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ミステリの祭典

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占星術殺人事件
御手洗潔シリーズ

作家 島田荘司
出版日1981年12月
平均点8.24点
書評数200人

No.180 5点 クリスティ再読
(2016/07/19 22:36登録)
さて当サイトで絶大な人気の作品だなこれは。評者本作は80年代中ごろに講談社ノベルズ版で読んでいる。だから当時の話題作ではあったけど、今みたいに本作のトリックが俗化していない時期だが、そういう頃に読んで若干モヤモヤした作品である。ようやくこのことが書けるな、単純にうれしい。
長編パズラーってのは評者は「なぞなぞ」ではなくて「パズル」であって欲しいと思っているんだ。この区別は情報論的なものだ、なんていうとかっこいいのだが、違いは「なぞなぞ」は最初にすべての手がかりが全部でそろっている状態だけど、「パズル」は不完全な情報が時系列でいくつも提示されて、それを正しい組み合わせで見たときに初めて解けるような問題だ、と仮に定義したい。本作だと竹越手記は単に「how」を提供して縛りを緩める働きしかないし、京都行きとその結末となる変造札に至っては本当に単に名探偵へのきっかけづくり程度のもので、何か情報を提供したものではない(請われて与えるヒントみたいなもの)だから、無くても全然困らない...というわけで、長編パズラーとして長さの必然性を感じないんだよね。つまり、事件のアウトラインを説明されたところで、名探偵らしくサクっと種明かししてもミステリとしては全然問題ない(が小説家としては困るだろうね)。まあこういう作品というと「オリエント急行」があるけど、あれだと終盤おもむろにポアロが目をつぶって考えると真相がわかっちゃう...申し訳ないが評者はこういうの安易に感じてイヤだな。
であと、ネタがわかったあとでの具体的な犯人指摘のロジックは評者は混乱してるようにしか思えないや。初めて読んだ時に、評者は真犯人の身の上のベタさがイヤなこともあって、いろいろ考察したんだけども、穴の深さと状態からのロジックは、真相が唯一の解釈であるとまでは言えないように思う。まあ同様の真相の唯一性のなさは密室トリックにも言えることではあるけどね。
あと細かい事言うと、昭和11年2月26日は、2月23日の記録的豪雪の後で、ぐちゃぐちゃになった汚い雪の上に新しい雪が積もったような状態だったらしい。有名な日の天気だし、ツッコまれるのを想定してなかったかなぁ。まあ、総じて梅沢手記は戦前の人の文章にも見えないし、狂気も感じない。地理感覚も戦後の人のものだよね...ここらは小説としての詰めの甘さのように感じる。
ま、とはいえマンガの探偵もののネタに使われるくらい有名になったら勝ちかもしれんけど、どっちかいうとそういうポピュラリティって「なぞなぞ」の明快さから来るものだということは否定できない。評点は小説として3点にトリックのオリジナリティで+2点する。

No.179 10点 青い車
(2016/05/16 22:57登録)
 今までどういう訳か書評を後回しにしていた大家・島田荘司氏の名作。
 某推理漫画を先に読んでしまったため、実はメイン・トリックは読む前から知っていました。そのため、僕はおそらく本来の半分くらいしか楽しめなかったでしょう。ただ、それでも最高クラスの傑作であることは間違いありません。書きっぷりの違いで、ここまでトリックの輝きに差があるのかと驚かされました。『異邦の騎士』でもそうでしたが、特に手記のパートの書き方がうまく、グイグイ引き込まれました。細かく、血の通った描写があるからこそ、冷静に客観視したらかなりやりすぎで大掛かりなトリックに違和感を感じさせないのでしょう。デビュー作からその根幹はぶれてないことを端的に示しています。30年を経てもけして古びていない名作で、国産ミステリーを語るなら外せない最重要作です。

No.178 8点 風桜青紫
(2016/03/01 00:34登録)
三度読み返してしみじみと思ったことだけども、とことんメイントリック一本に絞った構成になっている。トリックのための事件、トリックのための登場人物、トリックのためのストーリー。作者もよほど自信があった証拠だろう。改めて見ると、出し惜しみ感がすごい。中盤に御手洗がトリックを思い付かずに混乱している場面なんか、真相を知ってから読めば、「どうしてこんなのがわからないんだ!」と思ってしまうのだが、初読時には私も御手洗と同じくさっぱりわからなかった。トリックの期待度を高める演出は、この作品に限らず多くある(極端な例でいえば流水)ものの、その期待を上回る結末を見せてくれる作品は稀である。そして本作はその稀な部類の作品だった。

トリックは作者の演出力があって初めて光るものだと思っているのだが、島田荘司は本当にそこをよく掴んでいると思う。たぶん『六枚のとんかつ』や『異人館村殺人事件』で初めてこのトリックに触れたとしても、さしてインパクトはないだろう(頭の体操?ぐらいの感想に終わる)。どうしてこの作品に関してはここまでトリックの衝撃が強くなるかと言えば、冒頭の手記から、中盤のミスリード推理まで、伏線が周到に張り巡らされているところに理由がある。アゾート製作だの、死体運搬の旅だの、一見どうでもいいようなサイドストーリーを大袈裟にしまくるのも、すべてはトリックの衝撃を最大限にするため……。あり得ないような決着でも、ここまで徹底的にやってしまえば、文句のつけようがない。本格ミステリとしては疑い用のない完成度の作品。

それにしても、かわいそうなのは金田一と横溝正史だ。なんの関係もないのに、「切腹しろ」なんて訳のわからん因縁をつけられるとはwwww。

No.177 9点 tider-tiger
(2016/01/28 20:58登録)
初めての島荘、斜め屋敷を読んだときには脱力でしたが、懲りもせずに読んだこちらは面白かった。
序盤の手記と明治村が不評のようですが、自分はけっこう好きでした。
狂気がかった芸術家の手記なわけだから、独りよがりな読みづらい文章で丁度良いのではないかと。その方がリアリティがあります。
明治村も自分は楽しく読みました。この時点でトリックの大筋は掴んでいたのですが、もしかして、さらに意外な展開あるかもという期待もあったので。
瑕疵はいくつもあれど、Yの悲劇と同じく長所を重視。けれん味と大技とミステリ界への貢献に敬意を評して9点つけさせて頂きます。

金田一少年が他の方の書評で頻出しておりましたが、御愁傷さまです。
横溝作品には作家の基調と美学がありますが、金田一少年はトリックですとか怪奇趣味ですとかをお手軽に商品化しただけ。仏作って魂入れずの典型例ではないかと思います。私はあの漫画は好きじゃありません。

~以下 気になったところをいくつか ネタバレあります




十二の星座があってそれぞれが人体の各部位を司るのなら、十二の星座が揃わなくてはアゾートとやらは不完全なのでは?  娘が六人しかいないからそれで済まそう、こういう種類の狂気を抱いた男がこういう妥協をするか? 
この疑問から自分は手記の本気度を疑い始めました。疑うところが間違ってるかもしれませんが。

明らかに男慣れしているとは思えない彼女にあんな芝居が打てるのか。
●●●したなら、明らかにそういう女じゃないってわかるでしょ。
女は女房しか知らない刑事という設定はこの言い訳のため?

雉機関がうさん臭すぎる。六名の支那スパイを捕らえたが、支那との関係悪化を懸念して表立って処刑はせずに猟奇殺人事件として処理する……そんなことしたら余計に目立つでしょ。こんな話を信じて遺体の処理に奔走する刑事が後に警視というのはどうもいけませんね。

No.176 10点 ロマン
(2015/10/20 11:16登録)
冒頭のおどろおどろしい内容から一気に引き込まれ、御手洗と石岡の会話を通じての事件の概要説明、そこから文次郎の手記で事件の奇怪さに拍車をかけながら話が展開していく。見所として、事件が醸し出す不気味さもあるが、読み解こうとする程複雑怪奇になる事件が、解決編の図一つで全て繋がる瞬間が一番の盛り上がりだ。占星術などの普段聞きなれない言葉が登場するが、本質のトリックはいたってシンプルであり、話しのテンポも良く読みやすい。謎解きでは混乱するだろうが、悩んだ人程その分解答の快感が大きく、本書を楽しめるだろう。

No.175 10点 Izumi
(2015/07/15 00:00登録)
島田荘司のデビュー作にして、御手洗潔シリーズの第一作。
六人の処女から体の一部分を切り取り完璧な肉体を持つアゾートを作成する――。密室で殺された男の手記に書かれていたとおりに六人の娘が忽然と消息を絶ち、体の一部を切り取られバラバラ死体となって日本各地で発見された。迷宮入りとなった事件から四十年を経て御手洗潔がその謎に挑む。

新本格ブームの先駆けともなった名作。ケレン味たっぷりの島田ワールド全開で読んでいる間その世界にどっぷりと浸かることができる。御手洗の論理的かつ大胆な推理、驚愕の真相と、これぞ本格。
個人的にも中学の時に文庫化されたこの作品を読んで鮮烈な印象を受けたことを覚えている。変わらぬ顔ぶれの閉塞的だった国産ミステリに「何か凄いのがでてきた!」と思ったものだ。これ以降に出版された本はリアルタイムでの読書体験となるのでその境目的な作品としても思い入れが深い。
「国産ミステリといえば?」と問われたら本作を選ぶ。

某マンガ及びドラマで盗用され問題となったこともあり、読む前にトリックを知っている方もいるかもしれないが、もちろんこちらが本家。たとえトリックを知っていたとしてもデビュー作にして既に完成されているストーリーテリングは十分楽しめるはず。

No.174 9点 斎藤警部
(2015/05/08 12:15登録)
有名なメイントリック、原理だけ取れば昔からあるシンプルな数学パズルの様なものだが(だからこそ某所であっさり剽窃されたのかも?)それを連続殺人ミステリー小説の枠組みにしっかりと嵌め込み、伏線やら手掛かりやらで補強してシラッとミスディレクションの粉を振り掛け、人間を中心に据えたストーリーで八方包み込むとこれだけ驚天動地、空前絶後の新古典大作に仕上がるのだなあ、参った、こりゃあ凄いぜ。
メイントリックは先に知ってしまっていたものの「最後に○○が真犯人として登場する筈だ!」とハラハラしながら読み進めるスリルは相当なもので、全くタレる所が無かった。だが文章は意外と弱い所もある(シリアス部分とオチャラケ部分のツギハギ感など)。そこで0.55点減点、9.45点は四捨五入で9点だ。

No.173 10点 sophia
(2014/04/13 18:30登録)
これにコメントしてなかったとは。
前半は読みにくく、後半は無駄な部分が多い。
それでも10点を付けざるを得ない衝撃作。
トリックもすごいですが、この作品の肝は最後の犯人の告白にあると思っています。
涙なしでは読めません。

No.172 10点 あんこう
(2014/04/11 14:00登録)
とんでもないトリック。
凄いとしか言いようがない。

No.171 1点 とんぴろ
(2013/10/01 22:06登録)
無理すぎ

No.170 10点 アイス・コーヒー
(2013/07/16 14:54登録)
体の一部分ずつを切断された女性の死体の数々。その体を使って完全な人間像を作る、という手記を書いた芸術家はすでに殺されていた。日本中が四十年間解決できなかった事件に占星術師・御手洗潔が挑むという話。
トリックは素晴らしいものだった。パズル的な点はまさに本格ミステリだ。問題点を挙げるとすれば最初に過去の事件の説明が長々と書かれていること、無駄な展開が一部あることだろうか。しかし、それ自体が仕掛けの一部で演出だとするならば、かなりよくできているといえる。
最後まで見抜けなかった自分に感謝したい結末だった。一つ一つの殺人にも合理的かつ論理的な説明があり満足している。

No.169 8点 バード
(2013/05/09 00:05登録)
犯人とメイントリックが挑戦状の前で当てられた数少ない作品なので読んだあととても気分がよかった。
トリックあての難易度としては簡単すぎず難しすぎずでとてもいいバランスだと思えたし、それにとても本格らしいぶっとんだトリックだと感じた。
ただ最初の手記はとにかく読みにくく退屈でいざ話が始まってもわりと無駄話も多かった気がしてそこはやや残念だった。

だから周りの評価はとても高いが自分としてはこれくらい。(まあ8点つけてる時点でかなり楽しんでますけども。)

No.168 4点 バックスクリーン三連発
(2013/04/08 08:55登録)
このランキングを見て読んでみました
序盤の平吉の小説だろうか手記なのだろうかそこで
まず心が折れかけました
読解力が欠けているのか雪に残る足跡の解説も
いまいちピンときませんでしたし
中盤もほんとにここのくだりはいるのかいぶかしく思いながら
読み進めました
ラストの謎解きも特に驚かされることも無く
そうですかくらいの感想でした
ただただ文字を目で追う作業に没頭したというくらいしか
感想がありませんでした

No.167 9点 mozart
(2013/01/26 14:42登録)
講談社文庫版を入手して何十年ぶりかで再読しました。メイントリックはあまりにも強烈だったため鮮明に覚えていたこともあって、最初に読んだ時のような、「???」に続く「!!!(衝撃)」は味わえなかったのですが、そのミステリー史上における価値は、最大限の敬意を持って認めざるを得ないと改めて思いました。
ただ、本作のストーリー自体は、その後の島田先生の作品群に比べると、所謂エンターテインメント度(あざとさ?)がやや不足気味かな、とも思いました。

No.166 6点 NAP
(2012/02/27 09:18登録)
手紙と会話ですすんでいく話。
作者が謎解きを読者に挑戦している。

「お話」「物語」として引き込まれるとか、キャラクターが魅力的!という話ではないかなぁ。
私はのめりこみやすく読むの早い方なんですが、これすっごい時間がかかった。。
4分の3は事件の材料で、ラスト4分の1で解決。ワトソン君的材料が長すぎてちょっと疲れちゃったです。。。笑

No.165 10点 スパイラルライフ
(2012/02/07 23:25登録)
デビュー作にて氏の作品では最も好きな本格ミステリの金字塔。必読の一冊。密室はややしょぼかったり、京都の件は不要と思ったりするが、それでも満点です。
某漫画がミステリ読むようになったきっかけではあるが、やはり完全コピーは許せず。

No.164 10点 いいちこ
(2011/12/28 20:31登録)
某作品によるネタバレを理由とした低評価も散見されるが、本作に帰責する訳ではない。
とすれば主たる瑕疵は最序盤(手記)のリーダビリティの低さと、中盤の的外れな捜査の中だるみだろうか?
それでも冒頭に示されるアゾート幻想がミスディレクションとして強烈に機能。
散発的に起こる連続殺人に対し、先が見えない捜査がもたらす閉塞感が却ってリーダビリティを支える。
ラストに明かされるシンプルでエレガントなメイントリックがもたらす説得力、衝撃度は古今無双。
壮大かつ緻密なプロットを完璧に昇華させる極上のカタルシスは別格中の別格。
本格ミステリ界の金字塔的作品

No.163 7点 大泉耕作
(2011/11/26 15:50登録)
小説自体が論理パズルのようで、今まで読んだ推理小説とはまた違う新鮮さにやられっぱなしでした。
何といってもトリックですよね。
「シャーロック・ホームズの冒険」を読んだ後に読めて、本当に幸運でした。

No.162 10点 蟷螂の斧
(2011/09/09 17:46登録)
このトリックは、ずっと記憶に残ります。それだけで満点です。どんでん返し・・・大好きです。

No.161 7点 ムラ
(2011/05/19 02:30登録)
某漫画でドストレートのネタバレを食らったので楽しめないかと思ったがそんな事はなかった。
メイントリック以外にも散りばめられたトリックや伏線などは見事なもの。
御手洗のキャラもいい。
最初の数ページがなんとなく黒死館的な読み辛さを感じたが、そこは仕方ない。さすがに文章減らせるような所はちらほらあった気がしたけど。
ただやっぱりネタバレなしの状態で読みたかったですね。「そして誰もいなくなった」もそうだが、古い名作だと他の本でもトリック使われることが多いから、高確率でネタバレ食らうのが無念。


作品とは関係無いけど本の解説で『「何と意外な結末!」「××を凌ぐ」って煽り文句のある本は裏切られる確立が高い』には大いに賛成したい。本当にガッカリするからあれやめて欲しい。

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