皆殺しパーティ |
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作家 | 天藤真 |
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出版日 | 1980年10月 |
平均点 | 7.23点 |
書評数 | 13人 |
No.13 | 6点 | nukkam | |
(2022/07/02 23:03登録) (ネタバレなしです) 1972年発表の第4長編である本書の「あとがき」で「この作品は本格であり、あらゆる事件についてデータ(詳細な事実)を提供してあるつもりである。この作品に用いた2つのメイントリックは(中略)、私なりに、かなり苦心したものである」と作者は記述していますが、正統派の本格派推理小説というよりは異形のプロットの破格の本格派の印象を受けました。プロローグで半端ない人数の死者と行方不明者が予告され、主人公(語り手)の命を男女の2人組が殺そうとしていることが第1章で示唆されます。事件が起きるたびに容疑者が減っていくのですが、真犯人に殺されて容疑者リストから消去されるという通常パターンではありません。犯人が2人組らしいことを最初から明らかにしている本格派というとイェジイ・エディゲイの「顔に傷のある男」(1970年)を連想する読者がいるかもしれませんが、正統派プロットの枠から外れないエディゲイ作品とも異なります。非常に個性的な作品なので高く評価する読者も多いでしょうけど、あまりといえばあまりな人間模様にうんざりしてしまう読者も少なくないかも。 |
No.12 | 8点 | 虫暮部 | |
(2021/01/29 13:24登録) この一人称の書き方は“成功者の自伝”のパロディのよう。早苗の描写が若干ギクシャクして感じられるのは流石に時代か。巻き込まれて死んだ市民は気の毒で、そのエピソードは要らなかったのでは。 ネタバレするが確認。第一の殺人で被害者が期待通りに動くかは結構な賭け。場合によっては“殺人カップル”の存在は共犯者の証言のみに依拠することになる。どうせそれでいいなら、ちょっと芝居がかった罠を仕込み過ぎ、と言う気もする。でもまぁ証言してくれれば、その後に殺し直してもいいわけで、ホテルではその“芝居”の方を重視すべきか。うーむ。 |
No.11 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/07/14 15:55登録) (レビュー本文は基本、ネタバレなし・後半ちょっと注意) 1972年10月に刊行の元版(サンケイノベルス版)の初版で読了。 大昔に一度読みかけたものの、ジャケットカバー折り返しのあらすじに書かれた登場人物の多さに引いてしまい、長らく蔵書の山の中に放り込んでおいた一冊だった。ウン十年前の少年時代に、どっかの新刊書店の棚にあった(売れ残っていた?)本を購入したのがコレだったような気がする。 とはいえ今回は例によって登場人物メモをとりながら読んだら、ページをめくるのが頗るはかどり、さらに内容そのものも面白くて途中で止められず、一晩で完読した。 登場人物が少なくなって容疑者が限定されてゆくという、連続殺人ものミステリとしての構造的な弱点からは逃れられていないが、中小規模の山場でのさまざまな<反転>ぶりがとても小気味よい。 自分のひとの良さを随所で誇りながら、一方で段々と悪辣な素顔が見えてくる、人をくったジジイ主人公の造形と叙述は、実に天藤作品らしい。ほかの作家の一番近い感覚で言うなら、小林信彦作品の和風ドライユーモアか。 そんなこんなを経て、終盤にぐんと濃度の高くなるミステリ要素のバランス配分もなかなか。 sophiaさんがレビューでおっしゃる一部の人間の登用ぶりがあまりに駒的だというご意見はよくわかりますが、その辺の弱さを踏まえても十分に佳作~秀作といっていいでしょう。 昭和ミステリの枠の中での、妙に垢抜けた感覚の仕上がりも素敵である。 ちなみにくだんのサンケイノベルスにはまだ、当時の出版社が入れた挟み込みのシートが残っていて、これが製版ミスの誤植の訂正シート。ちょっと面白い? ので以下にネタバレ警告のもとに書き残しておく。 (該当箇所はサンケイノベルス版で最後の1ページなので。) 【ネタバレ注意】 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ サンケイノベルス版の製版ミスというのは、最後で犯人が語る心情吐露の部分。あの人物が最後に、正しくは「~すわ。それに自分たちのことを、犯人だなんて思ってもいませんことよ」と語るのだが、この箇所が元々は一度は「~すわ。それにあたしたち、自分たちを犯罪者だなんて思ってもいませんことよ」と書こうとしたらしく、その正しいセンテンスと書き直された(推敲・校正された?)元のセンテンスが2つ並んで印刷されてしまっている。 つまり ~すわ。それに自分たちのことを、犯人だなんて思ってもいませんことよ」 ~すわ。それにあたしたち、自分たちを犯罪者だなんて思ってもいませんことよ」 という風に似たような、かつ微妙にニュアンスの違う記述が、二行続けてダブッて印刷されてしまっている。 それで、読者の混乱を避けるため、あとの方のセンテンスを削除してほしい(そのつもりで読んでほしい)旨、訂正シートが挟まっている。 これって、最後に明かされる本作のテーマの理解の一助になる、メタ的な現実世界での逸話だったり? するかもしれないね。 |
No.10 | 7点 | sophia | |
(2019/06/11 03:28登録) ネタバレあり ○○殺人をテーマにしたプロットは悪くないですし、事件が次々と起きて飽きさせない構成力もさすがです。しかし問題点もいくつかあります。登場人物のほとんどが途中退場することで、最終的に誰が犯人なのかは自動的に見当が付いてしまいましたし、誰が裏切ってもおかしくない状況でしたので、犯人の意外性も薄れてしまいました。さらに誰と誰が実はできていたということが続き過ぎですし、特に英吾と○○がというのは話が上手すぎます。英吾という人物が便利に使われ過ぎているんですね。この辺りを考慮すると7点ぐらいの評価が限度になります。 |
No.9 | 6点 | あびびび | |
(2016/04/26 22:59登録) 大悪人?の語り手を妥協させず、、最後まで大悪人にしたところが素晴らしい。でも、70歳に近いのに、凄まじい肉体パワー。ほんまかいな?と、大阪弁で思ってしまう。 でも、自分にはミステリにユーモアは必要ない。これは気性だから仕方がない。あと、犯人もすぐに分かってしまった。クリスティーの読者なら、中盤で気づくのではないだろうか? |
No.8 | 7点 | ボナンザ | |
(2016/04/23 10:01登録) スリリングでユーモラスな傑作。 最後のオチはある程度予測出来るが、それが問題にならないほど面白い。 |
No.7 | 7点 | 蟷螂の斧 | |
(2014/02/18 08:52登録) あとがきに、「この図太く、あくどく、そして純粋な悪党たちに、ほとんど愛情を感じていたことである。」とあります。読者にもそのことが伝わってきます。描かれていることはドロドロで醜いものですが、ユーモアでオブラートし、爽快感さえ感じさせるところに、著者のセンス(最大の特徴)があると思います。性豪の主人公が語り部になっており、すべて自分の都合のいいように書いているところも面白い。なお主人公の家族からの手紙を載せることで、そのことは相殺させていますが・・・。「アクロイド」を連想させるところ(刑事の推理)もうまいと思いましたし、複雑な家族関係をうまく料理していました。しかし、秘書・早苗の性感覚は?(笑)。 |
No.6 | 8点 | itokin | |
(2010/11/20 17:32登録) 犯人が最後まで解からないよく練られた作品だ。終盤までだれることなく一気に読ませる。氏の作品では、大誘拐と並ぶとみた。それにしても、独りよがりは恐ろしい。 |
No.5 | 8点 | E | |
(2009/10/18 20:16登録) 真っ先に殺されるであろう人物の周りがどんどん殺されていくストーリー。 最後はどんでん返しに返されたが、一寸予想出来たどんでん返しだった。でも、面白いので気にならないし、爽快な読後感☆天藤氏作品は好きだぁ。 |
No.4 | 7点 | 江守森江 | |
(2009/10/07 06:56登録) 当時、高校生だった私は、この作品を読んで天藤真が教授をしている(と噂で伝聞された)千葉大文学部(デマだったらしい)を本気で受験し、弟子入り(ゼミ生)しようと決心した。 決心した途端に退官の噂が流れお先真っ暗になった。 そのせいか受験も失敗した。 今でも、そのトラウマを拭いきれない思い出深い作品。 天藤真は、高木・鮎川ゾーンとは別ゾーンでの自分のミステリ嗜好を代表する作家で万人にお勧め出来る。 |
No.3 | 7点 | こう | |
(2008/08/07 01:31登録) どうみても一番殺害される動機のある主人公ではなくその周りで次々に人が死んでゆくストーリーですがこれだけ死んでも暗くならず、ユーモアあふれるストーリーになるのは天童真ならではだと思います。 真犯人を当てることそのものよりも主人公の辿る結末までを読んで楽しむ作品でしょう。 メイントリックは前例も後発例もありますが、よく考えられていると思います。 ストーリーは現代の女性読者の共感は得られないかもしれませんが個人的には面白かったです。 |
No.2 | 7点 | VOLKS | |
(2008/02/09 16:48登録) 主人公の周囲の人物が次々と死んでいく。 誰が?何故?と、考える暇もなく次々と起こる事件に、読む手が止まらなかった。が、氏の作品にしてはもう1つ魅力が感じられないのは、主人公の人柄故か。 |
No.1 | 9点 | Tetchy | |
(2008/01/31 23:20登録) 題名のように7人もの死者が出るという虐殺劇。 狙われる主人公が筋金入りの色魔で大会社の社長であり、街の大権力者という読者に同情を許さない人物なのに、読後感は爽やかという天藤マジックが味わえる。 ちょっと題名がチープだけど、中身は濃いぞ! |