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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.1210 3点 危険な水系
斎藤栄
(2020/09/14 00:24登録)
斎藤栄の中でもかなり初期の作品で、同じ1971年には代表作の一つと言っていい『香港殺人旅行』も書かれています。しかし本作は、そのような厳格な謎解きものではありませんでした。事件の骨格だけ取り出してみれば、公害をまき散らす企業とそれに対する反対運動を中心に据えて、最後に意外な犯人を明かしてみせる作品です。ということで一応社会派に分類はしたのですが。
普通なら社会派テーマをどこまで掘り下げ、また犯人の意外性をいかに効果的に演出するかに工夫をこらすところでしょうが、本作はそこに自衛隊と企業との癒着も取り込むことによって、妙にリアリティを欠いたものになっているのです。無理やりな偶然によって構成されてしまった密室は、原理的にはすぐ指摘されるダミー解決も粗雑ですし、実際の方法はもっとあほらしいというか、現実的な構造が全く理解できません。また最後の停電も全く意味不明です。


No.1209 8点 ナイン・テイラーズ
ドロシー・L・セイヤーズ
(2020/09/09 23:13登録)
名作との誉れ高い本作を、やっと読みました。これほど名の知れた作品にもかかわらず、創元社から1998年に新訳が出るまでは、かなり長い期間手に入りにくい状態が続いていたことには、驚かされます。創元社もセイヤーズは1990年台になって律義に第1作『誰の死体?』から順番に翻訳していっているので、とりあえず有名作だけは読んでおきたいという人はそれだけ待たされたことになります。
で、その内容ですが、個人的には死体が発見される前の「巻の一」の部分が、何と言っても楽しめた作品でした。その間にも、過去のエメラルド盗難事件については語られているのですが。その後「巻の二」で死体が墓地で発見されてからは、多少退屈になってきます。「巻の四」の最終的解決まで、冒頭シーンからだと約1年かかるのもその理由でしょう。
ところで、殺したのは誰かという点については、クリスティーのほぼ同時期の作品と重なると思うんですけど。


No.1208 6点 ポジオリ教授の事件簿
T・S・ストリブリング
(2020/09/05 08:08登録)
巻末解説によると、エラリイ・クイーンの求めに応じて、1945年に再開されたポジオリ教授シリーズの第3期短編群は23編を数え、その内15編を選んだ "Best Dr. Poggioli Detective Stories" があり、本書はさらにそこから11編を選んだものだそうです。4編をカットする必要もなかったように思えますが。
山口雅也氏は「《向こう側》への希求」と題してこのシリーズを論じていますし、カバー作品紹介には「ミステリーのもう一つの可能性を追求した」と書かれていますが、本作を読んだ限りではそれほどのものかなと思いました。ホームズ由来のスタイルを採っているにもかかわらず異色な感じがすることは確かですが、いわゆる「奇妙な味」の短編やシュールレアリズム系小説にそれなりに親しんでいると、特に驚くほどでもありません。それでも独特な妙な味わいがあることは確かで、ポジオリ教授の説得力のない推理も楽しめます。


No.1207 6点 アリバイ特急+-の交叉
深谷忠記
(2020/09/02 20:01登録)
タイトルの「+-」は「じゅういち」ではなく「プラス・マイナス」です。荘と美緒シリーズの中でも初期、このタイプのタイトル最初の作品。
講談社NOVELSカバーには「書下ろし大トリック・アリバイ崩し」なんて謳ってありますが、容疑者がすぐに特定されて、後はアリバイをいかに崩していくかに集中した作品ではありません。むしろ動機がはっきりせず、前半は宮崎県日向市と札幌で起こった二つの殺人事件の関連性を探っていく展開です。読者には、プロローグで関連性を明かしているのですが、それでもさらに一ひねり加えています。
第3の殺人が東京で起こり、全体の2/3を過ぎたあたりで主張されるのが、この第3の殺人のアリバイ。実は以前に読んだ梓林太郎の某作に同じアイディアを利用したものがあるのですが、発表は本作の方が数年早く、しかもアリバイにはそれ以外の工夫も取り込み、はるかに複雑にできています。


No.1206 6点 汚れなき女
フランセス・ファイフィールド
(2020/08/27 23:25登録)
公訴官弁護士ヘレン・ウェスト・シリーズの第5作。 原題は "A Clear Conscience" 、最後のページに「心にやましさがない者」という言葉が出てきます。邦題もそれっぽいイメージの言葉に、シリーズ邦題のみ共通の「女」をつけたのでしょうが、内容にはそぐわないように思います。
この作家は実際に読んでみると感心させられるのですが、他の作品も読んでみたいという気にはなかなかなれません。不快感を伴う重さ、暗さ(ユーモアもないわけではないのですが)がその原因なのかなとは思うのですが、要するに好みの問題でしょう。
前作『逃げられない女』でもそうでしたが、家庭内暴力という、人に不快感を与えやすいテーマを扱った今回も、ヘレンは探偵役ではありません。まあ最後の最後に殺人事件の真相に気づくことにはなるのですが、それは捜査や推理によるものではありません。それに読者にはその直前、犯人の視点から真相を明かしています。また終わり方がなんとも微妙なのです。


No.1205 7点 黒いスズメバチ
ジェイムズ・サリス
(2020/08/24 23:24登録)
1996年発表の本作の時代設定は1960年台後半で、語り手の黒人探偵ルー・グリフィンが、30年近く前の出来事を回想して書いているという設定です。会話途中などに、事件とは無関係な追憶を挿入したところもあるのですが、さほどうるさい感じはしません。これはこの作家の文章表現のうまさでしょうね。ハードボイルドらしい気取った感じはするのですが、スタイルとして確立されていて、不自然さがないのです。
謎解き、捜査小説としてのおもしろさはほとんどありません。「小説に出てくる私立探偵はみんなまちがっている。出かけていってだれかを捜しだす必要などないのだ。家で待っていれば、むこうからやってきて、こっちを見つけてくれる」(p.147)といった具合です。まあ最後には連続狙撃犯の意外な身元が明かされますが。
訳者あとがきにはチェスター・ハイムズが「ちらりと登場する」と書かれていますが、本人の講演会シーンのことでした。


No.1204 6点 エンジェル家の殺人
ロジャー・スカーレット
(2020/08/21 22:11登録)
乱歩『三角館の恐怖』(春陽堂1953出版 日本探偵小説全集)のタイトル・ページにある「ロージャー・スカーレット「エンジェル家殺人事件」に據る」という注釈によって存在を知った作品です。今回は創元推理文庫の完訳版で、乱歩版も参照しながら読んでみました。原題は "Murder among the Angells"。Lが2つなんですね。
メインになるアイディアを中心としたプロットはやはりよくできていると思います。第2の殺人のエレベーター密室トリックは、乱歩版ほどではありませんが、やはりかなりあっさり解明されてしまいます。見破られても犯人特定に結びつかない方法ですし、即死させる必要もない設定(この点は乱歩版の方が明確に指摘しています)なので、トリック的には問題ありません。
しかし、簡潔でありながら扇情的な乱歩の文章表現に比べると、特に最後の犯人を罠にかける部分のサスペンス等、文学的にはもの足りません。


No.1203 4点 マグレと都市伝説
鯨統一郎
(2020/08/18 23:28登録)
タイトルからしても、メグレ警視のパロディ的なところがあるのかと思っていたのですが、全く無関係でした。部下の谷田貝美琴刑事の名前をたとえば流香にするとかいった発想もなく、結局ミステリ史上最も有名な警察官の一人の名前とタイトル・パターンを「気まぐれ」に取り入れてみたということだけなのでしょうか。
ミステリとしての事件構造だけ見れば、そんなに悪くないものが多いと思います。第5話、第7話など、そんなあほなと思える物理的トリックも副次的に使われていますが、まあいいでしょう。何と言っても、ほとんど伏線もなしにマグレと谷田貝美琴が歌う昭和歌謡曲メドレーで暗示的に真相を指摘してしまい、また最後に各作品別の公園で最終解決を示すリアリティ皆無の無理やり自覚的ワン・パターンを許容できるかどうかが問題でしょうか。しかし、原則事件とは無関係な「口裂け女」等の都市伝説は、どうでもいいですねえ。


No.1202 6点 奇妙な相続人
マーシャ・マラー
(2020/08/12 23:17登録)
徳間文庫から出ていたシャロン・マコーンのシリーズは、本作で途切れることになってしまいました。本作の後9年近くたってから、かなり新しい『沈黙の叫び』が講談社から出版されただけ。
ミッシング・リンク系の連続殺人を背景に、殺された会計士の遺言で指定された遺産相続人を探す依頼をシャロンは受けることになります。邦題はその相続人たちのことですが、原題 “Trophies and Dead Things” は、相続人の一人に指定された弁護士の作った気持ちの悪いオブジェ、弁護士自身は「わたしの宝物(フェティッシュ)」と呼んでいますが、それを見た時にシャロンが思いついた言葉で、「戦利品と死骸(むくろ)」と翻訳されています。これが比喩的な意味を持つことになるわけです。
前半はちょっと地味すぎる展開ですが、最後の方になると殺人犯とシャロンの銃の撃ち合いなど、アクション度もかなり高くなり、楽しめます。


No.1201 5点 スパイ・ストーリー
レン・デイトン
(2020/08/09 18:40登録)
レン・デイトン初読ですが、このような作品が多いのなら、あまり好きにはなれない作家だと思いました。基本リアリティのある作風にもかかわらず、miniさんが『ベルリンの葬送』評で「100%全て説明されないと気が済まないタイプの読者には最も嫌われる類」と書かれているとおりのものだったからです。
いや、アンブラーの『インターコムの陰謀』みたいにわざと不明瞭にして不気味さを出しているなら、全く問題ないのです。しかし本作では、KGBが主役パットの家に押し入ってきた理由、パットがあえて恋人マージョリーを伴ったまま家宅侵入を敢行した理由、クライマックスで敵方があえて素手で攻撃を加えてきた理由など、説明のつかないことだらけなのです。途中、クリスティーの本が数ページストーブの焚き付けにされるシーンがありますが、これはそのような論理的整合性を重視する小説に対する揶揄にも思えました。


No.1200 7点 駅路
松本清張
(2020/08/05 23:33登録)
表題作等10編の内、『ある小官僚の抹殺』はカッパ・ノベルズ版『黒地の絵』で読んだことがあります。この作品はドキュメンタリー・タッチで描かれた、タイトルからも推察できるようにいかにも社会派な作品です。あと倒叙もの『捜査圏外の条件』も、疑われないための段取りや、その企みが崩れるきっかけは覚えているのですが、どこで読んだのだったか。
他の方も指摘されているとおり、謎解き要素の特に強いのが『巻頭句の女』と『薄化粧の男』。後者はクリスティーの得意とするあの手ですね。表題作は、『巻頭句の女』や『白い闇』と共通するところがありますが、3つの中では最も印象が薄く、これを表題作にするのかなと思えました。
まあ『万葉翡翠』と『陸行水行』という歴史の謎を探るという意味での歴史ミステリを2作揃えたところが、本書の目玉でしょうか。後者の中では、ジョゼフィン・テイの『時の娘』も言及されています。


No.1199 5点 鮮血の日の出
ミッキー・スピレイン
(2020/08/01 13:23登録)
タイガー・マンのシリーズ第2作。前作で出会ったエディスと結婚して諜報機関を退職しようとしていたまさにその日に舞い込んできた新たな指令は、アメリカに亡命してきた共産圏の情報部局長をめぐる事件に関するものでした。
プロット自体は、なかなかおもしろくできていて、アクションもふんだんに盛り込まれています。冒頭の、タイガーが以前に助けたことのある男の話も、当然どこかでつながってくるんだろうなと予測はできますが、クライマックスにうまく結びつけています。タイガーが機関の研究者から渡される秘密兵器も、期待どおり最後には有効活用されることになります(それにしても破壊力がありすぎ)。
しかし一方で、作者の安っぽい反共産主義的思想の大盤振る舞いはどうでもいいやという感じですし、エディスをロンディーンと呼んだりする恋愛側面の甘ったるさには辟易させられるところもありました。


No.1198 7点 アウトローのO
スー・グラフトン
(2020/07/28 23:21登録)
キンジーの最初の夫ミッキー・マグルーダーが撃たれて瀕死の重傷を負う事件の顛末が描かれた作品です。ミッキーについては、以前の作品では全くと言っていいほど語られなかったそうですが、その彼が最後どうなるのかというとろころも、見どころの一つとなっていて、ラストの味わいがなかなかいいのです。彼女がミッキーと別れる原因となった過去の事件の究明ということで、作者も気合が入っている感じです。未読の作品の書誌データを調べてみたところ、分量的にもこれまでで最も長いものになっています。
謎解き的には特にどうと言うこともありませんが、それなりの意外性はあると言っていいでしょう。
ところで、PIと呼ばれるものを今まで "Private Eye" だと思っていたのですが、本作では "Private Investigator" の頭文字としていました。なるほど、それなら厳密に実際の頭文字です。


No.1197 5点 寝台特急18時間56分の死角
津村秀介
(2020/07/22 23:27登録)
予想どおりに話が展開していく作品でした。作者もそれは当然わかった上で筆を進めているものでしょう。ただ一つ意外だったのが、冒頭、長崎県大村市で起こる殺人事件で、ハンドバッグの中身がなくなっていた件でした。犯人が誰であるかは、読者には容易に想像できるように書かれています。作中の警察やルポライター浦上がその人物が怪しいと気づくのは半分近くなってからですが。また神奈川県藤沢市で起こる殺人事件がつながりを持ってくることも、当然と言えるでしょう。二人の被害者のつながりは、見当はつけやすいものの、悪くないと思いました。
そして後半はアリバイ崩しになってくるわけですが、これはどうということもありません。藤沢・名古屋間の経路は、時刻表を普通に確認すればわかるはずのものである上、その時刻表を作中に掲載していないのでは、アンフェアです。それでも全体の印象はまあまあといったところでしょうか。


No.1196 6点 ハード・トレード
アーサー・ライアンズ
(2020/07/19 23:14登録)
ジェイコブ・アッシュ・シリーズの第6作ですが、この作家を読むのは初めて。というか、本作が河出書房のアメリカン・ハードボイルドのシリーズに入っていたので名前だけはかろうじて知っていたという程度だったのです。アッシュは(ライアンズ自身も)ユダヤ人だそうですが、本作ではそのことには触れられていません。
婚約者の素行を調べてほしいという女からの依頼で始まるのですが、その調査はかなり簡単に成果を上げて終わった後、その依頼人からの、とんでもないことに巻き込まれたので相談に乗ってほしいという電話があります。待ち合わせの場所に赴いたアッシュの目の前で、女は殺されてしまい、そこから政治的な大事件へと発展していくという、社会派的なプロットが展開していきます。
事件の全貌も推測に過ぎないまま終わらせる決着の付け方に、政治の世界へのやりきれないような思いを込めた作品になっています。


No.1195 7点 喪失のブルース
シーナ・カマル
(2020/07/15 22:55登録)
ハードボイルドの探偵は違法行為も辞さない場合がかなりありますが、それでも暴行とか住居侵入がほとんどです。しかし本作で初登場したノラ・ワッツは平気で自動車を盗んだり(無断借用とも言えるかも)、人の誤解に付け込んで金を巻き上げたりと、窃盗をやりたい放題です。しかしそれも、彼女の生い立ちを考えれば納得できないこともありません。
この主人公は私立探偵と言うわけではなく、私立探偵とジャーナリストの調査助手をしているのですが、忘れてしまいたい自分の過去と正面から向き合わざるを得ない事件について独自に調査を始めることになります。
かなりご都合主義なところも見受けられるのですが、暗く重い雰囲気のせいか、それほど気になりません。昔はブルース系の歌手でもあった彼女が歌うシーンが2回。この最後の方の2回目は、実際にあったことを元にしているのではという気もしますが、迫力があります。


No.1194 5点 猿の証言
北川歩実
(2020/07/09 22:54登録)
医学というより細胞学、遺伝学等の生命科学を駆使する覆面作家の長編第4作は、チンパンジーの知能、さらに半ば近くになって浮上するヒトとチンパンジーの雑種をテーマにしています。作中ではチンパースンと名付けられたこの雑種は、人工的な生殖技術を使えば可能とする説が、正しいのかどうかはわかりませんが。ただ、この作者はSF的な解決を持ち出してくることはない(少なくともこれまで読んだ3冊では)ので、常識的な科学の範囲でどう決着をつけるのかが興味の中心です。
最後の方で次から次へと意外な展開になり、真相がどうなっているのか掴みにくいのですが、本作ではその意外性のほとんどが、登場人物がそれまで隠していたことを語り出すことによって起こっているのが、不満なところです。結末は少々後味の悪いものになっていますが、だからこの後どうなるの、という気もしてしまいました。


No.1193 5点 死を歌う孤島
アンナ・ヤンソン
(2020/07/06 23:00登録)
島に集まった人々が次々に殺されていくプロットなので、当然『そして誰もいなくなった』を思い浮かべる人が多いようです。確かにそのとおりで、そこはおもしろいのですが、かなり別の要素が入ってきている作品です。で、実はそこが本作の問題点と思われるのです。
この作家は初めて読むのですが、スウェーデンのゴットランド島の捜査官マリア・ヴェーンを主役とした作品が中心なようで、本作もその一つ。同僚ペールとの恋愛問題(ペールにとっては不倫)に悩む状況は、地道な捜査を描く警察小説なら、いい味付けになるでしょうが、近くの小さな無人島でのマリアを含むセラピー・キャンプ内で起こる連続殺人の場合には、サスペンスを殺ぐことにしかならないと思うのです。マリアがキャンプに参加する理由となったギャング関係の事件も、本筋とは無関係に進行します。2作に分け、シリーズ外(スピンオフ)作品としてシンプルな構成した方がよかったのではないでしょうか。


No.1192 5点 一ドル銀貨の遺言
ローレンス・ブロック
(2020/07/02 22:04登録)
原題 "Time to Murder and Create" は何のことかよくわかりませんが、邦題の方は、マットへの依頼のことです。一ドル銀貨(直径4cm近くもある重いコインで、現在実用性は奇術道具としてぐらいでしょう)を回す癖のある、マットと馴染みのタレコミ屋が、死後開封してくれと置いて行った封書。
しかし、マットがその遺言に応えるために採った方法は、論理的に非常な問題点を含んでいることが、最初から気になっていたのです。さらにある事件発生後の彼の思い込みには、なぜそう断定できるのか不思議でした。
結局マットの読みはことごとくはずれ、油断している時に命を狙われますし、3人の容疑者のうちタレコミ屋殺害犯人でない2人にも、遺言に反して多大な迷惑をかけることになります。遺言を実現しようする行為が遺言に添わない結果を招くという、皮肉な作品としては誉めることもできますが、間抜けな感じがすることは否定できません。


No.1191 6点 薔薇海溝
水上勉
(2020/06/29 23:07登録)
水上勉については「社会派」より「人生派」と呼ぶのがふさわしいという意見は時折目にしますし、本作(カッパノベルズ版)のカバーにも書かれています。確かにそういうところはあるのですが、『飢餓海峡』と同時期に別の雑誌に連載されていた本作は、この作者にしてはかなり謎解き要素の高いものになっていました。
主役の若い歴史学者は、1年前に両親と共に姿を消した彼の恋人が自殺したとの連絡を友人から受け、伊豆の現場に急行しますが、自殺者は全くの別人だったという、謎めいた発端です。珍しい苗字なので、同姓同名の偶然とは考えられません。途中で、過去の似た事件のことが言及されるのですが、これは実際にあった事件かもしれません。犯人の計画がそのような結果を生み出した経緯は、意外というほどでもありませんが、すっきりできています。ただし、タイトルの意味は何のことだかわかりません。

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