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ミステリの祭典

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メグレの途中下車
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1976年10月
平均点5.00点
書評数3人

No.3 5点 クリスティ再読
(2021/10/30 11:14登録)
メグレは国際会議の帰途に、学生時代の親友の元を訪れようと、ヴァンデの地方都市フォントネ=ル=コントで途中下車した...その街は連続殺人に揺れており、友人は予審判事としてその渦中にあった。行きがかり上、メグレは事件に巻き込まれていく...

という話。ポイントはメグレの学生時代の親友だったシャボ。学生時代には苦学生のメグレは違い、素封家の息子らしくメグレにとってやや眩しい存在だったようだけが、今ではすっかり地方都市のしがらみに囚われて、責任ある立場を占める代わりに老化の兆候も見せている...というあたり。まさにこの地方都市の、没落した上流階級と、成り上がり者の入り婿、しかし一般市民は成り上がり者をいつまでも嫉妬と猜疑の目で見つづけ、何かきっかけがあったら暴動やリンチがおきかねない....という地方都市らしいややこしい階級対立が背景にある。
「おれはおそろしい(心配だ)」という発言は、このヴァンデ県の街が、フランス革命当時の「ヴァンデの反乱」の中心地、ということもあって、そういう連想がメグレにも働いたんじゃないか、という気もする....悲惨な内戦の舞台なんだよね(深読みかな?)。
で、友人のシャボは、成り上がり者として上流階級からも庶民からも排斥される男の数少ない友人でもあるのだが、この男の息子に殺人の容疑が....という展開。地方都市の人間関係のややこしさと、かつての学友が見るからに平凡な男になっていった失望感のようなものが、この作品の陰鬱さを強めている。
庶民から成りあがってもプルジョアになりきれない男の哀歌みたいなものがシムノンお得意のテーマなんだけども、地方都市を舞台に陰湿な階級対立の層として描いてみせたあたり、一種の「社会派ミステリ」みたいに読むのがいいんじゃないかと思う。

No.2 5点 tider-tiger
(2014/06/01 13:55登録)
連続殺人や町人同士の対立があったりして異様な雰囲気が醸し出され、ミステリ的な趣があります。が、やはり人間心理や村社会の独特の環境を描くことが主眼のように思えます。

空さんへ もしこれをお読みになるようでしたら、大変感謝していることを伝えたく思います。

>>第6章の最後あたりで「おれはおそろしい」というメグレの台詞が出てくるのですが、これはむしろ「おれは心配だ」ぐらいに訳した方がよさそうです。

これ、メグレがなにを怖がっているのかが長い間わかりませんでした。「おれは心配だ」なら、しっくりときます。すっきりしました!

No.1 5点
(2011/02/21 21:45登録)
メグレが出張の帰り、西フランスの田舎町で予審判事をしている旧友を訪ねていったところ、ちょうど連続殺人事件が起こっていて、メグレも首を突っ込むことになるという筋立ての作品です。こういった地方舞台タイプは初期には多いのですが、本作が書かれた時期では珍しいでしょう。
ミステリとしては、一応ごく簡単な心理的トリックが仕込まれているという程度。それより、田舎町の住人たちの階級に対する意識が、メグレの旧友を通して描かれ、息苦しい感じが出ています。犯人の最後の行動は、そこまでやるかと思えるほどで、救いようのない事件を徹底させてくれています。
なお、原題を英語に直訳すれば "Maigret is afraid" で、第6章の最後あたりで「おれはおそろしい」というメグレの台詞が出てくるのですが、これはむしろ「おれは心配だ」ぐらいに訳した方がよさそうです。

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