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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.45 7点 死の相続
セオドア・ロスコー
(2009/02/12 16:39登録)
(ネタバレなしです) 米国のセオドア・ロスコー(1906-1992)は第二次大戦前にパルプ作家として有名だった存在らしいです。E・S・ガードナーのようにパルプ作家からメジャー作家に転身できたケースもあるとはいえ、日本にこういう作家の作品が紹介されるのは非常に珍しいですね。彼の代表作とされる本書はまるで横溝正史の「八つ墓村」(1949年)と「三つ首塔」(1955年)を足して2で割って更にオカルト要素と不可能犯罪要素をたっぷり注ぎ込んだ、強烈なカクテルみたいな本格派推理小説です(しかも横溝作品よりも早い1935年の発表です)。パルプ作家の作品らしくとにかくど派手な展開に終始し、振り回される読者はじっくり推理する暇などありませんが密室も透明人間もゾンビもそれなりに合理的に謎解きしているところが並ではありません。所詮B級ミステリーだと言えばそれまでですが、たまにはこういうひたすらど派手な本格派を読むのも楽しいですよ。


No.44 6点 模倣の殺意
中町信
(2009/02/12 16:18登録)
(ネタバレなしです) 本格派の技巧派と評価される中町信(1935-2009)が、1971年のミステリー賞候補作であった「そして死が訪れる」を改訂して1973年に「新人賞殺人事件」というタイトルで発表した長編デビュー作ではありますが、社会派推理小説全盛時代の作品だけあって謎の魅力を前面に出した作品ではありません。名探偵の知識や技術も警察の組織力も持たない一般人が地道に一歩ずつ謎を調べていく展開は松本清張のスタイルに近いです。2004年の改題改訂(創元推理文庫版)にあたって読者への挑戦状が挿入されたそうですが、読者が謎解きに参加している気分を味わせていないのでこの挑戦状は違和感があります。といってもパズル性が弱いというだけのことで、大いなる偶然に頼った仕掛けは賛否両論あるでしょうが大胆な真相が待っています。新本格派ムーヴメントが起きた1980年代後半以降だったらもっと謎解きプロットを派手にする演出が出来たかもしれません。そういう意味では時代を先取りした作品とも言えそうです。


No.43 5点
F・W・クロフツ
(2009/02/10 17:45登録)
(ネタバレなしです) 英国のF・W・クロフツ(1879-1957)ほど色々な肩書き付きで紹介される作家は少ないでしょう。「アリバイ・トリックの巨匠」、「トラベル・ミステリーの開拓者」、「リアリズム重視」、「日本の社会派に影響を与えた作家」そして「退屈派」(笑)。アガサ・クリスティーと同年に作家デビューし、本格派推理小説の書き手として認識されながらクリスティーとは作風が全く異なります。多くの作品では探偵役の行動だけでなく考えや推理も最初から読者にオープンにしているため、読者が自分で犯人を当てる楽しみが少ない上に往々にして犯人の正体が早々と予測がついてしまうところがあります(但し探偵が間違えたため意外な結果を生み出す作品もあります)。また細部まで丁寧に描写していく文章は必要なものも不要なものも何でも書いてしまうという要領の悪さの裏返しで、そのため展開が遅くて地味という印象を免れません。1920年発表の本書はクリスティーの「スタイルズの怪事件」(1920年)と共に本格派黄金時代の幕開けを飾るデビュー作という歴史的意義は認めますがクロフツ全作品の中では水準作であり代表作とは思えません。クリスティーとは全く作風が違い、クロフツは丁寧な描写とリアリズムを感じさせる重厚な捜査が特徴で、(後は好みの問題になるのですが)クリスティーのテンポいい語り口と犯人当てゲーム感覚的な楽しさの前には人気面で不利だったのは否めません。


No.42 6点 すべてがFになる
森博嗣
(2009/02/06 17:48登録)
(ネタバレなしです) 工学博士でもある森博嗣(1957年生まれ)は理系作家として認知されています。理系ミステリーという評判に怯えた私は(笑)1996年出版のデビュー作である本書になかなか手が出ませんでした。システム管理された密室からしてまぎれもなく理系で、トリックにも理系要素はあります。他にも私には難解な理系用語がずらりと並んでいます。しかし文章自体は回りくどい表現が少なく、謎解き説明も明快でわかりやすい本格派推理小説でした。ただ本書の1番のハイライトは理系要素よりも人間性描写ではないでしょうか。中でも登場場面は大変少ないのに真賀田四季は読後の印象では主役の犀川や萌絵さえ圧倒していると思います。作者も思い入れがあったのか、後に彼女を主人公にした年代記的な四部作を書いたほどですから。


No.41 6点 暴徒裁判
クレイグ・ライス
(2009/02/02 14:54登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のマローンシリーズ第5作の本書は過激な暴力シーン満載みたいなタイトルで(英語原題は「Trial by Fury」)、そういうのが苦手な読者はちょっと敬遠したくなりそうですがシリーズの他作品と変わらず楽しい本格派推理小説でした(但しタイトルに偽りがあるわけでもありません)。32年間殺人事件の起きなかったジャクソン郡で起きた殺人事件に巻きこまれたジャスタス夫妻を救うために(いやいやながらも)マローンがシカゴから駆けつけるプロットで、何か事件が起こったり起きそうになると決まったように全容疑者が現場に顔を揃える展開が何とも都合よすぎますけど、どたばたが売りのシリーズなので問題なし。目まぐるしいほど急変する展開はシリーズ作品でも屈指の出来映えで、退屈するヒマなんてありません。


No.40 7点 象と耳鳴り
恩田陸
(2009/02/02 14:22登録)
(ネタバレなしです) SF、ファンタジー、ホラー、ミステリーなど幅広いジャンルの作品を世に出している女性作家の恩田陸(1964年生まれ)は読者として1番好きなのは本格派推理小説だそうですが書くとなると話は別だったのかこのジャンルの自作は極めて少なく、1999年に短編集としてまとめられた本書(祥伝社文庫版)のあとがきでは「悪戦苦闘したあげく、やっとできあがった」と述べているほどです。しかし読んでみるとどの作品もそんな苦労があったとは思えないほど筆遣いはなめらかで読みやすいです。12作の本格派推理短編を収めた短編集ですが理屈よりも感性を重視したような作品が多く、緻密な推理による論理的な謎解きを期待すると肩透かしをくらうかもしれません。でも感性の作家ならではの魅力が一杯詰まっており、それぞれが個性的でありながら等しく質の高い作品が揃っています。個人的好きなのは「海にゐるのは人魚ではない」、「廃園」、「机上の論理」です。


No.39 7点 ウサギ料理は殺しの味
P・シニアック
(2009/01/28 15:19登録)
(ネタバレなしです) フランスのピエール・シニアック(1928-2002)は3種類の結末を用意して読者に選ばせる作品があるなど相当のアイデアマンのようですが、1981年発表の本書もかなり奇抜な作品です。ジャンル的には本格派推理小説ですが、読者が犯人当てに挑戦するには手掛かりが不十分に思われます。しかしそんな弱点が気にならないほどの凄い論理の積み重ねは圧倒的で、さらに事件解決後の後日談がこれまた強力なインパクトがあります。ちなみに中公文庫版の巻末解説は結構ネタバレしているので事前に読まないことを勧めます。


No.38 5点 薪小屋の秘密
アントニー・ギルバート
(2009/01/28 15:08登録)
(ネタバレなしです) 70冊近いミステリーと20冊近い非ミステリーを書いた男性風のペンネームのイギリスの女性作家アントニー・ギルバート(1899-1973)による1942年発表のクルック弁護士シリーズ第10作の本書は本格派推理小説としてはかなり毛色が変わっており、それが一般受けしにくい理由になっているように思います。前半は完全にサスペンス小説の展開ですが、後半になると謎解き小説の要素が強くなってきます。容疑者数を極端に絞り込んでおり、犯人当てとしてではなく何が起こったのかという網羅的な謎解きとして楽しむべき本格派でした。私は楽しんだというよりあまりに異色なプロットに面食らった方ですが。


No.37 10点 世界ミステリ作家事典 [本格派篇]
事典・ガイド
(2009/01/28 14:37登録)
この種の本だと普通は翻訳された作家と作品のみの紹介に留まるのですが、1998年発表の本書はまだ日本に未紹介の作家まで数多く紹介しているのが凄いです。初版で7000円以上の高額にもかかわらず本書を買ったことは全く後悔していません。自分がまだ読んでない面白そうな作品がこんなにあるのかと嬉しくなりました。ネタバレにならないように配慮していますのでビギナー読者にもお勧めです。何度も読んでぼろぼろになってしまい、ついに買い直しました(それも後悔してません)。


No.36 2点 黒死館殺人事件
小栗虫太郎
(2009/01/28 09:47登録)
(ネタバレなしです) 小栗虫太郎(おぐりむしたろう)(1901-1946)が1934年に発表した法水麟太郎シリーズ第1作である本書は日本ミステリー3大奇書の1つとして伝説的な存在ですが、同時代に書かれた夢野久作の「ドグラ・マグラ」(1935年)が混乱系なら本書は頭痛系(笑)。ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンスシリーズに影響を受けた本格派推理小説であることは確かですがとにかく難解で読みにくいです。現代では使われない用語が沢山使われているのも理由の1つでしょうが、甲賀三郎が文章の難解さを指摘しているぐらいですから発表当時の読者にも読みにくかったのでしょうね。これまた甲賀三郎の受け売りになりますが、作者のあまりの膨大な学識に振り回され、読者は犯人を推理する余裕がないでしょう。


No.35 9点 見えないグリーン
ジョン・スラデック
(2009/01/27 09:54登録)
(ネタバレなしです) 1977年発表のサッカレイ・フィンシリーズ第2作の本格派推理小説で密室、消えた犯人、アリバイなどの豊富な謎に加えて容疑者同士の推理合戦など盛り上げ方も充実、気の利いた手掛かりも巧妙で、前作「黒い霊気」(1974年)に比べると格段の進歩が見られます。警察があまりにも重要な手掛かりを重視しない(気づいてはいる)のが不自然だとか細かい弱点もありますけど、フィンの鮮やかな推理で不可能犯罪が不可能でなくなる謎解きは素晴らしい効果を上げています。これほどの傑作が本国アメリカではほとんど評価されず、本書以降はスラデック(1937-2000)がミステリー作品を書かなかったのは本当に不幸なことでした。


No.34 7点 仮面山荘殺人事件
東野圭吾
(2009/01/27 09:18登録)
(ネタバレなしです) 1990年発表の本格派推理小説です(シリーズ名探偵は登場しません)。後年デビューする石持浅海の作品を髣髴させるような風変わりなクローズド・サークル内の事件が印象的で、緊迫感あふれる展開の中に謎解き伏線を巧みに配置しどんでん返しも切れ味鋭いです。スムーズな語り口と(講談社文庫版で)300ページにも満たないコンパクトな分量のためあっという間に読み終えますが中身は充実しています。騙しの基本的な仕掛けは本書以前にも前例があるものですが私はまたまた騙されてしまいました。


No.33 9点 くたばれ健康法!
アラン・グリーン
(2009/01/26 16:58登録)
(ネタバレなしです) 米国のアラン・グリーン(1906-1975)の1949年発表のデビュー作である本格派推理小説です。派手なスラプスティック(どたばた劇)は好き嫌いが分かれるかもしれませんが、たかがユーモア本格派推理小説と侮ってはいけません。ギャグ漫画的なノリの中にもしっかりと手掛かりを潜ませ、全盛期のエラリー・クイーンに匹敵するほど論理的な推理による説得力ある謎解きが用意されているのですから。密室トリックもよく考えられています。


No.32 10点 死人はスキーをしない
パトリシア・モイーズ
(2009/01/26 16:47登録)
(ネタバレなしです) 長編19作が全てヘンリ・ティベット主任警部(後に主任警視)シリーズの英国の女性作家パトリシア・モイーズ(1923-2000)の1959年発表のデビュー作です。個人的にはちょっと気に入らない箇所もあるのですが、それでも満点評価できると思います。個性豊かな登場人物の描き分け、美しい自然描写、ユーモアとサスペンスのバランス、フェアに隠された手掛かりに基づく推理と本格派推理小説としての完成度は極めて高いです。


No.31 6点 死を開く扉
高木彬光
(2009/01/26 16:10登録)
(ネタバレなしです) 1957年発表の神津恭介シリーズ第7作で密室にこだわり抜いた本格派推理小説です。密室殺人トリックは実現性にやや疑問があるような気もしますが(実現してもすぐにばれるでしょうし)アイデアとしてはなかなか面白いです。でももっと印象に残るのが密室放火トリックの方でした。すごく簡単に実現できそうですね。(仮に実現可能だとして)模倣実行犯が出ないことを切に祈ります(笑)。ワトソン役の松下研三は相変わらず役立たずですが今回はちょっと同情したくなります。神津の伝言があれではねえ。


No.30 7点 水車館の殺人
綾辻行人
(2009/01/26 15:58登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表の館シリーズ第2作の本格派推理小説です。前作の「十角館の殺人」(1987年)や次作の「迷路館の殺人」(1988年)と比べると、「読者の意表をつく」ところが弱いためか特にマニア読者からの評価は低いようです。確かにそういう評価もあるとは思いますが、安心して謎解きが楽しめる王道路線の本格派推理小説として個人的には十分以上に満足できました。何よりも後年の作品でもよく見られる幻想的な雰囲気が魅力的です。


No.29 7点 りら荘事件
鮎川哲也
(2009/01/26 14:39登録)
(ネタバレなしです) わずか3長編と14の中短編の登場ながら根強い人気を持つ星影龍三シリーズの1958年発表の長編第1作で、鮎川全作品の中でもかなりの人気作です。フェアに謎解き手掛かりが用意され論理的な推理で犯人が明らかになる、王道的な犯人当て本格派推理小説としては完成度が非常に高いです。それだけに最後の殺人が蛇足というか美しい着地でないのが(と個人的には感じました)惜しいです(これもよく考え抜かれてはいるのですが)。


No.28 8点 サファリ殺人事件
エルスペス・ハクスリー
(2009/01/26 13:43登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家エルスペス・ハクスリー(1907-1997)は生まれはロンドンながら子供時代のかなりの部分を(当時はイギリス植民地だった)ケニアで過ごしており、アフリカに関する著作も書いています。ミステリー作品は1930年代にやはりケニアを舞台した3作のヴェイチェル警視シリーズで知られています。本書は1938年発表のシリーズ第2作で、何ともタイトルがお手軽過ぎというのが第一印象でしたが、読んでみるとこれ以外にふさわしいタイトルは考えられないと思えるほどにサファリの雰囲気一杯の本格派推理小説でした(英語原題は「Murder on Safari」です)。獲物の皮を剥いでいたというアリバイ証言なんか普通の本格派ではまずお目にかかれないでしょう。単に異国情緒頼りの作品ではなく、同時代のアガサ・クリスティーに遜色ない出来映えの謎解きもうれしいです。


No.27 5点 バイバイ、エンジェル
笠井潔
(2009/01/26 11:42登録)
(ネタバレなしです) 笠井潔(1948年生まれ)は学生時代に学生運動組織に参加していた過去を持つためか、連合赤軍集団リンチ事件を機に政治活動から身を引いたとはいえどこか思想家的な雰囲気を引きずっている作家です。謎解きと哲学を融合したと評される矢吹駆シリーズ第1作の本書(1979年発表)は「現象学」とか「本質直観」とか私には難しい用語が連発されながらも本格派推理小説としては正統派で、第3章で提示される六つの謎を明らかにする第6章の説明はわかりやすいです(ネタバレ防止のために詳細は書きませんが魅力ある謎の提示に対して何でもあり的な真相はちょっと残念ですが)。しかし本書のクライマックスはその第6章の後半部の思想対決で、半端なハードボイルド小説など及びもつかないほどの冷酷さと非情さを感じさせます。これは笠井潔にしか書けないであろう、作品の個性でもありますがちょっと近寄りがたいかも。


No.26 7点 傾いたローソク
E・S・ガードナー
(2009/01/26 11:35登録)
(ネタバレなしです) 1944年発表のペリー・メイスンシリーズ第24作で本格派推理小説としてのプロットがしっかりしています。細部を丁寧に検証しているため、ややもすると退屈になり気味ですが現場見取り図を使って謎のポイントをわかりやすくしたのがいい工夫です。ちょっとした着眼点の違いでどんでん返しを演出しているのが非常に巧妙で、私も検事と一緒に「しまった」と内心で舌を巻きました。なお本書の最後はシリーズ次作の「殴られたブロンド」(1944年)へとつながる締め括りとなっています。

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