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ミステリの祭典

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大泉耕作さんの登録情報
平均点:6.26点 書評数:65件

プロフィール| 書評

No.65 5点 びっくり箱殺人事件
横溝正史
(2012/08/01 00:11登録)
久しぶりに横溝を読もう。


「びっくり箱殺人事件」
 僕にとっては横溝正史作品で初の非金田一耕助ものです。やはり、金田一が出ないと足りない物を感じてしまう。耕助の存在の大きさを痛感した次第です。
 本作には金田一シリーズには欠かせないワトソン役の等々力警部が登場すると知って読むに至ったのですが(そうでなくとも買っていたが)、本編を読み進めて行くに従って等々力警部が主人公ではないとわかりました。警部は金田一シリーズの域を出たとしても、単なる脇役に過ぎず、本作の登場は狂言回しであったのです。
 市川崑監督が加藤武演ずる等々力警部をシリーズ内で同じ性格で別人を演じさせる手法を広げ浅見光彦の映画『天河伝説殺人事件』に出演させたのと通ずる。
 しかし、よくよく考えてみると当時、横溝は『獄門島』と同時執筆を行っており、従って東京にいる等々力警部はまだ金田一シリーズに顔を出しておらず、彼にとっては本当の意味で『最初の事件』であったようで、ファンにとってはたまらんでしょう。
 さておき、本作は昭和の古い言葉の使い回しが数多く見られ、横溝自身が相当に楽しんで書きあげたものと察せられる一文が、芝居がかった台詞に多く見られた。バカミスものと言えばそれまでだが、それらのテンポが作品の真相と展開が作風にマッチしており、読みづらい個所もありますが不快な気分はしません。展開に合わせるため、作風をコミカルにしたと言える、という方が適切な表現でしょうか。
伏線の回収と筋合わせは流石横溝。
大まかな筋は見事に一線を成しているのですが、ただ幾つかの疑問が残ってしまい、実に惜しい。



(ネタバレ注意)
犯人が偶然にして匣を開けて殺人に思い至ったという経緯には抵抗を感じるし、オペラの怪人が何故、柳みどりの鏡台へ、びっくり人形を隠したのか、その辺りの解説が見事にカットされている。



「蜃気楼島の情熱」

現在では角川版で『人面瘡』に収録されています。
 あまり美しい解決とは言い難いものの、物語が一筋に織り上げる様は、幾度となく述べますが“流石横溝”です。
 金田一シリーズの中でも『幽霊男』に勝って劣らぬ卑劣な犯人。こういう犯人設定を個人的に好みません。


No.64 5点 三毛猫ホームズのクリスマス
赤川次郎
(2012/07/31 23:57登録)
『~の推理』に引き続いて読み始めようと思い、何でも構わないから三毛猫シリーズの列を探しましたが、その当時のあのジャニ系ドラマの人気が辛うじて中学生内で起こり、最後に残されていた一冊が本書。図書館にて借りました。
 殆ど感想文のようになってしまいますが、お許しください。


「三毛猫ホームズの飛び石連休」

いつもながら、『推理』から受け継がれた軽快な台詞と展開が明るい連続ホームドラマを思わせる。薄っぺらい描写と人間のような猫のユーモラスなかけ会いが、本来シリアス(?)なミステリの空気を良い意味で払拭して読者に暗い物を決して残さない。
 アイデア一発勝負に賭けた作品。それにしてはトリックはありませんが。


「三毛猫ホームズの子守唄」

魅力的な謎に『おっ』としてはならぬ期待を催しましたが、読後に残るのは明るさとため息・・・。ミステリにはありがちなトリックです。
  

「三毛猫ホームズの離婚相談」

本書のなかではこれが一番かと。ホームドラマのような作風によって隠蔽に成功しています。


「三毛猫ホームズの通勤地獄」

女子高生が会社社長とは荒唐無稽だろうか? 株主は何を持って彼女に指名したのか、わらかない。プロット上の経緯から犯人の指摘に至るまでの説明不足はページによるものだろうか。


「三毛猫ホームズのクリスマス」

女子高生たちの陰険な内輪の模様を描いた作品。
まったく解せない女性教師の行動、犯人と被害者との解せない関係、ページの問題で片付けられる問題だろうか・・・?
 何よりもプロットに矛盾した点が数多く見られ、終盤も犯人の指摘のみに終わり、結局は収拾がつかず。



万人受けしたシリーズでありながら、ミステリファンからはあまり見向きもされない三毛猫ホームズ。果たして、このシリーズに本格を求めることは、酷な話なのでしょうか? 


No.63 6点 三毛猫ホームズの推理
赤川次郎
(2012/07/01 20:11登録)
ジャニ系のどこだかのお兄ちゃんが主役という、最近のドラマの典型的末路のようなドラマ版。背筋に嫌悪感を覚えるほどのクソドラマだと言っても何の不思議もない出来でございました。
 対して、小説はなかなか面白かったと思う。
 猫を名探偵に据えたことがマイナス点になっているようですが、実のところ個人的に「よくやってくれた!」と賞賛したところ。猫を身近に置いている人なんか感じたりするでしょうが、猫って時たま感情が表情に現れるような様子を見せて、ふと視線があったりすると何か言葉をかけるのを待っているような反応を示したり、閉まったドアの向こうへ行きたい時に(開けてくれー)とこちらを見る目で語ったり、エゴイズムたらたらの観点から見た思いこみと言ったらそれまでですが、どこか人間臭さを漂わせて、人間以上に何を考えているのか判らないところがあったりします。そう言ったミステリアスな雰囲気が人間がやる以上に名探偵役に適していると、個人的には感じておる次第です。
 筆が傾きました。
 ドラマに後押しされてまた読んでいる方もいらっしゃるようですが(かく言う自分もその一人)、読んでいる人によってこれだけ感想が異なるミステリというのも珍しいと思います。軽快な文章、可笑しなプロットに「ああ楽しかった」という人もいる、かたや決してハッピーエンドではない終り方に、スピードに任せていたテンポをダウンしてじっと感慨深く思う人も絶対いると思います。これだけ万人受けした小説なのだから一人一人の個性の違った観点で見ると、こんな浅い展開でも楽しいだけではなくどこか共感を呼ぶ場面や感動があるのだと思います。
ミステリファンの目には、果たしてどう映ることやら・・・。



(ネタバレ注意!!)


  密室トリックはバカミスの一線を越すか越さないか、正直際どいところであると思います。あのトリックを使用した場合、壁には大量のまでとは言わないまでも頭から噴き出す血痕数滴こびりついていない方が不自然だと感じます。密室事件が全く同じ日付に折重なるなど、やたら御都合主義が目につきました。


No.62 3点 金田一耕助の新たな挑戦
アンソロジー(出版社編)
(2012/06/14 23:14登録)
 横溝正史賞受賞作家達が新たな視点から描く金田一耕助の探偵譚と・・・。

 自分のなかでは横溝正史賞受賞作のほとんどは、社会派に偏ったものが大半を占めるという印象があります。なのでガチガチの本格物である金田一耕助シリーズを社会派が書くということで、読む前からあまり期待はしていませんでした。
その予想は当たったと言えます。三百ページに九作品も収録されているわけですが、少なくとも六作品に登場する金田一は、「金田一耕助」という同姓同名の、『本陣~』や『獄門島』という同じ名のつく殺人を解決したまったくの別人。

亜木冬彦「笑う生首」
 読後にも?を残してしまう。設定に矛盾がありすぎる。
姉小路祐「生きていた死者」
 文書は安定していて、トリックもこの頁数(約三十頁)なら頷けるシンプルさです。
五十嵐均「金田一耕助帰国す」
 著者は『Wの悲劇』の著者である夏樹静子の実兄とからしく、エラリー・クイーンと親交をもちその没年までミステリの指導を受けていたそうな・・・。どうでもいい。ミステリ的には非常弱い。
霞流一「本人殺人事件」
 『本陣殺人事件』のパロディ。横溝正史賞や金田一耕助像の登場など、メタミステリの形式。ミステリとしては断然弱い。本陣のトリックの使い回しのようで、新鮮味が感じられません。
斎藤澪「萩狂乱」
 著者は角川映画でも知られている『この子の七つのお祝いに』で第一回横溝正史賞を受賞した方らしい。僕もあの作品は好きですが、この作品は評価するに値しない。自分の推理は絶対だ、などと振りまく金田一を見たらマイナス点数さえやりたくなる。そして真相も御都合主義と強引に尽きる。
柴田きよし「金田一耕助最後の事件」
あとから思えば設定こそ滅茶苦茶ですが、この作家が最も横溝正史の世界に近いものを演出しています。トリック、奇っ怪な証拠の提示の流れがテンポ良く、それも大分スマートな作りになっているので割合好感は持てました。
五十嵐均「髑髏指南」
結局意味のわからん事件で終わった。文章が上手かったら冒頭の奇っ怪な出来事も上手く描けただろうに・・・。
羽場博行「私が暴いた殺人」
 ミステリとしては水準地点に達していると言える。きっちりフェアにおさまっています。しかしながら、これのどこか金田一シリーズなんだ? 舞台がアメリカなだけに、台詞の使いまわしを見るとまるでハードボイルドだ。
藤村耕造「陪審法廷異聞━━消失した死体━━」
 台詞の描き方がこの短編集でも秀逸していると言えます。トリックも横溝正史らしいかといったら、らしいです。

 編集者の作家選択が誤っているのか、あるいは受賞した作家たちの実力の低さが表れているのか・・・。横溝ファンは買うべきじゃないと思います。


No.61 7点 悪魔が来りて笛を吹く
横溝正史
(2012/06/02 22:07登録)
横溝正史生誕百十周年を記念して、角川文庫では当時の杉本一文による、あのおどろおどろしいカバーが復刻した模様。黒背表紙の表紙と比べボヤけた輪郭が目につきますが、自分は十冊買いました。

代表作『八つ墓村』や『犬神家』などの一連の作品と比較すると、実にドロドロとした血縁を真正面から捉えた作品と言えます。
 これは以前も同じようなことを書きましたが、当時、天銀堂事件のもととなった帝銀事件、資料を見ると昭和二十三年一月十六日に犯人と思しき男性が逮捕され、またこの小説は昭和二十六年の十一月から連載が開始されるところを見て、わずか三年しか経っていない。当時の日本で希に見る全国に手配されたモンタージュ写真が各地で尾を引き、また容疑者の容疑確定が決定づけされていないために、モンタージュ写真の「そっくりさん」は、肩身の狭い思いをされ、いまだに巷の話題になっていたと思われます。そのため、かの帝銀事件を模した天銀同事件が小説化されるというのだから、この作品が多少なりとも話題にならない筈はない。
 それを見透かして、横溝はこの作品が、かなり多くの人達に読まれることを予想して随分と読者を意識して描いたような節が数多く見られます。必然性に欠けた密室殺人、あちこちへと飛びまわる旅行、風神、雷神の役割、死んだ筈の男の登場など、必然性に欠けた要素が多分に詰まっているふうに思います。ミステリ的にはそれが大分マイナスになっていることは否めません。
 個人としては、こういう面白い読み物は最近じゃ見当たらないと思う故、あまり批判したくない思いが強いのですが・・・。


No.60 5点 狂骨の夢
京極夏彦
(2012/06/02 20:58登録)
 解決編に二百頁を要しており、やはり丁寧さは流石と唸らされ、なおかつ通常の作家との筆力の差は一目瞭然であり、それを一千頁も持続させ、しかも二カ月ほどで書きあげたというのだから並大抵のことでじゃあない。しかし・・・、前作の『魍魎』と比べてしまうとその差がついてしまう。一千ページを持たせるほどの展開と要素に欠けていた、と言ってしまえばそれまでですが、相変わらず漫画チックな登場人物が右往左往していることに読者が付き合わされていた感がしてしまう。
 事件の真相自体は水準を越していると言えます。しかし、今回ばかりは荒唐無稽な「謎」が展開をせき止めてしまい、『姑獲鳥』や『魍魎』に見られた探偵小説味が薄らいでしまったような気がします。
 筋合わせがこのシリーズの醍醐味的なモノなのですが、筋合わせは中々のものです。


No.59 4点 御手洗潔のダンス
島田荘司
(2012/04/22 11:03登録)
「山高帽のイカロス」
御手洗ものは短編から始めたので、やはり長編よりも短編の方が、親しみがあります。
一歩間違えればバカミスといったところ。トリックが大掛かり過ぎてパッと入り込めないところが難点ですが、いかにも島田荘司らしいです。

「ある騎士の物語」
 『異邦の騎士』や『数字錠』などの初々しさや、清らかさが漂う短編で読んだ後に切ない気持になります。トリックは相変わらず奇抜です。

「舞踏病」
 ホームズばりの奇怪な謎に一気に引き込まれました。前半は軽快なテンポでなかなか秀逸かと思いきや、後半は塔と共に崩れていったような・・・。

「近況報告」
 御手洗の実生活が覗けますが、三、四冊読んでみると彼の生活もたかが知れています。
 
 良くも悪くも、島田荘司の世界が堪能できました。


No.58 5点 厭魅の如き憑くもの
三津田信三
(2012/04/17 17:31登録)
因習に囚われた閉鎖的な農村、対立する旧家、連続怪死など、横溝作品を彷彿とさせる設定の上で起こるミステリとホラー────と、この刀城言耶シリーズの書評の随所にそんな一文が留めてありましたが、「横溝正史には到底及ばない。こっ酷く言うと『ちゃんちゃらおかしいワ!』」というのが第一の結論。
 第二に、文章が読みづらい。
 しかし、それを覚悟の上で読み進めたのだから多少鼻に就く程度で気にしませんでした。が、この文体で読者をひきつける何かが不足だったように思います。だったら、文章を簡潔にした方がよかったのではと後々ぼつぼつと思った次第です。
 それに、あれだけの伏線や、証拠提示では読者も推理のしようがないかとも・・・。

 自分が求めていたものと相違していたために軽い失望すら感じましたが、割合知的な読み物で楽しめました。
 ただし、軽く読むものではありません。


No.57 6点 暗黒星
江戸川乱歩
(2012/04/05 12:03登録)
昭和当時の猟奇スリラー映画の雰囲気を漂わす舞台や設定が、いかにも乱歩調。ただ、単調なのが目についてしまいました。
当時のミステリを読めただけでも満足です。


No.56 7点 不連続殺人事件
坂口安吾
(2012/03/30 17:12登録)
 物語や登場人物には少しばかり不満はありますが、著者のゲーム性とフェアプレイを重んじる精神はプロの探偵作家と比をとりません。日本に於いてこの時代に、この様な小説は、おそらくとても斬新だった筈なので、リアルタイムで読むのが一番だったでしょう。
論理を一貫させるために文学性が排除され、余計な描写なども控えられているので推理を楽しみたい方や犯人当てに専念したい方にはウッテツケの小説だと思います。


No.55 5点 暗闇坂の人喰いの木
島田荘司
(2012/03/23 23:47登録)
ある意味では思い出の一冊。
 横溝の『病院坂~』から通じ、初めて島田荘司という名の作家を知った作品。同様のタイトルがあるのに、敢えて『暗闇坂~』にしたことに作者の意気込みが伝わって来ます。
しかし、トリックはやはり感心出来ない。
なのに、最高傑作だと思えてならない。あらゆる小道具によって演出された雰囲気が独特で好感持てます。
「巨人の家」にはやられた。


No.54 7点 異邦の騎士
島田荘司
(2012/03/08 21:54登録)
 恋愛もしかたことない奴がミステリとは言え恋愛小説を読むのだから、自分の無神経にもほどがある。
 達筆な文章に、際立つキャラクターから中盤のプロットに至るまで恋愛小説かとも思っていましたが、こういうなんでもないところに著者は伏線をまぎれさせるのだから油断ならない。
 しかし徐々に後半に近づくにつれ・・・。
 鋭い点をつく御手洗の推理にも、プロットから考えるとやはり強引な真相の前には質が下がってしまいましたが、あの強引さがなければ、ラストの感動もなかっただろうと思う。微妙な釣り合いが上手い。
 なるほど、二人の出会いの経緯がわかったような気がしました。


No.53 7点 仮面舞踏会
横溝正史
(2012/03/04 23:04登録)
 試験もようやく終わりを告げ、ようやく安定した時間が持てるようになってふと思い出す。最後に読んだ小説から一カ月もの間、まともに本なぞ読んでいなかったじゃないか。
 久しぶりに読むものとして選んだのが、やっぱり自分がファンである横溝正史。
 中絶時の発想を加え、実に十四年の時を経て完成させた長編。書き下ろしなだけに、いつにも増して横溝らしい作品。
 割合流れのおだやか前半からゴルフ場面までの証拠提示や伏線、後半から最後のページまでにわたる一種異様な展開、マッチの配列や血筋の真相、金田一耕助の語る真相には『夜歩く』以来の憎悪を感じさせる。横溝ワールドを堪能するに十分な要素が取り入れられています。
 『犬神家の一族』や『獄門島』と同様、戦時中の混乱期が招いた悲劇が描かれている点も特筆すべき。金田一耕助の言動にも注目すべき。
「運動神経音痴、これ即ちウンチでさあ」
・・・・・・。
 それにしても金田一氏の語る真相は説得力に乏しかった気がして否めない。その点に関して、しっかりした発想があったため多少の不満がこみ上げて来て仕様がない。
 首斬り、怪奇、狂気云々の横溝作品の中でも個人的におっかない最も事件。”マニア”さん同様に、犯人もさることながら、あの人は・・・。映像化したら大変なホラーになりそう。
 やはりこの作家の文体やロジックなどが性に合っているようです。

(ネタバレ注意)
 他にいくつか不満を述べるなら、☐☐はどうして〇〇の場所で~~を殺したのか。また、どうして殺さねばならなかったのか。詳細を知りたかったです。


No.52 5点 十角館の殺人
綾辻行人
(2012/02/10 17:05登録)
 異彩放つ雰囲気は好感を持って接することができましたが、トリックや台詞の単純さにちょっと残念な気もします。
 それに筆力がもう少し注がれていれば感情移入も容易だったろうし、筆力の問題に加え人物の登場や関わり方などが、どうも不自然な気がしてなりませんでした。
 終盤における問題の台詞には思わず飛び上がりましたが、その後展開する動機やトリック、真相の告白にもう少し複雑さが入り組んでいれば、書評も変わったかも知れない。

 もう少し、もう少しと、本当に微妙な一線をたどるだけに、余計に惜しく思う。
 好きな雰囲気なんだけどなあ・・・。
 申し訳ないけど、評価はフィフティー・フィフティーで。


No.51 8点 星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン
(2012/02/08 14:44登録)
 古臭さを感じさせない著者の構想に斬新さをも感じます。
しかし、SFの世界に肩まで浸かっている人なら容易に知れてしまう真相をもって、ここまで読ませてくれるとは思わず脱帽します。
 ひとつだけ不満をいうならば、クラークのような、膨大な知識に対する詳細を伝え、宇宙船の描写などが記されていれば評価は高かったろうと思います。


No.50 5点 魍魎の匣
京極夏彦
(2012/01/29 21:31登録)
匣の様に分厚い。
紙で作られた匣だ、こりゃ・・・

 この作品の持ち味を一貫させるとどうしても、あのような動機やロジックなどにならざるを得ないことは前作『姑獲鳥の夏』でも予め証明されているし、真相をどうのこうの言っていたら埒が明かない。ただ、探偵小説的に些か不安定なところがあることに変わりはないし、前作のように事件中の人間の一貫性があり納得の行くような個人の解明が成されていないこと(これは独断でありますが)が要因となってあんまり腑に落ちなかった。
しかし、小説としては大いに評価されるべき点は多いように思います。文章力とか世界観など。
 前作と変わらず演出の巧みに驚かされます。特に今回は伏線や京極堂の薀蓄、事件の背景も兼ねてその空気は始終一貫したまま千ページに及ぶ文章によって保ち続ける筆力には脱帽します。
この作品で幾らか体力消耗しましたが、また機会があれば是非とも触れてみたいシリーズです。


No.49 7点 ゼロの焦点
松本清張
(2012/01/25 16:20登録)
 『点と線』のプロット構成の巧みに魅了され、友人も読んでいたという事柄が背中を押してこの作品にも目を通しました。
 重い雰囲気は相変わらず一貫していて、夫の失踪、浮上する謎の女、女の夫の自殺───と、提示された謎が一線に纏められるさまも、所謂”社会派推理小説”の魅力の一つのようにも思われます。言いかえると、設定背景や人間ドラマや纏まりが売りになっているようにも思われますが──────
 まあ、
 それに夢中になったのですから、自分は。
 その夢中になれる要素がこの本に十二分に詰み込まれているように思います。
 自分は所謂”本格派”とやらに属する要素の小説のファンのつもりですが、事件の核がしっかりしているこの作品をたいへん気に入りました。


No.48 2点 死神の座
高木彬光
(2012/01/17 17:30登録)
星占いから見出した殺人予告、知らぬ乗客、顔のない死体、奇妙な暗号文、かぐや姫、さまよえるオランダ人、殺されてゆく結婚候補者たちや、謎の外国人の出現など魅力的な謎を提示しておきながら、結局はその過半数は偶然という説明や、語られずに幕を閉じたため大いに不満が残ります。
 会話文も何となく長くてだらだら、挟んでくる冗談にもユーモアがない。粗いプロット構成、容疑者の言い逃れもベタ過ぎて、情緒感ゼロ。
高木氏の小説は初心ですが、次からは氏の代表作と呼ばれる作品から手をつけようと思います。
絶対に起こり得ないような偶然で謎が片付けられているところも大いにも不満。
 それに、放っておかれた困るほど謎が多すぎる。
 最初の死体の胸に刺さっていた針の蠍座の記号も解けぬまま、前にいた神父の真相とその後、外国人からの電話は何であったのか。占星術に見立てた殺人も、占星学を鷹揚しただけの暗号文に従ってとってつけたよう。
 キャラクターの性格の見せ方なども文に頼っていて台詞もつまらん、推理小説以前に小説として成り立っていないからこの点数にしました。
最低最悪とまではいかないけれど、もうこういうものはこりごりです。(あくまでも個人的な意見です)


No.47 6点 手紙
東野圭吾
(2012/01/14 21:03登録)
もしこのテーマで誰か別の作家が描いていたら、どうなったのだろう。
 灰谷健次郎先生がお描きになったら、差別の中を強く生きる少年の物語であったろうと思う。しかし、東野圭吾ではそうはいかない。
こうテーマの本やテレビは獄中へ送られる人たちの人数を、少なからず減らしてくれるような気もする。誰だしも、家族を守りたい気持ちは同じだ。だからこういったものを多くの人に伝えられる職にある作家の方たちにどんどん描いてほしい。
 しかし、本書『手紙』に内容が酷似していることを指摘されずにこのテーマに向き合うのはたぶん難しいと思う。このようなテーマの筋のなかではこの作品は現代の古典とも言えます。よく描いてくれました。
 東野圭吾氏の作家としての観察眼、優しさがにじみ出ている。
 しかし、あくまでも個人的な意見ですが、最後のあたりなどもっと工夫できなかったものか・・・。
 とはいえ、捉え方は人それぞれ。涙を流した方もいらっしゃると耳にしましたから、本当はとても良い作品なのだろう思う。自分にはわからなかったのが悔しいですが。


No.46 7点 悪意
東野圭吾
(2012/01/11 21:40登録)
こういうトリックの小説、一度でも読んでみたいと思っていました。
一転二転するプロットにやられっぱなしで真相にも”あっ”と驚かされましたが、最後の動機に関しては、ちょっと期待し過ぎたために拍子抜けした・・・。
(ネタバレに触れます)
僕は現在在学中のためこういう人間の説得力は幾分備わっているつくりになっているに違いありませんが、あくまでも現在の学校の状況と(校内暴力に関しての記述があったためあくまでもいつの時代かを考察した場合)金八に登場するような校内暴力の時代とは完全に相違していることを踏まえ、大人になってもそういう心理を持つ人間が、少年時代のイジメを看過した、言わばイジメッ子と同じ立場にいる”学校そのもの”に勤める、ましてや誘われても教師を勤めようとしたとは思えないため、ということは自主的に進んだ道ということになる。彼が積極的でなかった描写はありましたが、ザクッとした解説が欲しいです。

それらが、ロジックになんら影響がないことを踏まえても、この点数が妥当かと思います。

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