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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2929件

プロフィール| 書評

No.829 5点 最期の声
ピーター・ラヴゼイ
(2015/10/12 23:03登録)
(ネタバレなしです) 2002年発表のピーター・ダイヤモンドシリーズ第7作で、被害者がダイヤモンドの愛妻ステファニーということで読者に衝撃を与える作品です。感情を抑えて地道な捜査で犯人に少しずつ迫っていくダイヤモンドの描写で読ませます。ただ私は本格派推理小説を偏愛している読者なので、登場人物リストにマフィア、詐欺師、テロリスト、情報屋、恐喝屋、チンピラといった本格派推理小説とは相性のよくない人物がずらりと並んでいたのであまり期待しないで読んでしまいました。ちょっとした伏線はあるものの推理の要素は少なく、個人的には本格派推理小説とは言い難いと思います。


No.828 6点 Y列車の悲劇
阿井渉介
(2015/10/12 22:44登録)
(ネタバレなしです) 1991年発表の列車シリーズ第6作です。寝台特急の乗客が全員消えて後には1人の死体が残されていたという謎を扱っています。走行中の列車から車両が消失する前作の「列車消失」(1990年)、駅や列車が丸ごと消えた次回作の「赤い列車の悲劇」(1991年)と比べると謎のスケール感では劣りますが、謎また謎のオンパレ-ドで読者を圧倒して退屈する余地など与えません。犯人の正体を最後まで隠すことに成功し、謎解き小説としてのまとまりでは前後作よりも上回っていると思います。


No.827 8点 はなれわざ
クリスチアナ・ブランド
(2015/10/11 22:57登録)
(ネタバレなしです) 1955年発表の本書はコックリル警部の登場する長編としてはシリーズ第6作にして最終作となった作品です(シリーズ短編はその後も何作か書かれていますが)。ブランド全盛期の最後を飾る作品と言ってもいい本格派推理小説の逸品です。ブランドが得意とする、仮説が組み立てれは崩壊し、また新たな仮説が組み立てられていくという謎解きプロットは本書でも健在。果たして仮説は真相に近づいているのか、それともまんまと作者に誤った方向へミスリードされているのか、謎解き好き読者をいい意味で悩ませてくれます。それからコックリルが異国でのコミュニケーションに苦しむ場面ではブランドがユーモアのセンスも一流であることがわかります。コックリルと地元警察の出会いの場面やお店での事情聴取の場面は結構笑えました。


No.826 6点 ウインター殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2015/10/11 22:35登録)
(ネタバレなしです) ヴァン・ダイン(1888-1939)の最後の作品となったファイロ・ヴァンスシリーズ第12作の本格派推理小説です(1939年出版)。中編小説に近いぐらいの短いヴォリュームですが実はまだ完成形でなく、もっと物語を肉付けしていく予定だったのが作者の死去によって最終稿の一歩手前で終わったそうです。確かにヴォリュームの割には登場人物が多過ぎで整理しきれていない感がありますが、エンディングをきちんと迎えていて謎解き小説として一応成立しています。まだ未完成ゆえかヴァンスがそれほど無駄話していないのはむしろプラス評価かも(笑)。


No.825 6点 修道士の頭巾
エリス・ピーターズ
(2015/10/11 22:18登録)
(ネタバレなしです) 1980年の修道士カドフェルシリーズ第3作でCWA(英国推理作家協会)のシルバー・ダガー賞を獲得した作品ですが、シリーズの中で特に突出しているとは思えません(といっても受賞がシリーズの知名度を上げたことは疑いないでしょう)。カドフェルがある理由で遠隔地に赴き、それが事件解決につながるプロットは上手い展開だと評価するか好都合すぎると評価するか悩みます。謎解きとしては特に凝った仕掛けはなく、人間ドラマを楽しむのがよいかと思います。カドフェルが第三者の立場でないのが新鮮で、周囲の目を気にしながらの探偵ぶりが面白いです。修道院のヘリバート院長の進退問題と彼の地位をねらう一派の思惑もサイドストーリーとして楽しめます。


No.824 6点 鬼首村の殺人
篠田秀幸
(2015/10/11 03:11登録)
(ネタバレなしです) 2003年発表の弥生原公彦シリーズ第6作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「帝銀村の殺人」(2002年)では現実の犯罪の謎解きの方がウエイトが高かったような印象があり、作者もそれを気にしたのかはわかりませんが本書でも現実の犯罪(下村事件)と小説世界の犯罪の謎解きの二本立て構成ながら後者のほうに力を入れており個人的には歓迎です(下村事件の謎解きも自殺説他殺説をそれなりに丁寧に検証していますが犯人特定までは至らずすっきりしません)。ハルキノベルス版巻末の作者ノートで解説されているように横溝正史の「八つ墓村」(1949年)と「悪魔の手毬唄」(1959年)の影響を色濃く反映していますが、横溝作品を読んでいなくても十分に楽しめます。これまでのシリーズ作品では最もプロットがシンプルで読みやすく、「読者への挑戦状」の後の展開が短めなのも好印象です。真相を読んで私はマーサ・グライムズの某作品を連想しました。


No.823 6点 赤い館の秘密
A・A・ミルン
(2015/10/03 23:58登録)
(ネタバレなしです) 童話の「クマのプーさん」シリーズで有名な英国のアラン・アレクサンダー・ミルン(1882-1956)が1921年に書いた唯一の長編本格派推理小説(単行本化は1922年)として知られるのが本書です(ちなみに本書が書かれた時点ではまだ「クマのプーさん」は書かれていませんが)。ミルン自身が後年の自伝(1939年)の中で「多くの作家たちが多くのすぐれた探偵小説を書いている近頃では人目にもつかない作品だが、当時はそれほど競争作家がいなかったので驚くほど成功した」と振り返っています。確かにトリックは単純だし、犯人の正体も見え見えです。しかしそういった弱点を補って余りある価値があります。それはギリンガムとベヴァリーのコンビによる探偵活動です。良きかな友情、良きかな探偵、これだけ探偵活動が楽しく読める作品は今なお貴重です。ジョン・ディクスン・カーやクレイグ・ライスのように大仰な冗談やどたばた劇があるわけではないのに何とも微笑ましい雰囲気に溢れてます。こういうのを上質なユーモアというのではないでしょうか。謎づくりや謎解きの上手さでは同時代のアガサ・クリスティーに到底及びませんが、本書には本書の良さがあります。


No.822 5点 死への疾走
パトリック・クェンティン
(2015/10/03 22:48登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表のダルース夫妻シリーズ第7作で(但しアイリスは全く出番なしです)英語原題は「Run To Death」と、初めてタイトルに「Puzzle」が使われなくなった作品です。そのためかは判りませんがこれまでのシリーズ作品中でも最も本格派推理小説らしさがない、いえ本書は完全にサスペンス小説というべきではないでしょうか。最初はある女性に迫り来る危機とそれを危惧するピーターという図式だったのが物語が進むとピーター自身が危険の真っ只中にいることになり、サスペンスがじわじわと盛り上がります。終盤には鮮やかなどんでん返しがありますが、前述の通り本格派推理小説ではなく推理要素がほとんどないのでそれまでの「パズル」作品に馴染んできた読者としては複雑な思いが残りました。今にして思えばクェンティンが本格派の作家からサスペンス小説の作家へと転身していく一つの軌跡だったのですね。


No.821 6点 午後の死
シェリイ・スミス
(2015/10/01 19:25登録)
(ネタバレなしです) 英国のシェリイ・スミス(1912-1998)は1940年代から1970年代にかけて15作ほどのミステリー作品を発表した女性作家です。本書は1953年に発表されてジュリアン・シモンズが大絶賛した本格派推理小説です。インドに向かう飛行機のトラブルで砂漠に不時着した主人公が訪れた家にいた英国人老女。彼女が語るのは若き頃に起きた悲劇の物語です。事件が中盤まで起きない上にそこに至るまでに描かれているのが家庭内のちょっとしたいざこざ程度なのでサスペンスに乏しいし、後半の推理も切れ味がなくパズルとしてはあまり出来がよくありませんが、最後のひっくり返し方がなかなかお見事。本格派の某巨匠の短編に前例があったのを思い出しましたが長編では珍しいと思います。


No.820 6点 自殺じゃない!
シリル・ヘアー
(2015/09/30 20:44登録)
(ネタバレなしです) よくリーガル本格派の作家と紹介される英国のシリル・ヘアー(1900-1958)は自身も法曹界に身を置き、弁護士や判事を務めていました。作品数は長編9作に短編約30作と非常に少ないです。E・S・ガードナーのように法廷シーンを盛んに描いているわけではないのですが、謎解きに法律が絡むことが多いのがリーガル本格派と呼ばれる所以でしょう。第3作である本書(1939年出版)は、自殺では保険金がおりないのにそれでも自殺するのかという、カーの「連続殺人事件」(1941年)を彷彿させるような謎でスタートしますがその後の展開はカーとは対照的で、良く言えば手堅い、悪く言えば地味な展開です。人によっては退屈に感じるかもしれません。とはいえ結末はかなり劇的だし、法律知識がなくても大丈夫な謎解きなので(リーガルではなく普通の本格派推理小説ですが)ヘアーの入門編としてお勧めです。


No.819 6点 死体つき会社案内
サイモン・ブレット
(2015/09/30 20:38登録)
(ネタバレなしです) 1991年発表のチャールズ・パリスシリーズ第14作の本格派推理小説で、このシリーズとしては珍しく演劇界が舞台になっておらず、チャールズは会社案内ヴィデオに出演する仕事に取り組んでいます。この作者にサラリーマン世界をちゃんと描けるのかと疑問に思ってましたが、第7章で会話されている管理職としての悩みなどには結構なるほどと思わされました。チャールズの迷走する推理や24章でのある結論(個人的にはちょっと納得しがたい結論ですが)もそれなりに印象的ですけど、一番記憶に残るのは(謎解きからはややはずれますけど)22章から23章で描かれている悲劇の方でしょう。


No.818 5点 オフィーリアは死んだ
P・M・カールソン
(2015/09/28 21:06登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家P・M・カールソン(1940年生まれ)の1985年発表のミステリーデビュー作でマギー・ライアンシリーズ第1作の本格派推理小説です。このシリーズは1980年代後半から1990年代前半にかけて集中的に発表されていますが作中時代は1960年代後半から1970年代後半にまたがった設定で、本書の作中時代は1967年だそうです。作者は働く母親を探偵役にしたミステリーを描くことを目指しており、後の作品ではマギーは2人の子供の母親として活躍するのですが本書ではまだ独身です。物語の3分の2ぐらいまで事件が起きません。事件発生の遅いミステリーはいかにしてそこまで読者の集中力を維持させるかに作者の手腕が問われますが、凶事が起きそうな雰囲気もなく中盤まで間延びしてしまった印象を受けました。殺人が起きてからは十分にミステリーらしくなりますけど。あとサンケイ文庫版のタイトルは被害者が誰になるのか予想しやすくなっているので個人的には好きではありません(英語原題は「Audition for Murder」です)。すぐに事件が起きるのなら話は別ですが、本書のように誰が殺されるかなかなかわからないプロットでこのタイトルは配慮に欠けてるように思います。


No.817 5点 第4の関係
佐野洋
(2015/09/25 15:06登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表の長編ミステリー第3作です。各部の冒頭に作者から読者へのメッセージがあり、第四部では「第四部の第2章までお読みになれば、一応犯人の目星はつくでしょうし、動機についての心証も得るはずです」と「読者への挑戦状」風になっていて本書が本格派推理小説に分類されることは明らかです。しかし推理はほとんどが心理分析や動機の説明ばかりで証拠としての決定力は不十分にしか感じられませんでした。タイトルに使われている「第4の関係」の正体もインパクトが弱いです。


No.816 6点 曲がり角の死体
E・C・R・ロラック
(2015/09/25 13:58登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のマクドナルドシリーズ第18作の本格派推理小説です。事故車から発見された死体に始まった事件は殺害方法の謎、車の行き先の謎、複雑な人間関係と混迷の度合いを増していきます。解決に唐突感があり、最終章でマクドナルドは「捜査は行き当たりばったり」「早々とクライマックス来て、爆発が疑惑を一掃したと言ってもいい」と結果オーライのように述懐していますが、その後の真相説明では非常に丁寧に謎解き伏線を回収しています。


No.815 5点 Yの構図
島田荘司
(2015/09/20 16:15登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の吉敷竹史シリーズ第6作の本格派推理小説です。社会派推理小説としての要素も非常に濃く、いじめ問題についてかなり深堀しています。真相はそれなりの衝撃性を持つのですが、推理の経緯説明が十分でなく唐突感が強いのがちょっと残念。なまじシリアスな内容を突き詰めたばかりに、殺人を犯すだけの覚悟が本当に犯人にあったのか却って疑問を感じてしまいました。


No.814 7点 あなたは誰?
ヘレン・マクロイ
(2015/09/20 15:50登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のベイジル・ウィリング博士シリーズ第4作の本格派推理小説で、探偵役が精神科医という設定が非常によく活かされています。専門知識が絡む謎解きは往々にして一般的な読者にとって敷居が高くなって楽しみにくくなるのですが本書はその課題をうまくクリアしているだけでなく、独創的なプロットに仕上げることにまで成功しています。クリスチアナ・ブランドの名作「ジェゼベルの死」(1948年)では容疑者が次々に自白するというまさかの展開に驚かされましたが、本書も負けてはいません。本書では何と容疑者全員が「自分が犯人なのかそうでないのかわからなくなって悶々とする」のです。


No.813 3点 衝動買いは災いのもと
アン・ジョージ
(2015/09/13 15:36登録)
(ネタバレなしです) 米国のアン・ジョージ(1927-2001)は教職を経て作家になったのですがミステリーデビュー作の本書を発表したのが1996年と極めて遅咲きで、ミステリー作品はわずか8作だそうです。コージー派に属する作品ですが人物の魅力という点でいまひとつに感じます。語り手の妹はもと教師(週一回のボランティア教師は続けています)で一見常識人のようですが、かなり頑固で口調は辛口、場をわきまえない発言もしばしばで、奔放すぎる姉の方がまだましに思えることしばしばでした。謎解きも結局は目撃者情報で真相がわかるというもので、ミステリープロットとしての面白さも不足しています。


No.812 4点 雲なす証言
ドロシー・L・セイヤーズ
(2015/09/13 13:40登録)
(ネタバレなしです) 1926年発表のピーター・ウィムジー卿シリーズ第2作の本格派推理小説です。探偵役であるピーター卿の家族が事件に巻き込まれて容疑者になっているところが特徴で、探偵としての立場と家族としての立場の狭間で悩むピーター卿がよく描けており、語り口が硬かった感のあるデビュー作の「誰の死体?」(1923年)と比べると読み易さが大幅に改善されています。残念なのは結末で、型破りな点をほめる読者がいるかもしれませんが個人的には脱力感が残りました。


No.811 6点 探偵を捜せ!
パット・マガー
(2015/09/12 10:36登録)
(ネタバレなしです) 1947年発表の第3作で犯人が探偵を探すという異常な設定の作品です。前の2作品が安楽椅子探偵的な謎解きだったのに対して、本書は犯人と探偵の立場を入れ替えているのが珍しい、プロットの骨子は捜査と推理によるオーソドクッスなスタイルです。空さんのご講評で指摘されているように英語原題の「Catch Me If You Can」は犯人と探偵のどちらが主語でも通用する二重の意味があって巧妙なタイトルだと思います。オーソドックスなプロットのためか前の2作品と比べて評価が低いのはもっともだと思いますが本書は本書で他作家の作品と比べれば十分に個性的です。謎解きは結構粗いですが、その弱点を埋め合わせているのがサスペンス。探偵を追い詰めているはずの犯人マーゴットが心理的に追い詰められていく展開が印象的です。本格派推理小説と犯罪小説のジャンルミックス型として成功していると思います。


No.810 5点 大空に消える
パトリシア・モイーズ
(2015/09/12 10:26登録)
(ネタバレなしです) 1965年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第6作の本格派推理小説です。ヘンリの活躍は当然ながらヘンリの妻エミーの存在感もなかなか。エミーの独身時代の思い出話にやきもきしたり、彼女が容疑者になったりとヘンリの心は休まる暇がありません。さらに彼女が行方不明になって誰かに危害を加えられたのではと心配でたまりません。エミーは「沈んだ船員」(1961年)でも行方不明になってますが、その時に冷静沈着に対応したヘンリとはまるで別人です。そしてユニークなのは終盤にヘンリが容疑者を一堂に集めた場面。いよいよ名探偵による謎解き説明かと思ってると意外な展開になりました。ということでプロットは大変面白かったのですが、謎解きとしては少々問題あり。動機はわけわかんないし、トリックメーカータイプの作家でないとはいえあまりに稚拙なトリックには拍子抜けでした。

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