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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2849件

プロフィール| 書評

No.2829 5点 後ろ姿の聖像
笹沢左保
(2025/01/12 12:47登録)
(ネタバレなしです) 雪さんのご講評での丁寧な紹介の通り、1980年に雑誌連載されて1981年に単行本出版された本格派推理小説です。刑事2人のコンビの捜査を描いていますが他の捜査官や警察組織の描写はほとんどないので警察小説とは言えないと思います。前半はアリバイ崩しですが稚拙なトリックが簡単に見破られるだけで大した内容ではありません。しかしアリバイが崩れてからが本書の本領発揮です。1番力を入れているのが「なぜ真のアリバイがあるのにそれで潔白を主張せず、偽造アリバイを用意したのか」という謎解きで、関係者の心理分析に多くのページを費やしています。真犯人が誰かという謎解きもありますがこちらは弱い証拠を強引な解釈で結論しているようにしか感じられませんでした。


No.2828 5点 フォーチュン氏説明する
H・C・ベイリー
(2025/01/11 02:37登録)
(ネタバレなしです) 1930年発表のレジナルド(レジー)・フォーチュンシリーズ第6短編集で8作品が収められています。「可憐な帽子売り」、「ロックガーデン」、「絵の中の顔」などは秘められた悪意を暴いていてこの作者らしいと思います。「自転車のヘッドライト」がどんでん返しの謎解きと物議を醸しそうな決着で個人的には最も印象に残りました。「ピクニック」はのどかなタイトルとは裏腹に、誘拐された少年を一刻も早く救出したいという焦りがサスペンスを生み出す異色作です。本格派推理小説であっても同時代のアガサ・クリスティーと比べるとストレートな犯人探しプロットに当てはまらない作品が多いところが個性ではありますが、読者の好き嫌いは分かれるかもしれません。余談になりますが「銀の十字架」でレジーが可能性を語るときに「彼が落としたと信じるならば」を2回発言したのは違和感を覚えます。片方は「信じないならば」ではないかと思います。


No.2827 4点 まんだら殺人事件
玉塚久純
(2025/01/07 13:54登録)
(ネタバレなしです) 玉塚久純(1923-2013)については中国の大連に生まれ幼少期に熱病で聴力を失ったこと、1960年代前半から1990年代前半にかけて某ミステリー賞に何度も挑戦するも受賞は叶わなかったぐらいしかわかりません。本書も1977年に賞応募した本格派推理小説で、当時のタイトルは「幽霊要塞」でしたが1979年に改題されて出版されました。作中時代は1968年、主人公の石田はチベット文書の解読を依頼されますが文書の所有者が行方不明になります。石田は所有者が向かった福岡で開催されている「大ヒマラヤ展」が関わっているのではと考えます。その「大ヒマラヤ展」の会場では雪男の毛皮と仏像が盗まれる事件が起きます。序盤は盛り上がりを欠きますが立て続けに死体が発見されると第3章では早くも石田が謎の一部を推理で見破ります。その後も残された謎を巡っての地道な謎解きが続きますがチベットに関する知識は難解だし、事件の真相もあまりに多くの人間が関わっていて複雑に過ぎるように思います。梓書院版の登場人物リストは重要人物が漏れているのも不満です。


No.2826 5点 レモン・ティーと危ない秘密の話
ローラ・チャイルズ
(2025/01/07 00:57登録)
(ネタバレなしです) 2023年発表の「お茶と探偵」シリーズ第25作のコージー派ミステリーです。第1章でいきなり殺人シーンが描かれ(残虐描写はありませんのでご安心を)、第2章でセオドシアが死体を発見、そして第3章で鋭い観察に基づく推理を披露していてなかなか好調な展開です。第6章でセオドシアがチャールストンのミス・マープル(アガサ・クリスティーのシリーズ探偵の1人)と呼ばれていることが話題になっていますが、第30章では推理で犯人を特定していてこのシリーズとしては謎解きがまともです。推理の根拠はそれほど強力ではないと思うし説明不足ではありますけど。被害者が過去作品に登場していた知人のためかやや重苦しい作品ですが、最後はめでたしめでたしの雰囲気でうまく締め括っています。


No.2825 6点 海妖丸事件
岡田秀文
(2025/01/05 19:39登録)
(ネタバレなしです) 2015年発表の月輪龍太郎シリーズ第3作の本格派推理小説です。私は光文社文庫版で読みましたがその巻末解説の「からりとした読み心地で描かれた軽快な推理譚」というコメントが本書の特徴をよく示していると思います。この「軽快」は良い意味も悪い意味もあり、過去のシリーズ2作品のような大胆なアイデアを期待する読者は本書を期待外れに感じるかもしれません。せっかくの豪華客船、伝説の宝石、仮面舞踏会、シェークスピア劇といった設定も描写が物言足りないです。とはいえ普通の本格派の枠組みの中で読者を驚かそうとする仕掛けは用意してあり、謎解き手掛かりにも配慮されていて個人的には十分に楽しめました。海外本格派の黄金時代には定番だったが現代ミステリーではほとんど描かれなくなった、ロマンチックで幸福感に満ちた演出で最期を締めくくっていたのも嬉しかったです。


No.2824 5点 白い女の謎
ポール・アルテ
(2025/01/04 15:50登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表のオーウェン・バーンズシリーズ第8作の本格派推理小説です。作中時代は1924年、神出鬼没の「白い女」という不可思議な謎が散りばめられていますが犯罪性がはっきりしない出来事が多くて中盤まで盛り上がりに欠けるプロットになっています。家族間のドラマを描いているところは作者が私淑しているジョン・ディクスン・カーよりもアガサ・クリスティーの作品を連想させます。ほの暗い雰囲気はクリスティーとも異なりますけど。行舟文化版の力のこもった巻末解説ではエラリー・クイーン風と評価しており、なるほどと思わせるところもありますが有名な国名シリーズのように容疑者を1人ずつ犯人候補から外して最後に残ったのが犯人という解決パターンではありません。過去ミステリーのトリックの再利用など問題点がないわけではありませんが23章でのオーウェンによる推理説明は謎解きのスリルに満ちており、これまた前例があるもののエピローグで明かされる秘密も印象に残ります。


No.2823 5点 悪霊七大名所の殺人
山村正夫
(2024/12/31 17:02登録)
(ネタバレなしです) 「十和田殺人湖畔」(1987年)で活躍したツアー・コンダクターの柏木美也子を名探偵役にした短編本格派推理小説7作を収めた1988年の短編集で、当初は短編の1つである「平家谷殺人行」というタイトルでの出版でした。日本各地の悪霊名所(これって縁起でもないと観光の目玉になりえないのでは(笑))での奇怪な殺人事件を扱っていますが、良くも悪くも平明な文章の作家なのでオカルト演出はそれほど凝ったものではありません。もっとも「ムサカリ絵馬の惨劇」や「亡霊の宿」などはオカルト本格派ならではの仕掛けがあります。短編なので仕方のないところではあるのですが、丁寧な推理説明が印象的だった「十和田殺人湖畔」と比べると、謎解き伏線が不十分なまま思いつきレベルの推理という作品が多くて本格派としては物足りません。「巡礼不可能殺人」は美也子のせっかくの推理が反証で破綻して謎が深まるというプロットが印象的なだけに解決が強引なのが惜しまれます。


No.2822 5点 ライルズ山荘の殺人
C・A・ラーマー
(2024/12/28 03:51登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表のマーダー・ミステリ・ブッククラブシリーズ第4作です。当初の英語原題は「And Then There Were 9」ですが、創元推理文庫版は2022年に「When There Were 9」に改題された版のようです。このタイトルで想像つかれる読者も多いと思いますが、アガサ・クリスティーの有名作「そして誰もいなくなった」(1939年)のパロディー要素があります。新メンバーが参加して9人体制になったクラブの面々が山荘に集結する場面なんかクリスティー作品を読んでいた自分はにやにやしてしまいました。作中でクリスティー作品のネタバレしているのは遺憾に思いますけど。巻末解説の紹介の通り、これまでのシリーズ作品中最もサスペンス濃厚な作品です。もっともこのシリーズにコージー・ミステリを期待しているかのようなコメントは個人的には違和感があり、このシリーズは謎解きが薄味になりがちなコージー・ミステリとは一線を画した本格派推理小説だと思っています。犯人にたどり着く推理が説明不十分気味だったり、真の動機の説明が後出し感が強いなど謎解きとしては問題点もありますけど退屈せずに読めました。迫る山火事というエラリー・クイーンの「シャム双生児の秘密」(1933年)を連想させるシーンの導入も効果的です。


No.2821 5点 美貌の帳
篠田真由美
(2024/12/17 23:20登録)
(ネタバレなしです) 1998年発表の建築探偵・桜井京介シリーズ第6作の本格派推理小説で、全15作のシリーズの第二部の幕開けの作品と位置づけられています。といっても初期5作から成る第一部と何か変わったのかと問われると私は上手く答えられないのですけれど。作中時代は1996年、人気絶頂の1968年に突然引退した幻の女優で伝説の歌手の神名備芙蓉(かんなびふよう)のカムバック公演の計画をめぐる物語ですが、謎めかす意図があるのかもしれませんけど芙蓉の存在感が終盤近くまで希薄に感じます。京介の推理説明で過去も含めた様々な出来事の真相が余すとこなく解かれるのですけど、大きな事件がなかなか起きない展開で講談社文庫版で500ページを超す分量はこの作者の筆力をもってしても読んでて少々きつかったです。


No.2820 5点 ヘレン・ヴァードンの告白
R・オースティン・フリーマン
(2024/12/16 08:46登録)
(ネタバレなしです) 第一次世界大戦で軍医として活動したためか、1922年発表の本書は「もの言わぬ証人」(1914年)から久しぶりとなるソーンダイク博士シリーズ第5作の本格派推理小説で、待ち望んでいたファン読者も多かったでしょう。風詠社版で500ページを超す、かなりの力作です。父親の借金の肩代わりとして望まぬ男との結婚を決意するヘレン・ヴァードンの1人称形式の物語です。芯の強さを持っていて、運命に決然とした態度で臨む女性として描かれています。物語性豊かなのはいいのですが、ミステリーを期待する読者はミステリーらしさのない展開が長過ぎて冗長に感じるかもしれません。法医学探偵として有名なソーンダイクが本書では法律家的な立場であることが新鮮でした。もっとも最終章では科学的捜査に立脚した推理を披露しています。ただ捜査場面の描写がないまま法廷で証言しての一気の解決なので、完全に後出しの証拠提示ではありますけど。


No.2819 5点 淡雪の木曾路殺人行
梶龍雄
(2024/12/11 23:49登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の高見照彦・結城奈都子シリーズ第2作の本格派推理小説です。3人の人物の1人称での語りが入れ替わる箇所があってちょっと読みにくかったです。名家の主人を取り巻く家族という古典的な設定があるので遺産を巡る(と思われる)殺人事件を期待しましたが、被害者は殺される理由がない人物だったというひねりを入れた謎解きです。登場人物たちの直接描写が少なくて誰が誰だかわかりにくいので登場人物リストを作って読むことを勧めます。終盤近くまでは人間関係の整理で手一杯というプロットで盛り上がりに乏しい展開ですが、解決場面での推理説明はきちんと犯人を特定しています。


No.2818 6点 犯罪コーポレーションの冒険
エラリイ・クイーン
(2024/12/11 22:28登録)
(ネタバレなしです) フレデリック・ダネイ(1905-1982)とマンフレッド・リー(1905-1971)のコンビ作家であるエラリー・クイーンの生誕100周年記念として15のラジオ・シナリオを収めて出版された「殺された蛾の冒険」(2005年)は国内では「ナポレオンの剃刀の冒険」(2008年)と「死せる案山子の冒険」(2009年)の2冊に分冊された論創社版で読むことができるようになりました。これが好評だったのか、国内独自編集によって1939年から1945年の間に放送された11作のラジオ・シナリオを収めた本書が2018年に出版されました。但し本来は1時間シナリオである「殺されることを望んだ男の冒険」(1939年)は他作家による小説化版(1940年)に替えられています。オリジナルから4割程度に短縮され、小説化で割愛された「読者への挑戦状」が翻訳時に追加編集されている代物です。巻末解説で言い訳していますけど、個人的にはオリジナルのシナリオ版を収めてほしかったです。他の10作は全てオリジナル通りの30分シナリオで、レギュラーキャラクター以外の登場人物が1人しかいない「見えない手がかりの冒険」(1942年)、「読者への挑戦状」の中で「いつものような隙のない解決ができません」と弱気(?)コメントしている「ハネムーンの宿の冒険」(1940年)、犯人探しでなく善人探しの「善きサマリア人の冒険」(1940年)など異色の設定の作品が目立ちます。個人的には本格派の謎解きとして解決に納得できるかを重視しており、「カインの一族の冒険」(1940年)、「ハネムーンの宿の冒険」、「放火魔の冒険」(1940年)はなかなかの出来栄えと思います。巻末解説でベスト評価されている「犯罪コーポレーションの冒険」(1943年)は大胆なアイデアは確かに印象的なのですが、失敗リスクの高い(しかも失敗をリカバリーできない)トリックに挑戦しているのが気になりました。


No.2817 5点 運のいい敗北者
E・S・ガードナー
(2024/12/08 20:58登録)
(ネタバレなしです) 1957年発表のペリイ・メイスンシリーズ第52作の本格派推理小説です。序盤から法廷シーンに突入しますがそのきっかけはメイスンが謎の依頼人から依頼されてひき逃げ死亡事故の公判を傍聴人として見学するという、ちょっと捉えどころのない展開です。被害者の素性が曖昧だし被告が有罪か無罪かも曖昧のまま物語が進みます。第12章でメイスンが過去の凡例を挙げて判事や検事を煙に巻く場面はこの作者ならの法廷テクニックですね。事件の真相には初期シリーズ作品で印象的だった仕掛けが再利用されていますが、緻密な謎解きの初期作品と比べると本書は大いなる偶然ばかりが目立ってしまったように感じました。ところでタイトルの「運のいい敗北者」って誰の事なんでしょう?私にはわかりませんでした。


No.2816 5点 津和野の殺人者
中町信
(2024/12/04 05:20登録)
(ネタバレなしです) 1991年発表の本格派推理小説で、同じ年に発表された「萩・津和野殺人事件」(当初のタイトルは「新特急『草津』の女」でした)とは別の作品です。火災事故に巻き込まれて入院したツアー客の1人が病院から墜落死する事件の謎解きが発端ですが、被害者の女性が性的暴行を加えられていたらしいという設定は読者の好き嫌いが大きく分かれそうです。しかも調査が進むにつれ性的暴行事件が過去にもあったことが浮かび上がってくる展開です。素っ気ない文章の作家なので官能描写はほとんどありませんけど。事件の真相に気づいたらしい弟を殺された姉が主人公で探偵役ですが、あまり感情を表に出しません。ひたすら主人公の推理を否定する犯人、その否定を否定して説明を続ける主人公という解決が印象的ですがちょっと強引過ぎにも感じます。


No.2815 5点 幻想三重奏
ノーマン・ベロウ
(2024/11/30 03:01登録)
(ネタバレなしです) 英国のノーマン・ベロウ(1902-1986)は森英俊が「世界ミステリ作家事典 [本格派篇]」(1998年)の中で「イギリス最良の密室作家のひとり」と絶賛した作家で、1930年代から1950年代にかけて20作ほどのミステリーを残しています。第二次世界大戦中の従軍のため1941年から1945年の間は作品を発表していません。マイナー作家ながらも戦後の作品に注目作があるようです。1947年発表の本書は全5作のスミス警部シリーズ第1作の本格派推理小説で、三つの消失事件を扱っているところはピエール・ボアローの「三つの消失」(1938年)を連想する読者もいるでしょう。第一の消失は二階に上がっていった男が消失する事件ですが、消失の謎よりもこの男と接したはずの証人たちが相次いでそんな男はいなかったと証言する「存在しない男」の謎の方が印象的です。さらに幻の部屋の消失、路地の消失と続きます。阿井渉介の列車シリーズが好きな読者なら本書も好きになるかもしれません。トリック成立のために非常に手間暇かけているのが特徴ですが、どちらかと言えば度が過ぎるとあきれる読者の方が多いかも。逆転の発想の幻の部屋トリックはなかなか面白いですが。


No.2814 6点 そして誰かがいなくなる
下村敦史
(2024/11/24 18:51登録)
(ネタバレなしです) 2022年から2023年にかけてWEBサイトにて連載され、2024年に単行本が出版された本格派推理小説です。本書の舞台は何と作者の自宅をほぼそのまま採用したもので、これはインターネットで情報公開されていますけどまるでドイツのノイシュヴァンシュタイン城を彷彿させるような豪華絢爛な装飾の部屋の数々が印象的です。さすがにスケール感では城には及ばないものの、王侯貴族趣味と言ってもよい夢とロマンを感じさせますね。中央公論新社版の単行本にも見取り図や写真が掲載されていますが、インターネットのカラー写真を見ておくことを勧めます。さて本書の内容についてですがタイトルからアガサ・クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」(1939年)のパロディー要素があるのかなと思っていましたが、ひねった仕掛けはむしろエラリー・クイーンの某作品を連想しました。こういうタイトルだと読者の期待値もつい高くなってしまいますので、凝った舞台設定の割には謎の盛り上げ方が物足りないのがちょっと惜しまれます。


No.2813 6点 ぼくの家族はみんな誰かを殺してる
ベンジャミン・スティーヴンソン
(2024/11/21 04:25登録)
(ネタバレなしです) コメディアンとしても活躍しているオーストラリアのベンジャミン・スティーヴンソンによる2022年発表の長編ミステリー第3作です。ハーパーBOOKS版の巻末解説によると過去発表の2作品は犯罪小説系かスリラー小説系のように思えますし、表紙イラストが人物の表情を目を意図的に描かず少し不気味で私はサイコサスペンス系かと思ってました。しかし冒頭にロナルド・ノックスの「探偵小説十戒」(1928年)が置かれ、作中でも主人公の語り手が何度も「嘘や隠し事はしない」と宣言して読者に対してフェアプレーの謎解きを意識している本格派推理小説で、終盤の36章では「謎解きに必要とした手がかり」が列挙されています。もっともこの手がかりの推理説明への結び付け方についてはやや難解に感じる部分もありましたが。また主人公が家族内で微妙な立場であることが本書の特徴でもあるのですが、ハードボイルドほどではないにしろドライに描かれる心理描写が共感しにくいと感じる読者もいるかもしれません。


No.2812 5点 陽の翳る街
仁木悦子
(2024/11/06 20:32登録)
(ネタバレなしです) kanamoriさんのご講評で紹介されているように、仁木悦子(1928-1986)は晩年まで執筆活動を続けましたが全部で12作書かれた長編ミステリーに限定すれば1982年発表の本格派推理小説である本書が最終作です。推理小説が三度の飯より好きという、ご近所関係の男女四人が集まって作った「モザイクの会」のメンバーたちが偶然遭遇した殺人事件の謎解きに挑戦するプロットです。非常に複雑でしかも雲をつかむような謎解きで、被害者の素性が曖昧なため人間関係もはっきりしないままに登場人物が増えていくので登場人物リストは作ることを勧めます。容疑者の中には直接描写されないのもいるのでますますとらえどころがないのですけど。戦時中のエピソードが語られたり19年前の三重殺人事件が絡んだりと複雑性は加速し、ついには四人の足並みが乱れるなど私の凡庸な頭には手強すぎる作品でした。


No.2811 5点 貧乏カレッジの困った遺産
ジル・ペイトン・ウォルシュ
(2024/11/05 08:03登録)
(ネタバレなしです) 「ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎」(1995年)から10年以上の間を空けて2006年に発表されたイモ-ジェン・クワイシリーズ第3作の本格派推理小説です。イモージェンは金融業界の大物であるサー・ジュリアスが崖から転落死したニュースを新聞で知りますが、以前に彼と会った時に「わたしの命は安全とは言えない」と告げられていたことから事故死ではないのではと疑います。イモージェンがかつての恋人と出会い一緒に捜査するという展開に驚かされます。イモージェンの複雑な心境が随所で描かれ、謎解きと並行して2人の仲がどのようになるのかも読ませどころです。経済ミステリー的要素があって予想外の大掛かりな問題にまで発展するのも本書の特徴です。大胆な真相が用意されていますが、犯人からどうしてわかったのかと問われたイモ-ジェンは「当面、それを話す必要はないと思います」と推理説明してくれません。犯人当て以外に解決しなければいけない問題が山積みしているからというのは理解できるのですが、後になってもちゃんと解説してくれないのでは本格派の謎解きとしては中途半端に終わってしまった印象を受けました。


No.2810 7点 密室は御手の中
犬飼ねこそぎ
(2024/10/29 22:50登録)
(ネタバレなしです) 学生時代に40編以上の短編作品を書いていた犬飼ねこそぎ(1992年生まれ)が2021年に発表したデビュー作の本格派推理小説です。「すごいトリックとすごいロジックを軸に味付けすれば、すごい本格ミステリが書けるはずだ」と作者がコメントしているだけあってアイデアは確かにすごいです。特に密室内のバラバラ死体という鮎川哲也の名作短編「赤い密室」(1954年)を連想させる第1の事件のトリックには驚きました。またどんでん返しの謎解きが梶龍雄の某作品を彷彿させる推理合戦にまで発展する展開にも力が入っています。説明が空回りしたような部分があるし、人物描写は全く印象に残らないし、猟奇的殺人のグロテスク描写を抑えたのは個人的には好ましいながらも雰囲気演出はインパクトが弱いとか気になるところもありますが、作者の意欲は十分に感じられました。

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