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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.745 5点 死のジョーカー
ニコラス・ブレイク
(2015/08/14 15:08登録)
(ネタバレなしです) 1963年に発表された、シリーズ探偵不在のミステリーです。前半は典型的なサスペンス小説で、事件によって人間関係や心理状態に微妙な変化が生じていく様子を丁寧に描いています。大きな事件は後半にならないと起こりませんが退屈しないプロット展開はお見事で、最後は本格派推理小説としてしっかり謎解きして締めくくられています。ハヤカワポケットブック版は裏表紙の粗筋紹介で後半の出来事まで紹介しているのが勇み足だと思いますし、翻訳も半世紀以上前の古いものなので新訳版で再版してほしいです。


No.744 6点 料理上手は殺しの名人
バージニア・リッチ
(2015/08/14 14:44登録)
(ネタバレなしです) 米国のバージニア・リッチ(1914-1985)は雑誌の料理欄担当や編集者としてのキャリア以外には執筆経験がなく、本格的に小説を書いた第1号が1982年の本書という大変遅咲きの女性作家です。短い作家期間にミセス・ポッターシリーズを3作しか書けませんでしたが、未完の第4作をあのナンシー・ピカード(リッチのファンだったそうです)が完成させ、その後このシリーズを引き継いで書き続けています。本書はコージー派の本格派推理小説で、巻末には料理レシピがおまけとして付いています。予想以上に謎解きプロットがしっかりしており、特に中盤以降でミセス・ポッターが各容疑者を犯人に想定してシナリオを書くシーンがなかなか面白いです。意外性を出すために(個人的には)あまり感心できないトリックを使っているのが惜しまれます。


No.743 6点 異端の徒弟
エリス・ピーターズ
(2015/08/14 14:32登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の修道士カドフェルシリーズ第16作です。序盤や終盤での宗教議論はキリスト教徒でない私には少々なじみにくい面がありますが(難解過ぎるほどではありませんけど)、それを差し引いても物語としては起伏豊かで面白い作品です。謎解きは手掛かりがあまりにもわかりやすくかつ整然と提示されていくのでほとんどなし崩し的に犯人がわかってしまうのがちょっと残念ですが(やりようによっては意外性を出せたと思います)、苦難を乗り越える若い男女のストーリーを書かせてはこの作者は本当に上手いと思います。カドフェルも十分に活躍していますが、ラドルファス院長の頼もしさも印象的でした。


No.742 5点 チョールフォント荘の恐怖
F・W・クロフツ
(2015/08/14 14:26登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のフレンチシリーズ第23作となる本格派推理小説で、クロフツとしては平均点的な作品だと思います。地道な捜査が描かれているところは相変わらずですが、初登場となるロロ部長刑事に対するフレンチの指導者ぶりが読めるのが本書の特徴です。もっともこれはある程度シリーズ作品を読んだ読者でないと気づきにくい特徴かもしれません。手堅すぎて盛り上がりに乏しいストーリー展開ですが、最終章だけ妙に芝居がかっているのが良くも悪くも印象的でした。


No.741 6点 死は海風に乗って
パトリシア・モイーズ
(2015/08/14 12:26登録)
(ネタバレなしです) パトリシア・モイーズ(1923-2000)は夫の引退を機に英国領ヴァージン諸島へ移住し、そこで生涯を全うしていますがその影響かミステリーでもカリブ諸国を舞台にした作品を4作発表しています。1975年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第12作となる本書はその最初の作品です。もっともメインの舞台は米国のワシントンDC北西部のジョージタウンで、タンピカ(架空の国)の描写はそれほど多くありません。また魅力的な邦題ですが、海の描写に期待すると肩透かしをくらいます(英語原題は「Black Widower」)。とはいえ作品の出来は水準以上で、政治色も少しありますが伝統的な本格派推理小説として安心して読むことができます。クライマックスシーンではジョン・ディクスン・カー好みの迷路が効果的に使われていたのに驚きました。


No.740 6点 黄金の蜘蛛
レックス・スタウト
(2015/08/14 10:36登録)
(ネタバレなしです)  1953年発表のネロ・ウルフシリーズ第16作です。日本で初めて翻訳紹介されたスタウト作品らしく、ハヤカワポケットブック版は半世紀以上前の古い翻訳で誤字脱字もいくつか見られますが、その割には意外と読みやすい作品でした。サスペンス豊かな序盤、手掛かりを求めての駆け引きにも似た容疑者調査が面白い中盤と読み応え十分です。後半のアクションシーンはハードボイルドが苦手な私はそれほど楽しめませんでしたが相手がならず者系なのでまあ許容範囲です(笑)。最後はご都合主義的な証人が登場して解決しますが、その前に犯人に結びつく手掛かりと推理をウルフがちゃんと説明していますので本格派推理小説として合格点を付けられます。


No.739 5点 老女の深情け 
ロイ・ヴィカーズ
(2015/08/14 10:06登録)
(ネタバレなしです) 1954年に出版された迷宮課シリーズ第3短編集で8作品が収められていますが、その内2作品はシリーズ外の作品です。(ハヤカワ文庫版の巻末解説で詳しく書かれていますが)屈折した動機を扱った作品が多くなっています。ただページ数の制限がある短編のせいか複雑な犯行背景がどうもすっきりしないこともしばしばで、「いつも嘲笑う男の事件」では犯人が最後に錯乱してしまいましたが犯人自身も実はよくわかっていなかったのではという気がします(笑)。個人的には「ある男とその姑」と「ヘアシャツ」(昔は「髪の毛シャツ」という珍妙な邦題で出版されたそうです。ヘアには動物の毛の意味もあるのを当時の訳者は知らなかったのでしょうか?)がお勧めです。余談ですが「老女の深情け」に登場する女性は年齢30代なのに「老女」扱いはあんまりではないでしょうか(英語原題は「A Fool and Her Money」です)。


No.738 6点 水底の骨
アーロン・エルキンズ
(2015/08/14 09:50登録)
(ネタバレなしです) 2005年発表のギデオン・オリヴァー教授シリーズ第12作です。巻末の「謝辞」を読むと法医学以外にも実に様々な情報を仕入れていることがわかりますが、それらを作品の中に上手く活用しているだけでなく、読者に専門知識を難解と感じさせない説明手腕はもはや名人芸の域に達しているといってもいいと思います。謎解きとしては誰が犯人でもおかしくないようなプロットでありながら、唯一人しか犯人でありえない伏線をきちんと張っています(そのためにはあるトリックを見破る必要がありますが)。


No.737 6点 アリシア故郷に帰る
ドロシー・シンプソン
(2015/08/14 09:37登録)
(ネタバレなしです) 英国のドロシー・シンプソン(1933-2020)はアガサ・クリスティーの伝統を継ぐ本格派推理小説の書き手と評価されて1970年代後半から1990年代後半にかけて活躍しました。1985年発表のサニット警部シリーズ第5作の本書を読むと、なるほど強い個性は感じられませんが英国の本格派らしい作品でした。事件の悲劇性描写はクリスティー作品にはほとんど見られないものですが、最後にはサニット警部の家庭団欒シーンを挿入してあまり陰鬱にならないようにしています。人によっては悲劇は最後まで悲劇らしくすべしという意見もあるでしょうが、救いのない結末でも明るさを失わないこの作風は個人的に結構好きです。もっとこの人の作品を読みたいのですが、あの森英俊編著の「世界ミステリ作家事典[本格派編]」(1988年)の250人の作家にも選ばれなかったぐらいなので今後翻訳される可能性は限りなく低いんでしょうね。ああ、英語原書を読める力のない自分が恨めしい。


No.736 4点 ハロウィーンに完璧なカボチャ
レスリー・メイヤー
(2015/08/14 09:16登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表のルーシー・ストーンシリーズ第3作です。miniさんの講評に私も賛成で、ジル・チャーチルのジェーン・ジェフリイシリーズは回を重ねるにしたがって主婦業の描写が減っていきますが、本書は生まれたばかりの赤ん坊から11歳の息子まで抱えているだけあってルーシーのお母さん奮闘記がたっぷりと楽しめます。謎解きはあまり出来映えが良くなく、ルーシーの推理は犯人の仮説を設けるのはいいのですがそれほど裏づけを取るわけでもなく、それでいてあの人が怪しいと周囲にもらしているのですから見方によっては単なる噂好きです(笑)。当然解決も棚ぼた式、謎解き伏線も動機がらみのものばかりで機会や犯行手段を証明するものは皆無に近かったです。


No.735 7点 林の中の家
仁木悦子
(2015/08/12 17:36登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表の仁木兄妹シリーズ第2長編です。「猫は知っていた」(1957年)と比べると地味な作品で、登場人物も多いです(第17章で雄太郎が作成した捜査リストには16人の容疑者が!)。しかし謎解きは大変充実しており、決定力不足気味ながらもあちこちに伏線が張ってあって推理を堪能することができました。クレイグ・ライスの某作品を髣髴させるような家族ドラマ描写も素晴らしく、謎解き一辺倒にしていないのは同時代の本格派推理小説の中で明確な個性を確立していると思います。


No.734 6点 振飛車殺人事件
山村正夫
(2015/08/12 17:20登録)
(ネタバレなしです) 女流棋士の小柳カオリ四段を探偵役にした本格派推理小説の中編を3作まとめて1977年発表の中編集です。どの作品も将棋が関連しますがそれでいて将棋に詳しくない読者(私もそう)が退屈しないようにちゃんと配慮された謎解きに仕上がっています。「振飛車殺人事件」はトリックが時代の古さを感じさせてしまい、カオリの最初の事件ということ以外には価値を見出しにくいですが残りの2作品はなかなか楽しめました。「詰将棋殺人事件」の人間消失と郵便アリバイ(珍しい)、「棒銀殺人事件」はアリバイ崩しに加えて登場人物の性格分析が特徴となっています。


No.733 5点 龍神池の殺人
篠田秀幸
(2015/08/12 16:24登録)
(ネタバレなしです) 2004年発表の弥生原公彦シリーズ第8作の本格派推理小説です。恒例の「読者への挑戦状」が2回も用意されており、最初の挑戦状で謎を解ければ名探偵級、2回目で真相にたどりつけば準名探偵級と読者を挑発します。ヴァン・ダインの「ドラゴン殺人事件」(1933年)のパロディー要素が強い作品で、ぜひヴァン・ダイン作品を先に読んでおく事を勧めます。ただせっかくヴァン・ダインを意識しているのに、「ヴァン・ダインの二十則」(1928年)を破っている謎解きがあったのはちょっと残念でした。


No.732 6点 札幌・オホーツク 逆転の殺人
深谷忠記
(2015/08/12 16:16登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表の壮&美緒シリーズ第32作で、逆転シリーズ第7作でもあります。この作者はアリバイ崩しに定評があり、それゆえ犯人当ての楽しみを犠牲にしてしまうことも多いのですが本書は最終章まで犯人の正体を隠すことに成功しています。犯人当てとしては容疑者の数が少なくて当て易いですが、丁寧に謎解き伏線を張った良作です。ですがこういう犯人当て作品が「異色作」と評価されてしまうのは作者にとって本意なんでしょうか?フーダニットでなければ本格派推理小説に非ずとまで過激な主張をする気はありませんけれど、やはり犯人当ては本格派の王道路線だと思うので個人的には今後もこういう作品をどんどん書いてほしいです。余談ですが私は犯人を当てられませんでした。


No.731 5点 奇跡島の不思議
二階堂黎人
(2015/08/12 15:48登録)
(ネタバレなしです)  1996年発表の本格派推理小説です。密室殺人もありますがその扱いはあっさりしています。犯人当てに真っ向から取り組む一方で誰が謎を解くのかという、探偵役を最後まで特定しないプロットになっています(といってもそちらに関してはかなりわかりやすいと思いますが)。舞台設定はアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)や綾辻行人の館シリーズの影響が大変濃い作品です。ただトリックよりも犯人当てにこだわった作品としてはこの真相は不満があります(ネタバレになるので理由を書けませんが)。死体の演出が派手なのはこの作者らしいですがそれでも二階堂蘭子シリーズ作品に比べると描写は控えめで、意外と読みやすいです。


No.730 6点 ムーンフラワー
ビヴァリイ・ニコルズ
(2015/08/12 15:33登録)
(ネタバレなしです) 1955年発表のホレイショ・グリーンシリーズ第2作で、グリーンが気絶するシーンが挿入されたり(探偵が殴打されるお決まりパターンではありません)、舞台が南米に移ったりとプロットは前作「消えた街燈」(1954年)以上に大胆になった感じがします。メイントリックは現代の捜査技術の前ではおそらく通用しないようにも思えますが(でも1990年代の某米国女性作家の作品でも類似トリックが使われてましたね)なかなかユニークです。「消えた街燈」と同じくハヤカワポケットブック版の半世紀以上前の翻訳が読みにくいのが残念です。


No.729 5点 五つの死の宝石
ジョン・ボール
(2015/08/12 15:11登録)
(ネタバレなしです)  1972年発表のヴァージル・ティッブスシリ-ズ第4作です。これまでのシリーズ作品でも社会からの差別待遇と向き合う人物としてティッブス自身やヌーディストの家族が登場していましたが、本書にも日本人と黒人のハーフ(ハヤカワポケットブック版では「アイノコ」という表現が使われています)の女性が登場します。ティッブスのように処世術に長けているわけでもなく、家族同士の支えあいもない境遇のためかこの女性は耐え忍ぶタイプの目立たない人物として描かれており、そこにリアリティーは感じるものの、物語全体としては何とも暗く地味になってしまいました。また事件の陰に麻薬(しかも国家絡みの犯罪さえ匂わせている)が浮かび上がるプロットは本格派推理小説好きの私にはちょっと肌が合いませんでした。最後は推理で締め括っているところは評価すべきでしょうが、ティッブスの推理は最初の登場場面こそシャーロック・ホームズ風の鮮やかさが印象的でしたが、「何も証拠はありません」と説明しているように犯人を絞り込む段階ではかなり苦しい推理になってしまいました。


No.728 9点 幽霊の2/3
ヘレン・マクロイ
(2015/08/12 14:54登録)
(ネタバレなしです) 1956年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第11作です。1940年代後半あたりから作品がサスペンス小説中心になってきたと言われるマクロイですが、本書は本格派推理小説でしかも1級品です。さりげなく、しかし印象的に描かれる登場人物間の利害関係や第13章での疑問一覧リストなどわくわくさせる謎解きに加えて、9章では作家が成功する秘訣を語らせたり10章では推理小説をこき下ろしたりとビブリオミステリーとしても面白いです。最初に本書を手に取ったときには「?」と思わせるタイトルでしたが、読んでみると実に意味深だったとことに気づかされます。


No.727 5点 フクロウは夜ふかしをする
コリン・ホルト・ソーヤー
(2015/08/12 14:42登録)
(ネタバレなしです)  1992年発表のコージー派の本格派作品です。シリーズも3作目ともなりますとアンジェラやキャレドニア以外のシリーズ脇役も個性を発揮してきて、サブストーリーの楽しさがさらに増えたような気がします。ただそのためか謎解きとしての面白さは後退したようにも思えます。登場人物は多いけれどおなじみの面々を除くと犯人候補が少なく、真相は見当がつき易いです。コージー派なんだから楽しければそれでいいじゃないかという人もいるでしょうが、私はこの作家には楽しくてかつ謎解きもしっかりしているコージー派を目指してほしいなあ。謎解きに関しては本格派黄金時代の某有名作品のトリックが再利用されているのが印象に残りました。


No.726 6点 青ひげの花嫁
カーター・ディクスン
(2015/08/12 12:20登録)
(ネタバレなしです) 1946年発表のH・M卿シリーズ第16作の本格派推理小説で、お笑いの場面もありますが全般的には暗くて不気味な雰囲気濃厚な作品になっており、これでオカルト要素を織り込んでいたら初期作品といっても通用したかもしれません。サスペンス濃厚な展開はとても読み応えがありますが、新たな犠牲者になりそうな女性の描写が精彩を欠いているのと謎解きがこの作者にしては平凡過ぎるのが惜しいです。

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