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zusoさん
平均点: 6.24点 書評数: 195件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.135 7点 ファズイーター- 深町秋生 2023/03/04 22:25
警視庁上野署の刑事・八神瑛子の活躍を描くシリーズ第五作。
暴力団の内紛が先鋭化して瑛子自身まで狙われ、絶体絶命の危機の中、過激な暴力が繰り広げられる。正義も悪もない混とんとした世界での非情な戦いを迫真的に描き、女刑事の怒りがすさまじいエネルギーとなって、圧倒的な臨場感とカタルシスを生む。

No.134 7点 女王- 連城三紀彦 2023/02/14 22:57
祖父の不審な死をきっかけに「私」は、癌を患った老齢の瓜木、祖父・祇介の弟子だった妻・加奈子とともに、記憶の迷宮、歴史の迷路へと入り込んでゆく。それはなんと魏志倭人伝に記された邪馬台国と、その女王・卑弥呼を巡る謎だった。
異形の歴史ロマンであり、男女の複雑極まる情愛のドラマであり、連城ミステリの要素がすべて注ぎ込まれた巨編である。

No.133 6点 悪魔のトリック- 青柳碧人 2023/02/14 22:53
地上に降臨した悪魔によって特殊能力を授けられた殺人者たちと異能の刑事・九条一彦の知恵比べを描いた連作短編集である。
漫画「ワンピース」を連想させる「悪魔の力」は、動物の死体の大きさを変える力など、役に立つかどうかわからないものばかり。それをどう使って殺人を犯すか、という点にミステリとしての興趣がある。やたらと尊大な九条のキャラクターもいい。

No.132 6点 誓約- 薬丸岳 2023/02/01 22:28
過去を消したつもりの男がもう一度、自分の過去の所業と向き合い、罪を見つめ償うことの重さをかみしめる小説。
殺人事件が起きて濡れ衣を着せられて、謎を解いていくと意外な真犯人がいるというミステリではあるけれど、その興趣以上に少年犯罪の告発と更生という問題を正面から捉えて、読者の善悪感をゆるがせにかかる。
ラストは、いつものように温かいけれど、必ずしもすっきりしたものではない。非情な現実と長く厳しい人生を見据えているからだが、それでも作者の小説らしく、人の幸福と良き魂を願う思いは今回も貫かれている。悪くない仕上がり。

No.131 6点 怪談実話傑作選 弔- 黒木あるじ 2023/02/01 22:23
千話以上の怪談を送り出してきた怪談作家の傑作選(プラス書下ろし)。
語る順序を考え抜き、感覚を尖らせ、台詞や仕種で衝撃を与える。怖さの中に観察があり、驚きの中に批評性があり、グロテスクの中にユーモアがある。全部で65作。ぞくりとする戦慄と興奮が最後まで続く。

No.130 6点 アイルランドの薔薇- 石持浅海 2023/01/19 23:10
アイルランドの宿屋で、武装勢力副議長が殺害される。彼の仲間たちは、和平目前なのに警察に通報などできないと、客たちを足止めする。そこで推理の先頭に立ったのは日本人科学者・フジだった。
政治情勢が複雑なために「嵐の山荘」状態になってしまう導入部の工夫がまず目立つ。殺人の謎だけでなく、正体不明の殺し屋が客に混じっている状況を嚙み合わせて進むストーリーは、本格の楽しさに満ちている。たとえ政治や社会派が苦手な人でも大丈夫。

No.129 7点 A- 中村文則 2023/01/19 23:05
個人が何らかの大きな圧力により、狂気と呼ばれてもおかしくない状態に陥ってしまう状況は、表題作のような戦時中も平時でも変わらない。「自分はいま正気でいるだろうか」と、読後自らに問いかける人もいるかもしれない。
軽妙なタッチで描かれた作品も魅力的であり、一作ごとの作風の違いに驚かされる短編集。

No.128 8点 地図と拳- 小川哲 2023/01/07 23:12
旧満州の架空の都市を舞台に、日中戦争を世界史の中でとらえる視点と、人々の個人史を絡ませて時代性を見事に浮かび上がらせた異色作。
主人公が登場するまでの前史をまるで創世記のように語り、満州に異世界を創り出す才気に引き込まれる。
SF的な新感覚の歴史小説とでもいえる。これからの歴史小説の可能性すら感じさせる。

No.127 5点 午前0時の身代金- 京橋史織 2023/01/07 23:07
クラウドファンディングで10億円の身代金要求という設定が奇抜。誘拐小説の興趣は身代金の受け渡しにあり、どういう風に行うのかが肝となるが、作者は身代金募集に力点を置いて、誘拐の裏側に何があるのかを探っていく。
設定が十二分に生かし切れていない点や、訳ありの家族模様は目を引くが、主人公にもうひとつヒーローとしての魅力が乏しいのが難。それでも語りは滑らかで、真相を追求するくだりは起伏があって面白い。

No.126 6点 - 東山彰良 2022/12/22 22:56
いわば自分探しが描かれるが、一九七五年の台湾を起点としたところに妙味がある。蒋介石が死去した年だ。蒋介石の死後、何者かに惨殺された祖父の死を軸に物語は展開するのだが、その謎には日本の植民地だった時代に由来する大陸との対立が潜んでいる。
台湾の歴史という重く大きなテーマを、一青年の冒険活劇的な成長譚に託し、世相や風俗もふんだんに織り込んで、エンターテインメントに仕立てた力量には、こんな混沌をよくも一編にまとめ上げたものだと感服するばかりだ。

No.125 7点 ラッシュライフ- 伊坂幸太郎 2022/12/22 22:51
発端と結末を繋ぐのは、傲慢な拝金主義者に、どん底の人間が意地を示し一矢報いるまでの経過。それだけならありがちな「ちょっといい話」。ところが発端と結末の中間に、皮肉な偶然に彩られたストーリーのパズルが挿入されているために、ニュアンスが複雑になっている。
作中では、仙台駅の近くの展望塔に関する言及が何回も出てくる。しかし、登場人物が塔に上り下界を見渡す場面自体は、最後まで描かれない。このことは、各自のストーリーを生きる彼らが、五つのストーリー全部を展開する能力を持たないのを象徴している。
個々のストーリーに閉じ込められた人生。パズル的構成で浮かび上がる苦みがここにある。

No.124 7点 - 荻原浩 2022/12/12 22:32
口コミを使った香水の販売戦略によって都市伝説化した、ひとつの噂が連続殺人を生み出す。主人公は犯人と戦うと同時に「獣」とも戦うことになる。そして犯人は捕まってもかたちのない「獣」は捕まらない。
この二重性が結末の鮮やかなどんでん返しを支えている。衝撃のラスト一行に驚いた。

No.123 5点 遺品- 若竹七海 2022/12/12 22:21
死せる佳人の妖影たゆたう洋館というゴシック・ロマン本流の設定による怨霊譚かと見せかけて、最後に意想外の真相を用意した構成は、実に鮮やか。ホテルをめぐる人間模様もよく書き込まれている。ただし、エンディングは賛否分かれるかもしれない。

No.122 7点 盤上の夜- 宮内悠介 2022/11/27 23:11
囲碁や将棋など対局ゲームをテーマにした奇想短編集。
この分野は近年コンピューターによる解析が急激に進んできた。ゲームという機械向きの「演算の山塊」に、生身で立ち向かう人間の苦しみと狂気が色濃く漂う。表題作では、四肢を切断された少女が囲碁棋士となり、碁盤を介して新たな感覚の世界を構築しようとする。
作者は元プログラマーだが、麻雀のプロを目指したこともある。三人の男たちが我欲を混乱させようとする「清められた卓」は、さすがに勝負へのアヤへの洞察力が深く秀逸だ。

No.121 6点 夕潮- 日影丈吉 2022/11/27 23:02
伊豆諸島のくすんだ風光を背景に、二十余年を経て再現される奇怪な水死事件を、内向的な新妻の目を通して描いた異常な心理小説。
ベックリンの絵画から抜け出してきたような女流歌人の妖艶さと不気味さが、読後も忘れ難い印象を残す。

No.120 9点 方舟- 夕木春央 2022/11/14 22:47
猛烈な勢いで浸水が始まっており、脱出のタイムリミットはおよそ一週間。それまでに生贄を決めようとしていた矢先、一人が殺される。一体こんな時になぜ?
タイムリミット付きの密室。それだけでミステリ好きの心をくすぐるのに、事件の謎を解いた先に衝撃が待ち受ける、最凶のエピローグ。
フーダニット、ホワイダニットともに楽しめる。本格ミステリとしてとても優秀。方舟というタイトルには何重にも意味があるのではと考えてしまう。

No.119 5点 希望と殺意はレールに乗って アメかぶ探偵の事件簿- 山本巧次 2022/11/14 22:39
一九五七年、南信州の清田村の村会議員が東京で何者かに殺害され、政治献金を奪われたという事件。
複雑かつ秘密めいた人間関係から情報を引き出せるのは、アメかぶと呼ばれる城之内の遠慮を知らない態度と、旧領主のお嬢様という真優の立場の強さがあればこそ。小さな村の出来事ながら、登場人物が時代の大きな流れと無縁ではなかったことを点描する最終章の余韻が味わい深い。

No.118 5点 テュポーンの楽園- 梅原克文 2022/11/03 22:26
織見奈々を中心に、自衛隊や警察がテュポーンと呼ばれる怪物と闘う物語。
舞台となるのは、安須という人口九百人ほどの町。この限られた場所での戦闘を圧倒的な迫力で描きつつ、怪物の成り立ちや存在意義などを徐々に明かしていく手つきは鮮やか。強大な敵と戦うための知恵、さまざまな知識に裏打ちされた知恵でも愉しませてくれる。

No.117 6点 護られなかった者たちへ- 中山七里 2022/11/03 22:16
生活保護受給を中心とした社会福祉の問題点を核として進むストーリー展開に気を取られ、見事に騙された。予想外のラストである人から語られるメッセージが胸に突き刺さり、心から離れない。

No.116 6点 風神の手- 道尾秀介 2022/10/17 23:09
三つの中編とエピローグ的な短編一つという作品集。
第一話では夜の鮎漁をモチーフに、二十七年前の恋心と殺意、そしてその想定外の顛末が描かれる。続く第二章では小学生コンビの冒険が、さらに第三章ではある脅迫事件が語られる。そしてこの三つの物語を併せ読むことで、巧妙に散りばめられたエピソードの数々が結び付き、それぞれがまた別の意味を持つことを知り、そして一陣の風が多くの人生にどう影響を与えたかが見えてくる。最後の短編も含め、心に刺さる良い物語を読ませてもらった。

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