nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.705 | 5点 | 寝室には窓がある A・A・フェア |
(2015/08/08 12:10登録) (ネタバレなしです) 1949年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第12作です。物語の開始時点で既にラムが探偵活動の最中という、起承転結を意図的に崩した導入となっているため何が何だかよくわからないまま読む羽目になりました。真相も非常に入り組んでおり、軽妙な文体に騙されて(?)気軽に読もうとすると私のように混乱が収まりませんので、ある程度の集中力をもって読んだ方がいいと思います。 |
No.704 | 4点 | ブラジル蝶の謎 有栖川有栖 |
(2015/07/26 21:32登録) (ネタバレなしです) 1996年発表の火村英生シリーズ第2短編集です。 講談社文庫版で「国名シリーズ第3弾」と宣伝されていますが表題作以外の5作はタイトルに国名を使っておらず、国名シリーズを名乗るなら全作品を国名を使ったタイトルにするぐらいでないと駄目ではないかと「ロシア紅茶の謎」(1994年)と同じ不満を抱きました。収容された作品は1995年から1996年の発表ですが唯一例外が「人喰いの滝」で、これは第一長編「46番目の密室」(1992年)に次いで書かれたシリーズ最初の短編だそうです。ページが1番多く現場見取り図が2枚も用意された力作です。ワトソン役の有栖が意外と活躍しているのが異色です。とはいえ他の作品はやや軽量級の謎解きで、まあ短編だからそれもありではありますがmakomakoさんがご指摘の通り一発ネタに頼っているのでそれが説得力に欠けたりすると後には何も残らない結果となります。「鍵」などは悪しき典型となってしまいました。 |
No.703 | 5点 | 上を見るな 島田一男 |
(2015/07/26 21:20登録) (ネタバレなしです) 島田一男のシリーズ作品で主人公の個人名が付いているのは意外と少なく、その中では8長編と13短編で活躍する南郷弁護士シリーズが有名です(弁護士作品といっても法廷ミステリーではありません)。このシリーズは半分が本格派推理小説、半分が軽めのハードボイルド小説という評価のようですが、1955年発表のシリーズ第1作である本書は前者に分類されています。戦中戦後の混乱による二人妻、二人夫の悲劇の話など時代を感じさせる描写がそこここにありますが、文章は都会風に洗練されていてそれほど古めかしくはなくてまずまず読み易いです。結構アイデア豊富ではありますが、緻密で重厚な「古墳殺人事件」(1948年)や「錦絵殺人事件」(1949年)と比べると推理やトリックの粗さが目立ってしまうのは読み易さと引き換えの弱点と言えるかもしれません。物語の締めくくりが異様なまでの迫力に満ちていたのには驚かされました。 |
No.702 | 10点 | 血ぬられた愛情 エリザベス・ジョージ |
(2015/07/26 21:08登録) (ネタバレなしです) 作者自身もお気に入りと評価している1989年発表のトーマス・リンリー警部シリーズ第2作の本格派推理小説です。謎解きもしっかりしていますが、そこにレギュラーキャラクター同士によるサイドストーリーが劇的かつ密接に絡み合い、圧倒的ともいえる物語の流れを形成しています。重厚な作品ながら衝撃的な事情聴取から息を呑むような犯人追跡劇に至るまでページをめくる手が止まりませんでした。私にとっても一番お気に入りのエリザベス・ジョージ作品です。 |
No.701 | 6点 | 夢の棘 ピーター・ロビンスン |
(2015/07/26 21:01登録) (ネタバレなしです) 1989年発表のアラン・バンクスシリーズ第4作の本格派推理小説で、前作の「必然の結末」(1989年)に続いて本書でも捜査する側(バンクス)と捜査される側(事件関係者の一人)の両方の視点から交互に事件を描くプロットになっています。被害者の身元を特定するための捜査が長く続き、なかなか犯人探しに移行しません。極めてスローな展開で全体的にちょっと地味過ぎるように感じましたが、結末は結構「おおっ、そう締めくくるか!」でした。 |
No.700 | 4点 | ダルジールの死 レジナルド・ヒル |
(2015/07/26 20:47登録) (ネタバレなしです) 衝撃的なタイトルの2007年発表のダルジールシリーズ第20作です。本当にダルジールは死んだのか?、という疑問はここでネタバレしては興ざめになると思うので答えは書きません。これまでにも名探偵の死については色々な作家が取り組み、「本当に死んだ」「助かった」「死んだふりをしていた」「別人の死が名探偵の死と誤解された」など色々な工夫を見せていますが本書に関しては感心できませんでした。プロットはテロ組織との捜査を中心とした警察小説のそれで、本格派推理小説の謎解き要素が皆無です。ダルジールを取り巻くシリーズキャラクターがどういう反応を見せるのかという点では楽しめるところもありますが、それはシリーズファン読者に限られた楽しみでしょうし...。 |
No.699 | 7点 | 列車に御用心 エドマンド・クリスピン |
(2015/07/26 03:10登録) (ネタバレなしです) ジャーヴァス・フェン教授が活躍する14作品と非シリーズの2作品を収めて1953年に発表された第一短編集です。 作者による「はじめに」で、「短編小説の魅力は作品が醸しだす雰囲気を堪能すること、もしくは未知なる物語との刹那の出会いにある」と述べ、この短編集に収められた16作品の内15作品が後者であると紹介しています。専門知識を求める「金の純度」などは少々つらいですが、全般的には気の利いた謎解き手掛かりによる推理の本格派推理小説として楽しめます。個人的なお気に入りは「ペンキ缶」「喪には黒」「窓の名前」ですが、唯一の「作品が醸しだす雰囲気を堪能する」作品である「デッドロック」も現場見取り図付きの謎解きに加えて青春小説としても楽しめる逸品です。kanamoriさんの推奨と全く同じになって感想として芸がありませんが、いい作品はやっぱりいいのです。 |
No.698 | 10点 | ナイン・テイラーズ ドロシー・L・セイヤーズ |
(2015/07/26 02:46登録) (ネタバレなしです) 黄金時代と呼ばれる1930年代のミステリーの中でも最高傑作クラスと絶賛されることもある、1934年発表のピーター・ウィムジー卿シリーズ第9作の本格派推理小説です。謎解き小説として良く出来ているかと言われたらむしろ欠点も多い作品だと思います。偶然の要素が重なっているのはやはりマイナスポイントだし、真相もある意味で腰砕けです。しかしそれが全く不満に感じられません。それがセイヤーズ作品がしばしば評されるところの、「ミステリーと文学の融合」によるものなのかは凡人読者に過ぎない私には何とも判断できませんが、序盤の鐘突きシーンと余りにも劇的な結末は比類なき迫力に満ち溢れており、その筆力に圧倒されます。中間部は対照的に何とものんびりした展開で、ここはじれったく感じるかもしれませんが多少の不満は最後で吹っ飛びます。私が読んだのは創元推理文庫版ですが鐘の音の描写のパンチ力が凄まじく、名訳だと思います。 |
No.697 | 5点 | フローリストは探偵中 ジャニス・ハリソン |
(2015/07/26 02:23登録) (ネタバレなしです) 米国の女性作家ジャニス・ハリソンが1999年発表のガーデニング・ミステリー(米国本国でもこう呼ばれています)第1作です。英語原題は「Roots of Murder」で、集英社文庫版の邦題は脳天気なユーモアミステリーみたいでちょっとひどいなと思います。読みやすいコージー派の本格派推理小説ではあるのですが決してふさけた内容ではありません。生花業や葬儀業やアーミッシュやダイエットのことなど、知る人ぞ知る世界が盛り沢山に描かれていますが、それでいて予備知識がなくても理解しやすいストーリーづくりなのはありがたいです。謎解きとしては主人公のブレッタ・ソロモンの推理が根拠薄弱で、犯人の自白に助けられている部分が多いのは弱点ですが、サスペンスも効いておりそれなりに楽しめた作品でした。 |
No.696 | 8点 | ニコラス・クインの静かな世界 コリン・デクスター |
(2015/07/26 02:06登録) (ネタバレなしです) 1977年に発表されたモース主任警部シリーズ第3作で、プロローグとエピローグの間に32章をはさんだ構成となっています。第24章でモースは犯人は〇〇だと思い込んで逮捕し、容疑者取り調べの中で自分の推理を基に事件を再構成しますが反対証拠のために釈放を余儀なくされ、その後も推理が二転三転していきます。容疑が転々としていく本格派推理小説は珍しくありませんが、本書が優れているのはボツになった推理もそれなりによく考え抜かれていることで、特に最後から2番目にモースが示した解決は非常に強力に構築されています。最後の(そして本当の)解決が直前の解決を否定するだけの説得力が足りないようにさえ感じられたほどです。 |
No.695 | 4点 | 編集室の床に落ちた顔 キャメロン・マケイブ |
(2015/07/25 23:12登録) (ネタバレなしです) キャメロン・マケイブ(1915-1995)は元々はドイツ人ですがナチスの台頭をきっかけに英国、カナダ、フランス、イタリアと国外を転々として最後はオ-ストリアで生涯を閉じたという数奇な運命を辿った人です。作家の他にも映画製作者、レーサー、ジャズ・ミュージシャン、ジャーナリスト、性科学者と色々な顔も持ち合わせているようです。英国時代の1937年に発表された本書はとてつもない問題作という世評通りの本格派推理小説です。作風は全然違うんですが私はスタンリイ・エリンの「鏡よ、鏡」(1972年)を思い出しました。これほどまでに何が本当なんだか混乱させられる作品も珍しいです。結末にも唖然とさせられますし、確かに独創的ではありますが好きか嫌いかと問われればどちらかといえば嫌い(笑)。一度は我慢するけど二度はもう勘弁と言いたいです(あっ、これってジュリアン・シモンズの評価と同じになってしまいましたね)。国書刊行会版の巻末解説(解説者は小林晋)は一読の価値ありです。 |
No.694 | 8点 | ヘラクレスの冒険 アガサ・クリスティー |
(2015/07/25 04:42登録) (ネタバレなしです) 1947年に出版されたエルキュール・ポアロシリーズの短編集で、何とポアロが探偵からの引退を決意してギリシャ神話のヘラクレスの冒険にちんだ12の事件を解決して探偵活動に幕を引こうとします。ペットの誘拐、指名手配犯の追跡、失踪人探し、怪しげな宗教団体調査、盗難品の回収など多彩な事件が扱われているのは短編ミステリーならではです。ポアロが口コミの噂という難題に挑む「レルネーのヒドラ」、怪奇色の濃い「クレタ島の雄牛」(クリスティーとしては異例の動機が扱われている)、靴の手掛かりが印象的な「ヒッポリトスの帯」、余韻の残るエンディングの「ヘスペリスたちのリンゴ」などが私のお気に入りです。ちなみにポアロは本書の最後の事件を解決した後も引退はしません。まだまだ活躍は続きますのでご安心を。引退はどうした、と作者やポアロを責めたりはしないで下さいね(笑)。 |
No.693 | 6点 | 修道女フィデルマの探求 ピーター・トレメイン |
(2015/07/25 04:24登録) (ネタバレなしです) この短編集は「From Hemlock at Vespers」というタイトルで15の短編を上下巻で2000年に出版していたのが本国オリジナルで、日本ではその中から5作品を選んで「修道女フィデルマの叡智」というタイトルで最初に出版し、次いで「修道女フィデルマの洞察」で更に5作品、そして本書の5作品でついに15作品全部が読めることになりました(だったら最初からまとめて紹介してよと言いたいところですけど)。本書でまず目を引いたのは「ウルフスタンへの挽歌」で、珍しく密室の謎解きがあることも注目ですがそれに加えて中立地帯での敵対民族同士の静かな対立という背景も非常に魅力的で、長編ネタにしてもおかしくないと思います。オカルト色濃厚な(無論解決は合理的です)「不吉なる僧院」、愛憎のもつれが印象的な「汚れた光輪」もお勧めです。 |
No.692 | 6点 | 縛り首の塔の館 加賀美雅之 |
(2015/07/25 03:55登録) (ネタバレなしです) シャルル・ベルトランシリーズの中編5作品を収めて2011年に出版された初の短編集で、どの作品も怪異と不可思議な謎に満ち溢れた本格派推理小説です。ほとんどの作品が作者の敬愛するジョン・ディクスン・カーの影響が強く、もうパロディーと言ってもいいぐらいにカー(カーター・ディクスン名義も含む)の諸作品の演出やトリックが再利用されています。コナン・ドイルやモーリス・ルブラン、横溝正史や高木彬光を連想させる場面もあり、これこそ懐古趣味以外の何物でもありません。トリックのためのトリックに終始したような作品もあり、「妖女の島」(2009年)のトリックなんかは呆れるほど好都合に成立させているのですが(失敗する確率の方が高いと思います)、カーが大好きという読者ならそれさえも許してしまいそうです。「風果つる館の殺人」(2006年)以来久しぶりのシリーズ作品で健在ぶりをアピールしたかに思えましたが、まさかわずか2年後に作者(1959-2013)が亡くなって本書が生前出版の最後となってしまったとは! |
No.691 | 5点 | スイート・ティーは花嫁の復讐 ローラ・チャイルズ |
(2015/07/21 01:43登録) (ネタバレなしです) 2013年発表のお茶と探偵シリーズ第14作のコージー派ミステリーです。「オーガニック・ティーと黒ひげの杯」(2011年)でセオドシアは犯人を追い回していましたが、本書でもまたまたティドウェル刑事の制止を聞かずに犯人を追跡しています。本書でのセオドシアは名探偵とは到底思えないのですが、作中人物たちはすご腕の素人探偵と大絶賛です(笑)。まあ終わりよければ全てよしというのがコージー派では定番ではあるのですが。 |
No.690 | 6点 | 日本大使館殺人事件簿 高柳芳夫 |
(2015/07/20 09:18登録) (ネタバレなしです) 1981年から1982年にかけて発表された草葉宗平シリーズの中編4作を収めて1983年に「プラハの花嫁」(4作の1つでもあります)というタイトルで出版されたシリーズ第二短編集です。「日本大使館殺人事件簿」への改題は賛否両論あるかと思いますが、この作者は同じ地名を使ったタイトル作品が多くて紛らわしいのでこれはこれでありかと思います。時代性と(決して観光描写でない)舞台を活かした、個性豊かな作品揃いで、官僚や政治家でも被害者になったり容疑者になったりしているのがこの作者らしいです。基本的には本格派推理小説の短編集ですがその中では「プラハの花嫁」は共産圏時代のチェコスロバキアを舞台にしておりスパイスリラー色が濃厚です。草葉の推理場面もありますが、事件の幕引きは組織的ですっきりしない読後感を残します。最も本格派らしさを感じさせるのが「ペーター・ハルチンクの碑」で、多彩な容疑者たちに地図まで添付した贅沢な造りの謎解きを楽しめますが整理がちょっと不十分に感じられます。この内容なら長編作品に仕立ててもよかったのではと思います。 |
No.689 | 4点 | さかさ髑髏は三度唄う 司凍季 |
(2015/07/12 21:46登録) (ネタバレなしです) 1993年発表の一尺屋遥シリーズ第3作の本格派推理小説です。タイトルはデビュー作の「からくり人形は五度笑う」(1991年)を連想させますが内容的には全く関係なく、どちらを先に読んでも影響ありません。複雑な人間関係を描いているのですが人物描写があまり上手くないのでそれが十分に読者に伝わらず損をしています。トリックもこれまでのシリーズ2作品と比べると小さくまとまった感があります。また語り手役と一尺屋の友情も、これで本当に友人なのかと疑問を抱く場面がしばしばでした。最後は強引にまとめていますけど。 |
No.688 | 6点 | 死体あります リア・ウェイト |
(2015/07/12 21:34登録) (ネタバレなしです) 2002年に本書でミステリーデビューした米国の女性作家リア・ウェイト(1946年生まれ)は三代続いた古美術商の家に生まれ、自らもアンティーク図版の商売を手がけています。つまりこのシリーズでアンティーク図版専門店「シャドー」を営むマギー・サマーは作者自身をモデルにしているわけです。マギーが商売の合間を縫ってにわか探偵として犯人探しをする様子が軽快な文章で描かれていてとても読みやすいコージー派の本格派推理小説です。使われているトリックが専門的知識を求めているなど謎解きとしては感心できない点もありますが、それよりも動機がとてつもなかったことにびっくりしました。 似たような動機は綾辻行人の某作品でも使われていますが、軽い筆致で書かれているだけに本書の方がむしろ衝撃度は上かも。 |
No.687 | 5点 | 彼の個人的な運命 フレッド・ヴァルガス |
(2015/07/12 07:55登録) (ネタバレなしです) 1997年発表の三聖人シリーズ第3作の本格派推理小説で、シリーズ前作の「論理は右手に」(1996年)で主役だったルイ・ケルヴェレールも再登場しています。前半の主人公はそのルイですが後半になると三聖人(マルコとリュシアン)の存在感が増していきます(マティアスは最後まで影が薄いです)。シリーズキャラクター以外では(容疑者の)クレマンの個性も強烈です。ヴァルガスは本当に風変わりな人物を創作するのがうまいですね。解決はやや唐突で、決め手に欠ける推理のような気もしますが一応は謎解き伏線が用意されています。主役級を何人も揃えるストーリーづくりは難しいのか、三聖人シリーズはこの後は書かれなくなり、アダムスベルクシリーズに創作の中心が移ります。 |
No.686 | 6点 | 猫の手 ロジャー・スカーレット |
(2015/07/12 07:49登録) (ネタバレなしです) 1931年発表のケイン警視シリーズ第3作(新樹社版では警部と訳されていますが警視が正しいようです)の本書は中盤まで事件が起きずやや退屈しますが、事件発生後は本格派推理小説としての謎解きサスペンス濃厚な展開となり十分に楽しめました。結末がやや風変わりな幕引きとなっている点は読者の好みが分かれるかもしれません。 |