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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.390 7点 間違いの悲劇
エラリイ・クイーン
(2011/03/21 10:26登録)
最初に収められた中編『動機』は、田舎の小さな町(ライツヴィルよりだいぶ小さそう)を舞台に、名探偵エラリーの登場しない作品ですが、ミッシング・リンク・テーマを不自然でない形にまとめあげた秀作です。田舎町の雰囲気もよく出ています。ある意味リドル・ストーリーなのですが、あいまいな感じの残らないすっきりした解決になっていると思いました。
途中のショート・ショート6編は最後の1編を除き(ダイイング・)メッセージものですが、中ではホックが代作した『トナカイの手がかり』がよかったと思います。
そして最後に控えるのが、ダネイがリーに送ったままの形の長編『間違いの悲劇』梗概。タイトルからしても、レーン4部作を想起させますし、シェイクスピアをモチーフにしたところも特に『レーン最後の事件』との共通点があります。さらにこれは単なる偶然ですが、梗概の状態というのが『Yの悲劇』のヨーク・ハッターが書いた小説梗概を連想させます。ただし本作の方がはるかに細かい点まで書き込まれていて、人物造形も本編でこそはぶかれていますが、最初に置かれた登場人物紹介でかなり説明されています。
プロット、トリックについては、クイーン60年代以降の作品の中ではベストと言い切っていいほどの出来ばえで、ミスディレクションもなかなかのものです。最終的に小説化されなかったことが本当に惜しまれます。


No.389 6点 人生の阿呆
木々高太郎
(2011/03/19 18:59登録)
松本清張以後だとミステリ作家の直木賞候補や受賞も珍しくありませんが、それよりはるか前、昭和12年に直木賞を受賞した作品です。
久々に再読してみて、最も感心したというか驚かされたのが、文章です。乱歩や横溝の耽美的な感じを与える文章とは対極に位置する、清張をも思わせるほど抑制された筆致なのです。死体発見シーンなどあまりに地味であっけないほど。
その文章で、良吉がロシアを列車で横断していくのが描写されるあたりは、最も記憶に残っていたところでした。この部分は全然ミステリでないわけで、そこが印象深いような作品です。ただ、タイトルの「人生の阿呆」という言葉が書かれた手紙に関する部分は、あまり説得力がないかな(文学的意味で)と思えました。
「読者への挑戦」が入っていたことはすっかり忘れていました。真犯人がわかりやすいとの論評もありますが、真相はかなり複雑な上、伏線も完全でなく、全体を見通す(暗号の理由も含め)ことは不可能でしょう。


No.388 6点 二つの密室
F・W・クロフツ
(2011/03/09 21:21登録)
クロフツと言えば、アリバイ崩しでなくても広い地域をフレンチ警部などが飛び回って捜査するものが多いという点では、確かに本作は異色とも言えるでしょう。しかし、舞台を限定して密室ものを書いても、じっくりした捜査過程はやはりクロフツ、という印象を受けました。むしろnukkamさんも指摘されているように、探偵役でもなく、倒叙ものの犯人でもない人物の視点が大幅に取り入れられていることの方が、この作者らしくないと思えます。最初の1/3は完全に家政婦アンの視点です。
第2の密室はどうということもありませんが、第1の事件の機械的トリックは悪くないと思います。しかし、密室構成方法より第1の事件が殺人であることを証明する手がかりの方に感心しました。また、第2の密室トリックが露見するきっかけ部分は意外にサスペンスがあります。
悲惨な事件ですが、ラスト、アンの将来性にはほっと一息できます。


No.387 6点 メグレ間違う
ジョルジュ・シムノン
(2011/03/06 08:31登録)
タイトルにもかかわらず、メグレが特に重要な点で推理を間違えるわけではありません。途中で、自分の捜査方法が間違っているのではないかと気にするところはありますけれど。
本作では、事件の中心人物である有名な外科医のキャラクターが独特です。メグレもこの外科医を新聞などで知っていたという設定ですが、この人物になかなか会おうとせず、周囲の人物からいろいろ聞き出して攻めていっているところがおもしろいというか。作中でも述べられているように、この外科医がメグレ自身の「等価値の反対」的な存在であるため、そのような捜査の仕方になったということです。たぶん、本書を読んでこの人物に好印象を抱く人はめったにいないでしょうが、それでも奇妙なインパクトのある人物です。


No.386 6点 ランボー・クラブ
岸田るり子
(2011/03/03 22:13登録)
タイトルの「ランボー」は、散文詩『地獄の季節』等が有名な19世紀フランスの詩人アルチュール・ランボーのこと。
15歳の少年と私立探偵の2人の視点を章ごとに交互に配置していく構成の作品で、そのパターンは最後まで続きます。といっても、2つの話が最終的にどうつながってくるかが見所というタイプではありません。私立探偵の視点の方に、少々うるさいユーモアがあるのが好みではないのですが、視点交替はかなり効果を上げていると思います。
少年が非常に珍しい後天性の色覚障害という設定で、早い段階から医学ミステリ系だということは想像がつくようになっていますが、隠された秘密は悪くありませんし、疑惑が膨らんでいくサスペンスもなかなかのものです。最後の1ページも無駄なくまとめてありますしね。
しかしこの作者、『出口のない部屋』でも感じたのですが、謎めいた小説構成はいいのに、密室などの物理的不可能犯罪トリックの扱いがどうも冴えないのです。不可能性は無理に入れなくてもよかったのではないかと思えてしまいます。


No.385 6点 失踪
ビル・プロンジーニ
(2011/03/01 21:12登録)
70年代に登場したいわゆるネオ・ハードボイルド系の中でも、プロンジーニは謎解き好きだそうですが、この長編第2作では、まだそれほどではありません。一方一人称の名無しのオプと言えばもちろんハメット由来ですが、別れた恋人のことや肺がんへの心配など、やたらにぼやきが多いこの探偵は、ハメットの非情さとは全然違います。まあラスト近くにはハードな殴り合いもしてくれますが。
失踪事件の手がかりを求めて、依頼人の要請によりドイツの小さな町にまで調査に出かけていくストーリーですが、全体的には実際の作品の長さにも見合ってこじんまりとまとまっています。プロット構成はロス・マクに近い感じを受けました。ただし家庭の悲劇が描かれているわけではありません。犯人が仕掛けるごく簡単なトリックは、うまくはまっていると思います。
しかし、犯人特定の決め手とか、その犯人の告白などの最後部分が何となく弱いのです。もう少し感動的に盛り上げられなかったのかなあ。


No.384 7点 恐怖の谷
アーサー・コナン・ドイル
(2011/02/25 21:28登録)
このホームズもの最後の長編の執筆は1914~15年。すでに『トレント最後の事件』等も出版された後ですので、ドイルもミステリに対する新しい考え方に対応してきたということでしょうか、ホームズの推理論拠は、なかなかフェアに提示されています。
しかしそれより、本作が高く評価される理由は後半部分にあると言われています。約20年前に起こったという設定のこの出来事、実際の事件をモデルにしているそうですが、アメリカの炭鉱町を舞台に無法者たちの世界が描かれていて、Tetchyさんも指摘されているように、ハードボイルド的なシチュエーションです。ただ書き方は全然ハードボイルドとは違いますけれど。この後半部分のからくりは推測がつくのですが、それだけにかえってサスペンスが感じられ、おもしろく仕上がっています。
ただ、モリアーティ教授を持ち出してきたのはドイルのサービス精神かもしれませんが、これはむしろない方がよかったのではないかと思えるのですがね。


No.383 5点 名探偵に乾杯
西村京太郎
(2011/02/23 21:01登録)
おなじみの名探偵シリーズの(少なくとも今のところ)最終作となった本作では、ポアロの息子を名乗る人物が登場します。謎解きミステリとしての出来ということでは、捨てトリックはまあこんなものかなというところですが、うーん、この最終解決はねえ。登場してないフェル博士の某作品をもちょっと思わせますが。また、二十面相シリーズでは聡明だったはずの小林中年がヘイスティングズより凡庸なのがなんとも…
それより、一風変わったクリスティーの『カーテン』論になっているところにおもしろさを感じました。単なるネタばらしなんて生やさしいものではなく、自称ポアロの息子が詳細かつ強引に分析していきます。ポアロが書いたという探偵作家論原稿も出てきますが、この元ネタはクリスティーの『複数の時計』でのミステリ評ですね。
その自称ポアロの息子に対する老名探偵たちの視線にも納得。


No.382 5点 メグレの途中下車
ジョルジュ・シムノン
(2011/02/21 21:45登録)
メグレが出張の帰り、西フランスの田舎町で予審判事をしている旧友を訪ねていったところ、ちょうど連続殺人事件が起こっていて、メグレも首を突っ込むことになるという筋立ての作品です。こういった地方舞台タイプは初期には多いのですが、本作が書かれた時期では珍しいでしょう。
ミステリとしては、一応ごく簡単な心理的トリックが仕込まれているという程度。それより、田舎町の住人たちの階級に対する意識が、メグレの旧友を通して描かれ、息苦しい感じが出ています。犯人の最後の行動は、そこまでやるかと思えるほどで、救いようのない事件を徹底させてくれています。
なお、原題を英語に直訳すれば "Maigret is afraid" で、第6章の最後あたりで「おれはおそろしい」というメグレの台詞が出てくるのですが、これはむしろ「おれは心配だ」ぐらいに訳した方がよさそうです。


No.381 7点 裏窓
ウィリアム・アイリッシュ
(2011/02/17 21:18登録)
表題作はヒッチコックによる映画化も見ましたが、原作を先に読んで充分怖がっていたせいか、映画のサスペンスはそれほどと思えませんでした。ヒッチコックはグレース・ケリーが演じた登場人物を加えたかわりに、原作のトリックと推理を無視しています。ちなみに犯人役はペリー・メイスン役が有名なレイモンド・バー(こう書いてもネタバレではありません)。
それ以外では、みなさんに評判のいい『ただならぬ部屋』がやはり一番印象に残りました。トリックは、初めて泊まった部屋で本当にそんなふうに錯覚するものか疑問ではありますが、殺されそうになるクライマックス部分もやはり見事。『じっと見ている目』もよかったですし、『死体をかつぐ若者』、『踊り子探偵』、ファンタジーの『いつかきた道』等も水準は十分クリアしています。
表題作だけなら8~9点ですが、短編集全体としてはこれくらいで。


No.380 7点 怒りっぽい女
E・S・ガードナー
(2011/02/13 23:13登録)
大岡昇平が訳した創元版で読んだ作品。
メイスンものは依頼人を被告人にするため、作品によってはかなり無理やりな偶然を使うこともありますが、本作はそれほど気にならない程度です。重要手がかりははっきりわかるように堂々と示してありますし、解決もすっきりできています。また被告人2人のキャラクターも、このようなタイプの作品では問題ない程度には描かれています。
まだ第2作だからということもあるのでしょうか。メイスンの法廷戦術はそれほど派手ではありません。法廷外での実験を画策してくれてはいますが。
しかし久しぶりに再読して一番驚いたのは、犯人が使うトリックが他の作家の非常に有名な某傑作とよく似た発想であったことでした。すっかり記憶から飛んでいました。その傑作の方がやはりトリックの使い方はすぐれていますが、本作はそれより10年近く早いのです。


No.379 7点 休日の断崖
黒岩重吾
(2011/02/10 21:02登録)
同じように松本清張から影響を受けて、社会派と呼ばれるようになる推理小説を同時期に書き出した作家の中でも、水上勉の暗い叙情性に対して、黒岩重吾の持ち味は、臣さんも書かれているようにハードボイルドっぽい感じもする、肉食系の粘っこい力強さのようです。
犯人が使ったトリックは平凡ですが、これくらいの方がむしろ小説のスタイルに合ったリアリティがあると思いますし、犯行計画全体として見ると無駄なくきっちりと組み立てられています。まあ真相解明部分については、こんなことをして証拠能力があるのかと思えるところは気になりましたが。
被害者の未亡人の人物設定は意外性もありますし、非常に印象的です。彼女に対する、主人公である新聞社社長の感情も、なかなかいい感じです。


No.378 6点 死の蒸発
ジョー・ゴアズ
(2011/02/08 21:04登録)
「ダシール・ハメット以来正真正銘の私立探偵が制作の世界に飛び込んだ数少ない作家の一人」(バウチャー)と言われもし、さらにそのものずばりのタイトル作『ハメット』も書いているだけに、その直系のように思い込むと、少なくとも本作に関する限り違和感を覚えるのではないでしょうか。
確かに私立探偵小説、つまりホームズやポアロみたいなのではなくリアルな私立探偵を描いた小説であることは間違いありません。しかし、犯人の可能性がある人間たちを絞り込み、さらに一人ひとりについてしらみつぶしに検討していくじっくり捜査の過程、真相が明らかになるクライマックスのサスペンスなど、むしろパズラー寄りの警察小説に近い印象を受けました。
三人称形式であるだけでなく、一つのシーンで複数の登場人物の視点を混在させ、それぞれの感情まで描いているところなども、ハードボイルドっぽくない感じがします。


No.377 6点 死んだギャレ氏
ジョルジュ・シムノン
(2011/02/04 22:05登録)
シリーズ第2作ですが、初期メグレもののパターンが確立された作品と言っていいでしょう。11~13章ぐらいに分かれていて、分量的にもほぼ一定。メグレが地方で起こった事件の捜査に赴くという構成です。第1期の19冊中、パリ市内が中心舞台と言えるのは3作だけです。まあ今回はパリと地方を行ったり来たりしますが。メグレ警視についての風貌描写もほとんどなく、おなじみの名警視といった扱いになっています。
しかし、一方でミステリのスタイルという点では、まだ迷っていたのかもしれません。メグレものとしては非常に珍しい(たぶん唯一)タイプのトリックが使われています。さらに真相解明直前に、こんな手も考えられていたのだと指摘されるのは、ホームズ中の有名トリックです。
それでも、メグレによって最後に明らかにされていく死んだギャレ氏の人物像、それともう一人の人物との関係は、やはりシムノンらしい味があります。


No.376 7点 影の告発
土屋隆夫
(2011/02/01 21:00登録)
章の見出しがすべて「○の○○」で、最終章がタイトルと同じ「影の告発」という、こだわりを持った作品です。その各章の最初に少女の視点による幻想的な短い断片を置いているのは、『危険な童話』の童話と同じパターンですが、今作では半ばぐらいまでで本筋との関連の見当がつくようになっています。
実は、写真を使ったアリバイ・トリックだけが記憶に残っていました。ほぼ同じ頃書かれた清張の『時間の習俗』と似てはいるものの、清張作ほど完璧主義的な凝ったトリックではありません。その点に不満があったのですが、読み直してみると、前半は犯人の嘘への疑念や、被害者の側からの追及で明らかになってくる動機などに費やされ、なかなかおもしろい筋立てになっていました。
ごく早い段階で重要な手がかりの存在を堂々と宣言していたりして、フェアプレイへの配慮もあり、評価を改めた作品です。


No.375 8点 罰金
ディック・フランシス
(2011/01/29 09:27登録)
アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。今回の語り手=主役は新聞の競馬担当記者です。弱音を吐きながらも、人気馬の出走取消にからむ不正を暴き、馬を守ろうとする彼が熱い。その主役の奥さんの設定が、本作の核になっています。この夫婦の関係、奥さんへの愛情が実にいいのです。さらにいい女、いい友人といった人物の描き方もさすがですし、終盤のサスペンス、アクションも緊迫感十分。ラスト2行だけは、なかった方がいいように思えましたが。
一方、謎解き的要素は全くないといっていいほどです。悪役については、常識の通用しないこだわりはまあいいとしても、問題は記事を書くかどうかではなく、記事が掲載されるかどうかだというあたりまえのことに気づかないらしいのでは、知的なおもしろさは最初から放棄しているということでしょう。
ところで、Forfeitという原題、確かに辞書では「罰金」の意味が最初に出てくるのですが、それでは内容に合いません。むしろ没収・剥奪の意味なのかもしれません。


No.374 7点 死が最後にやってくる
アガサ・クリスティー
(2011/01/27 21:37登録)
歴史(時代劇)ミステリを書く作家はかなりいます。しかし、古代エジプトが舞台のフーダニットとなると、考古学者マローワン教授の夫人であるこの人をおいて他にないでしょう。冒頭に置かれた「作者のことば」の中で、古代エジプトの農事歴を説明したりして、本格的に時代考証しています。ただ"兄"、"妹"という言葉の意味についての説明は、ひょっとして叙述トリックで混乱させるつもりかと思っていたら、そうではありませんでした。
それにしても、全体の1/3ぐらい過ぎてやっと殺人が起こったと思ったら、後は次から次へと立て続けの連続殺人。登場人物はあっという間に減っていきます。犯人の設定はいかにもクリスティーらしいので、意外性があると言うべきかないと言うべきか迷うところです。ただ、家族全体を襲う悲惨な事件に、これでどう最後をまとめるのかと思っていたら、これもこの作者らしい恋愛感情をからめて、ラスト2~3ページはうまく決着をつけてくれていました。
ポアロの時代だったら通用しないトリックや無理のある殺意も使われていますが、古代なら問題ありません。


No.373 7点 悪魔が来りて笛を吹く
横溝正史
(2011/01/23 10:30登録)
謎解きの面から見れば、犯人やトリックの意外性は、この作者の他の有名作品に比べるとたいしたことはありません。他の方も指摘しているように、最初の殺人を密室にする必要も感じません。密室になる段取はまあ納得できますが、血の火焔太鼓なんてややこしいことをし過ぎです。しかもごく早い段階で、紐を使えばなんとか密室にできると言ってしまっているのですから、不可能興味はありません。
ある人物が嘘をついていることは、『本陣殺人事件』や『獄門島』事件を手がけた金田一耕助なら気づいて当然ですが、少なくとも発表当時は一般的でない知識がないとわからないので、フェアとは言えません。
などと悪口を書いてはいますが、小説としての構成はさすがです。晩年の数作を除くと、作者の最も長い作品のひとつですが、冗長さは全く感じられません。最後の殺人も、結局こうならざるを得なかったのだろうなと思えます。
映画やドラマ版は見ていないのですが、実際に作曲されたタイトル曲の演奏を視聴すれば、ラスト・シーンはよりインパクトがあるでしょうね。


No.372 7点 メグレ警視と生死不明の男
ジョルジュ・シムノン
(2011/01/20 21:27登録)
メグレものの中でも、今回は相手がアメリカの殺し屋たちということで、解説にもいつにないスピードとアクションのことが書かれています。確かにそうなのですが、それでも作者の独特な語り口のせいでしょうか、やはりいかにもメグレらしいところが感じられます。
メグレが何人もの人から、アメリカの殺し屋に比べるとフランスの犯罪者はアマチュアに過ぎないと言われ、不機嫌にぶつくさ言っているようなところも楽しめます。「無愛想な刑事」ロニョンの活躍と愚痴もいい感じです。
ただし後から考えてみると、プロの殺し屋にしては、基本的なところに不手際があるのが少々気になりました。また最後は完全にすっきり解決とまでならないのが、このシリーズでは時々あることなので特に不満というわけでもないのですが、今回のような派手なタイプの場合にはどうなのかな、と思えます。
なお、メグレがアメリカに行ったことがある話を『メグレ、ニューヨークへ行く』だと注釈してありますが(p.60)、これは間違いで、メグレがアメリカに研修旅行に行くのは『メグレ保安官になる』です。


No.371 7点 証拠死体
パトリシア・コーンウェル
(2011/01/18 21:27登録)
コーンウェル初読。いわゆるベスト・セラーというのは、こういうのを言うんでしょうか。スティーヴン・キングさえ、映画はずいぶん見ていますが原作を全く読んでいない自分としては…でも、共通点はありそうな感じです。様々な要素を詰め込んで盛りだくさんにし、小説の長大化を図っているのはあまり好みではないのですが、それはまあいいでしょう。
最後までサスペンスを持続させるためのご都合主義的なごまかしがちょっと気になるところはありました。しかし、殺人犯の正体に近づいていく過程はなかなかよくできていますし、現場で採取された繊維と、被害者の作家がなぜ犯人を家に入れたのかの謎、さらに過去の大事件との奇妙な関連など、最後にうまく結び付けてくれています。
単独の作品としてはおもしろかったのですが、同じ主人公で毎回似たようなことをやられては、という懸念も持ってしまいました。検死官が何度もこんな目にあうのだとしたらね。

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