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ミステリの祭典

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ソルトマーシュの殺人
ミセス・ブラッドリー

作家 グラディス・ミッチェル
出版日2002年07月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2024/02/26 05:53登録)
(ネタバレなし)
 その年の7月。英国の片田舎ソルトマーシュの村で、牧師館の元メイドだった美人の娘メグ(マーガレット)・トスティックが私生児を生む。メグと赤ん坊は、村の酒場「モーニングトン・アームズ亭」の主人ローリーとその妻が世話するが、新生児の姿はなかなか村の者の目にふれる機会がない。そしてメグは赤ん坊の父親が誰か決して言わなかった。牧師館で副牧師を務める「ぼく」ことオックスフォード出の青年ノエル・ウェルズは事態を見守るが、やがてノエルは、村を訪れていた陰険そうで目つきの悪い老女ミセス・ブラッドリーと知り合いになる。そんななか、村では殺人事件が発生した。

 1932年の英国作品。老女探偵ビアトリス・アデラ・レストレンジ・ブラッドリー夫人シリーズの第四弾。

 で、いきなりだが、昨年2023年前半、当方が所属するミステリファンサークル「SRの会」が「黄金時代の海外作品限定」として、会員の各作品への評点をまとめた平均点評価方式によるベスト再評価を実行。会誌「SRマンスリー」の昨年10月号で、その結果を公開した(企画の初動のアンケート募集の号がどこかにいっちゃったので、今回の企画上の「黄金時代」が具体的に西暦何年から何年までの認定かは不明。たぶん1920年代の後半~1936年あたりだったと思う)。

 それでその上位結果が
1:Yの悲劇
2:エジプト十字架の謎
3:Xの悲劇
4:オリエント急行の殺人
5:ギリシア棺の謎
6:ドルリー・レーン最後の事件
7:プレーグ・コートの殺人

……と、7位までは、じつにクソ面白くもなんともないものだが、続く8位になんと本作『ソルトマーシュの殺人』が登場(!)。
 以下、9位『白い僧院の殺人』、10位『エラリー・クイーンの冒険』と続いた。

 要は定番の名作がしごく順当に当該の時代のベスト10を占める中、この8位だけが異彩を放っている感があり、これは……!? と状態の良い古書を購入して読み始める。
 ちなみに評者、グラディス・ミッチェル作品はこれでまだ三冊目。

 でまあ、一読しての感想だが、巻末の訳者あとがきにある通り「従来のミステリなら盛り上げるべきところをサラッと流し、そうでないところを盛り上げる(大意)」作者の持ち味はなるほど全開。
 個人的には、今回は特にその傾向が強い感触で、翻訳そのものはこなれがよいのに、なんか疲れた。恣意的、技巧的な送り手の演出としてそういう小説の作り方をしてるのはわからないでもないが、あーこれもオフビートね、ハイブロウなんだろうね、と言った感じでサン値が下がる(汗)。

 我がSRの会での高評にくわえ、読後にTwitter(Ⅹ)で読んだ人の感想をうかがうとみんな結構、好反応みたいで、……はあ、みなさん、こういうのを楽しめるんですねえ……というのが、ホンネ。

 いやむしろ、途中でのイベントの配置そのもの、さらには犯人の意外性、など、ミステリの骨格としては、フツーに楽しめるハズなんだけどね。こういう作品の作り方が作者の意図通りで、そして世の中に受け入れられているというなら、評者とは波長が合わないんだろうな、というところ。
 ただまあ、ラストの最後の一章の、ちょっと変わった趣向などはうーむ、と軽くうなずかされた。

『トム・ブラウンの死体』はフツーにそこそこ面白かったし、『タナスグ湖の怪物』は怪獣(ネッシーみたいな恐竜だけど)がホントに出て来る異色ミステリとして評価がゲタを履いた面もあるので、いまんとこ自分が読んだ三冊のなかでは、全般的に世の中の評価のよい? これがいちばん肌に合わなかったことになる。
 
 それなりに渋い味わいの英国ミステリ、決してキライじゃない……というかむしろ好物のハズなんだけどな。これはもう、グラディス・ミッチェルという作家の作風の色合いによるものかもしれん。
(まあ、もうちょっと読んでみたい、という気もまだあるけどね。)

No.1 5点 nukkam
(2016/09/04 01:20登録)
(ネタバレなしです) 1932年発表のミセス・ブラッドリーシリーズ第4作の本格派推理小説で、ミセス・ブラッドリーが哄笑する場面が随所にあるものの読者も一緒に笑えるかは微妙だと思います(私のユーモアセンス不足もありますけど)。初期作品だけあってプロットが(作者の計算通りかもしれませんが)ちぐはぐで、他の事件をハイライトしていながらまるでおまけのように実は殺人が起きていましたというのには面食らった読者も少なくないでしょう。謎解きは結構しっかりしているのですがこの読みにくさに慣れないと読者は推理どころではないかもしれません。結末の一行がなかなか衝撃的です。

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