殺人シナリオ |
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作家 | ハリー・カーニッツ |
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出版日 | 1958年01月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | |
(2020/05/25 20:52登録) (ネタバレなし) 百万長者の女スザンと結婚した悪党ウィラード・モーレーは、相棒ロニー・シャイアズと組んで、妻を辻強盗事件に見せかけて謀殺。直後に妻殺しの罪状をシャイアズひとりに被せて口封じし、まんまと亡き妻の巨額の財産を手に入れた。多くの者がモーレーに疑惑の目を向けたが証拠は上がらない。やがて歳月が過ぎ、アメリカの「コンティネンタル映画」会社は、英国の新進女流作家シェリ・グレーの原作小説にもとづく新作スリラー大作映画『黒い天鵞絨(ビロード)』を製作中だった。ところが完成直前にこの原作小説そして映画の内容が、実際に起きたスザン殺害事件をモデルにしたもので、しかも犯人を噂のとおりに夫モーレーに相応する人物と断定していたことが判明する。疑惑を受けながらも有罪になった訳でもないモーレーとその代理人の弁護士たちがこの映画の内容を知れば、名誉毀損で莫大な慰謝料を請求してくるのは必至。コンティネンタル映画のニューヨーク支社の支配人マイケル・ズォーンは、さる目的があって訪米していたシェリに接触を図って善後策を図る。だが事態が紛糾するなかで、思わぬ殺人事件が。 1960年代半ばの「ミステリマガジン」では、毎月のレギュラー企画「私の選ぶベストミステリ5本」とかなんとかいう常設コーナーがあり、ミステリ作家や翻訳家、ファンや関係者たちがそれぞれそれっぽい毎回のテーマで翻訳ミステリのマイベスト5を語っていたものだった(新聞記者出身の三好徹なら、新聞記者ものの作品のベスト5とか)。 そんな中でこの作品を、小林信彦が「私の選ぶ映画界関連のミステリベスト5」とかなんとかそんな感じのテーマ枠のひとつに挙げていたのを思い出す(他はモイーズの『流れる星』とかデビッド・ドッジの『黒い羊の毛をきれ』とか)。そこでの紹介っぷりがエラく面白そうだったので「へえ……」と思いながら、実際に本を入手するのはしばらく後になった。ついでに言うと、本(古書)を購入してから実際に昨日~今朝読み終わるまでにさらに数年かかったのは、いつものパターン(私の場合、これでも早い方かも知れない)。 でもって実作に触れてみると、確かにnukkamさんのおっしゃるようにフクザツめな筋立てなんだけれど、まあ理解できないことはない。 物語の幹となる『黒い天鵞絨(ビロード)』のシナリオの内容は直接描写はされないけれど、ストーリーのプロローグで起きた事件がべースということは繰り返し語られるし。 なんかアメリカ作品というよりは英国のドライユーモアに似た味わいのミステリである。 主人公はコンティネンタル映画のNY支配人のマイケル(35歳で独身。28歳の美人作家シェリとラブコメ関係になる)だが、そのマイケルが辣腕家の社長ルイス・ストラッドリングから、事態を沈静化するようプレッシャーをかけられ、本当にモーレーが妻を殺してるなら名誉毀損が成立しない、と考えるあたりでニヤリ。これはかなり人を食った動機でアマチュア探偵が行動に出る倒叙ミステリか? と思いきや、さらに物語はひねりを見せて堂々たる? フーダニットのパズラーになる。 (主要キャラたちの群像劇っぽいドラマが前半で進行し、途中でメインキャラのひとりが殺されて後半は謎解き……と書いていくと、我が国の清張の一部の作品みたいだ。) でもってミステリとしての最後の真相は意外……であったが、後出しの情報が多めで、さらにこの人物が本当に真犯人だったとするなら、それまでの物語の道筋で辻褄の合わないこともあるような気がするが……。まあ、その辺は興味を持った方が読んで判断してください。 ちなみに小説部分の賞味としては、映画界をネタにしたくすぐりというかシビアなジョークはさすがで、特に社長ルイス・ストラッドリングの語る 「シナリオライターを使うなら、ギャランティのランクの高い大家の方が結局は安上がりなのだ。まだランクの低い新人作家は作品をよくしたいとかほざいて自己滅私の安い稿料で何度も書き直し、結局は映画の制作の足を引っ張る。その点、すでに家やら高級車やら買い込んだ大家どもは、その支払いに追われて、監督やプロデューサーとケンカしたりしようとしないから手がかからない(大意)」などという皮肉(ウィット)は爆笑させられる。小林信彦がオモシロイと思ったのは、たぶんこんなところであろう。 ちなみにこの作品は1955年のアメリカ作品で、主人公マイケルは共産主義者を国内から排斥したいと主張。 みんな知ってると思うけれど、カーニッツは映画『影なき男』シリーズの第四作めからシナリオを(第二作まで脚本を担当したハメットの後任として)オリジナルシナリオで執筆。あんまり当時の事情を二分化、単純化してもいけないんだろうけれど、ハメットが赤狩りマッカーシズムに抵抗して投獄されているのと前後して、主人公にこういう台詞を言わせていたカーニッツはそのハメットが創造した人気シリーズの後釜に座ったわけだった? この辺はいつか、もっと詳しく、調べてみよう。 |
No.1 | 4点 | nukkam | |
(2014/02/16 11:51登録) (ネタバレなしです) シナリオライターとしての方が有名な米国のハリー・カーニッツ(1907-1968)のミステリー小説はわずか4作、先に発表された3作はマルコ・ペイジ名義ですが1955年発表で最後の作品となった本書はカーニッツ名義です。英語原題が「Invasion of Privacy」、つまり直訳すると「プライヴァシーの侵害」ですがこのプロットが予想以上に難解でした。映画脚本を巡る訴訟問題に発展しそうな状況で物語が始まるのですが、そもそもどんな脚本なのかどこが問題なのかがはっきり説明されずに物語が進行します。色々な関係者の利害関係も曖昧で、誰と誰が協力関係で誰と誰が敵対関係なのかももやもやしています。最後は犯人当て本格派推理小説として着地していますが、作中で推理だ論理だと言っている割には犯人を特定した理由が説明不足なのも残念です。 |