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[ 短編集(分類不能) ]
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本多孝好 出版月: 1999年06月 平均: 6.20点 書評数: 5件

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双葉社
1999年06月

双葉社
2001年11月

KADOKAWA
2013年02月

No.5 7点 パメル 2025/04/16 19:17
日常に潜む喪失感や、人の奥底にある孤独を繊細に描いた5編からなる短編集。
「眠りの家」「私」が自殺しようとした理由を助けてくれた少年に語り始める。主人公が話す自殺に至る経緯を聞いただけで、少年がその話の手掛かりから事件を再構成するという安楽椅子探偵ものだが、その謎解きよりもラストで明かされるもう一つの仕掛けが本編の魅力となっている美しくも切ない物語。
「祈灯」幼い頃、目の前で妹が事故死した少女は、以来自分をその妹であると思い込む。主人公の妹が抱え込んでいるトラブルとトラウマを巧みに共振させながら、静謐なエンディングに持っていくところがいい。
「蝉の証」老人ホームにいる祖母より、一人の老人について調査を頼まれる。死を目前に控えた老人の企みを明らかにしていく物語だが、その企みを巡る主人公と祖母との対峙が主眼となっている。二つの世代に対する目配りの良さが光る。
「瑠璃」従姉のルコは「僕」にとって憧れの存在だったが。主人公の目を通して描きだされる、一人の女性の短い生の軌跡そのものが一つの謎となっている。そしてその謎は決して解かれることのない類のものなのだろう。
「彼の棲む場所」十八年ぶりに再会した友人が、「僕」に語った奇妙な話とは。爽やかで健全な日常の顔の背後に隠された闇。サトウ君という幻想的なキャラクターを介在させることで、その闇を象徴させている。過去と現在が交錯する中で、自分自身と向き合い再生への道を歩み始める。
それぞれ、喪失を通して見えてくる人間の強さや優しさが描かれている。明確な解答を与えぬまま閉じる構成が、かえって現実の不確かさを反映しているかのよう。これは安易なカタルシスを拒否する作者の美意識の表れと解釈した。

No.4 5点 まさむね 2011/11/15 20:01
 ミステリ的な側面が一切ない作品も混じっているのですが,純粋な「読書」という目線で見れば,悪くないですね。考えさせられるし,じっくりと沁みます。文章も綺麗。
 しかし,このサイトでの採点はこのあたりにしておきます。

No.3 5点 isurrender 2011/10/09 20:38
ミステリーとしても「祈灯」は面白かったかな
しかし、全体としてミステリとして評価すべき作品ではないと思います

No.2 8点 Tetchy 2011/09/15 21:13
ミステリの祭典というサイトだからミステリとして採点すべきなのだけど、小説ということで評価します。

MISSという単語は日本語で云われている「誤り」とか「間違い」という意味は全くなく(日本語のミスはMistakeの省略)、「誰かのことを思って寂しくなる」という意味だ。
本書に収録された5編に共通するのはまさしくこの「誰かのことを思って寂しくなる」、即ち喪失感だ。
そしてこの喪失感ほど残酷なものはない、という作者の主張が行間から見えるほどここにはある特殊な思いが全編に共通して流れている。
それは3編目の「蝉の証」の中で主人公が考える次のことだ。
「欺き、騙され、そうまでして人は自分が生きた証をこの世界に留めずにはいられないものだろうか」
まさしくそうだろう。喪失感という心に与える巨大な負のエネルギーが却って残された人々の心に存在感を浮かび上がらせる。
あの時確かに君はいたのだ、と。

20代でこれほど流麗な文章で物語が書けるとは素晴らしい。
特に大切な誰かや守っていた何かをなくした時に読むとこの作品を読んで去来する感慨は殊更だろう。ちょっと泣きたい夜にお勧めの一冊だ。

No.1 6点 メルカトル 2010/08/25 23:52
ミステリに近い作品、ホラーっぽい作品、一種の恋愛小説、文芸的作品など、非常にバラエティに富んだラインナップの短編集。
どの作品にも共通するのは、人間の心の奥には愛や優しさばかりでなく、憎しみや醜くさも同時に存在しているのだという事実を、時に儚く、時にリアルに表現した異色作であること。
特に第16回小説推理新人賞を受賞した『眠りの海』は印象深い。


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MISSING
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