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ミステリの祭典

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自殺じゃない!
マレット警部

作家 シリル・ヘアー
出版日2000年03月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2024/03/28 06:14登録)
(ネタバレなし)
 スコットランドヤードの名警部J・マレットは、ロンドンから40数マイル離れた二流ホテル「ペンデルリー・オールド・ホール・ホテル」で休暇を過ごしていたが、そこで60歳前後のレナード・ディキンスンと知り合う。だがその翌日、レナードは急死。検死審問でその死は自殺と判定された。実はレナードは家族のために高額の保険をかけていたが、契約の初期満了がまだで、自殺では大金がもらえなかった。家族のために保険をかけた家長レナードが、それを無為にするような自殺をするわけがない。そう主張した息子のスティーヴンと娘のアン、そしてアンの婚約者のマーティン・ジョンソンは弁護士を通じて探偵と契約。私立探偵ジャズ・エルダスンが調査した、父の死亡時にホテルにいた宿泊客のリストをもとに独自のアマチュア探偵活動を開始した。

 1939年の英国作品。
 作者のレギュラー探偵マレット警部ものの第3作。
 シリーズのうち邦訳があるもののなかではこれが一番若いので、どうせ読むなら本書からと思い、手に取った。(これで噂に高い『法の悲劇』も読める。)

 地味といえば地味な筋立てだが、お金欲しさのために、目指す集合体(ホテルの宿泊客)のなかから、警察に突きだせる&保険会社に殺人の事実があったと立証できる真犯人をなんとか探し出そうというメインプロットが明快。
 しかも半ばオムニバス短編風に順々に語られる<宿泊客と探偵団の接触エピソード>群がメリハリを利かせて並べられ、ちっとも退屈はしない。

 とはいえ実は犯人は途中で大方、これはたぶん……と気づいて、トリック込みで、正解だった。
 まあ、一応以上のサプライズにはなっていると思うが。

 それでも、中途ではやや曖昧に書かれ、終盤で真犯人判明ののちに明らかになる人間関係の綾など、最後まで気が付かなかったものも細部ではいくつかあった。そういう意味では、やはりよく出来てると思う。

 意見を違えた兄妹が、互いに子供時代の思い出を引っ張り出して小学生みたいに悪口を言い合う敷居の低い場面とか、どこかうっすら味? の英国風ユーモアが全編の各所にみなぎり、その辺はステキ。
 かたや、世界(人間関係の裾野)が狭すぎるだろ、アマチュア探偵たちの捜査がうまくいきすぎるだろ、との思いも感じないでもなかったが、その辺に関しては読後に目を通した巻末の解説で、要は<これはソウイウものなんです>とのフォローが入れられていた。……まあ、ね。

 先に読んだ同じ作者のノンシリーズ編のパズラー『英国風の殺人』と同様に、結構面白かった。邦訳されている分はおいおい読んでいくとして、ヘアーの未訳の長編はいまからでも、翻訳紹介しておいてほしいと思う。

 評点は7点に近い、この数字ということで。

No.2 6点 nukkam
(2015/09/30 20:44登録)
(ネタバレなしです) よくリーガル本格派の作家と紹介される英国のシリル・ヘアー(1900-1958)は自身も法曹界に身を置き、弁護士や判事を務めていました。作品数は長編9作に短編約30作と非常に少ないです。E・S・ガードナーのように法廷シーンを盛んに描いているわけではないのですが、謎解きに法律が絡むことが多いのがリーガル本格派と呼ばれる所以でしょう。第3作である本書(1939年出版)は、自殺では保険金がおりないのにそれでも自殺するのかという、カーの「連続殺人事件」(1941年)を彷彿させるような謎でスタートしますがその後の展開はカーとは対照的で、良く言えば手堅い、悪く言えば地味な展開です。人によっては退屈に感じるかもしれません。とはいえ結末はかなり劇的だし、法律知識がなくても大丈夫な謎解きなので(リーガルではなく普通の本格派推理小説ですが)ヘアーの入門編としてお勧めです。

No.1 7点 mini
(2008/11/09 15:18登録)
ヘアーには名作「法の悲劇」があるが、「法の悲劇」は万人向きではなく、トリックや仕掛けしか興味のない人には良さが分り難いだろう
ミステリーそのものに対するパロディみたいな話だし
ヘアーは同時期の英国教養派イネスやブレイクに比べると割とトリッキーな作家で、それが良く出ているのが「自殺じゃない!」である
だから謎解き部分にしか興味のもてない類の偏狭な本格好き読者にもお薦めできる
大まかな真相は読み慣れた読者なら気付くだろうが、終盤で犯人が一人に絞りきれないテクニックも弄し、「法の悲劇」のような別の要素の魅力ではなく、単純にストレートな本格としてはヘアーの代表作と言っていいだろう

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