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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1602件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.262 8点 リング- 鈴木光司 2008/06/04 20:40
あまりに有名なこの作品がなくてちょっとビックリ!
ホラーですが、『このミス』にもランキングしているので広義の意味でミステリと判断しました。

いやあ、これは本当に面白い作品ですね。もう謎のビデオテープの発端から、どんどん明かされていくビデオの内容の秘密、そして呪いを打ち砕くために試行錯誤する浅川と高山の冒険行。
エンタテインメントのあらゆる要素が詰まった作品です。
そして後に日本中にブームを巻き起こす貞子のキャラクター性も秀逸。
最後にどかぁーんと明かされるビデオに隠された謎は、よくよく考えると何故気付かなかったのだろう?というくらい至極当たり前な内容ですが、これも作者の手腕のなせる業でしょう。
私は映像作品は見てませんが、本書を読んで、なるほど、これは映像化向きだと得心しました。

No.261 10点 男たちは北へ- 風間一輝 2008/06/03 20:20
自転車旅行を題材にしたロードノベル。作者が行った東京~青森間自転車走破の実体験に基づいているらしい。
それに自衛隊の陰謀を絡めて、単なるロードノベルに終わっていない。

そしてこの無骨な主人公桐沢の魅力にどんどん引き込まれていき、読者は彼と同化し、旅の名残を惜しむように本を閉じることだろう。

作者のデビュー作でありながら、傑作。
多分あなたも私同様、読み終わったら自転車の旅に出たくなるに違いない。

No.260 7点 紫苑の絆- 谷甲州 2008/06/02 20:18
一人の男を求めて、上越国境での鉱山採掘現場からストーリーは端を発し、酷寒の信州の山中での逃亡行。そこから北海道の小樽へ移り、そして一路ロシアのウラジオストクへ。そこでは国境警備隊の一員となり、朝鮮独立運動に加担する反乱軍の討伐を頼まれ、やがてソ連内で勃発する複数の民族間闘争の荒波に否応無く飲み込まれていく。

文庫本上中下巻合わせて1,500ページ弱の壮大なストーリーなのだが、なぜか満腹感がない。
それは同じようなシーンの繰り返しが多いからだ。

色んな要素を詰め込んだにしては展開は単調である。
ただ連続ドラマにすると、かなり面白くはなりそうな題材ではある。

No.259 6点 ジャンキー・ジャンクション- 谷甲州 2008/06/01 19:28
単なる冒険小説と思ったらさにあらず。
なんと「口寄せ」、つまり霊との交信が物語を左右するのだ。

しかし、だからといって非現実的だと切り捨てられないところがある。
舞台はネパールの山中、つまりヒマラヤ山脈である。もっとも神に近いところであり、またネパール、チベット、インドなど、そこいらに存在する国々は神への信仰も厚い。
だからこそこういうありえないことも起きうると受け入れられる。

まあ、それと作品の出来とはまた別の話だが。

No.258 7点 背筋の冷たくなる話- 谷甲州 2008/05/31 23:38
山岳冒険小説、SF小説の旗手、谷甲州が手がけたホラー短編集。この作者には珍しく、日常を舞台にしたものが多かった。

収録作の中では「鏡像」と「三人の小人と四番目の針」が個人的には好き。
まず「鏡像」は恐らく誰もが子供の頃に抱いた鏡の向こうには鏡の世界があるといった原初体験を扱っているのが面白い。
「三人の小人と四番目の針」はよくもまあ、こういうことを考えたものだと感心した。時計の針をそれぞれ家族構成に当て嵌め、語る様は非常にしっくり来ていて面白かった。

谷氏が山岳冒険小説やSF小説だけじゃなく、こんなのも書けるぞ!と高らかに唱え、証明した事が本短編集における収穫だろう。特に子供を主人公に書かせるとこんなに面白い物が出来るのかと驚いた。この路線の作品ももっと読みたい。

No.257 6点 神々の座を越えて- 谷甲州 2008/05/30 20:09
『遥かなり神々の座』の続編。
とにかく全てが長すぎ!
エピソードとして語るべきところまで全て詳細に書いているので自然、物語は長大化する。
これは作者のとにかく自分の知っていることを全て注ぎ込もうという意欲に他ならないのだろうが、その分、贅肉も感じてしまった。
上下巻もいらない内容だと思うが・・・。

No.256 7点 凍樹の森- 谷甲州 2008/05/29 23:30
冒頭の狩猟劇は坂東眞砂子の『山妣』を読んでいなかったら、存分に楽しめただろう。

とはいえ、これはかなりの力作であるのは間違いない。極寒の山中での狩り、列車襲撃シーン、逃亡劇などはこの作者の十八番で、その寒さを肌身に感じさせられるものがある。

しかし、美川の宿敵と想定された庄蔵の役割があまり物語に寄与していないからかなぜか煮え切らなかった。

No.255 6点 黒猫遁走曲- 服部まゆみ 2008/05/28 19:33
『時のアラベスク』、『罪深き緑の死』と重厚かつ濃厚な趣きのミステリを読んだ後で本書を手にしたとき、あまりの軽妙さにえっ、これ同じ作者!?と面食らってしまった。

文庫書き下ろしの本書の著者近影にも写っているように、著者は無類の猫好きらしく、猫をテーマにした本書もそれが故に非常に読みやすいものとなったようだ。

ミステリ的には大したことないが、こういうのも書けるという著者の意外な側面に何よりも驚いた。

No.254 3点 罪深き緑の夏- 服部まゆみ 2008/05/26 21:52
こ、これは辛い・・・。
第1作目のゴシック趣味、少女マンガ趣味をさらに深化させて物語を形成しているが、ほとんど幻想小説だ。
結局どういう話か漠然としか記憶に残っていない。
こういうの苦手です。

No.253 5点 時のアラベスク- 服部まゆみ 2008/05/25 19:35
本書がデビュー作にて横溝正史賞受賞作。
とても新人とは思えないゴシックに彩られた文体、西洋芸術への芳醇な知識に圧倒されたのだが、意外と本作で用いられたトリックは凡庸。
しかも犯人もすぐに解ってしまったし(アナグラム、あからさま過ぎです)。
少女マンガ好きには堪らないミステリかも?

No.252 5点 揺歌- 黒崎緑 2008/05/24 23:40
尾崎豊をモデルにしたと思われるカリスマ男性歌手とそのファンとの恋愛を軸に描いたミステリ。多分ほとんどの人がこの本を読んだ事ないと思う。

音楽好きなオイラにとってはギターに関する薀蓄がツボ。

しかしこのカリスマ歌手の新曲のタイトルがショボイ。
“ししとうルーレット”(←多分あってると思う)なんて曲、誰が買いたいと思うのだろうか・・・。

No.251 7点 白き嶺の男- 谷甲州 2008/05/23 15:08
加藤武郎と久住浩志という2人の男たちの関係について訥々と語られる連作短編集。

この短編集には登山の困難さが経験した者でしか解らない迫真のスリルとリアリティで語られるところにある。それぞれの1編は40~50ページぐらいの長さながら、そこに書かれる登山の息苦しさは正に登山が死と隣り合わせのスポーツである事を濃厚に物語る。

登山家でもある著者ならではの登山での特殊なエピソードは肌身に皮膚感覚に訴える物があるが、短編だからかちょっと物足りなさも感じた。

No.250 7点 遥かなり神々の座- 谷甲州 2008/05/18 00:20
「山男には惚れるなよ」という唄があるが、それを地で行く主人公の造形に圧倒された。
やっぱり登山家というのはある意味人生破綻者なのかもしれない。

そしてこの主人公がヒマラヤ登山で出くわす事件から、ニマという男を通じて戦士になっていく過程もなかなか読ませる。

しかし最後のくどいくらいのどんでん返しは不要じゃないかな~。
最後にどっかーんと爽快感がほしかった。

No.249 8点 神祭- 坂東眞砂子 2008/05/16 23:18
この人は長編も短編も非常に巧い!
5編中、首を切った鶏が消える奇妙な話の表題作、ミズヨロロという忌み鳥を食べたがために疎外された未亡人の話「火鳥」、そして村役場の課長が失踪して、ときおり姿を見せるという「隠れ山」の3編がベスト。
よくもこんなの思いつくなぁとひたすら平伏。

初期作品は情念のこもった作品ばかりだったが、ここまで来ると物事をありのままに受け入れ、不思議を不思議として捉えるといった、肩の力を抜いた作品も目立ってきた。
順番に読んできて、作者の変遷がわかり、非常に面白かった。

No.248 7点 道祖土家の猿嫁- 坂東眞砂子 2008/05/15 22:58
猿そっくりの風貌から猿嫁と呼ばれるようになった蕗の一生を描いた作品。
連作短編のようなつくりになっており、各章の話が蕗のある時点でのエピソードを語るような構成になっている。

いやあ、この主人公ほど報われない女性もいないだろうと思わせる読後感。
見合いした当初から夫に嫌われてしまうのだから、夫婦間の愛情のない結婚なのだ。
92歳に吐露する心情がまた哀しい。女としてセックスの悦びを知らずに一生を終えてしまうのだから。

よくもまあこんな残酷な物語が書けるなぁとこの作者にあらためて畏怖してしまった。

No.247 9点 旅涯ての地- 坂東眞砂子 2008/05/13 22:57
作者自身初めて海外を舞台にし、さらに初の歴史小説であるという初物づくしの大作。

緻密なまでの当時の風景描写になかなか馴染めなかったが、上巻後半の急展開からページを繰る手が止まらないほどだった。
そして上巻を読み終わったときに、物語は全て終わったように感じ、下巻の同じくらいの厚さを見たときに、何が残っているのだろうと思ったが、これがまたすごい話だった。

最後はなんともいえない虚無感が漂う。しかし、傑作である。
唯一、主人公の夏桂の信条に関して語りすぎだったのが小さな瑕だった。

No.246 7点 葛橋- 坂東眞砂子 2008/05/12 23:27
中編集。彼女お得意の土俗ホラーというものではなく、2編が怪奇物で1編が奇妙な味系。

3編中、気に入ったのは「恵比寿」。
これは今までの坂東作品の中では珍しくどこかコミカルであり、新機軸として面白く読んだ。皮肉なラストはちょっと余計かなとも思ったが、この作者らしからぬ処理の仕方に逆に好印象を持った。

しかし逆にあっさりしているといった感じがあり、『屍の聲』のような匂い立つような情感が足りなかった。
贅沢な注文なのだが。

No.245 10点 山妣- 坂東眞砂子 2008/05/11 14:52
大傑作!
とにかく凄まじいほどの物語の力だ。
東北の雪深い山奥にある村に訪れる落ちぶれた役者たちの来訪が、悲劇の始まりとなっている本書は今までの坂東作品のフォーミュラを踏襲しているが、各登場人物の書き込みが群を抜いて濃厚。しかも捨てキャラなし!
特にいさの物語が凄まじい!

ところで本書の紹介文や帯には人の業が織成す運命悲劇というような文句がさかんに謳われているが、それよりも私は山が愚かな人間に振り下ろす鉄槌の物語だと思った。
山が生き物であるかのように人間の運命を翻弄する。

読後はあまりの物語の力に呆然となった。坂東眞砂子、恐るべし!

No.244 8点 屍の聲- 坂東眞砂子 2008/05/10 23:29
坂東眞砂子の怪奇短編集。全て読ませる。
これらの怪奇譚に共通するのは人間が通常思ってて口に出さない、表に出さない負の感情である。
これがあることをきっかけに表出し、思わぬ事態を招く。
この辺の綾というのがこの作家、非常に巧い!

どれもこれもいいが、あえてベストを選ぶとすれば「雪蒲団」か。
何が起こったのかを直截に描かず、読後、読者におのずと悟らせる、この技巧の冴えを買う。
いやあ、久々に鳥肌が立った。

坂東作品の入門書としてもお勧めです。

No.243 7点 桜雨- 坂東眞砂子 2008/05/09 23:13
今回の舞台はなんと東京。
しかし東京といっても年寄りの街、そして仏閣の街、巣鴨。やはり死がテーマの一部だ。

物語は混乱の昭和初期を生き抜いた二人の女性の物語を軸に、戦前の画家西游を巡る現代の物語が展開する。

当初現代で西游を探る彩子が主人公と思っていたら、断然過去のパートの方が面白くなり、主客転倒してしまった。

一応の決着がつくが、色々な物が取り残されたような形。
もうちょっと書き込めば傑作になっていたんだろうけど。

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