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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1712 4点 王宮劇場の惨劇
チャールズ・オブライアン
(2016/09/12 01:02登録)
(ネタバレなしです) 米国のチャールズ・オブライアンは教職を引退してから作家業に転じたという、英国のエリザベス・ルマーチャンドと似たキャリアの持ち主です。2001年発表のデビュー作の本書はフランス革命前のパリを舞台にした歴史ミステリーです。1786年のロンドンで舞台芸人を引退して聾学校の教師の道を目指すアン・カルティエに届けられたのはかつて芸を仕込んでくれた義父アントワーヌがパリで愛人関係の女優を殺害して自殺したというショッキングな知らせ。アントワーヌがそんなことをするとは信じられないアンはパリへ行き、街道巡邏隊隊長のサン=マルタン大佐の助けを借りながら真相を探ろうとするというのが本書のプロットです。推理による謎解きはなく冒険スリラー小説に分類される作品ですがこの人の文章はちょっと抑制が効きすぎてスリルに乏しい感があります。お決まりのヒロイン危機一髪の場面さえももうひとつどきどきしません。文章が下手というわけではないのですが(むしろ読みやすいです)、作風と題材が合っていないような気がします。


No.1711 5点 死のさだめ
ケイト・チャールズ
(2016/09/12 00:29登録)
(ネタバレなしです) 1993年発表のディヴィッド・ミドルトンブラウンシリーズ第3作の本格派推理小説です。謎解きとしては過去2作と変わらず大したことありません(笑)。でもこの作者のストーリーテリングはやはり秀逸で、人間ドラマとしてはとても良く出来ています。本書ではルーシーの父親(この人も聖職者です)が登場していますが、変な聖職者ばかりが登場している中でバランスの取れた常識人ぶりが好印象を与えます。そしてディヴィッド、謎解きはするけど微妙な女心には気づいていません!この不器用ぶりが微笑ましいというかもどかしいというか...(笑)。


No.1710 7点 歌う白骨
R・オースティン・フリーマン
(2016/09/12 00:23登録)
(ネタバレなしです) 世界最初の倒叙推理小説「オスカー・ブロズキー事件」をはじめ、ソーンダイク博士の活躍する5作品を収録した1912年発表の第2短編集です。5作品中4作品が倒叙推理小説で、推理小説史上重要というだけでなく内容的にも優れた作品が揃っています。「オスカー・ブロズキー事件」も良く出来ていますが個人的には「計画された事件」がお勧めです。犯人の計画がよく練り上げられているほどソーダイク博士の名探偵ぶりも光ります。他の作品も充実していて当時としては大変緻密な謎解きになっています。犯人の正体が最初から明かされているこのスタイルのミステリーが本格派の主流になれなかったのはもっともだと思いますが(フリーマン自体、普通のフーダニット型作品の方が圧倒的に多いです)、一度は読んでみて損はありません。


No.1709 5点 冷えきった週末
ヒラリー・ウォー
(2016/09/11 03:51登録)
(ネタバレなしです) 本格派推理小説要素の強いフェローズ署長シリーズの中でも1965年に発表されたシリーズ9作目の本書はその極めつけではないでしょうか。丹念な捜査、集められた証拠による推理と検証、そして105項目のデータと29の疑問点を整理したフェローズの捜査メモと実に徹底しており、読者が推理に参加することも可能かもしれません。だが地味なストーリー展開に加えて登場人物があまりにも多いのでじっくり腰を据えて読まないと辛い思いをします(私は辛かったです)。私の記憶に残っているのは最初に事件を担当したラムゼイ署長が何とかフェローズ署長に担当を押しつけようとあれこれ画策している序盤の場面ぐらいでした(この作者には珍しいユーモアを感じました)。


No.1708 7点 エラリー・クイーンの新冒険
エラリイ・クイーン
(2016/09/11 03:41登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のエラリー・クイーンシリーズ第2短編集で、中編小説「神の灯」に8つの短編の計9作の本格派推理小説を収録した短編集です。本書の顔ともいえる「神の灯」は家屋消失というとびきり魅力的な謎が提示されています。トリック自体は空さんのご講評でも指摘されているように他の作家による前例があるのですが、エラリーが真相を見破るきっかけになった手掛かりが秀逸です。「宝捜しの冒険」では文字通り宝捜しのゲームが描かれ、その手掛かりが文学知識が求められているため私なんぞにはゲームへの参加感はなかったけどちゃんと謎解きにつながっているプロットはなかなか見事です。「血をふく肖像画の冒険」の奇抜な真相も印象的です。それから「ハートの4」(1938年)に登場したポーラ・パリスが再登場する作品が4編あり、それぞれ野球、競馬、ボクシング、アメリカンフットボールといったスポーツをテーマにしています。この中では「トロイアの馬」がトリックは単純ながら競技の緊迫感と謎解きのサスペンスが上手く絡み合った佳品だと思います。


No.1707 5点 殺人はロー・スクールで
ライア・マテラ
(2016/09/11 03:23登録)
(ネタバレなしです) ライア・マテラ(1952年生まれ)はカナダ出身の米国人女性作家です。本書は1987年発表のデビュー作で、周囲から実力を認めてもらえないウィラ・ジャクソンが殺人事件を解決して見返してやろうと犯人探しをする本格派推理小説です。この時期米国で全盛であったコージー派ミステリーのような申し訳程度の謎解きにせず、しっかりとしたフーダニット型ミステリーになっている点は評価できます。しかしデビュー作故の固さというのでしょうか、登場人物やストーリーがごちゃごちゃし過ぎて読みにくいのはちょっと残念です。


No.1706 7点 スターヴェルの悲劇
F・W・クロフツ
(2016/09/11 03:16登録)
(ネタバレなしです) 1927年発表のフレンチシリーズ第3作である本書は通常の本格派で見られる、誰が犯人か、どのように殺したか、なぜ殺したのかといった解くべき謎が明確に与えられている事件ではなく一体何が起こったのかという網羅的な謎を扱っているのが特徴です。下手に書くと焦点ぼけの謎解きになりかねない難しいテーマですがクロフツの堅実過ぎるぐらいの作風にはかえってマッチしているように思えます。当時としては思い切ったどんでん返しが用意されているのも印象的で(人によってはこのミスリーディング手法は感心しないかもしれませんが)、初期代表作と評価されているのも納得の一冊でした。


No.1705 5点 QED ~flumen~ 九段坂の春
高田崇史
(2016/09/11 02:56登録)
(ネタバレなしです) 4作の中短編で構成された2007年発表の桑原崇シリーズ第1短編集です。「九段坂の春」では中学2年の桑原崇、「北鎌倉の夏」では高校1年の棚旗奈々、「浅草寺の秋」では大学1年の小松崎良平、「那智瀧の冬」では(ちょっと意外でしたが)大学院生の御名形史紋が登場してそれぞれの青春時代が描かれます。連作短編集になっており、4人が直接会うことも互いのことを知ることもありませんが(作中時代も最長11年の開きがあります)ちょっとした縁で結ばれていることが読者に伝わるようになっています(講談社文庫版の解説で作者自身が「縁」をトータルテーマにしたと語っています)。このシリーズならではの歴史や文学に関する謎解きもちゃんとあります。シリーズ名探偵役でない奈々や小松崎が単独で事件に関わった時にどういう役割を果たすのか、読者は貴重な経験を得られます。ただ中短編のためか詳細な人物紹介になっていないので、鷹さんやKOBさんのご講評で指摘されているようにシリーズ入門編としては勧められません。


No.1704 6点 魔女の隠れ家
ジョン・ディクスン・カー
(2016/09/10 06:20登録)
(ネタバレなしです) 1933年発表の長編第6作である本書はヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)と共に登場回数が最も多いシリーズ名探偵フェル博士のデビュー作でもある本格派推理小説です。作者得意のオカルト雰囲気は本書でも見られますがこれまでの作品と大きく違うのは陽気な巨漢というフェル博士の造形が作品に明るさを与えるようになったことでしょう。明るい部分と暗い部分の対比がプロットにメリハリを生み出しています。謎解きを押しのけない範囲内でロマンス描写に力を入れたのも作者に余裕が出てきたことを感じさせます。謎解きのまとまりもよく、カー入門編として勧められる一冊です。


No.1703 10点 悪魔を呼び起こせ
デレック・スミス
(2016/09/10 05:58登録)
(ネタバレなしです) 英国のデレック・スミス(1927-2003)はミステリーマニア、それも密室研究家として名高い人物だそうですがそんな彼が自ら筆を執って完成させた本格派推理小説が1953年発表の本書です。アマチュア作家の作品とは思えぬほど完成度の高い傑作です。これでもかと言わんばかりに構築された密室の謎、そして真相もまた(ちょっと気に入らない部分もありましたが)実に緻密に考え抜かれています。複雑なトリックなので読者が完全正解するのは難しいとは思いますが謎を解く手掛かりも極めてフェアに提示されています。ストーリーの流れもスムーズで読みやすいです。日本には長らく紹介されていませんでしたが幻の傑作と称賛されるに価する作品だと思います。ガチガチの本格派がお好きな読者ならぜひご一読を。


No.1702 6点 古い骨
アーロン・エルキンズ
(2016/09/10 05:50登録)
(ネタバレなしです) 北フランスの有名な観光地、モン・サン・ミッシェルを舞台にした1987年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第4作である本書は1988年度MWA(米国探偵作家クラブ)の最優秀長編賞を獲得した本格派推理小説です。明快で歯切れのいい文章とスムーズなストーリー展開は過去作品と共通していますが謎解きがしっかりしたのは本書からではないでしょうか。犯人指摘場面はやや唐突感がありますが風変わりで巧妙な殺害トリックが印象に残ります。


No.1701 6点 悪の断面
ニコラス・ブレイク
(2016/09/10 05:41登録)
(ネタバレなしです) 1964年発表の本書は名探偵ナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第15作ながら犯人当て本格派推理小説ではなく誘拐された少女を巡っての誘拐犯グループと追跡者グループとの駆け引きをスリリングに描いたスパイ・スリラーです。単なる善悪の対決でなく非情なまでに悲劇的なシーンあり、親子愛を強く訴えるシーンあり、絶妙なストーリーテリングで読ませる作品です。kanamoriさんのご講評の通り後味の悪い場面がありますがそれだけに強い印象を残すのも確かです。


No.1700 6点 死の退場
ハリイ・オルズカー
(2016/09/10 01:57登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表のフェルダーシリーズ第2作ですが作者は「殺人をしてみますか?」(1958年)に引き続きフェルダー(前作では警部でしたが本書では警視)をあくまでも脇役として扱っています。それどころかフェルダーの存在感はますます薄くなったように感じます。なぜなら本書の主人公であるドロシイ・ドーンがあまりにも強烈な個性の持ち主だから。マリリン・モンローやジェーン・マンスフィールドのような女優を目指してワイオミングの田舎からニュー・ヨークへ上京した23歳の女性ですが、次から次にトラブルに巻き込まれながらも(そして何度も酒で酔っ払いながらも)考えることをやめないのはいいのですがこれが的を得ているのか的を外しているのかわからず、読者を(登場人物も)きりきり舞いさせます。典型的な巻き込まれ型サスペンス風のプロットにあぶなっかしいアマチュア探偵ドロシイの捜査が絡み合い、最後の2章ではフェルダー警視と全容疑者、そして(またもべろんべろんの)ドロシイが劇場に集結して(これがなかなかしっかりした)本格派推理小説としての謎解きが繰り広げられます。


No.1699 6点 フランス白粉の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/09/09 17:06登録)
(ネタバレなしです) 1930年に発表された国名シリーズ第2作の本書はなぜあの人物が犯人かという推理だけでなくその人以外の容疑者たちがなぜ犯人ではありえないのかという推理まで丁寧に説明しているところが工夫になっています。エラリーが一人一人の名前を照会しながら犯人ではないと容疑から外していき、残る人物の誰を犯人として指名するのかという謎解きのスリルは(文字通り)最後の一行まで続くのです。まあそこに至るまでの筋運びはお世辞にもスムーズとは言い難いし登場人物も誰が誰だか整理が大変です。(ちょっとネタバレになりますが)犯罪組織の暗躍が示唆されているのも本格派推理小説としては好ましくないと感じる読者もいるかもしれません。メインの謎である殺人には組織力を使ったトリックなどはもちろんありませんけど。ところで本筋とは関係ありませんがこの時代で既に壁面収納タイプのベットが開発されていたとはさすがアメリカ(笑)。


No.1698 5点 霧の中の虎
マージェリー・アリンガム
(2016/09/09 15:20登録)
(ネタバレなしです) 1952年に発表されてジュリアン・シモンズらから絶賛された本書はアルバート・キャンピオンシリーズ第14作ですが本格派推理小説ではなくサスペンス小説に分類される作品で、キャンピオンも脇役でした。凶悪犯が登場しますがその危険性をそれほど強調した描写ではないので「恐怖感」を期待する読者には物足りないかもしれません。とはいっても決して退屈な作品ではなく独特の小説世界が築かれています。単なる勧善懲悪を超越した結末も印象的です。


No.1697 5点 ひよこはなぜ道を渡る
エリザベス・フェラーズ
(2016/09/09 15:15登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のトビー・ダイク&ジョージシリーズ第5作の本格派推理小説です。地味なアリバイ調べが多いのでやや読みにくい面もありますが終盤はさすがに上手く盛り上げます。ジョージの登場場面が非常に少なく、しかも探偵活動から手を引きたいことを再三語らせているのが気になりますが果たして本書がシリーズ最終作となってしまいました。次の作品が発表されるまで第二次世界大戦の影響か3年間のブランクがありますが、作者としてもユーモアに溢れた当シリーズをもはや書く気がしなくなったのかもしれません。


No.1696 8点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ
エドワード・D・ホック
(2016/09/09 15:08登録)
(ネタバレなしです) ホックは何人ものシリーズ名探偵を生み出していますがサム・ホーソーン医師のシリーズは歴史本格派であることとほとんどの作品で不可能犯罪を扱っているのが特徴です。1996年に出版された第1短編集の本書は1974年から1978年にかけて発表された12作品が収められており、作中時代は1922年3月から1927年9月にまたがっています。全部で70を超すシリーズ短編を書いただけに当たり外れはありますが本書は当たり作品が多く、謎の提示、推理の積み重ね、合理的な謎解きと本格派推理小説の基本を守った作品が並んでいます。ホワイダニットとしても面白い「水車小屋の謎」、よく考え抜かれたトリックの「ロブスター小屋の謎」、留置場からの脱出を描いた「十六号独房の謎」が私のお気に入りです。なお創元推理文庫版は非シリーズ作品の「長い墜落」をボーナス追加していますがこれは蛇足で、シリーズ作品のみで統一した方がよかったと個人的には思います。割を食ったのが非シリーズ短編集の「夜はわが友」(1991年)で、米国オリジナルではこちらに「長い墜落」が収めてあったのに創元推理文庫版では削除の憂き目にあいました。


No.1695 9点 ウッドストック行最終バス
コリン・デクスター
(2016/09/09 13:28登録)
(ネタバレなしです) 英国で絶大な人気を誇る本格派推理小説家コリン・デクスター(1930年生まれ)の1975年発表のデビュー作となるモース主任警部シリーズ第1です(長編作品は全部モーズ主任警部シリーズです)。エラリー・クイーンの全盛期時代を思わせるような論理的なモースの推理が素晴らしいです(そして中盤での迷走ぶりもまた別の面白さがあります)。デクスターの作品はあまり登場人物に感情移入することがなく、物語として味気なさを感じることも多いのですが本書ではロマンスがいい味付けになっています。


No.1694 5点 金庫の中のピエロ
パトリック・A・ケリー
(2016/09/08 00:59登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の落ち目の奇術師ハリー・コルダーウッドシリーズ第2作である本格派推理小説です。名物ピエロで旧友のクインプが「この世界にもう長くはありません」という不吉な予言をしたのを知ったハリーが彼が泊まっているホテルへ急行する場面で開始されますが、相変わらず感情を控え目に描写しているのでハリーの焦りがいまひとつこちらに伝わって来ませんでした。全般的には軽妙で読みやすいですが後半になるとストーリーが結構複雑になります。真相にはそれなりの意外性もありますが推理の強引さも目立ちます。クレイトン・ロースンの「帽子から飛び出した死」(1938年)を連想させるようなクライマックスシーンはなかなか印象的です。


No.1693 5点 騎士の盃
カーター・ディクスン
(2016/09/08 00:50登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表の本書はH・M卿シリーズ第22作で最後の作品でもあります。最後の作品といっても特にお別れを象徴するような演出はなく、お笑いやどたばたを混ぜながらしっかり謎解きもしているファルス本格派に仕上がっています。何者かが密室状態の部屋に入り込んでは家宝の「騎士の盃」を動かしているという犯罪ともいたずらとも特定しにくい行動の裏にある動機はなかなか見抜けにくいと思います。密室トリックは感心できませんが最後にH・M卿が犯人に与える「罰」がいかにもファルス(笑劇)ならではです。あと作中で「青銅ランプの呪」(1945年)のネタバレがありますのでそちらを未読の人は注意して下さい。

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