nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2812件 |
No.1912 | 5点 | スラム・ダンク・マーダー その他 平石貴樹 |
(2017/08/24 05:36登録) (ネタバレなしです) 中編3作とエピローグを収めて1997年に発表された本書は更科ニッキシリーズとしては「誰もがポオを知っている」(1985年)以来となるものです。この間には新本格派推理小説のブームが起こっており、作者も刺激を受けたのでしょうか?3作全てに「読者への挑戦状」が導入されており論理的推理による解決を試みているところはエラリー・クイーン風と言えなくはありませんが、「誰の指紋か知ってるもん」での容疑者の誰のでもない指紋が殺人現場に残されていた真相はアガサ・クリスティーの某作品のトリックを連想しますし、「スラム・ダンク・マーダー」の毒針殺人のトリックを巡って様々な可能性を検討しているのはクリスティーの「雲をつかむ死」(1935年)が頭に浮かびました。人物の描き分けがうまくないという弱点は初期クイーンに通じるものがありますけど(笑)。3作全てに登場する車椅子の女性弁護士ヤマザキ千鶴はニッキにひけをとらないエキセントリックぶりが印象的でした。エピローグで明かされる「三重底」はなかなかの衝撃ですが同時に後味の悪さも感じます。 |
No.1911 | 6点 | 雲をつかむ死 アガサ・クリスティー |
(2017/08/21 00:03登録) (ネタバレなしです) 1935年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第10作の本格派推理小説で飛行機内で起こった殺人事件の謎解きが特色です。もっとも飛行機の場面はわずかに序盤のみで、捜査は他の作品と同様に地上で行われているのが少々物足りなくも感じます。本書と同年発表でほとんどの描写が機内だったC・デイリー・キングの「空のオベリスト」(1935年)はその点ではずっと意欲的でしたね(但しキングは語り口がぎごちなくて読みやすさではクリスティーの圧勝)。犯人当てと同時にいかにして被害者を殺したかの謎解きにも力を入れています(結構綱渡りトリックですけど)。ポアロの説明で犯人に気づかれないように馬脚を現すよう巧妙に誘導していたのがわかります。それにしても当時の飛行機って機内から乗客が物を外に捨てられたのですね(ネタバレではありません)。 |
No.1910 | 5点 | 金紅樹の秘密 城昌幸 |
(2017/08/20 03:32登録) (ネタバレなしです) 城昌幸(じょうまさゆき)(1904-1976)は1920年代から活躍していますが1955年発表の本書は作者コメントによれば第3のデビュー作とのことです。それまでの彼の著作は第1に怪奇性短編、第2に捕物帖が中心を占めていましたが新たに長編現代探偵小説というジャンルに取り組もうとしたようです。しかしこのジャンルに関しては本書と「死者の殺人」(1960年)しか書かなかったようです。さて本書は小説家の主人公へ妻がこれから夫を殺す計画を予告する手紙が次々に送られます。主人公は探偵能力をもつ友人の力を借りて手紙の書き手と思われる女性をつきとめ、殺人を防止しようとする手紙を送りますが時既に遅く殺人が起きてしまいます。最後は探偵役が事件関係者を一堂に集めて殺人犯を指摘します。こう紹介すると典型的な本格派推理小説みたいですが、実は物語の後半になると秘境冒険スリラー風に展開するのです。いくらでも作者の都合のいい(そして読者は後追いするしかない)設定が可能な秘境(隠れ里)の登場は本格派の謎解きを期待する読者にはつらいところ。謎解きに過度に期待しなければそれなりの面白さがありますが。 |
No.1909 | 5点 | 脅迫された継娘 E・S・ガードナー |
(2017/08/20 01:57登録) (ネタバレなしです) 1963年発表のペリイ・メイスンシリーズ第70作です。脅迫事件に巻き込まれた夫、妻、そして継娘がある時は協力、ある時は(メイスンのアドバイスも無視して)独自に行動します。一方でメイスンが1人ではないとにらんだ脅迫者側もメイスンの策略で足並みが乱れながらも反撃し、先の読めないプロットに読者ははらはらします。これまでのシリーズ作品でも脅迫者との対決場面はありますが、今回は詐術師王と呼ばれる男と法廷で正面激突です。犯人当てとしての推理はそれほど緻密なものではありませんが、告発を立証する証拠についてはきっちり用意してあったところはさすがです。 |
No.1908 | 5点 | 動く屍体 九鬼紫郎 |
(2017/08/19 23:21登録) (ネタバレなしです) 九鬼紫郎(くきしろう)(1910-1997)は甲賀三郎に弟子入りして(1年半ほど甲賀宅に下宿)九鬼澹(くきたん)というペンネームで1930年代にデビュー、戦前は短編ミステリー中心でしたが戦後は長編作品を書くようになり、本格派推理小説やハードボイルド、そして非ミステリーの時代小説を残しています。本書は九鬼澹名義で1950年に発表された短めの長編本格派推理小説です。密室状態の部屋で2人の男の死体が発見され、警察は銃を握っていた男がもう一方の男を殺して自殺したと考えます。ところが2人の死亡推定時刻に2時間の開きがあり、しかも銃を持っていた男の方が先に死んでいたことが判明、事件関係者の証言も微妙に怪しいなど謎が深まります。推理はあまり論理的でなく犯人当てとしてはいまひとつの出来ですが、死亡時刻の謎解きはなかなか印象的な真相です。もっともこの仕掛けは作者の創作ではなく、実際の犯罪記録からトリック借用しているところはヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」(1928年)を連想させます。 |
No.1907 | 5点 | 人間掛軸 輪堂寺耀 |
(2017/08/19 22:36登録) (ネタバレなしです) 尾久木弾歩名義で1952年に雑誌連載された江良利久一シリーズ第3作の本格派推理小説です(「十二人の抹殺者」(1960年)と一緒にやっと2013年に単行本化されました)。舞台は5つの家が建っている広大な私立庭園の「光風園」。住人の1人が掛軸の釘から吊り下がった死体となって発見され、江良利久一や警察たちが現場へ向かいます。しかし彼らの到着を待ってたかのように事件は過激なまでにエスカレート。行方不明になって死体となって発見される者がいるかと思えば死体が消えてしまったりと無能な捜査陣は翻弄され続け、犠牲者の数はとどまることを知りません。サスペンス溢れる展開に比べて江良利の推理がやや小ぢんまりしていますが退屈はしません。意外なロマンスも印象的です。 |
No.1906 | 5点 | 猫は殺人事件がお好き サム・ガッソン |
(2017/08/13 07:32登録) (ネタバレなしです) 英国のサム・ガッソンの2016年発表のデビュー作ですが初出版がドイツだった(もちろんドイツ語版)というのが珍しいです。フィリップ・マーロウを敬愛するもと私立探偵のジム(54歳)を父にもち、猫を愛する少年ブルーノ(11歳)が主人公です。少年探偵ものですがハーパーBOOKS版の巻末解説で説明されているように子供向けの軽いミステリーではなく、むしろ暗く重苦しい部分の多い大人向け本格派推理小説です。ブルーノは随所で鋭い推理を披露して探偵として将来有望ですが、自力で事件を解決しようとする気持ちが強すぎて大事な情報を隠してジムや警察から叱られたり、単独で容疑者を訪問してはったりをかましたりと読者をはらはらさせます。母のヘレンの心配ぶりも丁寧に描かれ、家族ドラマとしても読ませます。容疑が二転三転する充実の謎解きプロットですが、最後はビデオ画像で犯人が判明するという推理に拠らない解決なのが物足りなさを感じました。 |
No.1905 | 5点 | 大三元殺人事件 藤村正太 |
(2017/08/12 23:24登録) (ネタバレなしです) 藤村正太は麻雀(マージャン)を得意としており、若い時代には生活費をかせぐためにギャンブル麻雀に手を染めていたこともあったそうです。そんな彼は1970年代に「麻雀推理」を長編1冊、短編集4冊発表しました(共通のシリーズ主人公はいないようです)。今では麻雀を知らない人の方が多いと思いますが、1972年発表の唯一の長編である本書の第2章で「全ビジネスマンの70%がマージャン人口」と書いてあるのが時代の違いを感じますね。読む前は通俗スリラー系かと思ってましたが、実は公害問題が大きくなるほどビジネスチャンスになる公害防止企業を描いた社会派推理小説だったのに驚きました。主人公はプロ級の腕前をもつサラリーマンで、接待マージャンで取引拡大をねらいます。序盤はまるでミステリーらしくありませんが殺人事件が発生してから様相一変、主人公は営業活動と探偵活動に奔走します。裏をかく工作と思わせて裏の裏をかく工作だったなど意外と凝った謎解きがあるところは本格派推理小説風でもありますが、最初からストレートに疑われていたら犯人はどうするつもりだったのでしょうね(笑)。最後はアマチュア探偵の個人の努力ではいかんともしがたい「あまりにも大きな背後の壁」の存在がほのめかされてすっきりできない結末が待っています。 |
No.1904 | 6点 | エドウィン・ドルードの失踪 ピーター・ローランド |
(2017/08/12 16:07登録) (ネタバレなしです) 英国のピーター・ローランド(1938年生まれ)は歴史研究書や偉人伝記の執筆などで活躍していますが、1991年発表の本書は彼としては異色作であるミステリー作品です。それもチャールズ・ディケンズの未完のミステリー「エドウィン・ドルードの謎」(1870年)をシャーロック・ホームズが謎解きするというユニークなプロットです。ホームズの依頼人が事件の概要を説明してくれるのでディケンズ作品を読んでいない読者でも早い段階で背景を理解できると思いますが所詮は概要、例えば謎の人物ダチェリーについてはその説明では紹介されていません。やはり事前にディケンズ作品を読んでおくことを勧めます。ホームズが事件に関わったのが1894年のクリスマス直前で、事件発生からかなりの年月が経過している難題ですがわずか200ページ程度で解決に持っていきます。これはコナン・ドイルの長編並みのボリュームを意識したのかもしれません。事件の真相説明だけでなくダチェリーの正体についてもちょっとしたアイデアが披露されているのにはにやりとしました。 |
No.1903 | 4点 | 紫桔梗殺人事件 小嵐九八郎 |
(2017/08/04 13:32登録) (ネタバレなしです) 1988年発表のダメ弁護士・冬野尽シリーズの長編ミステリーです。「弁護士尽ちゃん愛殺記」(1988年)に比べると無難なタイトルですが内容的には大差なく、通俗色の濃いユーモア本格派推理小説です。密室状態のマンションの部屋で住人の死体が発見される事件を扱っており、部屋のドア、部屋内部、死体発見現場、そしてマンション全体図と丁寧に描かれた見取り図をいくつも用意して謎解きを盛り上げているところは好感が持てます。とはいえ密室からの脱出トリックはお粗末感が拭えません。他にも色々な工作を施しているのが説明されますが、動機も含めてどこか雑な印象を受けてしまいます。まあ変な人間による変な会話だらけのプロットなので、読者も真剣に謎解きに取り組みにくいかもしれませんが。 |
No.1902 | 5点 | ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 スティーグ・ラーソン |
(2017/08/03 05:06登録) (ネタバレなしです) スウェーデンのスティーグ・ラーソン(1954-2004)の2005年発表のミレニアム三部作第1作です。3作を完成して出版社と契約した直後に作者が急死するという劇的な運命をたどったこのシリーズ、本国で大ヒットして全作映画化されただけでなく欧米各国にも翻訳出版されて話題になり、さらにはスウェーデンのダビド・ラーゲルクランツ(1962年生まれ)によってシリーズ第4作以降が書き継がれるほどの成功作です。この三部作は本書が本格派推理小説、「火と戯れる女」(2006年)がハードボイルド、「眠れる女と狂卓の騎士」(2007年)が法廷スリラーと紹介されることもあるようですが、本書に関してはあまりこれを鵜呑みにすると肩透かしの気分を味わうかもしれません。36年前の少女失踪事件の調査に始まりやがて凶悪な犯罪事件の謎解きに発展するプロットですが真相説明が自白に頼っているところも多くて推理物としては物足りません。ハヤカワ文庫版の巻末解説にあるように「社会派色」が強いし、容赦ないまでの非情な描写は十分以上にハードボイルドです。さらに2人の主人公の紹介に相当のページを使い、謎解きが終わった後もさらに非ミステリーの物語が長々と続くなど多彩なジャンルミックス型です。本格派を偏愛している私に訴える要素は少ない作品でしたが、ハヤカワ文庫版で上下巻合わせて850ページ、40人を超す登場人物リストの大作ながら洗練された明快な文章力による語り口は卓抜で、それほど退屈せずに読めました。 |
No.1901 | 3点 | 伊豆密会旅行殺人事件 草野唯雄 |
(2017/07/26 21:32登録) (ネタバレなしです) 1989年発表の尾高一幸シリーズ第7作です。家族のいる男性とホステスの浮気旅行、日本へ出稼ぎに来ている外国人労働者描写、非情な犯人によって返り討ちのように殺されてしまう新たな被害者など通俗スリラー、トラベルミステリー、社会派、ハードボイルドの様々な要素を織り込んではいるのですが作品全体がお手軽感に包まれていて中途半端な印象です。犯人の正体も尾高や警察の捜査とは関係なく唐突に読者に提示されており、本格派の謎解きとして楽しむことも困難です。徳間文庫版の巻末解説では作者の小説執筆姿勢として「書きたいのは極限状態に置かれた時の人間のドラマです。(中略)それをミステリの範疇に納め、最後をドンデン返しの意外性で幕をおろすとすれば、もういうことはありません」と紹介していますがこのコメントは作者が脂ののっていた時期の1977年発表のもの。本書は残念ながらそういうこだわりが感じられませんでした。 |
No.1900 | 5点 | 殺しのディナーにご招待 E・C・R・ロラック |
(2017/07/24 23:02登録) (ネタバレなしです) 1948年発表のマクドナルドシリーズ第30作の本格派推理小説です。有名な文筆家のクラブの新規会員としてパーティーに招待された8人の男女。ところが招待者の姿が見えず、でっち上げのパーティーという手の込んだいたずらではないかと疑った8人は自分たち主催のパーティーとして楽しんで解散します。ところがその後いたずら企画者として彼らに疑われていた男の死体が会場で発見されるという事件に発展します。ひたすら地道な捜査と深まる混迷、そして重箱の隅をつついたような手掛かりに基づく推理説明のプロットを果たして楽しみながら読めるか我慢しながら読むことになるか、読者の度量が試される作品と言えそうです。個人的にはもう少し(なるほどとうなずけるような)気の利いた謎解き伏線を用意してほしかったです。 |
No.1899 | 5点 | どんどん橋、落ちた 綾辻行人 |
(2017/07/15 23:30登録) (ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない1999年発表の短編集で5つの中短編が収められています。私の読んだ講談社文庫の新装改訂版の巻末解説は大山誠一郎が書いていますがその中で「作者はもちろん、読者に絶対に犯人を当てられないことを目指す」とコメントしていますがまさに本書はそれを突き詰めようとしています。しかし作者勝ちにこだわり過ぎて(青い車さんがご指摘されているように)反則ぎりぎりの技巧頼りになってしまい、しかも小説としての余裕がないように感じます。例えば「犯人以外の人物の証言に嘘はない」というルールは確かに注意を払って守っているのですが、普通なら会話の流れの中で探偵役の勘違いに気づいて(犯人以外の人物は)それを訂正してしかるべきなのにそれをしないまま会話を続ける(そしてミスディレクションが成立する)というのはあまりに不自然に感じました。「鳴風荘事件」(1995年)以降王道的な本格派の作品を発表できず焦った作者がついに異端に手を染めてしまったのでしょうか。 |
No.1898 | 5点 | モノグラム殺人事件 ソフィー・ハナ |
(2017/07/15 03:15登録) (ネタバレなしです) サイコ・スリラーの書き手である英国の女性作家ソフィー・ハナ(1971年生まれ)が2014年に発表した本書はあのアガサ・クリスティー(1890-1976)の名探偵エルキュール・ポアロシリーズの「公認続編」として注目を集めた本格派推理小説で、英米などで大ヒットしたそうです。クリスティーは他人による贋作など「望まなかったと思われる」というハヤカワ文庫版の巻末解説のコメントはもっともでしょうし、本書を読んだ私のことも「クリスティーファン読者とは認めません」と天国のクリスティーから叱られそうな気がしますけど。「殺される罰を受けなければいけない」と語る謎の女性とポアロの出会い、それに続くホテルでの三重死事件と派手に幕開けしますが、その後の展開はちぐはぐで回りくどい会話が連続してテンポが重いです。ポアロの真相説明であまりにも多くの嘘で塗り固められていたことがわかり、これはとても読者が完全正解できるような謎解きとは思えませんでした。 |
No.1897 | 6点 | 鬼ガ島地獄絵殺人 山村正夫 |
(2017/07/11 17:39登録) (ネタバレなしです) 1983年から1987年にかけて発表された滝連太郎シリーズの短編6作をまとめて1987年に出版された、シリーズ唯一の短編集です。伝奇本格派推理小説の作品が多いのはこのシリーズならではです。犯人がわかりやすいとかトリックがたいしたことないとか謎解きの底が浅いと感じられるところもありますが、作品間のばらつきは少なくシリーズ入門編としてもお勧めです。その中では表題作の「鬼ガ島地獄絵の殺人」は誘拐あり殺人ありとプロットは起伏に富み、大食漢の滝が食欲を失う珍しい場面もある上にトリックがなかなか大胆で長編作品に仕立ててもよいのではと思いました。どこか横溝正史の「悪魔の手毬唄」(1957年)を連想させる「暗い唄声」も印象的です。 |
No.1896 | 6点 | 凍った夏 ジム・ケリー |
(2017/07/07 07:39登録) (ネタバレなしです) 2006年発表のフィリップ・ドライデンシリーズ第4作の本格派推理小説です。創元推理文庫版の巻末解説では本書のことを「シリーズの途中だから本書から読むのはNGだ、なんて心配する必要は全くない」と入門編として勧めていますがドライデンの生活環境の変化の行く末にも興味を抱くなら、シリーズ第1作から順番に読むことを勧めます。このシリーズの特色である現代の事件と過去の事件の融合が本書でも見られ、第37章での大胆な事実(犯人の正体ではありません)には驚かされます。寒さ冷たさの描写だけでなく犯人の冷酷さ描写も作品の重苦しさを深めてます。ドライデンの推理は最後のどんでん返しで微妙に中途半端な印象が残りますがその後の劇的な結末で盛り上げてます。 |
No.1895 | 4点 | ブリキの自動車 ネヴィル・スティード |
(2017/07/02 02:05登録) (ネタバレなしです) ミステリー作家としては1980年代後半から1990年代前半の短い期間の活躍に留まった英国のネヴィル・スティード(1932年生まれ)の1986年発表のデビュー作がピーター・マークリンシリーズ第1作の本書です。ピーターはアンティーク玩具屋で、本書では金持ちコレクタ-の代理人として高価なアンティークのブリキ製自動車(たった11台で2万2千ポンド)をフランスで購入します。ところが帰る途中でそれらが安物のプラスチック製玩具とすり返られてしまい、盗品を取り戻すために奔走します。流しの犯行の可能性など全く考えず、ほとんど証拠もないまま目星をつけた容疑者の家宅に侵入したりはったりの脅迫電話をかけたりとピーターの捜査は強引で違法なものばかり(そしてかなりご都合主義的に事が運びます)。本格派推理小説の謎解きをちょっと期待していましたがそういうミステリーではなく冒険スリラータイプです。ピーターが焦る気持ちはわからないでもありませんが、それほど共感できる主人公でなかったので彼がある女性と出会っていい関係になりかけているのを応援する気にあまりなれなかったです(笑)。 |
No.1894 | 5点 | 赤い森の結婚殺人 本岡類 |
(2017/07/01 15:59登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の里中邦彦シリーズ第2作の本格派推理小説です。「白い森の幽霊殺人」(1985年)のように邦彦がオーナーのペンション「銀の森」が舞台ではなく、ホテルの披露宴で花嫁が消えてしまう不思議な事件を扱っています(後には殺人事件も起きます)。新しい証拠が見つかるたびに謎は深まる一方、誘拐なのか偽装誘拐なのか邦彦や警察の推理もいい線まで行きそうで何度も壁にぶち当たります。どうやっての謎解きも悩みますが、シンプルにさりげなくできそうなのをなぜ複雑に派手にやったのかという謎がそれ以上に難解です。プロットは読みやすいですが真相は計画的な行動ととっさの行動が絡み合う非常に複雑なもので、多分読者が完全正解するのは無理ではないでしょうか。 |
No.1893 | 6点 | チューインガムとスパゲッティ シャルル・エクスブライヤ |
(2017/06/28 20:41登録) (ネタバレなしです) 1960年発表のタルキニーニシリーズ第1作のユーモア本格派推理小説です。欧州各国の司法警察を研究しているアメリカ人のリーコックがイタリアのヴェローナを訪れるところから物語がスタートします。そのヴェローナ警察で彼の面倒を見るのがタルキニーニ警視です。リーコックが訪問済みの警察評価は(国民性の評価でもあります)イギリスとドイツは高評価、フランスとスペインは低評価ですからヴェローナについてどうなるかはある程度予想がつきそうですが、一方でヴェローナの人々がこのアメリカ人の言動をとてもまともなものではないと感じている描写も多々あるのが面白いところ。タルキニーニとリーコックの最初の会話からして「犯罪の動機はほとんどいつも恋です」「なぜですか」「だってここはヴェローナですから」とまるで噛み合いません。タイトルの「チューインガムとスパゲッティ」は「アメリカ人とイタリア人」と置き換えてもよさそうです。犯人当ての謎解きもありますが、異国の地でカルチャーショックと戦うリーコックの奮闘(と時に暴走)の描写の方に読者は振り回されそうです。 |