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ミステリの祭典

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びっくり箱殺人事件

作家 横溝正史
出版日1975年01月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2022/03/09 18:20登録)
最近の読者は「金田一じゃないから」と本作読まないんだろうか。それももったいない話。上機嫌なユーモア・ミステリなんだけどねえ。

というか、横溝正史の戦後の「本格の鬼」のイメージが強くあるせいか、戦前の「新青年」編集長をしていた頃の「モボの教祖」の側面が、どうも見過ごされがちのようにも感じる。横溝編集長期に「新青年」は、「探偵小説雑誌」のカラーが薄れて、ナンセンスとユーモアのお洒落なモダン雑誌の色合いを強めた経緯もあって、そこらから見ると、実は本作みたいなのが横溝正史の「地」なんじゃないかと思うくらい。本作の洒落た戯作調なんて堂に入ったもので、余裕で書いていて、とても楽しい読み物だ。

終戦直後の世相もいろいろシャレのめして取り入れて、安吾か砂男かな名調子で綴られるレビュー殺人事件! でも、ミステリの骨格は結構しっかり。ネタはチェスタートンのあれだったりする。でも小見出しが全部当時の映画タイトルを捻ってつけていて、それを本文中でもセリフに登場させるお遊びもあれば、

ユネスコとはフラスコの一種にして、ペニシリンの製造に用いられる

とかね、そんなギャグが満載で、戦後の世相に詳しいとかなり楽しい。解説によると探偵作家クラブの文士劇に使われたそうだから、ウケただろうな~

角川文庫だったから「蜃気楼島の情熱」を併載。こっちは金田一。でも結構仕掛けが見え見えで、さらにの逆転あり?なんて思ってたら、なし。残念。ちなみに耕助パトロンの久保銀造登場作で、怪しい関係にしか見えない(すまぬ)。

No.1 5点 大泉耕作
(2012/08/01 00:11登録)
久しぶりに横溝を読もう。


「びっくり箱殺人事件」
 僕にとっては横溝正史作品で初の非金田一耕助ものです。やはり、金田一が出ないと足りない物を感じてしまう。耕助の存在の大きさを痛感した次第です。
 本作には金田一シリーズには欠かせないワトソン役の等々力警部が登場すると知って読むに至ったのですが(そうでなくとも買っていたが)、本編を読み進めて行くに従って等々力警部が主人公ではないとわかりました。警部は金田一シリーズの域を出たとしても、単なる脇役に過ぎず、本作の登場は狂言回しであったのです。
 市川崑監督が加藤武演ずる等々力警部をシリーズ内で同じ性格で別人を演じさせる手法を広げ浅見光彦の映画『天河伝説殺人事件』に出演させたのと通ずる。
 しかし、よくよく考えてみると当時、横溝は『獄門島』と同時執筆を行っており、従って東京にいる等々力警部はまだ金田一シリーズに顔を出しておらず、彼にとっては本当の意味で『最初の事件』であったようで、ファンにとってはたまらんでしょう。
 さておき、本作は昭和の古い言葉の使い回しが数多く見られ、横溝自身が相当に楽しんで書きあげたものと察せられる一文が、芝居がかった台詞に多く見られた。バカミスものと言えばそれまでだが、それらのテンポが作品の真相と展開が作風にマッチしており、読みづらい個所もありますが不快な気分はしません。展開に合わせるため、作風をコミカルにしたと言える、という方が適切な表現でしょうか。
伏線の回収と筋合わせは流石横溝。
大まかな筋は見事に一線を成しているのですが、ただ幾つかの疑問が残ってしまい、実に惜しい。



(ネタバレ注意)
犯人が偶然にして匣を開けて殺人に思い至ったという経緯には抵抗を感じるし、オペラの怪人が何故、柳みどりの鏡台へ、びっくり人形を隠したのか、その辺りの解説が見事にカットされている。



「蜃気楼島の情熱」

現在では角川版で『人面瘡』に収録されています。
 あまり美しい解決とは言い難いものの、物語が一筋に織り上げる様は、幾度となく述べますが“流石横溝”です。
 金田一シリーズの中でも『幽霊男』に勝って劣らぬ卑劣な犯人。こういう犯人設定を個人的に好みません。

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