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ミステリの祭典

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メグレと口の固い証人たち
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1976年12月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 6点 クリスティ再読
(2019/06/01 14:02登録)
あれ、本作不人気だなあ。雰囲気暗めだからかな...舞台が晩秋で湿っぽいのにメグレが合わないわけじゃなし、このくらいは悪くないと思うんだけどね。
老舗というか古めかし過ぎて倒産寸前のビスケット会社を経営する一家で、押し込み強盗を疑われる状況での主人の死体が見つかった。メグレが出動するが、若い予審判事があれこれメグレに指図したがるわ、この一家は捜査に非協力的でいきなり弁護士を雇って捜査を監視させるわ...とメグレも手足を縛られたような捜査が続く。
けどね、メグレは「私は何も考えない」「メグレ流の捜査なんてない」というスタンスだから、こんな外的制約にだって動じない。家族に対する尋問をせずに、周囲から外堀を埋めていくかのように、徐々に状況をメグレは把握していく。最後は若い判事に花を持たせる余裕あり。
キャラとしては、家風を嫌って家出した一家の長女が、レズビアン・クラブの男装バーテンになっていて、なかなか素敵(苦笑)。シムノンも「家モノ」がたまにあるけど、抑圧されてヒネた息子と疎外された嫁、奔放で距離を置きたがる娘って構図はお得意。今回はハジけちゃう母親(「ドナデュの遺書」とか「サンフィアクルの殺人」とか)はなし。

No.2 5点
(2011/11/04 20:51登録)
証人たちは、原題を直訳すれば口が堅いというより反抗的ということなのですが、内容的にも本当にそうです。館の中で死体が発見され、初期捜査での聞き込みにあたってさえ、弁護士を呼ぶという家族たち。老女中も妙にメグレに対して攻撃的です。
一方、若い予審判事はやたらに事件捜査の指揮をとりたがって、最後の方では夢にまで見るほどメグレをわずらわせます。前作『メグレと火曜の朝の訪問者』ではメグレにあまりにあっさり事件を片付けられてしまって少々不満だったコメリオ判事も、本作ではもう引退してしまっているという設定です。
本当ならば時代の要求に応じられず、もっと前につぶれていたはずの老舗ビスケット工場をなんとかそれまで存続させていたのは何か、そしてその存続が危機に瀕した時に一家に何が起こったか、というところが本作のテーマです。最後の尋問場面(直接的には予審判事による)ではその家族全員の身勝手さと不安の主題を盛り上げてくれました。

No.1 5点
(2010/08/05 12:49登録)
今回メグレが捜査するのは、伝統的なビスケット会社の創業者の家で起こった殺人事件。被害者は当主だが、なぜか家族の人たちはみな口が重い。
前に読んだ「メグレと老婦人の謎」にくらべればミステリーの匂いがぷんぷん漂っているし、ちょっとした「○○家」物ともいえるのですが、事件は1件きりで、密室もなければ、トリックもなし。むしろ、一族の因縁めいたどろどろしたところが話の中心で、国内で喜ばれそうな、ドラマ化されそうな内容です。老舗ビスケット会社を日本のカステラ屋に置き換えると、内田康夫の「長崎殺人事件」になってしまいそうです(筋は似ていないが、老舗ののれんが絡んでいるところが似ている)。とにかく内田作品と同様にサクッと読め、日本人が好みそうな雰囲気を持った小品でした。

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