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ミステリの祭典

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崩れる脳を抱きしめて

作家 知念実希人
出版日2017年09月
平均点6.55点
書評数11人

No.11 6点 虫暮部
(2023/09/14 13:26登録)
 細かなエピソードにせよ、台詞回しにせよ、おいこりゃベタだな~と悶えつつ、いくら何でもこれで終わりじゃないだろう、わざとベタにしてまとめてひっくり返す大技か、と北叟笑みつつ、最後の真相は予想外だった。まぁ他に黒幕たる人物が残ってないか……。

 “遠縁の親戚が相続人”――現代日本の法定相続人の範囲は、配偶者・子・親・兄弟姉妹およびその代襲相続人まで。
 本書に登場する親戚がその範囲内なら、他に身寄りが無いとのことだから、遺言書が無くても遺産は回ってくる。なまじ遺言書があると、相続人以外に遺贈されて却って取り分の減る可能性がある。
 なのにわざわざ彼女を脅して遺言書を作らせたのだから、範囲外の親戚なのだろう。ならばそれは、通りすがりの人に “金をよこせ、さもなくば襲うぞ” と言うのと大して変わらない(“親戚” と言う要素はアドバンテージにならない)のである。雰囲気的にちょっと正当性がありそうな気がするだけで、実際には何の権利も無い。つまり雑な設定である。
 寧ろ結婚してしまえばいい。近々死ぬ相手なら、無断で届けを出しても異議申し立てする時間が無いだろうから。

 また、遺言書には検認手続きが必要で、封がしてあれば家庭裁判所で相続人かその代理人の立会いの下に開封せねばならない。皆さんも遺言書を拾ったら、この主人公のように勝手に封を切らないよう気を付けましょう。

No.10 6点 みりん
(2023/02/20 00:05登録)
医療ミステリとラブロマンスの見事な融合
人は誰しも爆弾を抱えていていつ破裂するかはわからない。だから今を大切に生きようというシンプルながら力強いメッセージで医療に携わる作者だからこそ響きます。

No.9 5点 じきる
(2021/12/07 16:32登録)
読みやすくてあっという間に読了してしまった。
途中の構成にやや無理を感じたのと、仕掛けの一部が透けてしまったため、世評ほどは楽しめなかったです。

No.8 7点 sophia
(2021/10/02 23:53登録)
第二部で病院側が採った「君の××だよ」作戦はだいぶ無理があると思いますけれども(笑)、無駄のない文章とストーリー運びですらすら読めましたし、プロローグで描かれている主人公の決意が読者の思っていたものとは全く異なるものに変貌する様が素晴らしかったです。注文を付けるとするならば、第一部で「ユウさん」の描写をもう少し緻密にしていたら最後真相が明らかになるところで効いたのではないでしょうか(敢えてそうしなかった面もあるとは思いますが)。

No.7 7点 まさむね
(2021/08/26 22:27登録)
 この作者さんの作品は初読です。いやはや、グイグイ読まされ、最終的にはやられてしまいました。よくよく考えれば、予測がつくような気もするのですが、グイグイと読まされている時点で作者の術中にはまっていますよね。全体構成も巧く、売れる要素が詰まっています。幅広い層に楽しんでいただけるのではないでしょうか。映像化に向いていそうな作品でもあります。
 ちなみに、極めて個人的な意見なのですが、実は冴子の方がフイットするような気がするし、私も冴子の方が好み。こういった意見は好ましくないか。すみません。

No.6 7点 ぷちレコード
(2020/11/28 18:34登録)
恋愛と医療ミステリとの儚くも美しい融合が見事な作品。その中に、現役医師でもある著者の終末医療に対する考え方や患者に向き合う姿勢も垣間見えた気がする。
そして、まるで映画を観ているかのようなラストシーンは、絵画のような表紙と相俟って更に作品の感動を高めていたように感じた。

No.5 6点 名探偵ジャパン
(2019/07/16 00:01登録)
ライトノベルみたいな完全無欠の主人公(イケメン)と、不治の病で余命幾ばくもないヒロイン(美人)との恋愛要素に、大どんでん返しなんて荒技を組み合わせれば、それはもう、売れないわけがありません。売れる小説の教科書のような作品です。世の売れないミステリ作家の人たちは、これを読んで売れる小説というものを学ぶべき。

これはあざといですね。そして、あざと面白いです。読了後にプロローグを読み返すと、その本当の意味が分かるなど、小技も効いています。それのなのに高得点を付けるのに躊躇してしまうのは、個人的にあまり好きじゃない設定、舞台のためかもしれません。「安易だ」と言いたいところですが、書いているのが現役の医師なので、ぐうの音も出ません。

No.4 8点 蟷螂の斧
(2019/03/31 10:31登録)
3分の2くらいまではコテコテの恋愛ストーリー。そんな中、主人公(研修医)の父親にまつわるエピソードが挿入される。それは、ミステリーが一冊書けるかも?といった内容。しかし、いとも簡単に片付けられてしまう。ということは、ラストにかなりのどんでん返しが期待できそう。しかし、夢落ち???!!!。でもあと20頁残っていますよ・・・。現役の医師でもある著者に翻弄されてしまいました。

No.3 6点 人並由真
(2018/01/10 12:09登録)
 ミステリ版『半分の月がのぼる空』。そつなく書けている。主人公の窮地からの逆転劇もお話作りとしてうまい。

 ・・・だけのハズだったのに、最後にページを閉じるとき、眼が潤んでいた。何でだろ。

No.2 6点 メルカトル
(2017/11/14 22:03登録)
医療ミステリとしても恋愛小説としても良作だと思います。思いますが、私にとっては若干低刺激と言いますか、もう一つ突き刺さるものがなかったのが残念です。あくまで個人的にですので、一般的にはもっと評価は高くなるのではないかと思いますが。

主人公の若き研修医、碓水蒼馬の初恋と脳腫瘍でいつ命が尽きてもおかしくないユカリの初々しくもほろ苦い交流。しかし、それを根底から揺るがす出来事が起こります。全般的に程よい起伏が感じられ、テンポよく物語は進行します。傷つきやすい蒼馬の揺れ動く内面を的確に捉える描写はさすがの手際ですね。

ラストにサプライズが待っていますが、ミステリ的にはありがちな趣向なので、ある程度ミステリを読み込んでいる人なら、容易に想像がつくでしょう。それをうまく隠しきれていないのと、やり方によってはもっと世界が反転する様を衝撃的に表現できたのではないかと思うと、やや不満が残ります。
ですが、一現役医師としての知識は勿論間違いないと思いますし、作家としての手腕を認めないわけにはいきませんね。

No.1 8点 makomako
(2017/10/22 15:28登録)
これはなかなか素晴らしい。
久しぶりに一気読みしました。
ロマンチックでしかもちゃんと推理小説として成り立っており、「天久鷹央の推理カルテ」とはえらい違い。
作者を見直しました。
是非この路線で書いていってほしいですね。

この作品は医師が書いた作品であり、研修医の生活や診察の状況、カルテ記載など、ひょっとしたらこの方面の人でないとわかりにくいかもしれないが、たぶん誰が読んでも大丈夫でしょう。
同業のものから言わせていただくと、本作のトリックは医師にとってはまさかと思えるもので、そんなことはあり得ないような気もしたのですが、ぎりぎり成り立っていると思います。
私のとってははるか昔の研修医の頃が思い出され、ちょっと点数が甘くなったかもしれません。

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