い段階でこの人しかありえないだろうと絞り込まれるのでフーダニットの面白さはありませんが代わりに犯行方法と動機、そして証拠探しが謎解きの中心になります。人物の役割が独特で、例えば最初に死因に疑問を抱いたカー医師は本来なら真相究明の功労者でもおかしくないのですが、この人の中盤以降での扱い方には驚きます。大胆な行動力を持ち合わせた犯人やピーター卿の助手をすることになったクリプスン嬢など個性豊かです。前半は事件性がはっきりしないこともあってのんびりと流れていきますが終盤はどんどんサスペンスが増していきます。技術的には実行上問題があるそうですが大変有名なトリックが使われており、犯人逮捕時のパーカー警部の一言の重みも忘れがたいです。


No.1561 4点 昏い部屋
ミネット・ウォルターズ
(2016/08/11 12:35登録)
(ネタバレなしです) 1995年発表のミステリー第4作です。自動車事故で負傷したジンクスは記憶の一部が失われています。物語は彼女と医者や見舞い客とのやり取りを中心に進みますがそこに重苦しいまでのドラマが展開され、登場人物の個性が浮かび上がります。ジンクスも弱々しい患者ではなく、むしろ時には冷徹すぎるぐらいに描かれていますので読者が共感するのは難しいかもしれません。人間ドラマとしては秀逸なんですが本格派推理小説としてはじれったいぐらいスローペースです。終盤になると推理場面もあってようやく流れが良くなりますがそれまでが冗長過ぎるように感じました。


No.1560 6点 殺人は容易だ
アガサ・クリスティー
(2016/08/11 12:19登録)
(ネタバレなしです) 1939年に発表されたバトル警視登場の本格派推理小説です。もっともバトル警視は脇役的存在ですが。本書と同年にあの「そして誰もいなくなった」が発表されているのが興味深いどころです。どちらも大量殺人を扱っているのですが雰囲気がまるで違いますね。本書は舞台を田舎の村にしているせいかどこかのんびりした雰囲気が漂っていていかにもクリスティーらしい作品と言えるでしょうし、裏を返せば孤島を舞台にした「そして誰もいなくなった」はクリスティー作品としては異色で孤高の存在だったと言えるでしょう。十分に面白い内容なのですが「そして誰もいなくなった」と同時期の作品だったのがある意味不幸、シリーズ探偵が登場しないこともあって知名度が低いのはやむなしでしょうか。


No.1559 4点 イデアの洞窟
ホセ・カルロス・ソモサ
(2016/08/11 10:32登録)
(ネタバレなしです) ホセ・カルロス・ソモサ(1959年生まれ)はキューバ出身のスペイン作家で2000年に出版された本書もスペイン語で書かれています。古代ギリシャの連続殺人の謎をヘラクレス・ポントーが探偵役として調べていく物語が描かれているテキスト、それを翻訳者である「わたし」が解読していくのですがその周辺でも不可解な事件が起きるという、過去と現代の物語が絡み合う本格派推理小説です。とても難解な作品で、「直観隠喩的イメージ」だの「詩的なメタファー」だの私には何が何だかわからない用語が飛び交ってもう大変(笑)。会話もプロットも錯綜しています。巻末解説によるとこの作者はマジック・リアリズムの手法を作品に取り入れているとのこと。ちょっと待って、マジック・リアリズムって何それ?解説まで難解にしないでほしいです(涙)。文献を調べるとマジック・リアリズムとはありふれた日常性に潜む神秘性を浮き彫りにして現実なのか非現実なのかをわからなくすることのようです。


No.1558 5点 名探偵群像
シオドー・マシスン
(2016/08/11 10:20登録)
(ネタバレなしです) 詳細はエラリー・クイーンが本書の序文で紹介していますが1958年から1960年にかけて米国のシオドー・マシスン(1913-1995)がEQMM誌に投稿した作品を10編収録して1961年に出版された歴史本格派推理小説の短編集です。アレクサンダー大王、レオナルド・ダ・ヴィンチ、クック艦長、ナイチンゲールなど歴史上の人物を名探偵として謎解きさせるアイデアは当時としては斬新だったと思います。推理の根拠が薄弱で謎解きとしては弱いのですが時代背景がしっかりと描かれているのは長所です。特殊な毒を前提条件にしているのが難点ではあるけれどトリックが珍しい「名探偵アレクサンダー大王」と画家の才能と探偵活動を無理なく結びつけた「名探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ」が個人的なお気に入りです。


No.1557 5点 門前通りのカラス
エリス・ピーターズ
(2016/08/11 10:07登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の修道士カドフェルシリーズ第12作の本格派推理小説です。作中時代は1141年12月、新司祭としてエイルノス神父が任命されたのですがまるでケイト・チャールズのミステリーに登場するような嫌なタイプの聖職者です。あのラドルファス院長と互角のやり取りするほどの天晴れな(笑)悪役ぶりは印象に残ります。カドフェルがある容疑者の無実を晴らすことには貢献しているものの、真相が明らかになる場面ではほとんど脇役にとどまっているのは謎解きとして物足りませんでした。なお若干ながら「死体が多すぎる」(1979年)のネタバレが作中にありますのでまだ未読の人はご注意下さい。


No.1556 5点 陰府からの使者
高柳芳夫
(2016/08/10 12:07登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説ですが、会社で上司や同僚からいじめを受けていた男が怪死し、その男から(と思われる)死を予告する手紙が送られた人々が次々に死んでいくというスリラー色の濃い展開にはこの作者がこういう作品も書くのかと驚きました。国際問題になりかねない企業活動が終盤に描かれているところは作者らしいです。ドライな筆致による醜い人間模様が(好き嫌いは分かれそうですが)印象的です。


No.1555 5点 死の誘い
ケイト・チャールズ
(2016/08/10 11:50登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表のディヴィッド・ミドルトンブラウンシリーズ第2作の本格派推理小説です。聖職者だって人間ですから喜怒哀楽があってもちっともおかしくないのですが、いやはや司祭があそこまで人から嫌われるような言動を繰り返すとは。前作の「災いを秘めた酒」(1991年)と同じく、事件が発生するまでに繰り広げられる人間ドラマがサスペンスたっぷりに描かれた前半部に引きずり込まれました。一方でディヴィッドとルーシーのロマンス場面もますます好調、実年齢にそぐわないぐらい青春しています(笑)。これで謎解き部分がもう少ししっかりしていれば文句なしなんですが、小説としてこれだけ面白いと謎解きの出来映えを一番重視している私でも合格点をあげてしまいます。


No.1554 5点 第三の犬
パトリシア・モイーズ
(2016/08/10 11:26登録)
(ネタバレなしです) 1973年のティベット警視シリーズ第11作です。第1章でヘンリが伝統的な犯人当て本格派ミステリーに憧れているようなシーンがあったのでてっきりその種のミステリーかと期待していたら違いました。推理が全くないわけではないのですがこれは本格派推理小説ではなく組織犯罪がらみのスリラー小説です。ユーモアに満ちた脱出劇があったりしてそれなりに盛り上がりますが個人的には好みのタイプではなかったです。なお「死とやさしい伯父」(1968年)の事件関係者が再登場していますのでまだそちらを未読の方は要注意です。


No.1553 5点 蜘蛛の巣
ピーター・トレメイン
(2016/08/10 11:16登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表の修道女フィデルマシリーズ第5作で、「幼き子らよ、我がもとへ」(1995年)と同じく創元推理文庫版が上下巻になるほどのボリュームですがすらすらと読ませる語り口は健在です。盗賊団が登場して冒険スリラー風になる場面もありますが最後は容疑者を一堂に集めて犯人を指摘するという本格派推理小説の典型的パターンで終結します。真相にちょっと気に入らないところもありますが謎解き伏線も結構豊富に張ってあります。

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