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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1602件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.922 8点 フランケンシュタイン 野望- ディーン・クーンツ 2011/03/19 20:35
クーンツの手によるフランケンシュタイン譚。メアリー・シェリーのオリジナルをリメイクするのではなく、彼女が生み出したフランケンシュタインが実は現実の産物であり、その人造人間、そして創造主であるフランケンシュタイン博士が今なお21世紀の世に生きているというパスティーシュになっている。
正直に云って、最初は全く期待していなかった。今更フランケンシュタイン?クーンツも他の作家からアイデアを拝借するなんて衰えたか?そんな侮りめいた先入観を抱いたが、読後の今、己の不明を恥じる思いで一杯だ。
これは面白い!最近読んだクーンツで面白かったのはオッド・トーマスシリーズの第1作だったが、本書はそれに次ぐ面白さと云えるだろう。

全くノーマークだった本書が予想外に面白かったのは収穫だ。
クーンツ未だに枯れず。
版元には一刻も早く次作の訳出を願う。

No.921 4点 眠れぬイヴのために- ジェフリー・ディーヴァー 2011/03/10 21:35
ディーヴァー自身が作者人生の転機となった作品と述べたことで期待値を高くして望んだが、その出来栄えは凡百のミステリと変わらず、寧ろそれまでのディーヴァーの作品の中にもっと光るものがあったように感じた。

追う者と追われる者という設定から往年のクーンツ作品を思い出した。『邪教集団トワイライトの襲撃』、『ウォッチャーズ』など彼の傑作はこの手の作品が多い。
従って本書もその出来栄えを期待したが、それらと比べるといささか劣るというのが正直な感想。その先入観だけでなく、本書は随所に「クーンツらしさ」というのがそこここに見られる。
敵役であるマイケル・ルーベックの造形。巨躯で怪力を誇り、精神分裂症にもかかわらず、機転で追っ手を撒くしたたかさを持っている。
またルーベックを追う者のうち、元警官のトレントン・ヘックは犬を飼っており、このエイミールという犬に絶大なる信頼を持っている。この犬が物語のアクセントになっているのもクーンツ色を感じる。そう、まるでクーンツが著した『ベストセラー小説の書き方』をテキストにして書いたような錯覚を受けた。

No.920 7点 犯罪カレンダー (1月~6月)- エラリイ・クイーン 2011/03/01 22:10
クイーンのいるところ犯罪有り。本書は1年を通じてその月に起きた事件を綴った短編集。各編はその月の出来事に関連している。

月ごとの特色が十分にプロットに活用されているかといえばそうとは云えない。寧ろ各月の記念日や祝日、そして由来をアイデアのヒントに物語と綴ったという色が濃い。プロットと有機的に組み合わさっているのは「皇帝のダイス」ぐらいか。

しかしなんといっても本書ではクイーン初期のロジック重視のパズラーの面白さが味わえるのが最大の読みどころ。それぞれ50~60ページという分量で語られるそれぞれの事件は無駄がなく、作品もロジックに特化された内容で引き締まっている。

個人的ベストは「くすり指の秘密」。このクラスの作品があと2作収録されていればもうちょっと点数を割り増ししただろう。

No.919 9点 本格ミステリ・フラッシュバック- 事典・ガイド 2011/02/27 01:34
清張以後=綾辻以前の期間1957年から1987年までに発表された本格ミステリの秀作を作家と共に一冊に纏めたのが本書。

新本格ムーヴメント以前のミステリ界は社会派ばかりが発表されて本格ミステリを書くこと自体が罪であり、売れない小説を書くことが出版社からも許されなかったと云われていたその期間にこれほど多くの作家と本格作品が生み出されているとは今でも思わなかった。いかに先入観を植え付けられていたかという証拠だろう。

日本のミステリ史の資料としてだけでなく、なにより洪水の如く生み出される出版物の荒波の中に葬り去られるには惜しい隠れた名作を思い出させるためにも実に貴重な1冊だ。
正に好著。ずっと手元に置き、自分に合った新たな作家の発掘に役立てよう。

No.918 7点 怪しい人びと- 東野圭吾 2011/02/25 22:43
個人的ベストは「灯台にて」。このブラックなテイストと読後感はなかなかいい。なんと経験談でしたか。迫真性があるわけだ。
そして工場勤めの経験ある私の主観を交えて「死んだら働けない」が次点となる。また「甘いはずなのに」も印象に残った。

しかし軽めの短編集であることには間違いなく、加えて東野の読みやすい文体もあって、印象に残りにくい作品になっている。物語の世界に引き込む着想と展開は素晴らしく完成度が高いだけになんともその辺が惜しいと思う。
出張の新幹線の車中で暇つぶしに読むのにもってこいのキオスクミステリだ。

No.917 5点 溺れる人魚- 島田荘司 2011/02/23 22:14
世界を舞台にしたミステリ短編集とでも云おうか。番外編とも云うべき「海と毒薬」を除いて1作目の表題作はポルトガルのリスボン、2作目の「人魚兵器」はドイツのベルリン、3作目の「耳光る児」ではウクライナのドニエプロペトロフスクが主要な舞台となっており、それ以外にもコペンハーゲン、ウプサラ、ワルシャワ、モスクワ、シンフェロポリ、サマルカンドも舞台となっており、短編という枚数からすればこの舞台の多彩さは異例とも云えるだろう。作者の意図は世界で活躍する御手洗潔を描きたかったのではないだろうか。

21世紀本格を提唱する島田は現代科学の知識をミステリの謎に溶け込ませているが、こういった謎は知的好奇心をくすぐりはするものの、それを謎のメインとされると読者との謎解き対決とも云える本格ミステリの面白みが半減するように感じる。しかしいい加減私も島田の作風転換に馴れなければならないだろうけど。

本書は一見バラバラのような短編集に思えるが、実は一つのモチーフが前編に語られている。それは人魚。人魚といえばデンマークの国民的作家として歴史に名を残したアンデルセンの『人魚姫』が有名だが、島田が本書でその人魚をモチーフに選んだのは物語作家宣言を仄めかしているように感じたが、考えすぎだろうか。

No.916 5点 死の教訓- ジェフリー・ディーヴァー 2011/02/17 19:54
大学生がカルト殺人鬼ムーン・キラーに殺されるという事件を主軸に捜査主任のビルの家族の問題と大学の苦しい財政事情とドロドロした学生と教授との淫欲関係を絡めて物語が進行する。
その実、サイコキラー物と見せかけて、ディーヴァーはそのジャンルに異を唱えるような展開を見せる。これはその頃(本書が書かれたのは1993年)に流布していたサイコ物に対するアンチテーゼなのかもしれない。
しかしこれは失敗作だろう。

《以下ネタバレ》

それは犯人である大学教授ギルクリスト=セアラの家庭教師ベン・ブレックという仕掛けだ。しかしもしそうならば明らかに矛盾が生じるのだ。なぜならばビルの家に出入りしているベンは警護のために家に張り込んでいる同僚のジム・スローカムに顔を見られているからだ。ジムが犯人として追っているギルクリストの顔を知らないわけがない。
そう異を唱えようとしたが、やはりディーヴァーもそれに気付いていたのか、一度はビルにベン=ギルクリストと云わせ、それを覆す結末にしている。しかしそれがために非常に座りの悪い終わり方になっているのだ。セアラの係り付けの精神科医パーカーにも「そういえばビルの家族のことにやたらと詳しかった」などという仄めかしもさせているし、おそらくディーヴァーはこれを最後の仕掛けとして用意していたのではないか。しかし上の理由から捨てざるを得ず、結局どんでん返しを元に戻すような犯人にしてしまった、そんな風に私は推測する。その無念が最後の方のビルの「ブレックというのは何者だ。こっちがききたい」という独白に集約されているように感じた。

No.915 8点 2011本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2011/02/12 22:35
当初の創作姿勢を崩さず、10位までの作品は見開き2ページに亘ってじっくりと作品について語り込み、ラノベや映画、コミックにゲームと他ジャンルに介在するミステリ物について愚直なまでに語っている。正にその年のミステリを総括するに相応しいムックである。もはやミステリに耽溺する者が手に取るべきは『このミス』よりも『本ミス』であるというのは過言ではないだろう。

確かに本格ミステリに特化した内容であることが狭義のミステリしか論じられていないという欠点はあるので未だに『このミス』に比べれば発行部数にはまだ開きがあるのは否めないが、実にミステリ愛に満ちたムックである。私は『このミス』よりも本書の出版を心待ちにしている。

ただ相も変わらず海外本格ベスト20の扱いが小さいこと。これも日本本格ミステリと同列に扱われない限りは評価に満点はつけ難い。この辺についてはその愚直さを捨てて欲しいのだが。

No.914 7点 灰色の砦- 篠田真由美 2011/02/08 21:50
桜井京介と栗山深春邂逅の物語。彼らがまだ大学1年生で輝額荘という下宿屋に一緒に住んでいた頃の話だ。シリーズがある程度進むと、シリーズのゼロ巻目ともいうべき過去に遡った話が書かれるが、この作品もまさにそれ。しかし悔しいかな、こういう作品はなぜか面白い。

そして肝心の事件だが、今回は犯人は解ってしまった。作者の散りばめたヒントは実にあからさまとも云うべき親切なものであり、確かにこの作品は桜井が謎解きをする前に解る。逆にこれだけ解ると作者との推理ゲームに勝ったという愉悦があり、その分評価も甘くなってしまう。

とにかく本書はやっとこのシリーズの世界に浸れた作品である。桜井と栗山の最初の物語を知ることで以前にも増してこの後のシリーズを愉しめそうな気がする。あとは妙なBLテイストが無ければいいのだが。

No.913 7点 ブラディ・リバー・ブルース- ジェフリー・ディーヴァー 2011/02/02 21:44
まだ2作目だが、映画のロケーションスカウトであるジョン・ペラムのシリーズはその職業の特異性から常に見知らぬ町を舞台にし、そこで彼が”A Stranger In The Town”という存在になり、町中の人間から注目を集め、忌み嫌われて四面楚歌になる状況下で物語が繰り広げられるといった内容になっているのが特徴だ。特に彼が町中の人間から注目を集めるのに、映画産業という華やかな世界に身を置いていることが実によく効いている。この設定は実に上手いと思う。

そしてこの作品には後のディーヴァーの技巧の冴えの片鱗が確かにある。特に後半の読者の先入観を見事に利用した人物の描き方による仕掛けは実に素晴らしい。

最後のシーンを読んだ時、私には次の一文が頭を過ぎった。
“警官にさよならをいう方法はいまだに発見されていない”
レイモンド・チャンドラーのある有名な作品の最後の一行だ。チャンドラーが込めたこの一文の意味とディーヴァーの描いたラストシーンのそれは全く違うものだが、ディーヴァーはこの一文を美しい風景へと昇華させてくれたように感じた。

No.912 7点 帝王死す- エラリイ・クイーン 2011/01/26 21:40
今までのクイーン作品の中で最も舞台設定が凝っており、後期クイーンの諸作で深みが増した人間ドラマの一面にさらに濃厚さが増した、リーダビリティ溢れる作品だ。
しかもドラマチックな設定の中、密室で銃で撃たれるという不可能犯罪が起こる。
しかしこの魅力的な謎の真相は正直期待外れの感は否めない。

そして忘れてはならないのは今回の事件に翳を落としているのはあのライツヴィル。

しかしなんとも暗喩に満ちた作品だ。ベンディゴ兄弟の名前はもとより、探偵クイーンに相対するのがキング。しかも題名は“The King Is Dead”。色々な意味合いが込められたこれらのメタファーに物語以上の重みが感じられてならない。

No.911 7点 オッド・トーマスの予知夢- ディーン・クーンツ 2011/01/22 21:53
オッド・トーマスシリーズ4作目の本書はなんとエスピオナージュ。田舎町を牛耳る警察署長と港湾局の職員との軋轢。閉鎖されたムラ社会における一人のストレンジャーという図式に、来たるべき災厄を予知夢で察したオッドが奮闘する。

このシリーズの売りはオッドの霊が見える能力で、いつも早いページの段階で霊が登場していたのだが、今回は181ページ目でようやく出てくる。しかも定番の災厄の象徴ボダッハは一切現れないという異色さ。予知夢で大惨事が起こりうることを知りながら、なぜボダッハが現れないのか不思議でならなかったが、その理由についても作者はすでに準備済みだった。その内容については本書を当たられたい。

今回のベストキャラクターは元映画俳優のハッチことローレンス・ハッチスンとフランク・シナトラ。こういうキャラが出てくるなんて、クーンツはまだ枯れないなぁ。

解説の瀬名氏によれば本書以降、オッドシリーズは書かれていないとのこと。このまま棚上げにするにはなんとも割り切れなさが残る。いつかまたクーンツがシリーズ再開することを切に願おう。

No.910 6点 シャロウ・グレイブズ- ジェフリー・ディーヴァー 2011/01/16 18:38
映画の舞台となる町を探す、いわゆるロケハンを生業にしているロケーションスカウトのジョン・ペラムシリーズ第一弾。
映画産業に若くから関ってきた生粋の映画人であるため、初期のもう一つのシリーズ、ルーン物よりも物語に映画産業の色合いが濃く表れている。そしてこの設定が物語を動かすのに実に有効に働いているのがディーヴァーの上手いところだ。

セオリーに則った物語展開だが、実にそつがない。
そしてディーヴァーといえばどんでん返しが代名詞だが、本書でも最後の最後で思いもよらぬ真相が待ち構えている。しかしパンチも弱く、どんでん返しというほどの驚きはなかった。読者を最後まで飽きさせないサービス精神は窺えるが、巷間の口に上るほどの印象もないといった感じだ。

No.909 5点 犯罪文学傑作選- アンソロジー(海外編集者) 2011/01/11 22:04
いわゆる文豪と云われる非ミステリ作家たちの手になる犯罪を扱った作品を集めたアンソロジー。1951年に編まれた本書は現在日本で北村薫氏らによって日本の文豪らの手による作品集が編まれ、文化として継承されている。

全21編中、個人的ベストはウィキペディアにも載っていない作家デイモン・ラニヨン(その後ここのサイトの参加者miniさんよりラニアンという名前で現在呼ばれていることが判明。ウィキペディアにも載っています)の「ユーモア感」。その他にはトウェインの「盗まれた白象」、フォレスターの「証拠の手紙」、ラードナーの「散髪」、サーバーの「安楽椅子の男」、スティーヴンソンの「マークハイム」、ハーストの「アン・エリザベスの死」が印象に残った。これらは犯罪を皮肉ったものや一読考えさせられる内容を持っていたり、また現代でも通じる語り口に工夫が見られるものだ。例えば「マークハイム」や「アン・エリザベスの死」は幻想小説としての趣もあり、犯罪を扱いながらもジャンルを跨った作品になっている。特に後者は家族殺しという犯罪の真相が歪な味わいを残し、被告人の心の傷はちょっと想像がつかないほど痛ましい。

ただ訳が古すぎて非常に読みにくかった。すごく時間が掛かったなというのが一番の感想だったりする。

No.908 7点 分身- 東野圭吾 2010/12/29 20:06
『宿命』、『変身』に連なる作品。
これら医学的ミステリの主眼が人間ドラマにあるように本書で描かれるのは母性。特に事件の発端となった、頑なに禁じていた我が子のTV出演を叱りつける事無く、受け流した小林志保の母性が印象に強く残った。

それだけに最後は駆け足で過ぎた感じがするのが残念。あのラストシーンが作者のやりたかったことなのは判るが、それゆえなんとも尻切れトンボのような結末に感じてならない。

No.907 8点 陰の季節- 横山秀夫 2010/12/23 19:39
横山氏は殺人課を使わずに事件性を持たして警察小説が書けることを証明した。ここに出てくるのは警務課で主人公それぞれが就いている職務は人事、監察、婦警の管理、秘書課と事件に直接的に関わる部署ではなく、警察の内務をテーマにしながらも事件を描くという点が新しい。
しかも扱われる謎は云わば“日常の謎”なのだ。
辞任の時期が来たのに、なぜ辞めようとしないのか。
悪意ある告げ口としか取れないメモ書きの真意とその犯人は誰か。
前日に手柄を立て、マスコミにも大きく扱われ、一躍メディアの主役になった若き婦警はなぜ翌日無断欠勤し、失踪したのか。
ある県議員が議会で本部長を陥れるためにぶつける質問、即ち“爆弾”の正体とは何か。
これらが警察組織で起これば、事件性を伴い、背後に隠された事件・犯罪を浮かび上がらせ、十分警察小説になりうることを横山秀夫氏は見事に証明した。これは正に新たなジャンルの誕生とも云える発想だ。綿密な取材と落ち着いた文章と過不足ない引き締まった内容で横山氏はそれを高次元のレベルで成し遂げたのだから、確かにこれは歴史的快作といえるだろう。

No.906 7点 四人の申し分なき重罪人- G・K・チェスタトン 2010/12/16 21:42
本書をミステリとして捉えるか、寓話の形を借りた啓蒙書として捉えるか、ひとそれぞれ抱き方は違うだろう。私はそのどちらでもなく、その両方をミックスした書物、即ちミステリの手法で描いた啓蒙書として捉えた。
しかし約80ページ前後で語られる各編の内容はなかなか要旨を理解しがたい構成を取っている。舞台設定の説明はあるが、事件、というか出来事は筍式にポツポツと語られ、それが物語の総体をなす。つまり探偵役、犯人役が不在のため、物事を思うがまま、起こるがままに筆を走らせているように取れた。しかし最後にチェスタトン特有の皮肉と警告がきちんと挟まれているのはさすが。

個人的ベストは「不注意な泥棒」。これは話の出来云々というよりも自身の経験に同様なことがあったことで非常に共感できた部分があったからだ。

しかし知の巨人チェスタトンよ、もう少しすっきりとした文体で書けなかったものだろうか?

No.905 3点 ルチフェロ- 篠田真由美 2010/12/12 21:23
本書はミステリ作家ならば誰もが一度は触れたくなるという、いまだにその正体が不明の、1888年のロンドンを恐怖のどん底に陥れた切り裂きジャック譚。通常切り裂きジャック事件の検証をありとあらゆる文献に残された証拠やデータから推測し、正体を解き明かしていく方法を取るが、本書ではその正体をあらかじめ17歳のイタリア人、アルドゥイーノ・デッラ・アルタヴィッラとして物語る。

しかしこれは前世紀最大のミステリであった切り裂きジャック事件の真相を論理的に解明する謎解きではなく、世に残る切り裂きジャック譚をモチーフにした幻想小説といった方が妥当だろう。
こういったロマン主義的な幻想小説はやはり苦手だ。知的好奇心がそそられるエンタテインメント性がもっと欲しいものだ。

No.904 7点 騙す骨- アーロン・エルキンズ 2010/12/06 21:40
毎年この時期になると訳出されるのが恒例となってきた。
本作はこのシリーズの原点回帰ともいうべき作品と云えるだろう。
スケルトン探偵シリーズと銘打っているだけに、本書の最たる特徴そして魅力は形質人類学教授ギデオン・オリヴァーの学術的な骨の鑑定にある。それが最近の諸作では観光小説の色合いが強く出ており、それがおざなりになっていた感がある。特に前々作の『密林の骨』では骨の鑑定そのものが添え物でしかなかったくらいだ。
それが本書では3つも骨の鑑定が盛り込まれている。
1つはミイラ化した身元が解っている死体の死因についての鑑定。
もう1つは白骨化した身元不明の死体の性別・年齢を解き明かす鑑定だ。
そして3つ目は最後の最後に本書の真相解明として大きく寄与する博物館に展示されている古代サポテク族の頭蓋骨の鑑定。
しかもこれら全てが専門家に一度検分され、身元が推定された物であり、それらをギデオンが鑑定することにより、覆されるという複雑な特色を持った骨ばかり。正に題名に相応しく専門家達を「騙す骨」なのだ。

心和む作品世界は第16作になっても衰えるところが無く、慣れ親しんだところに帰ってきた感があり、非常に読んでいて心地がよかった。

No.903 7点 流星航路- 田中芳樹 2010/12/05 21:36
ミステリー色はさほど濃くなかったが十分楽しめた。安心して読める作品。

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