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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2813件

プロフィール| 書評

No.2793 6点 病院殺人事件
ナイオ・マーシュ
(2024/08/31 17:01登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のロデリック・アレンシリーズ第3作の本格派推理小説で、国内では別冊宝石68号(1957年)に掲載されました(ロダリック・アリーンと表記されています)。江戸川乱歩による小伝でヘンリイ・ジェレット(1872-1948)との共作であることが紹介されており、英語表記の作者名は「Ngaio marsh & Henry Jellett」(mが小文字なのはご愛敬)となっているのですが日本語表記はなぜかナイオ・マーシュのみでした。ジェレットはマーシュの父親の友人の医師で、病気になったマーシュの治療を担当しマーシュから「Papa Jellett」と呼ばれるほどの交流があったそうです。本書での手術中の医者や看護師たちの動きの描写や薬品の知識に関する助言を与えたのではと思われます。議会で倒れた内務大臣が病院で手術を受けますが術後に死んでしまいます。他殺を主張する未亡人の求めで検視審問が開かれ、過量に使用すると危険な薬品が過量に投与されていることがわかります。派手な展開はありませんが、第14章でどのように殺害したのか様々な可能性を丁寧に検証されるなど謎解きは充実しており、古い翻訳ながらそれほど読みにくくありませんでした。解決の説得力はやや微妙な出来栄えで、特に動機に関する「狂人の論理」は話が唐突過ぎて唖然としました。余談になりますが本国でも再版時に作者名がマーシュのみ表記になってジェレットが不遇な扱いを受けることがあったらしいです(笑)。


No.2792 5点 殺人名画
西東登
(2024/08/28 11:23登録)
(ネタバレなしです) 1975年発表の毛呂周平シリーズ第4作です(シリーズ最終作)。この作者については私は本書以前に2作品しか読んでおらず、その2作とも私の好きな本格派推理小説ではなかったのでますます敬遠していたのですが本書の青樹社版は「書き下し本格推理」と宣伝されていたので読んでみました。失踪事件の調査に始まり殺人事件に発展するという、いかにも私立探偵ものらしいプロットです。犯人当てとしては他愛もなく(有力容疑者数も少ない)、全17章の第11章で毛呂は犯人の見当がついています。謎解きとして特別なものは感じませんでしたが、関係なさそうな事件と殺人事件を有機的に組み合わせる手法は手堅く、解決はすっきりできました。犬がちょっとだけ登場しているものの、この程度では作者のトレードマークである動物ミステリーとは言えないと思います。


No.2791 5点 楽園の骨
アーロン・エルキンズ
(2024/08/28 11:09登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第9作の本格派推理小説で、英語原題は「Twenty Blue Devils」ですが別にオカルト要素はありません。「Blue Devlis」はコーヒーのブランド名です。今回の舞台はタヒチで、ギデオンの友人であるジョン・ロウの親族の怪死事件を調べることになります。とはいえ外国なのでジョン・ロウがFBI捜査官であっても地元警察に捜査を強要するのは無理があり、ギデオンも及び腰で前半はなかなか謎解きが進みません。後半になってやっとスケルトン探偵ならではの活躍が見られて殺人事件の捜査に切り替わりますが、他にも色々な小事件や秘密が見え隠れしています。最後は全ての真相が明らかになりますが、推理説明で解決しているものと結果報告のみとが混在しているので本格派としてはどこか中途半端な印象が残りました。


No.2790 6点 疑惑の渦
左右田謙
(2024/08/25 06:07登録)
(ネタバレなしです) 1978年発表の本格派推理小説で、後年には「一本の万年筆」に改題されました。県立高等学校の女性教師が殺され、現場には「M・K」という頭文字が彫られた万年筆が落ちていました。しかし所有者には鉄壁のアリバイがあり、万年筆は紛失したと主張されるというプロットです。登場人物が少なくて犯人は予想しやすいと思いますしトリックも大したものではありませんが、容疑者であることを自認してびくつく教頭、アマチュア探偵として事件を調査する生徒、刑事など登場人物の視点が次々に替わる展開が効果的ですらすらと読めました。最後の刑事の質問に対する犯人の回答がどれだけ読者の共感を得れるかは微妙ですね。


No.2789 6点 カレンダー・ガール
E・S・ガードナー
(2024/08/25 05:52登録)
(ネタバレなしです) 1958年発表のぺりー・メイスンシリーズ第57作の本格派推理小説です。殺人事件があった(と思われる)時にメイスンの依頼人が殺人現場を訪問していたというパターン自体はありきたりですが、そこにちょっとした出来事(今回は車の接触事故)を絡ませて謎を複雑化させているのが本書の工夫です。法廷での逆転劇もいつものパターンかと思わせて更にもうひとひねりしているのも効果的でした。


No.2788 6点 鏡面堂の殺人~Theory of Relativity~
周木律
(2024/08/22 05:03登録)
(ネタバレなしです) 本格派推理小説のシリーズとして「眼球堂の殺人」(2013年)から快調なペースで発表されてきた堂シリーズですが、シリーズ第5作にして本格派の定型から逸脱した問題作の「教会堂の殺人」(2015年)を出版して3年後の2018年にようやくシリーズ第6作の本書が出版されました。このシリーズは連作長編的な趣向があって、初めて読んだシリーズ作品が本書だったり「眼球堂の殺人」の次に読んだのが本書だったりすると作品世界の変遷になじむのに苦労するでしょう。本書はこのシリーズに登場する異様な「堂」を建築した異能の建築家・沼四郎が初めて完成させた建物である鏡面堂で26年前の1975年に起きた殺人事件を当時に書かれた手記を読んで解決するプロットです。現場で手掛かりを確認しているので安楽椅子探偵ものではありませんが。密室や消えた凶器などトリックにこだわっているのもこのシリーズならでは。人間関係の謎解きは後出し説明感が強いし、一部の人物描写には不自然感がありますがとにかくも本格派推理小説のスタイルに戻ったのが個人的には嬉しいです。でも最終章で次回作の予告があり、犯人がネタバレされているような記述があるのは気になりましたが。


No.2787 5点 風に散る煙
ピーター・トレメイン
(2024/08/20 21:58登録)
(ネタバレなしです) 2001年発表の修道女フィデルマシリーズ第10作で、上下巻で出版された創元推理文庫版で「歴史的背景」や「訳注」も含めると550ページほどの厚さです。船でカンタベリーへ向かうフィデルマとエイダルフが嵐のためにウェールズ南西部のダヴェド王国に寄港して2つの事件に巻き込まれます。1つは少女殺し、もう1つは修道院から修道士たちが一人残らず消えてしまうという事件です。このシリーズは本格派推理小説と冒険スリラーのジャンルミックス型が多いですが、本書の場合は修道士失踪事件の解決を最後にしていて冒険スリラー要素の方が強い印象を受けました。登場人物リストに載っていない重要人物が何人もいるのはちょっと不満ですが、複雑で劇的な真相(というかたくらみ)が用意されています。殺人の謎解きの方はやや平凡ですが悲劇的な運命が重い余韻を残します。終章の「迷信」はE・S・ガードナーの「嘲笑うゴリラ」(1952年)の最終章を連想させますね。


No.2786 6点 死者と栄光への挽歌
結城昌治
(2024/08/17 08:55登録)
(ネタバレなしです) 非ミステリーの「軍旗はためく下に」(1970年)や「虫たちの墓」(1972年)で戦争とは何だったのかを考えさせた作者は、1980年出版の本書の文春文庫版あとがきで「本篇を推理小説にしたのも、若いひとたちに読んでもらいたいという願いをひそめた結果にほかならない」とコメントしています。30年以上前に太平洋戦争で戦死したと思っていた父親が交通事故で死んだと連絡を受けた主人公が父親は戦死したのか復員したのかを調べていくプロットです。手掛かりを求めて父親の戦友たちを訪問していきますが、そこで戦中戦後の悲惨なエピソードが色々と語られます。戦争体験の風化を危惧して書かれたことがよく伝わってくる社会派推理小説であり、推理による(自供も多いですが)謎解きのある本格派推理小説でもあります。


No.2785 5点 クイーンのフルハウス
エラリイ・クイーン
(2024/08/14 11:31登録)
(ネタバレなしです) 1954年から1962年にかけて書かれたエラリー・クイーンシリーズの中編2作、短編1作、ショート・ショート2作を収めて1965年に単行本化された第5短編集です。ショート・ショートはどちらもダイイングメッセージの謎解きというこの作者ならではの内容ですがほとんど印象に残りません。中短編はさすがに手掛かりを増やしてもう少し複雑な謎解きの本格派推理小説にしていますが普通の出来栄えに思います。但し「キャロル事件」(1958年)は異彩を放っています。重苦しい人間ドラマ要素が事件の悲劇性を増すのに効果的で、これ単独なら個人的には7点評価に値します。


No.2784 5点 浅間山麓殺人推理
梶龍雄
(2024/08/14 01:02登録)
(ネタバレなしです) 1984年に「殺人への勧誘」というタイトルで出版された本書を私は改題された徳間文庫版で読みました。殺し屋から呼び出されて狙われた5人の男女がそれぞれが過去に殺し屋を使って殺人を犯していたことを自供して殺し屋の手がかりを探ろうという設定は、ユニークではあるけどあまりにも作り物めいていて読者の好き嫌いが大きく分かれそうな気がします。最後は推理によって謎解きされて本格派推理小説として着地してはいるものの、全8章の物語の第7章の最後になって解くべき謎がようやくはっきりする展開のため本格派らしさをあまり感じられませんでした。推理の決め手となった手掛かりも今では時代の古さが目立ってしまい、現代の若手読者にはぴんと来にくいと思います。


No.2783 5点 泥棒は選べない
ローレンス・ブロック
(2024/08/13 11:46登録)
(ネタバレなしです) 本格派推理小説以外のミステリー作品に関心の極めて低い偏屈読者の私にとって米国のローレンス・ブロック(1938年生まれ)はマット・スカダーシリーズのハードボイルドやエヴァン・タナーシリーズのスパイ・スリラーのイメージが強くてほとんど読んでおりません。バーニィ・ローデンバーシリーズについても主人公が泥棒ということで冒険スリラー系か犯罪小説系かと思っていましたが、本格派として評価している感想投稿がありましたので1977年発表のシリーズ第1作である本書を読んでみました。本書ではもうすぐ35歳を迎えるバーニィの1人称形式で語られています。謎の依頼人に頼まれてブルーの箱を盗みにアパートメントの一室に侵入しますが、そこへ警官が現れた上に死体まで発見され、慌てたバーニィは警官に体当たりして逃亡するという巻き込まれ型サスペンス風な展開になります。犯人当て本格派としては登場人物の人数が少な過ぎる感がありますが、依頼人の正体やブルーの箱はどこにあるのかという謎解きを絡めています。内容は全く異なりますがレックス・スタウトの「赤い箱」(1937年)の向こうを張って「青い箱」というタイトルでもよいように感じました。主人公が泥棒である設定を謎解き推理に絡めている点は巧妙だと思います。逃亡犯としての危機感描写が物足りないのと通俗スリラー色の濃い文章は読者評価が分かれるかもしれません。


No.2782 6点 五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し
霧舎巧
(2024/08/08 18:11登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表の私立霧舎学園ミステリ白書シリーズ第2作の本格派推理小説です。アリバイ崩しに挑戦していますが「あとがき」で作者は「『アリバイ崩し』もののミステリはあまり好きではありません」とコメントしており、その理由についても記述していますが私も大いに賛同します。魅力的な謎と論理的な謎解きで読者を最後まで引っ張って行こうとする作者の主張とアリバイ崩しを両立させることに成功していると思います。第8章の3でのイニシャルに関する推理はどう考えても「間違っていない?」と気になってしまいましたが、犯人とトリックの真相にたどり着く推理は丁寧です。余談になりますが前作と同様、本書でも《あかずの扉》研究会シリーズに関する言及があるのが何となく嬉しかったです。


No.2781 5点 ソングライターの秘密
フランク・グルーバー
(2024/08/06 18:23登録)
(ネタバレなしです) フランク・グルーバー(1904-1969)のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズは第1作の「フレンス鍵の秘密」(1940年」から第12作の「レザー・デュークの秘密」(1949年)までは快調なペースで書かれましたが、第13作の「一本足のガチョウの秘密」(1954年)は5年の空白後、そしてさらに10年を経ての1964年に第14作の本書がようやく出版され、これが結果的にシリーズ最終作となりました。執筆ペースがスローダウンした理由はわかりませんが、本書も他のシリーズ作品と同じく軽快なテンポで書かれたユーモア・ハードボイルドで特に衰えは感じません。シリーズ集大成のつもりで書いたのかは判断できませんけど、何度もシリーズ作品に登場した「四十五丁目ホテル」でのジョニーと支配人のやり取り、ボディービル本の行商、ジョニーの機転、サムの怪力無双などがお約束のごとく楽しめます。賭けに負けた代償に自作の楽譜をサムに譲渡したソングライターがジョニーとサムの前で毒死しますが、殺人犯捜しよりも楽譜を巡ってのコン・ゲーム的な展開を重視しているのが本書の特徴です。本格派推理小説好きの私としては第21章の最後の説明は好みの真相ではないし、第2の殺人についてはほとんど謎解き説明されていないのも不満です。とはいえ終盤のたたみかけるような勢いはこの作者ならではで、第27章でのジョニーの粋なはからいも印象的でした。


No.2780 4点 あいまいな遺書
斎藤肇
(2024/08/04 19:40登録)
(ネタバレなしです) 1991年発表の本格派推理小説でプロット構成に凝っていますが、私の読解力レベルでは難解な作品でした。これから死ぬと電話で予告した推理作家の家に出版社の担当編集者が向かいます。別の出版社の編集者と途中で出会って2人で訪問すると推理作家は不在で、「あいまいな遺書」という原稿の入った封筒が残されていたというのが「小説は始まる。」というタイトルの序章です。ところが次章に進むと訪問したのは1人で、序章はどうやら作中作だったということに意表を突かれます。作中作の続きは世界ががらりと変わり、理性と狂気の間を行ったり来たりする主人公が描かれますがこの作中作は本格派らしさがなく、何が起きているのか描写も曖昧で幻想的な心理サスペンスの雰囲気が濃厚です。このためか現実世界の方も殺人事件まで起きているのに解くべき謎が何なのか焦点ぼけしているように感じました。「小説は終わる。」というタイトルの最終章もすっきりできません。TENZAN NOVELS版の巻末の作者による「あとがき」まで何を言いたいのか私には理解できませんでした。


No.2779 5点 猫は夜中に散歩する
A・A・フェア
(2024/07/28 00:38登録)
(ネタバレなしです) 1943年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第8作の本格派推理小説ですが、本書はバーサが単独登場の異色作です。読む順番に無頓着の私は前後作の「蝙蝠は夕方に飛ぶ」(1942年)と「斧でもくらえ」(1944年)を先に読んでいたのですが、弾十六さんのご講評で指摘されているように軍務に就いているはずのドナルドが本書では休暇中と紹介されているのには違和感を覚えますし、最終章での驚きのエピソードも後年作には引き継がれていません。口八丁のドナルドと違ってバーサの捜査は脅しとはったりでの強引さが目立ちますが、時に鋭い閃きを見せていますし粘り強く奮闘しています。それでも心もとなくて何度か暗礁に乗り上げていますが最後は(唐突ながらも)推理で解決です。最終章でドナルドへ丁寧に手紙で報告しているのが過去作品も含めてのバーサの描写からするとちょっと意外ですが、衝突はあっても探偵パートナーとして欠かせない存在であることを意識したのでしょう。ハヤカワ・ミステリ文庫版の裏表紙の粗筋紹介が中盤以降の出来事まで説明しているのは少しやりすぎに感じました。


No.2778 4点 燃える水柱
陳舜臣
(2024/07/25 00:46登録)
(ネタバレなしです) 1978年発表の本格派推理小説ですが、ある人物の語りで真相の大半が判明するのですけど具体的な証拠がほとんどなくてとりとめのない謎解きにしか感じられませんでした。1967年(昭和42年)の豪雨の翌日、戦前の貿易で華僑社会で名を成した男が自宅の庭で変死しているのを発見されます。29年前の1938年(昭和13年)の山津波の後で発見された、水害の犠牲でない死体の事件と合わせて主人公の推理小説家が調べていきますが2つの事件を結ぶ線が非常に細く、強引な捜査にしか感じられません。読者が推理する余地もありません。しかし被害者の過去に日中戦争中の影が浮かび上がる展開は印象的で、そこには社会派推理小説要素を感じます。タイトルに使われている水柱は冒頭と締めくくりで語られるのみで、読解力の乏しい私には作者の意図がわかりませんでした。「燃える」ことの意味もわからずもやもや感が残ります。


No.2777 5点 モルグ館の客人
マーティン・エドワーズ
(2024/07/19 02:19登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表のレイチェル・サヴァナクシリーズ第2作です。終盤でレイチェルが事件関係者を集めて推理説明し、巻末では「手がかり探し」が挿入されて34の手がかりがどのページにあったかを示しており、その点に限れば本書は確かに本格派推理小説と言えるでしょう。しかし作者が「1930年代を舞台にしたスリラーを書こうという考えに誘惑された」とコメントしているようにスリラー色が非常に濃いプロットで、終盤に至るまでは本格派らしさを感じにくかったです。スリラーがいけないというつもりはありませんけど本書に関しては登場人物リストに載っていない人物が多くて何が何だかわかりにくく、過去の事件も含めるとかなりの人間が殺されているのですが全ての事件が解決されるわけではないのですっきりできませんでした。


No.2776 6点 室蘭地球岬のフィナーレ
平石貴樹
(2024/07/15 10:45登録)
(ネタバレなしです) 2024年発表の函館物語シリーズ第4作の本格派推理小説です。フィナーレというタイトルが気になりますが、この作者はシリーズ探偵作品を3~4作発表して終了して次に新たなシリーズ作品に着手する傾向があるので、本書がシリーズ最終作ではと思われます。フランスに帰国中のジャン・ピエール・プラットの登場はかなり後半になってからですが、彼が登場すると解決まではあっという間です。推理説明は事件関係者の心理分析が多いのですが非常に丁寧で、直接的な物証が少ないにも関わらず説得力は高いです。第4章の11でジャン・ピエールが要約した「事件の特異性」はそんなことまで考えていられないと読者が不満を洩らしかねない類のものですが、その不満を解消させようとする細かい伏線回収が印象的でした。


No.2775 5点 公爵さま、前代未聞です
リン・メッシーナ
(2024/07/13 22:56登録)
(ネタバレなしです) 2019年発表のベアトリス・ハイドクレアシリーズ第4作です。20年前に死別した両親の死の謎をベアトリスが調べる展開になります。殺された可能性があるとはいえ有力な手掛かりらしきものもなく捜査は難航し、前半は少々退屈です。ところが第8章になって思わぬ出来事が起きて物語は一気に引き締まります。ベアトリスの苦悩がよく描かけている一方でコージー派ミステリーとしてはユーモア不足気味ですが、どのように収束するのか目が離せません。謎解き伏線を張ってはいるものの証拠としては弱く、よくまあ犯人があの追及で降参したなあという印象です。本書で初めてシリーズを読む読者のために過去作品でのベアトリスの活躍を紹介しているのはいいサービスだと思いますが、犯人の名前をネタバレしてしまっているのは余計なお世話に感じました。


No.2774 7点 密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック
鴨崎暖炉
(2024/07/12 14:15登録)
(ネタバレなしです) 2024年発表の密室黄金時代シリーズ第3作となる本格派推理小説です。私は過去のシリーズ作品を2作とも読んでいますが、本書を読んで「何かパワーアップしていない?」と感じました。単純に密室トリックの数のことだけではなく、まさかの驚愕トリックの連打に衝撃を受けました。舞台が「八つ箱村」という名前からして思わず笑ってしまいます(ユーモアもパワーアップしています)。横溝正史の「八つ墓村」(1951年)を読んでいなくても大丈夫な内容ですけど、ちょっとパロディー要素もあるので読んでいた方がいいですね。無理だろ、強引だろ、それはないだろと呆れさせるトリックもあり(「血染め和室の密室」、「人体発火の密室」、「地下迷路の密室」など)あまりにも無茶苦茶なので馬鹿らしくて付いていけない読者もいるとは思いますが、その突っ込みどころも含めて個人的には大いに楽しめました。

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