nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2812件 |
No.1772 | 7点 | 聖域の雀 エリス・ピーターズ |
(2016/09/26 01:41登録) (ネタバレなしです) 作中時代は1140年4月、カドフェルらが教会で祈りを捧げている所へ逃げ込んだ若者と彼を追ってなだれ込んだ群衆という場面で幕開けする1983年発表のカドフェルシリーズ第7作の本書では若い恋人たちが苦難を乗り越えていくという、このシリーズ定番の恋愛物語も描かれていますがそれ以上に印象的なのがオーリファーバー家で展開されるホームドラマです。P・D・ジェイムズのミステリーが「単なる謎解きではなく事件が登場人物に与えた影響やそれによって変わってしまった人生を描いている」とどこかで評されてましたが、本書はそれのピーターズ版と言えるのでは。謎解きとしてもシリーズ作品の中では上位にランクできる出来映えで、個人的にはシリーズ中トップ3のお気に入りです。 |
No.1771 | 5点 | 誰もが戻れない ピーター・ロビンスン |
(2016/09/26 01:36登録) (ネタバレなしです) 1996年発表のバンクス首席警部シリーズ第8作はかなり分厚い本ながらも長さを感じさせずすらすら読める警察小説です。読者が犯人当てに挑戦するようなプロットではない上に重要証拠がかなり終盤に近い段階になって出てくるので解決がちょっと唐突過ぎのきらいがあり、謎解きに重きを置く読者にはあまり勧められませんが人間ドラマとしてはぐいぐい読まされる力を秘めています。英語原題の「Innocent Graves」に使われている「Innocent(潔白)」と「Not Guilty(有罪にあらず)」の違いの大きさを感じることができます。なお「夏の記憶」(1988年)の登場人物の後日談が少し紹介されていますので未読の読者は注意して下さい。 |
No.1770 | 5点 | 闇の淵 レジナルド・ヒル |
(2016/09/26 01:29登録) (ネタバレなしです) 1988年発表のダルジールシリーズ第10作の本書ではヨークシャーの炭鉱町で当時7才だったトレイシーの失踪事件が起きます。失踪直前まで一緒だった炭坑夫のビリー・ファーが疑われ、一方で連続幼女暴行殺人犯のピックフォードが自殺したことによって彼女もピックフォードの犠牲者だったのだろうということで捜査が打ち切られます。連続殺人犯が脇役的に扱われているところはP・D・ジェイムズの「策謀と欲望」(1989年)をちょっと連想させます。その三ヵ月後、ビリーが坑道で死んでいるのが発見され、事故死として処理されます。そこから更に時が流れてからがようやく本筋になります。物語はビリーの息子コリンを中心に進むのですが彼の人物像がなかなかつかみにくいです。激情家で暴力的かと思えば驚くほど自制心が強いような場面もあるし皮肉屋の時もあれば妙に素直な時もあります。この「わかりにくさ」が物語をつまらなくしているかというとむしろその反対で、コリンの一挙一動から読者は目を離せません。そして炭坑の中で迎えるクライマックスが大変劇的です。但し犯人の自白でほとんどの謎が解明されるため探偵の推理による謎解きを期待すると失望します。 |
No.1769 | 6点 | 仮面荘の怪事件 カーター・ディクスン |
(2016/09/25 02:05登録) (ネタバレなしです) カー(カーター・ディクスン名義も含む)は自作の短編からアイデアやトリックを長篇に転用していることがいくつかあり、読者にその転用がすぐばれないように上手く加工しているのもありますが1942年発表のH・M卿シリーズ第13作の本書の場合は「なぜ自分の家に泥棒に入ったのか」というあまりにも特異な謎のため、短編を読んだ人にはトリックも犯人もすぐ見抜けるでしょう。私も短編の方を先に読んでいたので真相はすぐにわかりましたがそれでも十分に楽しめました。カー得意のオカルト雰囲気や不可能犯罪要素はほとんどありませんが、読者に対して手がかりや伏線がきちんと用意されている正統派の犯人当て本格派推理小説として十分水準に達している作品だと思います。 |
No.1768 | 6点 | ウィチャリー家の女 ロス・マクドナルド |
(2016/09/25 01:59登録) (ネタバレなしです) 米国ハードボイルドの巨匠ロス・マクドナルド(1915-1983)と言えばサイコ・サスペンスの巨匠マーガレット・ミラー(1915-1994)と結婚していることで有名ですが(面白いことに結婚時点では両者ともまだ作家ではありません)、その家庭生活は決して幸福ではありませんでした。ひとり娘のリンダが大変な問題児で飲酒癖がひどく、交通事故で子供を轢き殺してしまったりさらには失踪事件を起こしてマスコミの注目を集めたりした挙句、若くして死亡しています(薬物の過量摂取が原因らしい)。その影響が作品にも表われていて家庭内の悲劇を描かせては彼ほど深みのある作品を書ける作家はいないとまで言われています。1961年に発表されたリュウ・アーチャーシリーズ第9作の本書はまさにその代表作で、ドライな文章で淡々と語られているのに段々と絶望感が増していくプロットが見事です。拳銃を使って脅す場面もあるけれどそれほど過激な暴力が描かれているわけではなく、アーチャーと犯人の最後の対決も銃撃戦や殴り合いではなく会話による静かな幕切れになっています。「マクドナルドの作品は本格派ファンにもよく読まれている」というのも納得です。もっとも本格派として読んだ場合、ちょっと手掛かりの提示がストレート過ぎてどんでん返しが上手く決まっていないように思えますが。 |
No.1767 | 7点 | 猿来たりなば エリザベス・フェラーズ |
(2016/09/25 01:42登録) (ネタバレなしです) 1942年に発表されたトビー・ダイク&ジョージシリーズの第4作となる本書は、トビーの1人称形式で物語が進むのが特色の一つです。これまでフェラーズ作品を読んでいて感じたことは、謎解きの場面で大胆な仕掛けが明らかになることが多くてこれには大変満足しているのですが、一方で前半から中盤にかけての謎作りという点では地味過ぎに感じてしまうことが多かったです。しかし本書は謎の提示も謎解きもどちらも魅力的です。誘拐を扱った本格派推理小説自体さほど多くありませんがその被害者が猿だったなんてのは前代未聞です。しかも猿事件が決して奇を衒っただけのアイデアでないところが素晴らしいです。 |
No.1766 | 10点 | ナイルに死す アガサ・クリスティー |
(2016/09/25 01:35登録) (ネタバレなしです) 「華麗なるミステリー」と言われたら迷わず1937年発表のポアロシリーズ第15作の本書が頭に浮かびます。クリスティーとしては重量級の作品ですが退屈も混乱もせずに読むことができました。登場人物も多いですが描き分けがきちんと出来ていて多彩な人間ドラマが楽しめます。ロマンチック・サスペンス的な雰囲気もありますが本格派推理小説としてもしっかりと作られた作品でっす。真相についてはちょっとがっかりした部分もあるものの緻密に構成されたプロットとトリックであることは確かです。まさにミステリーの女王の名にふさわしい作品と言っても誇張ではないでしょう。 |
No.1765 | 9点 | 家蝿とカナリア ヘレン・マクロイ |
(2016/09/25 01:23登録) (ネタバレなしです) 1942年発表のベイジル・ウィリング博士シリーズ第5作で謎解きの伏線を縦横に張り巡らした本格派推理小説の秀作です。容疑者が少ないと往々にして取り調べが細かくなり過ぎてダレ気味になりがちですが本書は謎解きのスリルが最後まで持続しています。冒頭のカナリアの謎が後半になって再びクローズアップされる展開も見事だし、ベイジルのさりげない名探偵ぶりも好感が持てます。ポーストのアブナー伯父シリーズで既に使われているのと同じ謎解きネタがありましたがそれを差し引いても傑作の名に恥じません。 |
No.1764 | 6点 | 手をやく捜査網 マージェリー・アリンガム |
(2016/09/24 16:43登録) (ネタバレなしです) 1932年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第4作で、キャンピオンが「私立探偵でなく職業的冒険家」と自己紹介していますが本書においては私立探偵と見なしてよいのではないでしょうか。ソクラテス屋敷(何て名前だ)に住む家長(女性)と彼女に頭の上がらない居候状態の家族たちという、よくありがちな人間関係の中で起こる殺人事件の謎解きのストレートな本格派推理小説です。アリンガムというと文学的な作風が評価されることが多いですが本書はそういった面はない代わりにパズルとして大胆な仕掛けがあることに驚かされます。基本的なアイデアはコナン・ドイルの某作品でも見られますがこれをもっと複雑に発展させたものです。六興推理小説選書版は半世紀以上前の古い翻訳の割には読みやすいのですが、それにしても登場人物リストの人物紹介が「ビー公」って...(笑)。 |
No.1763 | 5点 | フェニモア先生、墓を掘る ロビン・ハサウェイ |
(2016/09/24 16:16登録) (ネタバレなしです) フリーランスの女性作家兼写真家としてのキャリアを持つ米国のロビン・ハサウェイ(1934年生まれ)が本書でミステリー作家としてデビューしたのは1998年、何と既に還暦過ぎていらっしゃいます。医者にして探偵のフェニモア先生シリーズ第1作ですが本書を読む限りでは探偵業で稼いでいるようには思えませんね(笑)。毒殺ではないかと睨んだフェニモア先生が被害者はどのように毒を盛られたかを見破ろうと様々な可能性を試行錯誤します。この展開はクリスティーの「スタイルズの怪事件」(1920年)をちょっと彷彿させます。37章で明らかになるトリックは実際のケースとして過去に例があったようで謎解きとしては目新しさはありませんが全体としてのストーリーテンポは快調で、手軽に楽しめるコージー派本格派推理小説です。フェニモア先生をサポートする面々もなかなかいい味を出しています。 |
No.1762 | 5点 | ロウソクのために一シリングを ジョセフィン・テイ |
(2016/09/24 16:12登録) (ネタバレなしです) 「列のなかの男」(1929年)をゴードン・ダヴィオットという男性名義で発表したテイがテイ名義で最初に出版した作品が1936年に発表されたグラント警部シリーズ第2作にあたる本書です。物語の大半が足を使った聴き込み捜査主体で、グラントの考えていることもほとんど読者にオープンになっているクロフツ風な展開ですが最後はグラントの推理が披露されるフーダニット型本格派推理小説として着地します。ただ真相には驚いたというよりも何だこりゃと唖然としました。まず動機。どうやらグラントは床屋の雑誌記事から発見した模様ですが本当にアレが動機とは。ハヤカワポケットブックス版の巻末解説(評者は宮部みゆき)では伏線がちゃんと張られているように評価していますがとても十分とは思えないし、とってつけたようなアリバイ崩しと証拠の発見。謎解きという点では大いに不満があります。とはいえテイの特徴はパズルとしての完成度よりも文章表現の巧さやさりげないユーモアなどにあり、グラントが重要人物にまんまと逃げられるシーンや署長の娘エリカのアマチュア探偵ぶりなど読ませどころは一杯あります。 |
No.1761 | 10点 | ジェゼベルの死 クリスチアナ・ブランド |
(2016/09/24 16:00登録) (ネタバレなしです) 1949年に発表されたコックリル警部シリーズ第4作の本格派推理小説で「緑は危険」(1945年)と肩を並べる大傑作です。人間ドラマとしてはあちらの方が優れていると思います。本書の登場人物は個性的だけど魅力的じゃないんですね。嫌な人間か変な人間ばかりで感情移入できず、誰が犯人でも構わないという気持ちになりました。でもパズルとして凝っているのはこちらでしょう。本書は容疑者たちが次々に自白する場面が有名で、これが捜査陣と読者を混乱に陥れる効果は相当なものです。それからチェスタトンの某作品を連想させるあの大トリックにもしびれました。コックリルはさらりと説明していますが本当に凄いトリックです。なお「切られた首」(1941年)が作中でちょっとネタバレされているのでまだ未読の読者は気をつけて下さい。 |
No.1760 | 5点 | 死がかよう小道 ドロシー・キャネル |
(2016/09/24 15:44登録) (ネタバレなしです) 1985年発表の本書はエリー・ハスケルシリーズ第2作と紹介されることもありますがエリーは活躍しません。但し作中の登場人物が次作の「未亡人クラブ」(1988年)で再登場していて作品世界はつながっており、シリーズ番外編と位置づけるべきでしょう。プロローグがなかなか魅力的で、いきなりのどんでん返しに一気に引きずり込まされました。その後も盛り上がる場面が随所であるのですが、全体的には詰め込み過ぎかつ整理不十分気味で案外読みにくいです。終盤の登場人物たちが集まっての謎解きディスカッションはなかなか本格派として楽しめますが結末はやや唐突感が残りました。まあそれでもデビュー作の「いい女の殺し方」(1984年)と比べれば格段に進歩していますが。 |
No.1759 | 5点 | ハイキャッスル屋敷の死 レオ・ブルース |
(2016/09/23 01:42登録) (ネタバレなしです) 1958年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第5作の本格派推理小説は古きよき時代へのオマ-ジュとして書かれたのでしょうか。貴族の屋敷を舞台にして数々の豪華な食事や行き届いたサ-ビスにとまどい気味のキャロラスが描かれています(使用人の数が半端ではありません)。オマージュといえば本書はかなりエラリー・クイーンを意識したように思えるところが散見されます。キャロラスが13の手掛かりを挙げて犯人を指摘する場面は初期のクイーンを彷彿させますが、それ以上に印象に残るのはまだ中盤の12章の終わりでキャロラスは真相を見抜いたらしいのにそこから解決に至るまでにやたらもたもたしていることです。そうなった理由はクイーンの1940年代の作品を連想させます。真相を証明する証拠を意外な人物が握っていたという設定は作者のオリジナリティを感じさせます。 |
No.1758 | 5点 | 黄色い部屋の謎 ガストン・ルルー |
(2016/09/23 01:04登録) (ネタバレなしです) フランスのガストン・ルルー(1868-1927)の作品では「オペラ座の怪人」(1910年)と並んで有名です。彼の作家としての本領はスリラー小説にあったようで、青年記者ルールタビーユの活躍する作品は本書も含めて8つの長編が書かれていますが本格派推理小説に属するのはどうも1907年に発表された第1作の本書だけらしく、ある意味で実験的な作品なのかもしれません。文章は表現が大げさであくが強く、時にまわりくどさを感じさせて必ずしも読みやすくはありません。密室ミステリーの古典としての地位を占める作品ですが文章の古臭さ故に現代の読者に推薦できるかはちょっと微妙な作品です。密室トリックは当時としてはかなり複雑に考え抜かれたもので、イズレイル・ザングウィルの「ビッグ・ボウの殺人」(1892年)のシンプルなトリックとは対象的です。それにしてもルールタビーユはまだ10代の若さの設定なのに態度や口ぶりは全然若者っぽくないな(笑)。 |
No.1757 | 6点 | 見知らぬ顔 アン・ペリー |
(2016/09/23 00:41登録) (ネタバレなしです) 1990年に発表された本書はクリミア戦争直後の英国を舞台にした本格派推理小説で記憶喪失の男ウィリアム・モンクシリーズの第1作です。職業が警部であることを教えられたモンクは記憶喪失が回復しないまま職場復帰し、クリミア戦争からの帰国軍人であるジョサリン・グレイ殺しの犯人探しをしながら同時に自分自身を取り戻そうとするのが本書のプロットです。モンクの部下エヴァン、看護婦ヘスター、ジョサリンの伯母キャランドラなど魅力的な人物が多数登場して読み物として非常に面白い作品です。この時代ならではの行動が事件の引き金になっているという背景は歴史ミステリーとして巧妙だと思います(この「行動」は横溝正史の某有名作品でも使われていましたね)。 |
No.1756 | 5点 | 紅楼の悪夢 ロバート・ファン・ヒューリック |
(2016/09/23 00:34登録) (ネタバレなしです) 1964年発表のシリーズ第9作の本書では密室内での死が扱われていますが自殺を前提にして物語が進むので不可能犯罪として謎を膨らますようなプロットにはなっていません。トリック的には30年前の密室トリックが印象的です。ユーモアに満ちたシーンもありますがどちらかといえば重い読後感を覚える作品で、ルオ知事やマー・ロン副官の明るいキャラクターをもってしてもそれを完全には払拭しきれていません。 |
No.1755 | 6点 | ゴルフ場殺人事件 アガサ・クリスティー |
(2016/09/23 00:19登録) (ネタバレなしです) フランスを舞台にした1923年発表のポアロシリーズ第2作の本格派推理小説です。最初は単純な事件のように思えますが人間関係は結構複雑だし、誰もかもが何かの秘密を抱えているらしいなど意外と難解なプロットの作品です。探偵対決要素を織り込んでいるのが珍しいですが推理合戦(多重解決)レベルにまで達していないのは物足りないです。珍しいといえば中盤で発生した事件をポアロがすぐに解決しているのも珍しい展開ですね。その真相が横溝正史の某有名作と類似していたのにはびっくりしました。ワトソン役のヘイスティングスの暴走ぶりも読ませどころです。 |
No.1754 | 5点 | 陸橋殺人事件 ロナルド・A・ノックス |
(2016/09/22 02:09登録) (ネタバレなしです) 推理小説作家の中には色々な職業との二足のわらじを履いている人が少なくありませんが英国のロナルド・A・ノックス(1888-1957)は聖職者として英国国教会でナンバー2ぐらいの地位にまで昇りつめたそうです。そんな超大物が数少ないながらもミステリーを書いているのですからさすが英国です。その作風は宗教臭さもなくお堅くもなく、むしろ独特のユーモアに溢れた本格派推理小説です。1925年に発表されたデビュー作の本書は6作書かれた長編中唯一シリーズ探偵が登場しない作品です。創元推理文庫版で「推理小説ファンが最後にいきつく作品」と謳われていますがある意味これは正しいと思います。しかし「古典的名作」と評価するのには共感できません。「古典的」というのはスタンダードとして推奨できる作品にこそふさわしいと思います。本書は伝統的なフーダニットミステリーからかなり逸脱したプロットになっていて万人向けとは言えず、好き嫌いが分かれそうな作品です。私のような未熟な読者ではその良さを十分楽しめるに至りませんでした。 |
No.1753 | 6点 | 割れたひづめ ヘレン・マクロイ |
(2016/09/22 01:40登録) (ネタバレなしです) 「殺す者と殺される者」(1957年)の後のマクロイはしばらく不調期だったようで1960年代にはわずか3作しか発表していません。その1つである本書(1968年出版)は「幽霊の2/3」(1956年)以来久々に書かれたベイジル・ウィリング博士シリーズ第12作の本格派推理小説でマクロイの本格派路線への復帰を期待させました(しかし本書に続くシリーズ次作はさらに12年待たねばならなかったのですが)。カーター・ディクスンの「赤後家の殺人」(1935年)を彷彿させる「死の部屋」が扱われており、特に前半部が素晴らしいです。オカルト的な雰囲気に加えて子供たちの陰謀と事件との絡ませ方など謎とサスペンスの盛り上げが見事です。魅力的な謎に比べるとトリックが平凡なのはちょっとがっかりだし、謎が解けたらハイ終わりという結末(後日談の類はありません)には物足りなさも感じますがなかなかの読み応えがありました。 |