皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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Tetchyさん |
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平均点: 6.73点 | 書評数: 1602件 |
No.64 | 7点 | 2021本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2024/07/12 00:35 |
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『このミス』と本書2つはランキングが似通ってきたのだが、この年のランキングについて両者を比べてみると『このミス』2位であった阿津川辰海氏の『透明人間は密室に潜む』がランキングを制しており、一方『このミス』1位の『たかが殺人ではないか』は4位となっている。やはり本格ミステリに特化したランキングだけに本格ミステリとしての純度の高い方が数多くの支持を得ているようだ。しかしだからといって両者の特色が色濃く表れているわけではなく、例えば本書内のランキングと『このミス』のランキングを先述の2作を除いて()内に記してそれぞれ比べてみると
2位『蟬かえる』(11位) 3位『名探偵のはらわた』(8位) 4位『楽園とは探偵の不在なり』(6位) 6位『ワトソン力』(20位圏外) 7甥『欺瞞の殺意』(7位) 8位『鶴屋南北の殺人』(20位) 9位『法廷遊戯』(3位) 10位『エンデンジャード・トリック』(圏外) と10位内に重複する作品が8作もあり、また両者とも10位圏内の作品も6作もあると、やはり投票者が重なっていることと、それぞれのランキング本の趣旨を理解して選出作を意識して変えている投票者が少ないこと、もしくは投票者の多くが本格ミステリ好きが多いことがその要因のようだ。 11~20位を見てみると両者のランキングでも20位圏内の作品は『立待岬の鷗が見ていた』(20位)『巴里マカロンの謎』(19位)、『あの子の殺人計画』(16位)と3作品とかなり重複作が少なくなる。つまりこれは11~20位内のランキングの方に本格ミステリ度が高くてマニアの支持を得ている作品が多いように思える。 さてやはり驚愕なのは阿津川辰海氏の1位獲得だろう。僅かデビュー4年目にしての1位獲得はでデビュー作がいきなりランキング1位を獲得した今村氏、2年目の井上氏に次ぐ快挙である。本書に阿津川氏のインタビューが載せられており、そのことについては後述するが、東大卒でもあることからかなり頭のいい作家なのだろう。『このミス』でも既に彼の作品が毎年ランクインしているが『本格ミステリ・ベスト10』ではデビュー作以降全てがランキングしている。 また海外のランキングは『このミス』同様ホロヴィッツの『その裁きは死』が2位に2倍近い得票差を付けて断トツの1位。個人的にはこのホーソーンシリーズ、本格としての端正さは認めるものの、主人公のホーソーンのキャラクターが好きになれないため、あまり手放しで喜べないのだが。 2位以下の作品で『このミス』のランキングと重複しているのが2位『網内人』(14位)、5位『死亡通知書 暗黒者』(4位)、6位『指さす標識の事例』(3位)、7位『カメレオンの影』(12位)、8位『死んだレモン』(16位)、9位『ザリガニの鳴くところ』(2位)、10位『時計仕掛けの歪んだ罠』(8位)と8作、10位圏内が5作とこちらも似通っている。ただ2020年はコロナ禍により新訳の海外ミステリの点数自体が激減しているため、母数自体が少ないのだからこれは致し方ないかと云える。 さてその他の企画や特集だが、まず何といっても阿津川辰海氏のインタビューだろう。先述のように今の彼の作品の質が圧倒的な読書量に裏打ちされていることが判る内容となっている。彼はずっとミステリを読んで育ってきたようでとにかく読書量が凄い。しかも新本格のみならず古典ミステリにも触れた、かつて綾辻氏や法月氏と云ったミステリの申し子の本格ミステリ作家とも云える人物である。第2の米澤穂信氏になるような、本格ミステリの旗手となることを期待したい。 この年はやはりコロナ禍というこれまでにない社会状況の変化ゆえか、投票者も書店に行く機会が減ったことでずいぶん情報制限がかかったランキングになったのではないか。 例えば文芸誌や週刊誌で取り上げられた、話題の作品には目を通すがそれ以外の書店に行かないと見つけられない作品などはあまり俎上に上がらなかったのではないだろうか。 また海外ミステリの出版点数の少なさには特異な状況とはいえ、何とも云えない哀しさを感じる。寧ろ逆にこれまで絶版となっている傑作・佳作の数々を新訳版として出してくれるといいのだが。 このコロナ禍という特殊な世相での年末ランキングとなった本書を読んで、やはりこのような企画本はその年その年の世相を映す鏡の役割を果たすのだと強く感じた。 数年後、いや願わくば3年後ぐらいに本書を読み返したときに、ああ、こんな時もあったなぁと思うことだろう。 |
No.63 | 7点 | このミステリーがすごい!2021年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2024/05/01 01:19 |
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2020年は歴史に残るであろうコロナ禍の年で自宅待機や外出自粛で読書の時間が増えた年だったように思う。
そんな年のランキングを制したのはなんと辻真先氏の『たかが殺人じゃないか』だった。なんと御年88歳にして初の1位。最年長記録であると同時に恐らくこの記録は今後のミステリ作家も破ることはできないのではないか。 本格ミステリは年を取ると書けなくなるという。複雑に入り組んだトリックとロジックを矛盾なく仕上げるのに記憶力と理解力が低下しているからだ。しかし現在でもアニメ脚本家として働いている辻氏にこの定説は無縁であったことが証明された。いやあ、まさに偉業である。 そして偶然にも氏が脚本を手掛けることもある『名探偵コナン』が全面的に押し出された『このミス』となった。 国内ランキングは辻氏の1位が象徴するようにベテラン勢と勢いのある新人勢の作品、つまり世代格差の現れたランキングとなった。なんせ2位にまだデビュー3作目の阿津川辰海氏の『透明人間は密室に潜む』がランクインしているからだ。この作家、恐らく今後の本格ミステリシーンを背負っていく存在になるかもしれない。 そして海外編はさらに新規ランキングの作家が目立つが、それらを差し置いてまたもやアンソニー・ホロヴィッツが『その裁きは死』でなんと『このミス』史上初3連覇を果たす。 2~10位までは初ランクイン作家がなんと7人も並ぶ。しかも他の2人は最近評価の高いギョーム・ミュッソとアンデッシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムの新進作家なのだから、世代交代の色合いが実に濃いランキングとなった。 今回は2021年がもうすぐコミックス100巻に達するメモリアルイヤーになることで『名探偵コナン』が前面に出され、しかもベストエピソードの選出まで行われている。ただやはりすごいのは100巻に達しようとしているのに作家の青山剛昌氏にアイデアの枯渇が見られないことだ。彼もまた細胞がミステリ成分で出来ているに違いない。 また『名探偵コナン』の脚本を手掛けるミステリ作家で『このミス』ランキング作家である辻真先氏と大倉崇裕氏氏の対談も面白かった。なんとこのアニメのスタッフは辻氏が『アタック№1』の仕事をしていた頃からの付き合いがあるなんて!しかし御年88歳にしてオンラインインタビューを使いこなす辻氏の若さには驚愕せざるを得ない。 あと最も面白く読んだのは伊坂幸太郎氏の作家生活20周年記念インタビューだ。いやあ、この作家、かなり『このミス』ランキングを気にしていることが判り、ニヤリとしてしまった。彼も私と同じ島田荘司信奉者であるから、過去に島田作品にケチを付けられてカチンときたなんて話は実に親近感が沸くではないか。 このインタビューが面白いのは伊坂氏の『このミス』偏愛ぶりを尊重して彼の過去作品を『このミス』ランキングに準えて語っていることだ。 ランキングは気にしないという作家もいるが、逆に伊坂氏のようにランキングを常に気に留め、それが創作のモチベーションになっている事を正直に話すと実に気持ちがいい。特に自信を持って放った作品ほどランキングが低かったり、むしろランクインしなかったりとその落胆ぶりは率直で好感が持てた。やはりミステリ・エンタテインメント系の作家はこうでないと。せっかく自作を評価してくれる企画があるのなら、それは目を通した方が参考になり、次作のレベルアップに繋がるからだ。 しかし何よりも巻末に付せられた刊行作品リストのページ数の少なさに驚かれた。確かに文字の大きさが小さくなって切り詰められてはいるが、これまで国内作品が12ページ、海外作品が5ページくらいだったのに対し、今回はそれぞれ7ページと海外に至っては3ページである。出版不況の影響をまざまざと見せつけられたような寒気を覚えてしまった。 |
No.62 | 8点 | 2018本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2018/07/31 23:49 |
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今年も年末恒例の企画として刊行された『本格ミステリ・ベスト10』。特に2017年は新本格ミステリが30周年を迎えた年としてその特集号となっている。
まずはその新本格30周年を迎えた記念すべき年のランキングを制したのはなんと『このミス』同様、鮎川哲也賞受賞作である新人、今村昌弘氏の『屍人荘の殺人』だった。これで本作はなんと週刊文春の年間ベストランキングも制し、新人のデビュー作にして初の3冠達成という偉業を成したことになる。今までそんな作品はヴェテラン作家でさえ成し得なかったことだ。これはまさに30周年に相応しい“事件”だと云えよう。 そしてその後のランキングは、まさに「本格ミステリ」に焦点を当てているだけあって、『このミス』とは異なるランキングとなっているのが嬉しい。近年本格ミステリが台頭してきて『このミス』とのランキングの近似性が目立っていただけにこのオリジナリティは実に楽しい限りである。 今回の特集に目を向けると、やはり上に述べたように新本格30周年の特集が光る。法月綸太郎氏、三津田信三氏、青崎有吾氏の本格三世代座談会は実に世代性が色濃く出て、実に面白かった。同じ本格ミステリを書きながら、読書歴は異なるところ、特に青崎氏は法月氏ら新本格第1世代からの読者であることや海外ミステリから入っていきながらも昨今の出版状況で絶版が多くて法月氏のように十分に読みたい本が読めないことなどが述べられていて、私ですら世代差を感じた。 更に新本格の30年の歩みとして発表作品の変遷、更に30年間で生み出された本格ミステリの各カテゴリーにおける傑作や扱われたテーマなどについてコラムが付されており、まさにミステリ濃度100%の内容だった。もっとページを増量して更にディープに特集してもいいくらいだと思った。 今回も例年通り、内容の充実ぶりにたっぷり堪能させられた。 やはり自分の中には本格ミステリへの渇望感が常にあるのだ。毎回このムックを読むとこの本格ミステリ好きマインドが胸を焦がし続ける。 そんな積読本が多い状態でまたも無視できない新人が登場した。今村昌弘氏の作品はもう私の本棚の一画を占めることが決まったも同然だ。 そしてまた私は増え続ける蔵書を前に途方に暮れるのである。それでもなお今年もまた読み逃せない傑作が生まれることを期待しよう。 とにかく読まねば、読まねば。 |
No.61 | 10点 | このミステリーがすごい!2018年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2018/05/08 23:59 |
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30冊目のメモリアルに相応しく、本書は質・量ともに近年にないほど充実していた。
まず驚くのはなんと第1冊目の誕生号がまるまる1冊収録されていることだ。もうこれだけで『このミス』1冊読んだのと同じくらいの気分になれた。 新本格勃興期の綾辻行人氏を筆頭に第1次新本格作家たちが出てき出した頃の新本格ブームの中、船戸与一氏の南米三部作の掉尾を飾る『伝説なき地』と原尞氏のデビュー作でハードボイルドの傑作『そして夜は甦る』が1,2位を抑えるという冒険小説、ハードボイルド小説、本格ミステリそれぞれが勢いを増し、切磋琢磨していた時代の凄さが紙面に溢れている。 海外も同じでトレヴェニアンの叙情豊かな警察小説『夢果つる街』が1位となれば、2位はリーガル・サスペンスの傑作トゥローの『推定無罪』が、そして3位はイギリス本格ミステリの重鎮P・D・ジェイムズの『死の味』が鎮座ましますとこれまた物凄いランキングである。 また投稿者のコメントもミステリ愛が深く、正直最近の『このミス』以上に読み応えがあり、紹介されている作品に食指が伸びて伸びて仕方がないほどの魅力と魔力を持っている。 更にはパソコン通信のミステリを話題にした「会議室」の紹介もあったりと時代を感じさせながらも、当時も昔もミステリに対する愛好者の愛の強さは変わらないのだと感じさせられた。いやどちらかと云えば、古くから古典ミステリに親しみ、云わばミステリの系譜を連綿と受け継いできた当時の読者諸氏の方が、それら名作を読まずに新本格以後からの作品しか読んでいない人が多い昨今のミステリファンよりも愛情は深く、そして広範な知識に裏付けされた遊び心があるように感じた。 しかし本編も今年は負けず劣らず、非常に注目が高いランキングとなった。 まず驚くのは今村昌弘氏の『屍人荘の殺人』が堂々1位を獲得したことだ。新人でしかも本格ミステリ作品での1位である。今までにない快挙だ。2位は伊坂氏の復活を告げる『ホワイトラビット』。自身デビュー30冊目の記念碑的作品らしい。3位はもはや常連と化した月村了衛氏の『機龍警察』シリーズの『機龍警察 狼眼殺手』、そして4位がこれまた本格ミステリ、貴志祐介氏の『ミステリークロック』、5位も本格ミステリ出身の古処誠二氏の『いくさの底』と、本格ミステリが中心の中、一人怪気炎を吐く月村氏の『機龍警察』シリーズが食い込み、誕生号とは対照的なランキングとなって興味深い。 海外編ではやはり『フロスト警部』シリーズ最終作『フロスト始末』が1位と有終の美を飾った。このシリーズ、過去の『このミス』でも上位5位圏内にランクインしている高品質ミステリ。いつか必ず読みたいシリーズだ。 しかし海外ランキングはこれ以外では波乱含みのランキングとなった。新進気鋭のケイト・モートンの『湖畔荘』は下馬評の評判通り4位という好位置につけたが、それ以外ではボストン・テランの『その犬の歩むところ』が8位、マーク・グリーニーは13位、アーナルデュル・インダリダソンが15位、ヘレン・マクロイが16位、ジェフリー・ディーヴァーが17位と下位圏内にひしめく状況で、上位は本邦初訳、もしくは2作目訳出の作品がランキングを席巻する状況となった。 特に驚きなのは第2位を射止めた陳浩基氏の『13・67』である。中国ミステリが初ランクインでしかも2位という快挙だ。それ以外にもオーストラリア、フランス、アイスランドと多国籍化が進み、以前の英米主流からますますグローバル化へ拍車がかかった。いやあ、今回のランキングは本当に海外ミステリの大転換期であると大いに感じた。その中で古参の『フロスト警部』シリーズが1位を獲得した意義は実に大きい。 また今回は以前のスタイルに戻ったことが大きい。ランキング結果が最初に出され、その後にランキング本の解説がなされている。やはりこの方が読みやすい。 更には座談会が充実しており、実に読みごたえがあった。宮部氏×綾辻氏(しかし綾辻氏は老けたなぁ)、恩田陸氏×宮内悠介氏、新鋭作家大座談会と、それぞれの時代のそれぞれの読書遍歴、作風スタイル、交流などが垣間見れて非常に興味深かった。特に新鋭作家の皆さんは若いだけあってSNSを非常に活発に活用されているのが印象に残った。 コラムも充実しており、これぞ『このミス』といった納得の内容だった。30冊目という記念だからの充実ぶりだとしたら、それは哀しい。やはりその年一年のミステリシーンを概観し、総括するムックならばこれだけやって当然なのだ。 今回の『このミス』はどんどん読み進みたいのに読み終わりたくなくなるほどの面白さだった。迷わず10点を献上しよう。毎年『このミス』はこうであってほしい。『このミス』と出逢ってミステリ読者となった一読者の心の底からのお願いである。 今年もいいミステリが生まれ、そして年末に更に面白い『このミス』と出逢えることを祈りつつ。30周年記念号、大いに期待してます! |
No.60 | 10点 | 2017本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2017/07/29 22:56 |
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例年とは違い、待望の2006年から2015年の10年間のベスト選出結果が載っている…と思っていたら本書はなんと1997年から2016年までの20年間のオールタイムベストの選出と対象期間を倍にした企画に変っていたことに驚く。ただし前回が1996年からに対して今回は1997年からと1年のオフセットが行われているのは1997年がこの本格ミステリ・ベスト10が刊行された年であるからだ。
この年のランキングについて語ることは省略し、この20年のベスト選出について語ることにする。 まず1位を三津田信三氏の『首無の如き祟るもの』が獲得したのはその後の10年の本格ミステリがその前の10年間のミステリよりも優れてきたことを象徴しているかのようだ。しかし2位に東野氏の『容疑者xの献身』がランクインされているのはこの作品の普遍性を表している。前回の10年ベストでは3位であり、むしろ評価を挙げていることが凄い。次の『ハサミ男』も5位から3位に、4位の『人狼城の恐怖』は前回と同じ位置につけており、その価値が変わらぬことを証明した。5位の『葉桜の季節に君を想うということ』も前回から1ランクアップ。 つまり1位を除く2~5位は前回とほとんど変わらない作品がランクインしたといえ、つまり一応その後の10年で前回のランキングを打ち破る作品が出たものの、その他上位は変わらなかったという結果となった。 逆に『容疑者x~』以下の作品のランクが上がる、もしくは維持されたのは前回1,2位にランクインした京極夏彦氏の『百鬼夜行』シリーズの『絡新婦の理』と『鉄鼠の檻』の2作が大きくランキングを落としたことが要因だ(前者は18位で後者は12位)。つまりこの妖怪をテーマにしたこのシリーズの刊行が2006年の『邪魅の雫』以降、パッタリと止まった読者の渇望感を三津田氏の刀城言耶シリーズが癒していたのがこの10年であるとの証左がランキングに出ていると云えよう。 その他新しくランキングした作品は6位法月綸太郎氏『キングを探せ』、7位米澤穂信氏『折れた竜骨』、9位有栖川有栖氏『女王国の城』、11位柄刀一氏『密室キングダム』、13位麻耶雄嵩氏『メルカトルかく語りき』、15位円居挽氏『丸田町ルヴォワール』、同15位麻耶雄嵩氏『さよなら神様』、17位麻耶雄嵩氏『隻眼の少女』、18位歌野晶午氏『密室殺人ゲーム2.0』、20位梓崎優氏『叫びと祈り』と11作がランクインし、半分以上が塗り替わる結果となった。逆に2005年以前の作品はいずれも前回ランクインした作品ばかりなのはもはや評価が定まってしまったことを意味するのだろうか。 しかしこの20年において麻耶雄嵩氏の躍進ぶりは凄まじい。なんと前回に引き続いてランクインした10位の『螢』を含めると4作がランクインしたことになる。そのうち3作は2006年以降であるから、まさにこの10年は麻耶雄嵩氏の10年だったと云えよう。 しかしながら近年のランキングは上に述べたように新興の本格ミステリ作家がどんどん話題作を生み出し、ランキングを席巻しつつある。まさに群雄割拠の本格ミステリ界と云えよう。それらの作品が今後の10年で名作であると評価され続けるに足る作品であるかどうかは京極氏の作品の評価を見て解るように今後の活躍に掛かっているのである。つまり継続的に意欲作を出すことがその作者の作品を名作足らしめるということがこのランキングで示唆されているのだ。実に興味深い資料だ。 そうなるとやはり2007年から2016年の10年、いや2006年から2016年でも2006年から2015年でもいいのでこの10年のオールタイムベストも見たいものである。またまだなされていない海外本格ミステリについても同様の企画を将来的にはお願いしたい。 しかしこのムック、もっと世間的に広く認められるべきだと思うのだが、なかなか認知度が高まらないように思えてならない。内容の充実ぶりは『このミス』よりもはるかに上。世のミステリファンよ、本書を手に取り、本格ミステリの海に共に身を投じようではないか! |
No.59 | 9点 | このミステリーがすごい! 2017年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2017/04/30 00:35 |
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今年は海外赴任中で海外で読むと容易に手に入れられない分、読書の欲求が普段よりも否応に増す思いがした。
さて今年の最大のサプライズは国内1位を大ベテラン、しかも本格ミステリ作家の竹本健治氏の『涙香迷宮』が飾ったことだろう。実にマニアックでコアなファンを持つ作家だから、この結果には本当に驚いた。内容は「いろは歌」による暗号物らしいが、48首もの数が収められているらしい。まさに究極の暗号小説で、逆にそんなマニアックな作品が1位を飾ることが『このミス』らしくもあり、またらしくなくもある。ポーの『黄金虫』の時代からミステリファンの暗号好きは変わらないということだろうか。またこの1位が呼び水となって氏の未文庫化作品がどんどん文庫化されるといいのだが。まずその皮切りとばかりに『かくも水深き不在』が文庫化されたのは素直に嬉しい。 今年は新顔の活躍が目立つ。常連陣は先に述べた作家以外では宮部みゆき氏、法月綸太郎氏、雫井脩介氏ぐらいである。この新人上位のランキングはこれまでの『このミス』の歴史でもあったことなので、単純に世代交代の時期にあるとは云えないだろう。ただ前年同様、選者たちの青田買い、新し物好きに拍車がかかっているような傾向もみられる。特にデビューして3年すれば顧みられない作家たちが多いと感じる。恐らくはフレッシュが故の新人の自由な着想が印象に残ったのであろうが、それでも作品は新人・ベテランの区別なく平等に評価してほしいものである。 さて海外作品は読後、絶対今年も1位と確信したドン・ウィンズロウの『ザ・カルテル』は惜しくも2位。この情念の傑作を見事蹴落としたのはアンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリの『熊と踊れ』だった。この作品は各誌の年間ランキングでも絶賛されており、食指が思わず伸びてしまう作品である。 さてこの1位の作品は北欧ミステリであるがランキングを見ると今年は本書以外では11位のジョー・ネスボの『その雪と血を』の2作ぐらい。 逆に国内編とは打って変わって常連陣がランキングを占める。昨今の海外ミステリ翻訳事情の厳しさから厳選された作品が訳出されていることを考えると、これら常連陣は今なおクオリティの高い作品を出しているということになる。特にキングの3位はもう唖然という外ない。 その他本書の内容を観てみると、嬉しいのが座談会の復活だ。しかも覆面座談会だ。これがないとやはり『このミス』ではない。ただ往年に比べるとやや大人しめか。次回も開催されることを期待しつつ、もっと奔放にミステリを論じ、こき下ろし、そして賞賛してほしいものだ。 さらに海外短編オールタイム・ベスト選出も嬉しい企画だった。短編は案外読んでいるので選者たちの選出には既読作品が多いのも嬉しかった。しかしこれらオールタイム・ベスト選出は選者の黄金体験に特化されるため、どうしても古典が上位にランキングしがちだ。 その中で16位と18位に選出されたシーラッハの2作と19位のローレンス・ブロックとジェフリー・ディーヴァーのそれぞれ1作のランクインはそんな凝り固まった既成概念を吹き飛ばすほどの力を持った作品として高く評価されるべきだろう。ちなみにランクインしたディーヴァーの「三角関係」はホント傑作です。 今回は今までたびたび不満不平として挙げていた中身の薄さがどんどん解消され、また全く読まない「このミス」大賞受賞者の短編が排除されたことも嬉しい限り。ただ惜しむらくはジャンル別のコラムが2編しかなかったこと。コラムを次回はもっと増やして今回のような座談会に特別企画があるともう云うことなしなのだが、次回は30周年ということでその辺の充実ぶりを大いに期待しよう。 |
No.58 | 6点 | このミステリーがすごい!2016年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2016/04/18 23:45 |
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今さらながら感想を挙げ忘れてました。
ランキングの詳細は省略するとして、個人的に今回のランキングはその年の面白いミステリを忠実に反映した非常に満足のいく物と感じた。国内では以前から評価が高かったものの、奇妙なルールで『このミス』投票の対象外となった柚月氏が初めてランクインし、さらに本格ミステリで毎年といっていいほどデビューしている新しい才能の出現とランクインは手放しで喜びたい。早速深緑野分氏のデビュー作『オーブランの少女』は文庫化されるや否や購入した。ああ、またも読みたくなる作家が増えてしまった。 そして海外では相変わらず海外作品を取り巻く状況は厳しいものの、逆に精選された作品が訳出されている感が年を追うごとに強まり、どれもこれもが読みたくなる作品ばかりだ。物故作家の新訳刊行が活発な状況もまた歓迎したい。 そんなミステリシーンを盛り上げ、読者層を広げるのにやはり『このミス』の果たす役割は非常に重要なのだが、今回は特別企画がゼロと実に内容の薄い物となったのは寂しい。何も毎年何らかのアンケート企画をしろと云っているのではなく、かつての『このミス』の定番だった座談会もカットされているとは如何な物だろうか。またミステリに関するコラムもほんの添え物程度と、ミステリ愛が薄いとしか思えない。このようなランキング本はその年のミステリシーンを記録する資料としても貴重であるため、総括する内容にしてほしいのだ。 価格を抑えるために内容を薄くしても何の意味もない。内容を厚くするために価格が上がることは大歓迎である。『このミス』はもっと自誌が果たす役割を自覚した内容に還ってほしい。それが一ミステリ読者としての切実な願いである。 |
No.57 | 7点 | 2016本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2016/02/06 18:45 |
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意外なことに1位は深水黎一郎の『ミステリー・アリーナ』だった。これは歌野晶午氏の『密室殺人ゲーム』シリーズに匹敵する、本格ミステリに淫した作品ゆえに、まさにこのランキングに相応しい作品と云えるかもしれない。
2位は久々の倉知淳氏の『片桐大三郎とXYZの悲劇』、3位は米澤穂信の『王とサーカス』、4位には北山猛邦『オルゴーリェンヌ』、5位はランキングの有力候補として名高かった井上真偽の『その可能性はすでに考えた』が揃った。 倉知氏の2位は本当に驚いた。ランキングには入るかと思ったがまさか2位とは。やはり本格ミステリファンにとってエラリイ・クイーンのパロディは根強い人気があるということか。 さて6位以下では有栖川有栖、鳥飼否宇らが10位までにランクイン。11位以下は前年『○○○○○○○○殺人事件』で話題をさらった早坂吝氏の『虹の歯ブラシ』、島田荘司の久々のホームズ・パロディ『新しい十五匹のネズミのフライ』、麻耶雄高氏の『化石少女』らがランクインしたが、個人的に注目したいのは12位の『戦場のコックたち』でランクインした深緑野分氏。この誰もが思いもつかない独特の設定で本格ミステリを紡いだこの作品はぜひとも読みたい。また早坂吝氏もフロックではないことを証明した。 一方、いまだに扱いが国内編と等しくならない海外本格ミステリに目を向けるともはや出せば1位の感があるD・M・ディヴァインが『そして医師も死す』でランキングを制した。2位はこれもまた再評価で今やセイヤーズやクリスティを凌ぐミステリの女王としての趣があるヘレン・マクロイの『あなたは誰?』がランクインし、3位はこれまた新訳が嬉しいブランドの『薔薇の輪』、ジャック・カーリイの『髑髏の檻』が4位、そして今年紹介され、いきなり5位にランクインしたハリー・カーマイケルの『リモート・コントロール』と定番と訳出復活と新紹介作品が混在するにぎやかなランキング。 6位以下はクェンティン、ルメートル、ロラック、クリーヴス、そしてエラリイ・クイーンと全く今はいつの時代なのか解らないような面白いランキング。ホント我々は今未紹介で埋もれた傑作と、フランスで生まれた新しい本格ミステリがいちどきに読める実に幸せな時代に生きているのだと実感させられるランキングとなった。 1年の本格ミステリシーンを振り返るコラムの方はいつも通りで、昨年は独自企画がなかったことが寂しい。コラムはいつもながら思うのだが、4ページの分量にとにかく多くの作品を紹介しようと各筆者が作品の乱れ撃ちをしている内容が単なる作品名と作者名の羅列にしか思えないため、もっとこの書き方はどうにかならないものかと思うのだが。 企画物は昨年はしょうがないとして今年の2006-2015年のディケイドベスト10企画が行われることを期待しよう。 |
No.56 | 7点 | 2015本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2015/05/06 23:42 |
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毎年云っているが本家の『このミス』よりもこちらの方がミステリ色が濃いので読むのが愉しみなのだ。
さてランキングに目を向けるともはや出せば1位の感がある麻耶雄嵩氏がこの年も『さよなら神様』で1位を獲得した。今年も『あぶない叔父さん』が刊行されたのでもしかしたら3年連続の首位獲得という大記録を生み出すかもしれない。いわゆる本格ミステリにおける名探偵のヴァリエーションを色んな作品で試みている作者のミステリ・マインドに本格ミステリ・ファンは大いに惹かれるのだろう。 そして2位が『このミス』で1位を獲得した米澤穂信氏の『満願』。この作品を以てしても麻耶の牙城は切り崩せなかったのだ。麻耶雄嵩、恐るべし。ちなみに『このミス』の2位は『さよなら神様』で首位と2位が逆転した形になっているが1位と2位の得点数がどちらも100点近く離れているところが実に面白い。 さて3位は死後再評価の気運が高まっている連城三紀彦氏の『小さな異邦人』でこの作品も『このミス』では4位でランキングが似通っているのだが、4位以降からは本格ミステリに特化したこのランキングの特色が出てくる。その作品芦辺拓氏の『異次元の館の殺人』は『このミス』10位。5位の岡田秀文氏の『黒龍荘の惨劇』は『このミス』ではランク外である。 毎年ミステリに関する特別なランキングが本書の魅力であるのだが、今回の特別企画は「みんなの愛した名探偵BEST RANKING」だった。そして驚くべきことに1位は大方の予想だったシャーロック・ホームズを押しのけ、堂々の1位に輝いたのが御手洗潔だった。つまりオマージュが本家を追い抜いてしまったのだ。その次が金田一耕助でホームズは3位。もう1つの有名な名探偵明智小五郎は大きく水を分けて8位という結果となった。因みに4位が亜愛一郎で5位がブラウン神父とこれまたオマージュが本家を追い抜いた形となっている。同点5位でエラリー・クイーンが並び、ポワロは9位となり、かなり予想外の結果となった。 御手洗の1位は数十年前ならば全く考えられなかったのだが、今ミステリを読む人たちは新本格で初めて本格ミステリに触れ、そこから新本格の旗揚げ役であった島田作品に触れて御手洗潔を知り、原初体験となっているのだろう。また10位以内に日本人作家による名探偵が4人、20位以内ならば10人と五分五分になっているのも今のミステリシーンを象徴しているようだ。いわゆる海外ミステリを読まないミステリ読者がこれほど多くなっているということだろう。ネロ・ウルフもフレンチ警部も今ではなかなか作品自体手に入れるのでさえ困難になってきているのだから。 逆に云えばこのような結果を招いた現在の出版情況の厳しさがこのランキングに表れていると云えるだろう。特に唯一国内ミステリでの警察官探偵として19位に東野作品の加賀恭一郎が上がっているのは今最も読まれているミステリが東野作品であることは周知の事実であり、いわゆるマスの大きさがランキングに色濃く反映されていることがよく解る。 また毎年恒例の特集記事の中ではその年の復刊ミステリについて語るコラムのタイトルが「復刊が少なくなっていく」とかなりネガティブな題名だったことも注目したい。さらにはミステリを題材にしたゲームもどんどん減っていることも本書では危惧されている。これはやはりスマホの普及で電子書籍が増え、さらにゲームがお手軽さを求める傾向にあることが非常に影響として大きいようだ。電子化の大きな波はこんなところにも表れている。但し最近は海外ミステリに関して云えば、50年ぶりに新訳再刊される作品や名作復活といった記念刊行も増えているので、ここに書かれているほど復刊状況に関しては悲観的ではないのだが。 そしてその海外ミステリも相変わらずの扱いの小ささなのはガッカリだ。ランキング作品の紹介文も今年もまた5位までしか挙げられておらず、最後の30ページ弱で紹介文、アンケート結果と座談会が書かれているのみである。上に書いたように少し前ならば信じられないような復刊が精力的に行われている昨今、この扱いはどうにかならないだろうか。これさえなければもっとこのムックの評価は高くなるのだが。 |
No.55 | 7点 | このミステリーがすごい!2015年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2015/03/04 23:15 |
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国内ランキングを見ると今年は短編集が強かったという印象だ。1位の『満願』、2位の『さよなら神様』、4位の『小さな異邦人』と上位5作品の内、4作品が短編集という特異なランキングとなっている。さらには惜しまれながらも逝去した連城三紀彦氏の作品が2作もランクインし、その他月村了衛氏、黒川博之氏が同じく2作ランクインしている。また唯一長編で上位5位に食い込んだのは何と今年の乱歩賞受賞作『闇に香る嘘』というのも大きなトピックだろう。この新人の2作目が最近刊行されたが、この評価も気になるところだ。後は純文学の垣根を超えて最近はランキングの常連となった吉田修一氏が『怒り』が入り、『ロスト・ケア』でデビュー作がランクインした葉真中顕氏も2作目が11位にランクインし、実力がフロックでないことを証明した。久々にミステリど真ん中の作品『獏の檻』を出した道尾秀介氏も11位とまずまずといったところか。
逆にかつてはランキングの常連だった真保裕一氏がランキング外でも掠りもしなかったことが残念。また三津田信三氏も刀城言耶シリーズが今年も刊行されなかったのも懸念される。 さて海外のランキングは『忘れられた花園』でランクインしたケイト・モートンが『秘密』で2位にランクインし、破格の新人と評されたロジャー・ホッブズの『ゴーストマン 時限紙幣』が3位、続く4,5位も新人テリー・ヘイズの『ピルグリム』、ダニエル・フリードマンの『もう年はとれない』と新人尽くしのランキングとなった。新人に注目すると6位以下も『ハリー・クバート事件』のジョエル・ディケールを筆頭に4作がランクインと紹介される作家の質が高まっている感が強い。常連に注目すると、最近は未訳作品が紹介されるとランクインが定着しているヘレン・マクロイにアンソニー・バークリー、現役作家ではミネット・ウォルターズ、マーク・グリーニー、ヘニング・マンケル、マイクル・コナリーらが順当に入った。 残念なのは今年こそは20位圏内かと思われたジョー・ヒルが圏外だったことと、殺し屋ケリーシリーズが復活したブロックが圏外にも入らなかったこと。そして年々ランキングを下げていたディーヴァーがとうとうランク外になったことも残念だった。 そして昨年の『幻の名作ベスト10』に引き続いて国内短編のオールタイム・ベスト選出は嬉しい企画だった。しかも前回では不満だった選者の選評も掲載されており、ランキング以外の選出作も垣間見れて大変満足。そしてこのオールタイムベストでは連城三紀彦氏の「戻り川心中」がトップに選出されており、他にも20位内に3作がランクインしているという強さを見せた。今年のランキングでも没後ながらも2作もランクインしている連城氏のクオリティの高さを思い知らされた。 以前からウェブ上の感想でも不満として挙げられていた『このミス』大賞受賞者による描き下ろし短編も最近評価の高まっている柚月裕子氏の短編のみ(読んでませんが)になり、さらには昨年好評だった『幻の名作ベスト10』に続いての国内短編オールタイムベスト選出とようやく往年の『このミス』が還ってきた感がある。紙質は相変わらず悪いが、単にその年のミステリ傾向を記録するためだけに存在していたかのような中身がスカスカの頃に比べるとミステリ好きの興趣をそそる内容になりつつあるのは喜ばしい。 |
No.54 | 7点 | 2014本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2014/04/23 19:34 |
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正直本家の『このミス』よりも読むのが楽しみなのが本書。なんせミステリのディープな部分に踏み込んだその年のジャンル別の傾向や評論が楽しくて仕方がないからだ(なのにこれが初の感想だなんて、意外なのだが)。
さて早速ランキングだが、麻耶雄高強し!今年は『貴族探偵対女探偵』で1位を獲得。短編集が1位を獲得するのは難しいと云われているが、麻耶氏にはそんなジンクスも関係なかったようだ(そういえば『このミス』の1位も短編集だった)。もはや出せば1位の感もある麻耶氏。それだけ新作を待っているファンが多いと云う事だろう。 続く2位は驚きの新人、青崎有吾の『水族館の殺人』がランクイン。2作目で2位へと大躍進だ。正直読む気は全く起きないのだが、現代のクイーンの衣鉢を継ぐと云われているだけのことはあるのか。3位はこれまた驚異の新人梓崎優がランクイン。こっちは大いに読む気あり。しかし人生初の長編でこのランクとは天才とは本当にいるだと思った次第。4,5位は法月作品が続けてランクイン。『このミス』でも1位になったし、世のミステリファンは法月の新作を待っていると云っても過言ではないようだ。人気と内容が伴っているかが気になるのだが。 5位以下は『このミス』でもランクインした作品がランクインしている。小林泰三の『アリス殺し』、歌野氏の『コモリと子守り』、島田氏の『星籠の海』、米澤氏の『リカーシブル』が続く。ここまで見ると『このミス』が本格ミステリ寄りにますますなっているのが解るが、11位以下はガラリと変わって、本ムックならではのランキングだ。 その中でも霞氏の『落日のコンドル』が入ったのは喜ばしい。あとはこのランキングで初めて目にした作品群―古野まほろ氏の『パダム・パダム』、深木章子氏の『螺旋の底』、森川智喜氏の『スノーホワイト』、etc―が並び、これぞ本ミス!といった感じか。 毎年の如く、くどく云っているが、その甲斐なく今年も海外ミステリの扱いは例年同様のスペースだった。翻訳ミステリー大賞シンジケートなどのWEBでの活性化や各地で行われている読書会が最近海外ミステリが多いのにも関わらず、この扱いの変わりのなさが本ムックで唯一残念な点だ。この海外ミステリの扱いが変わらない限り、本書の評価も変わらないのだが。 しかし今年は総じてパワーダウンの感は否めない。逆に『このミス』に幻の名作ミステリベストテンという好企画があっただけに余計に感じてしまった。 |
No.53 | 7点 | このミステリーがすごい!2014年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2014/02/18 23:12 |
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最近では私はこのムックに対して不満ばかり漏らしているが、今回はそれを少しだけ緩めたい。なぜならちょっとばかり内容が充実していたからだ。
それはやはり「復刊希望!幻の名作ベストテン」という好企画に負うところが大きい。『このミス』にはこういうのがないと。対象作品が『このミス』誕生以前の1987年以前のミステリと云う非常に大雑把な括りゆえに挙げられた作品が多種多様でそれ故獲得点数に差が出なかったのはしょうがないが、絶版によって読まれるべき名作を読むことが出来ないという危機的出版情況に一石を投じるこのような好企画は大歓迎。東京創元社ではマーガレット・ミラーが復活するなどの嬉しいニュースもあり、この企画が起爆剤となって続々と名作が復刊されることを期待したい。 またこのベストテン選出の各選者の選んだ作品が今年の作品の末席に申し訳程度に書かれているだけだったのは正直ガッカリ。選んだコメントも載せてほしかった。また別冊でいいから例えば1967~1977年、1977~1987年と10年間に絞った幻の名作ベストテンのムックも出してほしい。文藝春秋の『東西ミステリーベスト100』も昨年28年ぶりに実施されたことだし、アベノミクス効果の時流に乗って何十年ぶりかの出版景気を目指して、ぜひ復刊のカンフル剤として実施してほしいものだ。 メインのランキングについては長くなるのでちょこっとだけ触れるが、国内ランキングの上位のマニアック度の濃さは何だろうか?しかし東山氏のような作品が上位に来るのは『このミス』らしくて個人的には○。 あと『ビブリア古書堂』シリーズもとうとうランクインすることになったか。ミステリ好きはやはり乱歩には弱いのか。 海外はやはりキングの1位が素晴らしい。『このミス』が始まって26年目にして初の1位だ。もちろん彼の作家生活はその前から始まっており、デビューは1973年なのだから、なんと作家生活30年目にして傑作を物にしたわけだ。まさに巨匠の名にふさわしい快挙だ。クーンツのファンとしてはキングの活躍を受けてぜひ一念発起して再ブレークを果たしてほしいのだが。 北欧ミステリの活発な訳出が目立っている昨今なのにたった1作だけのランクインなのは意外だった。 しかし幻の名作ベスト選出という好企画があったとはいえ、相も変わらずどれだけの読者が読んでいるか解らない『このミス』大賞受賞者による書き下ろし短編もあるし、紙の質が悪い。本当にペラペラで少し力を入れるだけで破れてしまいそうなくらいだ。21世紀にもなってこんな紙を使っているのは『このミス』くらいではないだろうか。 単価を抑えるためだろうけれど、昨年よりも5円高くなり、しかもページ数は30ページも減っているのに紙の質が変わらなかったのはこの金額が売り上げにさほど影響していないからではないか(実際いつまでも売れ残って本屋の平台にうず高く積まれているのをよく見るし)。 書き下ろし短編の排除と年に一度のミステリのお祭りに相応しいもっと濃い中身の充実と読みやすい紙に変えてくれることでそのために単価が100円なり200円なり挙がろうが購入するのではないだろうか。8年前の695円だった時の売り上げからどれだけ部数が伸びたのか甚だ疑問なのだが。 今年は酷評はないと云いながらも最後はやはり目立つ欠点をあげつらってしまった。それも21年間も購入している『このミス』への愛情ゆえだと理解してもらいたいのだが。 |
No.52 | 8点 | 2013本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2013/05/13 21:44 |
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あれ?誰も採点していない。
本格ミステリファンの多いこのサイトの投稿者が一人も感想を書いていないとは意外だ。 正直本家の『このミス』よりも内容充実度で愉しませてくれるこのムック。 注目のランキングは法月綸太郎の『キングを探せ』が1位となった。寡作ながらもクオリティの高い本格ミステリを紡ぐ法月氏はもはや出せば1位の感が強くなった。今年は早くも新作『ノックス・マシン』が上梓され、ミステリマガジンの四半期ベスト選出でも一席に選ばれている。もしかしたら今年のランキングも制し、二連覇を果たすかもしれない。 続く2位はこれまた寡作家の大山誠一郎の『密室収集家』。この作家の作品は光文社文庫主催の公募式ミステリアンソロジー、本格推理シリーズで読んだ記憶があるが、あまり琴線に触れるものではなかったので正直あまり注目はしていないがロジックに特化した作風が本格ミステリファンには好評らしい。先日本格ミステリ大賞を受賞したばかりでどうやら有名有実の作品のようだ。 3位は新本格の象徴的存在綾辻行人の『奇面館の殺人』がランクイン。 4位はもはや常連、いや優勝候補の三津田信三の『幽女の如き怨むもの』が占めた。もはやその実力は折り紙つき。短編集でさえランクインするというのは実はすごいことで今の本格ミステリファンが新作を待望する作家の1人としての地位は確立されたと云っていいだろう。 5位は鮎川賞受賞作の『体育館の殺人』が選ばれた。これは正直意外。ロジックを褒め称える声は聞こえていたものの、やはり若書きゆえの脇の甘さがあるとのことだったので5位と云う上位に食い込むとは思えなかった。やはり本格ミステリランキングは推理「小説」よりも「推理」小説が重んじられていることか。 6位以下は有栖川氏、天祢氏、島田氏、芦辺氏、初野氏と続いた。 11位以下は山田正紀氏、山口雅也氏、井上夢人氏らベテランに加え、中堅の北山猛邦氏の作品、そして新人の高野氏、長沢氏、市井氏、深木氏の作品が並ぶ。その中で異色なのは時代小説からの参入である幡大介氏の『猫間地獄のわらべ歌』だ。『このミス』でもランクインした同著だが、この作者の作品が今後のミステリシーンにどうか関わっていくが見どころか。 さてその他のコンテンツについてだが正直通例通りの内容で目新しい所がなかったのが残念だ。特に近年は本格短編ミステリオールタイムベストの選出、0年代の海外本格ミステリオールタイムベストの選出とミステリ読者が歓喜に身悶えする好企画が続いていただけに目玉企画がなかったことが残念である。 本書の存続こそがこれからの本格ミステリの隆盛を支える草の根的活動となるので、探偵小説研究会諸氏の志の高さに敬意を証して、年末の刊行を愉しみにしたい。 |
No.51 | 5点 | このミステリーがすごい!2013年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2013/02/28 21:09 |
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最近内容も紙質も低調気味な『このミス』だが、今回も例に漏れず購入。
さて注目のランキングはやはり昨年は横山秀夫復活の年だったということだ。なんせ7年ぶりの新作。体調も崩していたと聞いていたので個人的にはもう作家生活は無理では…と勝手に思っていたが、見事復活し、復帰作が第1位という快挙を成し遂げた。『このミス』で1位を2回獲得したのは船戸与一、髙村薫、東野圭吾3人だけだったが、ここに横山秀夫が並んだことになる。2回1位を獲得した作家の中でデビューして最も短いキャリアの作家かと思ったら、髙村薫がデビュー後8年で最も若かった(横山氏はデビュー14年目)。改めて高村氏は凄かったことがこれで解る。 さて海外の方は『解錠師』が2位に約70点差をつけ、ダントツの1位となった。これは実に意外。てっきり『湿地』が来るのかと思った。続いてデイヴィッド・ピースの『占領都市』、久々復活のトゥロー『無罪』、そして『湿地』が続いた。5位は光文社古典新訳文庫からデュレンマットの『失脚/巫女の死』がランクインしたのは実に驚いた。 しかしもっとも嬉しかったのはマット・スカダーシリーズ最新作をひっさげてローレンス・ブロックが復活のランクインを果たしたことだ。本書でも初来日したブロックと伊坂氏、訳者の田口氏との鼎談が特集され、さらに翻訳ミステリー大賞シンジケートでもブロック再評価、更にミステリマガジンでもブロック特集が組まれたりと気運が高まっているのでここは一挙に復刊してほしいものだ(二見書房さん、早川書房さん、頼みます!)。 あとジャンル別に注目作が挙げられているコラムが収録されているなど、ミステリファンの、ミステリファンによる、ミステリファンのためのランキングムックであったかつての『このミス』の内容を髣髴させたが、まだまだ浅薄になっているのは否めない(特に紙質が悪すぎる)。 |
No.50 | 8点 | 2012本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2012/06/04 22:41 |
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年末になると各種その年に刊行された本のランキング本が刊行される昨今。もはや出版界のお祭りとして定着した感があるが、その中でも元祖ランキング本の『このミス』よりも楽しみなのが本書.
そして今回の目玉はなんといっても2001年から2010年にかけて発表された本格ミステリ短編のオールタイムベストランキングだろう。いやあ、なかなか焦点の当たらない短編をピックアップしてランキングを作るとはまた乙な企画だ。本書で最も楽しく読んだ内容だった。 そして海外ミステリランキングだが、こちらは例年通りの内容だった。幾度となく云っているが海外本格ミステリあっての日本本格ミステリである。同列に並べて扱うべきである。この改善がなされない限り、絶賛とまでいかないのが本書への不満だ。 とはいえ内容の充実ぶりはミステリ好き読者の痒い所を気持ちよくなるまで掻いてくれるような内容だし、特色であるランクインした本の1作1作の解説が濃密である。私にとって『このミス』が一般商業雑誌化した今、ミステリ好きの最後の砦だと思っている。 |
No.49 | 4点 | このミステリーがすごい!2012年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2012/03/07 22:21 |
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国内・海外ともども出版当初から話題になっていた作品が1位を獲得した。国内が高野和明の『ジェノサイド』、海外が新人デイヴィッド・ゴードンの『二流小説家』。これらはおおむね予想通りだったといっていいだろう。両者とも似ているのは小説読みならば読書の愉悦に浸ってしまうその構成の妙にあるだろう。形は違うものの、一つのジャンルに留まらず、複数のジャンルに跨った内容を包含しており、1冊で色んな味わいを楽しめるところとページを繰るのを止められない展開の面白さが特徴的だ。
また正直『ユリゴコロ』がこれほど上位に来るとは意外だった。しかし大沢の新宿鮫シリーズは強い。シリーズ10作目にして第4位という高位置。クオリティの高さが窺える。 翻って海外はとにかく新装開店したポケミスの躍進が光る。上位20位になんと5作がランクイン。このうち3作が初紹介作家の作品。月1冊のシリーズのうち約半分がランクインしたことになる。ポケミスがこれほどまでランキングを賑やかした年が今まであっただろうか? またランクインしたミステリ作品が英米以外の作品がますます増えてきた。もはやミステリ大国と化してきたスウェーデンの他にドイツ、デンマークと続き、いずれも評価が高い。ますます海外ミステリの好況ぶりに目が離せない時代にあるのに、現実の売り上げはますます下がる一方というのが哀しい。もっと海外ミステリを盛り上げていこうではないか! そういった出版業界の旗振り役を『このミス』は務めなければならないのにもかかわらず、この内容の薄さは一体どうしたことか?昨年非難したその年のミステリーシーンの傾向とお勧めの新人作家を紹介するコラムは復活したものの逆に名物の座談会が無くなってしまった。もっとミステリを掘り下げて熱く語ることで作品の魅力が伝わるのに、それを辞めてしまうとは本末転倒である。ワンコインという価格にこだわって内容と紙の質がどんどん悪くなっていっている。値段挙げてもいいからもっと読ませる紙面づくりに努めてくれい。 |
No.48 | 6点 | 本格ミステリー・ワールド2011- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2011/07/27 21:24 |
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嬉しいのは当初「二階堂黎人の気に入らない作品は本格ではない」とも取れる“二階堂黎人の俺ミス”というべき彼の暴挙、傍若無人ぶりが鳴りを潜めてきた点だ。ようやく本書で選出される「黄金の本格ミステリー」が一個人の偏愛によって左右されることがなくなった。これは非常に悦ばしいことだ。
しかしいつもながらこの「黄金の~」の選出作品には果たしてこれが後世に残るほどの物かと思うものが多い。本年は島田と麻耶の新たな代表作とも云える『写楽 閉じた国の幻』、『隻眼の少女』がその評判に相応しい作品とも云えるがあとは果たしてどうか。三津田の『水魑の如く沈むもの』は確かに本格ミステリ大賞にも選ばれた作品だから選ばれるに相応しい作品とは思うが、シリーズ物の中の1作ということで印象的には弱いと感じる。 さて冒頭に述べた某二階堂黎人氏の暴挙が大人しくなった理由の一つに今年から刊行される南雲堂が打ち立てた企画「本格ミステリー・ワールド・スペシャル」という叢書シリーズに力が入っていることが挙げられよう。そこに揃ったのはまさに二階堂氏お気に入りの作品を書く作家達ばかり。彼は世に蔓延る本格ミステリの数々を“俺ミス”基準で選出・排斥することを止め、子飼いの作家たちに“俺ミス”を書かせるようにしたようだ。 しかし毎年感じるが、未だに原書房の『本格ミステリ・ベスト10』との違いが見出せない。 |
No.47 | 3点 | このミステリーがすごい!2011年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2011/04/30 21:36 |
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国内はもはやベテラン作家となった貴志祐介氏が『悪の教典』で2010年のミステリシーンを制した。角川ホラー大賞受賞作家でありながら、ジャンルを問わずに常に新たな挑戦を続ける作家の成果がようやく認められるようになったことは嬉しい。最近感じていた、過去の業績を含めての評価ではなく、純粋に作品に対しての評価のようで嬉しい。
そして御大島田荘司が2位に食い込んだのが望外の結果だ。しかも歴史ミステリである『写楽 閉じた国の幻』でのランクインというのがすごい。御手洗物、吉敷物での評価が高く、その他のノンシリーズ物ではさほど注目もされないような傾向であっただけに、この結果は素晴らしい。御年60を超えてなおその創作意欲と新たなるジャンルに挑戦する意気込みの盛んなところは新本格作家を筆頭に後続の本格ミステリ作家達は襟を正して手本とすべきだろう。 もはや常連となった伊坂幸太郎、三津田信三、宮部みゆき、芦辺拓、京極夏彦もランクイン。さらには麻耶雄嵩、倉知淳、馳星周、貫井徳郎も久々にランクイン。しかも寡作家麻耶氏は2作がランクインと恐らく今後はないであろうという記憶すべきランキングとなった。 そして世のミステリファンが口を揃えて絶賛する大型新人梓崎優氏もそれを裏付けるかの如く3位にランクイン。彼を筆頭に初ランクイン作家が円居挽、須賀しのぶ、深町秋生、桜木紫乃と5人もランクインした。今後の活躍に注目していこう。 海外に目を向けると出せば好評をもって迎えられる感のあるキャロル・オコンネルがとうとう『愛おしい骨』で1位を獲得した。サプライズに加え、読ませる丹念なストーリー作りをする作家のようで、今後読みたい作家だ。 2位には久々のボストン・テランがランクイン。国内紹介2作目がコケたのでもう訳出されないと思っていたが、見事復活。前年のウィンズロウのように今後も訳出が加速されるかもしれない。 そしてその我がウィンズロウは『フランキー・マシーンの冬』(好きだ!)で4位にランクイン。基本的には重苦しい『犬の力』よりもこちらのオフビートな作風が好きなので、評価されたのは嬉しい。これで今後もウィンズロウが読める(笑)。 他にはランキング常連作家マイクル・コナリー、ジェフリー・ディーヴァー、サラ・ウォーターズ、ヘニング・マンケル、トマス・H・クックも順当にランクイン。また常連となりつつあるジョン・ハートも評価が高い。クックのランキングが下がりつつあるのが気になるが。 マイケル・バー=ゾウハーの『ベルリン・コンスピラシー』のベスト20圏外は個人的には哀しかった。非常に読ませる作品です。ぜひ多くの読者に読んでほしい。 とまあ、ランキングは個性的でしかも数年に一度の豊作の年でもあったわけだが、面白いところはこれと座談会だけ。今年もその年のミステリシーンの傾向と注目すべき新人作家を紹介するような熱のこもったコラムがなく、単に水増しに過ぎない『このミス』大賞作家の書き下ろし短編が収録されている。こんなものでページが厚くなるなら寧ろ要らない。今後は自炊してこの短編部分を全て破棄して電子化しようかとまで思っている。 早く編集方針を変えてほしいものだ。明らかに商業主義の匂いがプンプン漂う。なんか紙質も以前より薄くてペラペラではないか?こんな『このミス』はイヤだ! |
No.46 | 8点 | 2011本格ミステリ・ベスト10- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2011/02/12 22:35 |
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当初の創作姿勢を崩さず、10位までの作品は見開き2ページに亘ってじっくりと作品について語り込み、ラノベや映画、コミックにゲームと他ジャンルに介在するミステリ物について愚直なまでに語っている。正にその年のミステリを総括するに相応しいムックである。もはやミステリに耽溺する者が手に取るべきは『このミス』よりも『本ミス』であるというのは過言ではないだろう。
確かに本格ミステリに特化した内容であることが狭義のミステリしか論じられていないという欠点はあるので未だに『このミス』に比べれば発行部数にはまだ開きがあるのは否めないが、実にミステリ愛に満ちたムックである。私は『このミス』よりも本書の出版を心待ちにしている。 ただ相も変わらず海外本格ベスト20の扱いが小さいこと。これも日本本格ミステリと同列に扱われない限りは評価に満点はつけ難い。この辺についてはその愚直さを捨てて欲しいのだが。 |
No.45 | 1点 | 創元推理19- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2010/10/11 21:06 |
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もはや何を以って本書が届くのを愉しみにしたらよいのか判らなくなってしまった。どんどんマニアックになっていって、はっきり云ってついていけなくなった。
今回初めて評論を読み飛ばしてしまった。この行為がもうこの創元推理クラブとの訣別の象徴となってしまった感が胸に去来する。 私は確かにミステリが好きだ。だが本書に掲載されている内容は好きではない。ミステリに求める悦楽のヴェクトルが違うのだ。 過去に埋もれた、今では傑作とは呼べない代物を掘り起こして、さあ、読み賜えと振舞う所業に、私は何かしら戦慄を覚えてしまった。 さらば創元推理、これにて我、その下を去らん! |