home

ミステリの祭典

login
空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.445 5点 風精の棲む場所
柴田よしき
(2011/09/08 00:11登録)
風精と書いてゼフィルスと読ませています。第2章でシジミ蝶の一種をそう呼ぶのだと書かれていますが、元々ゼフュロス(ゼピュロス)とはボッティチェッリの名画「ヴィーナスの誕生」にも描かれているギリシャ神話の西風の神です。それで、話の中心となる家が西風家。
冒頭部分で、浅間寺竜之介が愛犬サスケに、「地図にない村」に行くことになったいきさつを話す部分があります。これには不自然さを感じて、地の文で説明したのではアンフェアになるところがあるからではないかと疑ってしまったのですが、思い過ごしでした。
タイトルにふさわしい幻想的な味わいを持った作品で、謎解きはこぢんまりとまとまっています。トリックの原理はすぐ見当がつきますが、トリック実行の理由や犯人の設定など、全体的には悪くありません。ただ、前半で犯人のキャラクターをある程度はっきり示しておいてもらいたかったとは思います。
しかしこのエピローグは、どうでしょうねぇ。最後2ページぐらいの雰囲気はいいのですが、それでもあまり賛成できません。


No.444 6点 犯罪カレンダー (1月~6月)
エラリイ・クイーン
(2011/09/04 23:20登録)
月ごとの記念日などにちなんだ事件をそろえた連作なのは当然ですが、ジョージ・ワシントン、カリギュラ、南北戦争など歴史的な由来などから書き起こしていて、そこにもこだわりを見せる短編集です。
最初の1月は結局ショート・ショート並みのクイズ的謎解きでがっかりでしたが、2月からの5編は少なくとも悪くありません。複雑さ難解さのみで言えば、4月がたぶん1番で、手がかりにはなるほどと納得させられます。また5月のストーリーと雰囲気、ミスディレクションはなかなかいいなという感じ。
しかし、個人的には3月が気に入っています。この作品、最後の推理はたいしたことはありません。それよりタイトルの私立探偵マイケル・マグーンについて、ボガードと比較してからかったり、事件が彼の所得税の確定申告書盗難で始まったりといったユーモアが楽しいのです。クイーン警視に、これが小説だったら誰を犯人にするかと聞かれて、エラリーがマイケルだと答えるところも、犯人を小説構成上から直感で指摘したがる読者への皮肉が感じられます。


No.443 7点 Le suspect
ジョルジュ・シムノン
(2011/09/01 20:55登録)
タイトルはもちろん「容疑者」の意味。
何の容疑者かというと、なんと爆弾テロなのです。フランスにいられなくなって、ブリュッセルに住んでいる理論的アナーキストのシャヴが主人公です。ある日旧知の「男爵」が職場を訪ねてきて、パリ近くの工場での爆弾テロが計画されていることを彼に知らせます。実行は、シャヴがかわいがっていたロベールらしいということ。
テロ行為には反対のシャヴはその計画を中止させるため、仕事を放りだして、即刻自転車で国境を越え、パリに向かいます。しかし、テロ計画をかぎつけ、「男爵」を尾行していた警察は、シャヴをテロ実行の容疑者として手配するのです。一方でパリに住むシャヴの昔の仲間たちは、シャヴが警察へ密告した裏切者だと考えていました…
というわけで、普通に考えればなんともシムノンとは縁遠いアクション・スリラーっぽいプロットです。それにもかかわらず、読んでみるとこれがシムノン作品以外の何物でもないという心理描写で綴られたエンタテインメントになっています。


No.442 5点 魔女の死んだ家
篠田真由美
(2011/08/30 20:37登録)
後に改稿されているそうですが、読んだのは講談社ミステリーランドのシリーズから出た版です。この作者を読むのは本作が初めてなのですが、最後の方になって、これはちょっと失敗したかなと思いました。いや、出来ばえそのものとは関係ない部分なのですが。
大きく3部に分かれたうち、子どもの視点から描かれた第1部は、まるで乱歩時代の作品のような雰囲気だなと思っていたら、作中でも後でその点については触れられていました。実際、そんな時代設定にしてもよかったような気がします。さらに第2部、第3部と視点を変えていて、なかなか凝った構成になっています。
結末の意外性は、「魔女の死んだ」事件の犯人と犯行方法、動機に関したものではありません。動機は説得力がありませんし、トリックは某国外古典短編の単純なヴァリエーションに過ぎません。それより第3部に入って起こってくる謎に対する解決が、想定範囲内とはいえ、まあ決まっています。
それにしても、あまり児童向けという感じはしませんでしたね。


No.441 7点 フラッド
アンドリュー・ヴァクス
(2011/08/27 08:43登録)
バーク・シリーズの第1作。
Floodというと、洪水とか満潮の意味かと思っていたら、バークの依頼人の名前でした。ストレーガやベルもそうらしいですね。フラッドは日本で修業を積んだアメリカ人の女空手家で、やたらに強い。
相当長い作品です。1ページ18行の文庫で約570ページ。しかし3分の2ぐらいまで読んで振り返ってみると、本筋の事件そのものについては、捜査はほとんど進んでいません。ハメットやパーカーならそこまで100ページかそこらで済ませてしまうのではないかと思えるほどです。本筋の事件そのものは単純で、それ以外の寄り道が多いということなのですが、その寄り道の中で、ニューヨークのはきだめの様子や、そこに生きるバークとその仲間たちの生き方が具体的に描かれていきます。で、そこが新しいハードボイルドな世界を創り出しているところがおもしろいというわけ。しかしこのアウトローな世界を描くハードさは、kanamoriさんが『赤毛のストレーガ』評で書かれている通り、1世代前のネオ・ハードボイルドへのアンチテーゼとも思えるほどです。


No.440 7点 くたばれ健康法!
アラン・グリーン
(2011/08/23 22:06登録)
バウチャーはユーモア小説でありながら本格的な謎解きになっているミステリにもなっているのは、カーの『盲目の理髪師』と本作だけだと1950年台に書いたことがあるそうです。しかし、謎解きの出来栄えということなら、本作の方がはるかに上だと思います。
密室トリックの原理だけは読む前から知っていたのですが、スリッパやパジャマに関する謎、拳銃の発射音の問題など、解決にうまく結びついています。今回読み返してみて、ミステリとは関係なさそうな恋愛話や新教祖の登場も、伏線や証拠の発見などとからめた構成になっていることに気づきました。
ただ、ユーモア小説ということでは、訳者あとがきでは「ハリウッド型ユーモア映画的な大仕掛けな笑い」としていますが、疑問を感じました。死体発見シーンの「りっぱな死体となって死んでいるのだった」といったような大げさな表現と、酔っ払いギャグの組み合わせが主な笑わせネタですが、カーのような「ばか騒ぎに終始」したもの(表現云々でなく予想外の滑稽な出来事が起こるタイプ)の方が好みですね。


No.439 7点 継ぐのは誰か?
小松左京
(2011/08/21 08:22登録)
「チャーリイを殺す…」
7月26日に亡くなった小松左京の代表作と言えば、もちろん『日本沈没』や『果しなき流れの果に』がすぐ思い浮かびます。しかしミステリ的観点からすれば、冒頭の殺人予告メッセージで始まる本作こそ、最初に挙げられるべきでしょう。似たような予告に次ぐ不可解な殺人がすでに世界各地で起こっていることが明らかにされ、ミッシング・リンク的興味もあります。そしてついに起こる殺人事件では、ダイイング・メッセージまで出てくるのです。
時代設定は月に基地ができているぐらいの近未来で、事件の状況そのものも、その解決も完全にSF領域ですが、ミステリ的要素も充分です。といっても、犯人の正体は半分ぐらいで明かされ、殺人事件そのものは解決してしまいます。後半では事件の背景をめぐり、話は秘境探検へと発展していきます。
謎解きだけなら、アシモフに比べると不備もありますが、作者らしいテーマを持ったSFとしては、なかなか読みごたえのある作品です。


No.438 4点 メグレの失態
ジョルジュ・シムノン
(2011/08/17 14:32登録)
邦題の「失態」については、短い最終章に、「司法警察局の二重の失態」という新聞記事のことが書かれているのですが、そんな記事見出しは性急過ぎるように思います。「二重」とは、本作ではメインの殺人事件と並行して、パリ・ツアー中に失踪したイギリス夫人の事件も語られるからです。原題では"Un echec"と単数形ですが、これはやはり殺人事件の方の失敗でしょう。ただし、メグレが犯人指摘に失敗するわけではありません。
メグレが子どもの頃の知人から、命を狙う脅迫状が何通か届いているという依頼を受け、翌朝から刑事を護衛につけようとしていた矢先、夜のうちに銃殺されてしまった事件です。この被害者がいやな人物なので、メグレも護衛にそれほど気が進まなかったため、殺される結果的になったのではないか、失敗だったかな、と自問する場面もあります。
本作のテーマは被害者と彼を取り巻く人々の重苦しい生活でしょうが、主副2事件の小説テーマ的関連性があまり感じられず、いまひとつといったところでした。


No.437 8点 一瞬の敵
ロス・マクドナルド
(2011/08/15 16:38登録)
後から考えてみると、なるほどこういったところから構成を立てていったのだろうなと思える仕組みになっています。人間関係がそうとう複雑なのですが、だいたいのところは読者にも予想できるように展開を考えている感じです。ただ最終章では意外な秘密が明かされることになります。
元保安官補フライシャーの扱いが若干はっきりしないところは不満といえるでしょうか。デイヴィが結局どうなるかという点については、難しいところですね。この落ちのつけ方はショッキングではありますが。後期ロス・マクのいわゆる「家族の悲劇」ということでは、彼が結局一番の被害者なんですね。アーチャーが事件にかかわるきっかけになった、失踪したサンディの方の扱いについては、もう一つ最後に何か欲しい気もします。
テーマ性と謎解きとがきれいに噛み合っているところが、ロス・マクの手腕でしょうが、本作ではテーマ性以上に、複雑な謎解き構成の方におもしろみを感じました。


No.436 5点 殺人の詩学
アマンダ・クロス
(2011/08/11 09:44登録)
解説によると、サラ・パレツキーはケイト・ファンスラー教授を「私たちが待ち続けていたヒロイン」と呼んだそうです。しかし本作を読んでみると、ヴィクのような意味でのヒロインという感じは受けませんでした。
女流作家による女性探偵と言えば、当然ミス・マープルだってそうなんですが、中年前の魅力的な女性となると、草分け的存在なんでしょうね。しかし、本作のケイトは、そんなに名探偵ぶりを発揮するわけではありません。半分ぐらいで起こる殺人事件の真相について推理を披露するのは、むしろ彼女の婚約者アマースト検事補です。
ただ、その推理の唯一の根拠となる犯人の不用意な一言は、指摘されてもどこに書かれていたのかさっぱり覚えていませんでした。また殺人事件の扱い自体も、この小説の中での比重はかなり軽目です。それよりも大学の社会人学部が存続できるかどうかという問題の方が中心で、ケイトがたずさわっているのもその問題です。
シムノン好きな自分だけに、ミステリ度の低い作品も普通なら大いに歓迎するところですが、パズラー的な殺人だけに、かえって物足らなさを覚えてしまいました。


No.435 6点 蒼ざめた礼服
松本清張
(2011/08/07 19:46登録)
その評論家はなぜそれほどまでにその廃刊になってしまった古い雑誌を欲しがっているのか? その雑誌を評論家に提供しようとした人が、時計と一緒に雑誌も盗まれてしまったことを主役の片山が知ったことから、事件は転がり始めます。
些細な疑問から始まって、殺人と思われる水死、さらに新型潜水艦建造にあたってのアメリカからの技術提供会社決定をめぐる政治的駆け引きへと、問題は大きく膨らんでいきます。社会派というよりスパイ小説系と言ってもいいようなスケールを持ったかなり長大な作品ですが、それを平凡な一個人の視点から追及していくのです。
そういった大風呂敷の広げ方とその全体的なまとめ方は、今回再読してみると、展開の意外性はあまり感じられない書き方なのですが、やはりなかなかおもしろく読ませてくれると思いました。ただし、死体処理のトリックだけは取ってつけたような感じで、そんなトリックをわざわざ使う意味がないのは、減点対象です。


No.434 7点 魔の淵
ヘイク・タルボット
(2011/08/04 21:27登録)
本作がカーの『三つの棺』に続いて第2位にランクされたという、ホックの『密室大集合』まえがきは読んでいないのですが、本書あとがきによると「不可能犯罪ものの長編のベスト」となっていて、「密室」とは限ってないんですよね。読んでいて確かにオカルト雰囲気たっぷりの不可能犯罪ものではあるのですが、これのどこが密室なんだと思っていたので、なるほどと納得。勝手に幻の密室傑作などと宣伝しないでもらいたいものです。
いや、途中で密室に閉じ込めたはずの人物の消失という謎も出てはくるのですが、これは窓の釘について矛盾がありますし、本作の最大の不可能興味は、なんといっても空中浮遊です。何度も、本当に人間が飛翔したとしか思えない現象が繰り返されます。
トリックが肩すかしだという意見も多いようですが、それはあまり気になりませんでした。それよりも、最終章での謎解きがもたついているのが不満です。事件の全体的構造は、あとがきにも書かれているとおりうまくできているので、推理さえもっと手際よく、伏線を先に揚げておいてその意味を劇的に解き明かすとか、説明の順番を工夫していれば、読後のすっきり感はかなり変わっていたのにと思います。


No.433 7点 青の寝室 激情に憑かれた愛人たち
ジョルジュ・シムノン
(2011/08/01 20:46登録)
シムノンは「私の小説の筋はひどくお粗末なこともある」と自分で言ったこともあるくらいで、純文学系作品のプロットは単純ストレートなことが多いのですが、本作は珍しく技巧派ミステリ的な構造をもっています。もちろん純文学系作品ですから、主人公トニーの行動や心情がじっくり描かれていて、むしろそこが読みどころではあるのですが。
冒頭から、トニーが逮捕され尋問を受けることは読者に知らされます。しかし何の罪で? この疑問に対する答が明らかになるのは、終盤になってからです。それまでは罪状を隠したまま、主として予審判事による尋問が描かれていくのです。誰が殺したのかはフーダニット、どうやってはハウダニット、ではこんなタイプは何と呼べばいいのでしょう。
ただ残念なことに、本書カバーやWEB等に書かれているあらすじ・作品内容は、その謎に対する答の重要部分をばらしてしまっているのです。ネタバレしているからといって読む価値が半減するような作品では決してないのですが、それでも。


No.432 6点 悪魔の紋章
江戸川乱歩
(2011/07/28 20:57登録)
タイトルの「紋章」とは、作中では触れられていませんが、犯人がこれ見よがしに残していく三重渦指紋のことでしょう。
戦前の通俗長編の中でも後期に属する本作は、全体的にかなり前に書かれた某明智ものを思わせます。悪く言えば二番煎じ、良く言えば、その某作品を中心にこれまでの集大成的な感じを狙ったということになるでしょうか。
最初の探偵助手毒殺事件については、なぜ殺されたのかというところが、最終的な解決を見た後では疑問ですし、ある人物のアリバイは犯人のアリバイと表裏一体なはずですし、まあ例によって適当なところはいろいろあります。自殺か他殺かという点についての最後の推理はなかなか論理的でしたけれど。
作者も特に真犯人の正体を隠すつもりはなかったのだろうなと割り切って読めば、お化け屋敷の騒動(まともに考えれば犯人がそんな騒動を起こす理由など全くないのですが)、川手氏の視点から描かれた動機が明かされる部分など、なかなか楽しめました。


No.431 7点 闇の中から来た女
ダシール・ハメット
(2011/07/26 10:38登録)
集英社から出版された中編1編だけの本書については、ロバート・B・パーカーによる序文と、その序文だけでなくチャンドラーまで批判する、船戸与一氏の大上段に振りかぶった訳者解説がおもしろいという評をWEB上で目にしました。
2つの説に対して、個人的には、パーカーと同意見ではないのですが、ハメットには珍しく、ご都合主義的(悪い意味ではなく)に最後をまとめていて、とりあえずハッピー・エンドには違いないのかなと思えます。将来については、「そんな先のことはわからない」かな。ルイーズ・フィッシャーの最後のせりふについては、原文はどうなのだろうと思いました。
原文といえば、この翻訳には違和感を覚えて、原文がどうなっているのか疑問に感じたところがかなりあったのです。ところが訳者解説最後を読んで、唖然。答は、原文にはそんなことは書かれていなかった、というものだったからです。三人称多視点で書かれた原文を、訳では「ルイーズ・フィッシャーの一視点に統一した」ということで、その理由は「読みやすさを考えてのうえ」だそうです。個人的にはそのため逆に気になって読みにくくなっていたと思われるのですが。


No.430 8点 ウィチャリー家の女
ロス・マクドナルド
(2011/07/22 13:35登録)
一見平凡なタイトルに思えますが、読み終わった後でその意味を考え直してみると、様々に暗示的だと納得させられます。
結城昌治の某作品が、本作のトリックに対する不満から構想されたというのも、今回再読して記憶がある程度よみがえってくると、ああそうだったと思えました。それにしてもこのトリック、作者はアンフェアにならないよう慎重な書き方をしています。一人称形式なのですから、そこまで気を遣わなくてもよかったのではないかと思えるほどです。
しかしロス・マクもこの時期になると、確かにハードボイルドと呼ぶのがためらわれる作風になってきますね。一方「本格派」でないと言う人は、たぶん手がかりがあらかじめ提示されているわけではないところが引っ掛かっているのではないかと思えます。
また、『人の死に行く道』から間をおかずに読むと、文章の変化にも気づかされました。細かい外観描写が減って、ロス・マク独特とも言われる比喩を用いることにより、簡潔な表現になってきているのです。


No.429 4点 百人一首殺人事件
山村美紗
(2011/07/18 20:47登録)
キャサリン・シリーズ第2作。
前作『花の棺』では、キャサリンが日本人でないことが密室解明の発想に寄与していましたが、今回はタイトルどおり百人一首についての(外国人にもわかる)基礎講座になっています。ただしそのミステリ的扱いは、過去の事件でその3枚の札をある人物が持っていた理由は何かというところが完全に抜け落ちています。
トリック的には、密室もアリバイも前作に比べると平凡ですし、密室にする理由はやはり貧弱です。また密室に傘があった理由は、これでいいのならどんな不可解な状況でも考えられるというしろもの。病院の問題も、本当にこれを中心にして構成を立てれば、怖い系統のミステリになりそうなのですが、適当に妥協してしまった感じです。
結局欲張って詰め込んだという域にまで達していないというのが、どうにも不満な作品です。


No.428 6点 メグレと無愛想な刑事
ジョルジュ・シムノン
(2011/07/15 22:37登録)
4編の長めの短編(文庫本ならたぶん60ページぐらい?)が収められていて、最初のが表題作です。『メグレと生死不明の男』など1950年台の長編いくつかに顔を出す「無愛想な刑事」ロニョンは、たぶん本作が初登場でしょう。事件としてはわざわざメグレが乗り出すほどのものでもなく、不運をもぐもぐ愚痴るロニョンに、メグレが気を使っているところがおもしろいような話です。
次の『児童聖歌隊員の証言』は、タイトルの少年だけでなく、少年の証言と矛盾する証言をする元判事やメグレ自身も子どもっぽいところを見せるのが楽しい作品。ただしこれも真相は説得力が今ひとつです。『世界一ねばった客』はタイトルどおりの出来事が謎となっていて、なんとなくユーモラスで陽気な雰囲気。『誰も哀れな男を殺しはしない』は、被害者の秘密が少しずつ明らかになっていく構成で、カナリヤに餌をやるメグレが微笑ましい作品です。
ミステリ的な事件のおもしろさということでは、後半2作がよくできている(「本格派的」ではありませんが)と思います。


No.427 6点 海のオベリスト
C・デイリー・キング
(2011/07/12 21:17登録)
オベリスト・シリーズの第1作には、第1作らしい仕掛けがほどこされています。その仕掛け(殺人事件の真相とは関係ない)部分は、先に『空のオベリスト』を読んでいたので、なるほどと思えました。
4人の心理学者が次々に仮説を披露しては、反証が出てくる2~5章については、それなりに楽しめました。まあ4つ目はさすがに苦しまぎれというか、あまり意味を感じなかったのですが。
それより、偶然の出来事で事件が複雑になるという筋立ては個人的にはむしろ好きなのですが、本作の銃弾の扱いは、そうなる条件を考えていってみると、いくらなんでもねえと思えるのが難点です。2個の銃弾の謎も、巻半ばで答は明かされるのですが、拍子抜け。真犯人指摘の根拠は、いくら手がかり索引を付けてみても、弱すぎるように思えます。
と、悪口を書いてはいますが、意外な展開になっていく全体構造はなかなかおもしろいと思いました。


No.426 6点 黒後家蜘蛛の会1
アイザック・アシモフ
(2011/07/10 14:13登録)
久しぶりに再読してみたら、影響を受けたクリスティーの『火曜クラブ』については途中でちゃんと言及していたんですね。「アクロイ…」がネタバレにならないよう、途中でさえぎられているのには笑えました。
皆さんに評判のいい第1作『会心の笑い』は例外作でもあります。この作品については、何を盗んだのかというメインの謎に対する答よりも「意外な犯人」指摘部分の方が個人的には気に入っています。
『会心の笑い』もそうなのですが、何となくこんなところじゃないかと想像できる解決の作品もかなりある一方、後半になってからは懲りすぎのもの(『何国代表?』『不思議な省略』)も出てきます。『ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く』は日本人にはわかりっこないと言われそうですが、歌詞に関する発想はおもしろいと思います。『死角』は古典的名作のヴァリエーションですが、こういう使い方もありますよ程度かな…

1505中の書評を表示しています 1061 - 1080