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ミステリの祭典

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薔薇の女
矢吹駆シリーズ

作家 笠井潔
出版日1983年03月
平均点6.33点
書評数9人

No.9 7点 じきる
(2021/05/23 18:17登録)
笠井潔らしさは控えめだが、謎解き部分は良い。
そういう意味で、『サマー・アポカリプス』とは違った読み味だが楽しめた。

No.8 7点 ことは
(2019/11/17 13:07登録)
ミステリ的には、矢吹シリーズ、初期3作では最も面白かった。ただ、思想対決という独特のカラーが薄れて、普通のミステリに近づいていると思う。作者もそれがわかっていて、シリーズが一旦中断したのだと思う。
そういえば、この作品を読んだのは「天使・黙示・薔薇」という合本で、京都旅行で目にして買ったのだっけ。旅行は今で言う聖地巡礼で、その作品は「占星術殺人事件」だった。アゾート殺人に似た本書を、そんな流れで買ったのも、奇妙な縁ですなぁ。

No.7 7点 クリスティ再読
(2019/11/17 11:23登録)
ニューアカ華やかりし頃、「ユリイカ」のバタイユ特集で浅田彰と中沢新一が対談してて、バタイユのことを「大通りを素っ裸で歩いているような人」と評していたのが、なるほど、と膝を打たせたことがあったな。バタイユって人は面白いんだけど、その面白さはマンガ的なものでもあるわけだよ。だから「バタイユ思想をどうこう」と、大真面目に語りだすと、実質はキャラ萌え語りみたいなものだから、客観的にかなりイタいことになって、しかも本人がそれに気が付かない...という情けない目にあうわけだ。
本作が陥ってる状況というのは、そういうこと。「ヴァンパイヤー戦争」は本当にマンガ(アニメがあるし文庫の表紙はもっとカルいし)だからイイんだが、本作の猟奇性連続殺人とかねえ、マンガになってしまっていて、バタイユを模したキャラにその思想を語らせても、今一つ有機的には絡まずに、「作者、バタイユ好きなんだね...」と生暖かい目で見守るられることになる。まあだから本作、矢吹駆のシリーズとしては明白な失敗作である。
けどねえ、純粋にミステリとしてのロジックや「現象学的推理」の在り方としては、大仰な企画倒れで切れ味に欠ける「アポカリプス」よりもうまく処理されていると思うんだ。「アポカリプス」は評者過大評価だと思うけど、ああいう古典的道具立ての方が日本の読者にはウケるんだろうよ。本作の仕掛けはずっと小味なアリバイ絡みなので、マニアへのアピール感が薄いのかなあ。というわけで、思想ミステリというシリーズの狙いでは失敗しているけど、タダのミステリとしては隠れた秀作だと思う。笠井潔はオリジナリティのあるトリックメーカーだよ。

No.6 6点 E-BANKER
(2015/06/21 20:01登録)
「バイバイ・エンジェル」「サマー・アポカリプス」に続く矢吹駈シリーズ。
初期シリーズ三部作の最終作品。
1983年発表。

~フィリップモリスをひとつ・・・紙幣と共に差し出された名刺が映画女優を夢見るシルヴィーに運命の訪れを告げていた。ささやかな贅沢で祝したその夜更け、自室の扉を叩く音に応じた彼女に付された未来はあろうことか首無し屍体となって薔薇の散り敷く血の海に横たわることだった・・・。そして翌週には両腕を失った第二の、翌々週には両脚を奪われた第三の犠牲者が、明らかに同一犯人と見做される状況にも拘らず生前の被害者たちに殺害されるにたる共通項を探しあぐね混乱するパリ警視庁。事件を統べる糸「ドミニク・フランス」を紡ぎ出してみせる矢吹駈の鮮やかな現象学的推理の織り成す真相という名の意匠とは?~

大方の書評どおり、前二作に比べると落ちる。
そんな読後感。
謎の提示そのものは前二作に勝るとも劣らないレベルで期待は高まった。
パリ市内で起こる若い女性をターゲットとする連続殺人事件。
被害者の女性は猟奇的に殺害され、更には体の一部分が犯人より持ち去られる。
犯人が死体に残した“両性具有者(アンドロギュノス)”の署名。やがて判明する犯人の狙い。それは、持ち去った被害者の体の一部をつなぎ合わせて、一体の完璧な肉人形を作り出すこと・・・

・・・ん? これってもしかして「占星術殺人事件」のアゾートを下敷きにしてるのか?
って思うよなぁー、普通。
しかし、両作品が相似なのはここまでで、後のプロットは全く異なる。(当たり前だが・・・)
ただし、“アゾート”はあの驚天動地のトリックと有機的に結び付いていたが、本作の肉人形にはそういう役割を付されていないところがやや不満。
あくまでも、作者らしい宗教或いはオカルティズムとの兼ね合いの産物となっている。

もうひとつの山場がアリバイトリックの“Why”だろう。
本来アリバイトリックを弄さなくてもよい人物が、なぜ複雑なアリバイを用意しなければならなかったのか?
こういうアプローチは初めてだっただけに、これが本作一番の収穫。
(ただし、その解法はそこまで複雑にする必要があったのかという点で、納得感が薄いのだが・・・)

ということで、さすがに笠井潔とでも言うべき水準の作品には仕上がっていると思う。
ただし、どうしても相対的に評価すると、前二作よりも高い評価はできない。
(駈とルノワールの小難しいやり取りはあそこまで必要だったのか?)

No.5 5点 nukkam
(2009/12/07 18:58登録)
(ネタバレなしです) 「バイバイ、エンジェル」(1979年)や「サマー・アポカリプス」(1981年)では何よりも犯人の強烈極まりない内面描写に圧倒されましたが、1983年発表の矢吹駆シリーズ第3作の本書は犯行の異常性という外面的要素が特徴になっています。これはこれでありだと思いますが過去2作品のように他の作家には真似できそうにもないほどの個性は感じられませんでした(苦手なので私はあまり読んでいませんが猟奇的犯罪のグロテスク描写に力を入れたミステリーは他にも沢山ありそう)。矢吹駆も普通の探偵役にしか見えません。

No.4 7点 測量ボ-イ
(2009/05/23 09:39登録)
「矢吹駆」3部作の中では一番オ-ソドックスな印象。
両性具人形の話しは気味悪いですけど(そんな趣味ない
です)。
謎解きのタネあかしも3部作の中では一番判りやすかっ
たです。

No.3 6点 ギザじゅう
(2004/08/02 13:52登録)
アンドロギュヌスの悪魔的犯罪には唸らされるものもあるし、トリック自体なかなか良く練られているのだが(最近では加賀美さんが似たようなこともしてますね)、バイバイ、アポカリプスと比べて、物足りなさが残ってしまう。ミッシングリンクテーマでなかったのも、残念な理由の一つだが、もっともっととてつもない大風呂敷を広げてもらいたかった。

No.2 6点 でんぷん
(2004/04/03 19:07登録)
他の作品に比べるとなぜか印象が薄いが、それなりに楽しめたような気がする。

No.1 6点 えむ
(2003/03/07 19:47登録)
このシリーズは、もっぱら駆とナディアの関係
ばかりに注目して読んでいるような気がする。
思想的な側面については、つまらなくはないものの、
印象も薄い。

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