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シーマスターさん
平均点: 5.94点 書評数: 278件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.30 6点 天空の蜂- 東野圭吾 2008/05/19 23:58
ストーリーの壮大さ、緻密さ、完成度の高さにおいては作者の作品群の中でもトップクラスだと思う。

ただ、面白いかと言えば・・・・・完全に好みの問題。
原発やハイテクヘリに関心がある人にとっては、最初から最後まで止められない逸品のサスペンスだろう。
興味が薄い人にとっては、ちょっと長すぎる大袈裟で漫画チックな犯罪物だろうし、メカニカルな話が延々と続くところなどは苦痛以外の何物でもないだろう。

自分は明らかに後者だが、救出劇はさすがにドキドキハラハラといっても過言ではない臨場感を味わえたし、犯人を割り出していく捜査過程もなかなかだったし、読後には不思議と(単に厚い本を読み上げたというだけではない)満足感があったことを否定できない。

これは本作が『片想い』や『変身』などと同様に作者の問題提起・・・
・・・・「我々は原子力発電というものに、もっと真剣に向き合い、考えて行かねばならない」
という社会へのメッセージが、ディテールに全く手を抜かない綿密な構成の作品を通して真摯に伝わってくるから・・・・・・なのかもしれない。

No.29 6点 回廊亭の殺人- 東野圭吾 2008/01/19 21:08
意外な真相や強烈なエンディングは面白いと思うが、それまではありがちな山荘系ミステリという感じで正直退屈。

この作品は(僭越ながら)主人公がラストまで正体を明かさない形で『ある閉ざされた・・』タイプの視点交代型ストーリーにしたら、最後の驚きが増すだけではなく、〈謎の毛髪、不審な足跡、不可解な絞扼痕〉なども相俟って、全体的にももう少しスリリングな展開になったかもしれない。

No.28 6点 私が彼を殺した- 東野圭吾 2007/12/18 20:35
「どちらか・・」よりは話が面白いが、なぜこういう形にするのか、やはり理解できない。

容疑者が一堂に集められてから各章がどんどん短くなっていく展開は緊張感が醸し出されて悪くないが、この3人だったら誰が犯人でもいいや、としか感じられないキャラ達なので加賀刑事以上に余裕を持って詰めに臨めてしまった。

もちろん正解は分からず。

No.27 6点 天使の耳- 東野圭吾 2007/12/12 22:05
交通問題を題材あるいは端緒とした小ミステリ集。

表題作は・・・緻密な構成だが予想と違ってちょっと残念。
その他もあまり読後感が宜しくない作品が多い・・・が、溜飲が下がる部分があることも確か。
個人的には『捨てないで』がまあ面白かったかな。(冴えないダブルミーニングだが)
最終話の『鏡の中で』は周辺事情から殆ど見えてしまった。(実際にありそうな気がしないでもない)

信号無視、路駐、煽り、ポイ捨て・・・やっぱいけないよね。

No.26 5点 11文字の殺人- 東野圭吾 2007/11/28 22:35
前半は「これは火サスの脚本か」と思うほど見事なベタさ加減。
恋人の死の真相を追う女性作家とその友人、そして彼女達の追究を嘲笑うかのような連続殺人・・・果たして真相やいかに?・・・・・警察はやる気がないのか?

途中でやめようかとも思ったが、半ばで少し捻りが入っている空気が感じられたので何とかホールドオン。
後半は、油断すると頭に浮かんできそうになる意外な真相を振り払いながら読んだため、まぁ楽しめた。

No.25 2点 同級生- 東野圭吾 2007/11/16 21:32
ミステリとしては平凡、というより子供向けの推理クイズに出てきそうなトリック。 

あとがき(他の本でも見たことがあるが)によると作者は大の教師嫌いらしいが、その個人的な鬱憤を思いっきり晴らすべく書かれたかのような話。
しかし総じて教師達を惨めでキモい悪者にせんという意図が強すぎるため、反教師側の主人公たちの言動も非常にクサいものになってしまっている。

学生時代に一度もいい先生にめぐりあえなかったのかと思うと、この人も少しかわいそうな気がする。

No.24 5点 怪笑小説- 東野圭吾 2007/09/22 22:00
「くだらねぇ、くだらねぇ」とのたまいながらページを捲り続け、気がついたら完読してしまっていた。

あとがきからもわかるように、作者がふとした機会に思いついたプロットを何となく書いた・・・ような話を寄せ集めた短編集らしい。(「たぬき」は結構マジかな)

さほど笑えるわけでもなく、ストーリーが斬新なわけでもなく、何らかのメッセージや寓意が感じられるわけでもないが、不思議と読み止まらない本書のタイトルはまさに体(たい)をあらわしていると感じた。

感想(というより読後のコメント)としては「たまにはこういうのもいいだろう」とか「暇つぶしに最適」などという月並みな文句しか思いつかない。

No.23 5点 どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 2007/09/11 21:35
こういう細かい理屈で攻めてくる話をリドルにされるのはちょっとキビシイよね。
自分のように「謎解き」よりもストーリーを楽しむ(読み返すことなど殆どない)タイプとしては尚更。
じっくり読むタイプの人は楽しめると思う。

加賀刑事に関してはこの話が一番好感持てたかも。

No.22 6点 赤い指- 東野圭吾 2007/08/31 23:57
高齢者の介護問題や子供のヴァーチャル障害など現代社会の歪みを織り込んだ話になっているが、ミステリとしてはさほど目新しいものでもない。
それに「実は・・・・・だった」といわれてもねえ・・・・・・んなことホントにできんのかね・・

結局この話は、エゴ嫁とバカ息子を授かった哀れな男の悲劇でもあるわけだが、彼の心の防波堤がついには崩れなだれるシーンには感極まるのを禁じえない。

ただ結果はともかく、この家族とは何の関係もない一介の警察官が個人的な心情で、罪量が変わり得る変則的な手法をとるのはいかがなものだろうか。
まあ自分の親子関係のやるせなさに対するささやかな代償行為ということなのだろうが。

No.21 7点 容疑者Xの献身- 東野圭吾 2007/08/25 01:49
巧妙かつ大胆にミスリードする本作のトリックは、多くの読者を唸らせるものだろう。(似たような感じの話があったような気もするが・・・・・思い出せない)

その手口は、およそ常人の思考を逸脱した凶行をベースにしたものだが、それが究極の「献身」であるところが本作品のスゴいところ。
そこには常識も倫理も全く無関係の、ただ愛があるだけ
・・・・と、きれいに纏めたいところだが、素直にそう感じさせるだけの心情描写はされていないと思う。

確かに最後の手紙には胸を打たれ、ラストシーンには心を揺すられるが、(この人の「感動作」といわれるものに共通していると思うのだが)もう一押し足りない気がする。
(もちろん直木賞にケチをつけるつもりは毛頭ないよ)

No.20 7点 幻夜- 東野圭吾 2007/08/11 23:54
『白夜行』と同様に並のミステリ3冊分ぐらいの内容が詰まった作品だが、白夜の後だと本作中の数々のエピソードのパターンは大方読めてしまうし、結末も概ね予想できてしまう。
冷徹無比な人生ゲームも2度目になるとインパクトもさほど強くはない。

そういう嫌いがあるにしても、読んでいて飽きさせない情景を次々に繰り広げてくれるところは流石ケイゴリン(と銀座のクラブで呼ばれている、と解説に)。
阪神大震災を物語の原点に据え、その後比較的最近の社会情勢を背景にした展開も、読む者を離さない引力になっている。

また白夜行では敢えて排除していた叙情描写が多いのも特徴。(これは「男の主人公」のキャラクターの差異によりコントラスト付けされている)

No.19 6点 パラレルワールド・ラブストーリー- 東野圭吾 2007/08/08 21:25
『変身』『分身』に続く人体実験シリーズ第3弾。

主人公の2つの視点からなるストーリーが交互に展開するという形をとっているが、両方とも舞台も登場人物もほぼ同じで、客観的な差異は1年足らずの時間のズレだけ、というものだから話が進み両者の関係が密接になってくると、どうにもコンガラガりやすく辛いものもあった。

「恋愛と友情」というテーマを記憶操作という(現在あり得ない)超ハイテクに乗せてミステリチックに仕立ててあり、この作者らしい斬新な意欲作といえるだろう。

個人的には、ヒロインの中途半端な態度が悲劇の元凶になったように感じられ後味もあまり芳しいものではなかった。

No.18 3点 卒業−雪月花殺人ゲーム- 東野圭吾 2007/08/05 20:29
(全体的な印象として)
大学生の生態にしても、なかよしグループにしても、現実味に乏しく登場人物達の言動がいかにも作者が頭の中だけで想像して創造したもの、という不自然感が終始つき纏い最後までストーリーに入れ込めなかった。
お友達が殺された後の心情描写も、どう書いていいのかわからないのが痛ましい。

(ミステリとしては)
茶会のシーンで、図解がゾロゾロ出てきた時点で投了しようかとも思ったが、このトリックは勝手にやらせることにして何とか読了。
結局、この仕掛けは「どうだ、頭脳的で緻密なトリックだろう」という作者の自己満足にしか感じられなかったが、謎解きに燃える人には面白いのかも。 
密室はまあアリかな。

No.17 6点 嘘をもうひとつだけ- 東野圭吾 2007/07/27 23:06
倒叙ではないけど、殆ど始めから犯人が分かっていると言ってもいいストーリーを連ねた短編集。
いずれの作品も加賀刑事が犯人を「いかに引っ掛けるか」がフォーカスになっている。(最終作では被害者自身に委ねられるが)

印象としては「笑わない古畑任三郎」といったところか。

No.16 8点 白夜行- 東野圭吾 2007/07/25 00:59
2人のモンスターの生涯(&半生)と彼らの姿が見え隠れする数々の事件とエピソードを、20年に渡る歳月を通して緻密な構成で描ききった大作。

前半は各章が1つずつのストーリーであたかも連作短編集であるが如くの展開をとり、尚かつ整合性を崩さない伏線を鏤めつつ、後半さらに多くの登場人物を巻き込みながら押し進んでいく物語が一大叙事詩ともいえる作品に仕上げられている。
・・・・・・・・・・そしてとにかく読みやすい。

「彼女」のエゴイズムに徹した生き様を、影から手段を選ばずアシストしてきた「彼」・・・・2人の関係の実態は想像すらつかないが、これは刑事が言うとおり「エビとハゼ」に喩えるしかないのかもしれない。
しかし、ラストシーンで白い影と化した「彼女」がこれから生きていけるのは、もはや白夜などという生易しい世界ではなく極夜でしかないだろう。

「長さに比例した面白さ」が味わえる数少ない一冊だと思う。

No.15 6点 分身- 東野圭吾 2007/07/07 23:36
変身の分身みたいな話。(両方読んだ人なら分かる)

2人の物語が交互に進むという形であるにしても、トントンと読ませる『変身』に比べるとモッツァレラという印象が終始拭えなかった。(何のこっちゃ)

本作も先進医療への危惧の念が込められたミステリだが、本質的にはこの小説もまた(変身はこの点、異なるが)「親子」の真の意味を訴えかけてくるものではないだろうか。

皆さん感じられているように、この作品は間違いなくラストで不相応なくらいに点を稼いでいる。個人的にも震えがくるほどの情感を覚えたことを否定できない。(富良野のラベンダー畑!)

No.14 8点 悪意- 東野圭吾 2007/07/04 01:39
読みやすくて濃厚なミステリと言えるだろう。
(奥が深い小説を書くのに、ややこしい薀蓄をダラダラ連ねる必要なんかないんだよ)

手記形式を利用する推理小説は珍しくないが、犯人当てと犯行トリックの解明が始めの1/3で終わり、次の1/3で物的手掛かりから犯人に(不可解であった)動機を告白させるまでに至り、そして最後の1/3で(ドンデンともいえる)真実の究明・・・・という構成は今でも斬新ではないだろうか。

進行癌を患う殺人犯の自供に納得できない刑事が、執念で事件の根底を抉り出し、人の「悪意」を暴き晒す・・・・という残酷な話でもある。

No.13 6点 レイクサイド- 東野圭吾 2007/06/28 00:57
途中までは、いわゆる社会派ミステリなのかとも思えたが、それにしては現実味に乏しすぎる感が否めなかった。
そもそも、こんな「お受験サークル」自体が「?」だし、その行状たるや(殺人以前だとしても)明るみに出たとしたら「気違い集団の異常な実態」とされることは疑う余地もない。

しかし、お受験風刺などの様相を絡めながらも最終的には「家族とは何か」を問いかけてくる展開には考えさせられるところがある。

ミステリの部分も、よくできていて読み物としては楽しめる。

No.12 6点 トキオ- 東野圭吾 2007/06/24 23:59
こういうのって、実は結構多かったりしないかなあ。(小説に限らず映画やマンガなどでも・・・・・・・・・全然違うけれど「ドラえもん」とも共通するものがあると思う)

『序章』では、予定されていた息子の死を目前にした夫婦の諦念と、彼らがその「予定」を選択した経緯が語られる。 前者は悲痛極まりなく、後者は悲壮感に満ちている。

〈本編〉は、ややベタな「探索冒険もの」という感じ。
「幼稚な青年が不思議な少年と出会い、さまざまな遭遇や体験を通して、人の絆を知り成長していく様を描いた愛と感動の物語」といったところか。 
「行き詰まれば手掛かり現る」「ピンチになれば助っ人来たる」などの冒険物ルールも遵守されているので安心して読むことができる。

『終章』は(約500ページになる本編を挿話としての)序章の続きだが、もはや死別の悲しみだけではなく、新たな旅立ちの感覚が確かにそこにはある。「どんなに短い人生でも生きている実感さえあれば未来はある、明日だけが未来じゃない」というトキオの言葉が素直に思い返される。

所々に見られるリアルなレトロ描写も面白い。

No.11 6点 変身- 東野圭吾 2007/06/19 00:14
「主人公には申し訳ないが楽しんで読めた」というのが率直な感想。

小気味いいテンポで中だるみも少なく、人格変化の顕在、真相究明、そして破滅へ向かって淡々と進んで行く展開は(月並みなフレーズだが)ページを捲る手を休ませてくれなかった。
特に終盤での成瀬の狂人ぶりは圧巻とも言え、そんな彼への恵の愛と献身には感動を禁じ得ない。

いわゆるミステリではないことは分かっていたので、読みながら「作者は(現在ありえない医療を扱った話で)何を言いたいのだろう」と感じていたが、最後の脳外科医の手記により「今後益々盛んになっていくであろう臓器移植のための脳死判定が、ともすれば安易に形式化されていきかねない」ことへの作者の警鐘が浮き彫りにされている。

ところで本作は1993年刊行とのことだが、「京極の亡霊、憑き物」って・・・・偶然だよね。

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シーマスターさん
ひとこと
再開おめでとうございます。
たくさんの方がたくさんの書評を寄せられることを期待しています。
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平均点: 5.94点   採点数: 278件
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