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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.305 4点 海のある奈良に死す
有栖川有栖
(2012/04/29 15:09登録)
(ネタバレなしです) サラリーマン作家だった有栖川が専業になって初めて書いた、1995年発表の火村英生シリーズ第3作の本格派推理小説で、「行ってくる。『海のある奈良』へ」と言い残して去っていった男の死を扱っています。派手な演出を排したプロットで、トリックは色々と用意してあるのですがあまりにも全体が地味で謎自体の焦点が定まっていません。そのためか最後にトリック説明されてもインパクトに欠けてしまうのが惜しいところです。トリックも成功するのかおぼつかないようなところがあって説得力も弱いような気がします。


No.304 6点 ドーヴァー10/昇進
ジョイス・ポーター
(2012/04/29 14:52登録)
(ネタバレなしです) シリーズ第10作の本書は結果としてドーヴァー主任警部シリーズの最後の長編作品となった本格派推理小説で、1980年に発表されました(但し短編はこの後も書かれ、ポーター(1924-1990)の死後の1996年にはシリーズ短編集が出版されています)。シリーズ前期に比べるとどたばたは影を潜め、ドーヴァーのやる気のなさが目立つ程度です。とはいえ本格派推理小説としてはしっかり作られていて、ドーヴァーの推理はマグレガーがびっくりするほど冴えています。ドーヴァーのどたばたを期待する読者には物足りなく映るかもしれませんが。


No.303 5点 運命交響曲殺人事件
由良三郎
(2012/04/24 16:38登録)
(ネタバレなしです) 由良三郎(1921-2004)が本書でミステリーデビューしたのは1984年です。もともとは医学者で、引退してミステリー作家に転身しました。世代的には高木彬光(1920-1995)と同年代で、高木が作家生活の晩年を迎えていた時期に作家キャリアをスタートさせたのですからびっくりです。クラシック音楽が好きでない読者はタイトルだけで敬遠しそうですけど、それほど音楽趣味べったりの作品ではありませんのでその点はご安心下さい。爆殺トリックは非常に細かいレベルで分析しているし、それ以外の謎解きも丁寧な本格派推理小説なんですが、語り口が単調に過ぎて物語としてのメリハリに乏しく、読みやすいかというと微妙です。


No.302 7点 顔に傷のある男
イェジイ・エディゲイ
(2012/04/23 17:56登録)
(ネタバレなしです) 1970年発表の本書はジャンル的には警察小説のミステリーですが謎解き伏線もしっかり張ってあって犯人当て本格派推理小説としても楽しめる内容です。同時代の英米の本格派と比べると古い作風(つまり黄金時代の作品の雰囲気を持っている)に感じられますが、この種の作品が好きな私にとっては全く問題ありません(むしろ大歓迎)。なじみのないポーランド人の名前には苦労しますが丁寧な推理説明は読みやすいです。大変ユニークなのが犯人が2人組であることを最初から提示して容疑者もほとんどが何らかのペアになるようにしてあること。最後になって実は共犯者がいましたという、往々にして不満を覚える謎解きとは違います。


No.301 6点 支笏湖殺人事件
草野唯雄
(2012/04/23 16:19登録)
(ネタバレなしです) それまでシリーズ探偵物に重きを置いていなかった草野は1980年に発表した本書で私立探偵の尾高一幸シリーズをスタートさせます(これより前の1970年代にはハラハラ刑事シリーズが先に発表されていますが)。まだ本格派推理小説にとって厳しい時代の作品だからでしょうか。私の読んだ徳間文庫版の裏表紙では「殺人犯の夫の汚名を晴らす長編復讐劇」などと紹介されています。特にお仕置きシーンがあるわけでもなく(笑)、尾高の丹念な捜査と推理を描いた本格派推理小説です。犯人当てとしては通常だと私にとってはアンフェア気味にさえ感じてしまう真相なのですが、本書の場合は尾高が早い段階から可能性として明快に示唆しており、そういう不満を感じさせませんでした。地味ながら退屈させない語り口、叙情性を感じさせる結末など一読の価値は十分にあります。


No.300 6点 土曜日ラビは空腹だった
ハリイ・ケメルマン
(2012/03/11 15:21登録)
(ネタバレなしです) 1966年発表のラビ・スモールシリーズ第2作です。自殺かもしれない死者をユダヤ教の葬儀で埋葬するかどうかでラビと教会理事会が対立します。これだけなら宗教物語で終わりますが、ちゃんと謎解きプロットと密接な関係を保っており、本格派推理小説の良作に仕上がっています。宗教色が濃いといっても決して神がかったような内容ではなく、どうすればみんなが納得できるのかという問題として扱っており、とてもわかりやすく共感しやすいです。


No.299 6点 深夜の訪問者
大谷羊太郎
(2012/03/08 20:17登録)
(ネタバレなしです) サスペンス小説風なタイトルですが、密室に芸能界描写とこの作者らしさが楽しめる1975年発表の本格派推理小説です。密室トリックは綱渡り的なところもありますがアイデアとしては面白いです。中盤で「自白」(のようなもの)があるのにびっくりしました。その後この自白ははったりではという疑惑が生じたり、別の人物の自白があったりと色々やっていますが犯人当てとして楽しめるかどうかは微妙な出来栄えに感じました。無用な登場人物の多さと通俗的な語り口が気になりますが、締めくくりは人情味があって読後感は悪くありません。


No.298 5点 二流小説家
デイヴィッド・ゴードン
(2012/03/02 21:13登録)
(ネタバレなしです) 米国のデイヴィド・ゴードンはコピーライター、スクリーンライター、ゴーストライター(!!)など執筆に関わる様々な職業を経験しています。ミステリー作家としては2010年発表の本書でデビューしますが、複雑なプロットながら文章はさすがに手慣れた感があります。ジャンル・ミックス型のミステリーで、この種の作品は大概が2種類かせいぜい3種類のミックスですけど本書は作中作として織り込まれている小説断片も含めれば本格派推理小説、SF小説、ホラー小説、冒険小説、サイコサスペンス、ハードボイルドなど実に様々な要素が楽しめます(案外とSF小説の部分が面白い)。エログロあり、ユーモアあり、悲劇調ありと実に多彩、それでいて詰め込み感はなく意外と読みやすいですし、文章が洗練されているのでエログロが過激でも後味は悪くありません。もっとも特定ジャンルにしばられないことは一方でとらえどころのない作品という印象も残しており、私のように本格派推理小説ばかり選ぶようにしている偏愛型読者だと「読者への挑戦状」的メッセージがあって主人公による推理場面があっても(謎解き以外の要素が非常に多いため)謎解きをたっぷり堪能できたという読後感がありませんでした。


No.297 6点 双月城の惨劇
加賀美雅之
(2012/03/02 20:48登録)
(ネタバレなしです) 急死が惜しまれる加賀美雅之(1959-2013)が2002年に発表したデビュー作で、細部までよく考えられた本格派推理小説です。探偵役の名前がシャルル・ベルトラン予審判事ということからも予測しやすいでしょうが、あのジョン・ディクスン・カーのアンリ・バンコランシリーズを強く意識した作品です。もっともヴァン・ダインの二十則をいくつか破っているので、読者に対してフェアプレーかというと微妙な気もします(二十則が絶対的なものではないとはいえ)。しかしながら大小さまざまなトリックと縦横無尽に張り巡らされた手掛かりに基づく推理は圧巻です。物語性とか登場人物描写とかはほとんど無視されていますので、本格派嫌いの読者には絶対受けない作品でしょうけど、ここまで謎解きに徹していると個人的には天晴れと褒めてあげたいです。


No.296 5点 裏返しの男
フレッド・ヴァルガス
(2012/03/02 20:39登録)
(ネテバレなしです) ヴァルガスの書くプロットは非常に個性的ですが、1999年発表のアダムスベルグシリーズ第2作もまた独特の味わいがあります。本格派推理小説としては欠点の方が目立ちます。犯人はまあこの人しかいないだろうというものだし動機に関しては完全に後付け説明で、しかもアダムスベルグだけが前もって知っていたというのでは謎解き派の読者に対してアンフェアと批判されても仕方ないでしょう。一方通行的な会話が多くて読みにくい部分も多いです。とはいえ不思議な因縁で結成されたトリオ(後で人数は増えます)による狼(または狼人間)の追跡劇は読者を退屈させません。全編不気味な雰囲気で覆われていますが読後感は意外と爽やかです。


No.295 5点 原子炉の蟹
長井彬
(2012/02/27 16:24登録)
(ネタバレなしです) ジャーナリスト出身の長井彬(1924-2002)は定年退職後にミステリー作家になった遅咲き型で、デビュー作である本書は1981年の発表です。社会派推理小説と本格派推理小説、両方の要素を持っていますが謎の魅力よりも原発開発にからむ社会事情描写の方が目立つプロットであることから個人的には社会派に分類される作品だと思います。(広義の意味での)密室、(拡大解釈気味ですが)見立て殺人、謎めいたメッセージなど本格派好きにアピールするネタも揃ってはいますが扱い方はかなり地味だし、探偵役の曾我の推理で全ての謎が解明されるわけではなく犯人の自白で解明される謎があるのも謎解き好き読者の評価は分かれそうです。前半はややドライに過ぎる物語ですが、事件関係者の諸事情が明らかになる後半は感情に訴える場面も増えます。


No.294 5点 死者を起こせ
フレッド・ヴァルガス
(2012/02/16 18:40登録)
(ネタバレなしです) 1995年に発表されたミステリー第4作の本書では探偵役として3人の歴史学者(マルク、マティアス、リュカ)と元刑事でマルクのおじであるアルマンの4人が事件を調べます。本格派推理小説ではあるのですが直球勝負のポール・アルテと比べるとヴァルガスはプロットがかなりひねってある印象を受けます。この「ひねり」とは容疑が転々とするとか大胆などんでん返しとかのことではありません。サスペンス小説調になったりユーモア小説調(それもかなりひねくれた)になったり、挙句には謎解きを放棄しているように感じられたりと本格派推理小説のプロットから何度も脇道にそれています。結末はそれなりに意外性があると思うし謎解き伏線も張ってはあるのですが、この「ひねり」にどこまで読者が付いていけるかで評価が分かれそうです。


No.293 6点 虹列車の悲劇
阿井渉介
(2012/02/03 21:34登録)
(ネタバレなしです)1992年発表の列車シリーズ第9作ですが、シリーズの中で異彩を放つ作品となりました。短時間で白骨化した死体に妖しげな虹の出現と魅力的な謎もありますが、本書で最も力を入れたのが人間ドラマの部分でしょう。これがなかなかよくできています。確かに登場人物の行動には身勝手なところが多いのですが共感できる部分もあって奥行きのあるストーリーになっています。


No.292 6点 絃の聖域
栗本薫
(2012/01/26 20:17登録)
(ネタバレなしです) 1980年発表の伊集院大介シリーズ第1作の本格派推理小説です。このシリーズはミステリーに対する作者の関心が下がった時期もあって作品レベルのばらつきが大きいのですが、本書はかなりの力作だと思います。1970年代にリバイバルブームを巻き起こした横溝正史の影響を感じさせる作品で、和風を意識した舞台が印象的です。登場人物が意外と多く関係も複雑で、中盤までは地味でゆったりとした展開ですが終盤は劇的で、特に最終章では内田康夫の「天河伝説殺人事件」(1988年)の幕切れに匹敵するような深遠な世界が描かれています。ただ謎解きは事件の真相が横溝正史の某作品を連想させるもので、好き嫌いは分かれるかもしれません。男同士のキスシーンを入れているのもさらに好き嫌いが分かれそうです。


No.291 10点 Yの悲劇
エラリイ・クイーン
(2012/01/26 17:49登録)
(ネタバレなしです) 1932年発表のドルリー・レーン4部作の第2作で「Xの悲劇」(1932年)と常に最高傑作の座を争っている本格派推理小説です。純粋な謎解き作品としてなら「Xの悲劇」がお勧めでしょう。一方本書も謎解きレベルでは遜色ない上に、事件の悲劇性の演出が見事です。とはいえこの結末をどう評価するかで意見が分かれそうです。「Xの悲劇」は最も万人受けして平均的に高得点を稼ぐ傑作、本書は気に入らない読者もいるかもしれませんが最高評価を多く集める傑作と言えるのでは。


No.290 5点 小麦で殺人
エマ・レイサン
(2012/01/17 19:04登録)
(ネタバレなしです) 1967年発表のジョン・サッチャーシリーズ第6作で、CWA(米国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得したことから代表作のように紹介されていますが、個人的には微妙な作品でした。一応は本格派推理小説としての謎解きもありますが、政治色が濃厚なのは評価が分かれそうです。米ソ間の「雪どけ」時代に発表されたからでしょうか、ソ連人が登場していますが結構気配りしたような描写になっていますね(笑)。


No.289 7点 硝子のハンマー
貴志祐介
(2012/01/17 18:52登録)
(ネタバレなしです) 新本格派の作家たちがホラー作品に手を染めているぐらいだからホラー作家の貴志祐介(1959年生まれ)が本格派推理小説に手を伸ばしても驚くことではないのかもしれませんが、2004年発表の本書ではあっぱれなまでにホラー要素が排されており、特に前半の謎解きは密室の謎を巡って次から次へとトリックが検討されて圧巻です。これだけトリック仮説が飛び交うのはクレイトン・ロースンの名作「帽子から飛び出した死」(1938年)ぐらいしか私は思いつきません。真相トリックもなかなかユニークで面白いです。評価が分かれそうなのは後半がある登場人物の半生記みたいなプロットに様変わりすることで、これはガボリオの「ルコック探偵」(1869年)やドイルの「緋色の研究」(1887年)に前例がある手法ですが、個人的には謎解きの面白さにブレーキをかけられたような気がします。


No.288 4点 グレイシー・アレン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2012/01/13 18:47登録)
(ネタバレなしです) 前作の「誘拐殺人事件」(1936年)がセールス的に失敗し、出版社からの要求を丸呑み(?)して実在の喜劇女優グレイシー・アレン(1902-1964)とその夫のジョージ・バーンズまでも作品に登場させた1938年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第11作の本格派推理小説です。ユーモア・ミステリーを狙ったのであったらやはりヴァン・ダインの作風にはミスマッチだったとしか言いようがありません(映画化もされてますがこれも失敗だったそうです)。どたばた展開もぎごちなく、第16章から第17章の展開ではここで笑うべきなのかシリアスに読むべきなのか私は途方にくれました。むしろ暗く重苦しい雰囲気のカフェ描写などの方が印象に残りました。


No.287 8点 三本の緑の小壜
D・M・ディヴァイン
(2011/11/14 14:38登録)
(ネタバレなしです) 1972年に発表された本格派推理小説の傑作です。少女が全裸死体で発見されるという猟奇的犯罪を扱っていますがエログロ雰囲気は全くなく、(性犯罪の可能性は検討されますけど)誰にでも勧められる作品として仕上がっています。コリン・デクスターの傑作「ウッドストック行最終バス」(1975年)に影響を与えたのではと思わせる印象的な出だしから、悲劇的な事件を扱いながら(やや強引だけど)救いを暗示する幕切れに至るまでよく考えられたプロットです。謎解きの巧妙さも読者の期待を裏切りません。


No.286 7点 大いなる救い
エリザベス・ジョージ
(2011/11/07 19:59登録)
(ネタバレなしです) 生っ粋の米国人ながら英国を舞台にした推理小説を書き、英米両方で高い評価を受けているエリザベス・ジョージ(1949年生まれ)による1988年発表のデビュー作で凄みを感じさせる傑作です。本格派推理小説ですが誰が犯人とかどうやって殺したかとかの王道的な謎解き要素はあまり重視されていないプロットですが、読むのが辛くなるような真相の衝撃が読者を打ちのめします。丹念な人物描写はP・D・ジェイムズに匹敵しますが、こちらは感情をむき出しにする場面も多くて物語にメリハリがついており、重厚さと読みやすさが両立しています。なお本書は新潮文庫版では「そしてボビーは死んだ」というタイトルで発行されていますのでダブって入手しないようご注意を。

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