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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1185 6点 病院坂の首縊りの家
横溝正史
(2020/06/04 23:09登録)
本サイトではあまり評判の良くない本作ですが、久しぶりに再読してみると、かなり楽しめました。確かに、心理的あるいは叙述系トリックならともかく、単純な物理的トリックの再使用には、がっかりさせられるだけかもしれません。それにしても、元の作品名までちゃんと明記した上で、その作品を読んだ犯人が、本当にうまくいくかどうか実験してみた上で実行しているというのが、苦笑させられます。横正先生自身も「序詞」の独白部分だけでなく、途中に一人称形式で登場して、しかも重要な証拠を見つけるというのも笑えます。
しかし。別にユーモアを重視した作品というわけではなく、全体の構成には重苦しい悲劇性があり、本作の読みどころはまさにそこでしょう。個人的には最後の金田一耕助と弥生との会見と、その後の「拾遺」での墓地での会話が、なかなか感動的だと思いました。


No.1184 5点 狼を庇う羊飼い
ベンジャミン・M・シュッツ
(2020/06/01 22:44登録)
ワシントンDCのタフな私立探偵レオ・ハガティーが活躍するシリーズの第1作です。
基本的にはハガティーの一人称形式ですが、ところどころに三人称形式で、犯人と、その犯人に5年前娘たちを誘拐された男の視点から書かれた章を入れています。久しぶりに犯人からかかってきた電話から、執念深く犯人を追いかけていく男が、最初のうちはなんだかねという感じだったのですが、だんだん説得力を持ってきて、後半の緊迫感を生み出しています。それに、ハガティーが捜査中に関わり合った強姦事件の顛末を組み合わせた構造になっています。クライマックスの海上シーンは迫力充分ですが、タイトルのテーマを掘り下げるために、むしろ逆にそのシーンの前の地味な心理サスペンスを重視した方がよかったような気もしました。
ただ文章には、「われわれは隔離された神の馬鹿な子供だ。」(第9章.)といったような気取りすぎなところがあるのが不満でした。


No.1183 6点 マンダリンの囁き
ルース・レンデル
(2020/05/29 21:34登録)
ウェクスフォード警部シリーズ第12作は、警部が甥のフォーチューン警視正のはからいで、警視庁訪中団の一員に加わり、夏の暑さと謹厳実直な案内係に辟易しながらも余暇に中国旅行を楽しんでいるシーンから始まります。実際のところ、大きく3部に分れた本作の第1部は、この中国旅行に費やされているのです。この部分で起こる出来事は、動機を除くと第2部開始部で起こる本筋の殺人事件には関係ありません。それでもただ旅行記というだけでなく、警部が見る纏足の老婦人の謎とか、船から中国人が転落して死ぬ事件とかもあります。ただ一か所、最も不思議な列車の中のミイラについては、結局レ・ファニュ頼りなんでしょうか…
タイトルのマンダリンとは本来は中国標準語、あるいは清朝高級官吏の意味ですが、本書では別の意味を持っていて、それに関連する勘違いが明らかになる部分には、真犯人の設定より感心させられました。


No.1182 5点 皆殺しの家
山田彩人
(2020/05/23 08:39登録)
6話からなる連作短編集。
女刑事亜季の一人称形式で語られる、都筑道夫の退職刑事シリーズをも思わせる、安楽椅子探偵の変形です。ただし探偵役が変わっていて、家族皆殺しで指名手配中の容疑者で、亜季の亡き兄の家に閉じ込められているという設定です。巻末解説にも書かれているように、レクター博士をも連想させますが、きわめてまともな人間に描かれています。亜季とその双子の羽瑠との3人で討論する形で、試行錯誤を繰り返していく推理過程は、むしろデクスターを思わせるところさえあります。
最初の『乱歩城』はなかなか奇抜なトリックからそれが成り立つ設定を考えたことが露骨にわかる作品です。某海外古典短編を基にした『空からの転落』とホワイダニットとしてよくできた『魔術的な芸術』が気に入りました。ただ最後の表題作の終わり方は、独り合点のままになって、現実的な決着を放棄しているとしか思えませんでした。


No.1181 6点 北氷洋逃避行
ジョルジュ・シムノン
(2020/05/20 22:58登録)
京北書房から1946年に出版された後、1952年にメグレもの『運河の秘密』(『メグレと運河の殺人』)に併録されたことがあるそうですが、今では邦訳が最も入手しにくいシムノン作品のひとつでしょう。当然そんな古書を探す気などなく、読んだのは原書です。
この邦題からしても、また原題(英語なら THE passenger of Polarlys)からしても、その船客を主役とした犯罪小説系かと思っていたのです。しかしこれはメグレもの以上に謎解きミステリ系の作品になっていて、驚かされました。ノルウェーの町々に寄港していく客船兼貨物船ポラリス号で、まず客の一人が失踪、さらに途中から乗り込んできた警察顧問が殺されるという事件で、クローズド・サークルのフーダニットなのです。しかも最後の方には船が嵐に出会うスペクタクル・シーンまで用意されているというシムノンとは思えない展開は、意外に楽しめました。


No.1180 6点 真犯人
パトリシア・コーンウェル
(2020/05/16 22:39登録)
以前に読んだコーンウェルの2作は、邦題が原題の意味を汲んだものになっていましたが、本作は全く違っていて、”Cruel & Unusual”。しかしこの邦題は内容に即しているとはとうてい言えません。
10年近く前に起こった殺人事件で死刑判決を受けた男の処刑が行われる(刑の確定後ずいぶん経ってからなんですね)ところから話は始まります。その過去の事件によく似た状況の殺人事件が処刑当日夜に起こり、さらに続いて起こる殺人では、処刑された男の指紋が発見されるという、ミステリアスな展開です。当然ドイルやフリーマンの作品が思い浮かびますが、真相は全く違った現代的方法をとっています。しかし読んでいる間は登場人物たちの魅力もあって非常におもしろいのですが、振り返ってみるとそんなトリックを弄して捜査を混乱させる必要が全くなく、ただ手袋をしていればいいだけじゃないかと思えてしまうのが、難点です。


No.1179 6点 苦くて甘い心臓
都筑道夫
(2020/05/13 22:55登録)
西連寺剛シリーズ短編5編を収録。
表題作は集中最もパズラー寄りの作品と言えるでしょう。押し入れの中の死体消失という、ハウとホワイ両面の謎が提示されます。ハウの方はどうということもありませんでしたが、伏線はしっかり張ってありました。なお、タイトルはバレンタイン・デーのチョコレートのこと。
次の『天竺ねずみ』は、失踪人探しから始まり、やくざも登場するいかにもハードボイルドらしい作品。尾行シーンで始まる『黒南風(くろはえ)の坂』は不思議な雰囲気があり、真相をはっきりさせないところがかえって好ましい印象を与えます。『人形の身代金』の内容はタイトルどおりですが、誘拐(?)犯が殺されて、という展開になります。犯人の設定が今ひとつな気もします。最後の『見えない猫』は人情味を利かせたという点では一番ですが、タイトルの意味がなんだかねえという感じでした。


No.1178 6点 拳銃を持つヴィーナス
ギャビン・ライアル
(2020/05/07 22:57登録)
美術品の密輸をテーマとしているところが、個人的には興味深かった作品です。
例によって一人称形式の主人公は銃器を扱う骨董商で、美術品の密輸も請け負っているという設定です。ルネッサンスから近代まで、何枚もの有名画家の絵が登場します。ただ、デューラーの版画にまつわる国境での検査部分を除くと、密輸が成功するかどうかのサスペンスはほとんどありません。ではアクションはというと、こちらもライアルにしては非常に少ないのです。最初の仕事で主人公が頭を殴られて気絶するところも、そのため直前の記憶を失ってしまうという言い訳のもとに、直接的には描かれません。最後に銃の撃ち合いになるシーンが2回出てきますが、これも他の作品に比べるとあっさりとしたものです。
タイトルは、最後に扱う絵のこと。しかしジョルジョーネにそんな図柄の絵があるとはどうも思えないのですが。


No.1177 7点 ナポレオンの剃刀の冒険
エラリイ・クイーン
(2020/05/04 22:17登録)
ラジオドラマ版『エラリー・クイーンの冒険』シリーズって、『犯罪カレンダー』もその内から選んで小説化したものだとは知っていましたが、それ以外にもよくできたものがいろいろあるんですね。第2弾『死せる案山子の冒険』も併せた原書のタイトルは、皆さんに圧倒的に評判のいい『殺された蛾の冒険』(他ラジオ・ミステリ)が採用されています。この作品はドラマ・シリーズの中でも、本書中最も新しい1945年の放送作です。犯人はなんとなくこの人物が怪しいとは思ったのですが、蛾の死体から導き出される推理には全く思いいたらず、まいりましたというところです。堂々とこれが手がかりだと宣言しているところは、『オランダ靴』をも思わせます。
他には足跡トリックがわかっただけでは犯人を特定できない『呪われた洞窟の冒険』、メッセージを解読できてかえって混乱した『ブラック・シークレットの冒険』が気に入りました。


No.1176 6点 石の眼
安部公房
(2020/05/01 22:43登録)
安部公房が書いた、ダム建設に関する収賄、手抜き工事をテーマとする社会派ミステリという点が非常に意外な作品です。普通、聖書の一節「ラクダが針の穴をとおるのは、金持が天国へ行くよりも容易しい」(マタイ19章16-26節の意訳というか曲解)という説に基づいて実際に駱駝が主人公の眼の中に入り込む(『壁―S.カルマ氏の犯罪』)ようなホラ話を書いている作者とは思えません。
県監督官庁課長がダム監査廊の急な階段に置かれた石につまずいて危うく死にそうになった事件について、登場人物たちがそれぞれ異なる説を考えるという多重解決趣向は、「不条理」感を出す役に立っていると言えなくはないとは思いますが、パズラー系ではたいして珍しくありませんし、最後に明かされる真相が特に意外というわけでもないのも、このタイプの宿命みたいなものでしょうが、ミステリとしてしっかりまとまってはいます。


No.1175 8点 第三の眼
ケイ・ノルティ・スミス
(2020/04/25 09:49登録)
基本的には事件の真相を追うデイモン刑事の視点から書かれた作品です。それにもかかわらず後半は裁判が続く法廷ミステリになっているのは、デイモンの驚くべき転身があるからなのです。
その裁判になる事件が殺人なのか事故なのかという点も謎ではあるのですが、殺人だとしたら犯人は逮捕される女性記者に決まり切っているのであり、それ以上に、女性記者は何を考えているのか、そしてさらに重要なのは死んだ文化・道徳価値研究所所長がどんな人物だったのかという点が、追及される中心問題になります。まあ、初っ端に書かれているこの所長の主張からすれば、彼の考えがどんなものだったのかの見当はすぐにつきますが。
それでも、大統領選挙につながる政治的思惑も絡めて、社会学者の思想を示すカセット・テープがどうなるのかなど、最後まで緊迫感が続き、エドガー賞処女長編賞受賞も納得のいく作品です。


No.1174 7点 ハメット
ジョー・ゴアズ
(2020/04/22 23:17登録)
ヴィム・ヴェンダース監督は好きで、『パリ・テキサス』等いくつも見ているのですが、コッポラがプロデュースした本作の映画化は未見のまま。で、その原作の方ですが、読んでいて奇妙な感じにおそわれました。主役はハメットなわけですが、いつの間にか何となくハメットの作品を読んでいるような気分にさせられてしまうのです。ゴアズは一応ハードボイルドの枠の中で様々なタイプの作品を書いているため、明確なスタイルを掴みきれず、ゴアズの小説を読んでいるという意識が、希薄になってしまうことも原因でしょうか。
作中のハメットが『デイン家の呪い』の改稿に苦労している様子が、あの珍作を知っていると笑えます。
ただラストの二重の意外性については、個人的にはそれほど感心できませんでした。一方の方は人物造形に多少疑問を感じましたし、もう一つはそんな技巧を使う意味があったのか疑問だと思ったのです。


No.1173 5点 秘書室の殺人
中町信
(2020/04/18 08:47登録)
「酔いどれ探偵」課長代理深水文明の社内殺人シリーズ第3作。
プロローグに叙述トリックを仕掛けるのは中町信らしいところですが、今回はその種明かしになっているエピローグと合わせて4ページだけ、一人称形式になっています。というわけで、その「私」とは誰なのかということが謎になっているわけです。構成全体の中での使い方は、この作者を初めて読む人だったら驚かされるでしょうねというぐらいのものとは言え、やはりおもしろいアイディアであるとは思いました。まあ偶然が過ぎると言う人もいるでしょうが。それ以外の謎というと、プロローグの「私」の行動理由などむしろホワイダニットになっているところが、この作者としては珍しいところでしょうか。
しかし事故か自殺か他殺か、決め手に欠ける最初の事件について、その原因が具体性に欠けるのは、非常に問題があります。


No.1172 6点 砂州の死体
マーガレット・マロン
(2020/04/15 20:16登録)
1981年デビュー後、1992年デボラ・ノットが登場する第1作『密造人の娘』でアメリカのミステリ関係の賞をほとんど総なめにした作者の、同シリーズ第3作。第1作では弁護士だったそうですが、本作では判事になっています。途中裁判シーンもありますが、本筋とは関係のない交通事故や離婚などの裁判ばかりで、中心となる殺人事件の関係者が被告人になる自転車窃盗事件だけはさすがに数ページ費やされていますが、それ以外は詳しい内容は書かれていません。そんなわけで、主役の職業から想像されるような法廷ミステリではありません。また少なくとも本作では、必ずしも彼女が探偵役というわけでもないのです。
要はデボラの一人称で語られるミステリということで、コージーとも言いづらいし、登場人物たちをじっくり描くリアリズム系の、犯人の意外性など無視した「小説」です。そのような作品としてはこの評価でしょうか。


No.1171 7点 不思議な国の殺人
フレドリック・ブラウン
(2020/04/12 23:25登録)
邦題はルイス・キャロルの代表作を元にしていますが、原題は “Night of the Jabberwock”。『鏡の国のアリス』の方に出て来る「ジャバウォックの詩」に描かれた鳥のような怪物です。と言っても、実は『不思議の国のアリス』でさえ忠実な翻訳は読んだことがないのですが。
一人称の主人公、小さな町の週刊紙主筆ドックはアリス・シリーズの研究者でもあり、アリスおよびキャロルについての蘊蓄はふんだんに出てきます。これまで大した事件も起こらなかった町で、新聞発行の前日の夜、ドックが特ダネになるような出来事に次々出会うことになる、その積み重ねが楽しい作品です。中心となるのは、作品紹介にも書かれたドックが容疑者になる殺人事件ですが、それが起こるのは6割ぐらい経ってからで、それまでにも様々な事件が、これでもかというぐらい起こります。それら全部の最終的なまとめ方がまた、ばかばかしいようなおもしろさでした。


No.1170 6点 天使に見捨てられた夜
桐野夏生
(2020/04/06 22:08登録)
タイトルは、作中で殺されるミュージシャンの曲名です。この殺人事件は、ミロが依頼された失踪人探しとは当然無関係と思われたのですが、その棺の中に入れられていたビンが、失踪AV女優の出演ビデオに映っていたものとそっくりだったことから、何らかのつながりがあるのではないかとの疑惑が出てきます。
そういった細かい点を地道に調べていく調査小説として、なかなか楽しめます。ただ、そのビンの中身「雨の化石」については、化石の基礎知識さえ得た後は、図書館巡りなどせず、さっさと専門家に現物を見せろやと言いたくなりましたが。ミロに協力する彼女の父親や同性愛者の隣人トモさんなど、登場人物たちの魅力が、作品自体の魅力もアップしています。
ところでミロって、スペインの画家みたいな名前ですが、第2の依頼人宅にはダリの絵がありました。ツグジ(藤田嗣治のことでしょう)のデッサンの方は、それに気づくなんて、ミロ美術に詳しすぎ。


No.1169 7点 道化の町
ジェイムズ・パウエル
(2020/04/03 22:35登録)
本サイトにも登録されていることは気づいていたのですが、つい最近になって奇妙な味の短編系の作品集だと知って、さっそく読んでみたのでした。
ユーモア感覚が高く評価されている作家のようですが、最初の3編を読んだ段階では、まさに「奇妙な味」はあるものの、笑える感じではないじゃないかと思っていたのです。特に『プードルの暗号』はむしろ不快な結末です。しかし次の『オランウータンの王』の冗談としか思えないラストには、唖然とさせられました。この2作に限らず、全体的にファンタジー的な要素が濃厚ですが、一方『アルトドルフ症候群』は事件の語り手設定こそSF的ですが、凝ったトリックのまともな謎解きミステリになっています。一方メイナード・ブロック巡査部長代理シリーズの2編、特に『折り紙のヘラジカ』はおふざけぶりが徹底しています。表題作はサーカスのユーモアとペーソスが融合された傑作。


No.1168 5点 死はつぐないを求める
ジョゼフ・ハンセン
(2020/03/30 23:15登録)
同性愛者の保険調査員デイヴ・ブランドステッター・シリーズの第2作です。本作でも最初に会う人から、「ねえ、ミスタ・ブランド―?」と言われる、覚えにくい名前の探偵役。
前作『闇に消える』における彼の私生活については記憶に残ってないのですが、ところどころに愛人ダグのことが出てきます。事件そのものにも同性愛が絡んでくる話になっていますが、デイヴ自身が同性愛者であることとの関連性がなく、2作目にしてこのモチーフへのこだわりに多少無理が出てきているようにも思えます。捜査小説としてはおもしろいのですが、謎解き的には、犯人が印象の薄い登場人物で、意外性があまり感じられないという不満がありました。
ハードボイルドらしい抑制された文章ですが、翻訳のせいなのか、三人称形式であるにも関わらず完全にデイヴの視点からのみ描かれているため、「私」でないことに違和感を覚えてしまいました。


No.1167 5点 二幕半の殺人
高木彬光
(2020/03/27 00:03登録)
霧島三郎検事シリーズの中短編5編。
最初の『被害者を探せ』は、取り壊し中の家に備え付けられた防空壕の中から発見されたコンクリート詰めの死体が誰かという謎ですが、真相にはなんとなく不満を感じてしまいました。犯人の狙いはわかりますし。作者自身の某初期長編のアイディアにさらにひねりを加えているのは悪くないとは思うのですが。次の『毒の線』はあまり印象に残りません。最もおもしろかったのが『同名異人』で、脅迫の相手はどちらだろうという、同名異人アイディアにもこんな使い方があったかと感心しました。『鬼と鯉』というのは刺青の絵柄のことで、暴力団の世界が扱われていますが、刺青の使い方に工夫があります。最後の表題作は100ページ近い中編ですが、長いわりに大したことはないという印象でした。
それにしても気になるのが、『同名異人』と表題作の最後のまとめ方で、これは法律的にまずいでしょう。


No.1166 6点 ニコラス街の鍵
スタンリイ・エリン
(2020/03/21 16:23登録)
エリンの長編第2作は、ジャンル分けに困る作品でした。
殺人が起こって、その事件の犯人が誰かという謎があり、最後にはその謎がそれなりに論理的に解かれるという点では、本格派的と言えなくないかもしれません。しかし作者の狙いは全く別で、隣人の女流画家が殺された事件を中心にして、ニコラス街に住むアイレス家の人間関係を語っていくところにあります。全体は5部に分れ、家族の家で働く家政婦の視点で書かれる第1部から始まり、残りは家族それぞれの視点から、すべて一人称形式で語られます。そして5人の語り手以外の事件関係者は、被害者と、もともと被害者の知り合いで、アイレス家の人々ともつき合うようになった男、この男が相当癖の強い人間です。
作品紹介文を読み、登場人物表を確認した段階で、なんとなく犯人が誰かは見当がついてしまいましたが、それでも全く問題ない作品です。

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