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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.725 7点 五番目のコード
D・M・ディヴァイン
(2015/08/12 12:02登録)
(ネタバレなしです) 1967年発表のミステリー第6作で後にはイタリアで映画化もされた本格派推理小説です。無差別連続殺人事件を扱ったアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」(1935年)を下敷きにしながらも色々な工夫を織り込み、単なる二番煎じには終わらせていません。騙しのテクニックに走り過ぎた感もありますがよくできた本格派推理小説だと思います。登場人物描写も相変わらず素晴らしく、特に主人公役のジェレミーの情けなさとその成長ぶりが絶妙です(変な誉め方だ)。


No.724 5点 リモート・コントロール
ハリー・カーマイケル
(2015/08/12 10:11登録)
(ネタバレなしです) 1970年発表のジョン・バイパー&クインシリーズの本格派推理小説です。クインが事件に巻き込まれ、警察から重要容疑者扱いされます。読者(とジョン・バイパー)から見ればクインが犯人でないのは明らかですが、微妙な状況証拠が捜査をややこしくします。単純な事件のようですが結構手の込んだ仕掛けが用意されています。ただこの種の真相はアンフェアと感じる読者もいると思います。アンフェア感を減らすためにももっと推理説明を丁寧にしていればよかったと思います。


No.723 4点 QED ~ventus~ 熊野の残照
高田崇史
(2015/08/11 17:52登録)
(ネタバレなしです) 2005年発表の桑原崇シリーズ第10作で、シリーズ第8作の「QED ~ventus~ 鎌倉の闇」(2004年)と同じくventus(ラテン語で「風」のこと)をタイトルに使っていますが作品同士の関連性はなく、読む順番もどちらが先でも差し支えありません。現代の謎については語り手の昔の秘密が時々ほのめかされている程度で、シリーズ作品の中でも最も薄味な謎解きにしか感じませんでした(推理も論理的ではありません)。歴史の謎はさすがにこの作者ならではの凝りようですが、今回の熊野の神話というテーマが過去作品の坂本龍馬や源頼朝、或いは竹取物語などと比べると(個人的に)馴染みのない題材のため、読み進めるのがいつにも増して苦痛でした。


No.722 5点 シャダーズ
アンソニー・アボット
(2015/08/11 16:18登録)
(ネタバレなしです) 1943年発表のサッチャー・コルトシリーズ第8作でシリーズ最終作の本格派推理小説です。名探偵と怪人物の対決という図式は発表当時さえ古臭さを感じさせたのではないでしょうか。典型的なハウダニットミステリーかと思って読みましたが、殺害トリック以外にも意外な真実が用意されていました。もっともそれを支える仕掛けはあまりにも無茶苦茶です。殺害トリックの方も無茶苦茶です。説得力はまるでない破天荒な謎解きですが、サスペンスは豊かで読みやすいです。登場人物がやたら多く、複雑なプロットの最近のミステリーに疲れた場合には清涼剤代わりに本書みたいな作品を読むのもいいかも。


No.721 6点 永久の別れのために
エドマンド・クリスピン
(2015/08/11 15:49登録)
(ネタバレなしです) 英国のエドマンド・クリスピン(1921-1978)は1944年のデビュー以来、ほぼ年1作の安定したペースで作品を発表してきましたが長編第8作にあたる本書を1951年に発表後、長期間沈黙します。次作が発表されたのは何と1977年です。作家業以外の仕事が多忙になったためとも言われますが本格派推理小説ファンとしては実に残念なことです。さて本書は特別に不可能性を強調しているわけではありませんが凶器のアリバイが成立するという変わった謎が扱われ、意外なトリックが使われているのが印象的です。


No.720 6点 ウエディング・プランナーは眠れない
ローラ・ダラム
(2015/08/11 14:53登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ローラ・ダラムは自身がウエディング・プランナーで、3年連続で「ワシントンでNo.1のウエディング・コンサルタント」に選ばれているキャリアを持っています。2005年に書かれたミステリー第1作の本書はコージー派の本格派推理小説で、証拠としての決定力ではやや弱いながらも謎解きの伏線をしっかり張ってあります。なお本筋とは関係ありませんが結婚式の手配の大変さの描写ではドナ・アンドリュースの「庭に孔雀、裏には死体」(1997年)の方がはるかに凄かったですが、まあこちらのアナベルはその道のプロなのでこの程度ですんだということで納得しました(笑)。


No.719 6点 聖なる森
ルース・レンデル
(2015/08/11 14:32登録)
(ネタバレなしです) 登場人物がやたら多いミステリーというとマイケル・イネスの「ハムレット復讐せよ」(1937年)やヒラリー・ウォーの「冷えきった週末」(1965年)あたりを思い出しますが、1997年発表のウェクスフォードシリーズ第17作の本書も負けていません。ハヤカワポケットブック版を開くと3ページにわたる登場人物リスト(実に47人)が目に飛び込んできて、私は思わずページを閉じました(笑)。しかしその割には意外とさくさく読めました。誘拐犯グループ対警察組織という、警察小説に近いミステリーですが最後にウェクスフォードによる謎解き説明があるなど本格派推理小説の要素も残しています。謎解き伏線もそれなりに張ってあります。


No.718 6点 萩・殺人迷路
長井彬
(2015/08/11 14:00登録)
(ネタバレなしです) 1987年発表の長編第10作の本格派推理小説です。なかなか複雑なプロットで、動機、機会、手段の内、主に機会から犯人を推理していくのですがこの人しか犯人はいないのではという状況になってもなお謎が多く残っており、読者はどこか釈然としないまま最終章を迎えることになります。真相を追いかける探偵コンビの結束力が時々微妙なほころびを見せているのもプロットにメリハリを付けている点で巧妙です。もやもや感と緻密な謎解きを上手く両立させていると思います。


No.717 5点 綺羅の柩
篠田真由美
(2015/08/11 13:20登録)
(ネタバレなしです) 2002年発表の桜井京介シリーズ第9作です。メインの謎解きが失踪事件というのは本格派推理小説のネタとしては弱みになりやすいのですが、本書は謎解きよりも人間ドラマに力を入れているようなところがあるのでそれほど問題にはならず退屈はしませんでした。ただ一方で霊能者(?)や密室といった古典的な本格派推理小説でよく使われた材料を用意しながらもそれらを十全に扱えていないような印象も受けました。


No.716 4点 黄金の鍵
高木彬光
(2015/08/11 12:05登録)
(ネタバレなしです) 1960年代の創作が社会派推理小説、法廷ミステリー中心だった高木彬光が「時には昔の探偵小説、ロマンの世界も恋しくなる」と久しぶりに本格派推理小説を意識して書いた作品が1970年発表の本書です。探偵役の墨野隴人はもちろんバロネス・オルツィの「隅の老人」から派生した名前であり、全部で長編5作のシリーズとなりました(墨野の正体は後年の作品で明らかになっていきます)。さて本書は本格派推理小説ではあるのですが、歴史の謎解きと現代犯罪の謎解きを扱っています。どちらかといえば前者(小栗上野介の埋蔵金伝説)の謎解きの方に力を入れているように思えますが、この作者の文体だとあまりロマンの香りは感じられません。また現代犯罪の謎解きでは個人的には感心できないトリックが使われています。本格派推理小説の復権を目指したいという作者の姿勢は高く評価できますが、出来栄えはプロットを無用に複雑にしただけの作品という印象を受けました。


No.715 6点 四つの兇器
ジョン・ディクスン・カー
(2015/08/11 10:36登録)
(ネタバレなしです) アンリ・バンコランシリーズの「蝋人形館の殺人」(1932年)を書いた後、カー作品のシリーズ探偵はフェル博士へと交代するのですが1937年にバンコランシリーズ第5作の本書を唐突に発表しました(これがシリーズ最終作です)。ここでのバンコランは引退した身の上でアマチュア探偵(といっても経験豊富)になっているのが特徴です。カーが得意とした不可能犯罪もオカルト要素もありませんが複雑な人間関係、アリバイ調べ、様々な小道具(本当の手掛かりか偽の手掛かりか容易にはわからない)、そしてどんでん返しの連続が圧倒的な謎解きと、本格派推理小説としての密度は非常に濃いです。ハヤカワポケットブック版が半世紀以上も前の古い翻訳なので、新訳版が待ち望まれます。⇒(後記)2019年に新訳での創元推理文庫版が登場です。万歳!


No.714 8点 死との約束
アガサ・クリスティー
(2015/08/11 08:07登録)
(ネタバレなしです) 1938年発表エルキュール・ポアロシリーズ第16作の本書は、前年の「ナイルに死す」と同じく中東を舞台にした本格派推理小説です。「ナイルに死す」に比べるとプロットが地味で損していますが、内容的には勝るとも劣らぬ傑作だと思います。殺人は中盤まで発生しませんが、ボイントン家を中心にした人間ドラマが緊張感を生み出して読み手を退屈させません。もちろん謎づくりの方も手抜きなし、今回は注射器が重要な手掛かりのようでもありレッド・ヘリング(偽の手掛かり)のようでもあり、読者を翻弄します。ちょっとした小道具を使って謎を膨らませる手腕はさすが巨匠ならではです。そして白眉なのがポアロによる、関係者を一堂に集めての事件解明の場面です。めくるめくようなどんでん返しの連続には本格派ファンならしびれること請け合いです。


No.713 5点 ピーチコブラーは嘘をつく
ジョアン・フルーク
(2015/08/09 01:00登録)
(ネタバレなしです) 2005年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第7作です。謎解き自体は独立した事件を扱っていますが、物語的には前作「シュガー・クッキーが凍えている」(2004年)の流れを受け継いでいるところがあります。ハンナだけでなく周りの人間も積極的にアマチュア探偵ぶりを発揮しており、しかも互いに「あんたも容疑者ね」なんて、ほとんどゲーム感覚のノリです。ハンナのプライヴェート面でも次作が待ち遠しくなるような演出がしてあり、シリーズファンには楽しめるでしょう。


No.712 6点 歌う砂―グラント警部最後の事件
ジョセフィン・テイ
(2015/08/09 00:45登録)
(ネタバレなしです) ジョセフィン・テイ(1896-1952)の死の年(1952年)に出版された遺作(グラント警部シリーズ第5作。脇役扱いの「フランチャイズ事件」(1948年)はカウントしていません)です。前作「時の娘」(1951年)ではけがで入院していたグラント警部、今回は病気で休養しています。P・D・ジェイムズの「黒い塔」(1975年)を先取りしたような設定ですがグラントの病気が決してお飾りではなく、苦しみから快方に向かう姿がよく描かれています。冒険ロマン小説のネタを本格派に仕上げたような内容で、謎解きとしては論理的に弱いですが魅力的な詩の謎にスコットランドの風景描写や多彩な人物描写を巧妙に絡めた文学的香りの漂うミステリーとして十分に楽しめます。それにしてもグラントと女優マータ・ハランドの仲が結局進展しないままシリーズ終了になってしまったのは心残りですね。


No.711 6点 絡新婦の理
京極夏彦
(2015/08/09 00:08登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表の百鬼夜行シリーズ第5作で、私の読んだ講談社文庫版は1350ページを超す圧倒的分量でした。とてもポケットに収まるようなサイズではなく、全4巻の分冊文庫版の方をお勧めします。講談社文庫版の巻末解説では良くも悪くも「壊れた」本格派推理小説の清涼院流水の「コズミック」(1996年)や山田正紀の「ミステリ・オペラ」(2001年)と比較して本書を「壊れていない」と評価していますが個人的には本書も結構「壊れて」いると思います。登場人物の一人が何が解らないのかが解らないと苦悩するほどに複雑なプロット、大勢の登場人物(ぜひ登場人物リストを作ることを勧めます)、宗教(何と西洋宗教)に関する膨大な知識、フェミニズム等々、ページ分量の多さも凄いが中身も濃厚です。何よりも中禅寺(京極堂)と悪人たち(自称悪魔までいます)の心理対決場面の壮大なことといったら!これは笠井潔の矢吹駆シリーズの思想対決に匹敵します。読んでて疲れてしまいましたが。


No.710 6点 シメオンの花嫁
アリソン・テイラー
(2015/08/08 13:00登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家アリソン・テイラー(1944年生まれ)が1995年に発表した本格派推理小説のデビュー作です。分量も多く、テンポが遅めの地味な物語ですがP・D・ジェイムズほどには重苦しくなくて意外と退屈はしなかったです。だけど読んでて結構イライラしましたよ。やたらと人間が対立しているんです。上司と部下が、同僚同士が、夫と妻が、警察と事件関係者が些細なことですぐに口論しています。読んでいるこちらにまでその雰囲気が伝染して、誰かに言いがかりをつけたくなってしまうような、ちょっと危険な作品です(笑)。犯人はちゃんと明らかにされますがちょっとゴシック小説風な締めくくりになっているのは読者の評価が分かれるかもしれません。


No.709 7点 ドラゴンの歯
エラリイ・クイーン
(2015/08/08 12:42登録)
(ネタバレなしです) 1939年発表のエラリー・クイーンシリーズ第14作の本書は前作の「ハートの4」(1938年)に続く作品ですが、舞台はハリウッドから懐かしのニューヨークへと戻っています。ですが内容的にはハリウッドものの延長線上にあるといってもおかしくない、波乱万丈の物語です。女の対決あり、危機一髪からの脱出劇あり、甘ったるいロマンスありと映画向きのシーンが満載です(実際に本書は映画化されています。但しストーリーは大幅改訂されたそうですが)。評論家にはどちらかといえば不評の作品ですが個人的には十分楽しめた本格派推理小説でした。完璧と思われた推理がたった一人の証人によって覆されてしまう第19章が特に印象的です。ところで本書のタイトルの意味は何なんでしょう?ギリシャ神話に「ドラゴンの歯を地面に撒いたところ、武装兵士が生まれてきた」というエピソードがあったように記憶していますが、それと関係あるのでしょうか?私にとっては未だ解けない謎です。


No.708 6点 赤い拇指紋
R・オースティン・フリーマン
(2015/08/08 12:31登録)
(ネタバレなしです) 法医学者探偵ジョン・ソーンダイク博士の生みの親オースチン・フリーマン (1862-1943)の1907年発表のデビュー作です。第11章や13章ではいかにも科学者探偵らしい活動を読むことができます。科学的といっても決して学術的になり過ぎず、一般読者にもわかりやすい説明は高く評価できます。扱われている犯罪が長編ネタとしてはちょっと苦しく、一応犯人当て本格派推理小説ではありますが犯人もトリックも大方の読者は早い段階で見当がつくでしょう(ミスリーディングらしいミスリーディングがなく、容疑者数も少ないです)。ロマンスも描かれており、全く無用だと批判した評論家もいたような記憶がありますが個人的には物語のちょっとしたアクセントとしてあってもいいとは思います。こちらも現代小説のロマンスに比べるとまどろっこしいぐらい奥手なロマンスですが(笑)。私の6点評価は書かれた時代を考慮してちょっとおまけの採点です。ところで決着の付け方に微妙にすっきりしないところがあったのですが、何と後年に本書の後日談的な作品が書かれたそうです。ぜひ翻訳紹介してほしいものです。


No.707 6点 不肖の息子
ロバート・バーナード
(2015/08/08 12:21登録)
(ネタバレなしです) 英国のロバート・バーナード(1936-2013)は本格派推理小説の書き手としてだけでなく評論家としても名高く、「欺しの天才」(1980年)はアガサ・クリスティー評論としては最高であるとの評価を得ています。日本であまり積極的に作品が紹介されていないのはシリーズ探偵に重きを置いていないのがネックになっているからだと思います。1978年発表の本書はメレディス主任警部シリーズ第1作ですが、次のシリーズ第2作は実に10年後の「芝居がかった死」(1988年)まで書かれませんでした。彼の作風はクリスティー風の伝統的な犯人当て本格派推理小説のスタイルを踏まえながらも、登場人物がグロテスクに描写され(作者自身がそうコメントしています)、結末も型通りには終わらないケースがあると言われていますが、初期作品である本書を読む限りではそれほどキワモノ的な作品とは思えません。登場人物も「ちょっと風変わりな」といった程度です。すっきりした文体とテンポのいい物語の流れがとても読みやすく、コンパクトな作品ながらちゃんとレッド・ヘリング(読者を騙す仕掛け)も用意してあります。初期作品にして入門編としてお勧めの良作です。


No.706 6点 鉄の枷
ミネット・ウォルターズ
(2015/08/08 12:15登録)
(ネタバレなしです) 1994年に発表されたミステリー第3作の本書でMWA(米国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得し、これでウォルターズはわずか3作目にして英米両国のミステリー最高峰を制覇したことになるわけです。なかなか魅力的な謎をはらんだ事件で物語の幕が上がるし、第16章や第18章での推理場面などは間違いなく本格派推理小説ならではの展開ですが、登場人物たちの人物像が物語の進行とともに変化したり新たに気づかされたりする作者の小説テクニックが印象的でした。そういう点では謎解きよりも物語性重視の作品と言えるかも知れません。雰囲気は重苦しいし物語のテンポもゆったり目ですが、それほど読みづらさを感じないのも作者の実力の高さの証しだと思います。

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