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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.765 6点 友だち殺し
ラング・ルイス
(2015/08/20 09:05登録)
(ネタバレなしです) ミステリー作家としては1940年代から50年代にかけて発表したタック警部補シリーズ5作と別名義で発表したサスペンス小説1作のみの米国の女性作家ラング・ルイス(1915-2003)による1942年発表のデビュー作である本格派推理小説です。単調になりがちなプロットですが、10章や19章でサスペンスを高める出来事を起こして引き締めています。もっともこれらの出来事はかなり肩透かし的な真相であったことに驚かされますが。メインの事件の方はアリバイ調査に毒の入手経路調査、そして動機の調査と地味ながらしっかりした謎解きです。推理は人物分析に頼っている部分が多いのですが、23章でのタックの疑問点に符合させて説得力を高めています。しかも一件落着と思わせてさらにもう一ひねりするなど芸が細かいです。


No.764 5点 有限と微小のパン
森博嗣
(2015/08/18 19:08登録)
(ネタバレなしです) 1998年発表のS&M(犀川と萌絵)シリ-ズ第10作でシリーズ最終作。作品の好き嫌いは分かれるでしょうが質の高い作品が揃った充実の本格派推理小説シリーズでした(個人的にはシリーズ前半に良作が多い印象があります)。本書はシリーズ最大の(講談社文庫版で)850ページを超す超大作です。手応えありそうな本書を先に片付けようと考える読者がいてもおかしくありませんが、少なくとも第1作の「すべてがFになる」(1996年)は本書より先に読んでおいた方がよいです。本書の第2章で萌絵が犯人はあの人ではと(動機も機会も手段もまだ見当がつかないのに)早くも疑っていますが、「すべてがFになる」を読んでいないとこの発想は理解しづらいと思います(クレイグ・ライスの「大はずれ殺人事件」(1940年)を読まずに「大あたり殺人事件」(1941年)を読むようなものです)。謎解きは賛否両論分かれそうですね。例えば消失トリックの中には悪い意味で破格的なところがあります(個人的には阿井渉介の列車シリーズを連想しました)。理系らしさが濃厚なのはシリーズ作品としてふさわしいとは思いますが、物語的には最終作的な何かを感じませんでした。


No.763 3点 人外境の殺人
早見江堂
(2015/08/18 10:41登録)
(ネタバレなしです) 矢口敦子が早見江堂名義で書いた三部作の最終作で2009年に発表された本格派推理小説です。「本格ミステリ館消失」(2007年)、「青薔薇荘殺人事件」(2008年)との因縁のある物語で、過去作品のネタバレもあるし多くの登場人物が再登場していますのでいきなり本書から読むことはお勧めできません。クリスチアナ・ブランドの短編「メリーゴーラウンド」での相手の尻尾を噛もうとぐるぐる回る二匹の狐のたとえ話のように、ニィとサンが問題ある人物設定のため、探偵役と容疑者の立場さえもが二転三転する錯綜するプロットで読者を混乱に陥れます。被害者が本当に死んだのかさえも怪しくなります。12章では推理に乏しい告発と狂気じみた自白の応酬となり、私は謎解きへの集中力が完全に切れてしまって何がなんだかよくわからないだけでなく(真相が)どうでもいいやという気分になってしまいました。


No.762 6点 ビーコン街の殺人
ロジャー・スカーレット
(2015/08/16 22:26登録)
(ネタバレなしです) ロジャー・スカーレットは男性名ながらその正体はドロシー・ブレア(1903-没年不詳)とイヴリン・ペイジ(1902-1977)の2人の米国人女性によるコンビ作家です。活躍時期は大変短く、1930年代にケイン警視を名探偵役にした本格派推理小説を5作発表したきりです。余談ですがInspectorは米国では警視、英国では警部だというのを本書の論創社版で初めて知りました。道理で海外ミステリーの肩書き表記にばらつきがあるわけです。1930年発表のデビュー作である本書ですが、人物の心理描写がそれほど上手い作者でないのでケイン警視による犯人の性格分析がなるほどと感じにくいのが弱いですが全体としては手堅くまとめられています。第一の事件の密室トリックを早い段階で明かしていますが、大したトリックでないのでなまじ終盤まで謎のままにするよりはよかったと思います。それから些細な点ですが論創社版の最終章で「非常」と「非情」を取り違えているような翻訳があったのが気になりました。翻訳といえば本書は1940年に日本で翻訳出版されたことがあるそうですが、何と原書の四分の一程度に切り刻まれた抄訳だったとか。それはもはや短編ミステリーですね(笑)。


No.761 5点 死の競歩
ピーター・ラヴゼイ
(2015/08/16 22:00登録)
(ネタバレなしです) 英国のピーター・ラヴゼイ(1936年生まれ)の1970年発表のデビュー作で、ヴィクトリア朝英国を舞台にしたクリッブ巡査部長とサッカレイ巡査のコンビシリーズ作品でもあります。本書の作中時代は1879年11月、16人が参加した6日間に渡る徒歩競技という舞台がユニークです。そつなくまとめられた本格派推理小説でありますが全般に平明過ぎるとも言え(せっかくの競技描写はもう少し競り合いを盛り上げてほしかったです)、読者によっては物足りなく感じるかもしれません(いわゆる地味な英国ミステリーの典型)。クリッブの最後のせりふには(現代では問題発言でしょうけど)思わずにやりとしました。


No.760 6点 アリアドネの糸
キャロル・クレモー
(2015/08/16 21:55登録)
(ネタバレなしです) 米国の古典文学の大学教授であるキャロル・クレモー(1935年生まれ)の1982年発表のミステリーデビュー作です。「犯人は誰か、動機は何かというパズル的要素でもって読者をひきつけるタイプの古典的ミステリを書きたい」と本格派推理小説ファンなら諸手をあげて歓迎したいコメントを寄せています。プロットとしてはD・M・ディヴァインの傑作「こわされた少年」(1965年)を髣髴させるところがあり、失踪や盗難といった些細に思える事件が中心の前半は盛り上がりを欠いていますが事件の凶悪性が増してくる後半はなかなか読ませます。ディヴァインと違って犯人当てとしては容易過ぎますが、展示品盗難事件の背景に珍しい動機が隠されていたのが印象的でした。


No.759 5点 ブロの二重の死
クロード・アヴリーヌ
(2015/08/16 21:44登録)
(ネタバレなしです) フランスの文学者であるクロード・アヴリーヌ(1901-1992)はミステリー作家としてはフレデリック・ブロシリーズの本格派推理小説を全部で5作品残しました。但し最初からシリーズ化を意識してはいたかは疑問です。なぜなら1932年発表のシリーズ第1作である本書はブロが謎解きに挑戦するプロットではなく、ブロ自身の謎をシモン・リヴィエールが調べていくという、シリーズ作品としては極めて異色の作品だからです。後にアヴリーヌはシリーズ作品として最初に読むべきは3作目の「U路線の定期乗客」(1947年)で、本書は最後に読むべき作品と位置づけています。現場見取り図が4つも用意されていて謎解きの雰囲気はそれなりに濃厚ですが、読者が推理するだけの手掛かりが十分に用意されているとは言えず、最後は犯人の自白頼りになっています。登場人物が少なく、ページ数も(創元推理文庫版で)300ページに満たない短さなのでとても読みやすい作品です。


No.758 5点 ロマンス作家は危険
オレイニア・パパゾグロウ
(2015/08/16 21:35登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家オレイニア・パパゾグロウ(1951年生まれ)はウィリアム・L・デアンドリアの夫人で、ジェーン・ハッダム名義でもミステリーを書いています(本国ではパパゾグロウよりハッダムの方で知られているかも)。6フィート(約183センチ)の身長にコンプレックスを抱くロマンス作家ペイシェンス・マッケナシリーズを書いており、本書は1984年発表のシリーズ第1作となる本格派推理小説です。ロマンス作家の世界が描かれていますが甘かったり夢見るようなところは微塵もなく、むしろどろどろしていますね(笑)。プロットが複雑なだけでなく、終盤には会話が噛み合わなくなるような場面が増えて難解さに拍車をかけています。このまどろっこしさがサスペンスを生み出してもいるのですが、私のような短気な読者にはちょっとつらかったです。密室トリックは小手先のトリックですが謎解きはしっかり伏線が張られています。なおハヤカワポケットブック版裏表紙の粗筋紹介が第30章の内容までばらしているのは少々やり過ぎではと思います。


No.757 6点 城館の殺人
S・T・ヘイモン
(2015/08/16 21:10登録)
(ネタバレなしです)  1984年発表のベンジャミン・ジャーネットシリーズ第3作です。シリーズ前作の「聖堂の殺人」(1982年)のような宗教色や民族問題といったテーマがない分、一般に受け入れやすいプロットとなっています。人物描写も上手いです。ただあまりにも救いのない現実に打ちのめされる人がいたりと、物語としては後味のいいものではありません。謎解きに意外性を意図したと思われる部分があるのですが伏線があまりに地味なため、読者がその意外性に気づきにくいかもしれません。


No.756 6点 うかつなキューピッド
E・S・ガードナー
(2015/08/16 21:03登録)
(ネタバレなしです) (女性が)「自分を尾行している男の顔をぶったらどうなるか知りたい」という依頼で幕開けする1968年発表のペリイ・メイスンシリーズ第79作の本書はたたみかけるようなストーリーテンポが圧倒的です。次から次へとクライマックスシーンに突入するかのような勢いです。大した推理もなく解決されてしまうので謎解きとしては呆気ないのですが、退屈しない作品であることは確かです。


No.755 4点 クッキング・ママの供述書
ダイアン・デヴィッドソン
(2015/08/16 20:55登録)
(ネタバレなしです) 2002年発表のゴルディシリーズ第11作です。このシリーズにしては登場人物が少ない方ですが、だからといって読みやすい作品ではありません。自分で事態をどんどん複雑にしてしまうゴルディが相変わらずです。ゴルディは想像力(?)でああだこうだと色々と考えてはいますが、解決は完全に力づくで推理要素はほとんどありません。


No.754 4点 霧の塔の殺人
大村友貴美
(2015/08/16 00:10登録)
(ネタバレなしです) 藤田警部補シリーズ三部作の第3作ではありますが藤田警部補、ますます影が薄い!前半と後半でがらりと雰囲気が変わるプロットです。前半は連続首切り殺人の捜査が中心ですが、後半になるとそれまで小物っぽい人物が突如大暴走します。最初は場当たり的な犯罪だったのにいつの間にか警察をきりきり舞いさせるテロリストみたいになってなかなか収拾がつきません。どうにかこうにかそれが一段落してようやく首切り殺人の謎解き、一応手掛かりによる推理もありますが説明者は藤田警部補ではありません。また犯人が判って大団円というわけではなく、どうしてこんな犯罪になったかの背景が長々と解説されます。そこには地方社会ならではの様々な問題が提示されます。私も空さんの講評通り、本書はどちらかと言えば社会派推理小説かなと思います。横溝正史との共通点はほとんどありません。


No.753 4点 蛇遣い座の殺人
司凍季
(2015/08/14 18:13登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表の一尺屋遥シリーズ第2作の本格派推理小説です。なかなか大掛かりな仕掛けが用意してあるのですが、仕上げがかなり雑に思えます。謎解き伏線を結構豊富に揃えてはいるにもかかわらず飛躍し過ぎた推理に感じられました。また人物描写が弱いため、事件の背景に結構複雑な人間模様が隠れていてもこれまた唐突な真相という印象しか残りません。島田荘司の某作品を髣髴させる全体着想はなかなかのアイデアとは思いますが。


No.752 5点 戌神はなにを見たか
鮎川哲也
(2015/08/14 17:58登録)
(ネタバレなしです) 1976年発表の鬼貫警部シリーズ第14作です。得意のアリバイ崩し本格派推理小説で、犯人の正体は中盤でわかります。個人的にはアリバイ崩しより動機探しの方が面白かった作品です。また本書ではプロットの中に推理小説論のようなものが垣間見えるのも特長で、推理小説家になろうとする人は1度は本書を読んでおいても損はないと思います。


No.751 6点 瀬戸内海の惨劇
蒼井雄
(2015/08/14 17:48登録)
(ネタバレなしです) 戦前の国内本格派推理小説を代表する「船富家の惨劇」(1936年)に続く南波喜市郎シリーズ第2作(1936年発表)です。姿の見えない犯人を追いかけるという、本格派推理小説としては結構風変わりなプロットで、地味な展開と次々に起こる事件のアンバランスな組み合わせが不思議な魅力を生んでいます。丹念なアリバイ捜査描写で評価の高い「船富家の惨劇」と比べるとスリラー要素が強いのがあだとなったのか一般的評価が低いのも理解できます。しかしクロフツやフィルポッツの影響があからさまなあちらよりも本書の方が私には個性的に感じられ、これはこれで面白い作品でした。定年までサラリーマンを全うした蒼井雄(1909-1975)にとって作家業はあくまでも副業に留まったようで、本書以降は目立った活躍もなく、残念ながら国内ミステリー界をリードする存在にはなれませんでした。


No.750 6点 幻惑の死と使途
森博嗣
(2015/08/14 17:36登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表のS&Mシリーズ第6作の本格派推理小説です。奇術の世界での不可能犯罪という、とびきり派手な設定なのですがこの作者の文章はどこか抑制が効いており意外と地味です(退屈ではありません)。これまでの作品でも萌絵は密室トリックを見破ったりと、単なるワトソン役からの脱却を見せていましたが本書においてはほとんどの謎を自力で解いており、本書の主役は彼女といってもいいのではと思います。出番の少ない犀川にも彼ならではの重要な役割が与えられており、謎は全て解けたと思われた時の彼の発言によって物語の世界が一変したかのような読後感が与えられます。これが「幻想」効果なのでしょうか。


No.749 6点 妖狐伝説殺人事件
山村正夫
(2015/08/14 17:06登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の滝連太郎シリーズ第5作です。作者は「伝奇本格派は非合理性と合理性を結合させることに苦労する」とコメントしていますが、本書は両者のバランスが絶妙に保たれており、狐の仮面をかぶった怪人物が死体(らしきもの)を運ぶ場面などは下手な書き方をすると冗談めいてしまうのですが怪奇的な雰囲気を出すことに成功しています。事件の真相は全て人間的で合理的なものですが、最後は怪奇風に締めくくっているところが印象に残ります。


No.748 5点 寝室に鍵を
ロイ・ウィンザー
(2015/08/14 16:49登録)
(ネタバレなしです) 1976年発表のアイラ・コブシリーズ第3作となる本格派推理小説です。遺言書書き換えのタイミングで発生する事件、金持ちを取り巻く容疑者たち、さらには重要な役割を果たす小道具として暖炉の火かき棒と、まるでアガサ・クリスティーが得意とした古典的パターンのプロットです。ただクリスティーと決定的に違うのは探偵が容疑者と直接やり取りする場面が意外と少ないことです。そのため容疑者のキャラクターが把握しにくく、小説としては若干味気なく感じました。推理はそれなりに理詰めですが、謎解き伏線が重箱の隅をつついたようなものばかりであまり印象に残りません。最後のどんでん返しが効果的なだけにもう一工夫あればと惜しまれます。


No.747 5点 ゴルゴタの七
アントニー・バウチャー
(2015/08/14 15:48登録)
(ネタバレなしです) 米国のアントニー・バウチャー(1911-1968)はハワード・ヘイクラフトやジュリアン・シモンズと共に20世紀を代表するミステリー評論家として有名ですが、数は多くないながらミステリーやSF小説も書いています。1937年、本格派黄金時代の真っ只中に発表されたデビュー作の本書は「読者への挑戦状」付きというだけでも十分に謎解きファンの意欲をそそりますがそれに加えて「手掛かり索引」付き、しかも通常は解決後に提示されるのに本書では「読者への挑戦状」と同タイミングで提示されているのが大変珍しいです。さらに登場人物リストには謎解きのみなら記号付きの人物だけを覚えればいいと注釈するなど、まさにパズル・ストーリーを突き詰めた作品です。残念ながら小説としてはとても読みにくく、人物が性格描写にしろ行動描写にしろ生彩をほとんど感じれず、中盤の劇上演シーンも盛り上がりません。また第3章での「ゴルゴダの七」に関する薀蓄(うんちく)も宗教的内容で大変難解だったのもつらかったです。作者の意気込みは感じられますが、やはりもう少しストーリーテリングに気配ってほしかったです。


No.746 6点 東方の黄金
ロバート・ファン・ヒューリック
(2015/08/14 15:15登録)
(ネタバレなしです) ディー判事シリーズは作品発表順と作中事件の発生順がずれており、本書は1959年出版のシリーズ第3作ですが物語としてはディー判事最初の事件を扱っていて、ディー判事が副官マー・ロンやチャオ・タイと初めて出会う場面が描かれています。シリーズ初期の特長である、複数の事件が絡み合う複雑なプロットになっていて密室の毒殺トリックや(ネタバレになるので詳しく書けませんが)ちょっとした発想の転換など印象的な謎解きを多数含みます。オカルト要素の扱い方も巧妙です。なお本来のタイトルは「中国黄金殺人事件」(英語原題も「The Chinese Gold Mureders」)です。

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