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ミステリの祭典

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午後の死

作家 シェリイ・スミス
出版日1983年06月
平均点6.25点
書評数4人

No.4 7点 人並由真
(2022/06/11 07:26登録)
(ネタバレなし)
 インドの富豪マームード・カーンの依頼で、その息子の家庭教師となったオックスフォード出の24歳の青年ランスロット・ジョーンズ。だが富豪のもとに向かうジョーンズが乗った小型機は機体の不調でイラン砂漠の一角に不時着した。ジョーンズは飛行機の修理が終わるまで、近所の屋敷で時間を潰させてもらう。そこでは英国人の老女アルヴァ・ハインが暮らしていた。アルヴァは、彼女の若き日に生じたという、とある犯罪事件を語り出す。
 
 1953年の英国作品。
 大昔にミステリマガジンに分載された際に読みかけたような気もするが、最後まで完読したような、そうでなかったような。少なくとも物語の筋運びはまったく記憶にない。
 ポケミスも書庫に眠っているはずだが、引っ張り出すのも面倒くさかったので、ブックオフの100円棚で数年前に拾い、それをようやく今夜しっかり読んだ(正確に言えばブックオフの100円コーナーでまず見つけ、もともと蔵書にはあるハズだが、探してそれがすぐ見つかるかどーかわからんので、悩むより先に購入した、という流れである・汗&笑)。
 
 一言で言えば、ポケミスよりも創元の旧クライムクラブで翻訳されていた方が似合いそうな内容で、小味な作品ながらフツーに、テクニカルぶりで楽しませてもらった。
 探偵役の推理の論拠(ある部分の不整合の指摘ぶり)もなかなかオモシロイし、何よりラストのオチも(中略)の部分でさりげなく布石を張ってあるのがよい。ただしこれ、パズラーというより、向こうのこの時代での新本格だね。

 なお読後にTwitterで本書の感想や噂を拾って、この原作をもとに土曜ワイド劇場の一編『偽りの花嫁 私の父を奪らないで!』(大場久美子主演、神代辰巳脚本、小沼勝監督)が作られていたのを、今回、初めて知った。
 で「くだんの土曜ワイドのその作品は1982年の放映なのに、ポケミスの刊行は1983年なのはなぜだ?」と疑問を呈しているヒトがいたが、答えは簡単。スタッフは本作が最初に邦訳された、前述のミステリマガジンの分載(1981年9月号~10月号)の方で読んで翻案し、映像化しているのである(きっと)。
(どーせたぶん、当時のHMMの長編分載のことだから、どっかの部分を一部割愛してるのだと思うが?)

 21世紀にポケミスやハヤカワ・ノヴェルスだけ手に取ると、そういう書誌的な事実を見落とすこともあるので、注意した方がいいよネ。

No.3 6点 nukkam
(2015/10/01 19:25登録)
(ネタバレなしです) 英国のシェリイ・スミス(1912-1998)は1940年代から1970年代にかけて15作ほどのミステリー作品を発表した女性作家です。本書は1953年に発表されてジュリアン・シモンズが大絶賛した本格派推理小説です。インドに向かう飛行機のトラブルで砂漠に不時着した主人公が訪れた家にいた英国人老女。彼女が語るのは若き頃に起きた悲劇の物語です。事件が中盤まで起きない上にそこに至るまでに描かれているのが家庭内のちょっとしたいざこざ程度なのでサスペンスに乏しいし、後半の推理も切れ味がなくパズルとしてはあまり出来がよくありませんが、最後のひっくり返し方がなかなかお見事。本格派の某巨匠の短編に前例があったのを思い出しましたが長編では珍しいと思います。

No.2 5点 mini
(2012/03/02 09:46登録)
* 今年の私的マイブームの1つ、スミス姓の作家を漁る

* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年の作家は意外と多い
今年の私的読書テーマ、”生誕100周年の作家を漁る”、第2弾はシェリイ・スミスだ

シェリイ・スミスは私にとって不思議な作家である
と言うのは作品の内容の事ではない、謎なのは翻訳のされ方なのだ
ちょっと海外ミステリーに詳しい方だと、シェリイ・スミスって言ったら、「午後の死」1作のみで知られてるイメージなんじゃないだろうか
これが不思議なのだ
実は「午後の死」は海外ではスミスの代表作とはあまり扱われていない
いやもちろん「午後の死」が翻訳紹介された事情は分かる
私もうろ覚えなんだが、たしか英国コリンズ社クライム・クラブ叢書の創立50周年記念復刊として、作家兼評論家ジュリアン・シモンズが12作を選んだ内の1冊に選ばれたからだと思う
しかしこれで陽の目を見た「午後の死」は、それまでは作者の代表作とは見なされていなかったはずだ
シェリイ・スミスはメジャー作家ではないが、決してマイナー作家でもなく、海外の名作里程標リストにも時々名前は載ってくる作家である
しかしその代表作として名前が挙がる作品は違う作品だ、そもそもシェリイ・スミスって選者によって選ばれる作品がばらばらなんだよね
実際シモンズだって、有名なサンデー・タイムズ紙ベスト99ではスミス作品としては「The Lord Has Mercy」の方を選んでいるし、キーティング選による海外名作100選では「The Party at No.5」が選ばれている
不思議なのは上記の2作が未訳で残っている事で、たしか論創社はシェリー・スミスには未だ手を出してないはずだからやってみませんか?
また早川ポケミスには「午後の死」以外に、初期の代表作の1つと言われる「逃げる男のバラード」が有るんだが、一応これ所持しているんで気が向いたら読んでみるつもり

※ 余談になるが、話に出たクライム・クラブ50周年記念の復刊12作の顔触れだが、邦訳刊行のあるものでは
ガーヴ「落ちた仮面」、デイリー・キング「空のオベリスト」、クリスティ「ABC」、クロフツ「ヴォスパー号の遭難」、ブレイク「殺しにいたるメモ」、P・マク「迷路」などがある、意外と現在では読めるものが多い
未訳なものでは
E・フェラーズ「Enough to Kill Horse」
N・マーシュ「Spinster in Jeopardy」
L・A・G・ストロング「Which I Never」
などがあるが、フェラーズは初期のトビー&ジョージものだけ読んでおけばいい風潮が有るがそんなことはなく、作者の持ち味が出ているのは中期のサスペンス調のだと思う
中でも「Enough to Kill Horse」は中期の代表作としてよく名前が引き合いに出されるのでどこかが手を出さないかな
あと未紹介作家のL・A・G・ストロング、この作家はこの12作の中に選ばれたからというだけでなく、結構海外のベスト表などで名前を見かける作家なので初紹介して欲しいものだ

No.1 7点 こう
(2008/10/19 02:44登録)
 不思議なお話です。千一夜風ミステリと帯にありますがそれがぴったりの作品でした。
 イランの砂漠で不時着したイギリス人がたまたまそこに居を構えるイギリスの老女に出会い、飛行機が修理されるまでの時間老女の話を聞く、という体裁です。
 老女の生い立ち、家族構成、彼女が18歳のとき父親が再婚し若い画家と結婚、そして彼女とその従弟と称する男が生活圏に入ってから話は急展開を、というストーリーです。
 正直ストーリーのサスペンスがうすく展開もさほど意外ではなかったですが老女の語り口と最後のエピローグが意味を持ってくる作品で全体としては楽しめました。作品構成自体も現代では当たり前なものですが50年以上前の作品であり不思議な雰囲気を持った作品として評価したいです。またポケミスですが現在復刊されている様ですので簡単に手に入りますので一読の価値はあるかと思います。 

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