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ミステリの祭典

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シーザーの埋葬
ネロ・ウルフ

作家 レックス・スタウト
出版日1987年11月
平均点6.40点
書評数5人

No.5 6点 クリスティ再読
(2020/01/07 08:53登録)
スタウトってどう評価すればいい作家なのか、がなかなか難しいと思うんだ。キャラ小説だから、そのキャラに愛着を持てばどの作品もそれなりに面白いけど、パズラーとしては小粒、フェアさは薄いことも多い。本作は「いつものウルフ」じゃないアウェーな事件で、レギュラーもいろいろ登場しない。その代わり、アーチーの恋人リリー・ローワン初登場。シリーズ的にもポイント作である。
ウルフが本格派安楽椅子探偵、アーチーがソフト・ハードボイルド探偵でその合体、とかよく言われるのだけど、評者はウルフの言動も、よく言われるようにパズラー名探偵風の「エキセントリック」というよりも、結構「ビジネスマンとしての仕事へのシビアさ」みたなものの方を感じたりする。ウルフって社会正義とかお題目で動かない探偵だもんねえ。今回の依頼人は「田舎の公爵」と呼ばれるくらいの名家の当主、尊大不愉快な人物に、依頼時点でも逆ねじをくらわす。依頼にグズグズいうのはウルフの十八番かもしれないが、結構これがウルフの「探偵としての自尊心とビジネス」に直結しているから、ないがしろにすることじゃない。そう見てみると、ウルフの対応も、実のところハードボイルド的でもあって、ネロ・ウルフのシリーズ自体、パズラーというよりもハードボイルドの影響を受けた「アメリカ的な行動派探偵小説」くらいの位置に置いた方がいいようにも思うんだ。
たとえば「処刑六日前」に密室とか犯人指摘のロジックがちゃんとあるように、本作もちょいとしたロジックがあって、これがなかなか冴えている。ウルフが真相を明かすと、実のところ真犯人との攻防みたいなものが蔭ではあったこともわかるから、そこらへんよくできている。なんだけど、依頼を受ける前から真相の分かってるウルフなら、そんなに持って回った展開にしなくても...とは思っちゃう。レギュラー以外のキャラはあまり魅力がないもんなあ。中盤やや冗長。

No.4 7点 nukkam
(2016/09/04 10:09登録)
(ネタバレなしです) 1939年発表のネロ・ウルフシリーズ第6作の本格派推理小説です。軽妙な会話や大胆な行動によるユーモアがスタウト独特の魅力ですが本書では特にそれに磨きがかかっているように感じられました。それは本書で初登場するリリー・ローワンというアーチーの恋人役に拠るところも大きいでしょう。恋人関係といってもベタベタな描写はほとんどなく、物語のスムーズな流れを全く妨げていません。タイトルに使われている「シーザー」とは全米チャンピオンの座を獲得した名牛ヒッコリー・シーザー・グリントンに由来しますが牛を謎解きに絡めたプロットが個性的で、スタウトを代表する傑作と評価されているのも納得です。

No.3 7点 mini
(2015/10/30 10:08登録)
本日か明日あたりに論創社から、レックス・スタウト「ようこそ、死のパーティーへ―ネロ・ウルフの事件簿」とジョン・ロード「ラリー・レースの惨劇」が刊行予定
ジョン・ロードのはこれまで代表作の1つと噂されていた未訳作なので期待大だ
スタウトのは同じ論創の既刊「黒い蘭」に続く中編集の第2弾

初期作「毒蛇」と「腰抜け連盟」を読む限りでは、初期のスタウトはまだミステリーを書く事に慣れていないなという感じである
デビュー作「毒蛇」では犯人の正体を明かすタイミングが中途半端だし、「腰抜け連盟」ではプロットがゴチャついて多過ぎる登場人物達を整理しきれていない
スタウトは書くに従って上手くなっていった作家なのだろう、評判で言えば初期~中期にかけての2トップが「料理長が多すぎる」と「シーザーの埋葬」である
ただしこの両作、私が言うところの代表作ではない
何度も説明しているが、私は最高傑作と代表作という語句をはっきり区別する主義である
代表作と言うのは、出来栄えはその作家の中で3~4番手位でも構わないから、それ1作を読めばははぁこの作家はこんな感じか、みたいに特徴が良く出ている事が条件である、つまりはその作家で最初に読むのに適しているという事だ
逆に言えば、どんなに傑作でもその作家にとっての異色作や特殊な作は代表作とは認めない、例えばポアロやマープルが登場しない「そして誰も」を代表作だと思った事はない
もちろん逆の意味で、特殊な設定の作ばかり書くような作家の場合はそういう作品が代表作となるが
さてそこで「料理長」と「シーザー」である
ウルフシリーズと言えば、ウルフ=思考、アーチー=行動・調査と相場が決まってる
ウルフは自宅に籠って外出しないのだ
ウルフが遠出するのは止むを得ない事情が有るときのみ
ところがさ、出来栄えでの2トップ「料理長」と「シーザー」はどちらもウルフが遠出するんだよな(笑)、「料理長」では美食趣味の為、「シーザー」では愛情込めて栽培する蘭の品評会に出席の為だ
何故だかシリーズの中では、直球よりも投げてみた変化球の方が良いコースに決まっちゃったみたいな(再笑)
この「シーザー」だと、本格として程良く纏まっていてストーリーテリングも決まっている
ウルフが遠出するという異色作なので代表作には推せないが、シリーズの中では名作の1つだろう
ただそう考えると、ウルフシリーズの代表作ってどれなんだろう?

No.2 6点 E-BANKER
(2015/05/13 20:39登録)
1939年発表のネロ・ウルフシリーズ。
「料理長が多すぎる」に続く長編六作目に当たるのが本作。

~全米チャンピオン牛の栄誉に輝いたというのに、シーザーの命は風前の灯火。飼い主で大衆レストラン・チェーンの経営者トマス・ブラッドが、店の宣伝のためにバーベキューにしようというのだ。そこへ呑気に迷い込んできた巨漢探偵ウルフと彼の右腕のアーチー。周囲の猛反対をよそにセレモニーの時間は刻々と迫っている。ところが、厳重警戒の牧場で一頭の牛と反対派の若者の死体が発見された。ウルフは謎のパズルをつなぎ合わせようとするが・・・~

プロットの骨子はなかなか面白い。
紹介文のとおり、“シーザー”とは全米のチャンピオン牛なのだが、どうみてもその牛(=シーザー)に殺されたとしか見えない男の死体が発見される。
警察側は牛による事故という形で処理しようとする矢先、件の牛(=シーザー)も病気が原因で死んでしまう。
バーベキューを強行しようとする側と反対派の間には複雑な人間関係が見え隠れして・・・という展開。

ネロ・ウルフによって解き明かされる真相はロジックが効いてて、実に単純明快且つ納得性十分。
(ウルフは最初から分かってたと述べているが、だったらもったいぶらずに言っとけよ!)
ということでなかなかの良作・・・とはならないのが残念なのだ。
如何せん中盤のやり取り、展開がぬるい。
ウルフとアーチーのすったもんだのやり取りは本シリーズの特徴なのだろうけど、これが本筋からは殆ど無駄な気が・・・
(アーチーの奮闘ぶりも個人的にはちょっとウザイ感じ。)
もう少しシンプルな筋書きであればより評価は上がったと思うけど、そうすると本シリーズの良さも消えるんだろうなぁー
その辺の匙加減は難しいかも。

個人的にはプラス・マイナスを相殺して水準級プラスアルファという評価で落ち着く。
繰り返すけど、プロットの骨子そのものは結構イイ線いってると思う。
(やっぱりシリーズものは読む順番を考えたほうがいいのだろうか?)

No.1 6点 kanamori
(2010/04/21 20:17登録)
蘭と美食を愛する安楽椅子探偵ネロ・ウルフ、シリーズ第6作。
前作は美食を求め珍しくウルフが外出したが、今回は蘭の品評会のため遠出する。探偵事務所に居座った状態だと、どうしてもプロットがパターン化するので、マンネリを避けたのでしょうか。
途中立ち寄った牧場で、全米チャンピオン牛シーザーの殺人容疑を晴らすべく奮闘する助手アーチーの減らず口も快調です。
二人の掛け合いを楽しむシリーズですが、今作は本格ミステリとしてもよく出来ていると思いました。

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